ほんと、助かります……。
……ふぅ。午前中に家事や洗濯などを終わらして、トレントとヒヨトリアの寝床と生活雑貨を一通り揃え終えたらもうお昼の時間になってしまっていた。
随分とお母さん業が手に付いてきてしまったな……。めぐみんとゆんゆんは正反対な感じで手の掛かる娘たちだから飽きがこなくて良いな。
調理が面倒なのでキャベツにオリーブオイルと塩で丸かじりして昼食を終え、午後は何をするかなと珈琲を淹れる。
雑貨屋にインスタントコーヒーが売っていたのを見た時は度肝を抜かれたものだ。
やはり居たのか、過去にもカフェイン中毒の社畜転生者が。
いやまぁ、普通に珈琲が好きってだけかもしれないけどな。こうして日常的に常飲するなら特にこだわりが無ければインスタントな粉の珈琲の方が楽で良いし。
コーヒーミルとか買ってこだわってみるか? めぐみんとゆんゆんは子供舌で飲めないから私だけが楽しむ事になるな。
そうなると共有財産から出すってのもアレだし、ポケットマネーを使うか。
……二人が無事にパーティ入りした事で共同でクエストを受ける理由も無くなったし、金欠って訳でも無いので依頼を受ける理由はあんまり無いんだよなぁ。
苦め濃いめで淹れた美味しい珈琲を啜る。うむ、前世で飲み慣れたあの糞不味い黒い物体は珈琲では無かったんだ。これこそが珈琲だな、そう独り頷いた。
「ぶるぅ、ぶるるるぅ」
「は? 自分も飲みたい? これを?」
「ひんっ」
「うーむ……、馬に珈琲って大丈夫なのか? ビールは飲めるって聞いた事はあるが……」
まぁ、今は使い魔の状態だし、状態異常になるくらいで死にはしないか。
熱いのは流石に飲めなさそうだから一度お湯で溶かしてから水を入れて冷やしてやる。
流石に瓶一本分を飲ませる訳にもいかないので少量を舐めるように飲んで貰うけどな。
それでもトレントは私と同じ物を飲めるからか非常に喜んでいた。
私の事好き過ぎるだろこのイケメン馬……。
深めの皿に入れてやり、庭から顔を出すトレントにやるため床に置いてやる。
すると待ってましたと言わんばかりに舌を伸ばし、周りに飛び散らないようにかゆっくりとしたペースで舐め取っていく。
「びん゛ッ!?」
「苦いって……、そりゃ珈琲だからな。苦いだろうよ。仕方が無い牛乳足してやるか……」
「ひぃん……」
「けど、美味いって? ……まさかと思うが私がそのまま飲んでるからそう飲みたいって事か?」
図星だったようでトレントがそっと顔を逸らした。羞恥心が顔に出てたら耳まで真っ赤になってそうな様子である。
まぁ、そこまで愛されて嬉しくない訳では無いので甘んじて受け取ってやるとしよう。
ふーむ、外に出るのも億劫だな。家で他に何かやる事は……あったっけ?
あぁ、そう言えば官能小説の新作を書こうかなって考えてたな。
メイドスキー伯爵シリーズにするか、それとも別にするか……。連番で良いか、面倒だし。
地味に前置きな設定を考えるのが面倒なんだよなぁ、こういうのって。
エロ漫画なら雑な導入でも受け入れられるのだろうけども小説となるとそうもいかない。
地味に下地と言うか世界観の土台が重要なのだ。
私が前に書いた『メイドスキー伯爵の優雅な性活』は、辺境伯爵の所に主人公にしてヒロインのメイドの少女が奉公に来ると言う導入から始まる。
借金返済のため身売りさせられたメイドが伯爵に優しく迎えられ、心を許し始めたところで伯爵の裏の一面を知ってしまい、忠義心と乙女心が揺れる中ドスケベ調教されると言うストーリーだ。
この前書いた一巻分の内容は半分が日常生活で後半が調教生活……だったっけ?
二階の自室から出版前に確認として送られて来た小説をさらっと読み返し、未だ羞恥心の方が勝るくらいの調教度で終わっていたのを確認した。
「ぶるるるぅ?」
「ん? これか? 私の書いたえっちな小説だ。待て待て待て、怒涛な勢いで読みたいアピールするんじゃない。大体読めないだろう、これ共通語で書かれてるから先ずは文字の読み書きからだろうが」
「ひん?」
「は? 読める? 何で? ……使い魔として繋がってるから知識もある程度入ってるって?」
「ひんっ」
「…………マジかよ。いやまぁ、確かに指示出しのためにある程度はそういう認識を揃えておかないといけないのは分かるが便利過ぎるだろう」
「ぶるる、ぶるぅ……」
「いや、困りはしないけどさ……。流石に自分の小説を開いて読み聞かせるのは勘弁だぞ。内容的にも」
「ぶるるるるぅ、ぶるぅ、ひぃひぃん!」
地面に置いてヒヨトリアにページを捲って貰うから問題無いだぁ?
自分の前足でやったら蹄と体重で小説が駄目になるから必死に考えた策のようだ。
「……で、そんな感じなんだけどヒヨトリアはどう思う?」
「こかっ」
「だよねぇ」
「ひぃんっ!!」
めんどくせっ、と言う感情がヒヨトリアから送られてくる。うん、まぁ、そうだよなぁ。
トレントが嘆くようにして突っ伏して膝を突いてしまったが、協力を得られなかったのだから仕方が無いんだ、うん。
心成しかヒヨトリアのトレントを見る視線が冷たい気がする。まぁ、女の子に官能小説読むの手伝ってくれだなんて普通頼まないわな。
そんなアホみたいな遣り取りにくすくすと笑みが零れる。めぐみんたちが居ないから少し寂しい気持ちではあったが、トレントとヒヨトリアが居てくれるから寂しくないな。
……もしかして、トレントが私にこうして積極的に構ってくれアピールしてるのはそのせいだったのか?
少し気落ちしているのが精神的なパスで気が付かれていたのだろうか。そうなるとこの申し出も案外冗談交じりのものかもしれないな。
……その割には本気で慟哭しているように見えるが。
「若いなぁ。性欲を持て余すのも仕方が無いけど、時と場合を考えろよ?」
「ひん……」
「こかっ」
分かってます……と言う落ち込んだ返答に、ヒヨトリアの疑念の追撃が飛ぶ。
あはは、既に上下関係が出来ているようだ。まぁ、物理的にもヒヨトリアはか弱いからしっかり守ってあげてくれよ私の馬騎士くんよ。
さて、内容を考えるんだったな……。
……この世界って獣姦とかってどういう感じなんだろうな。
実際にモンスターも居る訳だし、ゴブリンみたいなのがゲスの極み扱いされている事からモンスター姦の延長線上にあるのだろうか。
流石にこれは別シリーズだな。女騎士を拷問するみたいな感じの題材で書こう。
まぁ、上中下巻と言う感じにして、そろそろ堕ちますよって感じぐらいにまで攻めてみるか。
何なら世界観だけ纏めて、外伝と言うか同じ世界線での別の話として他のシリーズを書いてみるのも面白いかもしれない。
……と、方針が定まったからか原稿用紙に内容を書き込んでいく速度が上がっていく。
うむうむ、良いぞー。裸に鎖付き首輪で屋敷内で露出プレイとかさせちゃうぞー。
「……駄目だ。集中力が切れた。今日は此処までだな」
時間にして二時間ちょい程執筆にのめり込み、大体二万文字くらい書けて筆がノリにノった。
この世界の小説は大体百ページくらいが一般的だ。
パソコンに内容を打ち込んでバババーっと印刷できる訳では無いので、羊皮紙サイズに横書きで版画擦りが基本なのである。
そのため三桁の大台に乗る百ページ、これが文庫本や書籍として本にするための最低枚数として扱われているようだ。
聞く話によるとドルイド系列の職業の人が木板に変形魔法を撃って版画を作るとか。
本来であれば木を武器にしたり盾にしたりする魔法らしいのだが、手彫りするのが面倒になってきたと言う理由で試しに抜擢した所大活躍したらしい。
随分と俗っぽいドルイドだなぁとは思うが、結局人間楽な方が良いのだから仕方が無いのだろう。
ある意味ドルイド関連の職にもスポットライトが当たるようになったと考えるべきなのだろうな。
「さてと、自室に仕舞って来るか……」
うっかり外に出して二人に見られたら羞恥どころの話ではない。
恥ずかしさのあまり自ら首を切り落として死にかねない。
何せこういった小説は作者の性癖を元に書き起こしていると言って過言ではない。
万人に好かれようとして官能小説を書こうとする奴は居ないのだ。
溢れ出る性癖を書き狂いたいからこそ書いているのであって、性欲のアウトプットによる発散がメインなのだから。
自室の鍵の付いた木箱に仕舞い込み、しっかりと施錠したのを確認して指差しヨシッする。
さて、夕飯を作ろうにも微妙な時間帯だな。ちょっくら雑貨屋でも見にぶらついて時間でも潰そうかな。
「ちょっとだけお散歩に行ってくるから留守番お願いね」
「ひんっ」
「こかー」
「ありがと、じゃ、行ってきまーす」
一応揉め事が起きても大丈夫のようにカルラ衣装に着替えて出て行く。
ギルドから発せられる緊急クエストがあったりするらしいので、こうして冒険者はフリーな時でも戦衣装に着替えておくのが鉄板らしい。
なので外で冒険者に出会ったらその時の服装が普段の戦衣装であると言う訳だな。
それにしては盗賊関連の職の女の子の露出度高過ぎやしないか……?
特に、あそこの胸だけを隠すようなトップブラ型の上に、ショートパンツと黒いレギンスの少女みたいな感じで非常にけしからんのが多いのである。
盗賊の共通スキルに軽衣服みたいなのでバフのかかるスキルでもあるのだろうか。
無いのであれば、斥候とかして毒草とかに露出してる肌を切ったら大惨事だし、トラップの付いた宝箱の解除に失敗したりした時に死亡率が上がるんじゃなかろうか。
「ひゃっはぁ!! ジャックポット! 大当たりだぜぇ!!」
「か、返して!! 私のぱんつを返してぇぇぇ!!」
「…………えぇ」
何やら対峙していた少年が『スティール』と叫んだら少女の方が股間を隠して泣き喚いていた。
スティールとやらをしたらしい少年は白いパンツを振り回して喜び吠えていた。
喜び方が斬新だな。普通振り回す事はしないと思うんだが……。
と言うか少年の姿に見覚えがあるな。年期の入ったよれたジャージに黒髪の若い少年。
……あれがまさかとは思うがカズマくんなのでは?
紅魔族くらいしかこの世界では黒髪は居ないので、それ以外となると日本人の転生者くらいだろう。
……連れ合いと思われる金髪のナイスボディな騎士っぽい女性が少女の方を見ながら恍惚とした表情でぞくぞくっと身体をくねらせているのは何故だ。
傍から見ればかなりやばい集団にしか見えない。しかもここ広場の近くだぞ?
辺りを見やればひそひそと彼らを見て話し合う人たちが多い。
それなのに彼らはそれに気付かず変態コントをしているようであった。
「……ううむ、大丈夫か? めぐみんたちを預けて本当に大丈夫なのか……?」
どうやら少女はカズマくんから盗ったらしい小振りの布袋を差し出しているが、その程度の値段ならこれは我が家の家宝になるぞと脅されて泣く泣く大きな布袋を差し出していた。
この世界では前世のサイズの財布だと金貨などが入らないので、ああして布袋を財布代わりにするのが鉄板だ。
つまり、ぱんつを盾に少女の財布を巻き上げた場面と言う事になるのだが……。
「……すまない、通報した方が良いか?」
「ん? あぁ、いや、あれはクリスも悪かったからな。じゃれ合っているようなものだ。クリスは遺跡やダンジョンで稼いでいるからな、流石に全財産では無いだろうよ」
「そ、そうか。じゃれ合い、じゃれ合いかぁ……」
いやまぁ殺傷沙汰になっていないから問題無い、のか?
無理矢理だったらクリスさんと言う少女も反撃に出るだろうしな。
あの短剣、何かしらのバフが掛かっているのか薄っすらと魔力を帯びているようだし結構なレア物だろう。
「そうだ。公衆の面前であんな破廉恥な酷い目に遭わせるだなんて……最高じゃないか!」
「……えぇ」
どうやらこの女性も個性の強いタイプらしい。話の内容からして被虐願望、それもそれをオープンに晒せるポテンシャル付きだ。
そんな痴女みたいな内容を初対面の少女に言える度胸がある奴は普通ではなかろうよ。
隣を見やれば呼吸を荒くして上気した顔で興奮している金髪の美人さんがエキサイトしていた。
……首輪付けて飼えないかな。だなんて前世の業がしれっと脳裏に現れるが、めぐみんたちの教育に悪いので理性が却下した。
「うぅ……、ちょっと物陰に行って来るからダクネスは此処で待ってて……」
「あぁ、分かった。にしても運が良いな、カズマは。ピンポイントでパンツを剥ぎ取るとは……」
「あ、あはは……、いや、ほんと何でだろうな。これランダムで窃盗するスキルなのにな?」
こそこそと樽が積まれた場所の裏に歩いて行ったクリスさんを見送り、ほくほく顔だったカズマくんは話の途中で真顔になって困惑を露わにしていた。
金髪変態女騎士さんの名前はダクネスさんか。あんまり聞いた事の無い名前だが、もしかしたら先程のクリスさんとペアで活動していたのかもな。
そうなると三人以上の安定したパーティを優先して共同を持ちかけていたので、ペアのパーティは見送っていたのでリサーチしていない。
それに遺跡やダンジョンを生業にしているのであればギルドで出くわさないのも頷ける。
……さて、現実逃避は止めよう。やっぱりこの少年がカズマくんだったか。
何と言うかぱっとしない一般的な少年って感じのルックスをしている。ジャージ姿も相まって若干芋臭いと言うか、出不精な印象を醸し出している。
先程の様子からしてえっちな事に対してオープンではあるが、ある程度は隠そうと努力するむっつりすけべ型の性格をしているらしい。
……実に思春期のエロ少年だな。この分ならめぐみんたちに手を出す事は無いだろう、ヘタレ臭いし。
「えぇと、そっちの子は?」
「うむ、クリスとカズマの様子を見て心配になって通報するかを訊ねてくれた子だな」
「大問題だよ!? いや、その、俺も態とやった訳じゃ無いんだ。窃盗のスキル『スティール』は基本的にランダムで装備を剥ぐスキルであって俺の意思は無いんだ! 俺のスティールが勝手に!」
「あぁ、うん。大丈夫だ。恐らく衣服も装備扱いになるんだろう。……まぁ、流石にこんな初対面は嫌だったんだが……、仕方あるまい。どうも、カズマくん。私はめぐみんたちの保護者みたいな事をしている幼馴染のおんおんと言う。二人が君のパーティに加入しているらしいから挨拶をしたいとは思っていたんだが……」
「ごめんね!? 流石に俺もこのタイミングでとは思って無かったわ! あぁ、うん。確かにめぐみんたちが言うようにめっちゃくちゃ常識人だ……。何だろう、最近濃い面子しか出会ってないから清涼剤みたいな感じがする……」
「は、ははは……、それはまた……、難儀なものだな?」
「分かってくれるのか、良い子だなぁ……」
随分と感極まった返答が返って来て困惑の極みである。
先程の印象から一変して苦労人の印象に変わってしまった。
いやまぁ、アクアさんは人成りを知らないが、爆裂馬鹿とコミュ障の極みの二人に、変態女騎士だもんな。
クリスさんは知らないがあの様子だと何処かしら変な人なんだろう、多分。
「そう言う特典でも貰ったのかい? 何と言うか、優秀変質者誘引体質的な感じのとか」
「誰が戯言遣いだ。俺の特典は駄女神……んん?」
「まぁ、そう言う話は今度二人っきりで話そうじゃないか」
「お、おぅ、いや、了解です、はい」
「ふふふ、別に敬語にしなくて良いよ。見た通りただの十三歳の小娘だしね」
此方が見た目通りの年齢では無いと感じ取ったのか、冷や汗を流し始めたカズマくんにそっと微笑みを返す。若干にへらとしたが、すぐに表情を戻すあたりやはりむっつりすけべな性格だなこの少年。
まぁ、精神年齢は君より上だが、身体の年齢は見た目通りだ、安心すると良い。
「いやぁお待たせ。何か疲れちゃったからギルドに戻ろっか。……てぇっ!?」
「ん? あぁ、私の事はお構いなく。カズマくんのパーティメンバーの知り合いと言ったところだ。今日は顔合わせくらいで十分だろうしな」
したかった事は暇潰しであって三者面談って訳でもなし。この様子だとギルドにめぐみんたちが居るだろうからそこに合流するのもアレだしな。
……にしてはクリスさんの此方を見る視線がおかしいような。
嫌悪と困惑の入り混じった感覚と言うべきか、何処となく不快感を感じる視線だ。
時折首を傾げつつ、私を凝視するクリスさん。最終的に唸って首を大きく傾げた事で解決には至らなかったらしい。
ううむ、割と本気で思い至る事は無いのだが。まぁ、一応ソウルの強さを測っておくか。
瞳のピントをずらすようにしてソウルの感知に天秤を偏らせて……。
「まぶしっ!?」
調整した結果、めっちゃくちゃ光り輝いていて視界が白く焼けてしまった。
何だこのソウルの輝き、明らかに人じゃないぞ。けれども、黒さが無いから人間性は淀んでいない、むしろ澄んでいると言って良い。
「だ、大丈夫か?」
「もしや、私の鎧で光が反射でもしたのか? それはすまない事をした……」
瞳を押さえた私にカズマくんとダクネスさんが心配して声を掛けてくれるが、それどころではない。
目の前のコレは何だ? 今まで見た事の無い輝きを放つソウルを持つ人物。
いや、そもそも人では無い可能性が高い。人の皮を被ったナニカだ。
「……えっ、まさか見破られた……?」
その呟きで確信した。こいつの中身は人じゃないナニカで、けれども淀みや汚さの無い純粋な何か……。
まさかとは思うがこの人、神様か? 女性だから女神だろうか。人に連なる神であるならば、極致と呼べるソウルの美しさを持っていても可笑しくは無い。
…………おおっと、まさかとは思うが、この人の正体……女神エリスじゃなかろうな。
カズマくんの特典である駄女神、もとい、女神アクアがアクシズの女神であれば、この世界におけるもう一つの信教であるエリス教に存在する女神エリスが存在していてもおかしくない。
こうして人の皮を被って正体を隠し、名前も偽って活動していても何ら可笑しさは無い。
神様や女神と言う存在はそう言う超常的かつ非常識な存在であるのだから、出来ないことを探す方がよっぽど楽だろう。
「……すみません、ダクネスさんの鎧に反射した光で目が眩んでしまったみたいです。もう視界も戻ってるので大丈夫ですよ」
「やはりか。ううむ、モンスターに見つけられやすいようにピカピカに磨いたのが凶と出るとは……」
「ほんと余計な事しかしねぇなこの変態クルセイダー」
「んんっ! 急な言葉責めは止めるんだカズマ! 時と場合を考えて、もっとしてくれ!」
「……見た目は良いのになぁ。なんでこう、変なのしか来ないんだ……」
「あ、あはは……。取り敢えず私は素寒貧になっちゃったからダンジョンに行って来るよ。ダクネスをよろしくね! じゃあね!」
「あっ、おい! 押し付けやがったな!? くそっ、……はぁ、仕方が無い。戻るか……」
疲れた表情で肩を落としたカズマくんは此方に視線を向けた。
あれ、さっきお暇するって言った筈なんだが……。どちらかと言うと助けてくださいと言った様子の視線を向けられているなこれは。
あぁ、うん、常識人が足りないのか。それでそのツケをカズマくんが払っているから、保護者である私を連れて行けばめぐみんたちの舵取りは問題無いので楽できる、と。
…………いや、別に君らのパーティに混ぜて貰うつもりは無いからお断りなんだがね。
「それじゃ、私もこれで失礼するよ」
「お願いだから失礼しないでくださいよ! 頼む! 後生だから残ってくれ……!」
「あ、ちょ、掴むな! えぇい、こんな泥船に乗ってられるかっ!」
「こっちだって必死なんだちくしょうめっ! 何でもするから手伝ってくれ!」
「……ん? 今何でもするって言った?」
「…………あっ。ぐぅ……、お、男に二言は無い!」
ふむ、そう言う所は男らしさを出せるらしいな。
逃がさない様に掴まれた腕に込めていた力を抜くとカズマくんはホッとした様子だった。
……いや、単純に女の子に今の台詞を言われたから腹をくくっただけかこれ。
確かに同じシチュエーションであれば私も条件を後にしても言質を受け入れるかもしれん。
それにまぁ、何と言うかこうも不憫だと可哀想と言った憐憫な視線を向けざるを得ない。
カズマくん、アクアさん、めぐみんにゆんゆん、そしてダクネスさんの計五人のパーティか。
アクアさんが常識枠に入ってないとなると一対四で舵取りに支障が出るだろう。
……仕方が無い、あんまりしたくは無かったんだがある程度形になるまでは手伝ってやるか。
あくまで過度なキャリーはしない方向で、突発的なトラブルに対処する立ち位置に居てやるか……。
「……ふむ、まぁ、仕方が無いか。私としては同じパーティに入ってしまうと役割を奪ってしまって申し訳無いと思っての事だったんだ」
「へ? そうなんですか?」
「まぁ、こう見えても中位くらいの冒険者でね。駆け出しではあるものの実績は確りしたものなのだよ。ほら、カード」
「あ、はい。ご丁寧にどうも。…………嘘だろ、バーニィ」
「ところがどっこい現実だ。それらはソロで狩ったモンスターだ。呪術を覚えるまでは弓一本で狩猟をしていたし、それ以降は言わずもがな。私の実力が分かるだろう?」
「そうですね……。その、本当にめぐみんたちと同い年なんですか? ベテラン冒険者のカードのそれなんですけど……」
「あぁ、そうだよ。……あんまり女性に年齢は聞かないようにな?」
「あ、そうですね。すみません、デリカシー無かったですね」
「分かれば宜しい」
女慣れは……してなさそうだな。と言う事は生前は健全なただの少年だった訳だ。
恐らくアクアさんである程度女性に慣れたと言う感じなのだろう。
駄女神と称するぐらいだ、女友達くらいの扱いで接してきたのだろうなぁ。
その割にはちょいちょい顔を赤らめているような、意外と初心なのかね?
そんな風に会話していると横合いからダクネスさんがしかめっ面でカズマくんに突っかかって行った。
「お、おい、私との遣り取りはそんな丁寧な感じじゃ無かっただろう。おんおんは私より年下なのになぜ……」
「さんを付けろ、変態女騎士ぃ! おんおんさんは貴重な常識人枠だ! 希少価値だ! ぜってぇ逃がしてたまるものか! あらゆる手段を使ってでも誘い入れるぞ俺は!」
「最後の方の言い方不穏だぞカズマくん……」
と言うかその言い方でも興奮できるのかダクネスさん。筋金入りのドMだな……。
何で悦びを噛み締めるような表情を浮かべているのか……これが分からない。
取り敢えず、私はめぐみんとダクネスさんの手綱を掴んでいれば良いか。
カズマくんには特典のアクアさんと扱いやすいゆんゆんを任せようか。
……それに、ご両親からお願いしますと頼まれているのはめぐみんだけだしな。
次期族長として男慣れさせておいた方がゆんゆんのためだろう。いつか里を先導する時に男性に声を掛けられないようじゃ困るしな。
……別にめぐみんが取られる心配をしている訳じゃないんだぞ、本当だぞ?
ギルドへの道を歩いて行くと何やら視線を感じる。あぁ、うん、先程の遣り取りで大分注目を集めていたみたいだ。
「あのおんおんちゃんを連れてるわよあの少年……」
「ちょっとした修羅場ってたみたいね、若いわね……」
「嘘だろ、なんでうちに来なくてあんなガキンチョのとこに……」
「くっそ、俺に足りなかったのはあそこまでの熱意か……」
と言うか内容ェ、主に私の事を呟かれてるじゃないか。
いや、待て、話の内容が変な方向に行ってないかこれ。
パーティの話だよな? 何か恋愛沙汰みたいなノリで話してないか?
くそっ、どちらにでも取れるせいで煽りにしか聞こえない……。
カズマくんを見やればたははと満更でも無い様子で素通りしている。
そりゃまぁ君から見ればこちとら女の子だからな、そりゃ少しは優越感に浸りたくなるだろうよ。
でもこっちからしたら良い迷惑である。男性とそう言う仲になる気は皆無だからほんと諦めて欲しい。
……けどそれを表立って口にすると明らかに支障が出るよなぁ。
マイノリティは打たれる定めか、儚いなぁ……。
内心独り言ちて小さく溜息を吐く。此方に歩幅を合わせてくれているおかげか足取りは揃ったものだ。
ギルドへと戻ってくると奇異の視線が集まる。まぁ、そりゃそうだろう。
めぐみんたち以外で特定の人物と一緒にいた事はあんまり無いからな。
……おいそこの奴、何が俺のおんおんちゃんが、だ。
共同の時にちょろっと親切してあげたくらいだろうに、十三歳の子供にそういう感情を抱いてるんじゃないよ全く……。
「何と言うか、おんおんさん、人気者っすね……?」
「めぐみんたちのサポートのために共同で依頼を受けてた時期があってね、その名残だよ多分。後はまぁ、私がソロで依頼を熟してたから面白半分なところもあるだろうよ」
「へぇ、成程なぁ。そう言えば募集の紙貼ってましたもんね」
「あぁ、そう言えばそうだったな、ついでに剥がしておくか」
そう一言断ってクエストボードの方へ歩いて行くと、そうはさせまいとずらっと今まで共同してきたパーティの人たちが横並びになって阻止された。
「えぇと?」
「それを、剥がすだなんて、とんでもない!」
「あの時の事が未だに忘れられないんだ! 君が必要なんだよ!」
「毎日じゃなくても良い、都合の良い日でも良いから私の所に来てよ!」
「……あぁうん、内容を更新するだけに留めておくな……?」
その言葉にホッと安堵の息を吐く皆さんが解散する。
何でこう、変な一体感を持ってるんだこの街の冒険者って。
長年居ると緊急クエストとかで連帯感でも強くなるんだろうか。それにしては必死過ぎやしないだろうか。
「……いや、恐らくおんおんが考えている事は間違ってますからね。普通におんおんがパーティに居た時の恩恵が強かっただけですよ。前衛中衛後衛のできるオールアタッカーで、家事やちょっとした出来事に対する対処も完璧に近くて、悪態や態度の悪さの欠片も無い品行方正な助っ人とか引っ張りだこになるに決まってるでしょうよ……」
「そうなのか……?」
「……はぁ。おんおんは自分の魅力が分かってませんね、まったく……私が苦労するんですからもっと自覚して貰わないと困ります」
「具体的にどう困るんだめぐみん」
「それは、その……、そうほいほいと他所に行かれたら私との時間が減るじゃないですか!」
何時の間にか出迎えてくれためぐみんの言葉に、家でいつもべったりだろと返すのは流石に無粋だろうな。
喉まで出掛かったそれを飲み込んでおく。
こういう素直なデレは心に特効が掛かってほっこりするからたまにして欲しいな。
……あぁ、そういう関係なのね、っていう視線は止めろカズマくん。
私とめぐみんの関係は健全的でプラトニックなんだからな。
……だからと言って、分かってますよみたいな視線も止めろ、恥ずかしいだろうがっ。
剥ぎ取った羊皮紙の一部をナイフで削り、報酬を割り勘に変えた。
今まではめぐみんたちをよろしくお願いしますと言うお願いをメインにしていたのと、顔見せと実力を示すための試用期間のようなものだった訳だ。
こうしてめぐみんたちがパーティに入ったのなら自分の都合だけで良いので、ある程度顔も売れたようだし正規の金額を受け取る事にする。
手直した羊皮紙を張り直し、めぐみんたちの所へ戻る。どうやら依頼に行かずに酒場の方で昼の食事を取っていたらしい。
めぐみんに手を取られ、何故か扇子から水を出す宴会芸をしているアクアさんらしき青髪の女性と拍手している見物人に混ざっているゆんゆんの居る席へと連れて行かれてしまった。
……やれやれ、暇にならなさそうだなこのパーティは。そんな事を思ってくすりと笑みが零れてしまった。