なんとかしてやろう、と悩むのもまた人情。
伝わるかはともかく。
願うのは、その幸せ。
バカな子ほど可愛い、とはよく言うが。それが通じるほど世の中は甘くはない、全くもって。
俺と花恋さんは揃って、それを痛感しつつため息を吐きあっている。お互いに抱えた、バカな友人のせいで。
「うちのバカのせいで、ご迷惑をおかけしまして……」
「いえいえ、宅のバカ娘こそご迷惑を……」
そんな風に頭を下げあいつつ、俺たちは今日も喫茶店で向かい合う。傍から見たらカップルにも見えるかもしれないが、花恋さんは彼氏持ちだ。それも俺と同じ部活の針生先輩がそのお相手。まあ美人ではあるが俺のタイプではないし。
この人の幼馴染みである鹿野千夏先輩は、俺の友達にしてどうしようもないバカ野郎である猪股大喜に想いを寄せられている。で、千夏先輩も吝かではない。と言うか花恋さんに「男子として意識している」みたいな話をしたりしている辺り、下手をしなくても両思いだ。
そしてそして、二人は一つ屋根の下に住んでいる。色々と面倒な経緯を経て、千夏先輩は猪股家の居候をやっているのだ。更にどうも大喜の母親は二人がくっついても構わないと思っているようで、普通なら放っておけば勝手に上手くいくだろう。
そう、普通ならば。
大喜は超弩級のバカ野郎だから、それが出来やしないのだ。同居から暫く経っても指一本触れられない、無い頭で勝手な理屈をつけては逃げてしまう。そしてその度に俺が相談に乗る羽目になるんだ。俺としてはグチグチと不毛なやりとりを延々聞かされたくはないし、とっとと男を見せてどうにかハッピーエンドを迎えてほしい。
まあその辺は千夏先輩が歳上としてどうにか取りなしてくれたら、それでなんとか纏まるんだろう。そうなってくれれば万々歳だ。
だが花恋さんは千夏先輩を指してこう評する、「ハイスペックバカ」と。眉目秀麗なバスケ部エースながら、私生活になると完全なポンコツだと。
何時間も虚空を見つめてポケーッとしていたり、ずっと黙っているからなにかと思えば単に空腹で動けなくなっていたり。クールな知的美人どころかフールな痴的美人、幼馴染み視点ではそんなもんらしい。
俺から見れば完璧な人なんだが、まあ大喜だって花恋さんからしたら「真っ直ぐな頑張り屋」と思っていたらしいからな。実際会った訳じゃなくて針生先輩や千夏先輩から話を聞いてただけだから、あのバカさ加減は伝わっていなかったんだろう。あれこれ様々な視点から話を付き合わせなければ、真実は見えないものだ。
「まああの子、悪い子ではないのよ……」
「あれもバカではありますが、良いやつでして……」
単なるバカならお互い見捨ててやれるんだが、これが半端に良いやつだから始末に悪い。どうにかしてやろう、と思ったり思わなかったり。そんなこんなで俺たちは、今日もバカ二人をなんとかしてやろうと頭を捻っている。
まったく、世話が焼けるったら。
「ちーがさぁ……、また面倒な事しでかしたっぽいのよ……」
項垂れる花恋さん、その気持ちは分かる。さっき大喜がしょげ返ってた件だろうから。
千夏先輩に線を引かれた、とあれはホームルーム後に嘆いていた。「俺と距離が縮まるのは、良くないことらしいから」と理屈をつけて納得したようだが、それがまず良くないんだ。千夏先輩は立場上そう言っているだけであって、大喜への感情自体をタブーにしているわけじゃない。
「ちーは頭悪い癖に責任感強くてさ、「置いて貰ってる以上結果を出し続ける義務がある」とか本気で思ってるのよ。いのまたたいきくんとアレコレ起きちゃったら不義理になる、って事で距離を置くとか言い出してんの」
まあそりゃ、厳密に言えばそうだろう。でも、好いた惚れたは義理より優先して良いもんだ。だってそういうもんだし。それに距離を置かれてもめげずに突っ込めば、それが口実になって結局は上手くいく。押してダメなら押し倒せ、だ。
でも大喜はレジェンド級のバカだから、その辺を理解なんかできない。千夏先輩の本心なんか察せないから、額面通りに受け取ってバカ正直に距離を保とうとするだろう。で、そうなれば多分千夏先輩は「やっぱり大喜くんは私と一緒にはいたくないんだ」とか考えて勝手に傷付くんだ。そして千夏先輩が気落ちすれば、大喜のバカも落ち込んで負のスパイラルに陥るだろう。
これが杞憂に終わってくれれば良いが、バカは悩んだ末に最悪の選択をするもんだ。本当にやりかねない。
「どうにかしないといけませんねぇ……」
そもそも大喜は迸る程のバカだから、周りが逐一フォローしてやらないと何をやらかすか分からん。千夏先輩への根回しは花恋さんに任せるとしても、どうにかこの先に関してプランを練る必要があるだろう。
直近で使えそうなのは、花火大会かな。正面からだとまた拗れるし、別々に行かせてから出先で合流させる方が良さそうだ。しかし雛辺りが余計なちょっかいを出してくると厄介だ、どうにかして注意を引いておこう。確か伊藤が雛に気があるらしいから、あれをぶつけていくか。
別にあの花火大会に、一緒に見ると結ばれるとかそんなジンクスはないけど。それでも、どうにか二人のギクシャクした感じは払えるだろう。
まあそこで終わるほど、簡単なバカじゃないんだけどな。
問題はまだまだ山積みで、そしてあのバカ二人じゃ悪化させるばかりだ。
俺たちがどうにかしてやらないと、な。
「まったく、世話が焼けるね」
「本当ですよ、あのバカ」
二人してまた溜め息を吐き、そして。バカで大事な友人の為、知恵を出しあう。
手がかかるったらないが、まあ良いだろう。どうにか事態が片付くまでは、なんとか助けてやろうじゃないか。
窓の外はまだ盛夏の高い陽が煌めき、青空が眩しい。
さて、やってみるか。感謝しろよ、親友。
ポンコツ先輩の回でもあるかも知れません。