この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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誤字修正あありがとうございます。
ここすき&感想楽しく読んでおります、ありがとう。


24話

『緊急クエスト! 緊急クエスト! これは訓練ではありません! 至急冒険者の方々はギルドへとお越し下さい!! 大至急ッ!!』

 

 一撃熊の鍋に舌鼓を打った翌日の事だった。私は晴れ渡る空を窓から見やりながらリビングで珈琲を飲んでいた。

 そんな中、大分切羽詰まった声色の緊急クエストが発令された。

 同じくしてリビングでまったりとしていた面々に顔を向ければ、力強い頷きが返って来る。

 

『避難勧告! 避難勧告! 機動要塞デストロイヤーが接近中! 迅速に対応できるように非冒険者の方々は避難の準備を始めてください!』

 

 だが、そんな警報が街中に響き渡った途端、アクアさんとめぐみんにゆんゆんが一瞬にして顔を青褪めさせていた。

 はて、デストロイヤー? 何処かで聞いた名だな。昨日めぐみんから聞いたような気がする。

 反応の様子からカズマくんは私と同じくして知らないようで小首を傾げており、ダクネスさんは神妙な顔で苦虫を噛み潰したような表情で窓を睨み付けていた。

 

「デストロイヤーってあの子供に人気のわちゃわちゃしてるっていう奴か?」

「お、おんおん。それは見た目の事です。実際のデストロイヤーはマジでやばいんですよ。それが通った後には何故かピンピンしてるアクシズ教徒以外は形も残らないと評判なんですよ!」

「……アクシズ教徒にはギャグ補正でも付いてるのか? まぁ、それは兎も角として取り敢えず準備だ」

「嘘でしょおんおん? あのデストロイヤーだよ? 戦うなんてできないよ!」

「……分かった、迅速に準備しよう」

「あっ、ダクネス!?」

 

 私に一つ頷いて自分の部屋に戻ったダクネスさんを、アクアさんが止めようとするも失敗していた。

 デストロイヤーとやらの全貌が分からない以上、此処で足踏みしている意味は無い。

 そう思いめぐみんとゆんゆんに詳細を聞けば三人の反応を理解できた。

 全長は首が痛くなるくらいの大きさだそうで、八脚の機械製の大蜘蛛、それが世間一般のデストロイヤー像であるらしい。

 ……それなんて局地制圧兵器だ? と言うかそれ世界観的にどうなんだ?

 戦闘方法、と言うよりも基本的に結界を纏ってガションガションと歩いて来るらしい。

 背中にはゴーレムが居て迎撃されるらしい。暴走した古代兵器と言うには最新鋭だな……。

 

「……確実に勇者候補案件だろ、これ」

 

 どう考えても過去に此方に転生した勇者候補が作って暴走してるだろ。

 その理由は単純にこの世界の生活水準が中世ナーロッパ的であり、魔道具が精々の最新器具、オートメイションのテクノロジーは見当たらない。

 ……いや、もしかして栄華を極めたが一度滅んだオチか? それでロストテクノロジーとしてこうして牙を剥いている……在り得る話だな。

 しかし、巨大兵器か。これは……無理だな。単純に対抗手段が無い。

 私の呪術の最大火力は『苗床の残滓』か『混沌の火の玉』くらいだ。

 機動要塞デストロイヤーの行き先は何も残らない、そう残されている以上普通に八脚で歩いてくるだけじゃないんだろう。

 あぁ、うん、そう言う事か。丸い球体だか四角いかは知らないが、結界が展開されているらしいから磨り潰される訳か。いや、死ぬわ。

 漸くめぐみんたちの反応が分かるくらいの理解度を得た。

 

「なぁ、アクア。前にウィズんとこで魔王の結界ぶち壊せるって言ってたけどよ、それ結界にも使えるのか?」

「んー、多分?」

「じゃあよ、お前が結界壊して、めぐみんの爆裂魔法で吹っ飛ばせば良いんじゃねぇの?」

 

 カズマくんのひらめきに似たアイデアに思わず私たちは成程と感心していた。

 結界を潰せれば魔法が通る。幸いこの世界には爆裂魔法のような遠距離手段は多い。

 更にその使い手が此処に居る、めぐみんへと視線が集まる。

 

「わ、私ですか!?」

「おう、良かったなめぐみん。唯一の取柄である爆裂魔法の出番だぞ」

「軽く言ってくれますねカズマっ! 良いでしょう、そこまで言うなら魅せてやりましょうとも!」

「決まりだな。では、今の案をギルドに持っていくか」

 

 久々に鎧を着込んだダクネスさんも合流し、皆揃って冒険者ギルドへと向かう。

 一応リーダーであるカズマくんを先頭にギルドへと顔を出すと、此方を、と言うか私を見て歓声が上がった。

 いや、頼りにされるのは嬉しいが今回は私は脇役だぞ?

 ちらりとカズマくんを見やれば、意を決したように頷きを返して前に出た。

 

「聞いてくれ! うちのアクアは結界を破る魔法を会得している! これで遠距離からの魔法による先制攻撃が可能だ! そして、この世で一番破壊力のある魔法、爆裂魔法を取柄とするめぐみんが居る! よって、俺たちはこの手段による迎撃を対抗策として提案したい! どうだろうか!」

 

 カズマくんの身振り手振りによって説得力の増した提案の声がギルドに響くと、騒めきと共に希望に満ちた表情が浮かび始めた。

 そんな中、集団の一塊から抜け出すように此方に歩いてくる少年の姿があった。

 青銅色の立派な鎧に身に包んだ少年が前に出て来た事でギルド内に騒めきが起こる。

 それは決して悪い意味ではなく、むしろ歓喜の声が聞こえてくるようだった。

 

「ミツルギさんだ! おんおんさんに次ぐこのアクセルに居る実力者の一人だぞ!」

「ああ、結界で歯がゆい気分だったろうが、それが無くなるなら打って出るつもりなんだろう」

「流石ミツルギさんね! 王都の新鋭冒険者!」

 

 ミツルギ? ……どっかで聞いたような名前だな。確か、ベルディア討伐のために来てくれた人だったか。

 ぱっと見好青年の戦士職だろうか、それっぽい得物を腰に下げている。

 そんなミツルギくんがカズマくんの前に歩いて来たかと思えば、素通りしてアクアさんの前に跪いて手を取っていた。

 握手の体勢を取っていたカズマくんは梯子を外された事とアクアさんに跪いた事の二つで困惑しているようで、何だこいつと言う視線で振り返ってミツルギくんを見ていた。

 

「ああ、まさかこの地で貴女様と再会できるとは思っていませんでした。女神様、覚えていらっしゃるでしょうか。貴女様に魔剣グラムを授かった御剣響夜です。再びお会いできて嬉しいです」

「え? 誰? ごめんなさい、転生業務って工場で言うところの流れ作業だからよっぽど印象強くないと憶えてないのよ。でもまぁ、そんな名前の剣を上げた覚えはあるわ」

「ぐふぅっ」

 

 と、思ったら天然な言葉の袈裟斬りに致命傷を負ったようだった。

 よろめいた彼を支えるべくやけに露出の高い少女二人が近寄る。

 ふーん、ハーレム系か。まぁ、顔は整っているし、強そうな武器や鎧をしている事から実力はあるんだろうな。

 くっそどうでも良いけど。

 ん? そういや見方を変えればカズマくんもハーレムメンバーを引き連れているようにも見えるのか。

 つまりこれはハーレム主同士の争い、男同士の戦いの流れだな。

 胸に手を当てて割と深刻な精神ダメージを負ったらしいミツルギくんが立ち上がり、今度はカズマくんと対面する。

 なんだやるのか、とカズマくんが若干身構えるとミツルギくんは顔を横に振った。

 

「なんで女神様が此処に居るのか問い質したいところだが、状況が状況だ。カズマと言ったか、後で話し合いの機会をくれないか?」

「あ、あぁ。もしかしてだけどお前も勇者候補?」

「ああ。そうだ。僕はこの魔剣グラムを女神様から授かった勇者候補だ。君は……、まさかと思うが女神様を?」

「……売り言葉に買い言葉だったけどな、最終的にはそうなる。つってもお前が最初の第一印象で変な期待を胸に抱いているのは分かったわ。このぽんこつ天然駄女神にどんな妄想抱いてるのか知らんけど、神聖な雰囲気とか皆無だからな。普通に泥酔して暴れ回るOLみたいな奴だからなこいつ」

「……くっ、僕の知らない女神様の一面を知っているからと言って良い気になるなよ! 必ず女神様は僕の物にしてみせる! 首を洗って待っておけ!」

「いやいや、いやいやいやいや、なんでそーなる。まさかとは思うが一目惚れしたのかよ、この駄女神に? いやー、止めとけって。こいつと一緒に居ると楽しいけど大変だぞ?」

「自慢か? 自慢なんだな!? くそっ、こんな奴に女神様が……っ!」

 

 おおっと? なんかアクアさんの取り合いみたいになってるな。

 先程まで対デストロイヤーだった雰囲気が霧散して、面白いものを見る視線が集まっていた。

 ……はぁ、このまま見ていたい気分だが、状況を考えろ馬鹿共め……。

 手を打って注目を集めると観戦ムードが霧散して少し引き締まった。

 

「そういう話は後にしろ。話の途中だがデストロイヤーだ。そっちを優先しろ」

「す、すいません、おんおんさん」

「むっ、それも、そうだな……。カズマと言ったな、君とは後で決着を付けよう」

「分かってくれて何よりだ。兎も角、作戦概要は三段階だ。アクアさんによる結界破りが第一、次に高火力魔法による迎撃が第二、そして第三はデストロイヤーを操る何者かを討伐する事だ。何か異論があるものは居るか? ……居ないな。では、この中で爆裂魔法、もしくはそれに準ずる魔法を持っている者は居るか?」

「いや、流石に居ないだろ……。ん、待てよ、確かウィズ魔法店の貧乏店主さんはかつて凄腕アークウィザードとして名を馳せた人だった筈だ!」

「誰かウィズさんを呼んで来い! おんおんちゃんのところの爆裂娘みたく、道楽で爆裂魔法を習得してるかもしれないぞ!」

「すみません、遅くなりました! ウィズ魔法店の……って、あれ?」

 

 ギルドの入り口に現れたウィズさんへと視線が集まり、名乗りを上げようとしていたのだろうが困惑する姿があった。

 

「来た! メイン魔法使い来た! これで勝てる!」

「黄金の鉄の塊でできているマナタイト製の杖を持つウィズさんが負ける訳ないだろ!」

「えっ? えっ? えっと?」

 

 困惑しているウィズさんに先程の流れを説明すると、豊満な胸を張ってお任せくださいと頷いてくれた。

 どうやらポイントが余っていたから爆裂魔法を取得していたらしい。

 案外、記念受験みたいなノリで爆裂魔法を習得している人って結構いるんじゃ無かろうか。

 そんな事を思っていると後ろから肩を叩かれ、振り向いてみれば露出過多で煽情的な恰好をするクリスさんの姿があった。

 シーフだからってベルトファッションはえっち過ぎやしないだろうか。此処ディスガイアじゃないんだから。

 

「ごめん、ちょっとだけ良いかな? 渡したいものがあるから裏手に来てくれる?」

「えぇ、構いませんよ。それにしてもお久しぶりですね、お元気そうで何よりです」

「あはは、ダンジョン巡りも一段落って時にこれだったからね、驚いたよ。……いや、ほんと、驚いたよ」

 

 なんか最後に呟いた言葉は別の何かに対しての言葉のように聞こえるが、まぁ、いいか。

 クリスさんに先導される形で一旦外に出て裏手に回ると樽に立て掛けられた一本の大きな剣がそこにはあった。

 どっかで見た事がある独特なデザインの剣だな。

 刀身の下側に両端へ短く伸びる刃が付いており、ってよく見たら先が割れてるなこれ。折れてる様に見えるんだが……。

 渡したいものとはこれの事だろうか?

 そう内心首を傾げていると耳元に囁くようにしてクリスさんが話し始めた。

 

「多分、もう私の正体について気付いてると思うんだけど、私は女神エリスの分体なんだ。こうしてシーフとして活動してるのは理由があって、勇者候補の人たちが志半ばで死んじゃって残された神器を回収する役目を負ってるんだ」

「そうだったんですか。アクアさんが居るからエリス様も下界に降りているんじゃないかなと思ってはいました」

「それでね、君の生前の情報と特典の内容を確認させて貰った訳なんだけど、君にならこれを扱えると思ったんだよね」

「これが渡したいものですか?」

「うん。ストームルーラーって言えば分かるかな?」

 

 は? ストームルーラーだと? 巨人殺しの折れた大剣じゃないか。

 こんなデザインだったんだな、当時巨人ヨームに追われて切羽詰まりながら装備したからあんまり細部を見てなかった。

 なんでそんなものを私に渡そうとしてるんだ?

 そんな私の心境を察してか苦笑しながらクリスさん、もといエリス様が続きを話し始めた。

 

「これはその、これが欲しいって言った勇者候補の子がね、原作通りの武器が欲しいって願っちゃったもんだから力を使い熟す事無くただの大剣に終わっちゃったものなんだよね」

「……はぁ、戦技が使えなかった、と?」

「多分、そうなる、のかな? 構えても魔力を込めても使えなかったみたい。でも、君の特典の内容からしてこれを扱える資格があると思わない?」

「……成程、これを使ってデストロイヤーを倒せ、と」

「私はさ、こうして下界に降りてくるくらいにこの世界が好きなんだ。同時に、この世界に住む人たちも愛している。だから、こう言うチャンスを上手く活用したい訳なんだ。まぁ、それに……先輩が思いっきり干渉しちゃってるからこれぐらいの手助けなら良いかなってね」

 

 樽に立て掛けられたそれを持ち上げたエリス様から、ストームルーラーを手渡された。

 ずっしりとした大剣を受け止めて若干大変だったが、何とか落とす事無く持つ事ができた。

 鞘の無いストームルーラーを上段に構え、魔力を込めてみるが変わりは無い。

 ――【戦技:嵐の王】、そう脳裏に浮かべてみれば剣身に風が集まり収束し始めるのが肌で分かった。

 マジで使えるのかよ、やべーな神器って。戦技をキャンセルして風を霧散させるとエリス様が何とも言えない表情で此方を見ていた。

 あー、エリス様からすれば本来の使い方を今更に使ってくれたみたいなもんだしな。

 

「そう言えば、この武器って一部の場所でしか効果を発揮しない類のものですけど、そこんところどうなんですか?」

「えっとね、一応それらしい改造がされてるよ。一つ、相手が自身よりも強大な体躯を持つ事。二つ、資格ありし者が持ち扱う事。三つ、相手を視認して狙い撃つ事。この三か条を守ってくれれば真の力を発揮するように作ってあるみたいだね」

「普段使いするには一か条目で制限される感じ、ですか」

「あ、因みにレンタルだからデストロイヤー戦が終わったら返してね。一応封印する神器だから、今回だけ特別だよ♪」

 

 そう言ってエリス様はお茶目にウインクと舌出しと言う可愛らしい仕草を此方に魅せた。

 ……まぁ、分かってたけどな。ぶっちゃけ、大剣なんて普段使いするには重過ぎるしなぁ。

 コレクションとしては少し欲しかったなぁ、一ファンとして。

 

「……性能封印してコレクションに貰えたりしません?」

「あー、うん、気持ちは分かるけど駄目なんだ。天界規定に抵触しちゃうから。君が何処かで拾ってきたものならワンチャンあるけど、そのまま渡しちゃうと横流しになっちゃうからね」

「そうですか、残念……」

「あはは、まぁ、この武器は君ぐらいしか扱えないから私としても良いかなーとは思うんだけどね。決まりは決まりだから、ごめんね」

「いえ、出過ぎた事を言いました、すいません」

 

 困らせてしまうのは本意では無いので引き下がるとしよう。

 ソウルにストームルーラーを仕舞い込み、今回限りのアイテムとして運用する事にしよう。

 さて、デストロイヤーを迎え撃つ準備をするか、そうエリス様に一礼して去ろうとした時だった。

 

「ねぇ、おんおん」

「はい、なんでしょう」

「最近ダクネスと良い感じっぽいけど、もしかしてもしかする?」

「……んっー、まぁ、女神様ですもんね。流石に分かりますか。お互いに納得してお付き合いさせて貰っている感じですね」

「そっかぁ……。いやほら、ダクネスって敬虔なエリス教徒の子だったから色々と目を掛けてたりしたんだよね。……今、幸せ?」

「……はい。まだ身内には教えてないのでこっそりとですが、充実してます」

「………………だろうね」

 

 何かしらの言葉を呟いたエリス様は何処か疲れた様子で、けれど頬を赤くした状態で此方を見ていた。

 ふむ? もしや、ダクネスさんが何かしらを口漏らしたのだろうか。

 ……まさかと思うが、い、一応聞いておいた方が良いだろうか。

 いや、止めておこう。もし頷かれてしまったら今後の営みがし辛くなるし。

 けどまぁ……、エリス様の恰好も大概えっちなんだけどな。シーフだからってベルト服は煽情的過ぎるんだよなぁ。

 変な気分になってきたのでここらでお暇させて貰うか。

 会釈してその場を離れ、ギルドの方へ戻ると色々と話を進めてくれているようだった。

 

「一先ず、アクセル正門前の街道に前線を張る形になりました。まぁ、聞く限り意味無い気はしますが、やらないで無秩序になるのもアレだな、と」

「ふむ、まぁ仕方あるまいよ。相手は見上げるような機械蜘蛛らしいしな」

「ですよねぇ。取り敢えず、アクアとめぐみん、ウィズを街門の上に配置して、左右の足を破壊してダウンを取ったら乗り込め―って感じのふわっとした作戦になりました」

「まぁ、残当だなぁ。そうするしか無いだろうな。怪獣大決戦をするための味方が居ないしな」

「あはは……、ですね。取り敢えず、デストロイヤーが見えてくるまでは前で待機ですかね」

「そうだな。……あ、そうだった。クリスさんが神器を貸してくれたから私も攻撃に参加するぞ」

「へ? 神器? あー、ダンジョンに行ってるって話ですし、レアドロップしたんですかね」

「いや、勇者候補が持っているチート武器の事を神器って言うらしいぞ。どっかでくたばったらしい人のそれで、お誂え向きなのを預かっているからぶちかましてやろう」

「……またおんおんさんの英雄譚に伝説が刻まれるんすね」

 

 何処か嬉しそうな様子で言ってくれるカズマくんに笑みを返し、無い胸を張ってみた。

 タイミングとしてはめぐみんたちの後押しとして扱うのが良いだろうな。

 爆裂魔法でよろめいたところを【戦技:嵐の王】で吹っ飛ばしてやるのだ。

 愉快痛快な光景になるのは間違いないだろう、少しだけ楽しみだ。

 ……まぁ、巨人ヨームと比べてデストロイヤーがどれだけの大きさかは分からないんだけどな。

 確定的な死を迎えないとは言え、凄く痛いのは嫌だなぁ。せめて一思いにぷちっと殺して欲しいものだ。磨り潰すのは勘弁な。

 それからは前線基地を急ピッチで仕上げる事になり、主役と言っていいめぐみんとウィズさん、急遽名乗り出た私、そしてアクアさんとその暴走を戒めるために付き添ったカズマくん以外が木材等を荷運びし始めた。

 私たちは射線の確保のために街門の屋上部にある左右の塔へと移動し、真価を発揮するべく英気を養っていた。

 

「大丈夫かめぐみん。その震えは武者震いじゃないだろ」

「あ、あはは……。そ、そんな訳無いじゃないですか。やだなーもう……。はぁ、おんおんには隠せませんね」

「当たり前だ。何年一緒に居ると思っているんだ。めぐみんのおしめを替えた事もあるんだぞ」

「いや、その頃にはまだ出会ってませんから。と言うか、初対面だった頃のおんおんがそこまでしてくれるとは思えないんですけど」

「さて、どうだろな」

 

 私の冗談で少しは肩の力が抜けたのか、強張っていためぐみんの表情に苦笑の色が浮かんだ。

 小さな溜息を吐いためぐみんが視線を外して外を、遠くに見える巨大な砂埃に包まれているデストロイヤーを見やる。

 

「……アレが、来るんですよね。この門よりも大きいデストロイヤーが」

「ああ、そうだな。私たちはやるべき事をするだけだ。伝説を作るんだ。そうだろ? 爆裂魔法の申し子たる紅魔族の秘密兵器めぐみん」

「そんな呼ばれ方したの初めてなんですけど……。ま、そうですね。いっちょやったりましょう! 私とおんおんとならできます! デストロイヤーにだって勝てるんです!」

「あぁ、その意気だめぐみん」

 

 しれっとウィズさんが省かれた気がするがまぁいいか。

 反対側の塔に居るウィズさんには聞こえてはいないだろうし。

 と言うよりも、アクアさんに浄化され掛かってカズマくんに助けられているし、尚更に此方に意識を向けるのは無理だろう。

 ……いや、なんでこんな場面でもアクアさん浄化しに行ったんだ。貴女結界破りのために其方に行ったんでしょうに。

 呆れて普段通りだなと苦笑していると、私の胸元に顔を埋めるようにめぐみんが抱き締めてきた。

 小刻みに震えている身体を抱き締め返し、頭を撫でてやる。

 まぁ、めぐみんはまだ十三歳の子供だからな。そもそもこうして主役に担ぎ上げられるのがおかしい状況なのだ。

 と、言ってもこの世界は弱肉強食だ。

 幼いからと言って力を発揮すべきステージから降りる事はできない。

 自分の身は自分で守る。それが冒険者の鉄則なのだから。

 だから、心だけは大人な私がめぐみんの恐怖を受け止めて慰めてやらねばならない。

 そして、冒険者の仲間として困難に立ち向かえと言ってやらねばならない。

 

「……はふぅ、おんおんをキメたら心が落ち着いてきました」

「ふふっ、これぐらいで良いならいつでも構わないさ」

「ねぇ、おんおん」

「ん? 何だ?」

「もしも、デストロイヤーを倒したら言いたい事があるんです。時間を貰っても良いですか?」

 

 めぐみんは勇気を振り絞った表情でそんな事を宣った。

 ……あの、めぐみん? 死亡フラグ立てないで欲しいかなぁって……。

 あぁ、うん、茶化す場面じゃないよな。けど、うぅん、何となくではあるが内容に予想がつくんだよなぁ。

 そっかぁ、男っ気が無かった理由それかぁ……。

 これは、暴露大会を計画しなきゃならないだろうか。

 いや、ほんとどうしよう。……嫌われたりしないだろうか。

 

「あぁ、勿論だ。そのためにも無傷でデストロイヤーを倒さなきゃな」

「……っ! そうですね! うぉぉおお! 勝ちますよ! 勝つに決まってるじゃないですか! 私とおんおんとなら楽勝です!」

「……そうだな。それじゃ、準備を始めようか。後十数分あるかないかぐらいだろうしな」

 

 私の言葉に振り返っためぐみんは目撃した事だろう。

 平原地帯に突入し、よりくっきりと見えたデストロイヤーの全貌が。

 お気に入りの杖をぎゅっと握り締めて、デストロイヤーに向けためぐみんの背中に手を当てて魔力を全力で譲渡する。

 灰エスト瓶を飲み干し、めぐみんの過充填も済んだので私も準備を始めるべくソウルからストームルーラーを取り出す。

 めぐみんの隣に立ち、ストームルーラーを上段に構えて戦技を繰り出すために準備を始める。

 

「折れし巨人殺しの剣よ、嵐を纏いて我が敵を打ち倒さん。【戦技:嵐の王】」

 

 少しでもめぐみんのテンションを上げるために小っ恥ずかしい詠唱をキメる。

 案の定、隣のめぐみんは瞳を紅く輝かせてノリノリでオリジナルの詠唱を始めた。

 ……いや、その、収束まで時間掛かりそうだから早めに発動してるんだよね。

 ストームルーラーの戦技は、溜めと発射の二段階だからさ……。

 まぁ、いいか。いつでも放てる状況にしておいて損は無いだろうしな。

 周辺の風を吸い込むようにして徐々に収束を始めたストームルーラー。私は収束が完了するまで気を抜く事が出来ないくらいに追い込まれていた。

 これ、非常に重い。けど、下ろす訳にもいかないので意地と根性で上段に構え続ける。

 ……こっそりと下ろせないだろうか、収束が進むに連れて重さと言うか振り回されそうになるんだが。

 ゲームだと数十秒の感覚だが、現実となると担い手の技量も加味されるらしい。

 二分程時間を掛けてその身に嵐を内包したストームルーラーが唸りを潜め、満足したと言わんばかりに大人しくなった。

 小さく溜息を吐き、デストロイヤーの迎撃に合わせるまでは、切っ先を地面に下ろして柄尻に掌を重ねる仁王立ちスタイルで休憩する。

 側から見れば騎士団長がやりそうな威厳ある格好なのだが、ストームルーラーが大きいので顔に柄尻が来るんだよね……。

 身長もう少し欲しかったなぁ。最近伸びる気配が無いんだよなぁ……。

 

「そろそろ、ですね」

「ああ、大丈夫そうか?」

「勿論です。おんおんから魔力を供給して貰ったので正直オーバーロード気味なくらいですからね」

「それは頼もしいな。……デストロイヤーと言う名前は正しくって感じだな。塔に登ってなければ首を痛めてたかもしれん」

「あはは、そうかもですね。私の華麗なる爆裂魔法によって見下ろす姿に変えてやりますとも!」

 

 胸を張って吼えるめぐみんに頷きを返し、ストームルーラーを下段に構え、上段に移行できるように準備をしておく。

 反対側の塔に立つアクアさんが花弁を模した杖をデストロイヤーに向けて構え、作戦実行まで秒読みと言った様子で緊張感が漂い始めた。

 カズマくんが此方を、特にめぐみんを心配そうに見遣ったが、気概を見せている様子に安心したのか息を吐いていた。

 魔導の資質の高い紅魔族、しかも爆裂魔法にのみポイントを注いだ挙句に魔力の過充填済み。このアクセルにおいて追随を許さない威力を発揮するメイン砲台たるめぐみんがビビってたら様にならないもんな。

 私と視線が合い、頷いたのを機にカズマくんが赤の手旗を真上に上げた。さぁ、作戦実行だ。

 デストロイヤーをデストロイする時間だ、理不尽を打倒して平和な日常を取り戻してやる……!


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