あとY〇utubeのおすすめで何故かリークが出てきて萎えてます。サムネでネタバレすんのやめてくれ……
昼下がりの家に、一人の来訪者がやってきた。
甘雨の仕事部屋の整理整頓や掃除がある程度終わり、ようやく床の木目が見え始めたあたり。コンコンと扉を叩く音が聞こえた僕は「はーい」と答えながら戸を開けた。
「やっほ! 元気にしてた?」
「これは、堂……胡桃」
「ふふん、よろしい。あっ、そうそう、悪いんだけど今時間ある……?」
戸の前に立っていたのは『往生堂』の堂主、胡桃。
あの事件以降、空と共に冒険へ何度か共に出かけたことがあり、つい先日までは敬語で恭しい態度だったが、空曰くだんだんと普通の胡桃になっているとのこと。……いや、これでまだ『普通』じゃないって一体……?
とりあえず時間は空いていたので部屋へ通し、来客用のお茶を椅子へ座った胡桃の前のテーブルへ出した。
「ほうほう……ここが二人の愛の巣……」
「僕と甘雨はまだそんな関係じゃないが」
「『まだ』でしょ~? 今後その気になるのが透けて見えるねぇ」
「うっ……と、ところで、今日はなぜウチに?」
痛いところを突かれた、というよりかは心のどこかで甘雨にそのような劣情を抱いてしまっていることに若干の自己嫌悪に陥ったので話題を逸らす。
胡桃は目を細めてニヤニヤと笑いながらも、今日ここへ訪ねて来た理由を話してくれた。
「実はね、今の往生堂って人手が足りてないんだよね~。
層岩巨淵の失業に追い打ちをかける岩神死亡によって璃月経済の悪化、それによる自殺事件や殺人事件の横行、渦の魔神襲来、加えて今度は夢の魔神まで襲来してきた。
それらの事件によって死亡者が大勢出ちゃってね……私としてはお客が増えていいんだけど、それでも人手が足りなくて葬儀もままならなくて。
追悼式とかもやったけど、やっぱり家族としては個人のお別れもしたいみたいでさ……」
今の璃月は、表にはあまりなっていないだけで過去に例を見ない程に衰弱してしまっているという。
現在の七星である凝光や刻晴という人たちの働きによってそんな雰囲気は出ていないが、いつ人々が経済状況の安定している国へ逃げ出すか分からない、というのが現状であった。
そして、それらの事件で増えた死人を供養するために、今璃月の葬儀屋はどこもかしこも大忙しなのだという。
中でも璃月最大手の往生堂は引っ張りだこらしく、毎日毎日働きづめで職員たちの方が本格的に棺桶に入ってしまいそうな死屍累々の過酷な現場になり果てているらしい。
「そこでっ!! 甘雨ちゃんのヒモになってしまった百人力仙人であるあなたをっ! 往生堂へスカウトしに来たわけ!」
「ふむ……断る」
「いやいやぁ、そんな簡単に引き受けない方が……え゛っ!!?」
まさか僕に断られる想定をしていなかったというのか……普通に今の話聞いてたら断ると思うのだが。
というか普通にヒモ扱いされたのが心に来てる。甘雨には「家の事をしてくださっているのに、お仕事なんてさせられません!」と言われたが、いざ他人に面と向かって言われると来るものがある。
それに……
「今、僕にいろんな場所からスカウトが来ていてな。
万民堂、不卜廬、飛雲商会、陰陽師、法律家、戦艦の船員、ろっくみゅーじしゃん?にゆーへんの秘書?っていうのと、手合わせの相手?ってのもあったな」
「多すぎでしょ! 下手したら私より引っ張りだこ……?」
「そのどれもが色々優遇してくれたり、サービスするとか言ってくれたりしてな。
僕としては正直どれでもいいんだが、出来れば甘雨にあまり知られたくないというか……」
(穏やかな顔して、夜叉を尻に敷き始めてるの……? あの人……)
やはりというべきか、僕の所へ来た人たちは皆あの戦場にいた神の目を持った人たちで、僕の戦いっぷりや夜叉の身体能力を間近で見ていた人が、それを見込んで仕事内容を提示してくることが多かった。
万民堂は普通に僕の手料理のおいしさを見込んでの事だったので素直にうれしかったが。
ろっくみゅーじしゃん?に至っては、彼女が演奏者だというので僕が楽器の類は扱え無いということを話せば、「アンタと一緒にいればサイッコーにロックになれるから十分だぜ!」と返ってきて訳が分からなくなった。僕は飾りなのか。
うーむ。あの中だとやはり一番僕にとって都合がいいのは『手合わせの相手』というヤツだろう。
提案してきた橙色の髪の男はなかなかに実力のありそうな人物だったし、何より彼は「鍾離先生の伝手」と言っていた。帝君の知り合いならば信頼できるだろうし、何より夜叉とはいえ適度な運動は必要だ。
いざという時に動けなければ甘雨も空も守れない。万民堂で腕を磨きたいのもあるが、やはり手合わせが一番好都合だろう。
「んー、じゃあさ」
と、それまで腕を組んでうんうんと考えていた胡桃が、妙案を思いついたとばかりにニヤリと笑い、
「往生堂って、客卿として鍾離先生と始帰さんを迎えているんだけど、あなたが来てくれたら、きっと喜ぶだろうな~?」
「ふむ、して、往生堂は幾らほどの給金が出る?」
「うへへ……チョロ……えっとねー! だいたい時給1200モラくらいかなー! あなたなら特別配給でボーナスも弾んじゃおうかなーっ!!」
け、決して二人の喜ぶ顔がみたいだとか、そんな理由では、だ、断じてない。
いや、あの二人が夫婦でほっこりしている所はいつ見ても心が和むから完全にないと言えばうそになるが、決してそれだけが理由ではない!
……しかし、甘雨に隠し事はあまりしたくはないな。
こういうお金とか将来に関わることはちゃんと二人で話し合って決めた方が良いだろう。
「分かった。とりあえず他の候補は後で断りに行く。往生堂で務める方向で考えよう」
「!! 本当に!?」
「あぁ。だが、少しだけ時間が欲しい。これは、僕だけじゃなくて甘雨と二人で決めるべき問題だと思うから」
「……っ、そ、そっか。そうだよね。流石に二人で考えないとね!」
じゃあ、返事待ってるよと言い残し、胡桃はこの後すぐに入っているらしい仕事のために少し慌てながら家を後にしていった。
台風のように騒がしく、すぐに去って行ってしまう人物
きっと彼女と時間を共にする人は、それは忙しくてたまらないだろうなと、そう思った。
(本人に会ってないのに、なんだか負けちゃった気分だなー)
往生堂七十七代目堂主、胡桃には人には言えない秘密がある。
皆が命がけで璃月を守るために戦っている最中、とある一人の人物へ一目惚れしてしまったのだ。
決してあの現場だったから、という訳ではなく、胡桃は『彼』とある旅人を通して交流するたびにその好意は膨れがって行った。
しかし、現実というのはいつも非情である。
彼には既に将来を約束したも同然な伴侶がおり、しかも人間では考えつかないような長い年月を共に過ごしてきているという。
(やっぱり一週間程度じゃ、数百年以上も一緒にいた半奥さんには勝てないよね)
あわよくば、とは思っていた。
伴侶の人には悪いが、横から掻っ攫うことができればどんなに良いかと胡桃は思ったが、そんな胡桃の妄想を蹴散らすように彼は毅然とした態度で「彼女と二人で決める」と言った。
自分の事など眼中にまるでない、伴侶との将来しか見据えていないその瞳に、胡桃のその浅はかな考えなどどこかへ飛んで行ってしまった。
(けど、実際に人手不足だし、入ってくれたら入ってくれたでありがたいかなー)
で、あるならば。
彼と親密な関係になるのではなく、彼の友人として、二人の今後を見守っていくのも一種の『愛』ではないかと自分に言い聞かせながら、胡桃は璃月の街を歩く。
――――昔、出鱈目なほどに強い妖魔を払った夜叉に、儂らの祖先が求婚したことがあった。
だが、その夜叉には既に意中の人がおったらしくな。その願いは叶わなかった。
そこから暫くして、また夜叉に求婚した先祖がいたが、これもまた叶わなかった。
また、また、それを何度か繰り返し、儂らの記録にその夜叉が現れることはなくなった。
ざっと、1000年くらい前かのぅ。往生堂の女傑共は、皆同じ夜叉に恋をし続けてきたんじゃ。
ある一人が、運よく夜叉の名前を聞くことができた。
夜叉の尊称は『羅刹大聖』。水色の面に、水色の大剣。絹のように美しい白髪を持った、心優しい夜叉じゃと。
もしかしたら、桃も会えるかもしれんな。
胡桃は過去に祖父から聞いた話を思い出し、ふふっと笑みが零れた。
(ご先祖様、また負けちゃったよ……)
往生堂の女性は、またしても一人の仙女に勝つことはできなかった。
本編『訪招凞王の章 第一幕 11.強襲』の久劫と胡桃の初対面の地味ぃな伏線の回収。
過去から久劫と交流があったので、久劫も往生堂の帽子では?となった(この小説ではあの帽子は代々受け継がれているものとしてます)し、胡桃も特徴から名前を導き出せたって感じですね。
誤字報告や設定のガバなど、ご指摘がありましたらどんどんご報告いただけると幸いです。
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