炎導に惹かれて   作:ねをんゆう

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14.眷属達の苦痛

18階層のリヴィラの街。

街を襲撃した調教師は撤退し、暴れていた親玉も討伐された。街全体に潜伏していた数多のモンスター達も冒険者達の手によって次々と数を減らし、着実にこの戦いは終わりへと向かっている。

……しかし、そのような中でも今この場所だけは空気を凍らせる様な極度の緊張感が支配している。段差の上から見下ろすロキ・ファミリアの幹部であるフィン・ディムナとリヴェリア・リヨス・アールヴ。そんな彼等からノルアを守るようにして立つ輝夜とアミッド。少し離れた所からそんな彼等の様子を見守っているアイズは、自分がどう動くべきなのか分からず、ただただ困惑していた。……渦中のノルアは、顔を俯かせ、目を背ける。

 

「まず最初に、君は誰かな?僕の記憶が正しければ、この街に君の様なLv.6は居ない筈だ」

 

「アリアだ、つい先日この街に来てな。別に珍しい事でもあるまい」

 

「馬鹿を言うな、外界にそれほどの実力者が居るのであれば話が聞こえて来ない筈がない。仮に姿を隠していた実力者だとしても、背後に隠している彼女と意思疎通が出来過ぎている」

 

「ほぅ、それはどちらの意味での話だ?薄情者」

 

「……どちらの意味でも、だ」

 

"薄情者"

輝夜が言い放ったその言葉に、リヴェリアは顔を歪ませる。輝夜は知っていた、目の前のハイエルフの苦悩を。高潔であるが故に抱える事となった矛盾を。輝夜はその末にこちら側に立つことを選べた人間だ。反して目の前の女は、こちらに立つことを選べなかった人間だ。恩よりも世界を取った。自分と彼女を分けている点は、ただそれだけだと。

 

「それなら質問を変えよう。何故君達がここに居るんだい?」

 

「偶然だ、冒険者がダンジョンに潜ることの何がおかしい」

 

「何が目的で、という話だよ。滅多にダンジョンには入らないアミッドを連れているとなると、多少怪しむのは当然だろう?」

 

「ち、違います!それは私の我儘で……!」

 

自分の存在のせいで余計な疑いを掛けられていることを悟ったアミッドが、慌てて反論しようとする。しかしそんな彼女に伸ばされた手はノルアのものだった。言葉はそれだけで十分だと、笑みを向ける。

 

「ステータスを上げに来ました」

 

「…………」

 

「ノルア……」

 

「そろそろ今の器では足りなくなって来たので、その補強の為です。アミッドはそんな私を心配して着いて来てくれただけです。……それをどう捉えるかは自由ですし、どれだけ私を疑っても構いませんが、その私の悪評にアミッドを巻き込む事だけはご容赦下さい。お願いします」

 

「…………」

 

それまで俯いていた顔を上げ、その言葉だけは目を合わせてしっかりと伝える。そんな彼女にフィンは表情を変えずに口を閉じ、一方で隣のリヴェリアは奥歯を噛み締めて杖を握る手に力を入れた。

2人の記憶の中の彼女と、変わらない、変わっていない。これほどに異質な存在感を持ち、2人の経験や勘がこれでもかという程に明確な危険を伝えてくるような、間違いようのない邪悪であるにも関わらず。その言葉と行動だけが、どうしようもなく誠実で愛情深い。

目に付けている目隠しは、恐らく自分の目を相手に見せないためのものだろう。顔を隠しているフードは、少しでも自分の存在を周囲に広げないためのものだろう。彼女達がここに来て冒険者達の治療を行なったという話も知っている。自分達よりも早くこの場に来て、アイズを助けていたということも、しっかりと自分の目で見ていた。

 

(……気持ちが悪い)

 

きっと闇派閥の幹部達が街中で子供や老人に優しくしているところを見掛ければ、正に今フィンが抱えている感情と同じ物を得ることが出来るに違いない。

それを擁護する2人も受け入れ難い。

自分達が悪のような立ち位置にされているということも、気に入らない。目の前の人間はそれこそ、それ以上にどうしようもない悪鬼であるというのに。……本当に白々しい。

 

「……ふぅ」

 

しかしフィンも理解している、この女を前にした時に本来の冷静な思考や感情を働かせる事が出来る様な人間は、自分を含めても存在しないということを。今抱えているこのどうしようもない不快感も、嫌悪感も、全てが影響されていることによって生まれている感情だ。

……だから一度息を吐く。あくまで事前に考えていた自分の思考通りに、過去の記憶の中にある自分が抱いていた思いを引き出し、その他全ての感情の一切を殺して判断を下す。信じられるのは過去の自分であって、今の自分ほど信用出来ないものはない。

 

「アイズ、帰るよ」

 

「え?あ……うん……」

 

「リヴェリア、君もだ。……一先ず、今回の件については礼を言っておこう」

 

「恩を忘れるなよ。私ではなく、こいつにな」

 

「……遠征についても後日連絡を入れさせる。詳細はその時に伝えるから、頼んだよ」

 

そうして動かないリヴェリアの肩を叩き、その場から去っていくフィン。リヴェリアは最後にもう一度だけノルアに顔を向け、一度だけ目を合わせると、直ぐに見ていられずに目を閉じて逃げる様にフィンを追い掛けた。アイズもまたチラとアミッドの方を見たが、直ぐにその隣に居た彼女に目が言ってしまい、明らかに眉を顰めると2人の後を追いかけて行く。

……残った3人は、とてもではないが笑って言葉を交わせる様な状態ではなかった。関わると決めた時からこうなることは予想できていたことではあるが、それにしても改めてノルアのあまりに悪い現状を思い知らされる。

 

「やれやれ、大変だな。嫌われ者というのは」

 

「……ご迷惑をお掛けしました」

 

「お前から掛けられる迷惑など全て許容の範囲内だ。それに顔を合わせた事で確信も出来た」

 

「確信、ですか……?」

 

「少なくとも、今のロキ・ファミリアにお前を殺す準備は出来ていない」

 

「!」

 

「どう殺せばお前の中のものを解き放つ事なく済むのか、それ以前の話だ。そもそも奴等自身にお前を殺す為の意思統一が一切出来ていない。それでもとなれば勇者(ブレイバー)の独断でやるしかないが、あの男にそんなことは出来ん」

 

彼の目的を知っているのであれば、そんな直接的なことは絶対に出来ないと分かる。だから確実に直接的に殺しに来ることはなく、何かしらの大義名分を作り出す算段を正に立てている頃だろう。ノルアが抱えきれなくなれば、女神ロキが言った様に正面から潰しに来る。しかしそうなれば犠牲は免れず、そこまで気長に待つ筈もない。そして今はまだ、その算段が組み立てられてはいない。

 

「運が良かったな」

 

「……闇派閥がこのタイミングで活動を再開したことがですか?」

 

「そうだ、少なくともお前に構っていられる余裕はなくなる。お前は危険度は大きくとも、緊急の対応を要する事ではない」

 

「……なんと言うか、闇派閥と同等の扱いをされるというのは、流石に心に来ますね」

 

「お前が善人である事と、お前が脅威であることは別の話だからな。どちらが先であるかなど他の者には関係がない。……私達も帰るぞ、長居は不要だ」

 

輝夜に手を引かれて、ノルアは無理矢理に動かされる。立ち止まって俯くから駄目なのだと。他人が思っているより、周りが見えているより、むしろ人並み以上に感情深い彼女は、表面に現れているより3割り増しの感情を抱えていると輝夜は考える。

そして、その一方で同様に暗い顔をしているアミッドについては、輝夜は触れない。それは彼女自身で受け入れなければならない問題だからだ。今日までノルアの気遣いによって有耶無耶になっていたそれに、彼女もそろそろ向き合わなければならない。

 

 

 

 

 

 

「そろそろ冷静になったかい?リヴェリア」

 

「……すまない、やはり取り乱した」

 

「君を責めるつもりはないよ、僕もかなり影響されていたからね」

 

「リヴェリア……っ!?」

 

先程の場所から少し離れた空地で、フィンとリヴェリア、そして2人を追って来たアイズが立ち止まる。フィンに声を掛けられ、その場で口元を押さえながらしゃがみ込むリヴェリア。そんな彼女にアイズが声を掛けようとすれば、彼女は咄嗟にそれを制して物陰へと隠れる。……アイズはこんな彼女の姿は初めて見た。ファミリアの仲間とは言え、人の目の前で胃の中のものを吐き出すリヴェリアの姿というのは。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「……やはり、もう限界か」

 

「リヴェリア、大丈夫……?」

 

「ああ、問題ない……」

 

リヴェリアほどのエルフが、なぜこうまでなっているのかは分からない。ただ原因が先程アミッドの隣に居た彼女だという事だけは分かる。アイズにとっても今は余裕がない。自分のことをアリアと呼んだ女、自分の実力の不足を痛感させられた。しかし周りに自分よりも余程余裕のない人間が居れば、少しは冷静になってしまうものだ。フィンでさえも調子が悪そうにしている。これは明らかに普通ではない。

 

「……フィン、あの人って」

 

「君が抱いた感情や想像、その通りの相手だよ」

 

「っ、フィン!その言い方は誤解を招く!彼女は決して……」

 

「余計なことを知れば苦しむのはアイズだ。君はアイズにも僕達と同じ苦痛を与えるつもりかい?」

 

「それは…………そう、だな」

 

彼女から離れるほどに、自分の認識が元に戻っていくのを感じられる。そして先程までの自分との乖離に、悍しい吐気を催す。ロキ曰く、この現象についてはむしろ正常なものらしい。異常な外敵に対して、異界からの侵入者に対して、この世界の人間が本能的に抱く拒否反応。この世界で生まれた者ならば当然のように持ち合わせ、むしろそれが働かなければ欠陥があるとも言える当然の現象。

 

「……ただ、前よりも酷くなっている」

 

しかしその現象は、単純に格の違いによって和らげる事が可能だとロキは言っていた。格とは即ち恩恵のランク。恩恵のランクが高いほど自分を維持出来るようになり、外敵を相手にしても自分の意識を保っていられる。しかし反対に恩恵のランクが低ければ、強い感情や意思でも無い限り、以前に"豊穣の女主人"で客達の間で起きた奇妙な現象の様に、まるで操られた様に揃って彼女を睨み付け、意思のない無生物の様に只管に敵意を向けるだけの存在となってしまう。

 

「……私達でも認識が歪され始めるほどに、力が強くなっている。恐らく今のラインはLv.3、それより下は素で彼女を認識した瞬間に問答無用で人形になるのだろう。他に意識を割く理由などがあれば話は別だが」

 

レフィーヤがあの店でも意識を保っていられたのがその証拠。彼女が今日の様に自分の姿を極力衣服などで隠していれば、Lv.2程度までなら意識を保っていられる。治療されていた冒険者達が敵意を持ちつつも意識があったのがその証拠だ。

……そして恐らくであるが、人形にならなくとも嫌悪感が消えることはない。彼女のことを知れば知るほどにその善性を理解することになるが、目の前で顔を合わせてしまえば途端に凄まじいまでの嫌悪感と衝動に襲われてしまう。リヴェリアとフィンを今正に襲っているのはその乖離についてであり、これは彼女を良く知る者達ならば誰でも味わっている現象だ。だから彼等はむしろノルアのことを避ける様になる。……よく出来た機能だと、フィンは思う。それを乗り越えればディアンケヒトやアミッドの位置に行けるのかもしれないが、その立ち位置すら今は恐ろしい。関われば苦痛以外に得られるものがない。だったら最初から関わるべきではないというのは当然の判断だ。

 

「アイズ……悪いことは言わん、あの子にはもう関わるな」

 

「……でも、アミッドの友達だって」

 

「彼女はいつか僕達の手で殺さないとといけない」

 

「……!」

 

「その時にもし君が彼女と関係を深め、一瞬でも躊躇いを見せてしまうようであれば、それは大きな失敗に繋がってしまう」

 

「……だから、仲良くならない様に、関わらない方がいいってこと?」

 

「そういうことだよ」

 

言いたいことは分かる。

何故彼女を倒さないといけないのかについても、豊穣の女主人でロキの話を流してしか聞いていなかったアイズでも何となく想像は付く。

しかし、アミッドは確かに言っていた。彼女は自分の大切な友人で、他にも友人を作ってくれると嬉しいと。自分だって昔は彼女に治療をして貰ったことがある。……もしこの手で彼女を倒したとして、アミッドはそんな自分のことをどう思うのだろう。悲しむ彼女の顔が思い浮かんで、あまり良い気分にはなれない。

 

「じゃあ、次の遠征に連れて行くっていうのも……?」

 

「いや、今はまだその時じゃない」

 

「?」

 

「次の遠征は、あくまで彼女の能力の詳細を知ることが目的だ。だから彼女は常に僕達と同じ前線チームに配置して、探索を進める」

 

「それは、危険じゃないの……?」

 

「危険だよ、だから僕は何より君達を守る選択肢を取るつもりだ。彼女のことは殺さないし、彼女の能力と性格も最大限に利用する。治療師としての彼女は信用出来るからね。……それでも、もし彼女がそこで死んでくれるのなら話は別だ。助けることはせず、ダンジョンの深層に封印する。僕達の関係はあくまで、その程度だ」

 

恐らく彼女はステータスを向上するために、前線で戦うということを承諾するだろう。そして例え相手がフィンであっても、怪我をすれば治療をしてくれるはずだ。影響されていない状態で客観的な事実だけを見れば、彼女はそういう人間だから。だが彼女が怪我をした時に、こちらが治療をするつもりはない。そのまま死んでくれるのであれば、地上への被害の少ないダンジョンの深層で死んでくれるのであれば、それで彼女への対処の前段階は完了するからだ。

 

「酷いと思うかい?こんなやり方をする僕達が」

 

「……うん。けど、フィンがそこまでしないといけない相手だってことも分かる」

 

「ダンジョンの深層でも抑えきれない可能性はある、だが地上で解放するよりは間違いなく時間も稼げるし被害も減るだろう。……それでも積極的に殺さないのは、最初に手を下すのが僕達じゃない方が都合が良いという理由以外にも、これがロキ・ファミリア自体に不和を齎す可能性もあるからだ」

 

「フィンも、迷ってるってこと……?」

 

「……殺さなければならない。早ければ早い方が絶対に良い。ただ殺してしまえば僕達はファミリアとして、少なくともオラリオではまともな活動が出来なくなるだろう」

 

「あくまでやるのであれば、正当な理由がある場合。もしくは故意ではなかったと説明、証明出来る状況でなければ許されない」

 

「罠とかも、仕掛けないの?」

 

「彼女には僕よりも優れた勘の様なものがある、そういった勝負を仕掛けるのは無意味で逆効果だ」

 

「……みんな、そう思ってるんだ。自分以外の誰かが、あの子を殺してくれないかって」

 

「ああ、そうだよ。だからこのままだと、彼女が器としての限界を迎えるまで放置することになってしまう。そうなってしまえば、発生する被害は間違いなく甚大だ。……本当なら、10年前に見つかったあの時点で手を下しておかなければならなかったんだ」

 

そんな話を聞いたアイズは、俯きながらも若干の恐怖を抱いてしまっていた。それは別に彼女に対しての恐怖ではない。……もしかしたら自分もまた、何かが少し違っていれば、今の彼女と同じ立ち位置に居たのではないだろうかと。そう思ってしまったのだ。

誰からも疎ましく思われるどころか、殺さなければならないと思われていて、彼女はどんな気持ちで生きているのだろう。苦しくないのだろうか、辛くはないのだろうか。アイズの頭の中を過るのは、彼女のあの人形の様な顔だけ。自分だって人形のようだと巷では言われているというのに。

 

「後で遠征参加者全員に伝えるつもりだったけど、彼女は白炎の魔法を使っている間は他者への影響が緩和される。だから遠征中にはポーションを飲み続けるなり、無理矢理にでもそれを使い続けて貰うつもりだよ」

 

「………そう」

 

「一方で彼女が黒炎を出した際には、むしろ抵抗感が強くなる。だからこれの使用は禁止する。アイズも、それについてはさっき見た時にも感じた筈だね」

 

「………うん」

 

「彼女の監視と指示については全て僕が担当するし、接触させるつもりもないけれど、もし何か感じるものがあれば教えて欲しい。彼女に関する情報は、今は何より欲しいんだ」

 

「………分かった」

 

アミッドは聖女と呼ばれるに相応しい人間だ。見識もある。そんな彼女が心から信用している人間が、悪い人物である筈がない。

自分が感じたあやふやな抵抗感より、アミッドがリヴェリア達を相手に自らの背後に彼女を隠そうとした程の愛情の方が余程信用出来ることも間違いない。

……けれど、それよりもフィンやリヴェリアの今の言葉や反応の方がもっともっと信用出来る。彼女は殺さなければならない。例えアミッドとの関係が悪くなったとしても。殺さなければ間違いなく大変なことになってしまうのだろうから。だから、

 

(っ!)

 

 

 

だから、殺さないといけないのだろうか?

 

 

 

「フィン、リヴェリア……」

 

「ん……?」

 

「なんだい?」

 

「もし、私が、その……」

 

「「?」」

 

「もし、私も、あの子と同じ立場になったら……私のこと、殺すの?」

 

「「っ」」

 

気になってしまった。

思ってしまった。

アミッドの気持ちを考えたら、あの時のアミッドの顔を思い出してしまったら、それを考えずにはいられなかった。

もし自分がオラリオを破壊する様な何かになってしまったとして……果たしてフィン達はどうするのだろうか、と。アミッドの様にそれでも愛してくれるのか、それとも……

 

「それ、は……」

 

「……そうはならない、意味の無い仮定だ」

 

「そんなことは、ないと思う。今回だって、食人花に宝玉が寄生して、モンスター達の親玉が生まれた。けどあの宝玉が最初に狙いを定めたのは、私だった。あれがもし私に寄生していたら、そうしたら私も……」

 

「「………」」

 

それくらいには身近な話であると、アイズは思う。決してフィン達の行動が間違っていると言いたい訳ではないが、これは決して彼女にだけ当てはまる話ではない。身近な人間を殺さなくてはならない状況……果たしてそうなった時に、自分は、周りの彼等は、どうするのか。

 

「……僕は恐らく、今と同じことを考えると思うよ」

 

「フィン……」

 

「例え相手がリヴェリアでも、ガレスでも、同じだ。そうでなければ、フィン・ディムナじゃない」

 

そうだ、フィン・ディムナであればそうするだろう。そうしなければならない。彼はそういう人間だ。今回の件についても、同情はしているが、殺すという結末が揺らぐことは決してない。その過程で心揺らぐ事はあるかもしれないが、結末は絶対に変わらないと断言出来る。もしディアンケヒトやヘファイストスがそれに反対しなければ、むしろ話を聞いた時点で彼は直ぐにその命を奪いに行っていた筈だ。

 

「………私には、無理だ」

 

そしてリヴェリアもまた、そういう人間だった。

 

「もし、お前を殺さなくてはならないとして……私にはそんなこと、絶対に出来ない。彼女のことを殺そうとしている分際で、だがそれでも、きっと、いざ自分の事となれば……そんなことが、出来る自信はない……」

 

「………うん」

 

そう言ってくれる人が1人でも居てくれるのなら、頑張れるかもしれない。きっと彼女もそんな気持ちなのだろう。例えオラリオ全体が敵に回ったとしても、アミッド1人が側に居てくれる限り、彼女は……

 

「うん、分かった。私はフィンとリヴェリアのこと、信じてるから」

 

「……ありがとう。そしてすまない。不甲斐のない団長で」

 

もし彼女を倒さなければならなくなったとしても、その末にアミッドを傷付けてしまうことになったとしても、それでアイズの何かが変わる訳ではない。アイズの目的は変わらない。

……力がないから悪いのだ。守れないのも、追いつけないのも、助けられないのも。強くなって、力を得て、どんな相手にも負けないようになれば……あの女からアリアについての情報も引き出せていたし、ノルア・コルヴァスという少女だって、弱いうちに殺さなければならないなんてことにはならなかったのだから。

力が足りていない。

今のままでは、何にも届かない。

 

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