火蓋が切られた対跋掣防衛戦を、魈と二人家から眺める。
万が一人間が跋掣を止めきれなかったときに備え、それぞれ不倶戴天と和璞鳶を壁へと立てかけておきながら。
跋掣に対して先手をとれたのは評価点だろう。魔神に先手を取られればいくら策を積もうが人間に勝ち筋はなくなる。波に呑まれて、璃月がそのまま海底都市へ成るだけだ。
群玉閣からは凝光殿の岩元素の攻撃が、弧雲閣の島々と南十字船隊から改良型帰終機の砲撃が、それぞれ出鼻をくじかれた跋掣へ襲い掛かる。
旦那を再度封印した憎き天空要塞である群玉閣の姿を確認した跋掣は、怒りに身を任せて璃月へその姿を現した。
跋掣の怒りを利用した初動の集中砲火は、悪くない策ではあるだろう。
結果として跋掣を怯ませることに成功しているのだから、効果は絶大だったと言える。
……だが、その程度で倒れてくれるほど魔神というものは甘くはない。
帰終機の装填の隙を見計らって、跋掣が身じろぎを始める。反撃に出ようとしている合図だ。装填が完了した帰終機が続けて弾を放つが、全ての砲台から放たれた集中攻撃ではないために跋掣を止めるには叶わなかった。
――――グオオオオオオオオオオッッ!!!
耳を劈くような咆哮が轟き、跋掣の周りを囲むように20メートルは超える波の壁がせりあがった。
果たして、あの大津波を防ぐ手立てが人間側にあるのだろうか。はっきり言って、僕にはないと断言できる。それこそ、仙人の力でも使わない限りあれを止めることはほぼ不可能だ。
だから凝光殿は、そのために七七を埠頭の警戒に当たらせた。
凝光殿からすれば、七七は甘雨のように仙人であって仙人に非ずの半仙の存在だ。
しかも、おあつらえ向きに氷元素の神の目を保有し、七七が元素爆発を最大威力で解放した時の氷の威力は絶大。周囲一帯が瞬く間に凍り付き、味方には回復の希望を与え、敵には凍死の絶望を与える。
恐らく凝光殿は、空との冒険で七七と行動を共にした際にそれを知った。彼女としては、僕や魈と言った完全なる仙人ではない七七の存在はどうしても必要だったと言えよう。
反撃される前に倒すのが七星にとって一番最良の結果であることに間違いはない。しかし、そんなことは万に一つもあり得ない。
案の定、跋掣は反撃に出て、今まさに巨大な津波が璃月を襲おうとしている。
その防御を、凝光殿は七七一人に任せたのだ。
持てる戦力は全て跋掣にぶつけ、防ぐことが出来そうな人物のみを守護に回す。確かに、何もできない人物をここに置いていくよりかは理にかなっているが、まだ幼い七七一人に璃月の命運を託すなど、僕には正気の沙汰とは思えない。
けれど、七七は一人でやろうとしている。
基本的に、キョンシーとなってしまった七七は与えられた勅令は自身で解除することはできない。
ただ与えられた役割を「はい」と言って受け、それが終わるまでその命令を遂行し続ける。それが、子供ながらにして仙人の力を一身に受けてしまった代償であり、七七を今の時代まで生かす活力なのだ。
一般人が見れば、この世の終わりのような光景が広がっていることだろう。
激しいという言葉では足りない雷雨がバタバタと家の屋根や壁に打ち付け、窓の外を見れば凄まじく高い津波が街へ向かって進んで生きているのだから。
「兄上、どうする?」
「僕たちは手を出さないと決めた。七七を信じるしかない。それでもダメだったら、その時は出る他ない」
津波ばかりに目が行っていたが、跋掣の方でも新たな動きが幾つもあった。
攻撃をした直後の硬直を好機と見たのか、それとも本体を倒せば津波も収まると思ったのか、空が剣を持って群玉閣から跋掣へ向かって飛び出した。
あまりにも無謀。
空は未だその底力を計り知れない異邦人だ。しかし、出力できる力にリミッターがかかっているらしく、持てる力を全ては出せない。
だが、力を持っていた頃の感覚というものは力自体にリミッターがかかっていたとしても消えるわけではない。空は、それを忘れていたのだろう。
――――ドォォォォォォォン!!
跋掣の口から放たれた極太のブレスが空を真正面から吹き飛ばし、弧雲閣の山へぶつかる。あっという間に戦闘不能に陥った空は同じく群玉閣から飛び出してきた誰かに抱えられて弧雲閣へと消えていった。
背丈と体格からして、パイモンではないのは確実だ。
港の方へ目を向ければ、七七が幾つもの呪符を氷元素で創り出していた。
普段は呪符一枚で放っていた元素爆発を、呪符を何十枚も重ねがけして発動するつもりなのだろう。
七七の体内の力の保有量がどの程度なのかは知らないが、恐らくそこまでないだろう。
もともとが普通の人間の女の子なのだから、少ないのは確実だ。
無事に元素爆発を発動し、津波を止められたとしても、七七自身の元素が枯渇して僕みたいに体が崩れかけかねない。
神の目の保有者が一番気にしなければならないのは、自身が保有する元素の量だ。保有量を越えた量を出力すればあっという間に体が朽ち果ててしまう。
そして、七七はそういうことを命令されていないからか、どんどんと呪符を作り出している。
恐らくこのままでは、七七は元素爆発を使用した直後に元素が枯渇して体力を全て持っていかれ、そして死んでしまうだろう。
七七はすでに死んでいるから大丈夫、という訳ではなく、体力で補えない分は人体から補われる。体が元素オーブと化し、それが多量となれば体はあっという間に全てオーブとなってこの世から消滅してしまう。
「……兄上」
「っ……手は、出さない」
僕の脳裏に一瞬浮かんだ、昔の七七の姿。
1000年の時を経て、大部分の記憶を失っても、僕の事を七七は覚えていてくれた。
このままでは……だが、ここで僕が手を出してしまえば、凝光殿の計画が全て台無しになってしまう。
無表情で呪符を作り出す七七を見ながら、気づけば僕は掌から出血してしまうのではないかと言うほどに拳を握っていた。
そして、作り上げた呪符を全て開放し、七七が元素爆発を放つ。
――――前に、弧雲閣から飛び出した氷の奔流が、荒れ狂う波を全て凍てつかせた。
前に進もうとしていた波は急に止まったことで内部のエネルギーを放出することが出来ず、瓦解していく。
跋掣を中心に同心円状に広がっていた津波は悉くすべてが凍り付き、そして崩れていった。
氷の奔流の出所は、先ほど空を抱えた何者かが着地した場所だった。
一瞬、甘雨の可能性も考えたが、甘雨は群玉閣ではなく弧雲閣の島で刻晴殿と一緒に千岩軍の指揮を執っていたはず。つまり、甘雨ではない。
となると、この作戦に参加できて、仙人に少しだけ劣る威力の氷元素の渦を生み出せる人物。
「申鶴……か」
「なるほど。アイツなら納得がいく」
ダンタリオンを討伐する際に出会った、仙術と陰陽術を極めた少女。あの時はこのような力を見ることはなかったが、恐らくは『目覚めた』のだろう。
生物が、何かをきっかけに覚醒し、本来出すことのできないような力を出すことがたまにある。
空から聞いた話では、南十字船隊の乗組員である万葉という人物も稲妻で同じようなことをやって見せたらしい。
一先ず、危機は脱した。
己の攻撃を止められたことが予想外だったのか、跋掣は呆気にとられ、その隙を突かれて装填の完了した帰終機から集中砲火を食らう。
分が悪いと悟った跋掣は海の中へと引き返していき、申鶴と空がそれを追撃するように渦の中へと飛び込んでいった。
「七七」
「あっ、くー兄。どうして?」
「七七……よかった」
「……? 七七は、ここにいるよ」
七七の小さな体を抱きとめる。その体には体温と呼べるものはなく、雷雨に晒され続けたこともあり冷たくなった七七の頭を撫で続けた。
『くー兄! 七七ね、七七ね、くー兄の為にお花を摘んできたの!』
『おお、それはいい。ありがとうな、七七』
『えへへ……』
それは、かつての七七の記憶。
まだ七七が
そして、この時代に於いて、僕だけが覚えている、何の変哲もない出来事。
それから程なくして、璃月へ叩きつけていた雷雨は現れた時と同じく突如として消え、荒れ狂っていた海は穏やかさを取り戻した。
空たちが、勝利を収めたのだ。
でぃす いず だいじぇすと?
やっぱ凝光から見た七七の優れている所って、明らかに『仙人の力を扱えること』だと思うんですよ。
そして、それを考慮するなら魔神任務で津波が起きた時にムービーではみんな一目散に逃げ出していたけど、凝光がそれについて何も考えていないわけがなく、となると七七の力で津波を凍らせようと考えていたんじゃないかなーって思ったんでそういうことにしました。
アンケートに答えてくださった方々、ありがとうございました!
一番人気はやはり胡桃という事で、ifの一番最初は胡桃のものからお届けしたいと思います。
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