マルゼンスキーの幻影【完結】   作:ぼっちクリフ

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閑話 笠松にて2

語り終え一息ついたフジマサマーチは、お茶を軽く飲んで喉を潤す。

聞いていた北原は、その話の重苦しさに圧倒されていた。

 

マルゼンスキーといえば「スーパーカーの異名を持つ強いウマ娘」ぐらいの認識で、中央で活躍していた遠い存在だった。そのウマ娘の影で、そんな悲劇があったなんて。

 

「で、でも、中央には『功労ウマ娘支援制度』があった筈だろ!? 皐月賞ウマ娘って言ったらGⅠウマ娘で、しかもクラシックを勝ったんだ、あれを利用できる筈じゃ……」

 

『功労ウマ娘支援制度』とは、トゥインクル・シリーズを引退したウマ娘の第二の道を支援するURAの制度だ。地方のレース場の職員斡旋から起業資金の援助、果てはトレーナーと結婚する時の身元保証制度まであるらしい。利用できるのは重賞を勝ったウマ娘。他にもいくつか条件があった筈だが、皐月賞ウマ娘ならば間違いなく当てはまる筈だ。

しかし、マーチは頭を振って否定した。

 

「その『功労ウマ娘支援制度』そのものが、ハードバージの悲劇を繰り返さないために作られたものなんです」

 

『皐月賞ウマ娘の末路』の記事が出た後、URAには抗議の意見が殺到した。クラシックを勝ち上がり夢を追い続けたウマ娘を利用するだけ利用して、走れなくなったらまるで居なかったかのように見捨てるとは何事か。そういった意見がURAどころか農水省にまで届くようになり、URAは急遽『功労ウマ娘支援制度』の整備を行った。これにより重賞を勝つ事が出来たウマ娘のその後の人生設計は、格段に道が広がったとされる。

 

再び重苦しい沈黙が流れる。皐月賞ウマ娘ハードバージの悲劇。そしてその根本原因となった、「スーパーカー」マルゼンスキー。

 

(いったい、マーチはなんでこんな事を知って……?)

 

その時だった。

 

「マーチ、チキンカツ余ったけど食べる? 食べるよね、食べな」

「え、あ……」

 

食堂のおばちゃんがやって来て、マーチの皿にチキンカツをひょいと入れる。マーチは慌てて遠慮しようとしたがもう遅い。ひょいひょいと何個も盛るだけ持って、おばちゃんは行ってしまった。

 

焼き魚に加えてチキンカツまでたっぷりと盛られた皿を見て。

 

「まるでオグリの昼食だな」

「……ですね」

 

二人して笑いが漏れる。

良ければどうぞと言うマーチに甘えチキンカツをひとつ自分の皿に取りながら、北原はマーチに話を振る。

 

「それで、話の続きはあるのか?」

「……ええ」

 

マーチはゆっくりと語り始める。

 

「プレストウコウというウマ娘は親友であるハードバージが消えてしまった事を嘆き、そして怒り狂い――マルゼンスキーと直接対決する事をトレーナーに求めました」

 

そう、その舞台こそマルゼンスキーの「もうひとつの伝説」。

 

そして……

 

「『第26回日本短波賞』。プレストウコウが二度と消えぬ汚名を被ったレースです」

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