ここすき&感想、楽しく読んでます、ありがとう!
ベルディア討伐から翌日、いつものような午前中を過ごした後はユウキさんに会うべくお出かけをしていた。
深刻な火力不足を補うために何かしらの武器を得られるのではないか、という淡い希望があったが故だ。
何せ、ユウキさんはフロムのゲームだけではなく雑多な武器のレプリカを再現している人物だ。
打刀と言い、バヨネットと言い、確かな品質を持つ武器を作るユウキさんであればそのレプリカであっても十二分に力になってくれる事だろう。
彼方此方からの熱い視線を無視しつつ、これも有名税かと辟易しながらもフロム・ヘルの扉を開く。
聞こえの良いベルの音が響き、来店を知らせる仕事を終えて黙る。
……外の人形ちゃんがちょっと動いていた気がするのは気のせいだろう、多分、メイビー。
カウンターの裏で何かを書き連ねているユウキさんが此方の姿を認識して、やや疲れた表情を浮かべて手を上げて歓迎してくれた。
「やぁ、噂に聞いたよ。大活躍だったみたいじゃないか。ちゃんとアンデルセンしてAMENしたかい?」
「無論だとも。ちゃんとやったよ、めっちゃくちゃ楽しかった。……まぁ、一歩間違えれば死んでたけどな」
「でも君不死人だから死なないじゃーん」
「暗き穴も持ってないからほぼノーリスクだが、死にたくはないさ、極力な」
「それもそっか。それで、何の依頼かな?」
「あぁ、先ずは……『カーサスの弧炎』で溶けたバヨネットを十字架のネックレスに出来たりするだろうか」
ソウルから取り出した二振りのバヨネットをカウンターに置く。
ユウキさんはうわちゃーと苦笑しながらそれを持ち上げて、色々と観察してから頷いた。
「大丈夫だよ。むしろ余るくらいだね。水銀弾にでもしておくね。他には?」
「あぁ、ベルディアが言っていたんだが鎧に魔王の加護が宿っているらしくてな。神聖魔法に対する耐性を付与するものなのだが、そう言ったのが付いたままでも素材にできるのか聞きたくて」
「ほほぅ、と、言うと?」
「盾を作って欲しいんだ。可能なら二つ」
「成程ね。と言うか貰って来れたんだ。普通、提出とかするもんじゃないの?」
「言ってないからな。と言うか戦利品を何で献上しなくちゃならんのか」
「それもそうだね」
ソウルからベルディアの黒騎士鎧と兜をカウンターに置く。
ユウキさんは感嘆の声を漏らしながらルーペのような魔道具で鎧と兜を観察していた。
「これはまた……凄いね。胸元が少し溶けているけど、これは?」
「『混沌の火の玉』を当てた部分だな」
「ほへぇ、アレを耐えるってやばくないこれ。あぁ、だから盾にしたいのか。おっけ、頑張ってみるよ。サイズはミドル?」
「そうだな。可能ならラージも欲しい」
「おっけ。完成したら代金を頂くよ。付与された加護はもう霧散してるみたいだから、頑丈な鎧と兜って感じみたいだ。多分、加護の対象がベルディアだったんじゃないかな。あくまでベルディアが着ていたから残っていただけな感じがするよ」
「ふむ、成程な……」
そう言えば、とベルディアの遺灰を集めた壺もカウンターに出してみる。
ユウキさんはいきなり置かれた壺に首を傾げ、中身を見て更に深く首を傾げた。
「ベルディアを倒した時に灰になったから持って来たんだが、何かしらの触媒に使えたりするのか?」
「えっ、これ、遺灰? ……うーん、作品が違うから難しいかもだけども……。ちょっと待っててね」
カウンターの裏にある部屋の方へと歩いて行ったユウキさん。
数分程してから戻って来ると手元にベルを持っていた。
「一応試作しただけのものなんだけど、霊呼びの鈴って言ってエルデンリングで遺灰から霊体を呼び出す道具なんだよね。多分無理だろうけども、使ってみて貰える?」
「ふむ。どうやって使うんだ?」
「えぇと、左手に遺灰を持って、右で鈴を鳴らしてみて」
「ふむ、こうか」
ベルディアの遺灰の入った壺を左手に持ち、霊呼びの鈴を鳴らしてみる。
甲高い綺麗な音が鈴から鳴り、壺に響くような感覚があった。
だが、ベルディアの霊体っぽいものは現れなかった。もう一度鳴らしてみるも出て来なかった。
「あははー、やっぱり無理だったか。一応システム的には仲間になってくれる霊体を一定時間召喚するものなんだけど、作品を越えての効力は特典には無いのかな」
「ふむ。となると、作品を跨がない方法なら可能性があるという事か?」
「そうだね。ダクソ3なら……白サインだっけ。あー、召喚される霊体の持ち主が刻まないと無理だね。それじゃあ無理かぁ」
「そうか……。可能なら剣術を教えて貰いたかったんだがな」
「そんなに強かったの?」
「あぁ。今まで戦ってきた相手の中では断トツにな。恐ろしい大剣の使い手だった」
呼び出せない理由に何となく心当たりがあるんだよなぁ。
インベントリに入っているベルディアのソウル、これが問題な気がする。
霊体として呼び出す筈のソウルが外に無いからそもそも出て来れないんじゃなかろうか。
一応鈴を買っておいて、後々で考察してみるか。
「……あぁ、そうだ。それで少し相談があって来たんだ」
「さっきの依頼は違ったんだ。まぁ、良いけども。なになに?」
「先程の鎧を見て貰っていたら分かると思うんだが、呪術以外の戦闘手段が軒並み意味が無くてな。火力のある武器が欲しいんだが、何かおすすめは無いかな、と」
私の相談にユウキさんは納得の言った表情でベルディアの鎧をこんこんと甲で叩いた。
そう、私の手持ちの武器ではその鎧を貫く事は出来なかった。ユウキさんとて自分の作った武器の性能くらい覚えている事だろう。
此処で買った打刀とメイスではこの鎧に勝てない事は理解している筈だ。
「……成程ね。それなりの武器を作って来たけど、手抜き感は否めなかったんだ。と、言うのもボクは本当にただの一般人だからね。数年ほどある程度のクオリティのものが打てるくらいに修行させて貰ったぐらいのペーペーだ。けどね、そんなボクだけど一つだけ誇れるものがあるんだ」
カウンターの下から取り出した回転鋸を握り締めて、凄まじい勢いで刃を回転させ始めた。
いまいち一貫性が分からないが、何かしらに繋がるのだろう。そっと口を閉じておく。
回転を止めたそれをカウンターの下に戻し、一枚の紙をカウンターに置いた。
「ボクは鍛冶と魔道具を組み合わせる事に関しては一家言あるんだ。これだけは親方を凌ぐ才能があるって褒められた。そんなボクにも弱点があってね、複雑過ぎる機構の物はお金が掛かって作れないんだ」
「成程? つまり、これを作るために投資すれば良いのか」
「うん。試作から完成品までに恐らく五千万エリスくらいかかる代物だ。材料がある程度の品質が無いと内部構造的に使い捨てになっちゃうから、それなりの強度が要るんだ。でも、エリスさえあればそれをクリアできる。ほら、懐温まってるんでしょ? 投資してみない?」
蠱惑的で挑戦的な笑みを浮かべたユウキさんに不安の表情は一切無かった。
本当に金さえあれば作れると言う自信があるようだった。
カウンターに置かれたその設計図を覗き込むようにして見やる。
これは……まさか、パイルバンカーか!?
冗談だろ、此処ファンタジーの世界だぞ、こんなやべぇのどうやって作るって言うんだ。
「思考に思考を重ねてこれ以上ない設計図だと自負してる。これはブラッドボーンに出てくるボクの愛武器だったパイルハンマーの設計図だ。射出機構の所に希少部位を使うから当然費用も嵩む代物だ。今ならこれを君に合わせた専用のパイルハンマーとして作ってあげられるよ」
「……本当に、作れるのか? これを?」
「勿論。ミニチュアサイズのもので再現はできてる。けど、実物大だと素材が足りなかったんだ。これならどんなに頑丈な鎧であっても打ち破れる威力がある。今の君に足りない、火薬庫のような火力を補える」
「……分かった。ユウキさんの言葉を信じましょう」
「ありがとう! ボク史上最高傑作を作り上げてみせるよ!」
ユウキさんの情熱に負けたよ。いや、うん、浪漫武器良いよね……。
善は急げと言う事でソウルから一億エリスをカウンターに置いた。
そのとんでもない大きさにユウキさんも目を白黒していたが、正気に返ったようで貨幣を数え始めた。
「倍あるんだけど!?」
「やるなら徹底的にやっちゃってください。何なら追加で二億ありますよ」
「……覚悟してる瞳だね。分かった、これ以上ないものを作り上げてみせるよ。余った分は完成後にちゃんと返すから」
「期待してます。宜しくお願いします」
「うん、任せて!!」
胸の前で握り拳を作ったユウキさんが気合の籠った返事を返してくれる。
ふぅ、武器に関してはこれで大丈夫だな。にしても……パイルハンマーか。
完成図を見る限り、展開前はジャマダハルのような使い方ができるらしい。
そうなるとグラディウスなどのショートソードを扱えるようにしておいた方が良いだろうな。
五万エリス均一の樽を見やれば、樽の長さが半分になっていて私でも取りやすい感じになっていた。
取り敢えずそれっぽいグラディウスを買い求めて、一応ミドルサイズの盾も買った。
これで十万エリスなんだもんなぁ、お得過ぎる。ほんと趣味道楽で運営しているのが感じられる。
フロム・ヘルを出て、次に不動産屋へと足を運ぶ。
以前と同じ中年の男性が店番をしていて、私を見るなり姿勢を正してずらりと羊皮紙を並べ始めた。
商売根性逞しいと言うか何と言うか……、三億エリスの報酬の話は街全体に行き渡っているみたいだなこれは。
「これはこれはおんおんさん。お久しぶりです、住み心地は如何ですかな?」
「えぇ、お久しぶりです。中々快適ですよ。ですが、うちの子たちは少々広さに物足りなさを感じてきたみたいで、大きい物件に移ろうかなと考えているんです」
「ほほぅ、それはそれは……」
話をしながら手元の羊皮紙を素早い仕草で操作する不動産屋さん。
全ての物件の内容を暗記しているのだろう、それはそれで凄い技術だな。
「他にも条件はありますかな?」
「ええ。街の端に元エリス教会だった建物がありますよね、その近くにある屋敷が良いなと思っているのですが、あれは売りに出ていますか?」
「あぁ……、選りによってあの物件ですか。売りには出ているのですが……、問題がありまして」
「ふむ、問題とは?」
「それがですね……。出るのですよ。悪霊が」
「出るんですか、悪霊が……」
斬新な切り口だな? 確かにアンデッドが居る世界だからゴーストも居るだろうけども。
話を聞いてみるとその屋敷に最近めっちゃくちゃ悪霊がたむろしているらしく、並みのプリーストに頼んでも返り討ちに遭うレベルらしい。
元はとある貴族の物件だったのだが、相続人が居なくなって売りに出された後に突如として悪霊のたまり場になってしまったと言う。
仕方が無いのでギルドに悪霊討伐依頼を出したのだが、何度も悪霊が戻って来てしまうらしい。
流石に派遣された冒険者側に問題があるのではないかと不動産屋さんが同行して一部始終を見たらしい。手練れなプリーストによるちゃんとした『ターンアンデッド』による浄化作業に不備は無いとの事で。
だが、一夜過ぎると悪霊が戻って来てしまっている。困惑して原因解明の依頼を出して様子を見れば、悪霊が団結して並みのプリーストでは太刀打ちできない程に強くなってしまったらしい。
何でも現場に向かったプリーストたちは誰もが殴打の痕跡があり、物理的に負けてしまったとの事だった。
ガラの悪い輩が住み着いている可能性もあったが、床に積もる埃にできる筈の足跡も無い事から悪霊の仕業であると断定。
「そんなこんなで一ヵ月が経ちまして……。正直維持費用が土地代などを越えているので此方としても安値でも良いから売り飛ばしたい物件なのですよ」
「ふむ……。それは難儀な事ですね。土地含めて買い上げるとなると御幾ら程になります?」
「おぉ! あれを引き取ってくださるのですか! ではでは、出血大サービスに加えて痛い腹を切った分も加味した三千万エリスで土地の権利書ごと差し上げます!」
「元値は御幾らで?」
「此処だけの話、そこそこ名のある貴族が残した屋敷ですので、それだけでも一億エリスはくだりません、アクセルの三等地と言う事もあって一億五千万程でございます」
「それはまた……、随分と身を切りましたね」
「えぇ、まぁ、少し訳がありましてね。一つお願いがありまして、よろしいですか?」
「聞くだけ聞きましょう」
不動産屋さんは朗らかな顔で何かを懐かしむように条件を言った。
――住まう事になったのならば、できれば夕飯の時にでも冒険話で花を咲かせてほしい、と。
それはまた随分と不思議なお願いがあったものだ。
何となくではあるが、その貴族の屋敷に出る悪霊とやらに不動産屋さんが噛んでいるのだろう。
または、その悪霊になる前の生前に何かしらの交流でもあったのだろうか。
まぁ、そこらへんを詮索しても仕方が無いだろう。
土地の権利書をソウルに仕舞い込み、不動産屋を出た私はそのままギルドへと足を運んだ。
並みのプリーストでは勝てない相手でも、うちのパーティの元女神であるアクアさんなら勝てるだろう。
存在自体が悪霊特効なのだから私が護衛すれば悪霊もばっちり滅ぼしてくれるに違いない。
と、ギルドの酒場に来たのだがアクアさんの姿が見えない。
ううむ、先日の報酬で飲んだくれていると思ったのだが、当てが外れたな。
「すまない、セドルさん、ヘインズさん、ガリルさん、少し宜しいだろうか」
「おぉ! おんおんちゃんじゃねぇか。どうした、何か用か?」
「少し聞きたい事があってな。すまない! シュワシュワ四つ!」
「はーい! シュワよん入りまーす」
「お、すまないねぇ。それで、何が聞きたいんだ?」
近くで前にダクネスさんたちと飲んでいた事のある冒険者の人たちの一角に座らせて貰う。
話の代金としてシュワシュワを奢る、それが冒険者同士の暗黙の了解である。
歩き回って喉が渇いていた事もあって私も少しだけ飲む事にしよう。
「それがだな、アクアさんを探しているんだが見ていないだろうか。多分、此処で飲んでいたと思うんだが」
「あぁ、アクアの嬢ちゃんか。確か、ダストがカズマに喧嘩を振ってたな」
「何でも最弱冒険者の癖に綺麗所の上級職に挟まってるんじゃねぇ、とかだったかな」
「そうそう。それで、立場を代わってやろうかだなんて挑発したら、カズマが喜んで代わってやるよぉだなんて叫んだんだ。あっはっは、あれは傑作だった」
その光景が浮かぶようである。実際、私の居ない時のパーティの舵取りは大変だと聞くしな。
ある程度は私がめぐみんとゆんゆんに言い聞かせてはいるが、その場のノリにはしゃいだら大変な事になるのは自明の理である。
「ふぅん、本当にやったのかダストくん。面倒な事をしたもんだ」
「ん? おんおんちゃんは知ってたのか?」
「あぁ、前に尋ねられた事があってね。カズマくんは最弱の冒険者ではあるが、ああ見えてうちのパーティのリーダーをやってるんだよ」
「へ? おんおんちゃんじゃなくてか?」
「ふふふ、面白い事を言う。折角男の子が頑張っているんだ、それを応援するのが良い女と言うものだろう?」
茶目っ気のある笑みでそう言ってやれば、彼らは笑みを返してその通りだと頷いていた。
「ふっはっは! ちげぇねぇ! 腕っぷしもあって、男を立てる器量もあって、別嬪さんなおんおんちゃんだもんな! そうかそうか、カズマも隅におけねぇな」
「おっと、勘違いしては困るぞ。別に恋愛感情を抱いている訳じゃないからな。出来の悪い弟を見守っているようなものだよ」
「それはまた……、カズマも可哀想に。年下なのに確りとしたおんおんちゃんが相手じゃぁ敵わんわな」
どわっはっは、と三人の笑い声が酒場に響く。ふふふ、気分が良いな。酒が美味い。
丁度良いので最近あった出来事について冒険話を強請ってみれば、雪精が出てくる時期になった事や泉の除染のためにプリーストが足りないとか、デストロイヤーの偵察任務が王都の方へ出始めているなどの情報を得られた。
この三人地味にアクセルでは古株で、時々王都に癒しを求める事があるのでその時に酒場から情報を拾ってくるらしい。
冒険者の処世術と言うべきか、こうして酒を奢る事で円滑に情報を交換する場は意外と多い。
むしろ、それに馴染めない冒険者は大事な情報が足りずに死に至るだなんてジンクスもある程だ。
そう言った点ではこういうおっさんたちは非常に便利だ。
今生が美少女で産まれた甲斐があったというものだな。もっとも利点はそれだけじゃないが。
「ふーむ、生活雑貨は何処で買うのがおすすめだ? 近々買い集めようと思っているんだ」
「それならロウヤンのところだな。輸入をやってる店の近くにある。あそこは女子供が好みそうなもんを置いている雑貨屋だから気に入ると思うぜ」
「ははは、まだまだだなヘインズ。分かっちゃねぇな。おんおんちゃんはそこらのガキンチョやませたガキと違って実用性の高い機能美の物を好むんだよ。裏通り二丁目にあるワイルドハンドがおすすめだ。シンプルで頑丈で多機能なもんが置いてあるからよ」
「ほぉ、それは良い事を聞いた」
「たはー! 見た目通りの性格じゃねぇもんなぁ。じゃあ、ルククッカの店はどうだ。キャンプとかに使える実用品の売ってる店だ」
「何処にあるんだ?」
「へへへ、三丁目の曲がり角の近くだ。使い勝手の良いランタンとかが売ってて良い店だぜ」
「ほぅほぅ、それは良い。実に良いな」
「がはは! そこらの女冒険者と違っておんおんちゃんは確りしてらぁ!」
「だよなぁ、カズマが羨ましくなってきたぜ」
「ふふふ、共同の依頼ならまた受けてあげるから連絡してきなよ」
「はっはっは! 言ってみるもんだな。おんおんちゃんが居りゃぁ大抵のクエストは大成功間違い無しだ!」
わっはっは、と四人で笑う。シュワシュワも四杯目で大変心地が良い。焼き鳥の塩加減が最高だ。
夕飯前だと言うのにお酒が入るとついつい食べてしまうんだよな。
いけないとは思っているんだが止められないんだよなぁ、困っちゃうなぁ。
「そう言えば、時々王都に癒されに行くらしいけども、アクセルにはそう言う店は無いのか?」
「んへへ、なんだ、おんおんちゃん、そう言う事が気になっちゃうお年頃かぁ?」
「いやなに、純粋な疑問だよ。命懸けの冒険者生活をしているならどこかしらに娼館があって然るべきだろう? よくもまぁテレポ代の掛かる王都に行くものだなと思っているんだよ」
「あぁ、成程なぁ、そういう見方をすりゃ確かに疑問だわな。実はな、此処だけの話なんだが……」
ガリルさんが手で口元を隠して近付いて来る。耳を向ければこっそりと詳細を教えてくれた。
何でも裏路地の何でもないような店にサキュバスの店があるらしく、そこで男共は精を抜いて貰うらしい。
と言っても現実ではなく夢の中の話らしい。要するにえっちな夢を見させてくれるお店なのだとか。
「ふぅん、道理でベテラン冒険者がちらほら居るもんだ」
「お、おいガリル。お前酔い過ぎだ。秘密の店の話をしちまってどーすんだ」
「そうだぞ、おんおんちゃんは女の子なんだぞ」
「ん? その店は女人禁制なのか?」
「ん、んー……、そう言う訳じゃないが……。いやほら、女性冒険者的には未来の旦那を掴む機会が失われるからサキュバスってのを目の仇にするのさ。同じ馬小屋で寝るのも手を出して貰ったり意識して貰ったりするためだとか、色々考える女も居る訳よ」
「ふぅーん、別に大丈夫だな。私、女性にしか興味無いし」
「「「お、おぅ……」」」
ぷはぁっ、シュワシュワが美味いっ。……なんか致命的な事を漏らした気がするけどまぁいいか。
なんだ、三人とも手が止まってるじゃないか。仕方が無いなぁ、代わりに頼んであげるか。
それにしてもサキュバス店か。凄い興味があるな。と言うか居るのかサキュバス。
サキュバス由来のアイテムとか売ってたりするのだろうか。
淫夢を見せてもらうってのも面白そうだなぁ。明晰夢の中で前世の身体に戻るのも面白いかもしれないな。
「そこってユニークなアイテムとか売ってたりするのか?」
「んー、聞いた事無いな。と言うか、それ目当てで来る奴はほぼ居ねぇからなぁ」
「ちらっと聞いた話だと眠りやすいお香とかムラムラするお香とか売ってるとか言ってた気がするな」
「そんな良いもん売ってたのか。今度行く時聞いてみるか」
「へぇ、って事は魔界由来のモノなのかな」
「どうだろうな。でも、確かにそうかもしれんなぁ」
「意外と身近な所にそんな不思議なもんがあったとはな、びっくりだぜ」
わっはっは、と四人で大爆笑する。いやー、酒が進んで良い感じになってきたな。
若干セドルさんがふらついてるがまぁ大丈夫だろ、成人してる良い大人だし。
ちらりと外を見ると夕焼けが見えていた。そこそこ長居してしまったなぁ。
「すまない、お水を三つ貰えるか、ジョッキで!」
「はーい、かしこまー!」
「それでは、私はそろそろお暇させて貰うよ。興味深い話をありがとう」
「へへ、良いって事よ。また一緒に飲もうぜぇ!」
「んだんだ。可愛い子と飲めて役得だぜ」
「気を付けて帰るんだぞぉ」
「あぁ、そうさせて貰う。水を貰ったから飲んでおくと良い。ちょっとふらつき始めてるからな」
ありがとよーと言う声に適当に返事してから、飲んだ分のエリスを置いて酒場から離れる。
ううむ、結構飲んでしまったな。九杯くらい飲んだ気がする。お腹がたぽたぽだ。
若干ふらつきながらもシェアハウスを目指して歩いて行く。
ううむ、確か路地裏のって言ってたな。ソウルを見通す瞳に変えて散策を始める。
そうして明らかに人間ではないソウルの輝きをしている小柄の少女を見つけた。
ふむ、あれがサキュバスのソウルか。心做しかピンクに見えるな。
まぁ、人のえろい妄想が餌なんだから当然と言えば当然か。
……って、なんでダストくんとキースくんに連れられてカズマくんがあそこに居るんだ。
随分と仲良さそうにしているが、喧嘩の一件は丸く収まったみたいだな。
まぁ、年齢的にもカズマくんとダストくんにキースくんも気の合うタイプだろうし、こうしてちょっとした息抜きとしてそういう店に入るのもおかしくはないか。
ふむ、見なかった事にしてあげよう。
しかし、近くにサキュバスが来たら流石にアクアさんに排除されちゃうんじゃなかろうか。
確か夜に寝る時に合わせてサキュバス嬢が派遣されてくるって話だったような気がするんだが。
……まぁ、どんな夢を見るかは自由だし、どういう結果になるのかも自由だ。
良い夢見ろよカズマくん、それくらいの役得があっても良かろうて。
「ふわぁ……。眠たくなってきたな。今日の夕飯どうしようか……。手軽に雑に作れるシチューにでもするか。練って、煮込むだけだし……」
ふわふわとした心地でシェアハウスの扉を開く。どうやらすでに二人は帰っているようだ。
ただいまと声を掛ければおかえりの声が帰って来る。……良いものだな、これは。
カルラ衣装から部屋着に変えてキッチンに下りるとテーブルに二人が座ってぐったりしていた。
「おや、どうしたんだ二人とも随分と疲れた顔をして」
「あぁ、それがですねおんおん……。今日、ダストと言う輩にカズマがちょっかいかけられまして」
「その一環でそのダストさんとカズマさんを入れ替えてクエストをする事になったの」
「ふむ、それでその様と」
「最近のカズマ、やや後ろに立って全員にちゃんと指示を出してくれるんですよ。分かりやすいように。でもダストは駄目駄目でした。ダメダメのダメです」
「あはは……、それで、カズマさんの重要さを皆が改めて感じたんだよね」
「ふむ、そうだったのか。……でもまぁ、大丈夫だと思うぞ。先程カズマくんを見かけたがそのダストくんたちと仲良くしていたからな。同世代の男子で息が合うんだろう」
「ふぅん……、まぁ、カズマがうちのパーティから抜ける事は無いと思いますけどね」
「まぁね、だって……」
二人の視線が私に向かう。はて、その文脈だと私が理由でパーティに居るような意味合いだが。
好意的に見れば私をベテラン冒険者として頼りにしてくれているのだろう。
強くなりたいと気概も見せてくれているようだしな。
そう頷いていると二人の溜息が聞こえた。……まぁ、うん、分かってはいるさ。
それっぽい感情を抱かれているくらいはな。そこまで鈍感じゃないさ私とて。
けどまぁ、カズマくんにはもっと良い人が居ると思うんだけどな。
多分だが、アクアさんとか良いと思うんだが。元気いっぱいで疲れた時に笑顔を魅せてくれて、悲しい時は一緒に悲しんでくれて、嬉しい時に一緒にはしゃいでくれる、そんな人だし。
「さてと、ちゃちゃっとシチューでも作っちゃうから少し待っていてくれ」
「わーい! 私おんおんの作るシチュー大好きです!」
「わ、私も好きだな。コクがあって美味しいんだよね」
「ふふふ、楽しみに待っててくれ」
流石にこの二人は彼女には出せんな。まだまだ幼過ぎるし。
親離れのできていない子みたいなもんだしな。
……実の親からは卒業できているあたりがアレなんだよなぁ。
いつまで私は二人のお母さんを演じれば良いのだか。まぁ、成長を楽しみにしておくかね。
二人とも良い子だから健やかに育つ事だろう。私はそれを見守ってあげれば良い。