作者はもう驚いたり震えたりしません。
……いや、やっぱ嘘です(ガクブル)
璃月港では、逃げ惑う人々と慌ただしく魔物の迎撃へと向かう千岩軍が入り乱れていた。
日は限りなく傾き、あと少しもすれば璃月には夜が訪れる。
北の方角からやってきていた雨雲は間もなく璃月港へ訪れ、雨を降らす。
西側、北側の道は魔物によって完全に塞がれ、璃月の民は自宅に籠るか海路を伝って国外へ逃げるかの選択を迫られていた。
突如として始まった二度目の魔物の侵攻は、今度は『逃亡』が目的ではなく、明確な『敵意』を持って襲い掛かってくる。
総ては、一柱の魔神の意思。岩王帝君勢力に二度も敗北を喫し、恨みを募らせた厄災。
生きとし生けるものの精神を狂わせ、操り、傀儡のように手中に収める。傀儡に考える力はあれど、体を動かす権限は剥奪され、自身の秘めたる力を乱暴に使われ、そして捨て駒の如く動かされ散っていく。
その魔神は、『夢』を見ている。
6000年も昔から、『夢』を見続けている。
『夢』を実現させるためであれば、他人の夢を踏みにじり、その『夢』を誰かに強制させることなど平気で行う。
自分の意思で動く駒など信用に値しない。
全て自身で動かしてこそ、動かされてこそ価値がある。
それこそ、ダンタリオンが望んだ『理想』。
支配するすべてが自らの意思によって行動を決定する『理想』の都市。誰が何を見て笑うのか、何を見て失望するのか、何をして喜ぶのか、その全てが自分の手中に収まってこそ、それを人は『支配』と呼ぶ。
彼の『夢』は『支配』。それこそダンタリオンが望む『理想』だ。
「胡桃!」
「こっちは大丈夫! ほんっとーに数が多い……! このままこれが続けば、璃月から魔物が消えちゃうんじゃない!?」
始帰から『夢の魔神』の打倒を頼まれてから三時間ほど。俺たちの魔神探しは難航していた。
層岩巨淵の魔物の逃亡のような生易しいものではなく、明らかに敵意を持った魔物の大軍勢が突如璃月を襲い始めたからである。
しかも、その一体一体が普通の魔物よりも明らかに強くなっており、璃月を守るために戦っている千岩軍も既に何十人もやられてしまっている。
さらに言ってしまえば、数も異常だ。
胡桃が言っている通り、本当に璃月から魔物が消えてしまうのではないかと思うほどの大軍勢。右を見ても左を見ても正面を見てもスライムやヒルチャール、アビスの群れで埋め尽くされていた。
「撃てッ――――!!」
ドン、ドン、と魔物の群れの中に爆発が巻き起こる。一撃で十数体の魔物が吹き飛び、起き上がる個体もいたが命中した魔物の殆どがそのまま倒れて動かなくなる。
後ろを見れば、璃月のオセル防衛戦で見た『帰終機』に木製のタイヤを取り付けた移動式の弩砲を転がす千岩軍の姿が。
そしてその後ろには、凝光と刻晴、北斗と万葉がいた。
よく見れば、帰終機に乗って構えてる人の中に南十字の乗組員もいる。
「本当は既に別の場所へ置いてあったのだけれど、北斗に無理を言って持ってきてもらったわ。
……旅人、甘雨からの伝言よ。
『この襲撃は、まず間違いなく『夢の魔神』の仕業。この戦場のどこかに必ず本体がいる。貴方にはそれを叩いてもらいたい』だそうよ。
ここの魔物たちは私たちに任せて頂戴。これは、貴方にしかできないことよ」
「フン、アンタの強さはこのアタシが保証してやる。
アンタらは少数。アタシらは多数。どっちが誰の相手をするかなんて、明らかだろ?」
「ここは拙者たちに任せるでござる。稲妻でのお主の活躍は未だに脳裏に焼き付いている。
きっとお主なら、またしても魔神を倒すことができるであろう」
「旅人、早く行きなさい。
既に璃月で神の目を持つ人たちも戦っているわ。プレッシャーをかけるわけではないのだけれど、みんな貴方を信じている」
よく周りを見てみれば、千岩軍に交じって行秋や重雲に香菱、辛炎や煙緋などが元素を使って魔物を蹴散らしていた。
水の剣の雨が降り注ぎ、氷の剣が魔物を凍てつかせ、小さな魔神が火を噴きつつ、戦場に激しいリズムが響き渡り、それを彩るように爆炎が吹き荒れる。
「旅人、行こう! 道は私が切り開く!」
「行くぞ空! 鍾離の為にも、璃月の為にも!」
「うん!」
「装填完了! 撃て――――!!」
「邪魔! みんな纏めてあの世行きだね……ッ!! 散!!」
帰終機から放たれた弾が敵を散らし轟音を立てる。
魔物の群れに突っ込む胡桃は槍に炎を纏わせて、先ほどとは比べ物にならない速度で道を一直線に作っていく。
甘雨の話によれば、夢の魔神は自身で戦う術を持っていない。だとするならば、前線に出てくることはまずないだろう。だからと言って一番後ろに待機するのもあり得ない。回り込まれれば背後から討ち取られて終わりだということは夢の魔神も理解しているはずだ。
何せ相手は鍾離先生や久劫を相手に敗北こそしたものの、しぶとく生き残って見せた狡猾な魔神。だから、いるとすればこの軍勢の中心。
「どいたどいたー!!」
生きている魔物も死んでいる魔物も等しくあの世へ送る胡桃の死の突撃が、容赦なく攻めてくる魔物に襲い掛かる。
「いいぞ胡桃! どんどん行けぇー!」
パイモンが空中で手足をバタつかせながら胡桃を応援する。
俺は横から攻撃しようとしてくる魔物を度々いなしながら胡桃の後を付いていく。
――――前方、500mほど先辺りで、魔物たちが何かによって打ち上げられたのが見えた。
「見えた、最後尾だ! 魈、行くぞ」
「承知……」
その言葉と共に面を付けた魈が魔物の群れへ突撃していく。
風の槍が魔物を蹴散らし、血肉と鮮血が舞う。
僕たちの事を認識した最後尾付近の魔物たちの顔が一斉にこちらへ向き、それぞれの武器や元素を翳しながら僕たちへ向かって蹂躙しようと向かってくる。
だけど……
「蹂躙されるのがどちらなのか、分かっていないようだね――――ッ!」
まだ『祓魔彝照』は使わない。あれをこの場で使ってしまえばヤツを倒せなくなってしまうから。だが、僅かな解放程度ならば出来ないことはない。
「ふんッ!!」
自分の体の全てを最大強化させる『祓魔彝照』とは違い、今回は強化の対象を腕のみに限定する。そうすれば『祓魔彝照』には遠く及ばないが少ないリスクで素早く敵を散らせる。
『不倶戴天』を振るえば、斬られた魔物は傷口から凍傷を引き起こし、即死できなくてもやがて死に至る。
僕の氷元素は付着してしまえばそう簡単に溶けはしない。元素反応が起きてももう一度反応を起こせるくらいには残り続ける。
「Uhe!!」
「Gsha……」
「Voe……」
僕の氷と魈の風の影響でだんだんと周囲の気温が下がってくる。僕と魈は動き続けているから平気だが、こちらを認識して害を与えようとしているだけの魔物たちにとってはだんだんと動き辛くなる劣悪な環境。
「ん……?」
一瞬、頬を撫でる極寒の中に炎元素の熱波を感じた。
一度襲い来る魔物を『不倶戴天』をぶん回すことで距離を空け、少しの間できた余裕で辺りを見渡す。
すると、僕たちが目指している璃月港側からこちらの方へ突っ込んでくる炎元素の奔流が見えた。
魔物の軍勢を掻き分けてわざわざ最後尾を目指しに来たのか? だとするならばこの軍勢の大本を叩きに来ようとしている可能性が高い。
しかし、あの炎元素の奔流を生み出している少女が被っているのは、もしや璃月に伝わる葬儀屋のものではないだろうか。あれから何年経ったのかは分からないが、今代の堂主は相当な武力派らしい。
そして、その後ろについているのは――――
「あれは……」
ヤツに支配されかけていた僕の前に出てこようとした甘雨を止めた、異国の旅人。
「あれ……!? 『降魔大聖』と……ら、『羅刹大聖』っ!!?」
「む? 僕の事を知っているのか……?」
「やっと見つけた……! その、体調は大丈夫なんですか?」
何故この少女が僕の存在を知っているのか、とか、この旅人がなぜ僕の事を探していたのか、とか、取り敢えず話したいことは沢山あるが、今はそうも言ってられない。
だが、僕の『彝面』を持っていることから察するに、どうやらこの旅人たちと少なからず意見を交換した方が得策だろう。
「ああ。今は平気だ。あの時は甘雨を助けてくれてありがとう。
だが今は悠長に話している時間はない。異国の旅人よ、戦いながら喋るという器用なことはできるかな……!?」
「はい……! 大丈夫です!」
迫る魔物を『不倶戴天』でぶった切って笑みを浮かべながら旅人にそう問えば、旅人も持っていた剣を構えて頷いた後に魔物に応戦し始めた。
――――『可能性』を感じる。
きっと帰終様なら、彼の事をそう評するだろう。
そういえば第9話での『久劫の設定はどうする』というアンケートの結果ですが、『今のまま小出し程度でいい』という声が多かったので、現状まとめを作ったりはしません。
今は作りませんが、前日譚や後日談などで設定が膨大になってきたらゲームのプロフィールみたいなのを作ろうと思ってます。
という形で収まりました。投票していただいた皆さん、ありがとうございました。