炎導に惹かれて   作:ねをんゆう

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10.根源の地雷

ノルアが首を突っ込もうと思っていたことは、それこそ先程の蔓のモンスターに関する事だった。

蔓のモンスターは地底から現れた、ならば彼等はどこから来たのか?ダンジョン?それは最も容易く考えられる論の1つではあるが、もっと普通に考えれば、より相応しい場所がある。そしてそれについては先程、そのモンスターが出現した穴の中を見て確認した。

 

『ガァァァアッ!!!』

 

「やっぱりここが溜まり場でしたね、地下水道」

 

狭い水路、破壊された壁、そしてまるで見張りをする様に鎮座していた蔓のモンスター。ノルアはそれに対して、鞄から一本の大きめのピンを取り出した。

 

「ふっ」

 

蔓のモンスターの噛み付きを飛び上がって避け、天井にピンを刺して身体を固定する。それに鋼線を通したら、そのまま再度別方向に跳び、ピンを差し込んだ。

 

『ガブァッ!!』

 

「この狭い空間だと、正面からは危険ですからね……申し訳ないですが絡め手を使いますよ。『地理焼却(Fomalhaut)』」

 

鋼線を一本張るだけで、このモンスターは容易く引っかかる。こんな物は自分にとって何の脅威でもないと、まあ実際そうではあるのだが、例えばこれをノルアが白炎を灯して思いっ切り引っ張るだけで、切ることが出来る。それはこの蔓のモンスターが相手でもそうだ。

 

「それに身体さえ短くしてしまえば、流石に素手格闘でも安全に倒せますし」

 

『ガァァァアッ!?』

 

勢いが弱くなった噛み付き攻撃に、カウンターでその顔面を蹴り飛ばす。速度も威力も正確さも、身体が半分に千切られてしまえば半分以下。ノルアのステータスでもなんとかなる。

 

「……やっぱりこの魔石は出る訳ですか」

 

顔面を破壊され、最後にもう1発蹴りを入れられたモンスターは灰へと変わり、再びあの緑色の奇妙な魔石を落として水に流れていく。

見つめる穴の空いた壁の先、どう考えてもこの先に同じ様なモンスターが大量に居るのだろう。今のノルアに、果たしてその全てを相手にすることが出来るのか。

 

(……無理ですね)

 

恩恵というのは、レベルアップの際により高いステータスを持ってした方が、最終的に数値以上の能力を発揮出来るようになる。しかしノルアは基本的にレベルアップが可能になった段階で、躊躇うことなく上げてきた。つまりステータスの累積が少なく、同じLv.4の冒険者達と比べるとかなり弱い部類に入る。魔法としては相性がいいモンスターではあるが、実際のところ1対1でも攻撃を避けるのに全力を出している。3体以上を相手にするとなると、まず間違いなく手痛い傷を負うことになるだろう。

 

(となると、ステータス目当てに根元は叩かず、こうして分散している枝を切り落としていくのが良さそうですね。……でも、あまり刺激し過ぎると結局釣り出してしまうかも)

 

ノルアは思考し、目を横に向ける。

何の変哲もない壁、しかし妙にその辺りだけが新しく塗り直したかの様な継目があり、老朽化の跡も他と比べると少ない。

 

「……これは帰ってギルドに報告ですかね、思ったより余計な薮が多そうです」

 

ノルアはそう判断して、魔石を片手に帰り支度を始める。確かにステータスは欲しいし、この先を進めば間違いなく恩恵の昇華に繋がる危険は存在しているが、少し条件が悪い。こんな汚水に塗れた場所で大怪我でもすれば、それこそ致命的だ。なにより今日の様子を見る限り、アミッドはかなり自分のことを心配していた。最近は何やら落ち込んでいる事も多い。今は心労をかけるべきではないだろう。

 

(無茶はせめて輝夜さんと潜っている時にしましょう、勿体無いですが。そもそもの前提を忘れてはいけない)

 

彼女を泣かせることは本意ではない。急ぐ必要はあるが、焦る必要はない。まだ1年近くは保つ筈なのだから、彼女に焦りを感じさせるべきではない。

 

「帰ります」

 

「へぇ、もう帰るんだ。もう少し遊んでいけばいいのに」

 

「……私達はここで会いませんでした、言葉も交わしませんでした。そういうことでお願いしたいです」

 

「酷いなぁ、そんな悲しいこと言わないでくれよ。せっかくこうして計画前に顔見に来たんだ。少しくらい話しようぜ、"化け物"」

 

「…………」

 

"はぁ"と、ノルアはあからさまに溜息を吐く。

わざわざ話しかけて来ない様に、ここで帰るという選択肢を取ったというのもあるのに。関わりたくなかったから、見て見ぬ振りをしたというのに。

背後からのその声に、顔を向けることなく、鞄を背負う手を止めることもなく、言葉のやり取りだけを続ける。

 

「私は貴方の顔を見たくはありません、早々に立ち去って頂けると幸いです」

 

「ここで捕らえた方がオラリオにとってはいいんじゃない?」

 

「私にとっては良くありません」

 

「関係を疑われるから、かな」

 

「私の信用なんて、神々が適当なことを言うだけで崩れる様な脆い物です。例え貴方をこの場で捕縛したとしても、次の日には私は貴方方の一味にされていることでしょう」

 

「ここで見逃しても同じじゃない?むしろ見逃した方が問題でしょ」

 

「……正直、ここに来たのは悪手でした。ステータスという目先の欲に囚われて、貴方と言う地雷を踏んでしまったみたいですし」

 

「じゃあどうするんだい?」

 

如何にも面白そうに笑っている背後の男。

これだから神は困る。

これだから神は好きじゃない。

特にこういう類の神は、嫌いだ。

 

「貴方をここで殺します」

 

「へぇ、君そういうこと言う子だったんだ。でもいいのかな?ここで柱が立ったら、明日から君は神殺しになるでしょ」

 

「なりませんよ、そんなこと」

 

「……嘘じゃないってことは、強がりなのかな?それとも精神的に殺すとか?神相手にそんなこと」

 

「それも勘違いです」

 

「うん……?」

 

「……そもそも、なんで何事もなく天界に還れると思ったんですか?」

 

「?」

 

「化け物に関わるつもりなんでしょう?」

 

「!」

 

その瞬間、背後の神から始めて動揺の意思が読み取れた。嫌な空気が充満していく、これはノルアが意図的に発しているものだった。普段は閉じ込めているその扉を、ほんの少しだけ、鍵を緩めてやっただけ。

 

「……まだ目覚めてないだろうに、神を殺せるっていうのかい?」

 

「恩恵なんて私に一番与えたら駄目なものだったと思います、今更ですが」

 

「まあ言い方を変えれば、二重に神の力を与えてる様なものだけどさぁ」

 

「それで、どうされますか?ここで会ったことを無かったことにしてくれるのでしたら、それ以上は求めませんが」

 

「へぇ、本当に見逃してくれるんだ」

 

「捕らえても面倒ですし、殺したらもう引き返せないですし。無難に終わるのならそれがいいです」

 

「オラリオとかどうでもいいの?」

 

「どうでもいい訳ではないですが、私を守ってくれる訳でもありませんから。私の立場を悪くしてでも、とは思いません」

 

「ま、それもそうか。愛着とか無さそうだもんねぇ、隙あらば殺そうとしてくる街になんか」

 

「………」

 

流石にそこまでは言っていないが、優先度が低いというのは間違っていない。あくまで自分の立場を悪くしない程度にしか動くつもりはないし、自分を犠牲にするほどの認識でもない。問題を解決したとて、それが感謝されるかどうかも怪しいところだ。それにノルアが何かをせずとも優秀な冒険者の多いこの街は、勝手に問題を解決して、問題なく平和を取り戻せる。どこまで行っても不要な駒。ディアンケヒト・ファミリアさえ、ノルアが居なくとも回していける。本当の意味で彼女を必要としている場所など、この世界には一つしかない。

 

「私を唆せばオラリオを破壊出来るとでも思っているのかもしれませんが……」

 

「あれ、バレてた?」

 

「私の大元の地雷があることも忘れないで下さい」

 

「………」

 

「私は所詮ただの枝です。ですが枝と言えど目的があって伸ばされています。私が死ぬだけであれば問題ないかもしれませんが、その地雷を踏めば本体が来ますよ」

 

「……確かに、言われてみればそうだね」

 

背後の神は何かに納得した様な声を出した。

そして満足したのか、期待に添えなかったのか、彼もまた背中を向けて歩き始める。

 

「敵の敵は味方……どころか、もっと大きな敵だったって訳だ。俺も死にたくはないからさ、今日は君の言葉に乗っておくよ」

 

「ありがとうございます」

 

「ははは、でもこれ普通に天界案件だよねぇ。異界からの侵略者の先兵が来てる訳なんだし、神の力(アルカナム)が飛び交う大戦争に発展するかもしれないじゃん?オラリオとか言ってる場合じゃなさそうだよねぇ、滅ぼすけど」

 

「別に地雷さえ踏まなければ大丈夫ですよ」

 

「教えてくれないの?その地雷」

 

「その地雷を踏む様なら、こんな世界滅んでいいと思っているので」

 

「……なるほど、やっぱり手を出すべきじゃなさそうだ」

 

その言葉を最後に、その神は壁の向こう側へと消えて行った。きっとこれ以上はノルアが深く関わらない限り、向こうも関わって来ることはないだろう。

 

……さて、ここでの話をどこまでギルドに話すかと考えたが、取り敢えずは"地下にモンスターが居た"という所までにノルアは留めておくことにした。

魔石を提出して、そんな情報提供をするくらいでいい。余計なことを話せば、また変に疑われる。実は闇派閥と繋がっていた、なんて根の歯もない噂も昔は流れていた。それが再起するなんて、そんなのは絶対に御免だ。

 

「……アミッドに会いたい」

 

ただ平和に暮らせるのなら、それ以上のことなんて望まないのに。

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