この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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18話

 眼前で十字に構えるのを止め、腰元に下ろして脱力姿勢を取る。

 双剣の扱いは少ないがかつてのロクブリンは身体をしならせるようにして、さながらバネの様に連撃を放っていた。

 それを私なりにアレンジして剣技に昇華させる。私に膂力は無い、私に力強さは無い。

 故に、連撃による速度とバヨネットの特効性を持ち味とした出血戦を強いるのが吉だろう。

 リビングデッドと違ってあの鎧の中には本体となる人の姿がある。

 それにデュラハンの代名詞とも言える首が取れており、そしてそれを左肩脇に抱えている事も此方の利点になる。

 あの巨大な剣を振るうには両手で扱うしか繊細な動きはできない。故に、必然的に大振りとなる一撃を避けて連撃を捻じ込む事に専念すべきだ。

 お互いに実力を測り合う前半戦とも言える戦いは、私の駆け出しにより始まった。

 

「シィッ、はぁっ!!」

 

 構えたバヨネットを頭上で交差してクロスに振り払う。

 大剣を縦に構えて受けたのを機に、頭を抱える左側へと跳び込むように懐に入り、二振りの刺突を放つ。

 ベルディアはそれを察していたと言わんばかりに頭を背中に回し、胴で受ける形でそれを避けた。

 流石にバヨネットでは鎧を突き貫く事はできない。表面を滑るバヨネットを引き戻しながら、振るわれた大剣の一撃を避けるべくしゃがみ込む。

 騎士鎧を観察するも差し込めるような箇所は存在せず、唯一あるとすれば首を乗せるための首元だけだった。

 バヨネットがあっさりと鎧に弾かれた事から持っていても仕方が無いと判断せざるを得ない。

 ゲームと違って双剣でペチっても精々が鎧に擦り傷を付けるくらいでダメージにならないからな。

 このまま近くに居ても意味がない、そう判断して左手のバヨネットをソウルに戻し、呪術の火を灯して『大発火』を放つ。

 懐近くで放たれた爆炎が鎧の表面を焼き焦がすもののお互いに爆発の余波に押されて距離を取るだけに終わってしまった。

 

「ふむ、やはりと言うべきかそれが貴様の本来のスタイルか。右手に得物を持ち、左手で呪術を放つ。少し前の魔法剣士のような戦い方をするのだな。ククッ、素晴らしい。様子見と思い少し遊びが過ぎたな。魔王様から頂いたこの鎧を汚すとはな、敵ながら見事だ」

「よく言う。恐ろしい程硬い鎧の癖に関節部分などもしっかりと覆っているだろう。おかげで貴様を殺す手段が減ってしまったぞ」

「ははは! それはすまないな。騎士の頃に思っていた事があってな。こうして魔王様に頂く事になった時にその憂いを払うべく事細かな注文をさせていただいたのだよ。これがその成果だ。この騎士鎧であれば、例え仲間にダガーを差し込まれようとも肉体に刺さる事は無い!」

「……ちっ、昔の仲間とやらがやらかしてくれたせいで面倒が過ぎる。貴殿を見るによっぽどな性格をしていたのだろうな、その輩は」

「ふんっ、野心の強い臆病者でな。俺様の手柄を掠め取ろうと何度も隠蔽を繰り返しやがったゴミカスだ。まぁ、既に俺が蘇った後にこの手でぶち殺したからこの世には居ないがな」

 

 次は此方の番だ、と言わんばかりにベルディアは凄みのある笑みを浮かべて、己の首を天井近くに放り投げた。

 一体何をするつもりだ、と観察を続けると不可思議な事に首がベルディアの頭上に留まり、虚空に浮かび続けた。

 サードパーソンかよ。確かに死角は減るが正面からの戦いにそれは意味があるのだろうか。

 回り込んだ所で弱点らしき弱点も無いので真正面から戦う事になるのだが……。

 と、思っていたら首を抱える必要が無くなったからか大剣を両手で確りと握り締めていた。

 

「行くぞっ!!」

 

 それが目的か、と思考を一瞬乱すも集中を取り戻す。此方に素早く距離を詰めたベルディアの渾身の薙ぎ払いが迫る。

 盾を出すか、いや、そんな時間は無いっ! 多少泥臭いもののしゃがみ込みながらのローリングを以てして薙ぎ払いを避けて懐へ潜り込む。

 無論、それをベルディアが察せぬ訳も無く右足を軸に一回転し、眼前を切るようなコンパクトな薙ぎ払いを放たんと動いた。

 右手のバヨネットをソウルに戻し、メイスを取り出して迫りくるベルディアの手首を狙って両手で振り下ろす。

 甲高い金属音が鳴ったかと思えば、ふわりと身体が宙に浮いていた。完全に打ち負けて衝撃で吹き飛ばされたらしい。

 床を両足で削るようにして着地し、大剣を肩程まで振り上げて袈裟切りの追撃を放たんとするベルディアの姿を見て絶句する。

 くそっ、致命打になりそうな一撃が此方側に無いッ! 

 正面から見て左から右へと向かうであろう大剣の軌跡を思い浮かべ、唯一の逃げ場である左下へとローリングして避ける。

 ベルディアの後ろを取る形になり、メイスを振るおうとするも嫌な予感がして縦に構える。

 瞬間、右腕だけで大剣を振るった回転切りが放たれ、メイスを半ばまで切り裂かれながら再び私は宙を飛ばされ床に着地する。

 

「クハハッ、俺様に死角は無い。けれど、よくぞ受けたな。並みの奴であれば一撃を察せずに胴を泣き別れにされるんだがな」

「……それなりの騎士どころか、騎士団長クラスの腕前か。付け焼刃な私の剣技では到底敵わないな……」

「ふむ、付け焼刃でそれだけ動けていれば十二分だと思うが……。ククッ、惜しいな。俺が魔王軍幹部ではなく、首の繋がった人間であれば貴様に教えを説きたい程の才能だ」

「お褒めの言葉をどーも。一応ちょっと嬉しいから受け取っておくよ」

「ふんっ……。さぁ、続きをしようじゃないか。避けるだけでは俺様を討ち果たす事叶わんぞ!!」

「無論だっ!!」

 

 メイスをソウルに仕舞い込み、次点で扱える打刀を取り出す。

 バヨネットよりも刀身が長く、切れ味が良いがそれだけだ。ジリ貧である事は変わりない。

 お互いに得物を構え駆けだす。重鎧と軽装の差から私の方が早いが、ただそれだけだ。

 むしろ、ベルディアはそれを逆手に取ってカウンターの構えを取る始末。

 なら、いっそ――戦法を変えるか。

 打刀を右後方から切り上げるようにして振るい、ベルディアのカウンターである迎撃の袈裟切りを引き出す。即座に打刀をソウルに仕舞い込み、バックステップを刻みながらロングボウを取り出す。

 そして、唯一の弱点である首元へと矢を放つ。ちっ、身長差から角度が甘い。首元に向かう前に胸を掠めて弾かれてしまった。

 周りを見るも踏み台になるものは無い。牽制にもならんな、自分の低身長に苛立ちを覚える。

 嫌がらせのように頭上に浮かぶベルディアの首に速射するも、器用に顔の向きを変えて兜の頬部分で受け止めやがった。

 成程、流石は歴戦の魔王軍幹部の事はあるな。実に厄介だ。特に有効打となる得物を此方が持っていないのが何よりも歯がゆい所だ。

 

「どうした! 万策尽きたか器用な少女よ! 俺様はまだ生きているぞ! さぁ、俺を殺して見せろ! 死力を尽くし、この俺様を討ち倒して見ろ!!」

「お望み通り此処で貴様を葬ってやるッ!! その首を置いて逝けぇッ!!」

 

 あぁもう、様式美だなんて言ってられないな。完全にぶち殺すための戦い方をするべきだ。

 ロングボウで再び首を狙って一時の隙を作ってから装備を再び切り替える。

 左手に獣革盾を、右手に呪術の火を灯した私は盾を眼前に構えながら吶喊する。

 獣革盾の物理のカット率は100%だが、あの膂力を以てして放たれる一撃に盾自体が何処まで保つか分からない。

 もしかしたら運悪く一撃で真っ二つになる可能性だってある。だが、それでも構えて前に出なければ呪術を当てる事はできないだろう。

 闇雲に投げたら俊敏に避けられるか大剣で防がれてしまう未来が見えるからな。

 前方より迫り来る大剣の一撃。尋常じゃない重さのそれを気合で盾でいなし、間髪入れずに『混沌の火の玉』を投げ付ける。

 確実に葬るために致命的な毒を差し込んでやるッ!!

 

「『ファイアボール』!」

「苦し紛れの『ファイアボール』なぞ効かぬぐぁあああぁあぁああぁああああああ!?」

 

 着弾した瞬間に鎧の表面が赤熱化し、肉を焼く音が聞こえる。

 『混沌の火の玉』は呪術の故郷とされるイザリスの業である。混沌の炎に魅入られ、飲み込まれその地が失われた程に悍ましい呪術なのだ。

 この呪術の特性は一瞬にして岩を溶かして溶岩と化す程の高温を持つ事だろう。

 現にこうして鎧に叩き付けた事で、例え破壊は免れたとしても残る熱によって金属の鎧は激しく熱された事だろう。

 歴戦の魔王軍幹部としてウィザードとの闘いも経験している筈であり、『ファイアボール』を受けた事も幾度もある事だろう。

 それを逆手に取った口上のフェイクがものの見事に突き刺さった形となった。

 ダクソ3由来の呪術は詠唱を必要としないが故に使える禁じ手のようなものだった。

 

「熱そうだな、これも馳走してやるッ!」

 

 インベントリから聖水瓶を取り出して首元に投擲してやる。硬い鎧にぶつかって砕けた瓶からアクアさん印の聖水が飛び出し、ベルディアの身体を浄化せんと効力を発揮する。

 尋常じゃない痛みと熱さに思わず胸を押さえて膝を突いたベルディア。

 此処を逃せば致命の一撃を入れる隙は難しくなるだろう。

 右手に二振りのバヨネットを再度ソウルから取り出し、駆け寄りながら『カーサスの弧炎』により炎をエンチャントして両手に逆手で握り締める。

 これで終いだっ!! ベルディアの膝を踏み台にぽっかりと口を見せた首元めがけてバヨネットの切っ先を突き刺す。

 鎖骨の隙間を縫ったその一撃は刀身の半ばまで深く突き刺さり、対アンデッドの特効と未だ燃える刀身によってベルディアに致命的な一撃を与える事に成功した。

 鎧の胸を蹴って距離を取り、ベルディアの反応を見る。

 

「ぐぁああぁあああっ!? 燃える、俺様がっ! 何だそれは!? 何だその威力は! 魔王様の加護を持つこの特注の鎧を半ば溶かし、熱を残すその異常な魔法は何だッ!? ぐぅううぁっ、刀身が燃え盛っているのかっ!! クソッ、身体に火がっ、熱いっ、あぁ、火炙りを選んでいたらこんな苦痛を味わうところだったのか……、首を落とされて良かった、だなんて、思う日が……、来るとはな……」

 

 両膝を着き、その場に倒れ伏した鎧の上に虚空に留まっていた頭が落ちる。

 鎧に弾かれころころと此方に転がって来た頭は私の靴に当たって止まった。

 ……スカートの中に転がって来るのは流石に困惑する。

 ひょいと後ろに下がれば少し顔を二ヤけたベルディアの顔があった。

 

「……ふむ、その歳で黒とはな……」

「潔く死んどけファッキンアンデッド」

「ちょ、待っ、がぼぼっ、溺れっ、溺れるっ! この聖水ッ、深いッ!?」

 

 ぼそりと私の下着の色を口にしたベルディアに、真顔で中指を立ててから惨たらしく殺すべく聖水瓶を取り出す。

 真上に向けた頭に聖水瓶から中身をぶちまけて雑に浄化していく。

 ベルディアの強さの秘密はその鎧にあるため、こうして剥き出しの部分を狙えば実に良いダメージを叩き出してくれるようだ。

 計十本程聖水瓶を消費したものの、残念な事にベルディアは実にしぶとく生き残っていた。

 もう一発『混沌の火の玉』でも顔にぶつければ流石に死ぬだろう。

 右手に『混沌の火の玉』を浮かばせ、最後の問答をすべく息絶え絶えなベルディアと対峙する。

 

「変態覗き騎士ベルディア、遺言はあるか」

「ちょ、ちょっとしたお茶目だろ。デュ、デュラハンジョーク……。スカート下にまで転がったのは偶々だ、本当だぞ。こほんっ。よくぞ俺を倒した勇気ある少女よ。いや、勇者候補のおんおんよ。俺様はこの街から神々しい柱が立った事について調べるように言われて来たが、貴様がその正体なのだろう。これまで生きた中で貴様が使う呪術は見た事の無いものだった。実に見事だった」

「……はぁ。先程のが無ければ綺麗な終わり方だったのにな……。冥土の土産に教えるが、それは私じゃないぞ。では、これにておさらばだ、ベルディア」

「……クククッ、クハハッ、クハハハハハハハハッ! あぁ、潔く負けを認めよう。お前こそが俺の死神だった。あぁ、なんて、なんて素晴らしい終わりだ。完敗だ、俺は貴様に負けた。こんなに清々しい負け方は初めてだ。――誉れある少女よ、汝に武運と幸運があらんことを」

 

 そう言い残してベルディアの瞳から輝きが失せ、その場でサラサラと塵の様に遺灰と化した。

 中身を失い地面に転がった兜と鎧に大剣をインベントリに回収し、一応触媒になるかもしれないので遺灰も壺に回収しておく。ついでに半ば溶けたバヨネットも回収しておくか。

 それもインベントリに確りと回収して後ろを振り向けば、冒険者たちの歓声が沸き上がった。

 

「「「うぉぉおおおおおおおぉおぉぉおお!!!」」」

 

 う、うるさっ、そう愚痴りたくもなるが、彼らからすれば魔王軍幹部を倒した瞬間を目撃したのだ。

 それだけの反応を示すのも無理も無いだろう。だが、される側からすれば迷惑もいい所だ。

 めぐみんが走り寄って来たのを皮切りに他の冒険者も集まって来る。

 興奮極まったと言わんばかりに満面の笑みでめぐみんが私に抱き着いた。

 

「あぁもう、恰好良過ぎですおんおん! 口上も戦いもドキドキして見入っちゃいましたよ!」

「ははは、正直辛勝だったけどな。ベルディアが慢心していなければ私は負けていたよ、恐らくな」

「それでも勝ったのはおんおんです! 魔王軍幹部をソロ討伐だなんて最高に格好良いですよ!」

 

 ぐりぐりと私の胸に頬をぶつけながら、めぐみんがはしゃいで喜ぶ姿を見たら疲れも吹き飛んだ。

 切り札を切ろうにもこうも人が多いと巻き込む可能性があったからな、大分泥臭い戦い方をしてしまったが勝てて本当に良かった。

 私とベルディアの身長差が結構あったからローリング回避によって大剣を受ける事がなかった。

 インベントリに仕舞い込んだ獣革盾は一度受けただけだと言うのに、九割程耐久力を失っていたので二発目を受けていれば確実に盾諸共切り裂かれていた事だろう。

 これもダクソ3由来の呪術の特異性による勝利だな。『ファイアボール』と口ずさんでいるのに全く別の魔法が出てくるだなんて詠唱詐欺も良い所である。

 もしもベルディアの鎧が全ての魔法に対する抵抗であったなら勝敗は分からなかった事だろう。

 そう考えると神聖魔法のみに対してメタを張ってくれた魔王様とやらにお礼を言いたいぐらいだ。

 貴様の無能のせいで有能な騎士が死んだぞ、とな。

 

「お疲れ様です、おんおんさん!」

「あぁ、ありがとう。今回はカズマくんには荷が重かったからな、随分と出しゃばってしまってすまなかったな」

「いえいえ、流石に俺も魔王軍幹部相手にタイマン張る実力は無いですって」

「……正直、私も勝てるとは思って無かったからな。ほんと辛勝だった。もう少し鍛え直さないと駄目だなこれは」

「あ、そ、そしたら俺もご一緒しても良いですか? 俺も強くなりたいんです」

「ふむ、それは良いな。クエストの後休日の日に訓練を入れようか。私も接近戦は見ての通り付け焼刃だからな、練習相手が居ると助かるよ」

「はい!」

 

 実際、私の本来のスタイルは盾で受けて呪術を投げる、オーソドックスな呪術師スタイルだからな。雑魚相手なら呪術と武器で良いが、ベルディアとの闘いで分かったように専門職には到底敵わない。

 本来のスタイルで今後活動しても良いが、それを魔王軍にメタを張られると困るからな。

 ある程度近接戦もできる、いや、ベルディアが言っていたような魔法剣士のような在り方がベストだろう。

 破れかぶれに盾と呪術のスタイルになった、と相手が慢心して油断してくれれば儲けものだしな。

 ある意味私の呪術はこの世界において異端にして初見殺し。これを有効活用せねば生き残れないだろうな。

 

「さて、後始末をしようか。アンデッド共を外に出して、浄化しなくちゃな。古城の掃除は私たちの仕事じゃないからな。後詰めにお願いするとしようじゃないか」

「それもそうっすね。ほら! おんおんさんのお帰りだぞ! 控えおろう! 控えおろーう!」

「……水戸黄門じゃねぇんだから。まぁ、楽に帰れるなら良いか」

 

 そうカズマくんの茶化した言葉に苦笑しながら一歩踏み出したらがくんと膝が落ちた。

 おぉっと、流石にポーカーフェイスを保ってられないくらいに疲労が溜まっていたらしい。

 アドレナリン全開で感覚が誤魔化されていただけに過ぎなかったみたいだ。

 

「おっと。大丈夫かおんおん」

「すまない。緊張が解けて足元が緩んだらしい」

「ははは。おんおんは立役者だからな。よっと、私が運ぼう。楽にしててくれ」

「……お姫様抱っこをされる日が来るとはな……。はぁ、まぁ、いいか。頼んだ」

「あぁ、任された」

 

 ダクネスさんに受け止められ、次の瞬間には腰と膝を抱えられ横抱きにされていた。

 端正な綺麗な顔を見上げる形になり、豊満な胸が身体に密着してぐにゅりと形を変えていた。

 ……いや、流石に討伐戦の時くらいは下着着てても良いんだぞダクネスさん。

 言い付けを守っている事は嬉しいのだが流石に命の危機のある場面では自重して欲しい。

 これは後でまた躾けてやらねばならないな……、まぁ、気持ち良いからいいか。

 最近鎧よりも自身の身体の方が硬くて強いと判明してからか、ダクネスさんは鎧を着る事が無くなった。

 具体的には金属鎧ではなく、革製の軽装鎧に着替えたと言うものだ。

 何でも普段から卑猥な拘束具を付けるに当たり、こうして引き締めるようなタイプの鎧の方が心地良いらしく、ハマってしまったらしい。

 また変な性癖を拗らせてしまったかなと思いつつも、こうして触れ合う時に金属の硬さが無いのは嬉しい限りだ。

 ……まさかと思うがそれが理由じゃなかろうな? 確かに鎧が硬くて痛いとは言ったが……。

 まぁ、ダクネスさんが良いなら良いか。困るものでも無し。

 ぶっちゃけスキルのおかげでダクネスさんは裸でも今と変わらんだろうしな。

 

「……えぇと、すみません、もう一度お願いできますか?」

「まぁ、信じられないのも無理もないが、その台詞五回目だからな……。そろそろ面倒が過ぎるぞ」

「すみません、その、実際にカードで確認してはいるのですが、内容が内容なので信じる事が難しくて……。その、此度おんおんさんが魔王軍幹部であるベルディアと一騎討ちをして勝った、んですよね?」

「あぁ、なんなら鎧と大剣とか見るか?」

「……こほん、申し訳ありませんでした。ギルドの一職員として疑った事を謝罪致します」

「良いよ別に。実際、十三歳の紅魔族の少女が魔王軍幹部を倒したとか眉唾ものだからな」

「他の冒険者の方々からの嘆願も踏まえて、首無し騎士ベルディアに掛かっていた討伐報酬はおんおんさんに渡されるものとなります。そして、その一部を他の冒険者さんに分配する、そういう形でよろしかったでしょうか?」

「あぁ。流石に四億エリスだなんて貰っても困るからな。一億エリスの方は皆に分配してやってくれ。三億エリスでも十分に多いくらいだ」

「畏まりました。では、そのように分配を計算します。して、古城の修繕費の件なのですが……」

「私の報酬から補填するとか宣ったら魔王軍側に寝返るからな」

「め、滅相も無い。あの古城は既に引継ぐ者も居ない物件ですので、修繕費は掛からないとお伝えしたかったんです、はい」

 

 その割には冷や汗と視線がぐるぐるとしてるがこのギルド職員。

 ダクネスさんにお姫様抱っこで外まで運ばれた私は、城門前の広場でアンデッドたちが火葬される様をはしゃぐ冒険者たちと過ごし、意気揚々と行きと同じようにトレントに乗って馬車と共にアクセルに帰還した。

 そして、小一時間程同じような事を繰り返す男性ギルド職員と此度の一件の報告と報酬の話をしていたのだった。

 既にギルドの酒場では魔王軍幹部討伐を祝う宴が始まっているようで、そんな中受付で話し合う私たちの姿は非常にシュールな光景だっただろう。

 

「あ、漸く終わったんですね」

「あぁ、しょうもない時間だった……。十分くらいで終わる内容だったよ」

「あはは……、まぁ、おんおんの見た目から魔王軍幹部を倒しただなんて思いもしないもんね」

「事実は事実じゃないですか! 大体カードを見れば一発なんですから疑う意味なんて無いでしょうに!」

「まぁまぁ、ゆんゆんの言っている事も一理ある。私はまだ十三の小娘だからな。だから、これは最初の一歩だ。これからもっと活躍すれば、私を疑う者なんて居なくなるさ」

「それも、そうですね! このまま魔王軍幹部をコンプリートしちゃいましょう!」

「……そんなに出会うとは思えんけどな。それに、私でも倒せたんだ。他の冒険者が倒せない道理も無いだろうさ」

 

 はしゃぐめぐみんを宥めつつ、どっと疲れが身体に乗っかって来るのを感じる。

 そうなんだよな、まだこれ一体目なんだよな……。いつか魔王を倒すために今日のように幹部を倒していかねばならない。

 魔王軍の幹部がどれだけ居るのかも分からないし、後から追加される可能性だってある。

 しかし……、困ったな。ダクソ3の不死人である私はレベルアップによるステータスアップぐらいしか勝ち筋が無い。

 土壇場でスーパー不死人に覚醒、だなんて便利な設定は無いのだ。

 つまり、私は自力を研鑽して高めて行き、今日の様に泥臭く勝たねばならない訳だ。

 ……折角のファンタジーなのにな。何で私だけダークファンタジーしてるんだろ。

 私の切り札は本当に禁じ手のそれだからな。願わくば使いたくないくらいに禁じ手である。

 

「……もっと強くならねばな」

 

 そう愚痴ってしまうのも仕方が無いのだ。今後の課題だなこれは。

 防御力の高い相手に対して有効打を与えられるための何かしらを見つけなければならない。

 呪術一辺倒で倒せるような相手ではないのだから。そうなると新たな武器の更新のためにユウキさんのところに相談しに行くべきだな。

 ……でもなぁ、とんでも武器を渡されるのは勘弁して欲しいものだな。

 ユウキさんは頭火薬庫と言うかとんでもない武器を好んでいる節があるからな。

 この前色々と買いに行ったら回転鋸だなんてやべぇものを店内でギュンギューンと回して笑みを浮かべていたからな。

 正直怖かった……。と言うかなんでそんなのを再現できるんだ。この世界に科学技術は無いんだぞ。

 いや、ある意味魔導回路と言う科学もおっかなびっくりな代物があるからこそなのか。

 もう少し筋力を付けるべきなんだろうか。ユウキ印のとんでも武器の一つくらい持てるくらいの膂力を鍛える事ができれば、接近戦のバリエーションが増えて勝機が見えてくる可能性もある。

 やはり、火力だ。今の私には呪術以外の火力が足りない。今回は『混沌の火の玉』の火力があって何とかなったが、火に耐性のある相手であれば決定打に成り得ない。

 ……はぁ、難しいところだな。取り敢えず筋トレでも始めてみるか。確か、ダクネスさんがそういうの詳しいんだったか。

 実際、綺麗な腹筋してたしな。あの引き締まった筋肉は正直憧れる。

 そう考えると、今の私は少し怠惰が過ぎたか。これまでそこそこの努力で成果を成してしまっていたのが精神的な惰弱を齎しているように思える。

 

「そう言えばおんおん、大分報酬を貰ったようですが……」

「ん? まぁ、そうだな」

「家、買ったりしません?」

「……家かぁ。シェアハウスで十分じゃないか?」

「いやまぁ、それはそうなんですけど……」

 

 めぐみんがもじもじとしながら此方を見やる。

 はて、何か問題が今のシェアハウスにあっただろうか。

 首を傾げているとゆんゆんが呆れたような表情でめぐみんを見やった。

 

「……はぁ。めぐみん、自分の部屋をもっと改造したいみたいで、貸家だとそれができないのがもどかしいって愚痴ってました」

「ゆ、ゆんゆん!? 何故それを!?」

「改造ねぇ……。例えば?」

「そ、その、実を言うと防音性のある部屋が欲しいな、って……」

「ふむ?」

「……おんおんの口上とか凄く格好良かったのでそれを大声で真似できるような場所が欲しいなって……」

 

 随分と可愛らしい理由が出て来て思わずにんまりと笑みを浮かべてしまった。

 めぐみんも自身の言葉が恥ずかしい事は自覚していたようで、縮こまって頬を赤らめていた。

 確かに今のシェアハウスは壁はそこそこ薄いし、庭ですると大通りに面しているから丸聞こえだ。

 表から庭は見れないように遮られてはいるが流石に声は通ってしまう。大声なら尚更にだろう。

 家、家かぁ……。まぁ、紅魔の里に戻る気はさらさらないからアクセルに定住の地を作っても良いかもしれないな。

 幸いにも先立つエリスを手に入れたしな。後で不動産屋に行ってみようか。

 

「ふむ、ゆんゆんはどう思う?」

「え? わ、私は今のままでも十分かな。でも、お友達を置く場所がちょっと無くなって来たから大きくなるなら嬉しいかな」

「……ゆんゆん。観葉植物を友達と言い張るのは止めなさい。ドルイドにでもなるつもりか?」

「へぅ……、だ、だってぇ、育てるのが楽しくなってきちゃって」

「それで人との関わりを減らしたら本末転倒だろうが……。一応族長修行としてアクセルに来ているんだろう。もう少し頑張りなさい」

「はぁい……」

 

 ゆんゆんも多少なりとも不便には思っていたのか。

 まぁ、確かにヒヨトリアはまだしもトレントは未だに庭の端っこに住まわせているしな。

 馬小屋を付けられるような物件を買い求めるのも良いかもしれないな。

 ……そう言えば、廃教会の近くに誰も住んでいなさそうな屋敷があったな。

 広さも立地も丁度良いし、不動産屋で聞いてみるのも良いかもしれない。

 見た目も良かったしそれなりの値段がする事だろう。あんまり金を持っていてもそれを狙う輩が現れる可能性があるしな。

 ……まぁ、インベントリに仕舞うから私以外に取り出せる奴は皆無なんだけどな。

 家、探すかぁ……。

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