この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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誤字修正ありがとうございます。
ほんと助かります……!

追記
味合わせてくれ→見逃してくれたまえよ に変更。
味わわせるが正しい文法と教えて貰ったので直したのですが、直している最中にこっちの方がおんおん「らしい」なと思い至ったので変更致しました。
ご指摘の程ありがとうございました、後学にさせていただきます。


11話

 めぐみんに手を引かれて連れて来られたせいで辿り着いてしまったが、何か友人が居るから一緒の所に入るみたいな感じで気恥ずかしいものがあるな……。

 テーブルには大型の食事は無く軽く摘まめそうなフライドポテトなどが主に並んでおり、明らかに遊んでましたと言う光景が広がっている。

 あぁ、うん。ジャイアント・トード討伐の打ち上げなのか、これ。

 そう言えば続きをするって言ってたし、アレくらいなら午前中で終わるだろう。移動時間の方が長いくらいだろうしな。

 

「さぁ、おんおんはこっちです! いやぁ、やるじゃないですかカズマも。このギルド随一の最高戦力をスカウトするだなんて!」

「あぁ、うん……、実際には折れてくれたってのが正しいけどな……」

「あー……、おんおんですからねぇ。多分、カズマの苦労っぷりを感じて同情してくれたんだと思いますよ」

「歯に衣着せぬ言い方は止めろぉ! 多分、めぐみんへの心配が八割くらいで加入してくれたんだと俺でも思ってるよ。カード見て絶句したわ、明らかにこんな駆け出しパーティに入るお方じゃねぇからな」

「そうでしょうそうでしょう! おんおんは凄いんです!」

「……随分と嬉しそうだな?」

「そりゃそうですよ。大切な人が褒められて嬉しくない訳無いじゃないですか!」

「あっ、ふーん……」

「えぇい、止めんか!? 私を羞恥心で殺す気かっ!?」

 

 めぐみん可愛すぎか、と言うか純粋過ぎる……! 可愛いなぁもう!

 私専用の特化スキルでも持っているのかと言うぐらいに心にクリティカルヒットする言葉を投げ付けてくれるじゃないか。

 私の心からの叫びにめぐみんは首を傾げ、カズマくんは肩を竦めた。

 そして、宴会芸で盛り上がっていた集団の主が漸く此方に気付いたようで、今日はこれで終わりねー、とあっさりとした解散の言葉を放って此方に歩いてきた。

 

「あ~~~っ!! 貴女ね!」

「ど、どうも?」

 

 突然指を指されて叫ばれてしまった。

 青色の髪がさらさらと煌いて美しい、ほんのりと神々しさのあるアクアさんと思われる女性が突進するような速度で近付いて来た。

 先程の暫定エリス神の様子からして私の正体が怪しいのだろう、となればアクアさんも似たような反応を取るのだろう。

 がしっと私の両手を取って満面の笑みで彼女は言った。

 

「ありがとうね! 私の可愛い信者たちの面倒を見てくれて! 喜びなさいな。アクシズ教の女神たるこのアクア様が直々に認めてあげる! 特別外部顧問としてこれからもよろしくね!」

「あ、はい」

 

 可笑しいな? 明らかに反応が違うぞ? もしや、二人は敵対しているとか、派閥の違いから方向性が明確に違っていたりするのだろうか。

 内心首を傾げながらぶんぶんと上下に振られる両手に込められた神聖な雰囲気で両手が熱くなる。

 まぁ、不死人と言ってもベースは人間であるからして、神々しいオーラで成仏って事にはならない。

 ……だが、私の人間性、特に闇術を扱うに当たって必要な黒い部分が悲鳴を上げている気がした。

 ピントを調整しなくても確実にこの人のソウルの輝きは無垢の様に透き通っていて綺麗な色をしているに違いなかった。

 

「何か変な混ぜ物されてるみたいだけど大丈夫? 呪いと祝福が混じったような感じで、肉の筋が歯に挟まったみたいな違和感を感じるけど、浄化しとく?」

「えっ、そんな感じなのか?」

「そうね。具体的には白か黒かって言えば白なんだけどグレーっぽいな、みたいな違和感よ」

「あー……、うん、大丈夫です。そう言う特典なんで」

「あら、そうなんだ。…………もしかして、私がサボゲフンゲフン、休憩してた時に部下の子に送られた人かしら? 結構な大目玉食らったらしいけど、貴方の育ちで評価を取り戻してたからよっぽど優秀なのね」

 

 あちゃー、やっぱり怒られては居たのか。すまんな天使さん。

 弓での狩猟などで真面目にやってるアピールになったみたいだな。

 ……と言うかあの天使さんの上司アクアさんなのか。カズマくんに駄女神と称される人だし、迷惑のベクトルが何か違うんだろうなぁ多分。

 

「元ヒキニートのカズマも見習わなきゃ駄目よ?」

「余計なお世話だ。お前もおんおんさんの爪垢煎じて飲んだ方が良いんじゃねぇか?」

「私が? 見ての通り完璧な女神なんだから必要無いわよ」

「はいはい、そーですねー……」

 

 言い返すのに疲れたと言う様子で私の反対側に座ったカズマくん、その隣にアクアさんが座り、こっそりと戻って来たゆんゆんがめぐみんの横に座った。

 私はどうすれば、と言った様子で立っていたダクネスさんだったが、雰囲気に乗ると言った様子でアクアさんの隣に座った。

 

「あら? カズマこの人もスカウトしてきたの? 一気に二人もだなんて結構やるじゃない」

「いや、そっちは別にいらん」

「ごふっ、随分と切れ味の強いのを入れてくれるじゃないか。だが、良いのか? そこのおんおんさんは多分私の事を含めてこのパーティに加入してくれたのだと思うぞ?」

「お前がそれを言うのかよ!? くそぅ! 自覚してるならもう少し治す努力をしろよ! せめてプライベートだけにしとけ!」

「ふっ、そんな事をしては大衆の面前であると言うシチュエーションが死ぬではないか!」

「……もうやだこの変態、無敵かよ」

 

 あらら、死んだ目でポテトを齧り始めてしまった。ちょろいなラッキーと手籠めにしない辺り遊び人では無かったようだなぁ。

 ダクネスさん実にちょろそうな感じがしているのだけれども。案外押しに弱く、言い包めたらそのままヤれそうな雰囲気があるのは何でだろうな?

 装備などは確りしていて、美容関連も良い物を使っているように見える。

 もしや、お金持ちの道楽で冒険者をしているのだろうか。

 または、没落貴族の令嬢だったけれどストレスのあまり被虐による快楽で心を保っているタイプだったりするのだろうか。

 ううむ、人によっては過去の事は重いからな。聞き辛い内容であるし、気付かれない程度に憶測の材料を会話から拾っていくか。

 

「あ、おんおんちゃんは何飲む? シュワシュワにする?」

「シュワシュワ?」

「うん、シュワシュワしててふわふわってなって美味しいのよ。すみませーん! シュワシュワ二つー!」

「いや待てアクア!? シュワシュワってクリムゾンビアの事だろが!? 酒は駄目だろ!」

「カズマくん……、この世界は中世ヨーロッパのようにワインなどが水として扱われるような流れを汲んでいるから子供の飲酒は問題無いんだぞ?」

「いやいやいやいや、駄目だろ、倫理的に」

「…………すみませーん! 焼き鳥盛り合わせも付けてくださーい!」

「あ、ちょ、おんおんさんはそういうタイプかぁあああああ!?」

 

 まぁ、アクアさんのご厚意だし? 飲める機会があるなら飲みたいんだよ私も。

 折角の飲酒ができるならば楽しまねば不作法と言うもの。

 クリムゾンビア、か。名前からして赤いビールみたいな感じなのだろうな。

 ……隣から何か凄い視線を感じる。見やればめぐみんとゆんゆんが驚愕した表情で此方を見ていた。

 

「あの、まさかと思うのですが、の、飲んじゃうんですか?」

「駄目か? 私としてはもうその気なんだが」

「いや、その……、お酒って大人の飲み物じゃないですか。私たち、十三歳ですよ? 興味があるのは分かりますが……」

「そ、そうだよおんおん。お酒って成長を妨げるらしいから駄目だって」

「別に私としてはこのまま成長が止まっても問題無いんだけどな」

「ぐっ、そうでした。おんおんは容姿に対して最低限くらいしか気を遣わないタイプの人でした……!」

 

 だって……なぁ? こんな成りのちんちくりんだぞ? 成長も見込めないとなればもう諦めるしか無いだろうに。

 私とてもう少し身長が欲しいなぁと思った事はある。ハンドアックスのリーチが伸びるからな。

 私生活では別に困りはしないし、上の方に荷物を置かないようにすれば良い話だしな。

 

「お待たせしましたー、シュワシュワ二つに焼き鳥盛り合わせです」

「きたきた。それじゃ、おんおんちゃん、かんぱーい!」

「かんぱーい!」

「あ゛ぁぁあああ……、見た目幼女が酒を嬉しそうに飲んでる姿とか脳が破壊されそうなんだが」

「ほら、アクアさんも焼き鳥どうぞ」

「あら、悪いわね。それじゃハツ貰おーっと」

「んぐんぐっ、ぷはぁ、美味しいですねぇ」

「ごくごくっ、ぷはーっ、美味しいわねっ!」

 

 いやー、久しぶりのアルコールで気分が良い。

 前世では現実逃避のための導入剤でしか無かったが、こうして昼から遊び呆けるために飲むだなんて思いもしなかったな。

 焼き鳥も味が確りしてておつまみとして最高だ。……やばいな、この背徳感、嵌りそうだ。

 

「昼からお酒が飲めるだなんて……最高だなぁ」

「うぐぐ、おんおんさんの知りたくなかった一面が目の前にっ」

「んー、別に誰かに面倒を掛けてないから問題あるまいて」

「そう言う問題じゃないんですよ! お酒は二十歳になってから! 常識でしょう!?」

「なんだ、カズマくん、生前はそう言うの確りしてたタイプだったのか。……お酒ってのはな、嫌な現実を忘れるために飲むための睡眠導入剤だ。現実に疲れたら飲むのさ、キマるぜ?」

「駄目だこの人、典型的な疲れ切った社畜の人だよっ! こっちでの生活は違ったでしょうに!?」

「……ま、それはそれ、これはこれだ。久しぶりで気分が良いんだ、これくらいは見逃してくれたまえよ」

「うぁああぁあ、明らかに素が出てるっ。あの頼れるお姉さんなおんおんさんは何処へっ」

「あっはっは、そいつはもう居ないっ! もう死んだんだ! あっはっは!」

 

 不死人だから死なないけどな私。

 やばいな、久々に箍が外れたように気分が高揚している。

 成程、確かにシュワシュワでふわふわだな。前世でもこんな風に酔った事は無かったが、環境が変わればそういうのも変わるもんなんだなぁ。

 アクアさんとカパカパとシュワシュワを飲み干していく。焼き鳥も燃料の如く追加され、大変気分が宜しい。

 多分、状態異常の対抗値が高いから酔いの悪い部分が抑えられてるんだろうな。

 流石にこんなに飲めば吐くだろって量を飲んでいる自覚がある。

 アクアさんは……あぁ、水の女神だもんな、ビアもまた水みたいなものか。飲み終えてから無害な水にでも変えてるのだろう。

 

「ふぅ……、久しぶりに満喫した気がする」

「うわぁ、おんおんが今まで見た事の無いくらい満足気な顔してます……」

「ふふふ、こうして入り浸るのも良いかもしれんな」

「駄目です! もっと節度を持って飲むべきですよ!? 八杯も飲んでるじゃないですか! ほら、もう駄目です! お酒、終わり!」

「えぇ……、せめて飲み切らせてくれ。一杯で終わりにするからさ」

 

 横合いからめぐみんにコップを取られてしまった。ううむ、抱き締めるようにガードされているから奪い取れん……。

 ……仕方あるまい。あんまり駄々をこねて嫌われてもアレだしな。

 ハツを噛み千切り、もぐもぐと咀嚼する。はて、これ何本目だろうか。結構焼き鳥頼んだ気がするな。

 ちょっと塩分の取り過ぎかもしれん。この世界に硬水の概念はあるんだろうか、カリウムが欲しいんだが……。

 

「すまない、お水を貰えるだろうか」

「はーい、今行きまー……っておんおんちゃん飲み過ぎじゃない!? まだ子供でしょうに!」

「アークソーサラーだからな。デバフ関連の対抗値が高いから、酒にも強いんだよ」

「へぇ、そうなんだ。なら安心……かなぁ? まぁ、程々にね。お水で良かったかしら?」

「うむ、ジョッキで頼みます」

「はいはい、承りー」

 

 あの人酒場のアルバイトしてたのか。前に共同したアーチャーの人だったかな。

 二人でゴブリンを的にして殲滅した仲だ。……他のパーティメンバーには引かれたけどな。

 暫くして樽ジョッキのお水を持って来てくれたので、お礼を言ってごくごくと飲んでいく。

 ……ううむ、若干お腹がたぷたぷになってしまった気がする。帰る時が大変だ。

 

「あんだけ飲んでほろ酔いで済むのかよ、おんおんさん酒豪なんだな……」

「んー? 多分、ステータスの恩恵だぞ。アークソーサラーは呪術を扱うデバフの職業だからな、転じてデバフ対抗値が高いんだよ。ダクネスさんのクルセイダーも、火力よりも防御重視のスキルが多いから筋力よりも体力とか防御力が上がりやすいんだ。職業補正って奴だな」

「へぇ、そういう所はファンタジーしてるんだなこの世界……。因みに冒険者は?」

「冒険者? ……あぁ、確か職業補正は無いが、その代わりにスキルをラーニングできる特性を持ってるぞ。その他の職業には無いから、ワンオフだぞ」

「へ? 地味にコスト高いから不便だなと思ってたけど案外悪くないんだな」

「あぁ。器用貧乏にもなれるし、方向を固めて極振りする事もできるのが冒険者の強みだ。最弱ではあるが、何にでもなれるポテンシャルを秘めている大器晩成型の努力職だ」

「おぉ……、なんか未来に期待が持てるな」

「まぁ、カズマくんの立ち位置は前衛だからそれを踏まえてスキルビルドすると良い。最前にダクネスさん、その後ろが君だ。クルセイダーのスキルである『デコイ』で引き付けている間に、横合いから切り掛かっても良いし、盗賊系のスキルで不意打ちしても良い。どう組んでいくかは肉体次第だからな。剣を扱うなら素振りはした方が良いぞ。ソードマンの職業に就いている人に教えを乞うて剣術系のスキルを得ても良いし、クリスさんに盗賊系のスキルを学んでダガーなどの武器を扱っても良い。ついでに斥候みたいな事もできれば大活躍だ」

 

 つらつらとビルドに関するアドバイスをしていく。

 カズマくんはぽかんと口を開いて呆けており、めぐみんが何故か溜息を吐いた。

 

「言ったじゃないですか。おんおんはこう言う事がさらりと言える実力者なんですよ。相手の立場で物事を構築して伝えるのが上手いんです。ただ、あんまりにも正論な時もあるので耳が痛いんですよね……」

「いや、その……、正直此処までちゃんとした常識人だと思って無くてだな……。さっきの光景のせいで未だに脳がボコボコにされた気分だけどな」

「ははは……、すまないな。何せ十三年振りなんだ、はしゃぐのは見逃してくれ」

「……? その歳にはまだおんおん産まれてないでしょうに」

「む、そうだったな。案外結構酔ってるのかもしれないな……」

 

 一つ息を吐くと酒精の強さを感じられた。ううむ、割と本気で酔ってるなこれは。

 思考のエンジンが止まったからか電源が落ちていくような感覚に陥る。

 ……ううむ、眠いな。くらりと身体が揺れてめぐみんにぶつかって止まる。

 ほんのりと衣服から漂う嗅ぎ慣れた匂いに心が落ち着く。

 すまない、少し肩を借りるぞめぐみん……。

 

 

――――――――――――→

  >カズマのターン!<

←――――――――――――

 

 

 ね、寝ちまったんだが……。

 めぐみんの肩に頭を乗せてぐっすりくぅくぅと気持ちよさそうに寝ちまったんだが……。

 にしても……、可愛いよなぁおんおんさん。

 普段は気の知れた頼れる姉貴って感じで、聞く話によれば家事も料理もできて、さっきみたいにベテランな一面もあって、そしてこれだ……。

 ギャップ萌えのスクランブル交差点みたいな人だな……人気者なのにも頷ける。

 肩を貸すめぐみんも満更でもない感じだし、リアルロリ百合……。尊いが過ぎる。

 内心で拝んでしまうくらいに目の前の光景は尊いものであった。

 ぶっちゃけめぐみんは中二病が過ぎるってだけで容姿は整ってて可愛いしな。

 そこにダウナー系姉御なおんおんさんが絡んだらもう……薄い本ができるレベルだ。

 

「そういえばアクア。転生特典にあんなのあったのか?」

「あんなのって?」

「ほら、おんおんさんのだよ」

 

 俺はアクアの耳元に内緒話をするべく声を潜める。

 

「俺たち勇者候補ってのは一度死んでそのままの姿でこっちに送られるんだろ? おんおんさんは恐らく転生者だ。なのに、こっちの現地人として生を受けてるだろ? つまり、知識を持ったままこっちに産まれ直したって事だろ。そういうの見かけなかったんだが、もしかして別の所にあった感じか?」

「んー……。一応異性に成れる特典スキルがあった筈だけど、確か性同一性障害に苦しんでた男の子が貰ってカズマの時には残ってなかった筈よ。一応、その身のまま送るのがルールだしね。……あ、そういえば私の部下に天使の子が居るんだけど、サボりのために転生業務をやらせた時に何かやらかしたみたいなのよね」

「サボってんじゃねーよ……。その人も不憫な……」

「そうでも無いわよ? あの子からすれば出世してからじゃないとやれない業務を先んじてやれたんだから良い経験になってた筈だし。……それに、こうして私がこっちに居るからその時の経験を元に業務を受け継いでる筈だもの」

 

 普段のアクアとは思えない上司っぽい様子に少しだけ感心する。

 何だこいつちゃんとできる時もあるんじゃないか。

 

「ふーん……、まぁいいか」

「何よちゃんと答えてあげたのに……。まぁ、いいわ。おんおんちゃんのおかげで気分も良いし、今回は特別に許してあげるわよ。で、話の続きだけど、多分、あの子ルールを破ったからお説教を受けたんじゃないかなーって思うのよね。原則、転生者はその身その形のまま異世界に送り出すのがルールなの。おんおんちゃん凄い賢そうだから言い包められて、産まれ直す形で転生してるんじゃないかしらね」

「って事は、あの姿は特典とは別って事か?」

「多分ね? 幼馴染って言ってたから擬態とか寄生とか入れ替わりとかも無さそうだし、見た感じ呪い寄りの祝福系のスキルを貰ったんじゃないかしら。分かりやすい武器を持ってる訳でも無いし」

「成程、確かにな。すっげぇ武器を持ってたら普通持ち歩くもんな」

「そう言う事ね。だからおんおんちゃんは凄いのよ。あの実績を自分の力で成してるんだから」

「……加入してくれてほんと良かったな」

「そうね。私としてもアクシズ教徒が増えてくれるのは嬉しいもの」

「は?」

 

 アクシズ教?

 聞く話によれば水の都市アルカンレティアに総本山を置く、こいつを崇めるやべー奴らじゃなかったっけ?

 なんでそんな奴らの名前が出てくるんだ?

 俺の疑問顔にふっと笑ったアクアがシュワシュワをくぴっと飲んでから口を開く。

 

「私は女神だからね。この世界を一望できる権限は持ってたの。だから私の可愛い信徒であるアクシズ教の子たちを見守ってたのよ。ちょうどカズマに拉致される数日前におんおんちゃんはアクシズ教のために真摯に叱ってくれてたのよ。確かにちょっと甘やかし過ぎたかなって思ってたけど神託を下ろそうにも何を言うべきか分からなくて困ってたのよね。そんなこんなでおんおんちゃんはアクシズ教の特別外部顧問って言う肩書きを持ってるって訳。だから、私がおんおんちゃんを猫可愛がりするのも当然の事なのよ」

「…………うっそぉ?」

「ほんとよ? 実際、おんおんちゃんから私に信仰パワーがちょっぴり来てるからちゃんと敬ってもくれてるみたいだし、ほんと良い子よね」

 

 いや、申し訳無さでいっぱいなんだが?

 要するにお前の尻拭いをしてくれてるんだろおんおんさんは。

 そんな人を俺は自分可愛さにパーティに勧誘しちまったのか……、ちょっとだけ罪悪感が芽生える。

 お前ももう少し悪びれろよな。頑張っておんおんさんへの負担を減らさなきゃな。

 もう無理面倒だから抜けるって言われたら土下座してでも引き留めるからな俺は……。

 そう溜息をひっそりと吐いてシュワシュワを飲む。……ふぅ、少し落ち着いた。

 

『緊急クエスト! 緊急クエスト! 至急冒険者の皆さまは冒険者ギルドへと集まってください!』

 

 と言う拡声器めいた大声がギルドの外から聞こえてくる。

 緊急クエスト? なんだそりゃと辺りを見回せば他の冒険者の方々はやったるぜぇと言う感じでスタンバイをし始めていた。

 文字通りに捉えれば何か厄介な事が起きたから全員で対処するぞーって言う感じで良いんだよな。

 

「ふむ、そういえばそんな時期だったな……」

 

 然も知り尽くしたような声色でダクネスが嬉々とした様子で語る。

 もしや、魔王軍による掛け出しの街への襲撃の時期なのだろうか。

 確かに屈強な冒険者になる前の駆け出しの時に殺しちまえば人類の弱体は免れない。

 ……にしては、鬼気迫ったと言う感じの雰囲気ではない。

 むしろ、儲けるぞと言った現金な感じが強いんだが。

 

「って、そうだった。めぐみん、おんおんさんを起こして――」

「問題無い、もう起きている」

 

 先程まで気持ち良さそうに寝ていた様子とは打って変わった真剣な表情のおんおんさんが居た。

 その何処か冷え切った声に背筋が凍り、冷たい視線が辺りを見回すのを息を呑んで見ていた。

 

「アクアさん、解毒の魔法を貰えるか?」

「え、えぇ。『デトフィケーション』」

「ありがとう、酔いは取れたな。緊急クエストか。カズマくん各員の戦闘準備を。後手に回るとしてもいざと言う時に動けるようにすべきだ」

「あ、あぁ、分かった」

 

 立ち上がったおんおんさんが身体を解しながら身動きができる恰好になったのを見て、俺も慌ててそれに続く。

 他の皆もそれに感化されてか、思い思いに身体を動かしながら続々とギルドの広場に集まる冒険者たちの居る場へと歩いて行く。

 あれ、俺がリーダーだったと思うんだがおんおんさんが前を歩いてないかこれ。

 ……此処で任せきりにしたら今後もそうなりかねないな。少し足早におんおんさんの隣へと付く。

 

「良い判断だカズマくん。パーティリーダーとして行動する時は前に居るべきだ。暫くは私が助言をするからしっかりと前に立ってくれ」

「は、はい、分かりました」

「して、緊急クエストらしいが他に何か聞いていたか? 警報の途中で目を覚ましたから全文を聞けてなくてな」

「えぇと、いや、内容までは言って無かったっすね。あ、そういやダクネス、何か知ってるようだったような」

「ふむ、そうなのか。となると危険度は低い案件なのかもしれないな。流石に襲撃が見えました、呼びました、行って来てください、だなんて悠長な事はしないだろう。となれば、比較的安全なもの……あぁ、そうか、アレの時期かぁ……」

 

 おんおんさんから漂っていた覇気が段々と萎んでいき、気怠そうな雰囲気に変わってしまった。

 そして、辺りを見回して楽しそうにしている光景に合点がいったような素振りで頷いた。

 

「……カズマくん。この世界に来てアクセルから外に出た事はあるか?」

「い、いえ、昨日ジャイアント・トードを狩りに農村地帯に行ったくらいですね」

「成程な……、はぁ。呆れずに聞いて欲しいのだが、この世界の常識は前世のそれと全く違うんだ。魔法が、モンスターが、というレベルではない。知ってるかカズマくん。この世界では秋刀魚が畑から取れるらしいぞ」

「………………はい?」

「この世界における野菜は活きが良い。自ら動き出して大陸を横断する程にな。恐らく、今回の騒動は春キャベツの大陸横断だろう。ガンダムのハロって居るだろ、あんな風にキャベツが飛び回る。それを収穫するのが今回の緊急クエストの内容だろうな……」

「えぇ………」

 

 これを言ったのがアクアならふざけんなと叫ぶところだが、常識人でありこの世界の先駆者であるおんおんさんが言うなら信じざるを得ない。

 小声で飲み直そうかなぁだなんて呟いているのだからマジで言っているに違いないのだろう。

 

「でもまぁ、稼ぐなら都合の良いイベントではあるんだ。まだ駆け出しであるカズマくんたちの懐はまだ寒いものだろう? こういう機会に稼いでおくと良い。上質なキャベツの収穫だと一万エリス程の報酬を貰える事もあるらしいからな」

「一万エリス!? え、マジで言ってんすか?」

「うむ。その分捕獲の難易度も上がるらしいからな。実際、重みのあるキャベツを投げ付けられたら痛いだろう? 当たり所が悪ければ最悪死に至るんだ、ある意味冒険者向けの仕事なのさ」

「へぇ……、成程なぁ……」

「まぁなんだ、私たちのパーティは幸運な方だろう。何せ、衝撃を殺してくれるドMな肉盾が居るからな。被虐願望も満たせて、報酬も望める。うむ、win-winだな」

「なんかダクネスの扱い方慣れてません……?」

 

 恐る恐るおんおんさんを見やれば視線を逸らされた。自覚はあったらしい。

 いやまぁ、めぐみんとゆんゆんの保護者役をしているなら嫌でも慣れるのかね。

 ……または、地球に居た頃の話を持ち出しているのかもな。

 

「いやなに、ああいう癖の強い人を扱う時のコツはな、相手の願望をある程度叶えつつ誘導してやるのが一番だ。本人がやりたがっているんだから仕方が無いんだ。それを押さえ付けようとするから余計な面倒が出るんだ。幸いな事にダクネスさんの性癖は他人に迷惑を掛けるものではないからな。人の血が好きだとか悲鳴が好きだとか、そう言う猟奇的な性癖じゃなくて良かったと思うべきだ」

「……前に居たんすか?」

「…………性癖ってのは業が深いんだ。だから、私は常々こう思っている。性癖を満たす生活こそが真の幸せだ、とな。だからカズマくん、自重しつつ楽しく生きるんだぞ」

「は、はい」

 

 その和やかな笑みがとても綺麗で、思わずドキリとした。

 年下である筈なのにこうも色気のある微笑みを魅せれるおんおんさんはどんな生き方をしてきたのだろう。

 そんな風に思ってしまうのも無理も無いくらいに、俺はおんおんさんに惹かれていた。

 ……でも、この人百合っぽいんだよなぁ。めぐみんに対する感じが明らかにその……。

 あぁ、うん、成程。おんおんさんはおんおんさんで性癖に生きてる訳か。

 一度、二人きりで話してみたいもんだな…………。


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