炎導に惹かれて   作:ねをんゆう

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原作よりディアンケヒト様が疲れ果てています


02.男神の苦悩

ディアンケヒト・ファミリアには一際趣味の悪い部屋がある。それは当然、主神であるディアンケヒトの自室だ。

彼は金に目がなく、治療系ファミリアではあるが儲けを出すために日々様々な施策を練っているような神だ。その中には卑劣とも取れるような内容も含まれているが、それでもまだ善神と言える部類には入るだろう。

そんな彼の自室は当然ながらその金代わりに手に入れた高価な調度品等が多く詰め込まれており、清貧という言葉とは真逆の方向に突っ走った正に下品な有様になっていた。

基本的には治療を中心に動いている眷属達、他のファミリアの様に滅多にステータスの更新が行われることはない。故にそれほど団員達の出入りの多くない部屋ではあったが、何事にも例外は存在する。

 

「……というのが怪物祭当日の動きになります」

 

「むぅ……」

 

目の前の女の言葉に何処か不満げな顔をしながら顎髭を撫でるディアンケヒト。しかし、かと言ってそれを非難する様な態度でもない。いつもの様にただ溜息を吐いて、少しの嫌味を言うくらい。

 

「お前は本当に金にならんことばかりをするな」

 

「申し訳ありません」

 

そう言うのであれば、少しくらい申し訳なさそうな顔をしろとディアンケヒトは心の中で呟く。

正直に言えば、彼女は困った眷属だった。

冒険者になりたいのならばここに居る必要はないし、治療師で居たいのならダンジョンで危険を冒す必要もない。しかしその二足の草鞋を十分に履きこなせているのが彼女でもあり、かと言ってそれが周囲に良い影響を齎しているのかと問われれば、そうでもない。

付き合いはもう10年近くになる。

それでも未だその本心や底が見えて来ない。

アミッドもまた優秀であったが、多少なりとも可愛げはあった。しかしこの女にはそれが全くと言っていいほどにない。それこそ幼い頃からずっとだ。

 

「しかし金銭が必要だったのでしたら、やはりロキ・ファミリアの遠征に同行すべきだったのではないでしょうか」

 

「……その数日前まで別のファミリアの遠征に付き合っていた眷属を再び送り出すほど、儂は亡者ではないわ」

 

「特に疲労等はありませんでしたが……」

 

「ええい、口答えせんでいい!そんなことをすれば儂が鬼の様に思われるではないか!」

 

「申し訳ありません」

 

「まったく……」

 

確かに遠征の同行は金になる。

かなりの大金を要求することが出来るからだ、相手が払える限りは青天井と言っていい。それがロキ・ファミリア相手となれば当然に釣り上げることも可能だろう。

……しかしディアンケヒトは知っている、その同行した先でこの女がどんな扱いを受けているのか。

そもそもが避けられているのだ。たった1人、別のファミリアの人間が入って来たとして、容易く輪の中に入れるものだろうか?それもこんな愛想のない不気味な女と。

腫れ物扱いされているのは言うまでもなく、遠征中は本当に事務的な会話しかしていないらしい。結局は彼等は治療師を欲しているのであって、彼女自身を欲している訳では決してない。それは仕方のないことだとディアンケヒトは理解しつつも、不快に思うかどうかは別の話と言えるだろう。

こんなのでも大切な眷属に代わりはないのだ。そのうち簡単に捨て駒扱いされてしまいそうで、だからディアンケヒトは彼女を遠征に参加させるのに良い顔はしない。結局誰だって身内が一番可愛いのだから。いくら口酸っぱく契約を交わしたところで、緊急時に無愛想な女1人を守るために自分達の命を投げ出す筈もない。

 

「まあいい、明日の休暇の予定を話せ」

 

「はい。明日は特に仕事の予定もありませんので、ダンジョンに潜り材料集めをして来ようかと思っています」

 

「……何の材料だ」

 

「いくつか薬材が不足しているとアミッドが嘆いていましたので、1日掛けて日帰りで」

 

「それも仕事だろう!そうでなくともダンジョンに潜らず買えばいい!」

 

「いえ、いくつかの材料は暫く品薄が続くと思われます。その時になってダンジョンに潜ったところで手遅れですから、今のうちに採取の必要があるかと」

 

「……また勘か?」

 

「いえ、市場の流れを見ての話です」

 

「…………とにかく、その件は明日依頼を別の者に出させる。偶には仕事から離れろ」

 

「ですが、そうなると私は一体何をすればいいのか」

 

「むぅ……これは儂の責任でもあるな」

 

何を話すにも頭を痛くさせられる。

まあ確かにこの女、ディアンケヒト・ファミリアに拾われた時から常にファミリアの手伝いばかりをしていた。あの頃は色々とオラリオも混乱に突入する頃合で、人手不足が顕著だったというのも理由の一つだ。……とは言え、これといった趣味や目的もなく、ただ機械の様にファミリアのために尽くしているだけの眷属など、ディアンケヒトの神としての器を疑われかねない。

あのアミッドですら"青の薬舗"に定期的に通い、借金の取立てという建前でミアハ・ファミリアと親交?を深めているのだ。正直ディアンケヒトとしては全く面白い話では無いのだが、それでこそ人間であろう。少なくとも目の前の全く健全でない子供と比べれば見逃すのは容易い。

 

「……仕方あるまい。ノルア、貴様酒は飲めるな?」

 

「はい、人並み程度には」

 

「ならば明日の夜は儂に付き合え、飲みに行くぞ」

 

「ディアンケヒト様とですか?」

 

「なんだ、不満か?」

 

「いえ、そのようなことは」

 

「フンッ……昼間は適当に過ごしていろ、だが仕事とダンジョンに潜るのは許さん。それ以外のことを探せ、そして夜に儂に報告しろ」

 

「承知しました」

 

「以上だ、戻れ」

 

「はい。失礼します、おやすみなさいませ」

 

深々と頭を下げてから部屋を出ていくその様子、よくもまあこれほど今日まで変わらずに居られるものだとディアンケヒトは何度目か分からない溜息を吐くしかない。

利口な眷属ではあるし、貢献度も高い。

治療師がダンジョンに潜るという行為の垣根を下げてしまっており、それが原因で勘違いした眷属が何人か大怪我を負ってしまっていること以外は問題という問題も起こしていない。それ自体も決して彼女が悪い訳ではなく、愚かな子供達が悪いのではあるが……

 

「ああ、いかん。この思考はまたヤる」

 

そこまで考えて全てを打ち消す様にディアンケヒトが頭を振ると、丁度背後の扉から再びのノック音がした。この部屋を頻繁に訪れるのはファミリアでは例の2人くらいだ。そしてこのノックの仕方は間違いなく、もう片方。

 

「構わん、入れ」

 

「失礼しますディアンケヒト様、本日の収支報告を……どうかなさいましたか?顔色が良くない様に見えますが」

 

「気にするな、収支報告を始めろ」

 

「はい」

 

アミッド・テアサナーレ。

こちらの眷属はこれ以上ないと言うほどに優秀で、気が利き、可愛げも才覚もある素晴らしい美人に育った。ディアンケヒトが何の遠慮もなく自慢することが出来る眷属であり、治療師としてだけではなく、商人としても十分な才能の持ち主である。

今日も今日とて収支報告は黒、黒、黒。

普段のディアンケヒトならここで一つ満足気に大笑いをし、アミッドを褒め称えるだろう。そして新たに思い付いた施策を話し、彼女に丸投げするまである。

 

「………良くやったアミッド。今日の午後にロキ・ファミリアが遠征から帰って来たと聞く、明日はくれぐれも吹っ掛けられるなよ」

 

しかし今のディアンケヒトはとてもではないが、そんな気分では無かった。どうしてあの子と話すといつもこうなるのか。

これに関してはアミッドだってもう見慣れたもので、部屋に入って来た時からその全てを見通していたのだろう。収支報告も淡々としていた。そしてディアンケヒトもまた、それについてアミッドが興味を持っていることは分かっている。

 

「……あの、またノルアが何かしたのですか?」

 

「何もしておらん、しておらんから問題だ!」

 

「と言いますと……?」

 

「口を開けば『遠征に行く』『ダンジョンに潜る』『仕事をする』こればかりだ!わざわざ休みを与えれば『何をすればいいか分からない』だと!?趣味の一つも無いのかアレには!一体何処で育て方を間違えた!」

 

「ディアンケヒト様、ノルアに聞こえます」

 

「ええい!少しは人間味というものをだな!好きな男の1人でも連れて来ればいいものを!もう21だろう!アミッド!アレに合う手頃な雄は居らんのか!」

 

「そういった心当たりは特に。そもそもノルアと親しい人物が殆ど居りません、近寄ろうとする人物も同様に」

 

「あぁ、あの不気味な笑い顔だけでもどうにか出来ないものか……!面は良い癖に勿体無い!あの顔は上手く使えば良い金になるというのに!」

 

荒れ狂うディアンケヒト。

色々と突っ込みたいところはあったが、彼のその気持ちもアミッドにはよく分かる。このファミリアに入った時から隣に居て、暗黒期の中でも常に共に戦い続けたのが彼女だ。アミッドからすれば同僚であり、戦友であり、恐らくノルアにとって最も近しい存在。少なくともそう自覚していいくらいの関係だとは思っている。ノルアがアミッドに対して抱いている感情も、きっと他の人間に対しての物とは違うはずだ。

 

「……アミッド、偶にはアレを連れ出せ」

 

「連れ出す、ですか?」

 

「そうだ。……ああ、丁度"怪物祭"の話が来ていたな。良い機会だ、アレを連れて見物して来い」

 

「しかし当日は……」

 

「お前たちが居なくとも役割くらい回せるわ!最悪エリクサーを使えばいい!いいから連れて回って来い!主神命令だ!分かったな!」

 

「わ、分かりました……」

 

彼がそこまで言うのなら、拒否権などもう無かった。金にうるさいディアンケヒトがエリクサーを使ってでも居ない穴を埋めると言っているのだから、彼の中ではこれはそれほどに優先すべき事柄なのだろう。

 

「本当に困ったものですね、ノルアには」

 

部屋を出て、壁にもたれ掛かりながらアミッドはそう呟く。自分より2つ歳上で、自分よりも色々と知っていて、アミッドは過去に色々なことを彼女に教わった記憶がある。

今はもうそんな彼女よりも治療師としての実力も実績もあり、彼女は実質的にアミッドの補佐の様な役割に就いているが。彼女はそれに対しても少しの嫉妬も見せることもなく、むしろ積極的にアミッドを助けてくれる。

 

(っ、また……)

 

少しの眩みと共に目の前に現れた紅の炎。

それに手を伸ばし掴もうとするも、決してそれが手に触れる事はない。そうしているうちに炎は何を訴えかけたかったのか消えてしまったけれど、アミッドは少しの思案の後、一先ずすべき事から片付けることにした。

 

「まずはノルアに伝えるのが優先ですね」

 

自分の隣の部屋に住んでいる彼女。

もう訪ね慣れたその部屋に向かって、アミッドはぼーっとした頭を振り払って歩き始めた。

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