この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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素で発売日を勘違いしてたので再投稿です。
そうじゃん、ブラボってダクソ3の前じゃんか……。
ツキヒガナガレルノハヤイナー。
なのでそこらへんの違和感潰すために一部変更してます。
感想欄で教えてくれてほんとありがとうございます。

フロムあるある~痒いところに手が届きそうで届かない雑貨屋~

追記
感想を見て、そう言えばおんおんがライトユーザーな事を小説内で明記してなかったなと追加しました。
ブラック社畜がフロムゲーを複数本やれるだけの時間は無いんだわ……。
(と言う設定)


13話

 春キャベツ大行進から特段何事も無く平穏な日々が過ぎ去っていった。

 何やら私がアルカンレティアに定期集会に向かっている間に集合墓地でリッチーに出会ったらしいが、聞く話によればとある雑貨屋の店主さんであった事が判明したそうな。

 私はアクアさんの主観混じりの説明に小首を傾げていたものの、溜息交じりのカズマくんの説明で漸く内容が知る事が出来た。

 ……心優しきおっぱいの大きい美人リッチー、ねぇ。

 何となくカズマくんがその魔物を見逃した理由が見て取れる思いであったが口にはしなかった。

 まぁ内容が内容だからな。守銭奴な街のプリーストに代わって浄化してくれていたらしいので人に仇なすタイプの人物では無いらしく、物腰が低いおっとリッチーとの事だった。

 ……その事を話すカズマくんの鼻の下の伸びっぷりはピノキオに匹敵する程であったがな。

 そんな人物居たっけかなと記憶を探るととある小さな雑貨屋の店主を思い至る。

 あのとんでも産廃品倉庫な雑貨屋の店主ウィズさんだ。

 一部ソウルが黒く淀んではいたものの殺人による人間性の淀みでは無く、今思えばアンデッドであるリッチーであったが故の淀みだったのだろうな。

 散々アルカンレティアで説法と言うか説教をしてきたが故に精神的に疲れていたが、ウィズさんがリッチーであったと言う事実に追い打ちを掛けられた気分だった。

 と言うかリッチーって腐った死体じゃないんだな。理性のあるゾンビと言う印象だったのだが、ウィズさんと言う実例が居るとその違いに気付かされた。

 

「さて、どうすっかな……」

 

 いつものように午前の家事を終えた私は指を組んで伸びをして長い息を吐いた。

 先日の大行進でそこそこ稼いだものの暫くはジャイアント・トード狩りに勤しむと言う事だったので私だけ別行動を取っている訳だ。

 何でもダクネスさんを態と食わせた後に全員で刃物で止めを刺す戦法にしたらしく、そこそこの効率で狩りが上手く行っているらしかった。

 一度心配になり見に行ったら、ヌルヌルテカテカ状態で楽しそうにしているダクネスさんと死んだ目で狩りを続けるカズマくんに何故か一発目は素手で殴りに行くアクアさん、いつもの杖から槍に持ち替えためぐみんと『ライトニング』をぶっ放すゆんゆんと言う大変面白い光景が見れたので安心して帰って来たんだよな。

 

「んー……、メイドスキーの中巻も昨日送ったし、下巻書くにはパトスが足りないしなぁ」

 

 完全燃焼と言う訳ではないが、ある程度性欲がアウトプットによって解消されたため一種の賢者タイムに入っているようなものだ。

 この状態で書き始めると飽きてしまうので、また暫くは充電期間だな。

 

「……酒場で飲もうかなぁ」

 

 この前羽目を外したのを機にクリムゾンビアを飲む事を解禁したため、そんな選択肢も取れるようになった。

 もっとも私のちんちくりんぼでぇを見て心配され、途中からネロイドと言うシャワシャワする酒でも炭酸でも無い不思議な飲み物を飲むように言われてしまったんだがな。

 何だろうなあの不思議な飲み物は。一種の魔法水らしいが製造方法は企業秘密らしいので判明していないとの事だった。

 ある程度気持ち良く飲めるので焼き鳥盛り合わせとセットにすると大分良かった。

 後味が何と言うか……シャワシャワするんだよな、ネロイド。ほんと良く分からんが好き。

 

「いかん、駄目人間まっしぐらじゃないか。流石に十三でそれは早すぎるぞ私……」

 

 装備の更新でもしてみるか。

 この前のキャベツの報酬でうちのパーティは色々と装備を新調したらしい。

 カズマくんはよれたジャージから一端の冒険者らしい軽装な恰好を。

 めぐみんとゆんゆんはマナタイトを装着した新しい杖を。

 ダクネスさんは新しい胸当て鎧と私がこっそりとおすすめした衣服下の卑猥な拘束着を。

 アクアさん? 飲食代に消えた。どうにも水の女神だからか素手で触れてしまうと飲み物が真水になるらしく、祝福のようで呪い染みたそれのせいで楽しく飲めないとの事だった。

 なので、素手で触らないように肌触りの良い手袋をお勧めしてあげたら「触れても真水にならない! 最高じゃない!」と大層喜んで飲んだくれになっていた。

 私? それに付き合ったので一緒にお金は溶けた。やはりお酒は長寿の薬なんだなって。

 アクアさんがお酒を注文してくれるので私はそれに便乗する形でおつまみを頼むのである。

 おかげで少しお腹がぷにった気がする。太腿も曖昧3センチって感じだ。

 ……運動するか。そうなると適当にソロで依頼でも受けるが吉か。

 

「と、来てみたんだが……ろくな依頼が無いな。半日で終わらないものばかりだ」

 

 シルバーウルフの群れの討伐、ゴリゴリラの巣の調査、一撃熊の討伐及び撃退、ゴブリンの巣の殲滅。残りはお使いクエストみたいな薬草などの納品やテレポート屋の範囲外の村への配達などのものくらいだ。

 どれもこれもアクセルから遠いものばかりで身近なものとなるとめぐみんたちが行っているジャイアント・トードくらいしか残っていない。

 どうも最近こんなんばっかなんだよな。はて、近隣のモンスターが狩り尽くされるくらいに熱心な冒険者だなんて居たっけか?

 そう小首を傾げていると後ろから近付く気配があった。

 

「あれ、おんおんちゃんじゃん。久しぶり、元気してた?」

「おや、ダストくんか。お久しぶりだね。リーンさんに迷惑掛け過ぎてないだろうね?」

「あ、あはは……、それはその、ほ、程々に、な。ほんとだぞ? んで、どうしたんだ、ボードの前で悩んでるみたいだったが」

「ふむ、それがだな。手頃なクエストが見つからなくて困っていたんだ」

「ん? もしかしておんおんちゃん知らないのか? ほら、正門から出て少し離れた丘の上に古城があるだろ? そこに魔王軍の幹部が居座ってるって話だぜ。だから近隣のモンスターが逃げちまってて大混乱らしいぞ」

「それは、本当か? 魔王軍幹部だなんて大物がこんなところに来るとは……。魔王軍も本気で此方を潰しに来たのかもしれんな」

「んー、どうだろな。偵察班の奴に聞いたら朝昼晩全然外に出て来ないって話だぜ。軍勢の内容はアンデッドらしいから、恐らく首無し騎士デュラハンじゃないかって話だ」

「ほほぅ、そうなのか。ありがとうダストくん」

「へへっ、構わねぇさ。おんおんちゃんみたいな可愛い女の子の役に立てて嬉しい限りだぜ」

 

 鼻の下を人差し指の横腹で擦りながら照れ臭そうにするダストくん。

 彼はカズマくんと歳の近い悪名のあるタイプの冒険者の一人だ。同じパーティのキースくんとセットでチンピラ扱いされていて、小物っぽいムーヴが多いお調子者な印象を受ける。

 ……だが、よーく見れば立ち振る舞いが洗練されている所が垣間見れる。

 戦闘も長剣を使い辛そうに振るってはいるが、より長い射程の武器を得手としていた名残が見受けられた。

 恐らく槍がメインウェポンなのだろうな、突然の不意打ちなどには滅法強いので空間認識能力が発達しているように思える。

 何となくであるが軽薄なチンピラを気取っているだけで、実際は実力者なんじゃないかと言う疑念があるんだよなぁ。

 なので、何かしらの事情があってそう振舞っているのではないかと思うのだが、それを暴く程私との関わりは薄いので自重している。

 時々リーンさんにダストくんの事で相談を受けるのだが、多分両想いなんじゃないかなと思う今日この頃だ。

 この前ダストくんの野菜嫌いを何とかできないかと相談されたので、お手製のお弁当を作ってやれば良いと回答したら今でも上手くやれているらしい。

 早くくっつけよ、とテイラーさんとキースくんも思っているらしく、進展はまだまだ遠そうだ。

 

「という事はダストくんたちも足踏みをしている感じか?」

「おう、そう言う訳でちょっとお願いがあってな。ゴブリンの巣の殲滅依頼を受けようかとうちのパーティは考えている訳だが、また助っ人に入ってくれないか?」

「ふむ……、構わないと言いたいところだが、ちょっと距離が遠いだろう?」

「あぁ、そこらへんは考慮するさ。先に俺たちが視察に行って、本格的に殲滅する時に来てくれりゃ良い」

「それで良いのか? そちらに負担が掛かるが……」

「良いって別に。俺らのパーティだと火力がイマイチだからおんおんちゃんが居るだけで効率が段違いなんだよ。呪い殺すだけの呪術師とは違って、アークソーサラーの魔法は攻撃一辺倒だから殲滅具合がちげぇしな」

「ん? 職業に呪術師があるのか?」

「へ? 知らないのか? まぁ、うん、意外とマイナーだしな。病原菌を呪い殺したりして医者っぽい事をしてる職業だよ。プリーストの回復と違って物理っぽい感じだし、外科医的な印象があるな」

「へぇ、そうなのか。物知りだなダストくんは」

「へへっ、伊達にアクセル随一の遊び人と呼ばれてねぇさ」

 

 アクセル随一のチンピラと呼ばれてなかったっけか?

 まぁ、気持ち良く話してくれているようだし水は差さないようにしておくか。

 

「ほほぅ、頼り甲斐があるじゃないか」

「そうだろそうだろ。と言うか、おんおんちゃんこそなんであの最弱職の居るパーティに居るんだ? 明らかに過剰戦力だろ。ハーレムみたいな事しやがってあの餓鬼」

「あはは……。だがな、実情を知ると大分印象が変わるんだぞ。あの癖の強いパーティを仕切っているカズマくんはよくやってるよ、いや、ほんとに……」

「お、おう。おんおんちゃんが言うなら信じざるを得ねぇが……、いっちょ吹っ掛けても良いか?」

「穏便な形ならな。私の居ない時にしてくれよ」

「分かってるって。難癖付けてトレードでもしてやろうかなって。あの最弱職が仕切れるなら俺でもできるだろうしな」

「……まぁ、頑張ってくれ。応援だけしてるよ」

「おう! って事で、明日のお昼に農村地帯を少し越えた先にあるケルル村に来てくれるか? あそこに貼ってある依頼とは別の奴なんだ」

「あぁ、分かった。ダストくんたちも気をつけてな」

「応よ、たかがゴブリンに負ける程弱っちくないぜ俺らのパーティは」

「それもそうだな。では、また明日に」

「応、じゃあな」

 

 テイラーさんたちが座る酒場の席に戻って行ったダストくんを見送る。

 ふむ、魔王軍幹部が居るのか。手を出しても良いが……どうしたものかな。

 多くのパーティがこうして酒場でだらだらしているのもそれが理由だろうし、私なら一人で行って死んだとしても何とかなるから挑戦しても良いかもな。

 良い経験値稼ぎにもなるかもしれないし、明日の共同が終わり次第向かってみるか。

 そうなると私も少し装備を新調しておくべきかもしれないな。

 手持ちは薪割り用のハンドアックスに狩猟用の弓矢一式に超長柄杖くらいだしな。

 私の技量でも扱えそうなものは……メイスぐらいか。首無し騎士と言うぐらいだ、さぞかし立派な鎧を着ているだろうから鈍器は必須だろう。

 ……でもなぁ、バスタードソードのような大剣も捨てがたいんだよなぁ。

 両手持ちすれば何とか持てる筋力はあるし、こっそり買ってしまおうか……。

 ソロの時にだけ使えば良いだろうしな。パーティの時は呪術で十分だし。

 さて、武器屋を探すか。流石駆け出しの街と言うべきか大通り以外にも幾つかお店が点々としているようで、大通りは大商店や古参のお店が多く、裏通りや細道の方には後から来た個人店が存在している。

 そのため、適当にぶらぶらと歩きながら気に入ったお店を探すのもまた冒険者の醍醐味の一つになっている。

 どうせなら個人店でユニークな品物を探してみたいものだ。完全にプライベートで使う武器だしな。

 表通りから裏通りへと入り、薄っすらと暗がりをおっかなびっくり歩いて行く。

 

「こうして散歩するのもたまには良いもんだな」

 

 前世であればGPSによる迷いの無い歩みができただろうが、この世界にそんな便利なものは無い。

 なので、知らないところを歩く新鮮な心地が心を躍らせる。

 裏通りから細道へ、細道から裏通りへと適当に歩いて行く。ティンと来る店が中々見つからないんだよなぁ。

 そんな事を思いながら歩いている時だった。ふと視線を感じ、そちらを見やる。

 ある一件の店の窓際に置かれた精巧な人形と目が合った気がした。

 ……にしても、美人な人形だな。中世の貴婦人めいたフリル付きのケープに赤いスカーフが印象的で、今にも動き出しそうな程にリアルな女性の人形だった。

 立ち止まり、その店に近付く。……心做しか人形が此方に視線を向けている気がする。

 

「雑貨屋フロム・ヘル、ねぇ。まさかとは思うが……」

 

 熱狂的なフロム信者の転生者でも居たのだろうか。

 店名を見て思い出したがあの人形、人形ちゃんじゃないか。

 私はダクソ3しかやってないライトユーザーだったから、SNSで賑わってた事ぐらいしかブラボ知らないんだよなぁ。

 そういう特典でも貰った人でも居るのだろうか、そうなると同じ勇者候補として顔を出しておくべきか。

 そう思いドアにOPENの札が掛かっているのを視認してからドアを開く。

 小気味良い甲高い鈴の音が頭上から響く。見やれば開いた時に鳴るように仕掛けられていたらしい。

 

「やぁ、いらっしゃい。こんな所に来てくれるとは、酔狂なお客さんも居たもんだね」

 

 カウンターの奥に首裏で茶色の髪を纏めた中性的な女性の言葉に出迎えられた。

 薄い黒のインナーシャツにサスペンダーと言う涼しそうなファッションであるが、雑貨屋の店員というよりは鍛冶師のそれである。

 雑貨屋と呼ぶには棚に並ぶ商品は少なく、防具屋と呼ぶには鎧よりも衣服が多い。

 端っこの方には樽に入った武器が無造作に突き刺さっている。

 ……何か喋るインテリジェンスソードがあそこから手に入れられそうな雰囲気だな。

 文字通りの雑貨屋、と言う事だろうか。あれもこれも中途半端に手を出しましたと言う感じで店の内装が纏まっているように思える。

 

「……ね、ねぇ、まさかと思うんだけどそれ、カルラの衣装、だよね? もしかして転生者の人だったりする?」

「如何にも。そう言う貴女もそうだったりするのか?」

「えへへ、良く分かったね。ボクの事はユウキと呼んでよ。いやぁ、まさか同じフロム好きな人が居るだなんて思わなかったよ」

「手先が器用になるタイプの特典を?」

「……ううん、この見た目だから分からないかもだけど、性同一障害って言えば何となく分かる?」

「性転換系のスキルか、または身体変化か?」

「わぁ、凄い洞察力だね。前者が正解。元は男子だったんだけど、転生の特典で性転換を願ったんだ。だから、戦力的には役に立たないんだよね」

「ふむ、まぁ、それは仕方が無いだろう。自由な生き方をできるなら其方の方が優先度が高いだろうしな」

「そう言ってくれると嬉しいよ。……前世でも君みたいな人に会いたかったよ」

 

 儚い微笑を浮かべたユウキは遠い目で外を見やって溜息を吐いた。

 ……性同一障害、か。理解を得られる環境に居たかどうかで心労の具合が変わる事だろう。

 見た所カズマくん以上の年齢に見えるがまだまだ若いように見える。

 先程の物言いからして大分辛い人生を送ったのだろう、深くは聞かない方がお互いのためだな。

 

「戦力にはならない、と言っていたが此処にある品々は君が作ったんじゃないのか?」

「……あはは、そうだよ。生前は隠れコスプレイヤーでね。衣類専門だったんだけど、鍛冶にも手を出して色々と再現品を作るのを生き甲斐にしてたんだ」

「へぇ、その歳で此処までのものを……」

「えぇと、多分特典スキルのおかげで見た目が不老化してるんだ。だから、年齢的にはそこそこいってたりするんだよね」

「おぉっと、すまない、藪蛇を突いたな」

「ううん、いいよ。……ねぇ、もしかして君は」

「…………分かるものか?」

「何となく、ね。身振り手振りは女性のそれなんだけど、基本的な動きが男性のそれなんだよね。だからついつい目に入っちゃって」

「そうか。……はぁ。まぁ隠すものでもなし、踏み入った事を言わせてしまったしな。転生する際に天使さんを言い包めて記憶を保持したまま現地人に転生して貰ったんだ。特典とは別にな」

「えっ、そんなのありなの?」

「いいや? 正規の送り人じゃなかったからこそできたインチキのようなものだよ」

「そっか……」

 

 まぁ、特典を使わずに性転換が出来ると知ってたならそっちを選ぶだろうしな。

 すまないなユウキさん、私の場合は非常に特殊な例だ。

 少し目を瞑って小さく息を吐いたユウキさんは先程と変わらない儚い雰囲気のまま表情を戻した。

 

「因みに、どんな特典を貰ったか聞いても良い?」

「構わないぞ。少し近付いてくれるか? あぁ、それくらいで良い。右目に浮かんでいるだろう?」

「うっそ……、ダークリングじゃん。えっ、って事は不死人なの君」

「ふふふっ、我が名はおんおん! アークソーサラーにして上級呪術を操りし者、暗き魂を持つ混沌なる呪術の申し子! ってな。ダクソ3準拠の不死人だ。碌な死に方はしないさ」

「いやほんとにね……。それならエルデンでも良かったんじゃない?」

「エルデン?」

「「…………」」

 

 おぉっと? もしかしてフロムの新作でエルデンと略せる何かが出てたのだろうか。

 可笑しいな、私の時代の最先端フロムゲーがダクソ3だった筈なんだが……。

 多分、転生した時期が違うんだろうな。それだけの時間が経ったと言う事なのだろう。

 または時間の流れが違う可能性がある。もしくは産まれ直しと言うプロセスを挟んだ事で時間が経っている可能性もあるな。

 

「ま、まぁ兎に角、今後ともよろしくねおんおんさん」

「此方こそ、よろしく頼むよユウキさん。バスタードソードが欲しいのだけど良い物があったりするかい?」

「その見た目で大剣使うの? ……あぁ、両手持ちの補正で何とかできるんだ、凄いな不死人……。一応作った奴はそこの樽に差してるよ。習作だけどそこそこな品質は保証するよ、一律五万エリス」

「随分と安いな。では、拝見させて貰おうじゃないか」

 

 普通武器の相場は短剣が一万エリスから、長剣が五万エリス、それ以上だと十万エリスぐらいがざらな値段だ。

 モンスターが身近に居る世界なので身を守るための武器は需要が高く、それなりの値段がするのが当たり前だ。

 たーるっ! と樽の中身を見やれば武骨な武器がごろごろと入っていた。

 ……なんか鍔の辺りが動いて喋りそうな長剣を見つけた。成程なぁ、流石元コスプレイヤー。

 

「……生意気言うんじゃねぇ、坊主。ってな」

「ん? あぁ、それ分かるんだ。ついついそう言うのも懐かしくて作っちゃうんだよね。ちゃんと実用性はあるから安心して使ってくれて良いよ」

「ふーん……。って、なんじゃこりゃ、腕?」

「小アメンの腕って言う変形武器だよ。折り畳んだ腕が伸びる感じに変形するんだ。ブラッドボーンの武器だね」

「…………普通のは無いのか普通のは」

「あはは、そこにあるのは再現品ばっかだよ。おすすめは折りたたんだ鋸みたいな鉈だね。変形するとリーチが伸びるから使いやすいと思うよ」

「んー……、これか?」

「そう、それそれ。鋸鉈。ブラボの初期に手に入る終盤まで使える武器だよ。いやぁ、変形機構を再現するのが凄い大変だったんだよそれ」

「へぇ、そうなんだ」

 

 だからやけに重いのか。にしても変形機構を再現とかできるもんなんだな。

 流石にこれは私が使うには扱い辛いな。樽にあっさりと戻した。

 

「あぁ~、戻しちゃうんだ」

「流石に重過ぎる。今の私は十三歳の少女だぞ」

「なのにバスタードソード担ごうとしてたんでしょ?」

「浪漫だろ?」

「浪漫だねぇ……」

 

 結局、ダクソ3をやってた頃の愛用品であった打刀を選んだのは言うまでも無かった。

 大剣重過ぎだわ……。両手持ちでギリギリってレベルじゃないくらいに重かった。

 サンライズ立ちすらできなかったわ。これを振れる人すげぇわ。

 まぁ、ゲームの中での不死人は成人してる大人だろうしな。

 この打刀ですら結構重く感じる。これは素振りとかしてある程度振れるようになってからじゃないと実用化はできないな……。

 打刀も十分に私の身長だと大きいので浪漫も達成できていると言えるだろう。

 五万エリスを払ってソウルへと打刀を仕舞い込む。

 

「良いなぁそれ、便利だよね」

「実際便利だな、冒険者として破格だろうよ」

「一応似たような魔道具があったりするけど凄い高いんだよね」

「へぇ、あるにはあるのか。流石魔法のある世界だな」

「ほんとだよね。こうして不便無く過ごしてられるだけでも十分だと思ってたけど、やっぱり魔法とかにも触れてみたいよねぇ」

「私の場合は色々と特殊だからなぁ。ダークリングのせいか、ダクソ3の呪術と闇術を扱えてるんだよ」

「そうなんだ? 中級魔法みたいに一括で取得できるものなの?」

「いいや、一個ずつ取得する感じだよ。今使えるのは『大発火』『混沌の火の玉』『苗床の残滓』『猛毒の霧』『混沌の嵐』『カーサスの狐炎』、後は『闇の刃』だな」

「十分過ぎると言うか過剰過ぎない……? ほぼ最終装備レベルじゃん」

「その分スキルポイントもでかくてな……。混沌と苗床は二十ポイントもしたからな、それで最初のスキル貯蓄が吹っ飛んだよ。おかげで魔法は初級魔法しか取ってないよ」

「いや、中級も上級も要らないでしょそのラインナップなら」

「それもそうだ」

 

 呆れた様子で肩を竦めたユウキに苦笑を浮かべられてしまった。

 まぁそうだよなぁ。ソウル錬成せずに苗床とかを手に入れられているだけ十分過ぎるよなぁ。

 こうして打刀も手に入れた事だし、そろそろ戦闘スタイルを変えても良いかもしれないな。

 左手に呪術の炎、右手に打刀を装備して戦う本来のスタイルを確立すべきかもしれない。

 

「……殴打武器も欲しいところだな」

「良いのがあるよ。爆発金鎚って言うハンマーなんだけど」

「軽い?」

「重いねぇ。試作型だし」

「この見た目だからな……。そこそこの重さの方が良いんだが」

「そこにあるのしかないねぇ」

「じゃあ、オーソドックスなメイスでも買うか……、うぐっ、結構重いな」

 

 樽から引き抜こうとしたが地味にきつい。半ばまで引き抜いたもののそのままそっと戻す。

 ううむ、担ぎさえすれば扱えるのだろうが、樽の大きさがそこそこあるから私の身長だと厳しいものがある。

 ユウキを見やればたははと苦笑していた。元男性だからか私よりもたっぱがあるので失念していたに違いない。

 隣に来て私が先程引き抜こうとしたメイスを片手であっさりと引き抜くあたり、立派に鍛冶師をしている証拠なのだろうな。

 

「軽く振っても良いか?」

「良いよ。そのために真ん中を少し空けてあるんだこの店は」

 

 受け取ったメイスを肩に乗せるように担ぎ、中央の空いたスペースで縦に振るう。

 遠心力に任せる形で斜めに振り下ろし、三段目は腰を入れたフルスイング。残身を残しつつ肩に乗せ戻し、息を吐いて構えを解く。

 

「わぁお、流石冒険者だね。持ち上げられなかった筈なのに確り使えてるじゃん」

「まぁ、これぐらいはな。これも買わせて貰うぞ」

「毎度ありー」

 

 ソウルにメイスを収納し、五万エリスをカウンターに置く。

 良い笑顔でそれを手に取るユウキ。仕草が普通に女性のそれなんだよなぁ。

 恐らく今の私に足りない部分だろうな。流石に魂レベルでこびり付いている仕草の癖は直せない。

 まぁ、別に女性として雰囲気で生きているだけに過ぎないしな、困る訳でもなし問題あるまい。

 ……自分で言っていてなんか虚しくなってきたな。

 さっきのデルフリンガー買おうかな、喋らないし魔力も吸収しないけども。

 カズマくんにネタと戦力強化のためにプレゼントしてみるか。

 めぐみんたちを守って貰うためにも彼の戦力強化は必須だ。

 けれども、小金を手に入れるとそれでほそぼそと生活をしようとするぐらいには出不精だ。

 折角冒険者になったのだからもっと活発的にクエストに出て欲しいのだけどね。

 

「これも貰ってくぞ」

「毎度ー。なになに、サイト君が居る感じ?」

「いんや、私は男性に興奮する気はないんでね。パーティリーダーの少年がカズマくんと言う十六の少年でな。同じ転生者だから気に掛けてあげてるんだよ」

「へぇ、そうなんだ。その子も可哀想に……」

「ん? 何でだ」

「いや、自覚していないようだけど君、美少女だからね? そこらの水準よりも遥かに高いからね君。地球だったらアイドルやれてるレベルだからね」

「あはは、そんな世辞を貰っても困るだけだぞ」

「………はぁ、駄目だこりゃ。そんな子に気も無いのにプレゼントするだなんて……、罪な女の子だね君は」

「そ、そこまでか? 私自身、女性らしいとは露とも思っていないんだが」

「はぁ。だからこそ需要があるんじゃないか。男性の思考に寄り添えるから下手な男友達よりも友人になれて、ちょっとした時に美少女面で微笑めば一発解決。思春期の男子に自覚の無い色気で接するだなんて……、その子の性癖が歪まないか心配だなぁ」

「あぁ、大丈夫だぞ。カズマくんおっぱい星人だからこんなまな板に興味無いだろうよ」

「…………だと良いね」

 

 心底疲れたと言う様子のユウキさんに退店を促され、小首を傾げながら店から出る。

 カズマくんにはこれから頑張って貰わねばならんからな、プレゼント喜んでくれると良いんだが。

 ……ただ、そもそもカズマくんが元ネタを知っているかどうかが不安だ。

 ユウキさんとの会話から察するにこの世界と前の世界の時間軸は地続きじゃない可能性が高い。

 ましてや、規定から外れた転生を果たしている私だ。年代がズレている可能性は非常に高い。

 ま、最悪ただの長剣として使ってくれるだろう。最近、素振りを始めたと言っていたしな。

 ……三日坊主になってなければ良いんだが。


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