6人目の仙衆夜叉   作:貮式

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今回と次回はちょっと長め。


13.岩神

 ゴオオオオ!!!と凄まじい轟音を上げながら無数の岩の槍が空から降り注いでくる。

 

 

 あんなのが落下してしまえば、璃月など簡単に地下へ埋まってしまうだろう。

 

 

 今の鍾離先生は、少なく見積もってもかつての岩王帝君に匹敵するほど強化されていると言っていい。

 夢の魔神の潜在能力を引き出す力、あれが最大限発動していると考えるならば今の鍾離先生は下手をすれば全盛期より大幅に強化されてしまっている恐れがある。だとすれば、そんな最強生物にどう立ち向かえばいいのか……?

 

 今まで立ち向かってきた敵とは比べ物にならない敵のスケールの大きさに、俺はただ茫然と空を見上げることしかできなかった。

 

 

 

 

「面を寄越せ」

 

 

 

 

 重そうな大剣を片手で振り回して魔物たちを牽制しつつ、久劫はこちらへ空いている片手を伸ばして俺が持っている『彝面』を寄越すように要求してきた。

 

 頭が真っ白になりすぎて一瞬思考が停止しかけたが、久劫の言うことに従って腰につけていた『彝面』を久劫へ手渡した。

 

 

「――これには、『約束』が詰まってる」

 

 

 久劫は『彝面』を一度撫でると、覚悟を決めたように「ふぅー」と息を吐いてから『彝面』を顔へ付けた。

 

 魈が付けている『儺面』が”恐ろしいモノ”を表現しているのであれば、久劫が付けている『彝面』は”勇ましいモノ”になるのだろう。

 

 

 

「決して『契約』ではない、ただ皆と口で交わしただけの『約束』だ。

 仙人だけではない。僕が一般人に扮して街に出かけた時に、当時の民とした全ての『約束』が、これには詰まっている」

 

 

 久劫は、『彝面』を通してどこか遠くを見つめていた。

 

 目の前に広がる絶望でも、海を一望できる()()綺麗な景色でもない。それは、長い年月を生きている人にしか見れない『過去』の情景。きっとそれらは、久劫にとってとても大切な何かなのであろうことはすぐにわかった。

 

 

「『ずっと璃月を守る』。僕はある時小さな女の子とそう『約束』した。

 だが、僕はその『約束』を破った。夢の魔神にしてやられ、『ずっと』守ることができなかった」

 

 

 久劫の体から、次々に力が溢れ出すのが感覚的に分かる。

 

 体の一部が明らかに人ではない何かに変化しだし、纏う力も氷元素の他に見たこともない未知の元素を纏い始める。

 

 

「『約束』は『契約』ではないからと言って、破っていい理由にはならない。

 だから、その『約束』を破ったことが僕が一生抱え続ける『罪』で、僕にはそれを償わなくてはいけない相手が、まだいる」

 

 

 久劫の持つ大剣が、力強く水色に発光し始める。何かを反射しているとか、淡く光っているとか、そんな次元じゃない。

 

 太陽のように激しく光り、まるで早く力を振るう相手を欲しているかのような激情を、久劫の大剣からひしひしと感じる。

 

 『長年愛情を注いできた得物には稀に自我が宿ることがある』。ただの迷信だと思っていた。けれど、目の前のこの光景を見せられては否定など到底できない。

 

 

 

「璃月港は、お前のその崇高な『夢』なんかの為に壊されていい場所じゃない……!!

 

 

 

 

 

 

――――『祓魔彝照』ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 そう唱えるや否や、久劫はその場から跳躍した。踏ん張った地面が軽く陥没を起こすほどの大ジャンプ。

 

 一度の跳躍で何十、何百メートルも飛んだ久劫は、鍾離先生が生み出した岩槍が落下している場所ピッタリの位置で滞空を始めると、稲妻で見た雷電将軍の『無想の一太刀』のような水色の巨大な大剣を横で構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 相当な重量があの空色の大剣にあるのか、それとも体に膨大な負荷がかかっているのか、はたまたそのどちらもか。

 

 

 空で雄たけびを上げながら、久劫は巨大な空色の剣を横薙ぎに一閃して、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――斬ッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てが、横一文字に断ち切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 璃月へと降りかかろうとしていた全ての岩槍が真横にスッパリと断絶され、そして数舜遅れてやってきた力の余波によって断片は跡形もなく消し飛んだ。

 

 

 当然、地上にいる俺たちにもその影響は及び、モンド城をトワリンが襲った時よりも凄まじい暴風が吹き荒れる。

 

 

 砂礫が砂漠のように吹き荒れ、平原に立っていた俺たちは吹き飛ばされてしまいそうになるのを必死で耐える。少し視線を上げてみれば、今の一撃で岩王帝君の硬すぎる鱗もある程度貫けたのか、こちらの方へ向かって落下してくる龍の姿が見えた。

 

 

 

 ドザアアアアと岩王帝君が平原へ墜落し、恐らく帝君の上に乗っていたであろうこの事件の元凶、夢の魔神ダンタリオンも情けない姿で投げ出されていた。

 

 空へ飛びあがっていた久劫が着地し、強化状態を解いたと思えば口から大量の血を噴いて膝をついてしまった。

 

 

「久劫っ!!」

「兄上!」

 

 

 

僕に構うなッ!!

 

 

 

 

 久劫は自身に近寄ろうとした人々全員に聞こえるようにそう叫び、息も絶え絶えになりながら「状況を考えろ」と諭す。

 

 

今は僕より、倒すべき敵がそこにいる……ゼェ、ゼェ、アレをもう一度やられたら、もう防ぐ算段はほぼない。ゴホッゴホッ……ヤツに戦う力は、ゼェ、殆どない……! 岩王帝君が動けないうちに叩かないと、ゼェ、ゼェ、今度こそ終わるぞ……!!

 

 

 その言葉にシンと静まり返った戦場だったが、一人の兵士が「かかれぇぇぇ!」と声を上げたことにより千岩軍が一気にダンタリオンへ突撃していく。

 

 

 

クソッ、クソッ、クソックソックソッ!! どこまでも邪魔をしてくれるなァァァッッ!! 夜叉ァァァァ!! お前ら!! 我を守れェェェッッ!!

 

 

 

 最速、威厳など全くもって感じられない声。

 

 だがその声は戦場で生き残っていた全ての魔物に働きかけ、別の場所にいた魔物も一斉にダンタリオンを守るために立ち塞がった。

 

 

「空! どうしよう……アイツ、すごい重症だぞ!?」

 

「……いや、俺たちは千岩軍に加勢しよう」

 

「どうしてだ!!? あんなに苦しそうなのに放っておけるか!!」

 

「久劫の言う通りだ。ここでダンタリオンを殺せなければ、今度こそ璃月が終わる。それに、久劫には魈がサポートに入ったしね」

 

「えっ、あっ、ホントだ! よし、じゃあオイラたちは向こうに加勢しよう!」

 

 

 パイモンと短い会話を終え、魈に肩を貸されながら歩いていく久劫を横目にダンタリオンを仕留めるべく駆けていく。

 

 ヒルチャールやスライムたちの群れを掻き分けて、奥へ奥へと進む。荘厳な茶色の龍と黒い人影が見えるが、まだまだ距離は詰まらない。前から横から、魔物が次々に湧いて出てきて中々前へ進めないのだ。

 

 

「クソッ……!」

 

 

 いちいちアビスやヒルチャールを相手にしていたらみすみすダンタリオンを逃してしまう。だんだんと苛立ちを募らせながら魔物を斬っていると、

 

 

 

「――――風の赴くままに!」

 

「炭になるがいいッ!!」

 

 

 

 

 目の前の魔物たちが蹴散らされていく。

 

 北斗の乱打撃によって魔物は次々に叩き切られ、万葉の風元素の吸い込み攻撃によってまるで竜巻の如く魔物たちが吸い込まれていく。

 

 

 

「行くでござる旅人! ここは拙者たちが引き受けた!」

 

「さァ、早く行け! アタシたちが魔物を蹴散らす!」

 

 

 

 二人の援護によって暫く前は魔物がいなくなり、俺たちはそこを駆けていく。しかし、またすぐ走れば魔物の群れが命令を守るべく立ちはだかり、足止めを強いられてしまう。

 

 

 

「ロックの時間だぞ!」

 

「炎喰いの刑!」

 

「師匠の技を食らいなさーいっ!」

 

「古華奥義……!!」

 

「妖魔め、立ち去れッ!!」

 

 

 

 だが、更に来てくれた辛炎、煙緋、香菱、行秋、重雲の援護によってさらに道が開けて、どんどんとダンタリオンとの距離も迫ってくる。

 

 

「アタイが最高の音楽で応援してやるぜ――!!」

 

「この場所が無くなると、顧客がいなくなるのでな」

 

「お願い旅人! 璃月を守って!」

 

「空、ここは僕たちに任せてほしい」

 

「さぁ、行け旅人!」

 

 

 五人が一斉に駆けつけてくれたことによって、ダンタリオンを守る魔物の壁はあと僅かになるが、このくらいあとは自分の力で――――

 

 

「我が剣よ、影に従え――――!!」

 

「その命、頂いたわ」

 

「燎原の蝶!!」

 

 

 と思ったが、その前に三つの影が俺たちの前へ割って入り、魔物たちを殲滅していく。雷の影が剣の舞を踊り、必殺の礫が魔物へ炸裂し、炎を纏った幽霊がぶん回される。

 

 

「旅人、敵はすぐそこよ!」

 

「旅人、貴方に託したわ。この璃月を」

 

「璃月がなくなったら、恨むよ?」

 

 

 正面を守る魔物がいなくなったことで横側から補填のための魔物が押し寄せるが、刻晴、凝光、胡桃がそれを許さない。俺たちに近づく魔物は雷の剣と岩の礫と炎の蝶が命を容赦なく刈り取っていく。

 

 

 

 

 

 

 そして、遂にダンタリオンを眼前に捉えることができた。その顔は苛立ちと悔しさが入り混じった表情をしており、歯をむき出しにしてギリギリと歯をこすり合わせる不快な音が響いていた。

 

 

「夢の魔神! お前もここまでだぞ!」

 

「璃月は滅ぼさせない!」

 

 

 

クソが……!! 厄介なのはあの夜叉だけじゃないのか……!! もううんざりだッ!!

 

 

 

 ダンタリオンが続けざまに俺に向かって恨み節を吐いてくるが、そんなことは知ったことではない。これから死に行く魔神の言葉など、聞くに堪えない戯言なのだから。

 

 

 

畜生、折角ここまで、来たというのに……ッ!!

 

 

 

 動かない岩王帝君、悔しそうに歯を食いしばるダンタリオン。

 

 俺はダンタリオンへ向けて剣を向け、その首を切り落とすために剣を振ろうとして――――

 

 

 

 

 

 

 

くくっ、なぁーんてな。『飛べ』

 

 

 

 

 

 

 その刃は空を切った。

 

 ダンタリオンがいた位置には既に空気しかなく、岩王帝君に乗ったダンタリオンは既に空へ飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

くははははははははっっ!! 希望に満ちた空気から絶望へ変わる瞬間はどうだ!!? さぁ、帝君。このまだ勝てると思い込んでいる哀れな虫けら共に制裁を加えてやろう

 

 

 

 空を飛んでいる岩王帝君の周囲に、遠くから見ても凝光の飛ばす礫ほどの大きさの岩が漂い始める。

 

 その光景を見て恐怖する者、逃げ出す者、果敢に立ち向かおうとする者、実に様々だが、そこに共通してあったのは『絶望』だった。

 

 パイモンの顔も真っ青を通り越して真っ白になりかけているし、かくいう俺も心の中で呟いたつもりが「まずい……!」と声に出てしまっていた。

 

 

さぁ、『やれ』

 

 

 ダンタリオンがそう呟くや否や、漂っていた無数の礫……もはや岩石と言って差し支えない大きさのものが俺らの元へ殺到した。

 

 凄まじい勢いで飛来した岩石は俺たち人間なんて簡単に数人は潰せる大きさで、直撃してしまった人たちはもう既に帰らぬ人になっているのは明らかだった。

 

 

 魔物ではなく、人々が蹂躙されていく。

 

 

「ぐぅぅぅぅぅぅっ……!!!」

 

 

 飛んできた岩石の一つを力ずくで止める。だが、その圧倒的な速度と重量に耐えきれなくなり、弾けなかった岩石は後ろにいた千岩軍へと飛んでいく。

 

 

「危ないぞ!!」

 

 

 パイモンが叫んだが、兵士とて人間。すぐに行動できるわけもない。飛来する岩石を直視したまま、岩石に潰される――――前に、魈が割って入ったことで岩石は粉々に砕け散り、千岩軍の人たちはギリギリ難を逃れることができた。

 

 

「魈、何かアイツを止める方法は――「ない」……え?」

 

 

「兄上も動けず、岩王帝君が復活してしまった今、我々にできることはもうない。

 仙人を呼んで帰終機を動かそうが、無駄だ。岩王帝君はオセルとは違って小柄で動きが速い。撃っても当たらん。

 

 

 ……認めたくはないが、ここが璃月の――――終焉だ」

 

「そ、そんな……で、でも、それじゃあ……」

 

「我々は国外へ逃亡するか、ヤツの支配下に置かれるか、璃月と共に土に還るか。この選択肢しか、既に残されてない」

 

 

 飛んでくる岩々を破壊しながら、魈は淡々と告げていく。しかし、その声はどこか納得のいっていない、悲しさや悔しさが滲んだ声だった。

 

 久劫の方を見る。先ほどの一撃で殆どの力を使ってしまったのだろう。少し時間が経っているにも関わらず息は絶え絶えで、咳き込んでいる。あの状態で戦えという方が困難であることは分かり切っていた。

 

 

 

くはははは!! そこの夜叉が言う通り。もう我の勝利は確実となった……!! ならば、最後に一つ。勝利の勝鬨を上げなければなァ?

 

 

 

 魈の言葉に反応したダンタリオンが、岩王帝君に乗って天高く上昇していく。雲に届くほど高く飛んで行ったダンタリオンを見上げていると、だんだんと黒い何かが大きくなっていくのが分かった。

 

 

 

「お、おい、あれってまさか……」

 

「あれ全部……岩王帝君が生み出した……岩!?」

 

 

 

 

 頭上に広がるデカい何か。それは璃月港どころかその周辺すらも呑み込み、落下してしまえば隣国のスメールやモンドなどにも莫大な被害が出ることが予想できる、巨大すぎる岩。

 

 それはもはや『槍』と形容するよりも『島』と形容した方が良いほどには巨大だった。

 

 

 

 

 

くははははは!! じゃあな『契約』の璃月。これからは、『理想』の時代だ

 

 

 

 

 ダンタリオンが、岩王帝君に命令してその巨大な岩を落下させようとしたその時、口から血反吐を吐きながら、久劫が「まだ、策はある」と俺の肩を強く握ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「最悪、ゴフッ……僕が死ぬかもしれないけど……やるしか、ない……!!」

 

「で、でも! それじゃあ!」

 

 

 

「僕の、命一つで! 璃月を救えるのなら……それは、本望、だ」

 

 

 

 

 そう語る久劫の瞳に、躊躇などという言葉は存在しなかった。




次回最終話、その次エピローグ。


甘雨ヒロインなのに全然出てこないじゃんって?

……メインヒロインは、最後に全部かっさらっていくのですよ。
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