マルゼンスキーの幻影【完結】   作:ぼっちクリフ

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第一章 第28回朝日杯ジュニアステークス

レースが終わったプレストウコウは、控室で着替え終わると観客席へと向かった。同期の親友とともに、メインレースを観戦する約束をしていたのだ。ふたりは既に約束した場所に居た。

 

「お疲れトーコ、優勝おめでと!」

「くっやしいなぁ、次は負けないからな!」

 

祝福する小柄なウマ娘ハードバージと、悔しがる黒鹿毛のウマ娘ラッキールーラ。ともに今年デビューしたばかりの同期だ。ラッキールーラとは先ほどのレースひいらぎ賞でともに走り、なんとか先着し勝利をもぎ取った所だった。

 

「次って言えば、そろそろヒシの番だっけ」

「そ、ジュニア級の王者決定戦、朝日杯ジュニアステークス! ヒシ凄いよね、一足先にG1出ちゃうなんて!」

 

プレストウコウの質問に興奮気味に応えるハードバージ。同期の仲良し4人組最後のひとりヒシスピードが、次の朝日杯に出場するのだ。しかも2番人気、十分に勝利を狙える位置。3人とも、親友の晴れ舞台を見ようと前の方の立見席を確保していた。

しかし、ラッキールーラが難しい顔で呟く。

 

「でも、相手はあの人だよね、マルゼンスキー」

 

鳴り物入りでデビューした帰国子女、マルゼンスキー。デビュー戦では大差圧勝、次のレースでも9バ身差をつけ、ジュニア級にして既に「スーパーカー」の二つ名を持つウマ娘。その実力は圧倒的とも言われていた。

事実、マルゼンスキーの出走するレースは回避するウマ娘が相次いでいた。ジュニア級王者決定戦であるはずのこの朝日杯ですら、出走人数はなんと6人。G1レースにあるまじき少人数戦となっていた。

 

 

「でもさ、前回のレース、ヒシはマルゼンスキーとハナ差だったじゃん、今回は行けるかも」

 

プレストウコウのつぶやきに、ハードバージがウンウンと頷く。前走府中ジュニアステークスでは、ヒシスピードはマルゼンスキーをハナ差まで追い詰め、一躍その名を高めていた。今日この大舞台でマルゼンスキーを倒せば、間違いなく世代の頂点に立つ事になるだろう。

 

「そろそろ出走だね」

「ヒシ、頑張れ、負けるなー!」

「みんなで応援してるからねー!」

 

3人はそれぞれゲートのヒシスピードに向かって声援を飛ばす。3人ともヒシスピードがどれだけ練習を重ねて強くなったかを知っている。マルゼンスキーに勝ったら、みんなでお祝いしようと計画もしていた。

 

マルゼンスキーの真っ赤な勝負服に対し、ヒシスピードは白い勝負服。対照的な二人が、ゲートに入る。

 

 

『スタート! ヒシスピード良いスタートを切りましたが、外から一気にマルゼンスキーが飛び出した! マルゼンスキー、早くも3バ身のリード!』

 

逃げウマ娘であるマルゼンスキーがトップに立ち、ヒシスピードがそこから3バ身ほど後ろについた。それ以上は離される事なく追走、他のウマ娘は後方集団。

 

「良いぞヒシ、落ち着いていけ、離されすぎるな!」

 

必至に声援を送る3人。真っ赤な勝負服を着たマルゼンスキーは軽快に飛ばし、ヒシスピードがそれに追走する。

いける、プレストウコウは思った。ペースは圧倒的なハイペース、しかし逃げウマに離され過ぎれば後続は追いつけないが、ヒシは追走できてる。最後の直線でヒシがマルゼンスキーをギリギリ交わせれば……!

 

『さあ3コーナーのカーブの手前、先頭はマルゼンスキー! 3から4バ身ほど離れてヒシスピード、そこから後続まではさらに5バ身!』

 

最終コーナーを回って直線コースへ向かう。後続とはすでに圧倒的な差が開き、実質マルゼンスキーとヒシスピードの一騎打ちだった。

 

 

――ここまでは。

 

 

『最後の直線、先頭はマルゼンスキー。ここから差は縮まるのか、それとも差は開くのか!』

 

実況の声と同時に、プレストウコウら3人も必死に応援する。

 

だが

 

そこで見たものに3人は絶句し、思わず呟いた。

 

「差が……縮まらない」

「違う、どんどん開いて、る……」

 

それはあり得ない光景だった。

圧倒的なスピードで逃げを打った筈のマルゼンスキーは、直線に入りさらに『加速した』。

通常逃げウマ娘は最初にスピードを上げ、ハナを奪った後は適度にスピードを緩めスタミナを温存、最後の直線で再び加速する。もしくは最初から飛ばし続け、ある程度セーフティリードを作った上で逃げ切る。だが、マルゼンスキーは圧倒的スピードで飛ばし続けたにも関わらず、直線でヒシスピードら後続をさらに突き放す末脚を見せる。あり得ない、いくらマイル戦とはいえ、あのスピードで走り続けた逃げウマ娘に先行ウマ娘が離されていくなんて。それはもはや、規格外とでも言うべきスピードとスタミナだった。

 

残り200m。マルゼンスキーとヒシスピードの差は5バ身、6バ身、7バ身……

 

『先頭はマルゼンスキー! これは強い、マルゼンスキー強い! マルゼンスキーの圧勝です、マルゼンスキーの圧勝! 今、大差でゴールイン!』

 

ゴール手前にも関わらず実況が『圧勝』という言葉を使うほどの大差勝ち。走破タイム1分34秒04。従来のタイムより1秒も速い、文句なしのレコードタイムであった。

 

2秒後、ヒシスピードがゴールしふらふらとターフに倒れこんだ。マルゼンスキーとの差、実に13バ身。後に伝説となる「マルゼンスキーが唯一本気を出したレース」の結果だった。

 

「ヒシ!!!」

 

倒れ込んだヒシスピードに3人とトレーナーが駆け寄る。荒い息を吐くヒシスピードを見て、トレーナーがすぐに担架を呼んだ。

 

「……め」

 

倒れたヒシスピードが小さく呟く。3人はその顔を覗き込みながら。

 

「え、ヒシ、どうしたの!?」

「なに、なにか言った!?」

「落ち着いて、無理に喋らなくて良いから!」

 

 

直後、レース場にヒシスピードの絶叫が響いた。

 

 

「バケモノめぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

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