まだ数を増やす前の「ユミルの民」である双子の少年は、共に巨人を継承しようと志していた。ある日、X代目フリッツ王は「九つの巨人を更に増やそう」と考え、幾つかの策を考えた上で2人を実験台にする。
 これは、そんな少年達の悲劇の物語。



 無垢の巨人の誕生秘話(妄想)です。

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鉄砲玉の少年達

「────ル!ゼブル!ほらさっさと起きな!式に遅れちまうよ!!」

 

「わっ、もうこんなに日が高く昇ってるじゃんか!どうしてもっと早く起こしてくれなかったのさっ!母さんっ!」

 

「あたしはさっきから何回も起こしてたよ!!全く起きなかったのはアンタだろ!朝飯は抜きだよ!」

 

「いらないよ!」

 

 家をも震わせる程の怒鳴り声で叩き起された僕は今日が何の日かを思い出し、朝ご飯も食べずに家を飛び出した。なんてこった、今日は寝坊する訳にはいかない日だというのに。

 

「お、やっと起きたのかゼブル」

 

「酷いよ兄さん、先に起きたなら起こしてよぉ」

 

 風を切ってある場所へ向かっていると、先に家を出ていたバァル兄さんに到着直前で追い付く。僕が軽く愚痴るとニヒヒッとイタズラっぽい顔で笑う。

 

「あーあ、遅れれば良かったのに。そうすりゃあ、ゼブルの継承権は剥奪されて進撃の巨人を継ぐのは俺だけだったのになぁ」

 

「僕だって進撃の巨人が欲しいよ」

 

「フン。まっ、来ちまったモンはしゃーないかな。お前に使いこなせるとは思えないけどな」

 

「なにさ、僕に巨人が使いこなせないなら兄さんも使いこなせないよーだ。僕らの成績、全く同じなんだから」

 

「言うなよ恥ずかしいっ!」

 

「だからこそ2人で継承する事になったんだから、有難いんだけどね。母さんも、最後は喜んでくれたじゃない」

 

「まーな」

 

 今日はエルディア帝国にとっておめでたい日だ。国を支え、様々な場所で活躍する巨人が更に増える(・・・)めでたい日だ。

 巨人の力は、僕の曾祖母──ユミル・フリッツが敵国マーレとの戦争や、土木工事に使用していた。彼女の死後、その巨人の力はユミルの娘、マリア、ローゼ、シーナの三姉妹に受け継がれた。

 僕はシーナおばあちゃんの孫だ。とはいっても、どうやら巨人の力を受け継ぐとそれから13年で死ぬみたいで、僕はシーナおばあちゃんの顔も声も何も知らないんだけど。

 それで、巨人の力を継いだ者は13年で死ぬから、三姉妹の孫の中から、軍隊の訓練を経て力を継ぐに相応しい者を選ばれて、巨人を受け継ぐ。

 それに、僕とバァル兄さんが選ばれた。本来なら巨人の力を継ぐ者は9人だけだったんだけど、僕と兄さんの成績が何度やっても全く同じだから、初の試みという事で、2人同時に同じ巨人を継がせてもらう事になった。

 双子だから、成績も同じなんだろう。これには、上官も苦笑いしてた。だから王様も「2人に継がせ10人目の巨人を作ろう」なんて考えたんだろうな。

 つまり今日はエルディア国に「10人目の巨人」が生まれる日。今日、これからお城で行われる僕達の継承の式には多くの国民が集まるから、今から緊張してしまう。

 

「はー、緊張してきた……」

 

「母さんも見に来るんだからシャキッとしろよな」

 

「分かってるけどさ」

 

 僕達の母さんは、巨人になって働き続け、しかも早死にするのが嫌だからと家を飛び出したらしい。その時に「フリッツ」の名は剥奪された。父さんは、罰として兵役に就いていたが戦争の最中に戦死したらしい。

 それでも、巨人の継承は名誉な事だからと学校で教わったので、僕達は巨人を受け継がせてもらえるように志願した。王様のご厚意で、継承権を賭けて訓練する事を受け入れてもらえたけれど、当時は、母さんと凄く喧嘩したなぁ……。

 

 

 ◆

 

 

「これよりバァル、ゼブルの巨人継承式を始める。ではまず『進撃の巨人』、バルド・シュナイダー。2人に向けて、何か言い残す事はあるか?」

 

「……進め。自分の目的に……やりたい事に向かって全力で進め。『進撃の巨人』は、そういう巨人だ。ずっと、全力で、見えもしない何かに向かってただひたすら進み続ける。何が起ころうと、自分が何をしようとも、それを受け入れろ。それが紛れもない事実であるならば────!」

 

 それきり、バルドさんは覚悟を決めたように目を瞑り、頭を垂れた。それを見て大臣は合図を送り、処刑人が首を落とした。

 そして遺体から背骨が摘出され、半分に切られた状態で僕達の前に置かれる。

 

「では2人共、背骨を食らえィ!」

 

「「はい」」

 

 兄さんと僕はほぼ同時にバルドさんの背骨に齧り付いた。確か、軍の教えでは、脊髄液を取り込めばそれでいいらしいけど、兄さんは骨ごと食べてより注目を浴びたいみたいで、無理してでも食べようとしている。

 だから時間は掛かったけど、僕も見習って骨ごと食べ切ってやった。口の中が骨粉でジャリジャリとする。脊髄液だけ先に飲んでしまったけれど、もし脊髄液と骨を一緒に摂取したら、どんな味がしたのかな。

 

「宜しい!では2人共、手に傷を付けよ!そして、傷を癒して見せよ!巨人になろうなどと思うなよ!さすれば巨人は剥奪、即刻処刑する!」

 

「「はい」」

 

 大臣の合図で処刑人が小さな刃物をそれぞれ僕と兄さんの前に持ってくる。指先をチクリと傷付け、血が流れるのを確認。

 治れ治れと念じてやると、蒸気を上げながら傷は塞がり、瞬く間に治癒した。僕は「進撃の巨人」を継承したんだ。

 確か、九つの巨人に別れたのは先代バルドさんの世代が初めてらしいから、僕達は二代目の「進撃の巨人」になれたんだ。もしくはまた別な巨人に分離しているのかもしれない。

 

「やったね兄さんっ!僕達『進撃の巨人』に……」

 

 隣の兄さんを見ると、何やら刃物で何度も何度も手を傷付けている。顔面は蒼白で、歯をガチガチと鳴らしている。傷は治るどころか増え続けていて、周囲も次第にザワザワとし始める。

 

「どうした、バァル!」

 

「なっ……何でもありませんっ……!何でも!!」

 

 大臣の呼び掛けに震えながら答える。それでも、僕と違い兄さんは傷が治癒しない。それを見兼ねて黙って見ていた王様がガタンと立ち上がる。

 

「もうよい」

 

「ッ!?陛下!わ、私は────」

 

「黙れ」

 

 王の一括で兄さんは黙ってしまった。ペタンと、まるで女の子のように座り、うなだれてしまった。このままでは兄さんが王様に見捨てられてしまう。何か言わなければ──と思ったその時、王様が全く予想外の事を言った。

 

「大臣」

 

「はい」

 

「『顎』と『車力』を招集せよ。バァル、ゼブルはこの場にて待て。式を一時中断とする」

 

「「「はっ!」」」

 

 そう言い残すと王と大臣はどこかへ向かった。

 その後、暫くして雷が2つ、お城の中庭あたりに落ちた。きっと、「顎」と「車力」の2人が巨人化したんだ。

 それからも何もせずに待っていると、大急ぎで、大臣が大きな皿を持ってきた。その上には、シュウシュウと蒸気を上げる巨大な背骨のほんの一部分が血まみれで乗っていた。

 

「さぁ、バァルよ、消えぬ内に食らえ!!あちっ、あちちちっ!」

 

「だ、大臣……これは……?」

 

 兄さんが大臣に問い掛ける。大臣が口を開くより前に、戻ってきた王様が代わりに答えた。

 

「今『顎』に摘出させた『車力』の背骨だ。継承者ではない。巨人そのものの背骨(・・・・・・・・・)だ」

 

「え……!?」

 

「巨人の力を継ぐ為には継承者の背骨を食らう事が必須とされている。しかし、過去に巨人体の背骨を食らうという事を試した例は無いようだ。だから、今、この場を使って試してみる事にした」

 

「へ……陛下ッ……ありがとうございますッ!!」

 

「勘違いするな。貴様の為ではないぞ。『我が国に10人目の巨人を作る』と国中に告知したからには、増やさなくては我の面子が潰れてしまうからだぞ。さぁ、消えぬ内に食らうがいい。『車力の巨人』を貴様も継ぎなさい」

 

「はいッ!!」

 

 そして兄さんが熱々の背骨に齧り付いた、まさにその瞬間。兄さんに雷が落ち、その直後、凄まじい咆哮が放たれる。

 

「グォォオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

「に……兄さん……ッ!?」

 

 兄さんが巨人化した。それを見て王様も大臣も、当然ながら観客達も逃げ始めた。すると兄さんは、兄さんから見て一番近くにいた大臣を手で掴み──悲鳴を上げる大臣を頭から食べた。

 どう見ても、兄さんは「車力の巨人」ではない。僕達を含め少しでも軍に属しているエルディア人は軍の保有している巨人を見た事があった。だから、兄さんが継ぐ事になった「車力の巨人」がほぼ常に四つん這いの巨人なのも見て知っていた。

 なのに、兄さんは四つん這いじゃない。というか何の特徴も無い、まさに「普通」の巨人だ。裸で、けれど生殖器は無くて、外見の特徴が何にも無い。

 

「バァル!バァルや!お前は何をしてるんだい!?しっかりしな!!」

 

「かっ、母さん!?」

 

 離れていく観客達の中、その中に紛れていた人が1人、兄さんに向かって行った。母さんだった。

 すると兄さんは離れていく人達を追うのをやめ、母さんを手で掴む。僕は咄嗟に駆け出していた。

 

「何やってんだ母さん!!母さんっ!!逃げろおおおおおおおおおおおっっ!!!」

 

「〜〜〜〜〜〜ッ……」

 

 母さんはグシャリと握り潰され全身から血を吹き出した。そして兄さんは────。

 

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

 

 握り潰した母さんを食べ、クチャリ、クチャリと音を立てて咀嚼している。僕はそれを黙って見てることしかできない。

 するとまた1人、避難する人々の流れに逆らって誰か飛び出してきた。その人は手をガリッと噛むと巨人化して、兄さんに飛び付いた。

 

「何してるんだゼブル、お前も避難しろ!!」

 

「だっ……だって、兄さんが……母さんがぁ……」

 

「今お前の兄を出してやる!だからせめて離れろ!」

 

 車力の中の人────アーベル・クラインさんは兄さんを取り押さえ僕に避難を促す。僕がある程度距離をとったのを見届けるとアーベルさんは暴れる兄さんのうなじに噛み付いて、肉を引き剥がした。

 凄まじい血飛沫が吹き出して周囲を汚していく。しかし、そこに兄さんの姿はなかった。

 肉を引き剥がされるのと同時に、兄さんの巨人は抵抗を止め、グッタリとしてしまう。それを見るやアーベルさんは車力のうなじから飛び出してきて、蒸気の立ち上る引き剥がした肉片に駆け寄る。

 

「バァル!バァル!!何処だ!?バァルッ!!」

 

「兄さん!!」

 

 アーベルさんは駆け寄る僕を見るが、もう暴れる心配が無いからか止めはしなかった。既に兄さんの巨人体は骨が見える程に消えているが兄さんの体は見付からなかった。

 

「ゼブル、見付けたか!?」

 

「い、いえ……どこにもっ……」

 

「なんて事だ……10人目の巨人は、作り得ないのか?国王陛下になんと報告すれば……」

 

「どうした」

 

「なっ、何があった!アーベル!答えろっ!」

 

「「!!」」

 

 王と別の大臣が現場に戻ってきた。正直、蒸気で見えないけれど声でその2人だと判断できた。僕は慌てて畏まり、アーベルさんも畏まり今起きた事を報告し始めた。

 

「はっ。バァルの巨人を押さえ、うなじから本人を引き出そうとしましたが──バァルの姿はそこにはありませんでした。中身の無い、ただの巨人です。しかも知性もありませんでした」

 

「……なんだと?」

 

「アーベルッ!貴様っ、己の失態を棚に上げるか!バァルの本体を食ってしまったのであろうがッ!!ええ!?どうなんだ!!」

 

 王は静かに考え込んでいるが大臣は唾を飛ばして怒鳴っている。アーベルさんの胸ぐらを掴んで顔を近付けて怒鳴るが彼はされるがままになっている。表情ひとつ変えない。

 

「……待て大臣。本当にアーベルが食ったのであればここに人骨があるはずだ。バァルの人骨が、だ」

 

「っ……!」

 

「だが無い。車力の体内からも人骨が出てこない。バァルの体内からは何人かの死体が出てきているが車力にそれが無いという事は……アーベルは、決してバァルを食ってはいないのだろう」

 

「し、しかし陛下……」

 

「つまりだ。アーベルらのような知性を持つ巨人は九つが限界。それ以降は知性を持たぬ巨人となる。そしてその巨人を作るには巨人の脊髄液を摂取することである……と。そういう事か……!!」

 

 フリッツ王は、醜く笑った。

 

「大臣。式は取り止めだ。そして『戦鎚』を呼べ」

 

「はっ」

 

「巨人の脊髄液を蒸発させぬよう保存できるような容器を『戦鎚』や技術者に作らせよう。『顎』にはよく休むよう伝えておけ。容器の開発が済み次第、すぐに動いてもらうことになるからな」

 

「かしこまりましたッ!!」

 

 

 ◆

 

 

 兄・バァル、母の死から数年後。僕、ゼブルは、エルディア国の巨人兵器の1人として初めて戦争の前線に立たされていた。

 僕の「進撃の巨人」は何の能力も無い。たまに、謎の幻聴が聞こえてくる程度だ。そしてその幻聴は決まって「戦え」と頭の中に直接囁きかけてくる。特に能力も無いくせに、頭痛の種だけ残していく。他の巨人化能力者にはこういう事はないらしいが、一体これは何なんだろう。

 まぁ尤も、今は戦場なのでそんな事は頭から離し戦いに集中しよう。

 

「怖くないか、アーデルハイト、コリンナ、エラ、リーザ」

 

「怖くないです!俺、ゼブルさんと一緒に戦うのが夢だったんですから!!」

 

「私もです!」

 

「寧ろ最高の気分です!」

 

「一緒に巨人となって戦えるなんて……っ!」

 

「……そうか」

 

 あの頃は子供だった僕も、今では後輩の少年兵、少女兵を率いている。もう何度目かの、マーレとの戦争。バァル兄さんのような無知性の巨人の性質をある程度解明したエルディア国王は、僕ら巨人兵を投入する事で、今回の戦争を終わらせようと考え、たった5人、戦場に立たせている。

 エルディア帝国の兵士は既に勝利を確信したのか邪魔にならないようにと撤退を始めている。

 今回の作戦はこうだ。まず僕が巨人化して敵陣に飛び込んだら、後輩4人はそれぞれ持たされている脊髄液を飲んで巨人化。僕に続いて突撃する。

 そしてマーレ兵を蹂躙し尽くしたら────僕はこの4人を殺す。

 無知性の巨人は使い捨ての兵器だ。それなのに、4人は自ら志願して僕と肩を並べて戦いたいと懇願したらしい。知性が無くなれば、敵や味方構わずに襲うというのに……。

 

「本当に……これでいいのか……?僕は……僕は……」

 

「……?ゼブルさん?どうしたんです?」

 

 ────ダメだ。可愛い後輩達を殺してまで僕は国王になんか仕えたくない。僕はただ名誉な事だと思っていたから巨人を継承したくてこの「進撃」を継いだ。だけど、もう、兄さんも母さんもいない。一体僕はどこの誰に誇ればいいんだ。あるかもよく分からない名誉を。

 巨人の事を全く知らない国民に持て囃されようと嬉しくも何ともない。僕は、どうして、こんな所に立っているんだ。

 どうして、どうして。

 

「うわああああああああああああアアアアアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 僕は飛び出した。適当に巨人化して、マーレ兵を踏み潰し、けれど殲滅はせず、真っ直ぐに走った。真っ直ぐ、真っ直ぐ。ひたすら真っ直ぐに。

 後輩達が僕を呼ぶ声が聞こえる。そして雷が4発落ちて、4人の巨人達が僕が踏み残したマーレ兵に襲いかかった。

 僕は進んだ。後ろから聞こえてくる悲鳴や怒号、巨人の咆哮も全てを無視してどこへともなくずっと進み続けた。

 

 

 ◆

 

 

 行き着いた先で、不意に風の噂で聞いた事だが、エルディア国はあの後、戻ってきてしまった4人の巨人に襲われかけたものの、鎧や女型、顎など他の巨人により始末されたらしい。

 そして僕は今でも行方不明扱い。エルディア国は僕を探す為に世界中に調査隊を放っているようだ。どうやら僕は、意図せずエルディア国から「進撃の巨人」という戦力を持ち出す事に成功したらしい。

 もし調査隊が僕の元に来たなら、殺してやろう。僕はもう何者にも従わない。この力は僕が死ぬまで僕の好きに使ってやる。

 もう、昔の僕や兄さんのように無駄に「誇り」に取り憑かれる人間が出ないように。そして僕だけの自由を手に入れる為に、進み続けてやる。より良い未来を掴む為に。




双子の名前はバアル・ゼブルという神の名前から。ベルゼブブという悪魔の前身とされています。
他は原作と同じようにドイツ系の名前や苗字など。

九つの巨人以上に分離しないって事は、もしも殆ど同時に摂取したら、より早く体内に脊髄液を入れた方が継承するはずなので、ほんの少し早く脊髄液を体内に入れたゼブルが巨人を継ぎました。
そしてグロス曹長曰く「巨人の脊髄液を体内に吸収だけで巨人化する」という事なので元となる巨人が何だろうと無垢になるんだろうなぁと。
それで、用済みになったら(この時代は大砲とかも無いだろうから)戦争に利用した無垢を知性巨人が殺していたのかも、とか思いました。だって普通に邪魔だもの。夜になったら動かなくなるから布など被せて放置とかもできそうだけれど、そもそも夜になるまで待つ事ができるのかな、なんて。

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