放課後、喫茶店に集まるプレストウコウ、ハードバージ、ラッキールーラの3人。今日はちょっとしたお祝いがあった。
「バージ、勝ち上がりおめでとう!」
「やったねバージ!」
「へへ、ありがと、ちょっと遅くなっちゃったけど」
プレストウコウ、ラッキールーラの2人から祝福の言葉を受けたハードバージは恥ずかしそうにはにかんだ。デビュー8戦目にしてようやくハードバージが勝利した事で、仲良し4人組は全員、クラシック戦線への参戦権を得た事になる。
「……で、ヒシは? 今日もトレーニング?」
「うん。バージによろしく言っておいてって」
「今日くらい来ればいいのに!」
「まぁまぁ」
欠席するヒシスピードに怒るラッキールーラを、プレストウコウが宥める。
ヒシスピードはあの朝日杯から、ますますトレーニングに打ち込むようになっていた。元々元気でよく喋る子だったのに、あれ以降はずっとふさぎ込み、ひたすらトレーニングを続けている。年明けの京成杯ではルーラが、共同通信杯ではトウコウが鬼気迫るヒシスピードに負けていた。
「……『当分はアイツと顔を合わせなくて済むから、今のうちに鍛えておく』だってさ」
プレストウコウはぽつりと呟いた。
『当分はアイツと顔を合わせなくて済む』
その言葉の重さが、全員にのしかかっていた。
年明け、マルゼンスキーはオープン戦への出走を表明していたが、これを知った各トレーナーは一斉に該当レースへの出走回避を宣言。マルゼンスキーに挑むウマ娘はおらず、一時はレース自体が中止になるかもしれないという前代未聞の事態に陥っていた。レース雑誌は次々と『みんな揃ってマルゼンスキーから逃げた』と書きたて煽り、挙句の果てにある雑誌がこんな風にまで書き放った。
『こうして皆マルゼンスキーから逃げ続け、そして逃げたウマ娘達で開催されるクラシックに何の意味があるのか』
あまりの記事に怒り狂ったトレーナーの幾人かがマルゼンスキーへの挑戦を表明、最低限の出走ウマ娘が集まった事でレースは無事開催される事になったとか。
出走を決めたトレーナー、そしてその意を汲んでプライドを賭けてマルゼンスキーに挑むウマ娘は偉いと思う。けれど、プレストウコウはとてもではないが出走する気になれなかった。あの朝日杯を、マルゼンスキーの走りを眼前で見てしまっては。とてもではないが、挑戦する気にはなれない。
「あは、暗い話題は無しなし! 今日はお祝いなんだからさ!」
重くなってきた雰囲気を変えようと、ルーラが明るい声を出す。
そう、少し遅くなってしまったが、今日はハードバージの勝ち上がり祝いなのだ。
「そうだね、バージ、次はどのレースに出るの?」
「今のままじゃ皐月賞、苦しいよね」
「うん、だからワンチャンに賭けて毎日杯。勝てれば皐月賞、出られるからさ」
「そっか、じゃあバージが毎日杯に勝って、そんで3人……ううん、ヒシもきっと来るから、4人で皐月賞に出よう!」
プレストウコウが言うと、2人は力強く頷いた。
4人でクラシックを戦い、栄冠を競い合う。それは、とても素晴らしい体験になるはずだ。落ち込んでいるヒシスピードも、みんな一緒に走る事で笑顔を取り戻せるかもしれない。
切磋琢磨するライバルが居て、みんなで挑む目標があって、そして信頼できる友がいる。
今年のクラシック戦線も、華やかで輝かしい戦いが待っている。
――その筈だった。