6人目の仙衆夜叉   作:貮式

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原神の小説を書くだけで原神の世界観について詳しくなれるよ!!
……マジで細かい設定とか小ネタとか多すぎてびっくりしてます。

スネージナヤ辺りが実装されたら、淑女の逆行転生ものとか書いてみたいですね。

え、あと四年後だって? そんなぁ……(´・ω・`)


2.始帰

 

「鍾離のあんな表情、初めてみたな……オイラ、なんだか悪いことしちゃった気分だぞ」

 

「長い時間生きていると、そういうこともある」

 

 

 璃月港の埠頭をパイモンと歩きながら、先ほど鍾離から聞いた話を思い返す。

 

 胡桃と一緒に笑っている鍾離、契約を目の前で破られて怒っている鍾離、強敵相手にシールドを展開して飄々と戦っている鍾離と、今まで鍾離の様々な面を見てきたが、あんなに複雑そうな顔をする鍾離は初めて見た。

 

 数千年という長い時間を生きている以上、それは仕方ないのかもしれない。

 しかし、その話を掘り返してしまったのは自分である以上、お詫びに鍾離に何かをしてあげたいというのは、俺とパイモンの共通の見解だった。あと、一度お面について聞いてしまった魈にも。

 

「他の仙人には、なるべく話さないようにしよう。

 魈と鍾離があんな様子じゃ、誰に話しても同じような反応だと思うしな」

 

 留雲借風真君、理水畳山真君、削月築陽真君、ピンばあやに甘雨、一応煙緋にも言わないようにしよう。

 

「それじゃあ、二人に何をするか考えようぜ!

 うーん、そうだなぁ、魈とかは素材とか持って行っても使わなそうだし、無難に好きな料理とか持っていくか?」

 

「そうだね。ずっと手元に残るものより、消費できるものの方がいいかも」

 

 魈の好きな食べ物は……確か杏仁豆腐だったか。

 『かつての『夢』の味に似ている』と言っていたが、これについてもあまり掘り下げない方がやはり懸命だろう。善意の行動が、却って他人を傷つけてしまうことはよくある。

 

 

 ……稲妻での淑女の最期が、ふと脳裏に過る。

 

 

――――私をッ!! 『魔女』と呼ぶなァッ!!

 

 

 苦しんでいる稲妻の人々を救いたかった。ファデュイの魔の手が及んでいる抵抗軍を助けたかった。そして御前試合をした結果、間接的に一人の人間を殺した。

 

 

 彼女はウェンティから神の心を奪い、それ以前に、数々の罪を犯してきたファデュイの執行官だ。

 

 それでも結局、彼女には『そうならなければならない過去』が実際あって、それには今自分が関わってきた人たちも十二分に関わってしまっている。

 

 やめよう。過ぎたことを考えるだけ無駄だ。

 

 彼女は雷電将軍によって裁かれた。それでいいじゃないか。

 

 

「空……? おーい、どうした? 心ここにあらずって感じだぞ?」

 

「ごめん。少し考え事を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら……?」

 

 

 埠頭の欄干に立って弧雲閣を見つめている俺たちに、一人の女性が近づいてきていた。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

「ぎょ、凝光様! 刻晴様! 大変ですっ!」

 

 

 先の迎撃戦で群玉閣を放棄してしばらく。

 群玉閣という自身の執務室を失ってしまい、代わりに他の七星が職務を行っている玉京台に建てられた建物内に臨時の執務室が置かれた凝光の部屋へ、甘雨が血相を変えて飛び込んできた。

 

「どうかしたのかしら、甘雨。

 私たちは群玉閣の再建と、この後行われる海灯祭の準備で忙しいのだけれど?」

 

「ノックもせずに飛び込んでくるなんて、珍しいわね。一体何なの? 甘雨」

 

 計画書や予算のすり合わせなどを行っていた二人は、璃月で行われるビッグイベントとこれから訪れる()()への対応で若干のストレスを溜めていた。

 そのため少しばかりイラついた声が出てしまったが、流石にそこは璃月の頂点に立って民衆を導くプロの仕事人。公私混同は決して許さず、甘雨の息が整うのを静かに待っていた。

 

 

「はぁ、はぁ、先ほど千岩軍の層岩巨淵の見張り部隊が一名だけ逃げ帰ってきて、「層岩巨淵より、信じられないほど大規模な魔物の侵攻が始まった」と!」

 

 

「なんですって!?」

 

 

 刻晴が声を荒げる。

 層岩巨淵の異変は璃月港でも大打撃となった事件だ。多くの労働者が路頭に迷う羽目になり、当時の璃月の失業者の惨状は見るに堪えなかった。

 

 だから異変の根源を刺激しないように慎重に事を進めていたのだが、どうやら向こう側はそうはいかないらしかった。

 

 

「ヒルチャール、アビス、スライム、そのどれもが例にもれず凄まじい速度で璃月港に向かっているとのこと、至急対応しなければ、璃月港がっ!」

 

「参ったわね。ただでさえ、こちらは『渦の余威』への対応で手いっぱいだというのに……

 甘雨。確か、旅人が璃月へ帰ってきていると言っていたわよね。彼らには申し訳ないけど、この異常事態を千岩軍だけで対処しきるのは困難だわ。彼らを探して助力を申し出てきて頂戴。

 

 刻晴、あなたはすぐに千岩軍を集められるだけ集めて頂戴。早くしないと、璃月港が人の時代から、魔物の時代へと移り変わってしまうわ!」

 

「わっ、わかりました!」

「了解!」

 

 

「…………仙人への助力も申し出たいところだけれど、それをしてしまえば彼らからの信頼を失ってしまう。面倒なことになったわね」

 

 

 

 凝光も二人に続いて部屋から出て、数日前から物資をありったけ船に詰め込んでいる『南十字武装戦艦・死兆星号』の船長、北斗との接触を図りに行く。

 

 

「璃月港を、魔物なんかに奪われるわけにはいかないわ……!」

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「懐かしい気配を感じて来てみたのだけれど、あなたはもしかして、件の旅人?」

 

「ん……? お前は誰だ?」

 

 

 俺たちに話しかけてきたのは、白桃色の髪の毛にぶかぶかな着物を着た女性。真面目そうな顔をしているが、顔が童顔な為に幼い印象を受ける。

 

 

「ああ、ごめんなさい。人に名を訪ねる前に、まずは自身の名を名乗らなくてはいけなかったわね。

 初めまして、空さん、パイモンさん、()から話は聞いているわ。わたしの名前は『始帰(シキ)』。元岩王帝君、()()()()よ」

 

「おう! そうだったのか! 鍾離のつ……ま……?

 

 って、えええええええええええ!!!?

 

「鍾離って奥さんいたんですか!?」

 

「あら? もしかして夫から聞いていないのかしら?

 ふふ、まぁ、あの人とそんな話になる場面なんて、想像できないからあり得そうね」

 

 

 くつくつと笑う始帰さんに驚きを隠せない俺とパイモン。

 そして、始帰さんが鍾離の奥さんだとしたら、この人はもしかして……

 

 

「そうよ。わたしの本当の名前は『塵の魔神 ハーゲントゥス』。璃月人でも分かりやすい名前でいうなら、『帰終』ね」

 

「何も言ってないけど、聞きたかった事に返してくれたぞ……」

 

「ふふ。これでも昔は『技術と知恵』を売り文句に夫を口説いたのよ? 人の心を読むなんて容易いわ。流石に、スメールの知恵の神様には劣るけれどね」

 

 

 こんなに幼く見えても、やはり魔神なんだなと感じていると、本題を思い出した始帰さんが「そうだ」と話を始める。

 

 

「あなたたち、今『面白いお面』を持っているでしょう? 少し、わたしに見せてくれないかしら。

 あぁそれと、わたしのことは始帰って呼んでもらって構わないわ」

 

「おう! じゃあオイラたちの事も呼び捨てで読んでもいいぞ!」

 

「ふふ。じゃあ遠慮なくそうさせてもらうわね。パイモン。……空、ありがとう」

 

 

 バッグから取り出した『彝面』を始帰に渡すと、彼女はそれを優しく受け取り、その顔を哀愁に染めながらそっと胸に抱いた。

 

 

「あぁ、訪凞(ホウキ)……あなたの力の残滓だけでも、こうしてもう一度あなたに会えて良かった……

 もう二度と、この手に感じることができないかと思っていたわ……」

 

 

「やっぱり始帰も、羅刹大聖の事を知っているのか?」

 

「…………えぇ。

 訪凞はもともと、私の直属の配下だったの。私と夫が結ばれて、支配権は夫に移ったけれどね。

 わたしの、最初で最後の、それでいて最高の配下だったわ……」

 

「そ、そうだったのか……」

 

 

 今回は向こうから求められたとはいえ、やはりこのお面を前にすると仙人たちは皆暗くなってしまう。

 そうなると、いよいよ本格的に璃月にいる間はこのお面の事について触れない方がいいだろう。

 

 

「空、ありがとうね。このお面は返すわ。

 

 ……と、おや? こちらに向かって走ってくるのは、甘雨……?」

 

 

 始帰の視線の先へ目を向けると、そこには切羽詰まった様子で辺りを見渡しながら走ってくる甘雨がいた。

 

 そして甘雨はこちらを認識すると、一目散にこちらへ走ってきた。

 

 

「空さん! パイモンさん! それに始帰さんも?

 えっと、取り敢えず今は緊急事態なんです! すぐに天衡山まで来てもらえませ――――っ、そ、それは……!」

 

「まっ、まずいぞ空!」

 

 

 何やら焦っていた甘雨だったが、俺の手に握られている『彝面』を見た途端に苦虫を噛み潰したような表情へ一変してしまった。

 

 が、しかし、甘雨はそれを振り払うと、「とっ、とにかく急ぎましょう!」と俺とパイモンの手を掴んで走り出した。

 

 

 

 

 

 

「…………? 何やら不穏な気配が迫っているけれど、ここで仙人が口をはさむのも野暮ってものよね。

 さて、わたしは買い物の続きをしなくちゃね」

 

 

 

 始帰は、二人と出会う前の目的を果たすために、埠頭を歩き出した。




はい、原作死亡キャラ生存タグが立ちました。帰終×鍾離をすこれ。

ちなみに帰終さんの姿は、よくTwitterとかで出てくる帰終の姿で書いてます。ファンメイドにしてはクオリティが高い帰終様、実装待ってます。
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