この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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毎度ながら誤字脱字修正、そして感想ありがとうございます。
三回目のワクチンを打つ人も増えてきているようで、腕に湿布、解熱剤、栄養剤を用意してちゃんと身体を休ませてあげてくださいね。
(作中の評論ですが特定の方への批判ではないので悪しからず(隙自語))


15話

 それはとある昼下がりの出来事だった。

 いつものように家事を終わらせ、縁側で特段何かをする訳でも無くぼけーっと日に当たっていた私に訪ねてくる人物が居た。

 冴えない凡庸なTHE日本人顔をした、我がパーティの駆け出しリーダーことカズマくんだった。

 最近のパーティの活動はクエストを受けた翌日が休日というスケジュールになっているようで、めぐみんとゆんゆんは先程出かけて行ったばっかりだ。

 

「おや、カズマくんじゃないか。こんにちは」

「こ、こんちわ、っす」

「めぐみんたちは出かけたよ。旬な衣服を買いに行くと言っていたから大通りの方へ向かえば出会えると思うぞ」

「あ、いや、その……」

 

 ふむ、草食陰キャ童貞な感じ丸出しの反応だな。

 恐らく私に用があって来たのだろうけども……。

 女の子に対面して喋り掛けるのが苦手なのか、それとも改まって女性と接しているのが恥ずかしいのか、はてさてどっちかなこれは。

 まぁ分からんでもないよ。私も前世では女性の同僚に声を掛けるのは至難の業だった。

 ……まぁ、同じデスマーチを経験して同じ地獄の釜の飯を食った仲になってからはそれなりに喋り掛けられるようになったけども。

 えぇと、と前置きをたっぷりと置いた後に、カズマくんは意を決したように視線を合わせた。

 が、ヘタレたのか少し目線を逸らした。このヘタレめ……、仕方が無い、助け舟を出すか。

 

「もしや、私に用かな? こう見えて色々な経験は豊富だ、力になれると思うよ」

「すみません、改まって対面したら頭真っ白になっちゃって……。えぇと、少し相談がありまして……、あっ、お時間大丈夫ですか?」

「ふふふ、大丈夫だよ。こうしてのんびりしていただけだからね。ほら、隣においで」

「あ、すみません、ありがとうございます……」

 

 酒場では非常にツッコミを入れていたように思えたが、その場のノリで凌いでただけだったのか。

 後ろ髪を触りながら会釈して隣に座ったカズマくんにコップを出して水差しから麦茶を入れてやる。

 麦をフライパンで炒ってから煮立てた本格麦茶だ、良い感じにできているから飲むと良い。

 緊張で喉が渇いていたのか良い飲みっぷりだ。随分と美味しそうに飲むじゃないか、実に良し。

 おかわりもして、大分落ち着いたのか長めの息を吐いていた。

 

「これめっちゃ美味しいっすね。なんか香ばしさが凄いって言うか……」

「こっちの世界にお手軽なティーバッグなんて無いからね。飲みたかったら自作するしかないんだよ。昔ながらのお手製麦茶って奴だ」

「へぇ……、そういや紅茶とか急須で茶葉使って飲むのとかの方が多いですもんね」

「そうそう。お手製の場合は弱火でじっくりと良い匂いがするまで炒るのがポイントだ。……そう言えばカズマくんとアクアさんは未だに馬小屋住まいなんだっけか」

「……そうなんすよね。いやまぁ、始めの一ヵ月くらいで寝泊まりには慣れたんですけど、隣にアクアが居るのがなんつーか、その、たまに気恥ずかしくなるんですけど、しょーもない事で一喜一憂したり変な事してたりするのを目撃する度に正気に返るんですよね……」

「ふむ。と、言うけどなカズマくん」

「はい」

「ぶっちゃけた話をするが、アクアさんはそれなりに常識的な方だぞ?」

「え゛っ、あのとんでもな姿を見てそれを言いますかおんおんさん」

「無論だ。カズマくん、不躾な質問ではあるが学校には通っていたかい?」

 

 私の質問にカズマくんはきょとんと困惑した顔をしてから、何かを思い出したのか真顔で「まぁ一応は」と呟くように返した。

 おや、もしかして前にアクアさんが言っていた元ヒキニートと言う悪態はそのままの意味合いだったのか。

 あんまり藪を突くのもアレだし、深入りはしないようにするか。

 

「まぁ、ある程度通っていたなら問題あるまい。目的に対して最低限同じ事をできるようにすると言う、協調性を育む場であると言うのが日本の教育機関の在り方だ。在り来たりな授業で、個々の個性を伸ばすような授業はあんまりした事が無いだろう? それに日本人には顕著だが、集団的行動を好んでそれに対し安心すると言う無意識的な教育を施している場でもある。まぁ、何を言いたいかと言うとだな、女神であるアクアさんが果たしてそう言った教育機関で暮らしていた事があると思うか?」

「え? それは……、どうなんでしょう。そう言う事あんまり話題に上げてないからちょっと分からないです」

「で、だ。仮にそう言った教育機関、つまりは学校に通わなかった生徒は協調性を学ぶ機会を大幅に削られる事に成る訳だが……、そう言った人物にはある特徴があってな。論理的な思考や数学的な考え方の欠如が見受けられる場合がある。この場合は学校以外で確りと勉強をしなかった場合の者に見受けられるな。特に計算によって得られる演算思考能力は顕著に出る。図を見せても分からない、要点を理解できずに苦しむ、などの弊害が社会で噴出する事が多々あるんだよ」

「そう、なんですか?」

「うむ、そうなんだよ。これの厄介な所はね、誰かが指摘しないと自覚ができない点なんだ。自分では一生懸命にやっているのに業績が振るわない、そんな風に表面化して漸くと言うパターンが多いんだよ。で、だ。それらを踏まえた上でアクアさんはどうかな?」

「んー……、どっちかっていうとそう言うのじゃ無い、と思います。何と言うか、子供と言うか、純粋っつーか……、常識知らず、あっ、もしかしてそう言う事っすか?」

「まぁ、そう言う事なんだよ。アクアさんはカズマくんに特典として此方に連れて来られた訳だろう? つまり、人間一年生って訳なんだよ。女神的な、一つ上の次元での考え方とこの世界との折り合いがまだ上手く行っていないんじゃないかな」

「あー……、成程、何と言うか納得できました……。確かに普通はしねーだろって感じのやらかしとか、今が楽しいから後は行き当たりばったりみたいなのが多いのはそれが理由か……」

 

 ふむ、割とマジで被害者の側なんだぞアクアさん。君が此方に連れて来てしまった訳だからな。

 どういう経緯でそうなったのかは知らないが、大分此方に馴染んで来ていると見て良いだろう。

 バツの悪そうな表情で麦茶を飲むカズマくんは何処か申し訳無さそうな雰囲気であった。

 

「だから、ある程度は大目に見てあげたりしなきゃ駄目だぞカズマくん」

「はい、そうします」

「よろしい。助言としては、ある程度尺度となる事を教えてあげれば良いと思うよ。アクアさんにとっては此方は知らない事ばかりなんだから、あれこれやっておけではなく、ああしてこうしてくれって素直に言ってあげた方が良いと思うよ」

「そうっすね……、思えばそこらへん厳し過ぎたのかもしれないです」

「うむうむ。アクアさんは君が死ぬまで傍に居るんだろう? なら、お互いに気を許せる仲だと過信はしないでちゃんと信頼を育むべきだ。実際、アクアさんと一緒に居るのは楽しいんだろう?」

 

 若干遠い目をしてから、苦笑交じりに小さな溜息を吐いたカズマくんは頷いた。

 実際、男女で今まで馬小屋で生活できている方が凄いくらいなんだからな。

 そう言った点は見直してあげようじゃないか。よしよし。

 

「……さて、派手に脱線してしまったがカズマくんは何しに来たんだ?」

「あっ」

 

 きょとんと数秒、時が止まったかのように呆けたカズマくん。

 ……どうやら世間話に花咲かせて、本来の話の種を植えるのを忘れていたらしい。

 あははと誤魔化すように頭をかいたカズマくんが姿勢を正して然も真剣ですと言わんばかりに修正を図った。

 

「えぇと……、前にアクアと話した事なんですが、おんおんさんの特典って現地人としての転生って訳じゃないんですよね?」

「まぁ、そうだな。この姿は担当した天使さんに言いくるめをして成功したからだな。特典は別にあるぞ」

「あ、やっぱりそうだったんですね。あっ、いや、それを羨むとか妬むとかじゃないっす。アクア曰く、強い武器を貰って大成する奴が多いらしくて、おんおんさんはスキルとその身一つで活躍してるから凄いって話をしてたんすよ」

 

 いやまぁ、確かにダークリングはリスポン保険とダクソ3呪術を使えるくらいしか目立つ能力は無いからな。

 一応とっておきな能力も備わっているのだが、発動条件が厳しいから中々使えたものじゃないし。

 成る程、側からみれば呪術を扱うソーサラーにしか見えないな確かに。

 

「そこまで大した事をしているつもりは無いんだがな……。私の強さの根幹は弓を扱う狩人として幼少期を過ごした経験があっての事だ。正直に言えば私と言う人間は、アークソーサラーや呪術師と言うよりも狩人の一面の方が強いんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。近接戦闘もするがあくまで独学、いや、ただ武器を振るっているに過ぎない拙い我流でしかない。もし、相手が武術や剣術を学んだ者なら掠らせる事もできないだろうな」

 

 まぁ、接近戦ありきの相手に態々近接戦闘を仕掛けはしないけどな。

 数が多くなければ普通に弓や呪術で殺すだろうよ。

 

「正々堂々の真剣勝負なんて私はしない。限られた手段を有効的に使って圧殺する事だけを考えて行動を起こしているに過ぎないよ。相手の長所の杭が出る前に叩いて、出来る事を減らす。相手の考えの真逆に賭けを張り、動揺させて致命的な一撃を与える。徹頭徹尾相手を封殺する事しか戦闘中には考えてないな」

「おぉ……、なんかアサシンみたいな考えなんですね」

「そうとも言えるな。自分の出来る事を並べてみて、状況に合わせて調整して使っているだけだ。恐らくカズマくんも私に似たスタイルを確立する方が良いと思うよ。側からみれば器用貧乏でしかないが、柔軟性と戦術的な一面を組み合わせた戦い方は、生き残るための一番の戦い方だと私は考えているからな。臆病と取られようが死んだらそこまでだ。命あっての物種だからな」

「成る程……。確かに俺は最弱の冒険者の職ですし、いのちをだいじに、な戦い方は重要かもしれませんね……」

「ものは工夫だ。幸い冒険者ならスキルのラーニングがあるからな。沢山学んで沢山悩んで沢山やれる事を増やすと良い。初級魔法も良いだろうな。『ティンダー』で火炎瓶に火を付けて投げても良いし、『クリエイトウォーター』を水鉄砲のようにして不意を作っても良い。『クリエイトアース』を投げつけて咄嗟の目潰しにしても良いし、『ウインドブレス』で薬品の粉末を吹き付けても良い。『フリーズ』で相手の口を凍結させて窒息を狙っても良いかもな。あくまで魔法は手段だ。それをどう料理するかは君次第だ。物を、状況を、上手く使うんだ。だから、場を扱うための準備は怠るな。戦闘の勝敗の八割は前準備で決まるもんだ」

「は、はい!」

 

 ……ふぅ、柄にもなく高説を垂れてしまった。

 でもまぁ、カズマくんが満足そうな顔をしているから問題ないか。

 カズマくんの悩み事は、強くなるにはどうしたら良いか、みたいな駆け出し冒険者らしいものだったんだろうな。

 少しでも参考になれば良いのだが、カズマくんは賢い方だから物にしたら強くなれる筈だ。

 ふむ、丁度良いしデルフリンガーレプリカをあげるか。

 胸元のソウルから引き抜くように仕舞い込んだデルフリンガーレプリカを取り出す。

 何も無い場所から長剣を取り出したのでカズマくんの目が丸くなっている。

 ……にしても、胸への視線が強いな。胸の谷間も無いのに何処から出したんだ、ってか。喧しいわ。

 黒シャツと七分丈のズボンと言うラフな格好だからだろうか。

 こんななだらかな丘に満たないものを見て何が楽しいのやら。

 此方の薄い胸を凝視しながら驚いているカズマくんにやや乱暴に投げて手渡す。

 

「インベントリから出しただけだよ。それは君への餞別だ。ショートソードだけではなく、ロングソードも持っておくと良い。武器の予備はあるに越した事は無いからな」

「こ、これは……、なんか見た事があるような……。ああっ!? デルフ!? ゼロ使のデルフリンガーじゃないか!? どうしてこれがこの世界に!?」

「ふふっ、落ち着きたまえよ。それはレプリカだ。転生者が慰みに作った再現品だそうだ。生憎この世界にはレモンちゃんは居ないが、作品を知ってるならそれだけでも楽しめるだろ?」

「い、良いんですか? 貰っちゃっても」

「構わないよ。君にあげるために買ってきたものだからな。うちのめぐみんが世話になっているからな、そのお礼だ。よくもまぁ、爆裂魔法しか使えない固定砲台なめぐみんをパーティに入れてくれたもんだ。ありがとう」

「あ、はい。いやまぁ、アレしか出来ないって聞いた時はクーリングオフしようと思ってましたけど、後々の事を考えたらめぐみんの爆裂魔法は必要不可欠つーか唯一無二と言うか……。貴重な戦術的範囲魔法の使い手ですからね。よくよく考えたら手離さない理由が……なくも無いかなって」

「ほほぅ、カズマくんも魔王討伐を前向きに考えているのだな。それなら君のパーティに入ったのは正解だったな」

「と、言うとおんおんさんも魔王討伐を?」

「ああ、無論だ。……言いくるめた手前、成果を出さないのは義理じゃないからな」

「あぁ……、成る程。そういや、おんおんさんってなんでそのまま転生しなかったんですか? 話してる限り歳上な感じがするんですけど」

「……死因が過労死だったからだ」

「あっ。……そりゃ、そのまま転生はしたく無いですよね……」

「うむ……。最悪、特典で何とかせざるを得ないくらいに考えてたからな」

 

 過労死状態の身体で、体が資本な冒険者とかできんわ。

 カズマくんの同情的な視線が痛ぇな……。

 

「因みになんの特典貰ったんですか? 俺はその場のノリで……、アクアへの嫌がらせでアクアを選んだんですけど」

 

 その場の情景が浮かぶようである。

 売り文句に買い言葉な感じで、冗談で言ったらそのまま通っちゃったみたいなコントな感じだったんだろうなぁと。

 して、特典を……別に教えても良いのだが、教えないのも面白そうではある。

 言うなればミステリアスな感じで、程良い尊敬を得られ続けられるだろうな。

 

「……知りたいかい?」

「えぇ、まぁ」

 

 ……なんかあんまり反応が芳しくないな。

 遠慮がちと言うか、無理に言わなくて良いですよ、と言う駆け引きだなこれ。

 やめた、教えてやらん。分からずにずっとヤキモキすると良い。

 

「ふむ、ないしょだ」

「えっ」

「いやなに、吹聴するような特典でもないしな。秘匿できるのであればしておくに越した事は無いんだ」

 

 ふふふ、目論みが外れて焦っているのが手に取るように分かるぞカズマくん。

 実際ダークリング(ダクソ3仕様)だなんて分からない人には分からんしな。

 説明する程簡単なものでもなし、露見した時に教えれば良いだろう。

 ……まぁ、恐らくその時は私が死んだ時だろうけどな。

 

「それに、知ったところで使い道も無いしな。この特典は私一人で完結するタイプのものだ。他者に与える恩恵は皆無だしな」

「そうなんですか……。ちょ、ちょろっとだけでも教えてくれません?」

「なんだ、そんなに知りたいのか? 私の事を?」

 

 チェシャ猫が笑う様な悪戯な笑みを浮かべると、可愛らしい事にカズマくんは赤面してしまった。

 ふふふ、うぶな反応をするじゃないか。

 左肩を軽く当てるようにして覗き込むように見やれば、テンパった雰囲気が増して面白い事になってきた。

 

「そ、それはその……。パ、パーティリーダーとして知っておくべきかなと思いまして」

「へぇ、リーダーとしてか。それは、少し残念だな」

「え、あ、おんおんさんに興味が無い訳じゃないです!」

「おや、そうなのかい? 私としてはこんなちんちくりんに魅力なぞ無いと思うんだがね」

 

 なだらかな胸の上に手を置き、正中線をなぞるように下ろしていく。

 ……随分と食い入るように見ているが、もしやカズマくんロリコンの気があるのか?

 若干前屈みだし興奮気味な雰囲気を露わにし始めている。

 

「ふふふ、少し揶揄い過ぎたか。すまないね、つい」

「……おんおんさんってSっすよね」

「どうやらそうみたいだ。前世では気付かなかったが、こういう性分をしているらしい」

 

 揶揄われていたと理解して少し冷静になったらしく、やや長い溜息を吐いていた。

 まぁ良い感じに話題を誤魔化せたので良しとする。

 こんなちんちくりんぼでぇでも使い道はあるんだな、びっくりだ。

 む、となるとカズマくんはおっぱい星人では無いのか。こうして私に色の籠った視線を向けていたようだし、普通に性の対象にカウントされているようだ。

 まぁ、私にその気がないので今暫くは遊ばれていてくれたまえよ、良い暇潰しになる。

 

「そう言えばスキルの方はどうなんだい? ソードマンやアーチャーの人に教えを請うたと聞いているが」

「えぇと、一応剣術のスキルは取ったんで先ずはそこから始めようかなって思ってます」

「ふむ、成程な。あれもこれもとするとポイントが足りなくなるだろうしな。前線を張れる剣士を軸に万能化していく感じかな?」

「そうですね。初級魔法が割と使い勝手が良くて、『ウインドブレス』で『クリエイトアース』で作った砂を飛ばすとか、『フリーズ』が割としっかりと凍るんで『クリエイトウォーター』で濡らした地面を凍結させて転ばせるとか色々考えてます」

「成程なぁ。して、カズマくんは魔力の数値は高いほうかい?」

「いえ、割と貧弱っす……。ぶっちゃけ初級魔法が使えるだけでも冒険者としては有難いかなぁって。火起こしとか飲める水とか、必需品ばっかりですよねこれ」

「そうなんだよな。生活魔法として扱う分には初級魔法は必須ものだ」

 

 うんうんと二人して初級魔法の良さに頷く。案外それを見越して作られた魔法なのかもしれないな。

 話を聞いていくとシーフ関連のスキルも手に入れたそうで、特に『敵感知』のスキルは使い勝手が良さそうで私も欲しいくらいだった。

 アークソーサラーのスキルは主に身体能力の低下や眩暈や息切れを齎すなどの妨害系の魔法が目白押しだ。

 魔法職の共通なのか中級魔法までは取れるようだが、ダクソ式呪術があるからそれらは取る気は無い。

 ポイントが貯まったら『空間転移魔法』ことテレポートを取りたいものだな。

 一部の魔法は資質があれば他の職業でも取れる可能性があるらしく、『爆裂魔法』は私は取れないが『空間転移魔法』は三十ポイントで取れるようだ。

 恐らく、全ての職の原点である冒険者を経由しているためだと思われる。

 

「つまり、アークウィザードだったら、冒険者、ウィザード、アークウィザードって地続きにジョブツリーが伸びてるって事ですかね」

「恐らくはな。でなければ、冒険者特有のラーニングの性質はおかしいだろう? その手の分野に長じたものから教えを学ぶ事で最低保証の資質を得られるんだろう。だから資質に合わせてポイントが割高になるんだろうな」

「へぇ……。って事は俺でもアークソーサラーの呪術魔法が習得できちゃうんですかね」

「恐らくできると思うぞ。ただまぁ、私は『使い魔契約』しか取ってないからなぁ」

「え? そ、そうなんですか?」

「うむ。特典の副作用で得た特殊な呪術魔法を優先して取ってたからな。多分、そっちは習得は無理だと思うぞ。何せ、特典の武器はその持ち主にしか使えないワンオフ品らしいからな。魔法の特典なども似たような扱いだろう」

「そうなんですね。じゃあ、特典武器を拾ってもただの武器なんですね」

「そうなるだろうな。聞いた話では血筋や継承であれば一部の機能は使えるとか何とかって話だ。あくまで酒の席の噂話程度でしかないから鵜呑みはできないし、検証もできないしな」

「それもそうっすね。取らぬ狸の皮算用しても意味ないですもんねぇ」

 

 話の合間に麦茶を飲む。うむ、香ばしく美味い。これくらい濃い方が私は好きなんだよな。

 冒険の話という事でカズマくんも落ち着いてきたらしい。視線に籠る色と言うのが抜けていた。

 生前では気にしていなかったが、女性目線だと割かし分かりやすいものなのだな。

 主に胸、脚、そして顔と言った具合にカズマくんの視線が散らかっている。

 恐らく顔が最後なのは目線を合わせるのが恥ずかしいというか、意識してしまうために無意識的に外しているんだろうな。

 そういう経験は生前でもしていたし、こうして客観的に見ると人間って面白いもんだよなぁと他人事のように思えてしまう。

 いや、確かに不死人ではあるが人を辞めたつもりはないんだけどな私……。

 

「そういえば、クエストの方はどうするんだ? 近頃、古城に魔王軍幹部が住み着いて依頼が激減していると言う話じゃないか」

「あぁ、それなんですけど……、一応ジャイアント・トードみたいな害悪畜生な生物系モンスターは鈍いのかそこそこ残ってるみたいで、野生本能の強い犬系とかのモンスターは逃げちゃってるっていう状況みたいです」

「ほぅ、そうなのか。であれば、暫くはトード狩りを続けるんだな」

「はい、そのつもりです。ただまぁ、繁殖期なのか倒しても倒しても減らないんですよね……。奴らの生息地が地下なので全体数も分からないんで、冬眠してる奴が多かったのかもしれないんですけど」

「ふむ、最低限の食い扶持があるだけマシじゃないか?」

「そうですね。何でか知らないけどダクネスがやけにやる気で、最前線で丸飲みにされに行くんですよね……。おかげでトードに呑み込まれて若干トラウマ感じてるアクアも安心して戦えるんで助かってはいるんですけど……、その、光景がアレ過ぎて……」

 

 その光景が脳裏に浮かぶのは容易かった。

 一直線に走って行ってそのままパクっと食われて足だけ見える光景が浮かぶ。

 カズマくんはそれを思い出したのか微妙な表情を浮かべて苦笑していた。

 

「あはは……、ダクネスさんも中々の性癖だからな。それを発散できるのであれば丁度良いじゃないか。もう何となく把握できてるんだろう?」

「えぇ、まぁ……。あれは生粋のマゾヒストです。先天的なのか後天的なのかは知らないですが、相当なMですよ。痛みにも順応したくっ殺女騎士って言うか……、見た目が綺麗なだけすんげぇ残念な人って言うか……」

「ふふふ、そうか? 私としてはアレくらいの方が好きなんだがな。人間やはり性癖には正直であるべきだ。裏でこっそり抱えて然も常識人振っている奴よりも遥かに信用できると思っているよ」

「そう言うもんなんですか?」

「ふむ、考えてもみろカズマくん。普段真面目に接していてくれる人が、裏では人を殴ったり傷付けたりするのが好きなサディストだった。そんな人を彼女にしたり、知り合いの彼氏になったとしたらやきもきするだろう。そんな人だと思っていなかったとか、知ってたら関わらなかったのに、とか多少なりとは思うだろうよ。当人が理解と納得をして接しているならまだしも、そうと知らずに関係を繋いでいたら、それを知った時に恐ろしくも感じるだろう。それなら普段からSMクラブに行くのが趣味だと豪語する奴の方が信頼感があるだろう。あいつは生粋のSだしなぁ、と性癖を知っている方が安心できるだろう? そちらの方が相手を傷付ける事はないし、お互いの関係も守れるというものだ」

「なる……ほど……? まぁ、確かにそうですね。知人の裏の一面を見た時よりも、知っている事の再確認じゃあんまり傷付かないですもんね。……あぁ、そっか。だから俺、あんなに傷付いたのか……。あいつが不良とそんな仲になるだなんて思って無かったし、思えばお互いの事をあんまり知らなかったんだな……」

 

 なにやら独り言を呟くように腑に落ちた様子でカズマくんは感傷に浸っているようだった。

 生前の関係で何かあったのだろうか。内容としては知人が不良の彼女になっている姿を見て傷心したと言う感じなのだが。

 まぁ、あんまり踏み込む必要は無いな。男女の関係であったなら心の痛みもあった事だろう。

 実際にその何かしらでカズマくんは傷付いたようだしな、優しくしてあげようじゃないか。

 

「まぁ、そう言う事だ。既に何かしら感じる事があったなら共感もしやすいだろう?」

「ですね……。俺、もっと人と喋るべきでした。好きな事とか、嫌いな事とか。お互いが何となく知っているってだけでなあなぁにしてたツケがアレだったんだなって。おんおんさんに出会えて良かったです、いや本当に」

「そうか? それは喜ばしい事だ。私もカズマくんと知り合えて嬉しいよ。君は他人の目に敏感でありながら、自己を貫ける気概のある子だ。生前がどうだったかは知らないが、私は今の君を評価するよ。毎日頑張ってくれている君を、ちゃんと見ているよ」

「おんおんさん……」

 

 小さな声で「やべぇ惚れそう」と呟いたカズマくんの目が潤んでいる。

 生前で何かしらがあってニートになってしまったのだろうが、今のカズマくんはちゃんと冒険者をしている社会人の一人だ。

 それをちゃんと評価する事は何も特別な事じゃないんだよ。人として当たり前のそれだ。

 だが、そんなのは環境あってのものだ。生前の私であれば「何を甘ったれた事言ってんだこのクソガキ」と目線を下ろしていたかもしれない。

 ……そうだな。今生はもう少し人間らしく生きてみるか。最低限の人付き合いで終わらせないで、ある程度は深くなれる仲を模索してみようか。

 泣きじゃくるカズマくんの背を撫でてやりながら、優しい気持ちで私はそう思ったのだった。

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