炎導に惹かれて   作:ねをんゆう

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03.彼女の評判

次の日、アミッドは普段通り店の番をしていた。

普通ならば他の眷属がすれば良い仕事ではあるのだが、アミッドはこういった仕事も嫌いではない。特に今日はロキ・ファミリアが冒険者依頼で注文した泉水を持ってくると聞いている。……加えて、ノルアの勘が確かならば何かしら吹っ掛けられる様な収穫もあるということだ。そんな交渉を他の団員に任せることなど出来るはずもなく、今日ばかりは店番をする以外に他はなかった。

それ以上にアミッドの力を必要とする患者が居なかったというのも大きいだろうが、だとしても彼女が休みを放り出して代わりに仕事に着いてくれていたことも容易く想像出来る。

 

「いらっしゃいませ、ロキ・ファミリアの皆様」

 

「アミッド久しぶりー!」

 

「本日のご用件は引き受けて頂いた冒険者依頼の件で間違いないでしょうか?」

 

「ええ、そうよ。今は大丈夫?」

 

「カウンターでよろしければ今直ぐにでも」

 

昨晩にノルアが言っていた通りの時間にやって来たのは、ティオネとティオナのアマゾネス姉妹に、"剣姫"として有名なアイズ・ヴァレンシュタイン。そして最近名を上げ始めているエルフのレフィーヤ・ウィリディスの4人。

今回彼等に頼んでいたのは、ダンジョンの深層でしか取ることのできない泉水という液体であり、代わりに報酬として用意したのはいくつもの万能薬だった。それだけで巨大な豪邸を建てられるほどの代物。これでも価値は間違いなく見合っているというのだから、やはり上位の冒険者の関わる案件というのは桁が違うと改めてアミッドは思う。

 

「流石はディアンケヒト・ファミリア、装飾にも拘ってるわね……」

 

「容器1つが変わるだけでも、その商品に付けられる値段は大きく変わります。例えその容器によって高額になったとしても、むしろ売行きは増すそうです。不思議な話ですが」

 

「でも、何となくわかる気がします……欲しくなっちゃいますよね、これ。高級感があると言いますか」

 

ケースに入った万能薬を見て感心している彼等にアミッドが伝えたこの言葉も、全て受け売りである。アミッドに商売を教えたのも、こういった細かい理論を教えてくれたのも、彼女だ。アミッドには理解出来ないことも多いが、結果として数字に出ているだけに今も忘れずに実践している。今やポーションの容器1つにしてもこうして拘っている程だ、そして実際に売上は増えている。

 

「あぁ、そういえばアミッド」

 

「はい?」

 

「実は深層で珍しいドロップアイテムが取れたのよ。良い値を出してくれるなら、ここで換金していくわよ?」

 

「………」

 

「え、なによその微妙な顔」

 

「いえ……なんでもありません。それでアイテムというのは?」

 

手渡されたのは"カドモスの皮膜"と呼ばれる貴重なドロップアイテムだった。加えて品質も状態も良く、これならばアミッドの手に掛かれば、かなり質の良い防具や道具に変えることが出来るだろう。

これほどの素材となれば、価値は相当なものになる。

 

(ああ、これは吹っ掛けられますね)

 

ノルアが言っていた通りだった。

特に相手がティオネだというのが不味い。

これが別の冒険者ならまだしも、彼女は自分のファミリアの団長のためならば遠慮なく額を釣り上げてくる筈だ。それに実際、最初に彼等の足元を見て冒険者依頼を発注したのはディアンケヒト・ファミリアの方。これはもう仕方ないと言えなくもない。

 

「希望の額は如何程ですか?」

 

「1500万ヴァリス!」

 

「ちょ、ちょっとティオネさん!?」

 

「相場はその半分程になると思われますが」

 

「今まで市場に出回っていた物と比べても、例が無いくらい上等な物よ?半端な額で取引なんてしないわ」

 

「………」

 

しかし、そうは言ってもだ。

確かに今のディアンケヒト・ファミリアには十分な蓄えはあるが、その中には彼女が危険な遠征に同行する事で得られているものだってある。いくら蓄えがあるからといって、それを容易く差し出す訳にはいかないだろう。痛み分けで簡単に手を引くことも、出来ることならしたくない。これは本当にアミッドの個人的な思いでしかないのだが。

 

「こちらをご覧下さい」

 

「ん?なによこ……れ……」

 

「過去の"カドモスの皮膜"の取引に関する記録の一覧です。例が無いとは言いますが、12年ほど前に傷一つない最高級の皮膜が1000万ヴァリスで取引されております。この皮膜を1500万ヴァリスと言い張るのは些か無理があるかと」

 

「そ、そんなの昔の話じゃない。問題なのは今の価値で……」

 

「どれほど高く見積もったところで900万ヴァリスが積の山でしょう。しかし今回の件については無理に冒険者依頼を入れ込んでしまった我々にも非があります。1000万ヴァリスでどうでしょうか?」

 

「い、1200万!」

 

「950万」

 

「ほ、ほかのファミリアに売るわよ!?それでもいいの!?」

 

「既にこの資料は伝を使って主要な商業系ファミリアに提供しています。1200万ヴァリスで買い取って下さるファミリアが見つかると良いのですが……」

 

「ぐ、ぐぬぬぬぬ……!!」

 

「もう諦めなよティオネ〜」

 

「じゅ、十分に相場より高いですから……!きっと団長も喜んでくれますって!」

 

「今日のアミッド、強い……」

 

そんな嘘も交えたやりとりの末に、最終的に1050万ヴァリスでこの取引は成立した。ティオネを納得させる為に多少の色を付けた形だ。

……正直アミッドとしても、この素材はどうしたって欲しかった物である。もしここでティオネがまだ勝負に出る様ならば折れるしか無かったが、なんとか勝ち取れて良かったというところだろう。

そうでなくとも十分に譲歩した値段。非難される謂れはなく、決して得をしたとは言い難い。その分はまた別件で依頼を出して良い分というところか。

 

「もう!どうしてそんなに手が回ってるのよ!そんな資料用意してたなんて聞いてないわ!」

 

「あー、そういえばそうだよねー。なんで私達が持って来るもの知ってたのー?」

 

「昨日の今日で知ってる人は居ないはずですけど……」

 

「私の手柄ではありません、ノルアが事前に準備をしてくれていました」

 

「「「っ!」」」

 

その名前に反応したのはレフィーヤ以外の3人だ。きっとレフィーヤはまだノルアに関して殆ど知らないのだろう。会ったことすらないというのは間違いない。

明らかな渋い顔をするティオネに、冷汗をかきながら周りを見渡して彼女の姿を探すアイズ。ティオナも反応に困った様な表情で、アミッドの次の言葉を待っていた。

 

「?あの、ノルアさんって確かディアンケヒト・ファミリアの副団長さんのことですよね?」

 

「はい、レフィーヤさんは顔を合わせたことがないのですね」

 

「え、ええ。ただ治療師としても冒険者としても実力のある人だとリヴェリア様に聞きました。……あの、皆さんどうしたんですか?」

 

1050万ヴァリスを静かに袋に詰め始めたアミッドと、今もこの話が早く終わらないものかと言わんばかりに口を閉じている他の3人。また嫌われているものだなと、アミッドは嘆息する。

だからあまり名前を出したくなかったのだが、彼女の手柄を自分のものにしたくはなかったのだから仕方がない。

 

「彼女は少し特殊な人物でして、苦手に思う方も少なくはないのです」

 

「え、そうなんですか?……アイズさんもですか?」

 

「……昔、すごく叱られて……今も、苦手?」

 

「アイズさんが!?」

 

「あ〜、あたしはなんていうか……ちょっと怖い、かなぁ」

 

「不気味なのよ、何でも知ってるみたいな顔して。目が笑ってないし」

 

アイズはともかく、感覚派の2人が揃ってそう言うということに、レフィーヤも唾を飲み込んで色々と悪い想像を膨らませる。

……こんなのももう、いつものことだ。

いつものことにしたくなかったのに、なってしまった。

 

「悪い人ではありません」

 

「それはまあ、分かるけどさぁ」

 

「ただ勘がいいだけです、勇者と同じで」

 

「アレを団長と一緒にしたくないんだけど……」

 

「叱るのも相手のためです」

 

「うっ」

 

「……それに」

 

私だけは知っている。

私だけは理解している。

彼女の良さを。

彼女の性格を。

 

「私はノルアにも、友人と呼べる人間が出来て欲しいと思っています……」

 

「アミッド……」

 

だからそれを、自分だけのものにしていたくはない。他の人たちにも知って欲しい。理解して欲しい。容姿や雰囲気に惑わされることなく、彼女の本当を見て欲しい。アミッドはそう思っている。

 

「……まあ、努力はするわ」

 

「ティオネさん……」

 

「団長が言ってたのよ、次の遠征では"白焔(レフ・フローガ)"をどうしても連れて行くつもりだって。遠征に同行を願う相手に苦手意識持ってるとか、笑えないでしょ」

 

「わ、私も……叱られない様に、頑張る……うん」

 

「あたしも、うん、今度声掛けてみる……!」

 

これで少しは状況が良くなるだろうか?

これで少しは彼女を見る目は変わるだろうか?

分からない。

分からないが……少なくとも、今日までは同じことをしても何も変わらなかったというのが、間違えようのない事実だった。

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