……富士山麓の余人には入り込めない異界にある【万神連合ネオベテル・ウルトラスープレックスホールド】の本拠地にして、異界の知識を有する多くの転生者が訪れる【博麗神社】の主に会議などで使われる広間。
その内部を薄暗闇に包まれており神社の巫女にしてネオベテルの盟主を務める【博麗霊夢】が、自身の仲魔でありネオベテルの実質的な運営を任せている相方【リムル・テンペスト】と神社の主祭神の分霊たる神造魔人【アカガミ】を両脇に侍らせながら、畳の上に敷いた座布団の上に綺麗な正座で座っていた。
「……さて、ではネオベテル幹部会議を始めましょうか」
そう言いながら霊夢こと脇巫女ネキが指を鳴らすと共に広間の明かりが灯り、その部屋の中にいくつも配置されていた『【SOUND ONLY】と書かれた黒い板状の装置』の姿が浮かび上がった。
そして、それらの黒箱が一斉に僅かな起動音を鳴らすと共に、それぞれの箱に取り付けられたスピーカーから複数の人間の声が聞こえて来たのだ。
『ザザッ……あー、あー、聞こえてますか? 聞こえてますね! 長距離秘匿通信用デバイス【ブラックボックス】の稼働状況は問題なし、相互音声通信及び科学魔術ハイブリッド式セキュリティも良好な様ですね!』
『しかし、このデザインはどうにかならなかったのか? まあ態々会議の為に富士山まで行かなくて済むのは有り難いんだが』
『キヒヒヒヒ、私は中々気に入ってますわよ。外連味に溢れていて』
『単なるネタだろ。……というか、いきなり自宅にこの黒箱を届けられて困ったンだが』
『音声だけで映像は無いんだな。この辺りセキュリティの問題みたいだが』
『送るデータは少ない方が隠蔽性が高いらしいわよ』
その黒い箱もとい長距離秘匿通信用デバイス【ブラックボックス】から聞こえてきたのは、ネオベテルに所属する転生者の中でも所謂『幹部』などと呼ばれる高位霊能者達の声であった。
この【ブラックボックス】は2機1組の通信装置であり、この大広間と各支部の支部長室や幹部メンバーの住居にそれぞれ配置されてこの様に遠隔でも会議が出来る様になる代物なのだ。
「まあ、この業界覗き見する神や悪魔には事欠かないからねぇ。一応アカガミと私による対神格用防御術式とロボキチニキによる機械的なセキュリティ、他複数の機構を詰め込んだハイブリッド回線になってるから、オカルトと科学の両面でこちらを上回る最高峰の能力が無いと盗み見出来ない筈」
『最新の電子技術と造魔系魔術技術その他諸々を組み込みましたからね! セキュリティの関係上音声しか送れませんが、逆に普通の音声以外の呪術とかも送れない様になってるので!』
『無駄に凄い技術が使われてるな。そこまでする必要があったのか?』
『まあ他言無用な会議を行う場合は役に立つだろう』
『何か隠し機能とかありそう』
そんな無駄に高度な技術を使って作られた【ブラックボックス】ではあるが、それ故に音声のみのやりとりだけで問題なく多人数での会議を開けるレベルの出来となっていたのは流石ネオベテルの誇る変態技術者達と言えるだろう。
「さて、通信の様子も問題無いみたいだから早速幹部会議を始めましょうか」
『いやちょっと待て。いきなり届いた箱使ってこの時間に通信しろとは言われたが、俺は幹部になったつもりはねェぞ』
『俺も試される大地で一般霊能者としてやってるだけなんですが……』
『俺は只の一般薩摩民なのに……』
『俺も単なるメイド好きなんだけどにゃー』
『長距離秘匿通信機能のテストじゃなかったのか?』
そうして幹部会議を始めようとした脇巫女ネキだったが、その前に【ブラックボックス】を通信用デバイスと言われただけで受け取っていた地方にいるメンバー達から疑問の声が上がった。
「やだなぁ、地方メンバーで黒箱持ちに選ばれたのは実力や地元霊能組織との繋がりから幹部候補(強制)って扱われてる人達だけだよ。地方支部(予定)が出来た暁には支部長(予定)にさせる感じだから」
『『『『『ちょっと待て、それは聞いてないぞ!!!』』』』』
「ああ待ってくれ地方民組。あくまで予定で決まったわけじゃ無いから。……それに今回は本当に通信テストと地方の状況を会議で話して貰うのが目的だし、支部長云々は地方支部が出来る予定が正式に決まった時に改めて決める事になるからな」
脇巫女ネキからのそんな無茶振りに反発する地方メンバーだったが、そこはスライムニキがまだ決定した訳じゃないからあくまで地方にいる転生者の代表として会議に参加してほしいなどと色々説得する事で事なきを得た。
……まあ地方云々の話が決まるのにはまだ大分時間が掛かるし、それまで有望なメンバーを会議に参加させ続けてなし崩しに幹部や支部長にさせれば良いだろうという考えもスライムニキにはあったのだが。
「じゃあ改めて会議を始めるわね。……まずは帝都ヤタガラスとの協力関係について帝都支部とデビルサマナー組から報告をお願い」
『分かった。……現状帝都ヤタガラスと我々ネオベテルの協力関係は概ね良好だ。こちらは主に関東圏に出来た異界や発生した悪魔事件の解決を行なったが大体上手く行っているし、ヤタガラスから派遣された霊能者とも多少のトラブルこそあれど全体としては上手くいっている』
『帝都のヤタガラスは積極的に他組織との協力関係を結ぶ方針なのが大きいからにゃー。こっちがオカルト素人かつレベル高い人員が多いから多少のすれ違いとかはあったが、民間上がり故の真っ当な倫理観を持ってる奴らが多いから全体としてみれば好印象って感じ』
『COMPについては彼方から供給の要望と技術協力の要望がありましたので予定通り売買を始める準備を整えましたお。それと並行してサマナーとしてのノウハウの提供やヤタガラスが持つオカルト系技術の供与に関して彼方に要望を出しましたが、そちらについても向こうは積極的な様子で何人かの霊能者を技術班として派遣するつもりと言っていましたお』
『彼方からは一定数のCOMPの買取と共同での技術研究の要請が来てます。帝都ヤタガラスの技術主任である【櫻井博士】からは自身や柊家・更織家の人間をネオベテルへ派遣するなどを提案されました』
彼らの報告によると現状の帝都ヤタガラスとネオベテルの協力体制はかなり上手く行っており、COMPという原因があるとはいえ重要な研究員の派遣を行なっても良いと思わせる程度には信頼関係を築けている様だ。
……尚、ヤタガラスの視点だとこれまでは人員が足りなかった所為で後回しになっていた関東圏の脅威度の低い事件を次々と解決してくれただけでなく、悪魔召喚師の本場である葛葉の視点から見ても色々やば過ぎる性能のCOMPなどという魔道具を持って来ている以上は仲良くする以外の選択肢が無いのだが。
『でも悪魔召喚師のノウハウとか役に立つんかにゃー? 霊能者家系の技術って幼い頃からの修行漬けの日々が前提のが殆どだし、そんなクソ厳しい修行に耐えられる“俺ら”っていんの?』
『まあ修行とかは希望者だけでいいんじゃないですかね。……それよりもこちらが欲しいのはヤタガラスや葛葉が有する封魔管などの悪魔召喚師が使う技術や術式の方ですから。この辺りは流石に千年以上の歴史を有するのは伊達では無く、脇巫女ネキも知らない様な術式も幾らかあるみたいですし』
「私の技術も葛葉由来のモノなんだけどねー。それなりに古い家系だから先代以前は葛葉みたいな他の霊能者家系と婚姻を結んで、その際に色々と技術や知識がウチに残ってるのよ。まあ流石に基本的な事ぐらいだから葛葉の技術とかを全部知ってる訳じゃないけど」
『それなりに古い……2000年前ぐらいから続いてるって聞いたぞ。葛葉家より圧倒的に古いってライドウが言ってた』
『まあ脇巫女ネキがヤバいのは分かりきった事だし今更』
『ところで脇巫女ネキは結婚とかアバァーッ!?』
『雉も鳴かずば撃たれまいに……』
そんな風に色々とありながらも会議は続いていき、最終的には『とりあえず帝都ヤタガラスとの関係は順調だし、今まで通り協力しつつCOMP関係の技術提供も進めていこう』という当たり障りの無い結論に落ち着いた。
『それとCOMPならびにデビルサマナー関係での報告なのですが、技術班とヴィクトル氏の協力によってプログラムを使った【悪魔合体】の技術が一先ず完成しました』
『『『おお!』』』
『まあまだ改良点はありますがそこは今後ヤタガラスとも協力していけば十分どうにかなる範疇です。……それでですが技術研究の際にヴィクトル氏を通じて他の悪魔合体師との伝手も作ったのですが、その際にCOMPの事も話さざるを得なかったので販売要望が結構来てます』
『つまりCOMPの販売経路を増やすと?』
『まだメンバー内にも行き渡って無いんだが』
『技術班が転生者が運営しているIT企業と協力して生産を続けているんだが、何せ物が物だから中々……』
「流石に生産速度をこれ以上に上げるのは無理だからなぁ。……とにかくまだ量産体制が上手くいってないとでも言っておけ、他に要望出してるヤタガラスとかも含めてな。それとCOMPはプレミア感つけて可能な限り高値で売り捌け、そうすれば金も稼げるし販売数も減らせるだろ」
実務を担当するスライムニキの提案に技術班・事務員達・財政担当スポンサー達も賛成したので、彼らは今後のCOMPの販売計画などをオカルト業界に詳しいメンバーと共に話し合っていく。
……そして今後の各種取引計画や技術班の開発生産計画、そしてまだ予定段階ではあるが一般販売やそれによる影響と対策について一通り纏まった所で、次に会議の内容はメシア教ガイア教などの危険組織への対応担当幹部達からの報告へと移っていった。
『メシア教の動きに関してだが、まず一般信徒に関しては俺が見た限りまあいつも通りごく普通の生活だな。それで次に霊能者系派閥の方だが意外にも現状表立った動きは見えない。どうやら上昇したGPへの対処と日本にやって来た【アンデルセン神父】が及ぼした派閥間の影響の所為で動きが鈍っている様だ』
『少なくとも最近連中が起こした規模のでかいヤバい事件は例の【リフレイン事件】ぐらいだな。……まあ俺らが感知出来ない裏側では色々やってるんだろうが』
『メシア教だからなぁ……』
『GPの上昇は異界とか霊地を複数抱えてる大組織程影響が大きいみたいだからなァ。ウチの【大社】やヤタガラスもそうなンだし、現状この国最大の霊的組織であるメシア教なら影響は当然デカいンだろ』
『まあメシアの動きが現状鈍いのは不幸中の幸いか。これなら俺達も少しは動きやすい』
世界的なGPの上昇の影響は思ったよりも大きく、特に異界や霊的の管理がこれまで通りいかずにどうしても大規模な管理方法や仕様変更を行わなければいけなくなるので、巨大な組織でそれらの管理をマニュアル化した組織あればある程に手間が掛かるものなのだ。
新興組織である事と脇巫女ネキや魔女ネキによって上昇するGP含めて考慮した完璧な霊地管理を行うという出鱈目で対応しているネオベテルや、長い歴史からGPが上昇した時のノウハウも持っているのでどうにか対応出来ているヤタガラスと違って、この日本に本格進出してから100年も経っていないメシア教はその分対応に苦慮しているのだ。
『とは言え、連中が大人しくしてるのも今の内だけだろうし、そもそも活性化した異界や悪魔事件を解決してるのは
『大体九割ぐらいの表と下はごく真っ当な人間なのですけど、残り約一割の上と裏側がお排泄物なのがメシア教ですからね。実際私も周回知識を活かして非合法胸糞実験の被験体となっていた何人かの霊能者を助け出しておりますし。今は神父ニキの元で保護して貰っていますが』
『ああ、“彼女達”はちゃんと保護しているさ。……だが、やはり実験の後遺症のせいか脇巫女ネキ謹製の結界内部での長時間生活や、魔女ネキ謹製の薬による治療を続けねばならないのが心苦しいが』
『やっぱりメシア教はクソ』
『そういう悪魔被害者の治療も魔女術にはあるけど、やっぱメシア暗部の人体実験だけあって治すのは中々難しいのよね。下手に弄ると人間辞めて天使になりかねないし、今は症状抑えるのが限界だよ』
「周回ネキから実験のデータは貰ったけど十字教的のかなり特殊な術式だから知識的に専門外なのが痛手ね。彼女達がもう少し心身共に成長してから、実験で植え付けられたモノを自分の異能に出来る様に調整と修行を行うのが一番成功率が高いわね」
「後は神父ニキが進めてる【まともな頭持ってる天使召喚計画】か。なんだかんだで被害者に施されたのが一神教の術式である以上は天使に手伝わせた方が効率が良いからな」
『ああ、わざわざ天使召喚なんてやってるのはそういう理由もあるのか』
そう、神父ニキが他の転生者から色々と文句を言われながらも天使入り造魔や天使召喚の研究を行っていたのは、自分や部下に使わせる用以外にもこういったメシア教暗部の被害者を救う為という理由もあったのである。
……いくら脇巫女ネキや魔女ネキと言っても専門外の超高度な術式やそれにより複雑に改造された霊能者の治療は難しいので、一神教系列の知識や治療に長けた高位
『それにメシア教実験の被害者を治療する方法を確立出来れば、今穏健派の幹部やってる俺の昔の友人──ルルーシュをこっち側に引き込めるだろうしな。……アイツの妹さんもメシア教暗部の実験の被害者で視力と足を奪われてるから』
『ああシスコンだからね……でもなんでそんな状況なのにメシア教幹部なんてやってるのか』
『多分妹サンの治療の為だろうがよォ。一神教系の術式でないと治療出来ない以上はメシア教で幹部やるのが妹サンの保護には一番なんだろうよ』
『あー成る程。……でも幹部なら天使の力を借りて治療ってもメシア教の天使とかメシアン科学者とか信頼できんよな』
『せやね』
『残当』
『まあ大体そんな理由で内心『メシア教死ね!』って思いながら幹部やってるのが俺の友人な訳だから、絶対に妹さんが助けられるならこっち側に味方してくれるよ。もしかしたらオマケで変な仮面マントも付いてくるかも』
『草生える』
「まあメシア教相手は神父ニキを中心に対応していきましょうか。メシア教被害者の治療法に関しても引き続き研究を進めていくって事で、ヤタガラスや悪魔合体師達の協力も取り付けられる様にしておきましょう」
とりあえずメシア教に関しては『注意しつつもまだ辛うじて話が分かる派閥を引き込む事も視野に入れて対応していこう。出来ればヤタガラスがなんとかしてくれないかなぁ』と言った方向に収まった。
『さて次はガイアだが……まあいつも通り色んな派閥が好き勝手やってるにゃー。一応大派閥はメシア教と同じ様にGP上昇への対応に追われてるみたいだが、仏教系の土着組織基盤の派閥は既に対応を終えてるっぽい』
『最近力を増してるのは【黒の騎士団】だな。新興組織故に地盤が少ないから上昇したGPの影響を余り受けず、余裕のある戦力を他の反メシア系派閥に貸し出して影響力を上げているらしい。例のリフレイン事件の首謀者を倒したネームバリューを活かしているみたい。リーダーのゼロはかなりのやり手だな』
『その他個人ヤバい系戦力に関してはどこぞで暴れたとかの噂話しか聞かないな。まあ組織的な行動を取らないならネオベテル自体に大きな影響は無いだろうが』
『ファントムの方は最近下っ端がこっちにちょっかいかけて来る様になったな。なんかCOMPが狙いっぽい』
『目を付けられたか、面倒な。原作からしてサマナー組織だからか?』
『天海市の方は着々と計画が進んでる。大物政治家とか財界のヤベーヤツも関わってて、今の所計画自体に怪しげな所は見つからないから止めるのは無理だな』
『なので逆にこっちも一枚噛ませる方向でやって行きたいんだが』
「やっぱCOMPの扱いはなぁ。一組織が完全に独占するのは無理なレベルの技術だし……ヤタガラスとかを巻き込みながら、例の民間サマナー組織【人外ハンター協会】の設立計画も視野に入れるべきか?」
『地方への支援まだー?』
『【大社】の方でネオベテルについて色々聞かれてるから、とりあえず協力したいと思ってるって感じに話を通しておいて良いか?』
『北海道土地広過ぎて手が足りん』
『それを言うなら恐山がヤバいんだけど……』
そんな感じでネオベテル幹部会議は比較的順調に進み、最初は戸惑っていた地方メンバーも地方の現状などを積極的に発言していくなど大分慣れた様子であった。
……尚、脇巫女ネキとスライムニキは『よし、あと何回か繰り返せばなし崩しに幹部入りさせられるかな』などと考えたりしていたが。
あとがき・各種設定解説
【ブラックボックス】:物凄く手間のかかった通信機
・博麗神社にある受信側は二メートル弱の大型の板だが、それぞれの幹部(候補)メンバーが持っている送信側は50センチ程度の小型の黒い板で付属するマイクとヘッドホンを使って通話する。
・送信側の使用には事前に登録された幹部の科学的生体認証と魔術的霊力認証の二重認証で使用可能になり、遅れるのは普通の音声のみなので博麗神社に装置を介して呪術を送る事は出来ない仕様。
・会議以外にも普通に脇巫女ネキへの直通回線として使用可能な他、実は受信側には脇巫女ネキ達製作者しか知らない隠し機能があるとか。
天使召喚:実態は対メシア教用の計画
・メシア教が使う一神教式の術式に対抗する為に天使系悪魔の分霊を改ぞ……洗の……浄化(大本営発表)する事で人格を真っ当にして使役・運用する計画で、それに沿った造魔やデビルサマナー用分霊召喚などが行われている。
・実際メガテンクソ天使を運用しているメシアンとその他一神教派閥のエクソシストでは一神教術式の運用能力に大きく差があるので、そこをどうにかする為の計画である。
読了ありがとうございました。
中々進まない展開ですが、この世界では色々な勢力がお互いに牽制しあっているので勢力拡大を慎重にやらねばならなくなってます。その間にもGPは上昇しますが。