B.A.D. Beyond Another Darkness -Another Story- 作:Veruhu
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「毎晩寝るたびに首を絞められる……ですか?」
「はい……」
男は頷いた。その男の視線は真剣そのもので、お遊び半分で依頼に来たようには見えない。
「毎晩毎晩、必ず真夜中に目が覚めるんです。しかし目は覚めていても、体中が金縛り状態で、動くことが出来ません。金縛りから抜け出そうと藻掻いているとやがて、天井に白い二つの手が現れます。その白い二つの手はゆっくりと降りてくると、僕の首を掴みます。それはやがて、信じられないほどの力で私の首を絞め、私は抗うことも出来ず…………毎回、死にます」
男は恐怖に顔を歪め、項垂れた。
この男の名前は
この事務所に珍しく訪れた依頼人だが、依頼人がまた新たに来てしまったこと自体、僕には歪に思えてならない。
繭墨は有馬の話を面白そうに聞いている。久しぶりの娯楽に、彼女の暇も解消できるのだろうか。
「助けて下さい……。もう私一人ではどうすることも出来ないんです。ここ以外にも沢山の霊能にかかわる店を廻っては来ましたが、どれもこれも効果は無くて」
有馬は再度繭墨に対して頭を下げた。繭墨はその姿を面白そうに見ながらチョコレートを齧る。
――――カッ、パキン
「――――いいだろう。その依頼、受けようじゃないか。最近依頼が無くて暇をしていたんだ。多少の暇は潰れるだろう」
繭墨は嫌な笑みを浮かべた。僕が嫌いでも好きでもないあの表情だ。彼女はもう僕の嫌いな慈愛に満ちた微笑みは作らない。異界のあの出来事移行、繭墨はもう
「本当ですかッ? ありがとうございます! 本当にありがとうございます! いやぁ、
有馬の顔に笑みが咲いた。お礼を言うたびに頭を下げる。その有馬の姿は最早、もう異変は解決したのだと、言わんばかりだった。
だが僕は有馬の姿よりも、もっと別の事を気にしていた。今、有馬は、
繭墨は確かに裏では有名だが、表では特段有名でもない筈の人間だ。昔、この事務所がネットの掲示板で晒されるようなこともあった気がするが、大したものではなかった筈だ。
しかし有馬は繭墨を
「有馬さ……」
「では今回はこれまでだ。悪いが僕たちには準備がある。君の家の住所を書き置いて行きたまえ。準備が終わり次第、そちらの家に直接伺うとするよ」
繭墨は僕の話を遮ると、そう告げた。僕は繭墨を軽く睨みつけるが、彼女は何も反応を示さない。
「分かりました。そう言われるだろうと
有馬はそういうと、ポケットから紙切れを取り出した。そしてそれを繭墨に、まるで名刺を渡すように丁寧に両手で差し出した。しかし繭墨は、それを受け取るのが面倒だというように、僕に目で合図した。
僕はそれくらい自分で受け取れと、心の中で毒づく。
「すみません有馬さん、頂きます」
「あ、はい」
有馬は貴方ですかというような表情をしながら、軽く会釈しつつ、僕に手渡した。