6人目の仙衆夜叉   作:貮式

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この小説の初投稿からもう一年経ったのか……早いですね……。


番外編と国外キャラ交流編は気の赴くままに書いてるので、超不定期更新になってますがお許しください。


結婚記念日 一周年

 

 

「胡桃、こっちは終わったぞ」

 

「うえっ!? 早くない!? え、あの量を……? こ、これが愛の力……」

 

 

 例年通り行われている海灯祭。

 

 その終わりも見えて来たという頃には、往生堂は普段の忙しさを取り戻し始めていた。

 

 

 ちらり、と壁にかけられた時計を見れば、まだ定時まで1時間ほど時間が余ってしまっている。胡桃を含めた往生堂の従業員たちからは驚愕の視線を感じ、なんだか少し気恥ずかしくなる。

 

 

 このまま終業時間まで棒立ちしているわけにもいかず、胡桃に追加の仕事を貰いに行こうとするが、

 

 

「んー……いいや、今日はもう上がっていいよ。()()()()()にいつまでも旦那さんを拘束するのも悪いしね」

 

「そうか……すまない」

 

 

 ニタァと笑みを浮かべて断られてしまった。

 

 

 ……そう、今日は僕と甘雨の結婚記念日。

 

 プロポーズしたのはもう少し前だが、帝君に『契約』を作成してもらって空の壺で婚儀を執り行ったのが今日なのだ。

 

 ちなみにプロポーズした日の方は家で甘雨とちょっとばかり豪華な食事やお酒を嗜んで二人の時間を過ごした。尤も、甘雨はお酒は飲めないので酒を飲んでいたのは僕だけだったが。

 

 

 そして今日は、海灯祭の運営で忙しかった甘雨が七星たちの計らいによって僕の定時の時間に上がらせてくれる事になったので、甘雨と共に海灯祭デートである。

 

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

「ほいよ~、甘雨さんによろしくねー!」

 

「ああ」

 

 

 胡桃に見送られて往生堂を出る。

 

 定時の一時間前という事もあってか、冬場にも拘らずまだ日が出ている。しかしもう少しすればあっという間に沈んでしまうだろう。

 

 

 ……というか、一時間も何をすればいいのだろうか。

 

 

 胡桃の好意に甘えさせてもらったものの、甘雨が来るまでの一時間は僕は特にすることがないので暇になってしまうという事を失念していた。

 

 

 通りの方から、色んな人の声が聞こえてくる。

 

 先に一人で軽く回るのもアリかもしれないな、と考えて歩き出そうとして、

 

 

「――――……! 兄さま!」

 

「……っ甘雨! どうしてここに……?」

 

 

 往生堂の入り口の前に設置されているベンチに座っていた甘雨が、ニコニコしながら手を振り、僕の方へ歩いてくる。可愛い。

 

 しかし、甘雨はこの時間はまだ仕事をしているはずなのでは? 幾ら七星が気を使ったとはいえ、甘雨という人材をそう早い時間に手放したくないはずだ。

 

 

「えっと……その……兄さまに早く会いたくて……仕事が早く終わりすぎちゃったので……」

 

「っ……き、奇遇だな……実は僕も、そうなんだ」

 

 

「へっ……!? ―――……ふふっ、なら、お揃いですね」

 

 

 モジモジと頬を赤らめながらそう告げる甘雨に、思わず僕の心臓が跳ね上がる。

 

 結婚して一年が経つとはいえ、数千年も拗らせて来た僕にとっては甘雨のこういったしぐさの一つ一つが心臓に悪いのだ。

 

 

「……じゃあ、行こうか?」

 

「はいっ」

 

 

 前に立つ甘雨へ僕の右手を差し出し、甘雨の左手がそれを掴む。

 

 

 こうして、予定よりも一時間ほど早く、僕と甘雨は祭りで賑わう璃月へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、ここの焼きそば屋さん、去年も食べましたよね?」

 

「ん? あぁ、そうだったな。今年も食べるか」

 

 

「ん……? おぉ! 噂のお二人さんじゃないですかい! 買ってくなら、サービスするよ?」

 

 

「じゃあ一つ頼む」

 

「あいよ!」

 

 

 明らかに量の多い焼きそばを受け取り、代金を渡す。快活な笑顔を向ける屋台の男性に会釈してその場を離れ、再び甘雨と一緒に歩いていく。

 

 

 去年も、こうして二人で歩いていたっけ。

 

 

 以前はぎこちなく手を握っていたが、今はただただ幸せなだけだ。

 

 街の熱気ではなく、甘雨のぽかぽかとした温かさが直に伝わってきて心地が良い。

 

 

 またさらに道中でカステラを買って甘雨と食べながら歩いていると、璃月の中心にある大通りの階段の向こう側から大音量の音楽が聞こえ始める。

 

 

 その音を聞いて「そういえば今年は『海灯音楽祭』なるものをやっていたな」と思い出して、甘雨に「見に行こう」と言って歩き出す。

 

 この音楽祭の提案者は昔、ピンばあやに命を救われたフォンテーヌの音楽家の末裔らしく、珍しくばあやが張り切って琴の練習をしていたのが記憶に新しい。その様子を見て触発された始帰様も楽器の練習をしていたっけか。

 

 

 埠頭へと着くと、そこには璃月の天才ロックミュージシャンである辛炎と、璃月の天才璃月劇座長である雲菫がコラボして音楽を奏でていた。

 

 

「……胡桃のスカウトがなければ、僕があそこに立っていた未来があったのかもな」

 

「兄さまは人気者でしたからね」

 

 

 ギターをかき鳴らして音楽を奏でる辛炎を見て、彼女にスカウトされたときの事を思い返す。置物でもいいから一緒にやってくれと遠回しに言われたときは少しばかり困惑したものだ。

 

 

「……それにしても、海灯祭も変わっていないように見えてかなり進化しているんだな」

 

「えぇ。運営に携わってきて、毎年私もそれを実感しています」

 

 

「去年は久々の海灯祭と、甘雨へのプロポーズもあってそれどころじゃなかったからな。でもこうして、また甘雨と祭りに来れたこと、嬉しく思う」

 

「私もです、兄さま」

 

 

 互いに目線を合わせて、微笑み合う。

 

 そんなことをしていれば、知らない間に演目は終わっていて、辛炎と雲菫がもうじき花火が上がることを予告していた。

 

 

 

「じゃあ、あの場所、行こうか」

 

 

 

 甘雨の手を引き、花火が良く見える玉京台へ歩き出す。

 

 

 僕たちにとっての思い出の地。

 

 いや、甘雨にとっては職場にほど近い展望台くらいの認識なのかもしれないが。

 

 

 左手には、まだ温かい焼きそばに、中身の減ったカステラなどが入った袋を提げ、右手で甘雨の手を握りながら歩く。

 

 甘雨の右手には、一匹も取れなかった去年とは違い、二匹とることができたグッピーの入った袋が提げられている。勿論左手は僕の右手と繋がっている。

 

 

 いくつかの階段を登り、『いつメン』で出かけていて不在のばあやの定位置を横目に、玉京台の方へ歩を進める。

 

 

 

 

 

―――……ドーン。

 

 

 

 

 

「始まったな」

 

「そうみたいですね」

 

 

 そして、僕たちが玉京台の展望に着く少し前に、花火の音が聞こえてきた。少し間に合わなかったようだが、玉京台にあったベンチに甘雨と共に腰かけて空に打ちあがる花火を眺める。

 

 

 

「「綺麗だな(ですね)」」

 

「「……」」

 

 

「ははっ」

「ふふっ」

 

 

 

 出て来た感想がほぼ同じで、そしてほぼ同じタイミングだったことに、顔を見合わせて思わず笑ってしまう。

 

 

 それはきっと、小さな幸せかもしれない。けれど、こんな小さなことでも甘雨と心が一つになっているという事実がとても嬉しくて。

 

 

 

「……………甘雨」

 

 

「なんでしょう、兄さま」

 

 

 

 だから、ずっと、こんな小さな幸せが続けばいいなと。

 

 

 

「一緒に、ずっと、幸せでいような」

 

「はい、勿論です」

 

 

 

 こつん、と甘雨の頭が僕の肩に乗せられる。

 

 さらさらとした髪の毛の感触が少しくすぐったくて、つるつるとした角の感触も心地よいけれど、それ以上に、幸せだった。

 

 

 

「――――……兄さま」

 

「ん? ……あぁ、分かった。  ――――――……んっ」

 

 

「んむっ……」

 

 

 

 僕の肩から、僕の顔を見上げて来た甘雨の唇に、去年と同じように僕の唇を重ねる。

 

 

 

ぷはっぁ……兄さま、今年も、来年も、その次も、ずーっと、大好きです」

 

「うん。僕も、ずっと、大好きだ」

 

 

 

 玉京台にも多少の人の目はあるため気恥ずかしさこそあったものの、そんなものは甘雨との時間に比べたら小さなものだ。

 

 

 

 僕ら仙人の人生の道は、これからも果てしなく続いていく。

 

 

 その道を、僕らは二人で歩いていく。

 

 

 例えその過程で共に歩む人が三人になっても、四人になっても、五人になっても、僕は甘雨の隣を歩き続ける。

 

 

 

 

「……だから、その……えーっと……」

 

「……………?」

 

 

 

 

 甘雨の視線が少し泳いだ。

 

 僕の手を握る右手の力が少しだけ強くなって―――……。

 

 

 

 

 

「その気持ちを、……()()()()()()()()()()()()、嬉しい……です」

 

 

 

「――――……へっ……!?」

 

 

 

 

 

 僕の手を握っていない方の手で、甘雨は自らの腹部を優しく撫でながら、にへらと破顔してそう告げた。

 

 

 

 

 早速、僕らと共に歩む人が一人、増えたようだった。




色々賛否は分かれると思いますが、これこそ二次創作の醍醐味だと個人的には思ってます。

前話『挨拶』での「子供が出来る可能性はかなり低い」とかいうのはどっか行きました。愛です。愛の力です。
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