個別ルートからいらっしゃったそうで   作:バリ茶

5 / 7
4/10 (2)

 

「先輩、こういうゲームはプレイしたことありますか?」

 

 対面する形で席に着いてから差しだされたのはスマートフォンだった。

 どうやら画面に映っているものを確認しろという意味らしい。

 おそるおそる手に取ってみてわかったのは、映っているものがとあるゲームの実況動画ということだった。

 

「……学園恋愛ADV?」

 

 それはとあるノベルゲーム。

 残念ながらそのタイトル自体は遊んだことのないゲームだったが、種類としては非常に似通ったものをプレイした覚えがある。

 

「ギャルゲー、って呼ばれてる類のものですね」

「まぁ……何回かやったことはあるよ。どういうものなのかはだいたい把握してる」

「よかった、それなら話が早いです」

 

 なんで唐突に女子からギャルゲーのプレイ画面を見せられてんだ俺は。

 もっとシリアスに語り始めると思って身構えていたのに。

 

「じゃ、これを見ていただけますか」

 

 そういって彼女が机に広げたのは、なにやら様々な文字が書きなぐられた台紙だった。

 一見すると地図のような見た目だが、そこには”Aルート”だの”ここで世界逆行”だの、地図に書いてあるはずがない意味不明な単語が散見される。

 天宮はそこに四つのちいさい指人形を置いてから口を開いた。

 

「あの、わかりやすく説明するために比喩表現を多めに使いますけど、あながち間違いでもないんで怒らないでくださいね」

「教えてもらってる立場で文句なんか言えないから安心してくれ」

 

 天宮が何度も確認を取ってくる理由は、俺が入室の前後まで青島のことでイラついていたからだろう。

 あの時はさすがに俺も態度が悪かった。下手な言い訳はせず心の中で反省しておこう。八つ当たりはみっともない。

 

「では。──まず、ゲームには主人公が必要ですよね。これからこの高校で発生する一つの物語をゲームと仮定すると、先輩はそれの主人公ということになります」

 

 地図、ないしルート表の起点となる一番下の円の中に、俺を模した指人形を設置する天宮。

 主人公(おれ)が置かれた円から先には一本の道があり、さらに少し進むとそれが三つに枝分かれしている。

 

「主人公がいるなら当然ヒロインもいます。それがこの三人」

 

 次に三つの指人形が置かれた。

 まずは赤色の指人形。

 続いて青色、最後に黄色。

 

「……これが赤嶺と青島なのはわかる。だが、この黄色の指人形はなんなんだ? もしかして──」

「あっ、いえ。私じゃないですよ」

 

 めっちゃキッパリと切り捨てられてしまった。

 

「私はヒロインじゃなくてサブキャラですからね。指人形があるのはメインの四人だけなんです」

「じゃあ誰なんだこいつ」

 

 少なくとも黄色がイメージカラーの知り合いはいない。

 

「如月先生──あぁ、いえ、スズちゃん先生です」

「…………聞き間違いか? お前の言った如月とスズって文字列が組み合わさった名前の人物……俺、一人しか心当たりがないんだが」

「それで合ってますよ。黄色の指人形は如月スズさんのことです」

 

 ヒロインの話してたのにいとこ出てきちゃったよ……。

 

「……茶髪なんだが、あの人」

「魔術を行使するとき──本気を出すときは金髪になるんですよ、スズちゃん先生」

 

 どっかの戦闘民族だったの俺のいとこ?

 ていうか他に聞くべきことが山ほどあるだろう。髪色にこだわってる場合じゃないぞ。

 

「なんで先生呼び?」

「二週間後、つまり五月の十一日に美術の外部講師としてうちの高校に来るんです。で、生徒からの要望が多くて、指導の仕方もすんごい上手だったって教師の間でも評判になって、わりと頻繁にこの高校へ通うことになるんですね」

「……イラストレーターなのは知ってたけど、外部講師を任されるレベルだったのか」

 

 知らなかった一面を知ったわけだが、不思議とあまりうれしくない。

 未来を知っている少女から聞いたせいなのだろうか。

 なんというか、スズさんのこれからの行動を先読みするのは、本来まだ知ってはならない情報をズルして手に入れている気分だ。それにスパイスとして罪悪感が少々。

 ヒロイン──であるらしい──という扱いを従姉が受けているのは割と心にくる。

 俺、自分を拾ってくれた恩人であり形式上唯一の家族であるあの人と高校でラブコメするのか……。

 

「話を戻しますよ。先輩が主人公でこの三人がヒロイン、ってところまでは把握できました?」

「不本意ながら」

 

 普通なら信じていけない話だが俺は既に信じられないような光景(魔術)を目にしている。

 この少女の話を鵜呑みにしすぎるのも危ないが、それと同じくらい情報を信じてこれからの対策を講じるための柔軟な思考も必要となってくるのだ。

 信じ難いことでも頭ごなしに否定するだけでは話が前に進まない。

 

「よかった、では続きを」

 

 お茶を舐めるように嗜みつつ、彼女の動かす地図を注視する。

 大切なことを見落として困るのはほかでもない俺だ。今日中に全部頭の中に叩き込むぞ。

 

「八月の中旬に開催予定の夏祭りがあるんですけど、そこまでがいわゆる共通ルートです。さくら先輩、ヒナミさん、スズちゃん先生の三人と遠すぎず近すぎずな距離感で接していくわけですね」

「……三人と? 彼女たちに共通点があるようには見えないが」

「フッ」

 

 鼻で笑われた。なんだよ。

 

「共通点なんか先輩のことに決まってるでしょ。最初に言ったじゃないですか、あなたは主人公なんだって」

「むず痒い……いやだな、他人から主人公って呼ばれるの」

「そこは我慢ですよ、先輩」

 

 両親を失って一週間が経過したころ、まるで自分を悲劇の主人公のように認識していた時期があった。

 だが、アレも結局は虚しいだけだった。

 自分を主人公として扱うのは一種の逃避だとその時に結論を出した──のだが、まさか他人から『あなたは主人公です』だなんて念を押される日がこようとは。

 変な気分だ。

 なんだかとても落ち着かない。

 

「まず最初は先輩と私で手品同好会って集まりを発足させたんです。で、そこからさくら先輩とヒナミさんが参加して、最後にスズちゃん先生が外部コーチになって手品部に昇格。名義上は別の先生が顧問ですけど、基本的にはこの五人とスズちゃん先生に会うのが目的でたまに来る中嶋先輩の計六人で過ごすことになります」

 

 ……ちょっと聞き捨てならないことが。

 

「手品?」

「はい、手品です。さっき先輩にも見せましたね」

「なんで手品……?」

 

 手品で知っているのはスズさんに教えてもらったトランプのアレだけだ。

 というかそもそも手品が特別好きってわけでもないし。

 なのになんで同好会まで創ってるんだ。俺の知らない俺の考えが全く分からない。

 

「発足の理由は……まぁ、正直くだらないことなんで省きますけど、結果的には()()のカモフラージュをするには丁度いいってことになったんですよ。不思議な現象を目撃されても『これはマジックだ』と言い張ればなんとかなりますから」

 

 出た。

 ついに出やがった、魔術の野郎が。

 俺の悩みの種の中心であり、かつ俺の命を脅かす元凶ともいえる魔術。

 にしても、急に出てきたな。

 ここまでの話には影も形もなかったのに。

 

「ネタバレしますけど、さくら先輩とヒナミさんは魔術師の家系なんです。先輩が魔術を知ったきっかけは、まぁ端的に言うとあの二人の事情に巻き込まれたからですね。同じ理由でスズちゃん先生も魔術を学ぶことになります」

 

 あえて何も言わずにジッと天宮を見つめると、彼女は察して苦笑いした。

 

「魔術と魔術師に関しては……その、額面通りに受け取ってもらって構いません。魔術はいわゆるファンタジーな不思議ぱわ~。魔術師はそれを行使する人の総称です」

「……青島はライサスがどうとか、近づいたら命はないとか言ってたがアレは?」

「魔術師って同族嫌悪がマジやばなんですよ。先輩がた二人は仲良しなんですけど、お家のほうは逆にバッチバチでして。人気のない場所で魔術の打ち合いをしたり、それで怪我人や最悪死傷者も出るんですけど、タチの悪いことに彼ら隠蔽工作が得意中の得意なんで、警察沙汰にもならないんですよね」

 

 公権力に頼れないから自衛に努めるしかない──そういう意味で青島は俺に警告したのかもしれない。

 だとしても殺すなんてワードは一般人に対して物騒すぎると思うが。仮にもクラスメイトだというのに。

 

「……あいつらの素性と俺がこれから経験するであろう道筋のことはだいたいわかった」

 

 ギャルゲーを例えに出された時点で予想できた内容ではある。

 だが、俺が一番知りたいのはそこではない。

 

「教えてくれ。今の状況──あいつらの妙な言動の正体が知りたいんだ」

 

 突然押しかけてきて昼食を共にしようとしてくる赤嶺。

 ほぼ毎回校門前で待ち構えて、かたくなに俺と一緒に帰ろうとする青島。

 スズさんはいまのところ何もないようだし、把握するべき情報はあの二人のことだ。

 教えてもいない好物を知られていたり、近づいたら殺すとか宣言してきた女と一緒に帰るとかいう、不安と恐怖が延々と続く綱渡りをいつまでもやれるほど俺の精神は強靭ではない。

 はやく、最も知りたかった答えなのだ。

 

「順を追って説明します」

 

 赤、青、黄色の指人形を手に取る天宮。

 それらをA、B、Cと書かれた、共通ルートの先で枝分かれしている部分にそれぞれ一体ずつ配置した。

 

「こういうゲームをやったことがあるなら、個別ルートって言葉がどういう意味なのかもわかりますよね」

「あぁ。特定のキャラ一人と仲を深めたり、そいつの過去や問題を解決していくルート……だろ?」

「それで合ってます。先輩はしっかりこのお三方とそれぞれイチャコラして、命はってイベントを乗り越えて──」

 

 茶化すような軽い物言いが少々気になるが、一応最後まで聞かなければ。

 

 

「……で、最後はいつもバッドエンドでした」

 

 

 それまでしっかりと俺の目を見て話していた天宮が、珍しく目を伏せてそう言った。

 大きな驚きはない。

 彼女がゲームに例えて話を進めてくれていたおかげだろうか。

 個別ルートに進んだのなら、その先はハッピーかバッドの二択だ。その二つしかない答えの片方がきたところで、大きく動揺することはない。

 ……少しだけ心臓の鼓動は速まっているが、こんなのは誤差だ。

 バッドエンドを迎えたから、何かがあった。

 故にいまの俺の状況が生まれている。

 

「バッドエンドの詳しい内容はルートによって異なるので追々話すとして。知りたいのは現状の話ですものね」

 

 すると天宮は赤、青、黄色の指人形をひとまとめにして、俺のいる共通ルートの円の中へそれを雑にぶち込んだ。

 

「つまりこういうことです」

「……え?」

「個別ルートからいらっしゃったみたいです。彼女たちの()()()()

 

 ちょっと何を言っているのかわからない。

 

「方法はあとで説明しますけど、この世界におけるルートのやり直しは”世界そのもの”の時間を逆行させるっていう方法なんです。未来をなかったことにしてやり直す、って感じですね」

 

 天宮は淡々と説明しながら、個別ルートのABCに赤色のマーカーでバツを書き込む。

 

「ですが、それって結構な大技なので。世界の強度が落ちて時空が歪むと大変なことになるんで、時間を戻すのは最大でも二回までなんですよ」

 

 で、あれば。

 いまこの俺がいる時間は何周目なのか。

 それを表情から察した天宮は苦笑の表情のままぽつりと呟いた。

 

「──いま、四周目です」

 

 彼女のその言葉で、俺は現状に対してある程度の予想がついてしまった。

 そして、天宮もまたそれを理解したようだった。

 なぜなら俺は小さくため息を吐いて。

 あの石像になった考える人よろしく俯いて顎に手を添え、沈鬱な雰囲気を醸し出してしまったから。

 天宮曰く、二回までの制限を破って三回。

 時空の歪みがどうたらと語った後にこれだ。

 赤嶺と青島の異常については、なんとなく予想がついてしまっている。

 

「そうですねぇ……簡単に言えば怨念とか魂みたいなものかもしれません。詳しいことは私にも分からないんです。ただ、無かったことにされたはずの彼女たちがなぜか今この時間軸を漂っていて、どういうタイミングなのか未判明ですが今の彼女たちに乗り移って先輩とラブコメしようとしている」

 

 指人形と地図をしまいながら、ため息混じりに綴る。

 

「先輩が迷惑を被っているのもそうなんですけど、なによりこの時間軸のさくら先輩とヒナミさんがかなりの被害者なんですよ。……もし、あのまま何回も乗り移られてたら脳が耐えきれなくて人格崩壊を引き起こす可能性があります。……つまりですね」

 

 個別ルートからいらっしゃったヒロインたち(正体不明)をなんとか対処して、この時間に生きる彼女たちを救わなければならない──と。

 

 なんと単純明快な答えだろうか。

 そしてなんという無理難題を押し付けられているのだろうか。

 転校したての新生活、自分のことで手一杯だというのに、俺は気がつけば人の命を預かる立場になってしまっていた。

 ………………キレそう。

 

 

 

 

 天宮の話から得た情報は絶大だったが、やはり彼女が胡散臭く感じる存在であるという認識が変わることはなかった。

 いろいろ教えてもらったが彼女の素性も含めて具体的な内容があまりに少なかった。

 全てゲームに近づけた比喩表現で語られ、大枠は理解できたが詳しい中身が未だ不明のままだ。

 要点だけをまとめてわかりやすく解説してくれた、と言われればそうなのだが、やはりもう少し情報がほしかった。

 今日のところは『詰め込みすぎてもよくないですから明日にしましょう』とのことで天宮先生による攻略手順の授業は終わりを迎えたが、次回以降気になるところはどんどん質問していこう。

 

「で、結局お前は何者なんだよ。そこ一回も触れなかったぞ」

「触れましたよ? 手品部創設メンバーです」

「そういうことじゃなくてだな……」

 

 飄々としていて掴みどころがない──それが天宮千鶴という少女に抱いた率直な印象だ。

 味方というよりただの協力者といった雰囲気が払拭できないため、彼女と接するときはあまり油断しないように気をつけるべきかもしれない。

 

「ほんと、ただのサブキャラですから。様子のおかしい手品部の先輩たちはバグみたいなもので、正規の手段でタイムリープしてるのが私……とか、それくらいしか言うことないんですよ。もっと知りたいなら明日以降しっかり教えてあげますって」

「……それはわかった。じゃあ俺はいまどこに連れていかれてるんだ?」

 

 話が終了したあと、俺は天宮に連れられて本校舎の方へ戻っていた。

 彼女についていってはいるものの、目的地は教えられてない。

 

「音楽室へ向かおうかと。魔術師の戦いに巻き込まれた時のための防衛手段が隠してあるんです」

「防衛手段……? ──あっ、ちょ、ちょっと待って」

 

 話の途中ではあったが、階段に差し掛かったあたりでつい彼女を制止した。

 先程までは天宮の後ろに続く形で進んでいたものの、階段で女子の後ろを進むのはいささか憚られるものがある。

 ……気がする。

 いや、まて。

 もしかしてこういうのって意識するほうがキモいのか?

 でも、もう呼び止めてしまったし……ダメだ、腹を括ろう。

 

「音楽室の場所は転校初日にだいたい把握してあるから、俺が先に進むよ」

「……? 別に最後まで案内しますけど──あぁ、なるほど。ふふっ」

 

 口元を緩ませた天宮はジト目で俺を笑ってきた。

 なんだよ、配慮だぞ配慮。わらうとこちがう。

 

「見えました?」

「何を言ってるのか判断しかねるな」

「ふーん……別に覗かれても文句は言わないつもりだったんですけどね。むっつりさん?」

「ぐっ……タチの悪い冗談はそこら辺にしとけよ後輩。いいか、別にセクハラだと思われても構わないから言うが、おまえこそスカート短すぎな。きちんと校則守れよ」

 

 俺ばかりが悪いわけじゃないだろう。校則で指定されたスカートの丈であればたとえ下から覗こうとしても覗けないのだ。

 オシャレしたいのはわかるが短めの長さにしているコイツにも責任の一端はあると思う。

 

「えっ? だってこれは先輩が──」

 

 何かを言いかけた天宮は、あわや失言しかけた自分に気づいたのか焦って真横を向き俺から視線を外した。

 俺がなんなんだ。

 気になることばかり口にするのよくないぞ! マウントとるな!

 

「……なんでもないです」

「待て、その反応はなんでもあるだろ。俺がなんだ」

「知らなくていいです。……はぁ、はいはいわかりました。先輩がそこまで言うなら長くしますよ、丈。よいしょ……」

「ばっ──!?」

 

 おいおいおい前あけて折ってあるスカートいじり始めたぞこの女羞恥心てもんがねぇのか待て目の前でやるのやめろ!!

 

「アホおまえっ男子の前でスカートの長さ調節してんじゃねーよ!!!」

「えぇ……生娘みたいな反応しますね先輩……」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。