前回更新から一体何があった……
※あとがきに今後について載せてあるのでぜひ一読していただけると幸いです。
「鍾離……!」
「空、パイモン、来てくれたのね」
「はい。胡桃が伝えに来てくれたので」
胡桃に案内された鍾離先生の自宅。
そこの寝室のベッドの上で先生は力なく横たわっており、始帰が彼の手を優しく握っていた。しかし先生はその手を握り返す余裕もないのか、手に力は籠っておらず、だらりと開いたままであった。
始帰とは反対の方に医者がおり、先生の容態を詳しく検査しているようだが、難航しているのか表情は険しいままだ。
「……先生に
そして険しい表情のままの医者からそう伝えられ、『異常はない』と診断されつつもパイモンを除いた全員は医者が言わんとしていることが予測できたのか表情を少し暗くした。
「異常がないのか? なら、大丈夫だな!」
「ええ。しかし、それが問題なのです」
「え? どういうことだ?」
状況を理解できていないパイモンが医者に尋ねる。
かくいう俺も、蛍と長い間旅をしていなければ理解はできなかっただろう。
「何の前触れもなく急に倒れたのであれば、体のどこかに異常があるはずです。
脳、心臓、その他どこかの臓器……。しかし検査の結果、先生の体にはどこに異常が見られない。
はっきり言って、
――――医療的な視点からではどうにもならない『未知の力』が働いている可能性があります。
「お役に立てず、申し訳ない」
「いいえ。そんなことはありません。来ていただきありがとうございました」
医者は申し訳なさそうに頭を下げると、先生の自宅を後にした。
彼は水元素を巧みに使って患者の内傷や外傷を見極め治療するという璃月随一の医者なのだが、その彼でもどうにもならなかったことを考えると、彼が最後に言った二つの可能性が鍾離先生が倒れた原因である可能性が極めて高い。
「空、あなたにしか頼めない事を今から話すわ」
と、そこへ鍾離先生の手を握っていた始帰が、神妙な面持ちで俺に話しかけてきた。
どうやら、胡桃に俺の事を呼ばせたのは俺にこのことを話すためらしい。
「決して一般人には話せない内容になるから、貴方に託すわ。あぁ、堂主さんは大丈夫かしらね」
「それは私への信頼と取っていいのか、それとも別の意味になるのか……」
ジト目で見つめる胡桃に、始帰は「ふふふ」と蠱惑的な笑みを浮かべて、そして俺へ向き直った。
「夫のこの症状。
そして、この症状が出ていたのは――――
ここまで言えば、ちょっとだけ察しの悪いパイモンでも分かるわよね、と始帰は言う。
パイモンも「おい!」と言っていたが、流石に始帰の言葉を理解できたようで、「じゃあ、それってつまり……」とこれから璃月に訪れようとしている最悪の事実を脳内で結論付けたようで、顔を青くしていた。
「始帰さん。それってつまり、その『夢の魔神』が私たちの知らないところで復活して、鍾離先生に能力を使ってる……ってことでいい?」
「ええ。当たりよ堂主さん。
……わたしには、戦う力がない。ずっと昔から『誰かを倒すこと』よりも『誰かを倒す方法を考えること』の方が秀でていたから。
空、わたしは貴方に無限の可能性を感じているわ。それこそ、あの時夫に感じた可能性よりも。
だから、お願い……わたしの夫を……助けてくれないかしら……!!」
始帰の瞳から、涙が溢れ出す。
きっとこのままでは、鍾離先生はその夢の魔神に操られて、そのまま眷属として璃月に攻撃を仕掛けさせられてしまうだろう。
甘雨の話を聞いた限り、夢の魔神は岩王帝君に一度敗れ、そしてその後に岩王帝君の眷属である久劫にも敗れている。であるならば、その岩王帝君が作った街を滅ぼそうという結論になるだろうということは想像に容易い。
……いや、だとしなくても、俺たちの結論はとうに決まっている。
「あったりまえだ! 鍾離にはオイラたちは何度も世話になってるからな!
それに、オイラたちは何度も魔神やファデュイの執行官と戦ってるんだぞ! 今更魔神なんて怖くないぞ!」
「戦ってるのはパイモンじゃなくて俺だけどね。
でも、先生にお世話になっているのは変わりありません。俺たちしか頼れないなら、俺たちが全力で先生を助け出して見せます……!」
「私も行く。旅人と比べたら見劣りしちゃうかもだけど、鍾離先生にお世話になっているから、このまま見ているだけだなんてできっこない」
「パイモン、空、堂主さん……ありがとう」
「始帰は鍾離の手を握るっていう大事な役目があるからな!」と言ったパイモンに始帰は「そうね」と笑顔で返したところで、俺たちは先生の家を後にする。
……なんのヒントもない。
夢の魔神がどこで復活したのか、どんな容姿をしているのか、どんな声をしているのか、何も分からない。
けれども、やるしかない。
そして、このタイミングで復活した夢の魔神が鍾離先生と関わっている以上、同じタイミングで戻ってきたと思われる久劫にも大いに関連性はあるはず。
だから恐らく、どちらかを見つければ、どちらかが見つかる。なんとなくだが、そんな気がする。
何もない以上、勘だろうが何だろうが頼らなければならない。
璃月のために、やるしかないんだ。
(おや……?)
未だに膝枕のやめるタイミングが分からない申鶴は、膝の上に乗せている久劫の邪気が恐ろしく減少していることに気が付いた。
自身の術は対して効果がなかったはず。ならば、膝枕が本当に効いたのだろうか?
と考えた申鶴は、ここらが潮時だと思ったのか久劫の体を優しく地面へと下ろした。そしてふと洞穴の外へ目を向けた時、不自然に揺らめく人影があることに気が付く。
(少なくとも先ほどまで人の気配はなかった。そして、輪郭が不気味に揺らいでいる……魔物ではなく妖魔の類か)
自らの得物である『息災』を構えた申鶴は、洞穴から出て璃月港方向へ向かうその不気味な人影に向かって攻撃をしようとしたが、
「――――ッ!!?」
洞穴のすぐ横で待ち伏せするように待機していたヒルチャールの攻撃をうまく受け流せずに、申鶴はそのまま横へ吹っ飛ばされてしまう。
それは明らかに普通のヒルチャールとは違う、凄まじい威力の一撃だった。
「ye ika mi biat ye kundala!!!」
「っ!」
仙人の修行をこなして、戦闘技術に於いても一流である申鶴ですら反応するのがやっとの速度で様子のおかしいヒルチャールが肉薄する。
なんとかギリギリのところで反応できた申鶴は『息災』を使って受け流そうとするも、攻撃の速度が速すぎて上手く捌けず、殺しきれなかった勢いがそのまま申鶴の腕にビリビリと伝わる。
「……ッ! 氷像っ!」
質で劣るなら数だと、何とか隙をついて氷像を生み出した申鶴だったが、
「なんだとっ!?」
生成された氷像はヒルチャールが棍棒を一振りしただけで呆気なく壊され、氷片となって地面に転がった。
驚いてしまった申鶴に一瞬生じてしまった隙。ヒルチャールは容赦なくそこを突き、がら空きになった申鶴の頭を棍棒で殴ろうとして――――
「ye……?」
――――振りかぶっていた棍棒が、何か強い力に止められて動かないことに気付いた。
「! 主は……!」
血で染まった白い髪、元素枯渇と復活を繰り返したことによって定着してしまった顔の罅、そして紺碧の瞳。
申鶴は見たことがある。否、見たことがあるどころか、先ほどこの地で救出し、術を施した張本人――――
「数千年もしぶとい魔神だ……
お嬢さん、怪我は……しているようだな。
僕としたことが、あの時仕留め損ねていたとは……」
――――羅刹大聖妖滅夜叉訪凞こと久劫、その人であった。
魔神復活で璃月民不安よな。夜叉、動きます。
そして胡桃の言動を考えるのが難しいんじゃぁ……
【今後について】
この小説を投稿開始&毎日連載を始めてから一週間が経過いたしまして。
投稿開始時はまさかこんなにも多くの方に読んでいただけるとは思ってもおらず、赤評価がついたり、お気に入りが100を越えたりした時は何かの間違いなんかじゃないかと嬉しさよりも怖さが勝った瞬間があったのは事実です。
それでも評価してくださっている方々がおり、沢山の声援を頂き、作者のモチベーションは従来予想していたものより遥かに高い状態を維持できております。
読んでくださっている方々、本当にありがとうございます!
さて、作者的には本編は折り返しを迎えまして、残り一週間で完結まで持っていけるように現在プロットを調整中であります。
本編完結後は、アフターストーリーだったり『甘雨とほのぼの√』ではない場合のifだったり、今後も来る原神のイベントだったり、メインストーリーだったりに夜叉くんを絡ませたいと言った感じで進めさせていただきたいと思っております。
(本編のヒロインが甘雨なので、ストーリーとかに絡ませる場合は大体甘雨と一緒になってしまうかと思いますが……)
無論、作者が学生であるためにテスト期間などはお休みを頂く場面もあるかと思いますが、どうぞ今後とも「6人目の『仙衆夜叉』」をよろしくお願いいたします。
……これ、本編完結時に言うことじゃね? とここまで書いて気付いたのは内緒です。
久劫の設定や過去話
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今のまま。だんだんと小出しする。
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もっと物語内で増やして。
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設定集を出してそこで全部説明