あと、お気に入り登録者数が100人行きました!
こんな作者の趣味全開の拙い小説を読んで、更にはお気に入りまでしてくださった読者の皆様には頭が上がりません……。
どうぞ、今後ともよろしくお願いいたします。
「久劫兄さまっ!!」
平原の傍にある、少しだけ切り立った崖の上にいた甘雨は、そう叫ぶや否や軽い身のこなしで岩肌を滑るように降りた後、千岩軍に囲まれている『羅刹大聖』と思しき人物へ駆け寄っていく。
「甘雨さん! 危険です!」
千岩軍の兵士の一人が制止しようとするも、甘雨はそんなの気にしないとばかりに千岩軍の間を縫うようにして走り、どんどんと近づいていく。
「アアァアアァァア……?」
走ってくる甘雨に漸く意識が向いた彼は、手にしている自身の身の丈程もある水色に輝く大剣を、木の棒を振り回すかの如く軽々と持ち上げ、そして地面へ突き刺した。
地面へ剣を突き刺す、という行為は大体の場合自らの戦意がないことや、戦いが終わった後、両手を自由に使うために刺すことが多い。まるで自我がないかのような立ち振る舞いをしていた彼が初めて見せた行動だったが、この一年間の旅を通して少しずつ磨かれた旅人としての勘が、その行動に凄まじい勢いで警鐘を鳴らしていた。
取り出していたお面が、先ほどよりも強く揺れている。
――――まるで、何かの危機を伝えるように。
「……ッ!! 甘雨ッ!! それ以上近づいちゃダメだっ!!」
それに気づけたのは、半ば奇跡に近かった。
稲妻にて、対雷電将軍戦に備えてと鳴神大社の八重神子に鍛えてもらった動体視力と反射。
雷は凄まじく速い。「攻撃が来た」と認識してから回避に移るのでは到底避けることなど不可能である。それに、技を放ってくるのは現役で七神を務めている雷神本人。雷の速さも通常とは比べ物にならないほどに
その雷神と対峙するために、八重神子は俺を鍛えてくれた。
だから、彼が地面に刺した大剣の柄を強く握ったのが
あれは、戦意がないとか、休息のためとか、そんな理由じゃない。
――――あれは、近づいてきた甘雨を油断させて攻撃するための『技』である。
ザンッ
俺の声に気が付き、少しだけ躊躇った甘雨の前を、水色の軌道が通り過ぎていく。
土が巻き上げられ、剣先が通ってきた道筋を現すように水色を装飾していく。
血走った瞳が、何が起きたか分かっていない甘雨を貫き、そして開きっぱなしになっていた口が、言葉を発するように動いた。
何を言ったのかは分からない。そもそも何も言っていないのかもしれない。
だが、何であろうと甘雨を攻撃しようとしたのは事実。俺は茫然としているパイモンをその場に残して、甘雨と彼の間に割って入り剣を構えた。彼が追撃をしてこないとも限らない。
後ろで座り込んでしまっている甘雨を起こし、少しずつ後退していく。
甘雨は小刻みに震えていた。それが恐怖によるものなのか、それとも別の感情なのかは分からないが、今の俺には関係ない。とにかく、目の前の脅威をどう対処するべきか考えなくてはならない。
「ア……アァアアァッァアァア……」
彼は、やはり言葉は発しない。
先ほどのは見間違いだったのだろうか。
「…………っ」
剣を握る力が自然と強くなる。こんな不気味な威圧感は、オセルや雷電将軍と対峙した時以来かもしれない。
そういえば、『羅刹大聖』は魔神に迫る力を有していた、と鍾離が言っていた。だとすればこの肝が冷える感覚は決して勘違いではなく、下手をすれば自らが死ぬ危険性があることを体が本能的に察知していることからくるものだろう。
「ガ……ンウ……」
「っ……!? 今……!」
「オオ……きク……ナ゛……た、なァ゛……」
「――――っ!!! 久劫兄さ「援軍到着! 凝光様に刻晴様、北斗様も来たぞ!」
彼が言葉を発した。
目は多少充血しているが、本来のものと思しき紺碧の瞳にはハイライトが灯り、その顔には笑みを浮かべていた。そして、彼が甘雨の頭へ手を伸ばそうとしたその瞬間。璃月港から千岩軍の増援と、北斗の一味を連れた凝光が現場へと現れた。
そして、彼の表情が、瞳が、全てがもとに戻ってしまった。
「兄さま……? っ、兄さま! どこへ行くのですかっ! 兄さまっ!!」
直後、俺たちに背を向けた彼は、魈と同じか、それ以上の跳躍力と速度でこの場から立ち去って行ってしまった。
後ろの甘雨が急いで追いかけようとするも、あっという間に姿をくらましてしまった彼を追いかけることなどできず、甘雨はその場で膝から崩れ落ちてしまった。
「これは一体、どういう状況かしら?」
「はっ。層岩巨淵から侵攻してきた魔物の軍勢は、突如現れた謎の人型の魔物によって殲滅され――――「久劫兄さまは魔物なんかじゃありませんっ!!」
後方で行われていた報告に、甘雨が聞いたこともないような声で怒鳴った。
その顔は涙でぐしゃぐしゃになっており、比喩抜きで触れたら壊れてしまう、そんな感じがした。
「兄さまはぁ……兄さまは魔物な゛んかじゃないです……う゛ぅ……」
「甘雨、落ち着きなさい。私たちがいない間に、とても悲しいことがあったのね。
とにかく、今は戻って、詳しい話を聞かせてくれるかしら。あなたの様子を見れば、私たちが最後に見たあの方が悪い人ではないことくらい、一目でわかるわ」
凝光の腕の中で子供のように泣きじゃくる甘雨を見ていると、凝光から「あなたも来てもらえるかしら」と問われる。
特に予定もないし、甘雨をこのまま放っておくわけにもいかないので、俺はこの問いに「はい」と即答した。
『久劫、頼めるか』
『久劫、任せた』
『ふむ、また現れたか……。久劫、今回もお前に任せる』
「…………ーぇ? し……り…い! しょーりせんせぇーっ!!」
「っ! あぁ、すまない堂主……少し、考え事をしていた……」
『彼』が俺たちの前から姿を消して、俺たちが彼にいかに依存し、いかに彼に負担を掛けていたかを知った。
あの日から、彼の事を悔やまなかった日はない。
彼を兄貴分として慕っていた魈が、彼に遊んでもらって楽しそうに笑っていた甘雨が、彼を一番の配下だと自慢していた帰終が、あの凶報とともに『その一面』を封印してしまったのを知った時から、俺は俺を許せなくなっていた。
「珍しいね。鍾離先生がそんなに思いつめた顔するなんて」
「そんな、表情を、していたのか? 俺は……」
俺はテイワット大陸一の武神だと言われていたのではないのか。強い魔神は、と聞かれた際に、『戦争』を掲げる炎神より先に名前が出てくる神ではなかったのか。
それなのに、俺は仙人に任せると戦闘を放棄し、結果として体調も思いやることも、敵の勢力を知ることも教えることもできず、俺は彼を殺した。
夜叉たちから師匠と呼べる存在を奪った。
甘雨から兄と呼べる存在を奪った。
仙人から気を許せる同胞を奪った。
帰終から誇れる配下を奪った。
――――俺は、誰からも赦されることはないだろう。
「先生、顔色がすっごく悪いよ? さすがに変だよ。今日は帰って、ゆっくり休んで?」
「…………すまない。そうさせてもらう」
……久劫、どうか、もう一度だけ姿を現してくれはしないだろうか。
そうして、あの馬鹿げた『契約』を取り消して、魈や甘雨、帰終の『封印された一面』を、解き放ってはくれないだろうか。
俺の事は許さなくてもいい。だから、どうか、もう一度、仙人たちに本物の笑顔を――――
バタッ
「…………? 先生? 鍾離先生!?」
夜叉くん死んで一番責任感じて曇ってるのはやっぱり先生でしょ、ということで
一応言っておきますが、夜叉くんは鍾離やほかの仙人の事を恨んだりとか全くしてないです。むしろ「こんなところで死んで、帝君たちに迷惑がかかってしまうな」と責任を感じていたり。
ちなみに「夜叉くんいっぱい名前あってどれで呼べばわからなーい」という人のために、夜叉くんのそれぞれの名前の意味とかをば。
久劫→岩王帝君につけられた名前。(永久、永劫から一文字ずつとった)
訪凞→帰終につけられた名前。(凞には「やわらぐ」や「たのしむ」という意味がある)
羅刹大聖→夜叉くんに対する尊称(尚、一般人にこの名前を言っても誰の事だかわからない)
妖滅夜叉→役職(4割魔神である封印した魔神本体付近に現れる妖魔の退治)
本編のエンディングはどれがいい?
-
甘雨とほのぼの√
-
鍾離&始帰の養子√
-
魈と一緒に治安維持√
-
申鶴の修行監督√
-
孤独の旅√