炎導に惹かれて   作:ねをんゆう

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11.騒動の巻き添え

「ということで、暫くお休みを頂きたいと思います。ディアンケヒト様」

 

「……お前という奴は、本当に」

 

引継ぎと仕事の分配、既存の作業の終了報告書に、数日の間に起こり得るであろう問題の対処方法……大量の書類を持って部屋に入って来た彼女が開口一番に発したその言葉に、ディアンケヒトはいつもの様に頭を抱えた。

 

「……またダンジョンか」

 

「はい、またダンジョンです」

 

「目的は?」

 

「ステータスを上げたくて」

 

「アミッドに許可は取ったのか」

 

「同行者のことを話したら渋々ながら認めてくれました」

 

「同行者……?」

 

「輝夜さんです」

 

「……そういうことか」

 

ディアンケヒトの顔から先程までの困惑の表情が消え、顎髭を触りながらも思考し始める。彼女は相当な実力者、経験もある、なによりノルアにとって本当に数少ない心から信用できる相手だ。彼女が一緒であるならば、大きな問題にはならないと思える。無茶をしても、止めることまではしなくとも、死なせることは決してないとも。

 

「……何日だ」

 

「一先ずは1週間お休みを頂こうと思っています。この際ですから幾つか新薬の素材も採取しておきたいので」

 

「金はあるのか?」

 

「普段あまり使いませんから、問題ありません」

 

「持っていくポーションは?」

 

「基本的な物は揃えてあります」

 

「万能薬を持って行け、金はいらん」

 

「……いいんですか?」

 

「ハッ、その新薬に対する先行投資だ。勘違いするでない」

 

「……ありがとうございます」

 

それ1つで家が建てられるという程の価値のある物を、ディアンケヒトはノルアのために手渡した。これがどういう意味であるのかを分からない彼女でもない。

 

「出発は?」

 

「明日の朝に出ようかと思っています」

 

「今夜はアミッドと話しておけよ、1週間も空けるとなればアレも寂しがるだろう」

 

「大丈夫です、最近は一緒に寝ているので」

 

「そうか…………は?一緒に?」

 

「はい、一緒に」

 

「…………いや、もう何も言うまい」

 

「?ええ」

 

そのことについてはもう流石に触れない方がいいと判断したのか、ディアンケヒトは特に言及することなく彼女を部屋の外に出す。

もう20近い女2人が床を共にする、果たしてこれは正常なのだろうか?双子の姉妹であってもベッドくらいは別にしているのではないだろうか?ディアンケヒトにはその辺りがわからなかった。しかしノルアが孤独を感じているのなら、それは当然の話で、アミッドがそれを埋めるために付き合っているというのならまだ理解も出来るかもしれない。

 

「……まあ、良いか」

 

双方がそれで納得しているのなら。

 

 

 

……そういった会話があっての次の朝。

ノルアが支度を終え、もう和服も着ておらず、フード付きのブカブカな上着を羽織った如何にも怪しいゴジョウノ・輝夜がファミリアの拠点に迎えに来た頃……何故か玄関の前に彼女は居た。

 

「何故、アミッドがここに……?」

 

「私も着いて行きます」

 

「……いや、駄目ですよ?」

 

「着いて行きます」

 

「深い層に潜るので危ないです」

 

「ノルアが守ってくれます」

 

「守りはしますけど……怪我させたくないですし」

 

「それはこちらの台詞です」

 

「ディアンケヒト様だって」

 

「許可は貰いました」

 

「仕事だって……」

 

「全部引き継いで来ました」

 

「流石に私達2人とも居なくなるのは……」

 

「そういった場合を想定した訓練の様な形です。いざという時の万能薬の使用も許可を頂いています。何の問題もありません」

 

「ディアンケヒト様……」

 

探索用の動き易い服装に着替えて、杖まで持って来て、もう行く気しかないと言わんばかりの様子。ノルアの反論にも事前に予想して潰すつもりで考えて来たのか、バッサリと切っていく。

 

「ノルア、お願いします」

 

「アミッド……」

 

「私も連れて行ってください」

 

「………」

 

それにアミッドが本気でお願いをすれば、ノルアが断れないことも承知していて、少し卑怯ではあると自覚しながらも、彼女は目と目を合わせて言葉にした。見るからに動揺する彼女、そこに追い討ちを掛けたのはニヤニヤとそれを見ていた輝夜で。

 

「連れて行ってやれ、へたれ」

 

「輝夜さん……」

 

「守れる自信もないのか」

 

「それは……もしものことを考えると……」

 

「ならそのもしもが起きないよう必死になれ、ステータスを伸ばすには丁度良い荷物だろうが。いざという時には手を貸してやる」

 

「……分かりました」

 

「よしっ!」

 

ついに折れたノルアに、アミッドはガッツポーズを決めて輝夜にお礼をした。実際のところ、輝夜にとってもこうも弱々しいノルアの姿を見ることはかなり珍しく、アミッドの前ならばもっと見られるのではないかという好奇心もあったりして。

 

「そういうことですので、ご迷惑をおかけしてしまいますが数日間よろしくお願い致します。【大和竜胆(やまとりんどう)】」

 

「その名はもう馴染みがない、だが人前で名を呼ばれるのも困るか。……アリアとでも呼べ」

 

「アリア……?」

 

「……アストレアと、アリーゼ?」

 

「深読むな、適当に思い付いただけだ」

 

「承知しました」

 

とは言え、アミッドがパーティに入ったというのは決してマイナスな要素ではないことも当然ノルアは分かっている訳で。ノルアは拠点を出る前にもう一度アミッドに向かい合って、目を合わせて、告げた。

 

「……アミッドは私が守ります。ですから、もし私に何かあった時はお願いしますね」

 

「!……当然です、ノルアの傷を癒すのは私ですから」

 

そんな2人のやり取りを見ていた輝夜は如何にも甘苦しい顔をしていて、完全に空気を破壊していた。

 

 

 

「それで、今回の予定はどうなっているのでしょうか?」

 

「予定も何も、20階層まで1人で戦わせるだけだが」

 

「20!?」

 

「ゴライアスは居ない筈ですし、18階層で休みも取れますから。何とかなる筈です」

 

「18階層まで戦い続けるつもりですか!?」

 

「癒してやれよ、治療師」

 

「これむしろ私のせいでハードになってしまいましたか!?」

 

「それとノルア、10階層まで右手を縛れ。言うまでもないだろうが、この女に傷一つ付けるなよ」

 

「はい、当然です」

 

「あとその目の布は縛りになっているのか?」

 

「一応、少し視界が悪くなってます」

 

「なら20階層まではそのままにしておけ」

 

「承知しました」

 

「なに承知してるんですか!?」

 

「怪我はお前の相方が治すから好きなだけしろ」

 

「了解です」

 

「それも了解しないで下さい!私を心労で殺す気ですか!?」

 

この後、結局18階層まで縛りは続き、ノルアはアミッドに滅茶苦茶怪我を治して貰った。18階層に着く頃にはアミッドも流石に慣れ始めていたが、その過保護度合いが増していることはその場に居る誰もが気付いていた。だとしても反論なんて出来るはずもなかったが。

 

 

 

ーー

 

 

 

「ふっ!!」

 

『ゴァアッ!?』

 

16階層、出口の見えて来た頃合いで最後のミノタウロスの頭部を吹き飛ばす。ここに来るまでモンスターの大量発生なり妙に強いモンスターと鉢合わせるなり色々とあったが、3人は無事ここまで来ることが出来た。

汗を流し、明確に疲労の色を見せるノルア。

いくらLv.4と言えど休憩無しで縛りを付けた状態でここまで戦い続け、輝夜から体力の回復の支援を受けてはならないとも厳命されていた。しかもアミッドだけではなく、全く戦う気がない輝夜のカバーまで入る必要があり、常に走り続けながら広範囲のモンスターを狩っていく。もうここまでのモンスターの大半を殺したのではないかというくらいの働き振りだった。そんな彼女を見た輝夜も少しは満足しているみたいで。

 

「縛りを緩める事なく成し遂げたか、その根性は流石だな」

 

「ありがとう、ございます……」

 

「ゴライアスは居ない、体力を回復させてやれ。怪我はそこまで酷くない」

 

「もう!もう……!!」

 

アミッドの魔法が使われる。

すると直ぐ様に体力が元に戻り、傷もあっという間に消えていく。その即効性には見ていた輝夜も素直に感心し、ノルアも嬉しそうな顔を向けていた。輝夜も何度か彼女の治療を見たことはあったが、それも昔の話。あの時よりも治療師として上達した彼女の魔法は、ノルアが本当に誇張していた訳ではなかったということを理解できるほど。

 

「……死人1歩手前まで対処出来るというのは本当だったか」

 

「ええ、私の魔法では精々3歩前が限度ですから。アミッドは凄いんです」

 

「ノ、ノルア……!」

 

「だがお前も死人1歩手前の私のことを救っただろうが」

 

「魔法以外にも薬品に器材、私自身の血まで使って、更にそこに天運と輝夜さんの気力が乗ってようやくですよ。治療師としての私は少し優秀な程度です」

 

「と言っているが、相方としてはどうだ?」

 

「謙虚過ぎてはっ倒したいです。魔法だけで治療師が出来る訳ではありませんから」

 

そんな風に話していれば、ゴライアスの居ない無人の17階層を通り、3人は漸く18階層に辿り着いた。

自然が溢れ、空のように見えるくらいに天井を埋め尽くす青水晶。モンスターの出現しない安全階層でありながら、この美しい世界の光景。

 

「……変わらんな、ここは」

 

「ええ、本当に」

 

何か感傷に浸りながらそう呟く輝夜に、ノルアも一つ頷く。彼女にとってここは、思い出深い場所だ。同じように生き残ってしまったエルフの少女もまた、今でもなおこの階層に定期的に来ていると彼女は知っている。

 

「……少し、寄ってもいいか?」

 

「ええ、元々リヴィラに入るつもりもありませんでしたから。この街に私が来ると色々と大変なことになってしまうので」

 

「はっ、嫌われ者は大変だな」

 

「……一応、テントの準備はしてありますよ」

 

「ありがとうございます、アミッド」

 

「とは言え、流石に食い物は買った方が楽だな。金はあるか?」

 

「ありますよ。私が持っていても仕方ないので、輝夜さんに預けておきますね」

 

「……軽々しくこんな大金を預けるな、たわけ」

 

「相手が信頼できる方ですから」

 

「それとアリアと呼べ」

 

「それこそ完全に忘れてました」

 

輝夜が寄りたかった場所というのは、この18階層のリヴィラの街から少し離れた場所にあった。

水浴びがよくされている美しい水泉を超え、森の奥深くへと入り込み、深くなり始めたそんな木々の間に隠れるように、それは存在している。多くの古びた武器が突き刺さった小さな小山、誰もが見ただけでそれが何かは分かるだろう。こんな場所であるからこそ、むしろそんな物があったとしても不思議ではない。ここはあくまでダンジョンの中なのだから。

 

「……全く、なんとも品のない墓標を作った愚か者も居たもので」

 

「「…………」」

 

今ではもうめっきり見なくなった昔の彼女の口調が戻る。かつては被っていると言われていたその口調も、今では別の物を隠すために使われているということだ。

ノルアもアミッドも、多少ではあるがアストレア・ファミリアのことは知っている。むしろノルアに関しては個人的にアストレアとアリーゼと言葉を交わしたことだってある。それでも助けることが出来たのが一度も話したことのなかった輝夜であるのだから、縁というのは不思議な物。

 

「……正直に言えばな」

 

「はい」

 

「今でも信じられん」

 

「……」

 

「朝起きればひょっこり帰って来るのではないかと、何度も思った」

 

「……似た境遇の方は、皆さんそう言われます」

 

「そうか……まさかあのアリーゼが死んで、未熟者と半端者が生き残れるとは。本当に何が起きるか分からないな」

 

アミッドが摘んできた花を、輝夜は供える訳でもなく墓標にぶち撒ける。きっともう1人の生き残りのエルフであるなら、少しは丁寧に供えたのだろう。今も枯れた花の束が残っている。しかし輝夜は違う。自分達の関係で、そんな余所余所しいことをするのも違うだろうと。

 

「聞けよ馬鹿共、私はこの女を助けるからな。その末に世界が滅んだところで知ったことか」

 

「輝夜さん……」

 

「正義も理想も既に散ったが、恩くらいは返さねばならん。……区切りは付けてきた。もしオラリオを敵に回すのなら、望むところだ」

 

「…………」

 

最後に輝夜は、かつての団長であるアリーゼが使っていた剣に目を向ける。あの頃の自分が敵わないと悟り、そして認めた、炎の様に輝いていた彼女に向けて。

 

「……お前に着いて行った馬鹿の一人だ、火に飛び入ることくらい許せ」

 

その先に破滅しかないと分かっていても。

それでもこの女の力になってやりたいと思ったのだ。世界の敵にならざるを得ない女を、少しでも幸福に死なせてやりたいと思ったのだ。

 

「……今からでも、私から離れて彼女のところに戻れるんですよ?むしろそうした方がいいとすら思います」

 

「どうせお前は直ぐに死ぬだろうが。あと数年待たせたところで大して変わらんわ」

 

「そんなこと……!」

 

「アミッド」

 

「っ」

 

「お前が満足出来る死に様を迎えるまでは付き合ってやる。その道中で冒険者を斬る必要があるのなら、してやる。精々上手く利用すればいい」

 

「……はい、頼りにしています」

 

ノルアのその言葉に、輝夜はニッと口角を上げる。そんな2人の姿を見ていたのはアミッドだ、アミッドとノルアの間にある関係とはまた違う信頼感。なんだかそれに嫉妬すら覚えてしまって、不満気に視線を逸らす。

何故2人とも、長生き出来ないことが前提なのだろうかと。アミッドは本当に、これっぽっちだって、ノルアを早死にさせる気なんてないのに。

 

 

それから輝夜に続いてノルアとアミッドも彼等に花を手向けると、3人はまたリヴィラの街の方へ戻り始めた。

テントも食料もあるにはあるが、滞在時間を考えるともう少し物資に余裕が欲しい。そのためには多少高くともこの街で買っておく方が楽というもの。……当然、ノルアがこの街に入ればそれはもう嫌というくらいに厄介な絡まれ方をされてしまうので、入るのはアミッドと輝夜だけになる。それでもリヴィラの近くにテントを張っておいた方がいざと言う時に対処ができるので、ノルアもここまで一緒に来ていた。

……異変に気付いたのは、その時だった。

 

 

「あ〜……」

 

「ノルア?どうかしましたか?」

 

「ちょっと不味いです」

 

「……何が見えた?」

 

「アミッド、怪物祭の日に戦闘した蔓型のモンスターのこと覚えていますか?あの妙に強かった緑色の」

 

「ええ、まあ。ロキ・ファミリアの皆さんも別箇所で対処していたようですね」

 

「あれが今から大量に発生します」

 

「大量に!?今から!?」

 

「具体的にはいつだ!!」

 

「大体15秒後です」

 

「全部手遅れ!!何も出来ないのですが!?」

 

「もっと早く気付けなかったのか!!」

 

「そんなに便利な能力ではないので……あ、来ます」

 

「ど、どど、どうするんですかぁ!!」

 

突然の揺れ、突然の咆哮。

ノルア達3人は今回ばかりは本当に何の関係もなく……巻き込まれた。

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