Sprint To Heaven ~笑顔のその先に~   作:エガヲ

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#6 悲壮

 二月十二日、深夜。

 消灯時間を優に過ぎており、廊下の照明なども消され、この暗がりの中、寮内を出歩く生徒などは皆無であった。

 一日が終わり告げ、後は明日の始まりまで静かに眠るだけ――。

 

 そんな中、ユーセイトップランは眠りにつけずにいた。

 電気の消えた真っ暗な部屋の中、壁にもたれかけながら自分の心拍音と呼吸音しか聞こえないような静寂に包まれた暗い部屋で一人で過ごし、『夜がこんなにも長く静かなもの』だと、久しぶりに思い出していた。

 

 はじめは時間通りに就寝しようと心がけた。

 だが何度、床に就こうとベッドの中でまぶたを閉じてみても、虚しく時が流れるばかりで眠りに入っていくことはなかった。

 一度こうなってしまうと、もう駄目である。

 普段はどうやって眠っていただろう……いくらでも時間があったためか、ゆっくりと記憶をたどる。

 

 いつもであればそう……同居人の彼女と明日はどうしようか、何をしようかなどと些細な雑談をしている内にお互い眠気がやってきて、もうこんな時間か、と時の流れの速さ実感して、その後『おやすみ』と、挨拶を交わしてベッドに入り、そのまま自然と就寝していた。

 

 ああ――そうだった、そうであった。

 何気ない日常の中にでも、いつも彼女がいた……エガオヲミセテと過ごしていた。

 だが今はどうだ。

 もう彼女はいない、もう戻らない……その事が自分を狂わせているのだと気づく。

 

 エガオヲミセテがこの部屋に来るまでは一人で過ごすには慣れていたはずだった。

 けれど彼女と共過ごしてきた三年間という月日は、あまりにも大きく……かけがいのないものへとなっていた。

 だからこそ、ぽっかりと半分だけ空いた隣の部屋――彼女がいないという事実に慣れる事が出来なかった。

 

(もし私が……、エガオが合宿に行くのをもっと反対していたら……こうはならなかったのかな……)

 ふとそんな考えが浮かぶ。

 後悔後先に立たずとはよく言ったものだが、もしもあの時こうしていれば……と、考える事に何の意味もない。

 しかしそう思わずにはいられない、そう思うことで満たされる一つの感情があった。

 

 自分が悪い、自分のせいだ――と。

 そうやって自分を責めている間は、気が紛れるのだった。

 彼女がいないという事実に、二度と目覚めないかもしれないという悪夢に。

 

 心の中でいくらでも己を罵れた、無力な自分をいつまでも噛み締めていた。

 けして終わることのない自責の念……。

 それはまるでメビウスの輪をなぞるが如く、グルグルと同じ場所を巡り、思考の渦(ループ)へと飲み込まれる。

 

 その日、ユーセイトップランは一睡もする事が出来ず……気がつけば朝日が差し込み、小鳥が鳴いていた。

 不思議と一睡もせずに夜を明かしたというのに、意識だけははっきりとしていて、未だ眠気を覚えずにいた。

「……行かなきゃ」

 時計を確認すると、早朝六時であった。

 

 毎日この時間に起床し、支度をして、朝トレに向っている。

 とりあえずいつもの習慣でまずは顔を洗おうと、立ち上がった瞬間――。

 身体がひどくふらついてしまった。

 

 バランスを崩して倒れるほどではなかったが、いくら頭の方では平気だと思っていても、寝不足が響いている事を、身体は正直に訴えかけてくるのだった。

 そのまま少しおぼつかない足取りで洗面台に行き、正面に立って鏡に写った自分の姿を確認する。

 その顔は……目がうさぎのように充血しており、目元にはびっちりクマが出来ていた。

(ひどい顔……)

 自分でもそう思うのだから、他人から見たらもっと悲惨なのであろう、とユーセイトップランはその無様な姿に少し呆れてしまう。

 

 そんな散々な状態であったが、半ば意地でジョギングへと出かける。

 そしてその後、熱いシャワーを浴びる……といったルーティンワークをこなした。

 もはや何のための早朝練習をしているのかさえ、分からずにいた。

 しかしそうやって目先の目標をこなしている時だけは……心がざわつかず、何も考えずに済んだのであった。

 

 ◇◆◇

 

 時は過ぎ、昼時――。

 本日は土曜日で学校の授業はないため、校舎には生徒の姿は少ないが、その代わりと練習場やトレーニング施設には、トレーニングに励んでいる生徒たちが数多く伺える。

 だが今は昼食時である。

 カフェテリアには土曜も日曜も関係ない。

 お腹を空かした学生のために、休みなく開いているその場所は、いつものようにウマ娘たちで賑わっていた。

 

 いつもであればユーセイトップランも食事をそこで摂るはずった。

 しかし思い返してみれば昨日の夜から何も食べていないというのに、まったくお腹が減っていなかった。

 体が資本のアスリートにとって、このままでは体力が持たないと分かりきっていたので、無理矢理にでも口に物を入れるが……身体がまったく受け付けなかった。

 こんな事は今まで経験がない。

 口に入れた瞬間、食べ物の味などが一切せず、嫌悪感だけが一気に広がってきて、それを飲み込めない。

 かろうじて水分だけは少しとれる程度の気力は残っていたので、気分転換を兼ねて外に出て摂ることにした。

 正直、周囲の食べ物の臭いだけでも、気分が優れなかったこともあったが――。

 

 

 ペットボトルの水をちびちび飲みながら、中庭にあるベンチに座って何をするでもなく虚空を眺める。

 雲が流れていく様を呆然とただ見つめていた。

 そんな心ここにあらずといった風体のユーセイトップランの元に、両手にカバンや大きな手提げ袋抱えた一人の男性が近づいて話しかけてくる。

「よう……ひでぇ面だな」

「――ッ! お、おやっさん……」

 先日、宮城県にある山元トレセン学園へ出かけて行ったはずの、トレーナーであった。

 数日ずっと同じ格好だったのか、トレーナーのシャツとズボンはすっかりヨレヨレになっていた。

「ま、それはお互い様か……。今、戻ったぜ……」

 そう言って皮肉めいた笑みを浮かべる顔には、ユーセイトップランと同じように目の下にうっすらとクマで出来ており、たった数日合わないうちに、どこかやつれたようだった。

 どうやらトレーナーも着替える余裕すらもないほど、過密スケジュールでろくに睡眠を取れていないのが見て取れた。

「その……エガオの様子はどうでしたか……」

 電話で事の顛末をすでに伺っている。

 しかしそう聞かずにはいられなかった。

 ずっとエガオヲミセテの事ばかりが気がかりで、他のことなどまるで身に入っていなかったからだ。

 だがもしここで『もう二度と目を覚まさない』などと、さらなる残酷な事実を突きつけられようものなら……どうにかなってしまいそうで、聞いてしまうのが半分恐ろしかった。

「…………そうだな」

 トレーナーはそう言って軽くため息をつくと、ユーセイトップランの座っているベンチに一人分ほど隙間を開けて、隣に腰掛ける。

 荷物が汚れるのもいとわず地べたに下ろすと、おもむろに胸ポケットにしまってあったタバコを一本取り出す。

「おっといけねぇ……」

 ついタバコを手にとってしまったのは徹夜明けで思考力が低下しており、ほとんど無意識の行動であったが、トレーナーはトレセン学園敷地内では所定の場所以外禁煙であることをとっさに思い返す。

 吸いかけたタバコを手のひらで握りつぶすと、ポケットの中に仕舞う。

 そしてそのまま突っ込んだ手でまさぐると、折りたたまれた紙を代わりに取り出し、ユーセイトップランの方に差し出してきた。

「エガオはこの病院にいる……。俺がここでどうこう言っても余計気になるだけだろ? なら自分の目で確かめてこい……」

 その紙を受け取って開いてみる。

 そこには手書きで、彼女が搬送された病院の住所と名前、そして病室が書かれたあった。

「……どのみちお前の今のその様子じゃ、何やっても身に入らねぇだろうしな。俺の方で外出許可はなんとかしておくから、後のことは気にすんな……」

 寮暮らしであるトレセン学園の生徒達は、規則上どこか出かける際は、事前に外出届を提出して外出許可をもらう必要がある。

 しかしレースに出走するウマ娘などは外出頻度が高く、事ある度に申請して……というのも中々難しい部分もある。

 そのためある程度便宜が図られており、担当トレーナーの許可さえあれば、事後まとめてでの申請でも許されていた。

 ユーセイトップランがこの後すぐにでもそこに向うだろうと、心中を察しての先回りであった。

「あ、ありがとうございます……!」

 トレーナーの図らいにユーセイトップランは立ち上がり、深々と頭を下げて礼を述べる。

 どこまでいっても、この人にはお世話になりっぱなしである。

「構いやしねぇさ。さてと――ここで油売ってる場合じゃなかったぜ……」

 抱えていた仕事をほっぽり投げて宮城の山元トレセン学園の所まですっ飛んで行ったため、やるべき仕事(こと)が溜まりに溜まっているのを、トレーナーは思い出す。

 そしておっさん臭い掛け声ともに腰を上げると、地面に置いた荷持を両脇に抱え、歩き出す。

「……そうそう。戻ったら俺ン所(トレーナールーム)に寄りな。ちぃっと話してぇことがある……。んじゃあな」

 すれ違い際にそう言い残すと、トレーナーはこの場を立ち去っていった。

 

 トレーナーが見えなくなるまでその後ろを姿を見送ると、再び渡されたメモを開いて、書いてある病院の住所をスマートフォンで調べる。

 検索結果を確認すると、彼女が入院している病院はここから少し距離はあったが、電車やバスを使って一時間もかからない、そう遠くはない場所にあった。

 行こうと思えばすぐにだって行ける距離――。

 その考えが思い浮かんだ途端、ユーセイトップランの足はすでに動き出していた。

 

 トレーナーの言う通りであった。

 今だってまだ心のどこかで『本当は無事なんじゃないか』と、頑なに疑っている自分がいた。

 この目で確かめるまでは信じたくはない、認めるわけにはいかなかった。

 ユーセイトップランにはそれだけで理由は事足りた。

 

 寝不足で満足に走れないかもしれない。

 途中でガス欠するかもしれない。

 それでも構わない、気に留めない。

 果たしてその体のどこにそんな気力が残っていたのかわからない。

 

 ただ、会いたい……一目、彼女に会いたい。

 その一心で、居ても立っても居られず、エガオヲミセテがいる病院へ目指してその脚で駆け出した。

 

 ◇◆◇

 

 流石にウマ娘といえども何十キロメートルとある距離を全速力で走り抜けることは到底不可能で、途中何度か休憩を挟みつつ息も絶え絶えになりながら、ようやく目的地へ辿り着く。

 息もろくに整えないまま、汗だくになったその格好のまま受付に駆け込むや否や、「面会に来ました!」と大きな声を出したので、周囲を大層驚かせてしまった。

 

 すぐに彼女の病室に案内とはいかず、しばらく受付窓口の待合スペースで待たさせること数十分、乱れていた呼吸も落ち着いてだいぶ冷静になった頃、職員がやってきて彼女の病室へと案内をされる。

 

 道中、とくにこれといった会話はなく、職員の後を黙って付いていく。

 大きい病院であるとは入る前から建物の見た目でわかっていたものの、中に入るとその広さに圧倒される。

 エレベーターに乗って八階まで上がり、エントラスを抜けていくつかの通りを曲がると、個室の前で立ち止まった。

 どうやら彼女がいる病室に着いたようである。

 案内してくれた職員は一礼すると、「お帰りの際はこの階のスタッフステーションまでお申し付けください」と告げ、その場を去る。

 ユーセイトップランはその職員に頭を下げ礼を返し、それを見送る。

 

 この先に、彼女が居る……。

 いざ、引きドアの取っ手に手をかける。

 ――が、今一歩が踏み出せないでいた。

 

 ここまでは勢いにまかせてこれた。

 だがここから先はもう後戻りはできない。

 しばしの戸惑いがあった。

 現実を直視したくないという気持ちと、もしかしたらひょっこり元気な姿を見せてくれるかもしれない……そんな羨望が入り混じっていた。

 まるでゲートでレースが始まるのを待つ間のように、一旦深く深呼吸をして、精神を研ぎ澄ませる。

「……失礼します」

 意を決して扉を引き、中に入ると、仕切り用のスリットカーテンをくぐる。

 

 ちょうどその先で、窓から日が差してくる。

 思わず反射的に眩しさで目を閉じる。

 束の間、ゆっくりと瞼を開け、ぼんやりと目が慣れてくるのを待つ。

 そして開けた景色に、彼女は居た――。

 

 ベッドの上で安らかに目を閉じている彼女の姿が……。

 

「エガオ……!」

 ユーセイトップランはベッドの近くまで近寄って、彼女の名前を呼びかける。

 ただ眠っているだけかもしれない……そんな淡い期待をのせる。

 けれど……泡となって消えゆくのみ。

 彼女は何の反応も返さず、まるで死んだように眠っていた。

 

 無常――あまりにも救いのない現実が待ち受けていた。

「そんな……あんまりだ……」

 人工呼吸器と点滴に繋がれ、心電図の電子音が規則正しく鳴り響く。

 呼吸の度に胸がわずかに上下しているので、まだ存命であることは伺えた。

 ――しかしそれだけである。

 

 彼女は起き上がらない――喋らない――笑顔を見せてくれない。

 

 絶望的な事実を突きつけられる。

 否が応に、彼女の今の姿を見て受け入れざるを得なかった。

 全ては、この悪夢こそが現実であったと……。

 

 心がどろどろに溶けていく感覚。

 ショックのあまり、言葉すら発するのを忘れていた。

 指先の感覚が失われていく、喉がひどく乾く、目の奥がズキズキと痛む。

 ただうつむくことしか出来ず……ただ唇をかみしめて無力さに震えるだけであった。

 

 いつまでそうしていただろうか……ふと病室の扉が開き、誰がここに入って来た。

「――あれ……ユーセイさん……? どうしてここに……」

 それは髪が短く、少し中性的な印象を受ける小学生ぐらいのウマ娘だった。

 その少女は花をいけてある花瓶を手に持っていた。

 さしずめ花瓶に水を入れて変えて戻ってみたら、なぜかユーセイトップランがここに居て驚いた、という事であろう。

「……あっああ、ごめんね。お邪魔してるね……」

 名を呼ばれ、ギリギリの所でとっさに我に返る。

 ユーセイトップランはこの少女――エガオヲミセテの五歳年下の妹と何度か面識があった。

 会うのは久しぶりとなっていたが、彼女の家に遊びに行ったりお泊り会をした時などに、一緒に三人で仲良く遊んだこともある。

 しかしこうして彼女抜きで二人だけで会話するのは、実のところ初めてだった。

「いえ……姉さんもきっと喜ぶと思います……」

 少女は花瓶をベッドの近くに置くと、物言わなくなった姉の姿を寂しそうに眺める。

 その横顔を見ると、目元が赤く擦れていることに気がつく。

 

 この時――ユーセイトップランは胸に突き刺さる激しい衝撃を覚えた。

 少女が、大切な家族がこのような事態になってしまい、深く心痛めていることに……。

 

 以前、彼女の妹と会った時は、確かに年頃にしては少し控えめで礼儀正しい感じであったが、もう少し活発だっと記憶している。

 彼女――姉のことが大好きで、ずっと姉の後ろにくっついては、子供らしい表情をよく見せていた。

 しかし、その影は跡形もなく消え去っていた。

 

(私はバカだ……自分のことしか考えていなかった……)

 勝手に一人で苦しんで、嘆いている自分が愚かに思えた。

 彼女に対する思いと深い絆を慢心し、人一倍傷ついていると、まるで悲劇のヒロインを気取っていた……。

 それは間違いだ――そんなわけがない。

 それはごく当たり前の事。

 自分だけが悲しんでいるわけではない、そして一番傷ついているのは、彼女と一番近い存在――身内なのだ。

 

 そんな単純な事に、今の今まで気が付かなかった。

 途端にこれまでの自分が恥ずかしくなってくる。

 

 彼女の友というのであれば、ただ嘆き悲しむだけではなく、もっと他にするべき事が、やるべき事があったはず。 

 ならば今自分にできる事は、彼女に変わって悲しみを少しでも和らげる事――そうユーセイトップランは弱っていた心を一旦振り払う。

「その……大丈夫だよ。エガオはきっと良くなる、前にみたく元気になる。そうだ、元気になったら三人で遊園地にでも遊びに行かない? きっと楽しいと思うよ……」

 不器用なまでの、それがひねり出せた精一杯の励ましだった。

 ただでさえ自分に余裕がない癖に、その上誰かを元気づけようなどと、無謀に近しかった。

 誰の目から見ても当たり障りのない、無理やりに取ってつけた明るい感じなだけの話題だったのは明らかだった。

 だが紛いなりにも、彼女の妹が悲しみに暮れているのをなんとかしようと、模索した結果ではある。

「……ユーセイさんも……他の人と同じようなことを言うんですね……」

 しかしユーセイトップランの言葉は届かない、響かなかった。

 むしろそれが地雷だったかのように、少女の声のトーンが一段と低く変貌していた。

 そして鋭い目つきでユーセイトップランを睨みつける。

「……そうやって着飾った言葉を並べられても、何も変わらない……!」

 感情の歯止めが気かない。

 彼女の妹は、何かが決壊したかのように思いの丈を一気に吐き出す。

「僕はそんな慰めの言葉がほしいわけじゃない……! ねえ、本当のことを教えてよ! 姉さんは……姉さんはいつ起きる? どうやったら目を覚ましてくれるの?!」

 少女はそんな感情を大にして物事をいう人物でないと知っている。

 それがそう叫ばずにはいられないほど、追い込まれているのだと、ユーセイトップランは思い知らされる。

「そ、それは……」

 言葉に詰まってしまう。

 医者でもなんでもないユーセイトップランに、そんな事はわかるわけもない。

 むしろこっちが知りたいと思っているほどだった。

 つい感情的に「そんなの事は自分が教えてほしい」と、反論しかけるのを抑えるのが精一杯だった。

 

 ここで、うまくたしなめられるような言葉をちゃんと言えていればよかった……。

 

 だが自分ですら納得していない事、彼女が目を覚まさないという事実から目を背けたい事を、どう他人に言い聞かせればいいというのか――。

 考えるまでもない……そんなものはなかった。

 言葉なく、黙り込むことしか出来なかった。

 

「……みんな嘘つきだ……!」

 ユーセイトップランが口を濁していると、しびれを切らしたのか、彼女の妹はそう吐き捨てるように言い放つと、病室から飛び出していった。

 

 とっさに少女を引き留めようと、何か言葉をかけようとしたが、開けた口からは何も出てこなかった。

 ただ去りゆく後ろを姿を見守るしかできなかった。

 

 その間際、少女の目から雫が溢れていた事に――泣いていた事にユーセイトップランは気づく。

 

 悔しくて悔してただ悔しくて……。

 ああやって他人に当たる事しか出来ない己の弱さにいたたまれず、溢れてしまったのであろう。

 

「……私では誰も、救えないのか……」

 これがもし彼女であったら、うまくやれていたのであろう。

 誰かを悲しみに、泣かせるような真似はけしてさせなかったであろう。

 

 けれどそんな彼女はもういない。

 喋らない――笑わない……。

 

 一人残された病室で、ユーセイトップランは打ちひしがれる。

 彼女の家族に対して、何もする事が出来なかった己の無力さを……。

 

 彼女――エガオヲミセテを失った事の大きさを……。




なんか重い話ばっか続いてスンマセン

■小ネタ解説※ネタバレを含む(興味のある方だけ反転してご覧下さい)
・エガオヲミセテの妹こと、オレハマッテルゼ
エガオヲミセテの全弟で、姉が果たせなかったG1制覇を成し遂げている
ちなみに史実ではエガオヲミセテとの面識はない。

競馬界の中でも屈指の珍名馬で、作中でその名前を出すことが出来なかった。
※女の子なのに”俺は待ってるぜ”って・・・
そのせいで、登場人物の呼称でまた苦しめられることとなる。
※なんかこの作品、登場人物の呼称で苦労しすぎ!

話の都合上、小学生の子供らしく出来なかった点が残念だった。
※思考レベルや発言内容がどうみても小学生のそれではない。

・この6話について
シナリオの展開上、一回下げてこの後上げて話を盛り上げる想定だった。
しかし前回の火事の回想と、エガオヲミセテの不幸、そしてエガオの妹との確執と・・・重い話が続き、危険な領域へと突入する。
うん、ウマ娘でこんな重苦しい話は求められていないっすね・・・。
こりゃ飽きられますわなぁと、我ながら後で思ってしまった。
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