B.A.D. Beyond Another Darkness -Another Story- 作:Veruhu
紅い女……。
雨香は今頃どうしているだろうか。雨香は最後には自分の身を顧みず、僕と繭墨を助けてくれた。雨香の事を僕は怖かったが、それでも自分の娘として愛していた。雨香は今でもあの世界で幸せな日々を暮しているのだろうか。僕の娘で居続けることを望んだ彼女は、本当に、本当にあの選択を正しいものだと思っているだろうか。
――――否だろう。
僕と雨香は絶対的に閉じられた異界と現世との壁にて、再開することが絶望的となってしまっていた。そんな状況下であるのにも関わらず、僕の娘であり続けることは決して好ましいことではない筈だ。
雨香が本当に今幸せなのか。本当に悔いはないのか。それを確かめるまで、僕は絶対に諦めない。繭墨の言う"異界への指針"を見つけるまで、僕は模索し続けるだろう。
僕は例え他人から何と言われようとも絶対に諦めない、曲がらない、そんな一方通行な人間だった。
「…………と、ところで小田桐君。君は……僕のどこを好きになるっていうんだい?」
「えっ?」
僕は一瞬、繭墨から言われた言葉の意味が分からずに聞き返した。繭墨は何故か震えながら体を起こし、ソファーに座った。そしていかにも平然を取り繕うかのようにチョコレートの包み紙を震えながら取り、中身を口に含んだ。
「い、いや、だからだね、小田桐君。君は僕の、どういう所を好いてくれるのかなって、そう聞いてるんだよ」
「どういう所と言われましても…………」
繭墨の好きなところ……か。適当に言ってみたのだが、実際考えようとするとどういう所だろうか。
………………考えても考えても嫌いな所しか思いつかない。繭墨さんの好きなところを上げる事ほど、難しいことはあるのだろうか。
僕は繭墨さんが嫌いだ。だが好いているところが少なからずある筈だ。それは…………
「美しい所、ですかね?」
「美しい所?」
繭墨は首を傾げる。
「はい。まあ繭さんの唯一の取り柄というか、なんというか。まあ、つまりそういうことですよ」
「唯一の取り柄、ねぇ……」
「ははははは…………」
繭墨は僕を睨んだ。僕は思わず視線を逸らすと、笑って誤魔化した。
「ふん、僕と君とが分かり合うのは難しそうだ。"僕はそれを望む"が、君はそれを望まないようだ。まあ勝手にするといいよ」
「…………えっ?」
今繭墨は何と言った? 今、"分かりあうのを望む"などと言わなかったか?
「繭さん、今なんて……」
――ピンポーン
僕は繭墨にその意味を問うとしたが、
僕は一瞬、また陰惨な事件の解決を望む、依頼者が来たのではないかと危惧したが、今の繭墨には異界絡みの異能の力はない。
よって繭墨の関係者はもう、必死になって繭墨を頼ろうとはしないだろうし、それを知らない一般の人間であったとしても、何かしら適当な理由を基に断れば良いだけの話だろう。
僕は立ち上がった。もしかしたら雄介かもしれないし、白雪さんかもしれない。いや、定下の可能性もあるだろう。
玄関に足早に歩いて行くと僕は何の疑いもなく、玄関のドアノブに触れる。しかしやはり警戒心が抜けきっていないのだろうか、一応僕はのぞき窓から外を覗いた。