炎導に惹かれて   作:ねをんゆう

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意外と要望が多かったので、出してなかった分だけ投稿しておきます。


23.改変

 小さな物音、僅かに感じる肌寒さ。

 そこにあるべき物がない感覚に不安を覚え、目を覚ます。

 

 

「……ノルア?」

 

「ん、起こしてしまいましたか?アミッド」

 

 

 目を開けた先に居たのは、既に出掛ける準備を始めている彼女の姿。

 

 ……ああ、そうだった。彼女は今日からロキ・ファミリアと共に遠征に行く。

 

 

『今回はへファイストス・ファミリアも同行するそうですから、滅多なことは起きませんよ』

 

 

 彼女は昨晩そう言っていた。

 それでも今日の彼女はなるべく薄手の素肌を隠す装備を徹底していて。腰に付けた鞄には明らかに普通ではない量の回復薬を持っている。そして回復薬以外にも諸々、つまり様々な対策を用意しているということ。

 

 

「……ふふ、まだ心配なんですか?」

 

「それは……」

 

「予知でも何の問題もありませんでした、ちゃんと帰って来られますよ。だからアミッドはその間の留守をお願いします」

 

「……それ、神々の言うところのフラグというものですよね」

 

「昨晩あれだけ慰めてあげたのにまだ足りないんですね」

 

「言い方」

 

「ほらほら、アミッドも着替えましょう。私が脱がしてあげますよ」

 

「ぬ、脱がすって……ちょ、ちょっと!?私の着替えここにはないのですが!?」

 

「私のを着ればいいじゃないですか、偶には気分転換も必要ですよ」

 

「だ、だとしても……ちょっと!下着まで取る必要ないですよね!?」

 

「間違えました」

 

「何をどう間違えたらそうなるんですか!?」

 

 

 危うく半裸にさせられかけながらも、アミッドは渋々ノルアに手渡された彼女の服に手を通す。

 ……まあ、別に嫌ではないのだけれど。こんなの分かる人が見れば完全にノルアの服を着ていることがバレてしまうし、変な邪推もされてしまうだろう。

 

 

「……」

 

 

 改めて姿見で自分の姿を見てみれば、どうにも自分には白過ぎるように思うノルアの医療服。一方でノルアの方はと言えば今日は全身暗めの色で統一していて、なんだかその姿も対象的に思えてしまう。結局どちらも彼女の服ではあるのだが。

 

 

「なんだかちょっと背徳的ですね」

 

「訳の分からないことを言わないでください」

 

「なにかこう……アミッドは私の物なんだぞ、って周知してるみたいで」

 

「誰が貴女の物なんですか」

 

「そうですね、私がアミッドの物なんですよね」

 

「いつ私の物になったんですか!」

 

「こうなったら私もアミッドの何かを身に付けた方でいいかもしれません」

 

「どうなったらそんな話に!?」

 

 

 とは言え、まあそれでも。

 こうして妙に期待された目で見られてしまうと、アミッドも思わず考えてしまうわけで。

 

 

「………分かりました。首飾りを持って来るのでそれを持っていってください」

 

「いいんです?」

 

「貴女がそれで戻って来るのであれば安い物です」

 

 

 結局こうして折れてしまうのだから、本当に自分は彼女に弱い。

 

 

 

 

 

 

 

 ロキ・ファミリアとの集合場所はバベルの前の中央広場。ノルア達が訪れた頃には既に大勢の人々が集まっており、他のファミリアからも野次馬が集まって来ているようだった。

 そんな中でもノルアがあまり浮かずに溶け込んでいるのは、自身の身を隠しているのと、既に白炎魔法を使用しているからに他ならない。

 

 ……それでもまあ人目は引いてしまっているが、それくらいで済んでいるだけマシだろう。少なくとも遠征中の大きな支障にはならないのだから。

 

 

「レフィーヤさん」

 

「あ……アミッドさん?」

 

 

 先を行くアミッドが声を掛けたのは、レフィーヤ・ウィリディス。彼女とは24階層の件でも一度会っているが、ノルアはそこまで話したことはなかった筈。

 それでも彼女は一度アミッドに気付くと直ぐに背後のノルアの存在にも気付き、なんだか複雑そうな顔をして彼女を見た。そこに嫌悪の感情がないだけ、ノルアにとってはマシといったところか。

 

 

「彼女が副団長のノルアです、今回の遠征に同行することになりました」

 

「よろしくお願いします」

 

「は、はい、聞いてます。……あの、先日は」

 

「すべきことをしたまでです、お気になさらず」

 

「は、はい……」

 

 

 やはりこうして対面すると、いくら肌を隠して魔法を使っていても抵抗感があるらしい。レベルが上がっただけマシになっているというのもあるのかもしれない。

 

 それこそ先日ギルドに行った際など、魔法を使うまで職員の全員が自分に対応出来なかったくらいなのだから。それほどに自分の中の"それ"は力を増している。

 その中でも、一部の職員とはもう2度と言葉を交わすことは出来ない。魔法を使っても会話が出来なくなってしまった者達がギルドの中にも何人か居た。恐らくまだ分かっていないだけで、他にもそうなってしまった人々は多く居る。

 

 

「レフィーヤさん、これを」

 

「これって……」

 

「各ポーションが諸々と万能薬も入っています。ノルアがいるのでそれほど必要にはならないとは思いましたが、念のために」

 

「こんなに沢山、ありがとうございます!」

 

「その代わり、ノルアのことをお願いしますね」

 

「は、はい。それはもちろん……」

 

「……」

 

 

 遠征に参加しないアミッドの仕事はここまで、ここから先に関与する資格はない。こちらに気付いたのか近付いてくるフィン達、アミッドはもう一度ノルアの顔を見上げる。

 

 

「ノルア、その……」

 

「行ってきますね、アミッド」

 

「……」

 

「そんな顔をしないでください。そんなに心配しなくとも、私は死ぬつもりなんてサラサラありません。私の最期はアミッドの膝の上と決めているので」

 

「それはそれで傍迷惑ですけど……っ」

 

「では、また」

 

「………」

 

 

 唇を落とされた額を抑え、アミッドは何とも言えない顔をしながら彼女の後ろ姿を見送る。

 こっちはこんなにも心配しているというのに、いつも通り薄い表情で何事もないように歩いていくその様子。腹立たしくはあるけれど、同時に本当に大丈夫なのだと思わせてもくれる。

 

 

「……いってらっしゃい」

 

 

 果たして、自分の選択は間違っていなかったのだろうか。本当に彼女のことを思うのなら、何もかもを捨ててでも、もっとやれることがあったのではないだろうか。

 

 遠ざかっていくその背中に、けれど身体は動かない。それをするだけの勇気と衝動が、アミッドには無かった。ファミリアも病人も、オラリオさえ投げ捨てて、彼女1人を取るという選択を取ることなど、出来るはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

炎が……煌めく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ………フィン、さん?』

 

 

『フィ、ン……?』

 

 

『な、なにしてやがる!!フィン!!』

 

 

『フィン……!な、なぜだ、なぜ今なんだ!!やるにしてもこんな、漸く精霊を倒して!こんな時に!!』

 

 

 

 

 

 

『……未来視に近いものを持っている君を暗殺することは、ほぼ不可能に近い。そもそも気取られる事さえ避けるべきことだったが、それさえも困難だった』

 

 

 

『…………』

 

 

 

『だから、僕は最初からそれを諦めていた。僕が決意すれば未来が確定し、それを君は察知してしまうから』

 

 

『ごほっ……』

 

 

『敢えて未来を不確定にした。否、未来を君自身に委ねた。"背後に3歩後退した後、左手で髪を掻き上げ、笑みを浮かべる"。この条件を君が満たした瞬間に、戦闘中であろうと人前であろうと必ず君を殺す。そう条件付けた。これであれば未来は確定しない。観測者である君自身の行動次第で生死が決まるのだから、直前まで君には予知が出来ない』

 

 

『う、ぐっ……』

 

 

『――謝りはしない、これは僕自身の決断と責任だ。君をここまで生かしてしまった僕がやらなければならないと、ずっと考えていた』

 

 

『……私は、まだ、死ぬ訳には』

 

 

『いや、ここで終わりだよ、ノルア。ここで終わらせる。これ以上に君を苦しませるつもりもない。……君を救う方法はない。だからこれで、本当に最後だ』

 

 

『っ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………っ!?っ!!??」

 

 

 

 

 

 時間にして僅か数秒。

 

 けれど完全に止まっていた呼吸、そして思考。

 

 世界に色が取り戻される。

 

 

 

「かはっ、はっ、はっ、はっ……い、今の、は……!?」

 

 

 

 

 目の前から消える白い炎。

 いつものように、それが見えているのは自分だけ。

 

 周囲の人々は変わらず歩みを進め、アミッドだけが孤独に立つ。

 

 

 

「ノルア………ノルア!!!」

 

 

 

「「「?」」」

 

 

 

「アミッド?」

 

 

 

 掻き消えた炎の先に、彼女の姿はまだあった。それこそつい先程に幻視した光景の中で彼女を殺した、フィン・ディムナと何かを話している姿が。

 

 

 まだ届く。

 

 まだ手が届く。

 

 懸命に走り、人を掻き分け、大声を出す。

 

 

 

「ノルア!!」

 

 

「っ!?ア、アミッド?どうしたのですか?何をそんなに取り乱して……」

 

 

「行かせません!!」

 

 

「え?」

 

 

「貴女を絶対に!!この遠征には行かせません!!」

 

 

「!?」

 

 

「な、何を言って……」

 

 

 

 彼女にしてみれば困惑するのは当然だ、訳が分からないといったその様子も妥当なものだ。

 それこそつい先程まで渋々といった様子でも認めてくれて、別れの挨拶までしたというのに。突然にこうして追いかけて来たと思ったら、とんでもない勢いで抱きついて来て、絶対に行かせないと言い始めたのだから。

 

 ……それでも、アミッドは絶対にその手を離すつもりはなかった。

 

 仮にあれが本当にただの幻想でしかなかったとしても、目の前の大切な人が死ぬ可能性があると分かってしまったから。実感の無かった事実に、実感が伴ってしまったから。絶対にそんなことは認められなかった。

 

 

「"勇者"、申し訳ありませんがノルアは連れて帰ります。今回の遠征には参加させません」

 

「ア、アミッド、もう少し説明を……」

 

「説明というか、これは既に正式に契約を取り交わしているものだ。君の独断で判断出来ることではないよ、アミッド」

 

 

 

「そんなこと知りません!!!!」

 

 

 

「「っ」」

 

 

 

「とにかく!!絶対に!!絶対にノルアは行かせません!!これは絶対です!!それでも彼女を連れて行くというのなら、私は今後2度とロキ・ファミリアの治療には参加しません!!!」

 

 

「ア、アミッド……」

 

 

「……」

 

 

 遠征の直前、参加者達のモチベーションにも影響するこの瞬間。あのアミッド・テアサナーレがこのような言葉を発したという事実はあまりにも大きく、動揺が次第に広がっていく。

 それはつい先程にアミッドからポーションを手渡されたレフィーヤでさえそうだ。どう見ても乱心しているようにしか見えない。ノルアだってどうしたら良いものかと戸惑っている。

 

 

 ……一方で、フィンは違った。

 

 

 微かに読み取れる、アミッドからフィンに対する敵意のようなもの。それと同時に立ち位置から分かる、彼女がまるでノルアを自分から守るかのように立ち回っているこの状況。そこから導き出されるのは……

 

 

 

 

 

「……なるほど。この手も駄目だったということかな」

 

 

 

「っ」

 

 

 

 ノルアには聞こえないように呟かれたその一言に、アミッドは確信する。つい先程に自分が見た光景は間違いなく自分が動かなかった場合の未来の姿であり、もしこうしていなければノルアは間違いなく殺されていたということを。

 

 アミッドにしては珍しい怒りの表情、普段とは異なる質の魔力が発散される。

 

 その気になれば目の前の"勇者"はアミッドもノルアも容易く屠ることが出来る存在である。それこそ実際にダンジョンの中でノルアを殺害していたのだから、今この瞬間だって行動に起こすこと自体は出来るのだろうが……

 

 

 

「なんだ、結局止めるのか。訳の分からん女だな、お前は」

 

 

「っ、輝夜さん……」

 

 

 

「……もう素性を誤魔化さなくていいのかい?大和竜胆」

 

「まあ無理があるからな。もう少し隠しておきたいのは事実だが、このお転婆共の世話をするには目立ち過ぎる」

 

「僕としては困らされる事ばかりだけどね。君が生き返った事も含めて」

 

「ん?……ああ、なるほど。そう誤解されていたか」

 

 

 何処からともなく現れたLv.6が、ノルアを隠すアミッドを更に隠すようにして立ち塞がる。彼女がこの場に居ることをアミッドは当然ながら知らなかったけれど、居て欲しいとは思っていた。そしてどうやらその願いは叶ったようだ。

 

 彼女は自分の意思で導かない、ただこちらの意思は尊重してくれる。アミッドはノルアを行かせないと決意した、決断した、これはこれまでとは違う堅いものだ。故に彼女は手を貸してくれる。もちろんノルアがより強い意志を持って行きたいと言えばまた変わるだろうけれど……

 

 

「1つ訂正しておくぞ、勇者。私は蘇ったのではなく、生き残ったんだ。この馬鹿の献身でな」

 

「生き残った?……あの状況で?」

 

「信じられんならそれでいい。……さてノルア、お前の相方はこう言っているが。お前自身はどうする?」

 

「わ、私は……」

 

「説得するならお前がしろ。まあ今回ばかりは難しそうな気もするがな」

 

「……」

 

 

 ああ、そんなことはノルアにだって分かる。彼女に何が起きたかは分からないし、原因も思い当たらない。ただフィンにここまで言い放ったアミッドを説得出来るような言葉は思い付かないし、無理矢理に気絶させるなんてことも輝夜が許さないだろう。

 

 ……諦めるしかない。

 

 何より、あのアミッドがここまで強く自己主張をしたのだ。それを無碍にすることなど出来ない。

 

 

「はぁ……地理焼却(Fomalhaut)」

 

 

「!」

 

 

 ノルアは全力を込めた白い炎を自身の頭上に打ち上げる。花火の如く爆散したそれは、しかしむしろその騒動を鎮静化させる。どころか景気付けを装って。

 

 

「……申し訳ありません、フィンさん。実のところ最近かなり体調が優れなくて。なんとか今日まで隠していたのですが、つい先程アミッドにバレてしまったようです。急な話ですが、メンバーから外して頂けないでしょうか」

 

 

「……うん、流石に体調不良者を連れて深層には望めない。その辞退を受け入れよう。君の埋め合わせはさっきレフィーヤが受け取った回復薬類で良しとするけれど、次からはもう少し早めに教えて貰いたいところかな」

 

 

「はい、本当に申し訳ありませんでした」

 

 

「っ」

 

 

 それは必要な建前。アミッドが発した言葉に対して、実のところその原因はフィンではなくノルアにあるという。

 もちろんそれは自己犠牲ではあるし、アミッドを守るための行動でもあるけれど、同時に遠征を失敗させたくない、怪我人を出したくないという医療師としての行動でもあった。

 

 

「……アミッド、これだけは誤解しないで欲しい。全ては僕の独断だ」

 

「……分かっています」

 

 

 一方で、この場におけるアミッドは医療師ではなく。ただ家族の身を案じる1人の人間であったのだが。

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