6人目の仙衆夜叉   作:貮式

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エッッッッッッッッッッッッッッッッッッピローグです。

他意はありません。本当です。


13.甘い雨を、絶やすことなく

 

 

――――一応、そのあとの話でもしておこうか。

 

 

 僕が甘雨に思いを告げた海灯祭の夜から数日後、鍾離先生へ頼んで僕たちの新たな『契約』を作成してもらった。

 共に訪れた僕と甘雨を見て、鍾離先生も始帰様も終始笑顔だったのが印象に残っている。

 

 そして、元々はモラや仕事の都合で婚儀を上げるつもりはなかったのだが、どうやら空が既に裏で手を回していたらしく、それ用に装飾まで済ませた空の塵歌壺にて僕と甘雨の婚儀を執り行った。

 

 璃月の伝統的な衣装ではなく、時代の流れを汲んだ甘雨のウェディングドレス姿は間違いなく僕の記憶の中で永遠に残り続けるだろう程には美しく、それでいて清楚で可憐だった。

 

 空の根回しはそれはそれはすごく、準備されていた料理も装飾も、全て自身が持てる伝手を使って準備したものらしい。驚くことに、それらに使われていた素材は全て空とパイモンが一日中テイワット大陸を駆けまわって集めたものだというのだ。本当に頭が上がらない。

 

 

 そういえば、久々にテイワット東部三国の神々が揃っていたっけ。

 

 

 始帰様含め魔神たちは皆明らかに一つだけ豪華なテーブル席を用意されていたが、風神とそりが合わなすぎる影ちゃんは終始始帰様にべったりとひっついていた。

 

 影ちゃんは空と出会ってから自身の『永遠』について色々考えなおした結果、眞さんと同じような『永遠』を目指すことを決めたらしく、稲妻の鎖国は解除したそうだ。

 

 かつては『七神の用心棒』として互いに切磋琢磨していたが、流石に本物の七神となった今の影ちゃんには勝てるビジョンが思い浮かばない。

 それでも、かつての絆が消えることはないので、絶雲の間の三仙人と甘雨が話し込んでいるのを横目に僕は神々が座すテーブルへと椅子を持っていき、しばし昔話に花を咲かせた。

 

 

 

『うぇへへ~い、くごー! 今日はお祝いだよ、もっと飲もうよ~』

 

『……帰終ちゃん、私やっぱりあの人苦手だわ』

 

『ふふっ。私はあの人の自由奔放なところは嫌いじゃないわ。影ちゃんは固くなりすぎよ。旧友の結婚式くらい、羽目を外すくらいじゃないとね』

 

『うむ……やはり度数が足りないな……ウェンティ、ここに以前貰った『炎水』がある。……飲むか?』

 

『久劫、やめておけ。収拾がつかなくなるぞ』

 

 

 

 ……いや、ただ単に神々でバカ騒ぎしていただけだったような気もする。特に風神と僕が。

 

 あぁでも、炎水を飲んだウェンティがバタンキューしてたっけ。もっと飲みたかった僕としては風神にダウンされると少し困ったのだが、流石に僕も結婚式で酔い潰れるわけにもいかず、そのあとは普通のお酒を嗜んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その楽しかった式も、今や思い出。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……兄さま、お早うございます♪」

 

「んあぁ、おはよう、甘雨」

 

 

 僕が以前使っていた部屋は、既に片付いている。

 寝室は一つで十分だと甘雨に言われて、休みの日に二人で片づけて、元々広かった甘雨の寝室に二人分の家具やらが置かれた。

 

 

 互いに生まれたままの姿で、朝のキスを交わす。

 

 

 今日は互いに仕事が休みだ。でなければ二人してこんな昼間に目を覚ますなんてことはしない。眠りについたのが共に朝だったので仕方がないことである。うん、そう。仕方がないのだ。

 

 

 ……そして、このままだと折角の休みを丸一日無駄にしかねないので、むすっとした表情の甘雨を説得して先に風呂場へ入れ、僕は上裸で朝食(時間的には昼食)の準備に取り掛かる。

 

 そういえば、先月から僕は往生堂へ正式に勤め始めた。

 昔に往生堂の葬儀を何度見たことがあるので、簡単に出来るなどと思っていたら大間違いで、細かな所作や言葉遣いなどを胡桃に厳しく指導された。

 

 死した人の命を扱う仕事の関係上、未だこの世に残っている魂と残された遺族に失礼のないようにしなければならない。

 

 胡桃に指導されたことを徹底的に頭に叩き込み、一週間足らずでものにしてみれば、胡桃は大層喜んでくれた。「楽が出っ……仕事の効率が上がるよ~」……前半部分は聞かなかったことにした。

 

 楽ができるとは言っても、胡桃のそれは一般人が思うようなただ怠けることではない。

 胡桃は僕が今まで見て来た往生堂の堂主の中でも……否、璃月の神の目を貰った戦士の中でも飛びぬけて戦闘能力が高い。

 

 それ故に空に頼まれて戦闘へ出かける機会が多く、いつも疲れたような顔をしていた。

 

 

 それが最近、鍾離先生が「いつもの溌剌とした堂主が戻ってきた」というほどには元気が戻ってきているらしい。

 

 

 僕に職を斡旋してくれた胡桃が、かつてのように元気に過ごせるのならば僕も頑張って仕事を覚えた甲斐があるってものだ。

 

 

 

――――ジュゥゥ……

 

 

 

 程よく柔らかい目玉焼きの黄身を見ながら、僕の料理の腕も上達したなぁとしみじみ感じる。

 

 初めて料理をした時など、包丁の扱い方すらままならず切った具材も太さがバラバラで、味付けも濃く、とてもじゃないが食べられたものではなかった。

 

 ここまで僕の料理の腕を上げてくれた万民堂の卯師匠と香菱には感謝だな。

 

 

 

 

「――――兄さま♡

 

 

「――――――――っっ」

 

 

 

 

 料理の盛り付けが終わって一息ついたところで、甘雨の吐息と僕の心臓を鷲掴みにするような甘い声が、耳を伝って全身をゾクッと震わせた。

 

 

「ふふっ。料理をする兄さまの後ろ姿を見たら、思わずやってみたくなっちゃいました」

 

「……っ、って、その恰好で歩き回るなよ」

 

 

 バスタオル一枚の甘雨の髪は全然乾いてなく、なんならところどころ水が滴っているのを見る限り、まともにタオルで水分を拭き取っていないのだろう。

 

 湯浴みで上気した甘雨から程よい熱気が伝わってきて、僕の理性を壊さんと誘惑してくる。

 恐らく甘雨は、ここで僕が襲い掛かったとしても笑顔で受け入れるだろう。というより、それを望んでいるような顔をしている。

 

 しかしここで僕が耐えられなければ、折角の休みが丸々無駄になってしまい、料理も冷めてしまうだろう。

 

 

 頭の中に酔っ払って不可思議なダンスを踊りながらライアーを奏でる風神を浮かべて、精神を落ち着かせる。

 

 

 ……あぁっ、ダメだ! この風神が奏でてる歌、前に知らずに聞かされて一日中甘雨と獣のような「自主規制」をさせられた発情の歌じゃねぇか!

 

 

 僕に味方はいないのか。

 このままでは僕の理性が何処か遠くへ消えてしまう。

 

 何か、何かないのかっ……!

 

 

 

『ほぉ~う、流石は鍾離先生一押しの仙人様だ。俺も久しぶりに本気を出してみようか』

 

 

 

『いいだろう。お前ら執行官が本当に氷神の懐刀足りえるか、僕が直々に見定めてやる』

 

 

 

『言ってくれるじゃないか。だが、俺も相棒と戦った時以上に昂っている。手加減はナシだぜ? 先輩』

 

 

 

 

 

「僕もっ、湯浴みにっ、行ってくる!」

 

 

 ありがとう執行官。おかげで僕の理性は保たれた。やはり戦いの記憶は偉大であることがここで証明された。

 

 据え膳食わぬは云々など言ってられるか。休みの一日をただ甘雨とベッドの上で過ごす……のも悪くはないが、たまには共に璃月を歩き回りたいのだ。

 

 

 

 勢いよく浴室の扉を閉め、湯で全身を洗い流して湯船につかり、一息つく。昨日の夜からの疲れが一気に流れ出していくのが分かる。

 

 

 甘雨の意思なのか、それともあの世話焼きの留雲の入れ知恵なのか、最近の甘雨はよく()()()()()ようになった。

 

 それはそれで嬉しいのだが、流石に休日くらいデートというものをしたい僕にとっては少しばかり不満が募る。……結局、その不満も甘雨を見るたびに吹き飛んでしまうのだから、僕はとことん甘雨に対して甘すぎるらしいが。

 

「兄さま、入ります」

「ん~」

 

 全身を伸ばして体をほぐす。パキ、パキ、と腕やら背中やらから骨の音が鳴り、どれだけ体が固まっていたのかが伺える。

 

「お疲れですか?」

「ん~」

 

 最近めっきりと空に呼ばれる機会が減ったような気がするが、恐らく空も僕たちの事を慮っての事だろう。少し魔物をぶっ飛ばして体を解さなければいけないかもしれない。

 

 

「上、失礼しますね」

 

 

「ん~……うん?」

 

 

 

 ……そういえば、さっきから僕は誰と会話をしているのだろうか。

 この家で僕と会話する人物なんて甘雨くらいしか心当たりが――――

 

 

 

「うん!? 甘雨!?」

 

「はい。兄さまの甘雨です」

 

 

 

 いつの間にか甘雨が僕に背中を預けるようにして僕の足の間に座っていた。

 

 しくじった。あまりにも安心しすぎて別の所へ意識を集中させていたのがいけなかった。

 

 このままだといつのものように流されてしまう……!

 

 

「むぅ、私は兄さまの嫌がることはしません」

 

 

 と、思ったが、そんなことはなかった。

 

 

「……ごめん。僕が勘違いして避けてたみたいだ」

 

「? いえ? シたいのは事実ですよ?」

 

「……」

 

「ですが、それで兄さまの気分が悪くなってしまうのならば、私はシたくはありません。

 ……ですので、今日は一日、ゆっくりと過ごしましょう」

 

 

 寄りかかっていた甘雨を、後ろから抱き締める。

 

 甘雨は、僕にとことん尽くしてくれている。そして僕は、今日に至るまで甘雨の気遣いに気付けなかった。

 

 

 優しくて、敏くて、愛おしい。

 

 

「……兄さま」

 

「……甘雨」

 

 

 暫く湯船に二人で浸かった後、少しばかり冷めてしまった昼餉を平らげ、甘雨と共に久々に璃月の街を歩く。

 

 

 ついこの間までは繋いでいなかった僕の左手と甘雨の右手が、絡まるようにして繋がっている。

 

 

 決して、繋がった僕たちの関係が離されることはない。

 

 そう考えて甘雨を握る手の力を少し強めれば、甘雨も応えるように強く握ってくれる。

 

 

 

 

 次はどこへ行こうか。

 

 僕と甘雨ならば、きっとどこへだって行けるだろう。

 

 

 確証はないが、なぜかそう思った。








これにて『後日談 / 流るる星霜、華咲きて』編は完結です。ありがとうございました。

今後は本編のあとがきでも書いたように、原作バージョンアップに沿って二人を介入させたり、日常や番外編を投稿していければと思っています。

そして、話の内容的に毎日更新は厳しくなってくると思うので、今日を以て毎日投稿は終了させていただきます。

私がネタを思いつき次第投稿していければと思っているので、どうぞ気長にお待ちください。

では、以上作者からでした。

また次回。
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