え、仙人関係ないじゃんって?
……そうだね。
1.咆哮
――層岩巨淵・地下の坑道
近年、異変が続いているこの地では、人の姿は確認できない。
かつては大勢の労働者がこの地で働き、賃金を貰っていたが、今は見る影すらなくなっていた。
張り巡らされた坑道の至る所に『遺跡サーペント』と呼ばれる遺跡機械が蔓延り、整備されていた坑道は彼らが掘り進めたであろう横穴や洞穴で滅茶苦茶になってしまっている。
キュイィィィィィン、と遺跡機械特有の音が無音の坑道に鳴り響く。
掘り出した正体不明のものをサーチし、自身に害をなすものであれば排除する。それが彼らに備わっている『基本機能』であり、創造者から放たれた『命令』であるからだ。
どくん。と、掘り出したものから心臓の鼓動が検出された。
生物なのだとしたら、排除対象の可能性があるため、遺跡サーペントはすぐさま迎撃モードに切り替わった。
心臓の拍動が微かに聞こえるだけで、それが起き上がることはない。
遺跡サーペントがそれを排除対象から外したその時、からん、とそれを掘り出した場所から何かが落ちてきた。それは、岩に埋まっていたというのに水色に発光する大剣で、遺跡サーペントがそれを認識して観察を始めたその瞬間。
バチバチッ……ガコンッ……
正十二面体のようなキューブで構成された遺跡サーペントが、突如バラバラになった。体全体に張り巡らされていた回路が絶たれ、ショートして電気を放つ。巨体が崩れ落ち、砂埃を上げる。
無論、自然現象な訳がない。それをやったのは、遺跡サーペントが掘り出した謎の人物であった。
右手には後から落下してきた水色に発光する大剣が握られており、その手は、否、全身は微かに震えていた。
「アア……アアアアァアアァアァァァアッ!!
アアアァアアァァァアアァァアアァァアアッッッッ!!」
狂った男の声が、層岩巨淵の坑道に響き渡る。
その声は坑道に存在するすべての魔物をおびき寄せてしまい、彼のいる場所へと漏れなくすべてが殺到した。
仲間の停止を認識した遺跡機械が、層岩巨淵に住み着き始めていたヒルチャールが、元素結晶で生まれたスライムが、深淵より現れたアビスが。
彼を危険人物とみなし、排除しようと襲い掛かった。
そして、数分もしないうちに、彼がいた場所には機械の残骸と死体の山が築かれた。
ただただ『契約』に従い敵を穿つ。例え自身の身が滅びようとも、力が枯れ果てても、『神』に課せられた『契約』だけが残ってしまっている彼に、歯止めなどは存在しなかった。
「アア……アアアァアァァァアア……」
フォンテーヌに伝わる空想上の魔物、『ゾンビ』のような声と挙動をしながら、彼は歩いていく。目的地などはもちろんない。
機械のように歩き続け、そしてその道中に『契約』の内容に合致する魔物がいれば、殺戮の限りを尽くす。
それが、主への恩を返す事に繋がり、自身への贖罪になるのだから。
諸悪を滅するために岩王帝君が招集した5人の『仙衆夜叉』。表向きにはそういわれているが、実際のところは違う。
降魔大聖はその役職から、滅多に人前へ姿を現さなかった為、一般的な認知度は低い傾向にある。しかし、伝承に伝わっているために「名前くらいなら知っている」という璃月人は多いだろう。
しかし彼は……『羅刹大聖』は違う。
夜叉の中でも飛びぬけて魔神に迫る実力があったために、俺が頼んで
魔神の怨嗟は、勿論封印された魔神本体から発せられる。離れれば霧散して元の強さほどではなくなるが、それが本体付近だとそうもいかなくなる。何せ、本体が真下に眠っているのだからな。
人々を安心させるため、俺は敢えて彼の存在を公にはしなかった。魔神の残滓が特に強い場所がある、なんて伝えれば、人々はそれらにおびえて暮らさなくてはならないからな。
しかし、今の降魔大聖を見てもらえれば分かるだろう。
魔神の怨嗟というものは、たとえ散らばっていても量を増やせば巨大になる。それに呑まれれば、恐怖に支配され、発狂し、悲惨な運命を辿る。
それが、魔神の本体付近から発せられた妖魔だというのなら尚のことだ。
……俺は、彼の最期を見ることすらできなかった。
ある日、今でいう層岩巨淵付近で封印した魔神の怨嗟によって生じた妖魔を退治するために向かった彼は、そのまま戻ってこなかった。
彼が向かった場所へ行けば、そこには激しい戦闘の痕跡が残っていた。
山は削れ、地面は抉れ、草木に鮮血が舞っていた。
その場に残っていたのは、薄れゆく
「彼は……きっと俺を許してはくれないだろう。
……すまないなパイモン。少しばかり暗い話になってしまった」
「鍾離……いや、いいんだ! オイラは気にしてないからな! オイラがこのお面について聞いちゃったからでもあるしな!」
「そう言ってもらえると助かる」
稲妻での冒険が終わり、間もなく開催される海灯祭に行くために璃月へ赴き、時間があるからと璃月を歩き回っていた際、層岩巨淵にてたまたま発見した、土に埋もれた水色のお面。
俺はそれから魈がつけていたお面と似たものを感じ、すぐに魈を呼んだが、彼はこのお面を見た途端に急に険しい顔つきになり、
『我ではなく、他を当たれ。
とすぐに帰ってしまった。
基本的に簡単な質疑応答なら許してくれる魈だが、こんなに一方的に突っぱねられるのは珍しかったため、仕方がなく絶雲の間にいる留雲借風真君に聞くか、恐らく璃月港にいるであろう鍾離に聞こうかパイモンと相談した結果、話の長さ的に鍾離の方がいいだろうという結論に至り、今の話を聞いたというわけだ。
「ところで、一つ提案なのだが……」
鍾離の視線が俺とパイモンから、手に持った水色のお面へと移る。その行動から、これから鍾離が言おうとしていることがある程度想像できた。
「この『
「やっぱり」
「ははっ。やはり気付かれていたか。
……『彝』という字には、『人の常に守るべき不変の道』という意味がある。俺はすでに岩王帝君ではない。これを持つべきはただの一般人の俺より、お前の方が相応しい。それに、なんとなくだが、そのお面が近い未来、お前の助けとなる場面が来るだろうという予感がする。ははっ、何、年寄りの戯言だ。気にしないでもらっても構わない。
ふむ? すまない旅人。そろそろ時間のようだ。俺はこれで失礼する」
往生堂の制服を着た女性に耳打ちをされて、鍾離はその人とともに去っていく。
残されたのは、俺とパイモンと、三杯酔のテーブルに残された水色の『彝面』のみ。
なんだか重い話になってしまったな、とパイモンと顔を見合わせ、鍾離から託された彝面をバッグに仕舞い、気分転換に璃月港をぶらぶらと歩くことにした。
どこかで、誰かが叫んだような気がした。
遺跡サーペントが蔓延ってるとか言ってたけど、層岩巨淵で遺跡サーペントがフィールドボスとして実装されてもこの小説ではこのままでいきます。
フィールドボスがそこら中にいるとか、それはそれでカオスだな()