マルゼンスキーの幻影【完結】   作:ぼっちクリフ

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第九章 マルゼンスキー

運命というのは、時にどうしようもなく残酷である。

人類とウマ娘の歴史上、何度となく繰り返されてきた言葉。

人々はまたその言葉を繰り返す事になる。

 

『マルゼンスキー、トレーニング中の事故により屈腱炎を発症。トレーナーとの話し合いの結果引退を決定』

 

有マ記念を控えた12月、各紙が一面に載せたこの記事に衝撃が走った。

あまりの事に一部のファンの間では悲鳴とともにトレーナーへの批判、さらには陰謀説が噴出。大騒ぎとなった。

そこまではいかなくとも、ファンは運命の残酷さを呪い、マルゼンスキーの悲運を嘆いた。

 

 

そして

 

 

プレストウコウはその記事を見た時、膝から崩れ落ちた。

 

「……はは」

 

もう、乾いた笑いしか出ない。

ようやく分かったのに、ようやく受け入れられたのに。

運命は再戦も、雪辱のチャンスも、マルゼンスキーというウマ娘を知る機会すら奪い去った。

 

叫ぼうとしても声が出ない。

 

泣こうとしても涙が出ない。

 

抜け殻となったプレストウコウは、それでも走る事をやめない。

一体何のために走るのか、一体誰のために走るのか。

それすら分からないまま、第22回有マ記念を迎える。

 

 

年末の大一番有マ記念。

この年の注目は、何といっても「TTG」対決だった。

かたや東の王・トウショウボーイ。かたや西の王・テンポイント。そしてその二人を菊花賞で破り「遅れて来た少女」の異名をとるグリーングラス。プレストウコウはクラシック級の代表とはみられていたものの、「3強に対抗できるマルゼンスキーの代理にはならない」と見られていた。

 

そして、レースは前評判通りに展開する。

後にトゥインクル・シリーズ史に刻まれる一騎打ち、トウショウボーイとテンポイントのデッドヒート。それをじっと見つめ、出し抜こうと少し後ろを走るグリーングラス。逃げ宣言をしたウマ娘すら置き去りにして3人は進む。「このレースは自分達のものだ」とばかりに、他のウマ娘など欠片も見ていない。

プレストウコウはグリーングラスよりさらに遅れ、3者の戦いにとても食い込める位置に居なかった。

 

 

「……はは」

 

最後の直線。前を行く3人を見つめて、プレストウコウは笑った。

 

見えるのだ、赤い影が。

 

3人に並ぶように走る、マルゼンスキーの幻影が。

 

 

「――マルゼンスキィィィィ!!!」

 

 

追いつかない。どんなに必死に走ろうとも、前へ進もうとも。

差は、絶望的なまでに広がっていく。

 

 

人々は自分達を嗤うだろう。マルゼンスキーの敗者たち、TTGと同じ土俵にも上がれぬ弱者、語るべき事なき世代と。

 

それでもプレストウコウは走るのをやめない。

 

(いつか追いつく――たとえ私が追い付けなくても)

 

走り続ける。あまりにも遠いその背中を、マルゼンスキーの幻影を追いかけて。

 

(追いつき、抜き去ってみせる。私の想いを、私達の無念を知る誰かが、絶対に!)

 

誰かの夢を壊し、誰かの想いを背負って、ウマ娘は走り続ける。

バージの、ヒシの、ルーラの無念を背負った私が止まる事は許されない。

 

走り続けよう。たとえどんな侮蔑と嘲笑が待ち受けようとも。たとえその先に誰も居ないかもしれなくても。

 

 

それまで一度もトウショウボーイに勝利していなかったテンポイントは、「もしこれで勝てなければ引退する覚悟だった」と語るほどの気迫でわずかにトウショウボーイを抜き去り勝利。2人に迫ったのは追い込んできたグリーングラスのみ。プレストウコウは3人から6バ身も離された4着だった。

 

そしてプレストウコウらの評価は定まった。「悲運の世代」。マルゼンスキーと同じ年にデビューした事以外、何も語る事無しと。世間は少しずつプレストウコウらの事を忘れていく。

 

 

翌年、マルゼンスキーは盛大に引退式を行う。

そのスタンドに横断幕が掲げられた。

 

「さようならマルゼンスキー 語り継ごうおまえの強さを 讃えよう君の闘志を」

 

 

マルゼンスキーの伝説は、語り継がれる。

華やかなるその走りと、大舞台に恵まれなかった悲運とともに。

 

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