大切に読ませていただいております、本当にありがとう(モチベ上昇バフ)
厄介事と言うのは突然現れるから問題なのであって、かと言って嵐前の静寂があって欲しい訳では無い。
アクセルの正門近くの草原にて目の前でぎゃーすかとお怒りなデュラハンの言い分はこうだった。
――俺が住み着いた古城に爆裂魔法を毎日打ち込む馬鹿は何処のどいつだ!?
やばい、うちのめぐみんしか心当たりがない。確かにトード狩りで『エクスプロージョン』したら被害が甚大になるので槍を持ってチクチクと突き刺していたらしいが、帰りにこっそりと爆裂していたらしかった。
いやまぁ、確かにめぐみんは爆裂ジャンキーではある、あるのだが……。
流石に国が所有する古城に撃っちゃ駄目だぞ。歴史的な遺産として残してたらどうするつもりなんだめぐみん……。
今回はあのデュラハンこと魔王軍幹部が潜伏していたらしいから問題を押し付けられるから良いが、後でちゃんと叱っておこうと心に誓ったのだった。
さて、なけなしの勇気を以てして前に出ためぐみんとデュラハンがコントしてる間にどうするべきか考えるか。
「はぁああ? あなたがあんなところに住み着いたせいで商売上がったりなんですけど! だから私はストレスを解消すべく爆裂魔法を日課にしているのです! あれで潜伏してるつもりだったんですか? 気配駄々洩れでモンスター散っちゃったんですけど! どうしてくれるんですか、補填はちゃんとするんですよね!?」
「する訳無いだろ!? ちっ、俺だって魔王様から頼まれた調査が終わればこんな場所からおさらばするわ!! 毎日毎日爆裂しやがってこのガキンチョがぁ! 人の迷惑を考えないのか! 親の顔が見てみたいわ!」
「存在自体が害悪なあなたに言われたくないんですけど」
「真顔で言うなよ、地味に傷付くだろうが……」
と言うかなんで舌戦が続いているんだ。何と言うかぬるいんだな魔王軍。
普通、切り捨てるだろ問答無用で。なまじっか理性と言うか人間性を保っているからああなっているのか。
ソウルを見通す瞳で見やれば……、おい、こいつ割と真っ当なデュラハンなのかよ。
やや鈍く濁っているものの輝き自体は強く、ほんわかりっちぃことウィズさんのようにアンデッドである事が理由で濁っているタイプらしい。
デュラハン、首無し騎士と呼ばれるモンスターでその発生理由は名のある騎士が首を落とされる事で生じる、のだったか。
言うなればレイスなどの悪霊系のアンデッド、リビングデッドに肉体を足したようなモンスターだ。
見た目は漆黒に染められたフルアーマー、かつては名のある騎士であったのだろうと言う風格がある。
……あるのだが、少女に舌戦でぼこぼこにされている姿を見ていると疑いが生じてくるな。
「えぇい! 喧しい小娘がっ! そんなに死にたいなら殺してやるわっ! ただし、惨たらしくな!」
会話も佳境を越えたのか物騒なものになってきた。
デュラハンが小脇に顔を抱えながら、右手をすっとめぐみんへと伸ばした。
――それを許す私だと思っているのか?
即座にロングボウを取り出し、威嚇射撃も無しに矢を解き放った。
宙を裂いて駆ける矢は寸分の狂い無く抱えた顔へと飛び、流石にそれは許容できないのか動作を止めて右手で打ち払った。
成程、伊達に騎士を名乗っている訳では無いようだ。
「何奴ッ! 姿を現せ!」
「良いだろう。私とて、大事なめぐみんを殺させる訳にもいかないのでな」
めぐみんを庇うように前に出て、デュラハンを睨み付ける。
先程のアレは恐らくデュラハンが持つ『死の宣告』だろう。
呪術系に分類されるそれであれば私であれば十二分にレジスト可能だ。最悪女神であるアクアさんが居るしな。
「ふん、随分と小柄なガキだな……。だが、先程の一射は見事なものだった」
「さぞかし名のある騎士の成れの果てであるとお見受けする」
「……はっ、俺はそんな大それた騎士じゃなかったさ。でなければ、裏切りを受けて断頭台に上がる事は無かったろうよ!」
当時の事を思い出したのか怒りによる威圧感が辺り一面に発せられた。
成程、先程のコントは強者であるが故の戯れであり生来の明るさが表に出ていただけか。
今の姿であれば魔王軍幹部としての威厳は保たれている事だろう。
……最初からそうして来てくれよと言いたいが、舐めて掛かって来てくれる方が殺しやすくて遣り易い。
そうなると少し対応を間違えたな。あのまま嘲笑と悪態で我を無くす程に怒らせた方が楽できたか。
だがまぁ、こうして誇りを持って対峙するのもまた良いものだ。
「それはご愁傷様だ、お悔やみを申し上げる。貴殿は魔王軍幹部の者と見てよろしいか」
「然り、我こそは魔王軍幹部が一人、首無し騎士ベルディアである。勇ましき少女よ、名を名乗れ」
「我が名はおんおん。暗き魂を扱う呪術の申し子にして、汝を土に返す者」
お互いの名乗りにより緊張感のある雰囲気が広まっていく。
……流石に今回は名前を茶化さないようだ。
まぁ、紅魔族の名乗りって本来こういう格好良い問答で引き出すものだからな。
後ろで「ほぁぁ」と感嘆の声を漏らしているめぐみんの反応からして百点満点な名乗りだったんじゃないかね。
此方の名乗りに気を良くしたのかベルディアはふっと笑みを浮かべ、一度瞑目してから見開いた。
「良かろう。貴様であれば俺を楽しませてくれるに違いない。此処より離れた古城の最上階で待つ」
「承知した。近いうちに参ろう。去るが良い、誉れある黒き騎士よ」
「……楽しみに待っているぞ、勇気ある少女よ! では、さらばだ!」
そう言って近くに寄った首無しの馬に跨り、ベルディアは颯爽と草原を駆けて古城のある方へと走り去って行った。
……ふぅ、流石に万全な準備もせずに戦う事がなくて良かった。
こちとら昼寝の最中に緊急クエストの警報で集まっただけだからな。
流石に魔王軍幹部と渡り合うだけのやる気は無かったしな。ふわぁ、ちょっと眠いし……。
さて、明朝に城攻めでもしてやるか。女神印のアクアさんに聖水を作って貰って、アンデッドに効果覿面な火炎壺の準備もしなきゃな。
後ろを振り返れば恍惚とした様子のめぐみんが私に抱き着いて喜びを露わにしていた。
少し震えていたあたり、怖かったのだろうな。安心させるべく背中を撫でてやり、ぎゅっと抱き締め返す。
「あまり無茶をするなめぐみん。最近槍を握っているからと言って接近戦は得意じゃないだろう。長距離から不意打ちでぶちかますべきだ」
「おんおん……! とっても格好良かったです! 流石は私のおんおんです! 最高でした!」
「あっはっは、めぐみんが無事で良かったよ。前に出て行った時はひやひやしたもんだ」
「うぅ、その、責任を取るべきかなって思いまして……。いざとなったらアークプリーストのアクアにお任せすれば良いかな、と」
「……間違っては無いが、相手が問答無用で殺しにかかる相手だったらどうするつもりだ。ベルディアは生前は誇りある騎士だったのだろうから大丈夫だったが……」
めぐみんを抱き締める力を少し強めて、心配を込めた声色で話す。
「本当に心配したんだぞめぐみん。相手は人型であろうがモンスターなんだ。ましてや魔王軍の幹部だ。これからはもう少し距離感を確りするんだぞ。君は後衛なんだから前に出ちゃ駄目なんだからな」
「あの、おんおんも後衛なのでは……」
「私は前衛もできるから良いんだ」
「あっ、はい……。なんか腑に落ちないけど気を付ける事にします……」
「それでいい」
抱き締めていた腕を放し、めぐみんの無事を改めて確認して安堵の息を吐く。
不死人である私であれば死んでも蘇れるが、アクアさんが居るからと言って蘇生魔法に賭けるのは得策じゃない。
ささやき、いのり、えいしょう、ねんじろって感じに失敗したらどうしようもないんだからな。
はぁ、エリクサーとか一本だけでも仕入れておくべきかな。
私自身はエスト瓶さえあれば生命力がミリ残ってれば復活できるし、そう考えるとめぐみんのためにもそう言った回復アイテムを揃えておくのは得策のような気がしてきた。
今度ウィズさんに仕入れを頼んでみるか。法外に高いが、それだけの価値はある物を仕入れてくる変な商才を持っているからなあの人は。
駆け出しの街でそんな値段で買う人が居ないってのにな……。そう言う点では残念な店主なんだよなウィズさんは。
「えぇと、爆裂魔法による魔王軍幹部らしき相手の誘い出しが成功し、首無し騎士ベルディアである事が判明したんですね?」
「えぇ、遣り方が少し強引ではありましたが、仮にも魔王軍幹部の可能性があった訳ですから致し方ないと判断して頂きたいものです」
「……それもそうですね。斥候をお願いした方々も潜入まではお願いできなかったので、相手の確認ができた事は非常に有益であったとギルドは考えております」
場所は変わり、私を先頭にずらずらと他の冒険者たちも纏めてギルドのエントランスの方へと出向いて報告をする。
古城を占拠するアンデッド軍団と言うだけしか情報が集まってなかった事もあって、正式に魔王軍幹部の襲来であると判明した事はギルドに対して貢献したと言えるだろう。
……まぁ、ぶっちゃけめぐみんが罪に問われないようにするための言い訳でしか無いんだがな。
ちゃんと理由がありました、と言う事にしておけば駆け出しらしい言い訳に落ち着く可能性があったからな。
この様子だとギルドの方も依頼の激減で冒険者からの突き上げもあって現状打破を願っていたのだろう。
これにより王都のギルドへ正式に応援要請を送れる訳だからな。
私たちができるのはその応援が来るまで耐え忍ぶ事、または打って出て少しでも敵の戦力を減らすべきだろう。
私としては後者を選びたいところだ。相手は弱点の多いアンデッド軍団だ。やりようは大いにある。
ベルディアは帰還後に古城の正門を閉じたと報告されているので、やるとすれば本当に城攻めだろう。
……普通立場逆じゃないか? 籠城するの人間側じゃないか、普通……。
まぁ、あれだけ古い城であれば何処か抜け道もあったりする事だろう。
だが、真正面からぶちやぶってやるのも面白いだろうな。
「と、言う事でアクアさんには聖水を作って貰います。臨時の立場として私がアクシズ教外部顧問の名で広め、聖水瓶の製造に取り掛かって貰います。恐らくこの世界で稀に見る最高級の聖水が出来るでしょうから、期待しておきます」
「分かったわ! 大船に乗ったつもりで任せて!」
「次に破城槌を作成するので指揮をダクネスさんにお願いします。丸太を伐採し、先端に鋼鉄を被せてください。最低でも三本は予備も含めて作っておいてください」
「承知した。陣頭指揮は任せておいてくれ」
「次に、火炎瓶を作るのでカズマくん、安酒を蒸留して高濃度なアルコールを作って欲しい。また質の悪い油を割れやすい壺に入れた火炎壺もあると良いな」
「了解です。汚物は消毒しないとですもんね!」
「めぐみんとゆんゆんはマナタイトに魔力を込める作業をしていてくれ。いざと言う時は魔法による圧殺を展開するかもしれないからな」
「任せてください! 紅魔随一の魔力を誇る私の手にかかればちょちょいのちょいです!」
「……うん、心配だから私が寄り添っておくね」
「頼んだぞゆんゆん、くれぐれも込め過ぎで爆発騒動なんて起こさないようにな」
使い勝手と言い出しっぺの法則めいた義務感からパーティメンバーを動かしていく。
私は一番何かしらやらかしそうなアクアさんについていかねばなるまい。
ギルドにある酒場で使っていた空の酒樽をあるだけ持って来て貰い、そこにアクアさんの『セイクリッド・クリエイトウォーター』を流し込んで貰う。
なんか祝福しなくても十二分に聖水なのでそのまま使えそうだなこれ……。
流石は水の女神の化身たるアクアさんだ。神々しい能力はこういった場面では頼りになるな。
ユウキさんの雑貨屋で買って来た二本の純銀製バヨネットを高純度の聖水に浸し、アクアさんに頼んで『セイクリッド・ターンアンデッド』を掛けて貰いながら、アクシズ教徒とエリス教徒に頼み込んで祈りを捧げて祝福して貰う。
この世で一番えげつない対アンデッド用武器の完成である。
効果の程は樽から取り出した瞬間にギルドの端に居たウィズさんが顔を真っ青にしてこっそりと逃げ出したレベルである。
神罰の代行者級の武器が出来上がったので、着実にベルディアを屠る算段が整っていく。
にしても何でか皆ノリノリで作業しているんだが、この世界の人たちは本当に生き生きとしているよな……。
「おんおんちゃんの作戦だからな、勝ったな! がはは!」
「私、こんな気持ちで前準備したの初めて! きっと勝てるわ!」
「勝ったなこの戦い、この聖水で風呂入って来る!」
……本当に大丈夫か? そこはかとなく心配な台詞が聞こえて来たんだが……。
なんか不安になってきたな、もう少し手段を考えるか……。
どうせなら火矢の準備もした方が良いな。アンデッドは良く燃えるからな、効率的だ。
なんかめっちゃ良い鎧を着てたし『酸の噴射』を取っておくか。
テレポートを取るまで少し時間が掛かるが仕方があるまい、準備は万全にしておくべきだ。
篝火による転送は可能なのだが、自分限定になってしまうので使いどころが難しいんだよな。
そうなると多少言い訳のしやすいテレポートを持っていると誤魔化しやすいからな。
それに、めぐみんたちを連れて行きたい場面もあるかもしれないしな、得ていて損は無い魔法である事は間違いない。
「おんおんさん! 火炎壺と油壷、百個ずつ作成完了しました!」
「流石だカズマくん! 何か使えそうなアイデアはあるか?」
「幾つか考えたんですけど、聖水を染み込ませた網を投げ付けてやるのはどうでしょうか」
「採用だ! 早速取り掛かってくれ!」
「分かりました!」
成程、投擲して一網打尽にしてやるのか。
網から逃げ出そうと掴めば聖水によって身を焼かれる訳だ、実に理にかなっている。
駆け出しの街アクセルvs魔王軍幹部ベルディアという構図でもある。
人数の利を得ている此方としてはプリーストの人数の少なさがネックなため、こうしてアクアさん印の聖水を有効活用する策はあるだけ使うべきだろう。
……まぁ、アンデッドは正直大した事が無いので聖水を得物にぶっかけて切れば普通に倒せるだろうけどもな。
念には念をだ。此方側が疲弊せず、相手だけが消耗していく狩場にできれば万々歳だ。
――――――――――――→
>カズマのターン!<
←――――――――――――
一晩ぐっすりと寝て明朝にアクセルの正門へと集まった俺たちは各パーティのリーダーを先頭にして横に並んでその時を待っていた。
古城に辿り着く頃には夜が明けるであろう、そんな時間帯に集まったにも関わらず冒険者たちの様子は気概溢れるものがあった。
そりゃそうだろう、何せ、俺たちの総大将はおんおんさんだ。
昨夜の話し合いでベルディアに啖呵を切ったおんおんさんこそが総大将に相応しいと決まり、此度の魔王軍幹部ベルディア討伐戦における指揮を執る役目を負ったのだ。
今か今かと待ち侘びる中、捻じれ角を持つ逞しい馬に乗っておんおんさんは全員の前に現れた。
普段の呪術師スタイルの衣服ではなく、生前の修道女を感じさせる黒のシスター服を纏い、十字架を模した長柄の旗にはアクセルを象徴する剣と盾の意匠が施されていた。
あれこそがアクセルに集う冒険者を纏める旗印なのだ。
……まぁ、急遽用意されたので伝統とか歴史とかは皆無なんだけどな、あれ。
新たな装いを披露したおんおんさんを見た事で冒険者たちのボルテージが自然に上がっていく。
人気過ぎるだろおんおんさん。流石はおんおんさんだ、さすおんと称したいくらいだ。
……シスターベールの代わりにちょむすけを頭に乗せているのはちょっとだけシュールだけどな。
正門の中央で、霊馬トレントの背に立つようにして旗を掲げたおんおんさんの演説が始まる。
「諸君、此度は私の招集に賛同してくれて感謝する! 我らの生活を乱す彼の魔王軍幹部ベルディアを討伐するべく、こうしてアクセルが誇る冒険者が集まってくれた事を誇りに思う! ベルディアは待ち構えると言ったにも拘わらず、卑怯にも古城の正門を閉じ籠城を始めた! ならば、我らは人類の矜持を魅せ、その城門を破城槌により粉砕し、ベルディアの操るアンデッド軍団を殲滅せねばならない!」
普段聞いた事の無いおんおんさんの張りのある大声が冒険者たちに飛んでいく。
そうだそうだと俺たちは合いの手を入れて場の雰囲気を高め、神聖な雰囲気を醸し出すおんおんさんを讃え始めた。
その返しに自信満々な笑みを浮かべたおんおんさんが旗を頭上へと掲げた。
「アクシズ教外部顧問たるおんおんが宣言する! 此度の戦いは聖伐であると! 彼の憎きアンデッドの軍勢は我らが女神の威光により滅ぼされる事だろう! 我らにはアクセル一の、いや、人類最高峰のアークプリーストの加護がある! 強力な聖水を用いて、汚らわしいアンデッド共を浄化し、焼き払うのだ!」
「応!」とこの場に居る冒険者たちの声が重なる。
まぁ、確かに腐っても水の女神の化身であるアクアの作った聖水だしな。
セイクリッドだなんて言葉が付いているものだし、そこらのプリーストよりも遥かに浄化力が強い事は、共同墓地で出会った一応リッチーなウィズの反応からして確かなものだ。
……そう考えるとアクアって凄いんだな。こういうアンデッド特効を付与出来る訳だし。
「此度の聖伐は三段階のフェーズを以て進行する! 第一段階は城門を屈強な力自慢が操る破城槌で盛大なノックをしてやる事だ! 城壁からアンデッドの妨害が予想されるため、風魔法及び盾によって破城槌を防衛、遠距離攻撃の手段を持つ者は迎撃を行なって欲しい!」
腕がなるぜと屈強な男性陣がマッスルポージングを取り、弓の弦を弾いて任せろと頷くアーチャー陣が頼もしい。
俺も覚えたてではあるが弓を持って参戦するつもりだ。そのために『狙撃』のスキルも覚えたしな。
一拍置いておんおんさんが頷いてから続きを語った。
「盛大にお邪魔した後は第二段階、古城のアンデッドの殲滅に移る! パーティ毎に分散し、階下から順に古城に住み着く穢れを我らの手で葬り、滅するのだ! 第三段階に移行した際の横槍を入れさせないためだ! 荷馬車に聖水樽や火炎壺など対アンデッド用の道具を用意してあるので存分に使って欲しい!」
おんおんさんが指さしたギルドが用意した荷馬車に乗せられた様々な物資を見て、安心感が俺たちの胸に宿る。
これだけの物資があれば相当な戦働きができるだろう、そう思えてくる。
腕が疲れて来たのだろうか、おんおんさんは掲げていた旗を下ろす。
そして、真剣な表情を浮かべて第三段階の事を話し始めた。
「第三段階は最上階に待ち構える魔王軍幹部ベルディアの討伐だ! プリースト部隊による『ターンアンデッド』により足を止め、ウィザードたちによる魔法の一斉射、それに加えて横合いからの妨害を加えて圧殺し封殺する! 一騎打ちを求める者は居るか! ……居ないな。感謝する! 彼の強大な敵に立ち向かう誉れを捨て、アクセルのために尽力してくれる事を私は誇りに思う!」
いや、流石に一騎打ちは無理だろ。おんおんさんじゃあるまいし。
多分、この場に居る全員がそう思っていたが、蔑む訳でも無く持ち上げてくれる発言をしてくれた事で不思議な一体感が場に流れ始めた。
乗るしかないだろ、このビッグウェーブに。それは俺だけではなく、他の冒険者も同じのようだった。
再び旗を頭上に掲げたおんおんさんに全員の視線が集まる。
「これよりアクセル冒険者による共同依頼、魔王軍幹部ベルディア討伐を開始する! 全員馬車へと乗り、古城に辿り着くまでに最終準備を行なうように! では、行動開始!」
「「「応ッ!!!」」」
冒険者全員の返答に満面の笑みを浮かべるおんおんさん。
我らが誇るダウナーロリシスターおんおんさんを旗印に、一体感を以て俺たちはパーティ毎に乗り合い馬車に使われている大きな馬車へと乗り込む。
言うなればアクセルのジャンヌダルク、おんおんさんがトレントに座り直し、旗を掲げながら先頭を駆け始めた。
それを追うようにして前の馬車から出発を始め、ベルディアの居る古城へと向かい始めた。
「おんおんめっちゃ格好良かったですね……」
「分かる。あの人について行こうって思うよな」
「ですよね! 分かってるじゃないですかカズマ」
めぐみんがうっとりとした様子で先程の勇ましいおんおんさんの姿を褒め称えていた。
ぞっこんと言うか一途と言うか、めぐみんほんとおんおんさんの事が好きだよな。
……もしかしたら好きより上の感情を持っているのかもしれないな。良きかな良きかな。
「ん~~! 久しぶりに信仰パワーが溜まって来たから調子良いわね。何気にアクシズ教外部顧問の権限を上手く使ってくれてるみたいで嬉しいわ」
「何だそれ?」
「あぁ、この前おんおんちゃんがアルカンレティアに行った時に貰った権力なんだって。如何なる場合でもアクシズ教の名を使って好き勝手して良いって言う特別優遇措置だそうよ。おんおんちゃんなら悪用はしないだろうし、こうして旗印になる時に便利でしょ?」
「ふぅん、けどアクシズ教だろ? 普通あんまり頼りにされないだろうに」
「無論、おんおんの人徳に決まってるじゃないですか。それぐらい普通分かるでしょうに」
「め、めぐみん、それはちょっと辛辣過ぎない? 確かにセシリーさんやゼストさんを見てたら分かるけど……」
めぐみんが真顔で言った事でゆんゆんが苦笑する。
否定はしないあたり、アクシズ教の悪い噂は当然の事実として扱われているらしい。
それを見てアクアはそっと視線を逸らした。自覚あるんかい。
ならもう少し自分の信徒に神託でもして自重を促せよ、駄女神め……。
いやまぁ、こうして俺が連れてきちゃったからそれもできないのか。口にしないでおいてやるか。
にしても、シスター姿のおんおんさん良かったな……。
スレンダーな体型に腰まで伸びる艶やかな黒髪も相まって、非常に清廉とした雰囲気があったな。
頭の上のちょむすけが良い感じに……、いや、流石に無理だ、そこは褒められんわ。
何気にあそこまでボディスタイルが出る恰好で前に出たの初めてじゃなかろうか。
清廉潔白なシスターでありながら、総大将として先陣を駆けるその姿は正しくジャンヌダルクだ。
まぁ、神託はそこのアクアから聞けば一発であるし、間違いでは無いんだけどな。
「アクセル総出で討伐だなんて……、少しわくわくしてくるな」
「過去にそういうのは無かったのか?」
「あぁ、私が生きている限りには無かったな。精々がこの前のキャベツ狩りくらいだろう。あれはどちらかというと採取依頼の範疇だからな。あれもまた素晴らしいイベントではあったが、騎士の末端である私としては此度の討伐クエストは誇れるものだ。恐らく、他の冒険者たちも同じような面持ちだろうな」
「……なんか最近のダクネス変な暴走しなくなったよな。何と言うか大人しいというか……」
「そ、そうか? 私としては以前よりも遥かに充実している毎日を送っているのだが……」
そう言ってダクネスは頬を赤らめて恍惚とした笑みを浮かべ始めた。
豊満な胸に手を置いてはぁはぁと息を荒くする姿は下半身が苛立つから勘弁してくれ。
変な挙動さえ無ければダクネスは巨乳な美人だからな……。
そんなダクネスを訝しむように見つめるのはめぐみんだった。
どうやらめぐみんは此処最近のダクネスの変化に何かしらの引っ掛かりを覚えているらしい。
……十中八九おんおんさんだろうけどな。
あの人Sだし、裏で何かしらダクネスに手を打っている可能性が非常に高いんだよな。
あの酒場での一件からダクネスは振舞いを変えている。痛みによる快楽を得ようと一目散に暴走する悪癖が無くなったのだ。
ジャイアント・トードの討伐依頼のように、率先して矢面に立つ事は多いのだがパーティの和を乱すような暴走は無くなった。
何となくではあるが言い付けられていると言うか、躾けられているような様子があるんだよな……。
実際、クエストの後に酒場で打ち上げをした後はおんおんさんと何処かに消えているようだし。
も、もしや、何処かしらでおんおんさんがダクネスを調教してたりするんだろうか。
ダクネスは相当なドMの変態クルセイダーであるからして、あの暴走が無くなるくらいの何か、つまりは快楽を得ている事は間違いない。
そのお供に友人であるクリスが付き添っているとは思えないし、となるとやはり可能性があるのはおんおんさんくらいだ。
にしては、それらしい傷を負っているように見えないんだよな。
「な、なんだカズマ。私の事をそんな目で視姦しても受け入れてはやれないぞ」
「えっ、いや、そういうつもりは無かったんだが……」
「ま、まぁ、カズマもお年頃の年齢である事は確かだ。そう言う事に興味を示すのも仕方が無い。仕方が無いんだ。でも、それでも私は駄目なんだ、既に先約があるからな」
「……先約、だと」
思わずごくりと唾を飲んでしまう。恍惚とした表情で髪先をくるくると遊ばせて笑みを浮かべるダクネスの表情はそれはもう色っぽく、淫靡な気配を魅せていた。
それに当てられた同じ馬車に乗る男性陣が生唾を飲んで前屈みになる。
そんな様子を見て女性陣の冷たい視線が向けられているのだが、それを気にしないくらいにダクネスの色気は凄かった。
女性として一皮剥けたような、そんな様子にめぐみんが静かに驚愕していたのを対面する俺は気付いてしまった。
……何か修羅場になりそうだな、と視線を逸らすしか俺にはできなかった。