この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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誤字修正ありがとうございます。
ここすきや感想もありがとうございます。
にっこにこしながら読ませて貰っています、励みになり助かります。
因みにミツルギくんは参戦しておりません。まだ王都に居ます。


17話

 アクセルにおける全戦力を投入して行われる討伐戦の指揮を執る事になったのは正直困惑物であったが、こうして御旗を振るって先頭を駆けているのは楽しいものだな。

 だって私アクセルの街では下から数えた方が早い新参者だぞ?

 なんで指揮官として振舞っているんだ?

 流石にベルディアを呼び寄せてしまった責任がめぐみんにはあるから、それを請け負うために色々と積極的に動いてはいたが、本当にそれだけなんだが……。

 是非に是非にと神輿に担ぎ上げられてしまったのでこうして頑張ってはいるが……、これ本当に私がすべき事か?

 他にもっと良い人選無かったのか? これ失敗したら責任私に押し付けられる奴だろう?

 うへぇ、何が何でも成功させねば更に面倒な事になるのは明白だ……。

 かつてのジャンヌダルクも先陣切る時はこんな気分だったのかね。

 だから当時の戦作法を無視した戦法を取らざるを得なかったのだろうな。

 だって失敗したら自分の命がやばいからなこれ……。

 

「ひんっ」

「あぁ、うん。頑張るよ、頑張るさ……。はぁ」

 

 内心を読んだトレントに慰められるものの、下がっていくテンションは止まらない。

 古城に近付くにつれて朝焼けが草原を広がっていく様を眺める。

 美しい光景だ、爽やかな草原の風が相まって非常に素晴らしいものだった。

 ……何が悲しくて自分の進退が掛かった朝駆けをせねばならんのか。

 それもこれもギルドのせいだ。しれっと古城の価値について語りやがってからに。

 こうなったら討伐成功報酬をぶんどってやらねば気が済まん。

 

「……そろそろ、だな。上手く行けば良いが……、はてさて」

 

 丘の上にある古城へと続く半端に舗装された道を私たちは踏破し、城門の前へと辿り着く。

 ……が、城壁の上にはアンデッドの様子は無い。

 まさかと思うが直ぐに来るとは思っていなかったのだろうか。

 好都合だ、盛大なモーニングコールで目覚めさせてやる。

 沸々と沸き上がる苛立ちをぶつけるべく、軍旗を頭上に掲げる。

 舗装された道の左右に馬車が止まり、最後尾に積まれていた破城槌を屈強なる筋肉自慢の男性たちが担ぎ上げ、鋼鉄の城門前に陣取る。

 魔法使いが杖を構え、盾持ちが破城槌を守るべく左右に展開し、弓使いたちが後ろに並ぶ。

 すぅーっと気持ちの良い朝の空気を吸い込み、古城に朝陽が差したのと同時に声を張り上げる。

 

「これより第一段階を開始する!! 破城槌部隊、吶喊せよ!」

「おっしゃぁああああ!!」

「やったぁらぁよぉぉぉ!!」

「いよっしゃぁあ!」

「ひゃっはー!!」

 

 破城槌の先端を覆う鋼鉄の蓋が鋼鉄の城門をぶち破ろうと炸裂し、甲高くも鈍い金属音をこだまさせた。

 一度、二度と繰り返し、声を掛けながら叩き付けられる破城槌の音で漸く気付いたのか、城壁にアンデッドどもがわらわらと現れ始めた。

 その手には朽ちた弓と矢が握られており、破城槌を阻止すべく弦を引き始めた。

 

「ウィザードは風を張れ! 全員が一辺にやる必要は無いからな! 左右から一人ずつ順に発動して、節約しろ!!」

「了解! 『ウインドカーテン』!」

「ひゃぁ、我慢できねぇ! 『ウインドカーテン』だ!」

 

 城壁から放たれた弓矢を吹き荒れる風の盾が巻き上げるように阻止し、それでも逸らし切れなかったものを盾持ちのクルセイダーたちが万全な体勢で弾き飛ばす。

 城壁の射手が構え直すその隙を逃すまいとアーチャーたちの双貌が鋭く睨んだ。

 

「今だ! 『狙撃』!」

「鴨打ちじゃい! 『狙撃』!」

「狙い撃つぜぇ! 『鷹の目』!」

「燃やし尽くしてやるわ! 『ファイアボール』!」

「これも持っていけ! 『ライトニング』!!」

 

 射手の隙を埋めるように中級魔法を放つウィザードの支援もあり、射的の的の如くアンデッドアーチャーたちが城壁の裏へと落ちていく。

 だが、待ち構えていたアンデッドの総数が多かったのかそれを埋めるようにわらわらと補充されていく。

 梯子を掛ける案もあったがこの様子を見るに採用しなくて良かったな。

 仮に登り切れても大量のアンデッドに襲われて死者が出ていた事だろう。

 何せ、相手は死んでいる死兵だ。操る力さえ残っていれば上半身と下半身が別れていても襲い掛かるモンスターである。

 魔法の一撃は兎も角、ただの弓矢の一撃では押し返すのが精々だろう。

 それを証明するように頭に矢を突き刺した状態で再び登り現れるアンデッドアーチャーの姿があった。

 それを見て歯噛みする冒険者たちの姿が見える。……さて、動くか。

 

「補給兵! 聖水樽に浸け込んだ矢を射手へ渡せ! 火矢の準備もだ!」

 

 松明に火を灯して貰ったものを掲げて貰い、松脂を塗った矢じりを向けて火を付ける。

 狙うは城門上に位置するアンデッドアーチャーだ。見やすい奴程効果があるからなっ!

 この程度の距離ならば鼻歌を歌ってでも当てれるからな!

 解き放った火矢は放物線を描いてアンデッドの眉間へ吸い込まれるように突き刺さり、死体松明と化したそれが真後ろに倒れて消え失せる。

 その後、城門の後ろから黒い煙が見える。集まっていたアンデッドに引火したのだろう。

 

「おぉ!! おんおんさんがやったぞ! 俺たちも続け!!」

「す、すげぇ、この距離を『狙撃』無しで射貫くだなんて!」

「私たちも負けられないわよ、本職の意地を見せるのよ!!」

 

 遠距離手段を持たない戦士たちが支援に回り、松明が彼方此方に浮かぶように掲げられる。

 投擲自慢が城壁を追い越すように油壷を投げ始め、相手の被害を甚大にしていく。

 城門が段々とひしゃげて行く最中、此方の優勢で第一段階が進行している。

 ウィザードたちも二次被害を期待できる『ファイアボール』に切り替え、ある程度の余力を残して支援に回り始める。

 

「どっこいしょぉっ!!」

「もう少しで抉じ開けられるぞ!!」

「気合! 入れて! ぶつけろぉ!!」

「「「うぉおおぉおぉおおおお!!!」」」

 

 気合集中と言った様子で破城槌の渾身の一撃により鋼鉄の城門が抉じ開けられた。

 城門が悲鳴を上げるかのように音を立てて古城側へと倒れ伏し、内側へと侵入する戦端が導かれた。

 破城槌を放り捨ててガッツポーズを決める男性陣の笑みに、私もつられて笑みを浮かべる。

 

「よくやった!! 素晴らしい成果だ!! 作戦は第二段階へと移行する!! 迅速にパーティを組み直し、古城へと流れ込め!! 我らが敵を葬り、土へと返せ!! 補給兵は城門前に前進し、補給場を整えろ!!」

「「「応ッ!!!」」」

 

 城壁の上へと登るパーティや我先にと階下へと走って行くパーティを見送る。

 城門まで補給のための荷馬車を進め、此処を簡易的な補給兼衛生場として組み立てる。

 最悪の場合、王都からの援軍が来るまでの時間を稼ぐための足掛かりにしないといけないからな。

 城門近くの安全が確認できれば土木系の職人が城門を徹底的に破壊し、再び籠城できないようにぶち壊す算段になっている。抜かりはない。

 トレントから降りて送還した私もまたカズマくんやめぐみんたちと合流すべく歩みを進める。

 

「朽ちたアンデッドには『ターンアンデッド』ではなく聖水を掛けろ! この後の事を考えて出来る限り節約をするんだ! いのちだいじに!!」

「「「いのちだいじに!!!」」」

 

 力自慢たちによって聖水樽が彼方此方に置かれ、聖水瓶や聖水のエンチャントのための補給場を設置する。

 無論、ひしゃくやバケツも置いてあるので後始末もこれで大丈夫だ。

 パーティ毎に分かれている事もあって連携の齟齬は無いが、誰もが血眼になってアンデッドを追いかけるせいで競争になりつつあるのが少し不安である。

 別に討伐数で報酬が変わる訳ではないので無理はしないで欲しいんだがな……。

 

「おんおん!」

「よし、私たちも合流したな。一階はもう終わりそうだから二階へ向かうぞ」

「了解しました! ダクネス先頭を頼む!」

「あぁ! 任された! クルセイダーの誉れを見るが良い!!」

「皆燃え上がってるわね! アンデッドや悪魔は消毒よ!!」

「せ、精一杯頑張ります!」

 

 古城のエントランス付近で合流できた事で少し安堵する。

 大分もみくちゃになってたからな、はぐれていなくて良かった。

 ダクネスさんの『デコイ』によりヘイトを管理しながら、階段を上ってアンデッドナイトたちと立ち向かう。

 ……なんでダクネスさんの『デコイ』よりもアクアさんにヘイトが寄っているのか分からないんだが。

 えぇと……、あぁ、確かアンデッドの習性で聖なる力を持つ人に救いを求めて近寄るんだっけか。

 

「アクアさん、引き付けながら『ターンアンデット』! ゆんゆんは『フリーズガスト』!」

「分かったわ! 女神の威光に浄化されなさい! 『ターンアンデッド』!」

「凍っちゃえ!! 『フリーズガスト』!」

 

 出の早かったゆんゆんの凍結魔法によりアンデッドナイトたちの足が物理的に止まり、アクアさんの強烈な『ターンアンデッド』により天に召されていく。

 周りを見るとプリーストの『ターンアンデッド』が効いていないのが幾つか見える。

 流石は魔王軍幹部と言うべきか、恐らく配下のアンデッドに神聖魔法抵抗を付与するパッシブバフを与えているのだろう。

 一般プリーストには荷が重いそのバフを貫くアクアさん凄いな。

 

「聖水と火を使え!! 凍らせて足を止めさせろ! 『ターンアンデッド』の効き目が弱いぞ!!」

「わ、分かりました! えいっ!! えぇーい!!」

「バケツで聖水をお届けしてやらぁあああ!!」

 

 階下で押されていたパーティに助言を投げかけつつ、集団を突破した私たちは二階層のホールへと足を踏み入れる。

 ずらっと食堂だった場所に並び立つアンデッドの群れに引き攣りつつも、殲滅すべく指示を出していく。

 

「アクアさんとダクネスさんで左右に別れろ! カズマくんとめぐみんはアクアさんを支援! 私とゆんゆんはダクネスさんの方へ回れ!!」

「分かった! 行くぞめぐみん!」

「やってやりましょう! ちょっと槍使い上手くなったんですよ私も!!」

「私の拳が光って唸る! ゴッドブローが火を噴くわ!!」

 

 アンデッドを吸い寄せるアクアさんと『デコイ』を使えるダクネスさんを配置し、横合いから二人掛かりでアンデッド共を殲滅していく。

 この日のために用意した二振りの純銀製バヨネットを両手に構え、先日のロクブリンの戦い方を参考にして一陣の嵐となるべく身を躍らせる。

 ヘイトがダクネスさんに向かうので、その隙を突くようにして横合いから堂々と不意打ちを決めていく。

 流石は祝福されたバヨネット。するりすとんとアンデッドを切り捨て、切断面から音を立てて浄化する始末だ。

 ゆんゆんは得意な『ライトニング』で頭を焼くようにしてぶちかまし、時折近くに置かれた聖水樽から律儀に聖水をぶっかけている。

 此方側の殲滅が終わったので後ろを振り向けば、聖水を染み込ませた投げ網に身動きを止められたアンデッドに総攻撃を加える三人の姿があった。

 カズマくんは前にプレゼントしたデルフレプリカでアンデッドを突き刺すようにして首を断ち切り、槍を構えためぐみんは喉元目掛けて勢い良く突き入れては蹴り飛ばしていた。

 アクアさんは何やら神々しい光を纏った右手でアンデッドをぶん殴って浄化しながらぶち殺していた。

 

「ふぅ、何とかなったな。しかし、神聖魔法耐性を持つアンデッドとは厄介な……」

「でも、聖水や火と言った浄化に関するアイテムなら問題無さそうですね」

「恐らく耐性を付与するのはあくまで魔法のみなんだろうな。聖水や火はある意味属性ダメージみたいなもんだから貫通と言うか別計算なんだろうよ」

「オンラインゲームだったら計算式面倒ですねそれ……」

「現実だから問題無いのさ。予めアクアさんに聖水樽を沢山作って貰っておいたのが功を奏したな」

「ふっふーん、こう見えても水の女神、み、ず、の、め、が、み! 女神ですから!」

「あぁ、今回は褒めてやるよ。流石はアクアだ! ひゅーひゅー! 水の女神! アクア様万歳!」

「えへへ、この調子ならゴッドレクイエムも打てる気がするわ!」

 

 そう左拳をぐっぱぐっぱするアクアさん。

 さっきもゴッドブローとか言って右拳で殴ってたが、モンクスタイルなんだなアクアさんって……。

 花弁を模した杖を持ってたからプリーストスタイルだと思ってたんだが、良い意味で期待を裏切られたな。

 実際、今までその杖を使っているところ見た事ないしな……。

 案外ファッションで持っているのだろうか、アレ。それにしては材質が見た事無いと言うか、頑強な花弁を模した部分とかどういう感じで作っているのか分からない。

 もしかして背中や腰に回しているあの羽衣みたいなのと一緒で天界から持って来たアイテムなのだろうか。

 アンデッドに近寄られる性質を持っているからこそ、接近戦の花形とも言えるモンクスタイルは非常に相性が良いからな。

 拳を痛めないようにナックルダスターとか用意してあげた方が良いんじゃなかろうか。

 思いっきり素手で殴っているが、それが通用するのは相手が鎧を着ていない一般アンデッドだからだ。

 ちょいちょい居るアンデッドナイトは普通に鎧を着ているので、それを殴ったらアクアさんの拳が痛むのは当然である。

 後でカズマくんに助言しておくか。アクアさんだけだと別の何かを買って散財する未来が見えるし。

 若干ダクネスさんたちの視線が胡乱な感じがするのは、まぁ流石に女神が地上に降りてきているだなんて信じられないだろうからな。

 でもな、ダクネスさん。地味にエリス教徒として一番恩恵を受けているのは貴女なんだぞ。

 実際女神エリスはクリスと名を偽って地上に降りてきている訳だし、コンビを組んでいたんだからな。

 ……あれ、まさかとは思うがクリスもといエリス様って、アクアさんみたいに教徒の生活を見ていたりするんだろうか。

 そうなると私がダクネスさんにやっている事は全て見られている可能性があるな……。

 でもまぁ、今の今まで何のアクションも無いし問題無いだろう。

 流石にそこまで一教徒の様子なんて逐一見ていないんだろう。

 

「さて、階下の制圧も終わって皆二階に上がって来ているみたいだし、三階への階段を探すぞ」

「そうですね! ベルディアに私の渾身の爆裂魔法をお見舞いしてやらねば!」

「……頼むからベルディアが窓際に居る時に撃ってくれよ? 爆発に巻き込まれて死にたくないからな……」

 

 カズマくんの言葉にめぐみん以外が頷きつつ、ホールを出て三階へと至る道を探し始める。

 そもそも何階層まであるか分からないし、少し横着するか。

 両目に力を集中させ、ソウルを感知する瞳によって強大なソウル、ベルディアのソウルを天井越しに感知してみれば二階程上に居る事が分かった。

 ふむ、後二階か。ベルディアが一晩で、いや、潜伏期間で配下を増やしたかは知らないがこの様子なら上はアンデッドナイトなどの精鋭を置いている事だろう。

 此処に居たアンデッドも全てがアンデッドナイトであった訳じゃないし、混合で配置されているんだろうな。

 神聖魔法が効き辛かったのはどれもアンデッドナイトであった事から、ベルディアがこの古城に連れて来た配下のみが耐性を持っているんじゃなかろうか。

 その証拠に普通のアンデッドなどはプリーストの『ターンアンデッド』で浄化できている一例もある。

 

「……だとしても厄介な。ほんと聖水多めに作って貰って正解だったな」

 

 そう独り言ちながらソウルから取り出した聖水瓶を、通路の先から現れた集団の真横の壁に投げつける。

 勢い良く壁にぶつかり砕け散った瓶から聖水の飛沫が拡散され、先頭を歩いていたアンデッドたちの足が止まる。

 その隙を逃さず距離を詰め、身長差から死角になるように立ち回りながらアンデッドどもをバラバラに切り裂いていく。

 骨も確りと断つ切れ味も相まってバヨネットの軌跡を止められるものは何も無い。

 あっと言う間に通路に蠢く死体の山が出来上がり、聖水瓶の中身をじゃばじゃばと上からぶちまけて雑に浄化していく。

 突破口を開いたこの通路を通り、曲がり角を歩いた先に三階へ続く階段を見つけた。

 のろのろと階段を下りてくるアンデッドを返り討ちにしつつ、階段付近をクリアリングしていく。

 奥の方からどたばたと走る音が聞こえるのでこの階はもう大丈夫そうだな。

 カズマくんの頷きに、頷きを返して四階への階段を上っていく。

 

「さて、恐らくベルディアはこの階に居る。構造上考えられるのはダンスホールだろうな」

「うむ、おんおんの考えに賛成だ。外から見た高さ的にこれ以上は塔になる。恐らく此処は地方領主伯の城だったんだろう。ある程度外敵から来客を守りやすいように上階にダンスホールを建築しているんだろうな」

「あぁ、確かに丘の上にあるから見張りもしやすいし、此処等辺の領地を守る城の可能性は高いですもんね」

「そうだ。さぁ、ボス戦だぞ、皆、覚悟は良いか?」

 

 そう言って振り返り、五人の顔を見やる。

 此方を見て何処か呆けていたがサムズアップを返したカズマくんに、満面の笑みを返すめぐみん、握り拳を魅せ付けるアクアさん、頷きを返すダクネス、おどおどとしながらも決心したように表情を引き締めたゆんゆん。

 いやまぁ、恐らく既に四階に他のパーティも流れ込んでいるだろうから私たちだけで討伐する訳じゃないんだけどな。

 まぁ、雰囲気を潰すのもアレだし口にしなくても良いだろう。

 全員の意思を確認してから四階の階段を上り、二振りのバヨネットで先陣を切りながらアンデッド共を皆殺しにしていく。

 伸ばされた腕を切り捨て、続く刃で胴体を泣き別れにさせ、新たなアンデッドの首を落とし、振り下ろされた刃こぼれした剣を避けて足を切り裂き、崩れ落ちたその身体の首を断つ。

 私のステ振りは技量寄りの理力信仰振りであるためか、辛うじて足りている技量によって動きが保証されているのか踊るように身体が動く。

 ふふ、ふふふ、ふはは、楽しい、楽しいなぁ。

 私の糧となっていく微量たるソウルの甘美な味に酔いながら、ダンスホールへの道を埋めるアンデッドたちを切り捨てていく。

 聖水を掛けて怯ませたアンデッドを殺す、突き飛ばしたアンデッドに体勢を崩した奴を殺す、バヨネットを投擲して串刺しにしたアンデッドを殺す、引き抜いて腐った血液を顔に飛ばして怯んだ所を殺す、流れるように二振りのバヨネットを用いてなます切りにして殺す、返す刃で三枚に下ろして殺す、殺して、殺して、殺して殺して殺して……、殺して…………。

 

「だぁあああああ!? 流石に多過ぎるだろ!? 一体一体が糞雑魚でも此処までみっちりと詰め込んだら面倒だろうが! 古城ごと燃やして焚くしてやろうかこの糞アンデッドッ!!」

 

 これもベルディアの策略か、ぜってぇ許さねぇぞベルディアァアア!!

 自身が待つ最上階に辿り着かせる気が全く無い密集具合に苛立ちが沸く。

 ソウルに酔っていた心地も忘れて、もはや苛々でアンデッドをぶち殺す作業と化していた。

 古城が燃える可能性を考えて流石に廊下で火力のある呪術は使えない。

 よって、特効を持つ純銀製のバヨネットによる双銃剣術によって切り殺していくしかない。

 後ろからアクアさんの『ターンアンデッド』が飛んできているもののアンデッドナイトだけは浄化寸前で食い縛って形を保っている。

 恐らく連れて来た配下の精鋭を此処に集結させているのだろう。

 アンデッド共の腐った臭いが鼻に付く。不快過ぎて苛々が有頂天に達する心地である。

 バヨネットに時折聖水をぶちまけて腐った血と脂を流しつつ、浄化のエンチャントを付与させながらぶち殺していく。

 どっかのイスカリオテの最終兵器な神父もこんな気分だったのだろうか。

 存在しているだけで憎たらしく感じて来たアンデッドを殺してキルスコアを跳ね上げていく。

 そんな作業をどれだけ続けた事だろうか。漸く華美な装飾が目立つダンスホールへの巨大な扉を見つける事ができた。

 どうやらコの字の中央にダンスホールの扉はあったらしく、反対側から無傷そうな冒険者たちの姿が見えた。

 …………あぁ、うん、成程な、そう言う事か。

 

「……あの、これ、アクアに釣られて四階に居たアンデッドが全部こっちに来てたんじゃ……」

 

 めぐみんの言葉に内心で頷いた。流石に唾を吐き捨てたくなるくらいに苛立ちが込み上がったが、周りの視線もあるために必死で自制して怒りを呑み込んだ。

 ふぅー……、大丈夫、落ち着いた、落ち着いたから大丈夫だ。

 反対側から近付いて来たダストくんたちの表情が恐怖に引き攣っているが大丈夫だ。

 わたしはしょうきだ。

 

「ご、ごめんねおんおんちゃん。ほら、私ってこれでも女神だからね」

「ばっかアクア! 火に油を注ぐような自画自賛してるんじゃねぇよ! 謝るなら謝る事だけに専念しとけッ!!」

「ごめんなさーい!!」

 

 アクアさんは悪くないのだ。悪いのはアンデッドの習性だ。

 救われるべく信仰深く神聖なプリーストに向かう習性が悪いんだ。

 確かにこの場で元女神でありアークプリーストであるアクアさんに浄化して貰おうと近付いて来るのは当然の事だ。

 当然の事なのだ、ただしそれを許すかどうかは別として、だ。

 

「……マジで絶滅するまでぶち殺してやろうか糞アンデッド共……」

「ひぃっ、今まで聞いた事の無いくらい怒ってますよアレ……」

「お、おぅ、災難だったなおんおんちゃ、さん。その、一番槍どうぞ、その資格はあると思います」

「すまないなダストくん……。ちょっとこの怒りを……晴らしてくるわッ!!」

 

 憎たらしいくらいに華美な扉を蹴破って、ダンスホールに待ち構えているであろうベルディアにこの怒りをぶつけねばならない。

 一発、二発と扉に渾身の力を蹴りに込め、老朽化で脆かったのか鍵の部分をぶち破る形で内側へと道が開いた。

 両側に音を立てて扉が開き、かつては栄光と名誉ある素晴らしいダンスホールであったのだろう広々とした空間が露わになった。

 その中央、意匠が凝らされたシャンデリアの真下に、そいつは居た。

 黒に染まる漆黒の鎧を身に着けた長身の首無し騎士――魔王軍幹部ベルディア。

 

「ほぉ……、あの数のアンデッドナイトを越えて、此処に辿り着くとは……。流石だと褒め称えよう。かつて俺が味わった苦難の一つを再現したものではあったが……、まさか、無傷だとはな。勇気ある少女よ、認めよう。貴様は俺に立ち向かう価値のある強者であると。願わくば、貴様にこの首を落として欲しいものだ。……まぁ、もうこの首は落ちているがな」

 

 巨大な黒き大剣を頭を抱えぬ右腕一本で握り締め、腰下に構えるベルディア。

 その姿だけで尋常じゃない膂力と筋力を兼ね備えている事が理解できる。

 一撃貰うだけで胴体が泣き別れする事必至、それだけの実力が垣間見れる。

 嗚呼、だが、今の私は正気では無い。これでもかと言うぐらいに逆巻く溶岩の如く怒りに思考が寄っていて、元々盾とメイスで挑む予定だったそれを捨てて、アンデッドに対して致命的な一撃を与える純銀製のバヨネットを二振り握り締めている。

 戦う準備をせねばならない。それを待つだけの許容性をベルディアは持ってくれている事だろう。

 右手の指に挟むようにして左手に持っていたバヨネットを持ち替え、左手に呪術の火を灯した。

 左手を刀身に添えるように持ち手側から刀身の先へと動かしていく。

 

「『カーサスの弧炎』」

 

 呪術の火を帯びるようにして二振りのバヨネットに炎がエンチャントされる。

 砂の国、カーサスの呪術たるこれは彼らが用いた曲刀を彩るための付与呪術である。

 対アンデッド特効純銀製バヨネットに、アンデッドの弱点である炎が加わり、その特効性能は飛躍的に上昇する。

 廊下でアンデッドナイト共に使うには死体が燃えて古城が燃える可能性があったため使えなかったが、この場でなら問題無い。

 この世界に馴染むようにか、詳細が少し差異のあるこの呪術は魔力を込める事で延長ができる利点があり、この呪術の火は戦いが終わるまで灯り続ける事だろう。

 片方のバヨネットを放り投げ、眼前でキャッチして右手のバヨネットを交差させる。

 後ろからカズマくんの息を呑む音が聞こえた。なぁに、やるなら全力でやらねば勿体無いだろう。

 どうせ、この『カーサスの弧炎』を使ったバヨネットの寿命は此処で終わりなのだ。

 なら、最後まで楽しまねば不作法と言うものだろう?

 

「私は神の代理人。神罰の地上代行者。私の使命は、我らが神に逆らうアンデッドを――」

 

 バヨネットを立てて金属の悲鳴を上げさせる。

 正面に立つベルディアが一歩だけ後ろに下がった。

 その様子に私は少し救われたような心地で笑みを浮かべた。

 

「――その魂の一片までも絶滅する事。AMENッ!!」

 

 少し台詞を変えてしまったが、まぁ、なんだ、お茶目な愛嬌だとでも思って笑って流してくれ。

 さぁ、ベルディア、舞台は整った。私の準備は万端だ、十二分だ。

 法儀礼済み純銀を用いた一尺の刀身を持つバヨネット、祝福の刃はお前に効くぞ。

 付与呪術『カーサスの弧炎』、神聖魔法に分類されないが故にお前に効くぞ。

 これから全力を以てしてお前を殺してやるぞベルディア、貴様のその首を土に返してやる。

 ――誇り高き黒騎士よ、死に場所遠きこの地こそがお前の墓標だ。


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