「はい、永遠亭です。」
「どうも、こちら紅魔館よ。」
「あら、紅魔館が?珍しい。一体どうなさったのです?」
「うちのメイドの一人が大変なことになっていて。大至急此方に来ていただけないかしら?こっちからはとても運び出せない状態なのよ。」
「具体的な症状は?」
「幻覚?の症状で…あ、こら!魔理沙!」
「どうなさいました!?」
「具体的な症状は、恐らく幻覚。それも、とびっきり強いやつだ。眠らせても酷く暴れまわっちまう。患者は数日前、右目にナイフかなんかの刃物で刺されたんだ。その傷から強い幻覚魔法を感知できた。」
「それって!!」
「ああ、最近ちょくちょく起きているやつと似ている。幸い、まだ魔法は眼球に留まっている。早く来て、摘出してやれば、症状も治まるだろうし、そっちもサンプルが取れる。」
「お師匠様に直ぐに伝えます!」
1分 待機メロディー
「お師匠様が直ぐに向かうとの事なのでもう少しの辛抱です!」
「わかった、ありがとよ。」
ここで通話終了
目を覚ませば、いつものレンガがぎっしりと詰まっている天井。悪夢はまだ私にべっとりとつく様に鮮明であった。
「どお?調子は?」
まだ目が覚めて間もない私の顔を覗いてきた者の笑顔は、女神を連想させる。
「あれ?私は?」
そういえば、昨日までずっと朝起きるまで続いた悪夢は今日は途中で途切れたのだった。寝ても覚めても五月蠅かったみんなの姿が無い。凄く安心してしまう。
「ごめんなさいね。貴女の右目に幻覚魔法が掛けられていたの。いや、正確には流し込まれた。かしら。だから、貴女の右目、全部取っちゃったの。」
自分の右目に手をやると包帯が巻かれてあるのに気が付いた。まだ、悪夢?いや、みんなの声が耳にこびりついている。それらは存在していたのだろうか?不運な魂の行進に私が巻き込まれたのだろうか?
「皆んな、私のこと、憎んでいるのでしょうか?」
どうせ大した解答もない質問だと分かりきっていた。
「何を馬鹿なことを。それは、貴女の心よ。心配とか恐怖とかそれが幻覚魔法によって現れた。それだけよ。」
私は腑に落ちなかった。それらは私を囲んで生への執着を語ったから。私のせいだと何度も何度も死への恐怖を語ったからだ。
「まあ、貴女の話は咲夜から聞いているわ。そう思うのも無理は無い。まあ症状も一気に治まってよかったわ。あとこれ。幻覚の症状がまた出るかもしれないから。薬。症状が出てきたら、これを飲みなさい。」
そう言われて渡された紙袋の中には透明な紙に小分けに包まれた粉薬だった。
「それはそのまま水と一緒に飲むといいわ。それじゃ。」
そう言うとその者は出て行ってしまった。まだ、名前も聞いていないことにこの時初めて気付いた。
ベッドから立てば、窓の外は清々しいほどいい天気だった。しばらくは休めとも言われたが、働かなくてはいけない。そんな感情がじわじわと私を支配していく。皆んなが殺されたという事実は変わらない。でも、少し軽くさせて欲しい。そうだ、ケン太をここ数日出してやってなかったな。
「よし!三咲!ちょっと遠出するぞ!ケン太もちゃんと連れてくぞ!」
ドアを荒々しく開けて入ってきたのは魔理沙さんだった。
「遠出?ですか?」
「まあ、つべこべ言わずについて来い!」
「魔理沙さん、私、働かなきゃ…」
「ああ、それなら大丈夫。レミリアには話をつけておいた。お前の目の治さなきゃならねえしな。」
「目を?」
「そうだ。それに、いつまでも暗い気持ちじゃいらんねえだろ?」
今はっきりと気付いた。そういえば右目が無くなったのだった。しかし、無くしたものをどう治すというのだろう。
魔理沙さんに手を引っ張られ、半ば強引に部屋の外に連れ出された。久しぶりに長い長い廊下から外の景色を見たことから、初めて私がここ数日部屋から出ていないことに気が付いた。
「さてと、第一目標は魔法の森だな!」
魔理沙さんに連れられてきたのは紅魔館屋上テラス。魔理沙さんが魔法陣から取り出した箒に跨り、魔理沙さんの腰にしがみついていた。
「じゃあ、飛ばすぜ!」
箒にはいわゆる『えんじん』というものが搭載してあった。本で読んだことがある。その『えんじん』が慧音先生の怒鳴り声のような唸りをあげた直後、箒に驚くほどの推進力を与えていた。
「はっはやいです!」
「はっはぁ!そうだろう!もっと速くできるぜ?ほらよ!」
「ひゃああああああ!」
箒は更に加速した。周りの景色が逃げていくようだった。この時初めて私は、自分がメイド服のままであることに気が付いた。
レミリアへ
三咲は私が預かる。心配するな。ちょいと旅行に連れて行ってやるだけさ
貴女の良き隣人 まりっさより
レミリア「全く、まあいいわ。魔理沙なら信用できる。」
咲夜「解せぬ」
うどん「お師匠様、何故診療所に運ばなかったのでしょうか?」
えーりん「あともう少しで魔法が完全に全身にまわったからよ。あとはなにも聞かないこと、いいね?」