6人目の仙衆夜叉   作:貮式

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評価バーが赤くなり、お気に入り登録者数が約2倍以上に……

恐悦至極、戦々恐々、作者、震えております……


頂いた評価や応援は是非とも『完結』という形で返させて頂きますので、なにとぞ応援の程よろしくお願いします<(_ _)>


【追記】
あとがきにアンケート追加しました。
投票していただけるとありがたいです。


5.兄上

「兄さま……」

 

 

 背負った甘雨から、そう言葉が漏れる。

 

 あの後凝光に背中を摩ってもらった甘雨は、泣き疲れて、普段の業務の疲れも少しは溜まっていたのか眠ってしまった。

 

 もうすぐ璃月港に到着する頃合いだが、甘雨が俺に背負われて帰っている間、少なくとも10回以上は甘雨の口から「兄さま」と彼の名前が漏れている。

 

 彼……もうこの際久劫と呼んでしまうが、久劫という存在が甘雨の中でどれほど大きい存在だったのかが伺える。

 少なくとも、千岩軍の発言に対して過剰なほど声を荒げてしまうほどには。

 

 

 あの時どこかへ行ってしまった久劫。今は凝光が急遽編成した千岩軍の捜索チームが懸命な捜索を行っているが、正直言って見つかる可能性の方が低いであろうことは想像に容易い。

 

 魈のように腰から下げた『彝面』が、歩く度にかちゃりと音を立てる。

 持ち主が存命であることが確認できた以上、これ以上俺が持ち歩く訳にもいかない。早いところ久劫を見つけ出して、これを返却し、そして久劫を正常な状態に戻して仙人たちに会わせる。

 

 

 ……戻す、と簡単に言ってはみたが、一体どうすれば久劫は正常な状態に戻るのだろうか。

 

 

 甘雨に話しかけたあの一瞬、久劫は何故かそこで正気を取り戻し、凝光たちを認識した瞬間に再び理性のない姿に回帰してどこかへ立ち去ってしまった。

 

 うーむ、分からない。

 あの一瞬の『本物の久劫』が、何が原因でああなったのかが。

 

 自分の意思なのか、それとも何か条件があるのか。

 

 少なくともそれを分かっていないと久劫を見つけられても先ほどと全く同じ展開になることは目に見えて明らかだ。

 

 

「璃月港が見えてきたわ。旅人、すぐにでもあの仙人を探しに行きたい気持ちは分かるわ。

 けれど、あんな大きな出来事の報告を先延ばしにすることもできないの。……付いてきてくれるかしら」

 

「うん。分かってる。パイモンもそれでいいよね?」

 

「おう。それに、今は甘雨の事も心配だしな」

 

「……二人とも、感謝するわ」

 

 

 俺たちの行く先が困難であることを示すかの如く、空には分厚い雲が覆い始めていた。

 この様子では、恐らく軽策荘辺りではもうすでに降り始めているくらいだろうか。

 

 

「……久劫……兄、さま……」

 

 

 背中の甘雨の目から、またしても涙が零れて俺の背中を少し濡らした。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 望舒旅館付近、ヒルチャールの拠点。

 

 

 魔神の残滓は、今なお極小ではあるが大陸に蔓延る魔物に取り憑き、魔物の潜在能力を引き出させて人を襲わせている。

 

 通常の魔物であれば一般の冒険者であれば対処できるが、魔神の残滓に少しでも取り憑かれた魔物は一筋縄ではいかなくなる。

 

 だから、そんな存在はすぐにでも排除しなければならないし、ましてやモンドからの商人が璃月へ行くのに必ず通る帰離原に、そのような魔物は存在してはいけなかった。

 

 

――――妖魔を滅し、人々を守れ。

 

 

 それが岩王帝君より賜った『契約』。だからこそ『護法夜叉』は、その契約に従い存命の夜叉が自分しかいなくなってもなお、その使命を全うしていた。

 

 しかし、いつもであれば洗練された戦闘は、今日に限っては粗が目立っていた。

 

 

「この程度では、まだ兄上には追い付けない……ッ!」

 

 

 彼もまた、久劫(呪い)に魘される仙人であった。

 

 仙獣の中でも位が高く、人の世で言うところの『貴族』に当たるのが、俗世では『夜叉』と呼ばれる者である。

 2000年以上前に、そんな夜叉の両親の元で生まれた魈は、必然的に魔神戦争へと巻き込まれることになり、戦い方を覚えた。

 

 だが、とある魔神に体の自由を奪われ、人々だけでなく仙人や仙獣などまでも無差別に殺していた時期もあった。そんな魈をその魔神の元から救い出し、魈という名前を授けてくれたのが岩王帝君である。

 

 魈はその時から岩王帝君に忠誠を誓い、この魔神の元でなら命が尽きるまで戦ってもいい、そう感じた。

 

 

 しかし、「殺生は我に任せろ」と魈が岩王帝君に申し出た時、岩王帝君は難しい顔をした。その真意を問えば、岩王帝君はこう言った。

 

 

――――どうも、お前より昔から仲間にいる夜叉と比べてしまってな。

 

 

 魈はその言葉に顔には出さなかったものの不満を募らせた。

 その言葉は遠回しに、魈の実力では足りないと言っていたようなものだったからである。

 

 自惚れではないが、魈は自身の実力に自信を持っていた。それを真正面から否定されたような気がして、魈は無性に腹が立っていた。

 

 

 ……その噂の夜叉に、直接戦いを挑もうとするくらいには。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我はその時の兄上の強さを忘れはしないだろう。

 

 風を扱う我と、氷を扱う兄上。槍を扱う我と、大剣を扱う兄上。

 

 こちらが不意を突かれたり、相手が予想以上の強敵でない以上、『速さ』とは即ち『武器』となる。

 

 舐めているのか、我はそう兄上に言ったが、兄上はその柔和な笑顔を絶やさずに舐めていないよ、と言う。その余裕そうな態度と表情が、若かった我を益々怒り狂わせた。

 

 

 風を纏って高速で妖魔を突き刺す『風輪両立』を行使し、兄上の腹を貫く。そういう腹積もりで攻撃したはずだったのだが、我のその一撃は()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、気づけば我は岩山にめり込みながら血を噴き、そして地に伏した。

 自身が反撃されたと気づいたのは、気を失った我が帝君の居城で目を覚ました後だった。

 

 

『思ったより強くやりすぎてしまったようだ。すまない。詫びと言ってはなんだが、君のお願いを一つだけ聞こう』

 

 

 我が目を覚ました寝床の隣で、椅子に腰かけた兄上がそんなことを言ってきた。

 その余裕綽々な態度を見て再び腸が煮えた我は、兄上に向かって拳を振りぬいたが、病み上がりの貧弱な攻撃では兄上に受け止めて貰うことすらできず、ほんの少しだけ体の軸をずらされて回避されてしまった。

 

 

 そこから、我は兄上によく勝負を挑むようになった。

 この『兄上』呼びも、その過程で我から提案したものだ。不思議と、兄上からは言葉には言えぬが『兄弟』のようなものを感じた。

 

 我が兄上に挑み、強くなった我を「流石だ」と褒め、そしてそのあとに我を上回る圧倒的な力を以て我を倒す。それが、『あの時代』の日常だった。

 

 

 

 

 ……我は、同じ夜叉だというのに、兄上の耐え難い苦痛に気が付くことができなかった。

 

 魔神の気配が凄まじく濃く残る残滓は、我が一度吸えば『靖妖儺舞』に匹敵するほどの苦痛を伴った。

 

 兄上は、その苦痛を何度も何度も味わい続け、そして我ら夜叉や仙人に悟らせないようにそれをひた隠しにして笑顔でふるまっていたのだ。

 

 雑魚の魔物を倒して苦しんでいた我に、恥を知れと叫びたくなった。

 あの耐え難い苦痛を、兄上は1000年以上も身内に悟られることなく耐えていたのだ。きっと、誰も与り知れないところで呻いていたに違いない。恐怖に支配されていたに違いない。――――助けを、求めていたのかもしれない。

 

 

 我は、兄上の弱いところを曝け出すに足りる器ではなかったのだ。

 

 

 

 兄上がいなくなって、璃月では一時期魔物や妖魔が大量に発生した。

 本来ならば、それらは兄上が一人で処理していたものだったらしい。数多の妖魔たちを滅してきた我ら夜叉からしても、その数は()()だった。

 

 

 我らは、兄上に頼りすぎていたのだ。

 

 帝君が、そう嘆いていた。

 

 

 否、誰もがそう嘆いていた。我も、そうであった。

 

 だから我は、ひたすらに妖魔を滅した。

 自分の罪から逃れたかったから、兄上の代わりになろうとしたから。兄上が自身の苦痛を徹底的に隠しながらも愛し、守った璃月のために。

 

 

 

 

 

――――それでも、我の動きは記憶の中の兄上には、到底及ばない。

 

 

 何から何まで、全ての挙動が兄上の劣化。

 

 

 

 

「…………ちっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭の片隅から、空から見せられた『彝面』が離れてくれなかった。

 

 

 




どうやら夜叉くんには周囲の方々をブラコンにさせる特殊能力があるようです。

本編のエンディングはどれがいい?

  • 甘雨とほのぼの√
  • 鍾離&始帰の養子√
  • 魈と一緒に治安維持√
  • 申鶴の修行監督√
  • 孤独の旅√
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