この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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ここすきや感想を送ってくれて本当に助かってます。
仕事中にニヤニヤしながら見てます、ありがとう!

追記
電子書籍版ではセイクリッド・スペルブレイクです。誤字ではありません。


25話

 ……嘘だ、こんな、結末があって良い訳が無い。

 白い霧が晴れたその場所には何も無かった。デストロイヤーの残骸も、確かにあそこに居たおんおんさんの姿も無い。

 やけに熱い風がからからに枯れた喉を焼くように、ひゅうひゅうとか細い吐息が時折引き付いた。

 無かった、何も。確かにデストロイヤーの進む先は何もかもが、いや、アクシズ教徒は残るらしい、あっ、おんおんさんはアクシズ教の特別外部顧問だった、筈だ、何で、何で居ないんだ。

 ぜひゅぜひゅと気持ちの悪い音が聞こえる。それは俺の口から発せられていて、段々と気持ち悪さに吐き気が込み上がってくる。

 目の前の光景を知覚したくない。

 草原だった筈のそこは、熱波の余波で荒野の荒れ地の如く酷い有様だ。

 ただ、ただ一人で白い霧の内側に居たおんおんさんも恐らくきっとーー。

 

「おぇっ、げぼ、お゛ぇぇ……!」

 

 爆炎に巻き込まれたその最期をフラッシュバックしてその場で吐き出した。

 此方を振り返らずにその小さくも大きく見えた背中が灰の様に焦げ散る様を、Windowsのエラーのように脳裏に何度も、何度も張り出されるように思い出してしまう。

 内側から朝に食べたものを全て吐き出したのに楽にならない。

 嫌だ、こんな、こんな最期あってたまるか。

 おんおんさんは俺たちを護るために死んだんだ。

 めぐみんの慟哭が聞こえる。ああ、そうだよな。

 一番仲が良かったもんな。そりゃ、泣くさ。

 何も無い場所に縋り付くように、指が傷付く事も厭わずに地面を掘り返そうと必死になるめぐみんの姿があった。

 

「嘘です、おんおんは死んだりしてません。きっと穴を掘って逃げたんです。だから大丈夫なんです。死んでません。死んでなんかいません。探さなきゃ。今頃大変な思いをしている筈です。探さなきゃ。何処ですか。おんおん。まだ、私、好きだって伝えてないんです。ねぇ、おんおん。おんおん。何処。此処。違う。死んで無い。其処。違う。違う違う違う……っ! 死んでなんか、無いんです。おんおんはいつだって私の傍に居てくれるんです。そう、これからもずっと。ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっと、一緒なんですから」

 

 正気に返ったゆんゆんが止めても、それを振り払うようにめぐみんは発狂し続けた。

 あんなに普段は騒がしいアクアもだんまりを決めていて、現実を受け入れられないのか首を捻って何かを考えているようだった。

 そういえば、ダクネスはどうした。最近おんおんさんと物理的に近かった彼女はどうなった。

 今の俺は正気じゃない。誰かの姿を見て、反応を見て、冷静になろうとパズルのピースを探していた。

 吐瀉物塗れの地面から離れるように力無く立ち上がる。

 振り返ってみれば、そこには珍妙な反応をするダクネスが居た。

 悲しんでいる訳でもなく、苦しんでいる訳でもなく、そういう事かーと何かに納得している様子だった。

 剣を握っていない左手は首筋に向かっていて、何かを撫でるような動作を繰り返していた。

 

「ダクネス?」

「ん、あぁ、気分は大丈夫かカズマ」

 

  だなんて暢気な言葉を吐いたダクネスを信じられないモノを見た心地で見やる。

 ダクネスは剣を鞘に仕舞い込み、めぐみんの方を見て深い溜息を吐いた。

 

「まったく……、おんおんめ。ちゃんと伝えてなかったのか。嬉しさと申し訳なさが混在した気分だ、はぁ……」

 

  あっ、ちげぇわ。目の前の現実を受け入れてないだけだわ、これ。

 明らかにダクネスは錯乱しているようだった。

 おんおんさんが死んだ事を頭から追い出して空想のおんおんさんを見ているようだ。

 ほんと、どうしてこうなっちまったんだろうな。

 俺は何を間違えたんだ。

 もしかしたら、あの時赤旗を上げたタイミングが悪かったのだろうか。

 俺は問題点を探すために、先程までの事を思い返した。

 

 

 

○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×

 

 

 

 目の前に迫る八脚の巨大機械蜘蛛、機動要塞デストロイヤーを睨み付けてタイミングを図る。

 おんおんさんを見遣れば此方に頷くように視線を合わせてくれた。

 当初は拡声器による指示の予定だったが、デストロイヤーが進路を変える可能性を考えて赤旗による原始的な信号を取る事になった。

 白旗を振るのは縁起が悪く、此方の秘密兵器爆裂娘にあやかって赤旗を振るう事になったんだっけな。

 作戦の予定距離に差し掛かったのを見て、俺は赤旗を高らかに上げた。

 やべっ、少し速かったか? 遅かったかもしれない。

 そんな俺の内心の焦りを置いて、状況が進み出す。

 

「来たわね、デストロイヤー! 喰らいなさいっ、これぞ必殺の『セイクリッド・スペルブレイク』ッ!!」

 

 いや、それ殺傷能力皆無だろうが。

 そんな阿呆な様子とは打って変わって、花弁を模したお気に入りらしい杖から神々しい純白混じりの蒼色の光線が発射された。

 虚空を貫き、デストロイヤーの近くで何かにぶつかった光線。あれが噂の魔法を防ぐ結界か!

 だが、アクアも黙って弾かれるのを良しとはしなかった。

 

「んぁぁぁああぁああああ!! んにゃあァァァアアア!!」

 

 女神パワー全開!! とでも言っておけば様になったであろう気の抜ける気合いの叫び声により、力を込めたその一撃がデストロイヤーの結界を砕いた音を誰もが聞いた。

 第一フェーズの成功に全員の士気が上がる。

 無敵と称された古代の結界が砕かれた事で零に等しかった成功確率が上がったからだ。

 続く第二フェーズ。アクセル正門の左右の塔に立つ二人が杖を掲げ、デストロイヤーへと先端を向けた。

 瞬間、二つの巨大な魔法陣が空中に浮かび、実は大魔道士なウィズのそれと同等なめぐみんの爆裂魔法の準備が完了する。

 いつの間に実力を上げたんだ、と思ったが魔法陣がチカチカと点滅して自己主張を始めた事でおんおんさんによる魔力供給によって強化されたものだと理解した。

 あれは暴走し掛けているのを押し留めているから起きる現象らしく、前に合体技と称して練習もといイチャついていたので覚えている。

 おんおんさんは受け渡す事に限定するが魔力の譲渡ができるらしく、親しい間柄であればほぼ百パーセント渡せるとの事だった。

 電力で言う電圧みたいな概念が魔力にもあるらしく、親しい事で魔力の波長を知っているからこそ無駄なく譲渡できているらしい。

 試しに俺に渡して貰った時は三割くらいしか上手く渡らなかった事もあり、仲間内、と言うよりもおんおんさんの身内限定な技術っぽいな。

 

「行きます! 『エクスプロージョン』!」

「これが私の全力全開です! 『エクスプロージョン』ッ!!」

 

 ウィズとめぐみんの気合いの入った詠唱により、紅い魔法陣に導かれるように杖の先へと魔力が収束していく。

 めぐみんに囁くようにしておんおんさんが何かしら助言すると、普段足元に展開されていた魔法陣が杖先に重なるようにして再展開され、魔力の密度が遥かに増した。

 

「す、凄いですね。この土壇場で収束魔法式に転換するだなんて……!」

「ウィズ、今なんて?」

「後で詳しく説明しますが、魔法には拡散型とか収束型とか魔法の型があるんです。資質が無いと出来ない魔法技術でして、めぐみんさんはそれを才能と感覚で成功させたんですよ! あの収束された爆裂魔法は私の魔力任せのこれと同等の威力がありますよ!」

「お、おぅ」

 

  何それ、そんなんあったのか。と言うか、収束して同等ってどんだけ魔力あるんだよウィズ……。

 言いたい事は言ったという感じでウィズが爆裂魔法を解き放つと右側面の脚を軒並み粉砕して吹っ飛ばした。

 一秒程度の遅れでめぐみんの爆裂魔法が解き放たれ、アクセルの紅い悪魔だなんて呼び名がされそうな一筋の砲撃が虚空を切り裂いて左側面の脚を焼却した。

 それ本当に爆裂魔法か? スカーレットブレイカーとか名前付いてないか?

 撃った本人はポカンと口を開いて嬉しそうな、けれども物足りなさそうな表情を浮かべていた。

 まぁ、爆裂って感じじゃなかったしな。

 そう苦笑していたら、真打登場と言わんばかりにおんおんさんの威圧感が肌で感じられるくらいに高まっているのに気付いた。

 

「戦技解放――ストォームルーラーァァッ!!」

 

 真剣な表情で巨大な折れた大剣を上段に構え、最前線に居るダクネスへと地面を削りながら滑り近付くデストロイヤーを睨み付けて振り下ろした。

 瞬間、音が途絶えたかの様に空気が破裂し、嵐を纏った斬撃がデストロイヤーへと叩き付けられた。

 風の悲鳴のような音が聞こえたかと思えば、デストロイヤーの頭部に当たる壁が粉砕され、転がって来ていた方向とは真逆に吹き飛んでいた。

 その壮絶な一撃に皆ポカンと口を開いておんおんさんの成した光景に見惚れていた。

 正しくアクセルが誇る英雄、残心を解いたその姿を誰もが目に焼き付けた。

 

「第三フェーズ! 総員、デストロイヤーを破壊しろ!!」

「「「「「うぉおおぉおおぉお!!」」」」」

 

 ギルド職員が持ってきた魔導拡声器を受け取ったおんおんさんの気合いの入った指示に、前線に居た冒険者たちの雄叫びと言う返しが草原に響く。

 最前線に彼らの盾として待機していたダクネスが肩を竦めているように見えたが、ゆんゆんを伴ってデストロイヤーへの一番槍になるべく走り出していた。

 ……ダクネス、お前止まった敵にも当てられない運動音痴だろうに。

 まぁゆんゆんの護衛みたいなものと思えば良いか。

 

「さぁ、カズマ! 私たちもデストロイヤーに乗り込むわよ!」

「あぁ、そうだな。一時はどうなるかと思ったが上手くいって良かったぜ、本当に」

「当たり前じゃない、私と言う勝利の女神が居るんだから!」

「……はいはい、そう言うのは自分で言わない方が良い奴だからな……。まぁ、あながち間違ってはないか。アクアが結界を壊さなきゃ俺たち挽肉だっただろうし」

「ふふん、カズマも私の価値に漸く気付いたようね」

「……まぁ、なんだかんだで頼りにしてるよ、お前を連れて来て正解だったわ」

「……ふぇ?」

 

 素っ頓狂な声色で驚きを露わにしていたアクアは、なんか一丁前に照れて顔を赤らめていた。

 何気に普段は感謝を伝えてなかったから丁度良い機会だったんだと思う。

 小っ恥ずかしい気分になり、視線を外す。

 恥っず……っ!!

 正直に言えばアクアが隣に居てくれて、賑やかしてくれていたから転生の一人寂しさなどを誤魔化せていたんだと思うんだよな。

 皮肉な事にミツルギの一件が今の俺を意識させていた。

 あいつにアクアを諦めさせようと幾つかの悪い所を羅列したものの、まぁそれぐらいだしなぁと擁護しようとする自分が居た訳で。

 なんだかんだでこのバ可愛いポンコツ駄女神を嫌いになれないんだよなぁ。

 

「「………………」」

 

 照れ臭さから頬をかいた時に、ニコニコしながら微笑ましいものを見る瞳で俺たちを見ていたウィズと目線が合ってしまった。

 恥っず、そうじゃんアクアと二人じゃねーわ。

 つい普段のノリで会話しちまってたが、今デストロイヤーと戦ってたわ。

 色々と現状を思い出した俺はデストロイヤーに向けて親指を立ててジェスチャーした。

 それを見たアクアがハッとした様子で杖を掴み直し、力強く頷いた。

 先程の雰囲気を霧散させるべく、アイコンタクトで俺とアクアは塔を降り始めた。

 下に辿り着くと、若干疲れた様子で角の生えた格好良い馬に乗ろうとしていたおんおんさんとめぐみんと合流できた。

 

「おや、束の間の逢瀬はもう良いのかい?」

「ごふっ、み、見てたんすか?」

「二人して顔を赤らめていたから何かしらあったんだろうなとカマを掛けただけだよ。仲良しは良き事かなってね。まぁ、取り敢えず先に行ってるから、ごゆっくり」

「あ、あの!? 何か誤解されてません?」

 

 トレントとか言った馬に乗ったおんおんさんに詰め寄ると、ふふっと笑みを浮かべて俺とアクアを見遣って言った。

 

「そうか? 普段の様子からして君らの性格的な相性は良いものだと思っていたんだが。普通、一ヶ月も馬小屋で同棲できる男女は兄妹を除いて居ないだろうよ。ふとした事から破綻して喧嘩別れでもする筈さ。お互いに何かしら好意を抱いてない限りはね」

 

 だなんて特大の爆弾発言をしておんおんさんはくったりするめぐみんを連れてデストロイヤーに向かってしまった。

 あの、この空気どうしたら良いですかね。

 隣で顔を真っ赤に染めて両手で覆い隠したアクアが居るんですが。

 ついでに俺も顔を隠して良いだろうか、顔があっついんだけど……。

 暫く二人してとぼとぼとデストロイヤーの残骸まで無言で歩いて行った。

 くそぅ、何で俺はアクアにこんなに意識してんだ。と言うかこいつもこいつだ。

 何で普段の煽りマウントじゃなくて可愛い乙女してんだよ、調子狂うわ……!

 デストロイヤーだったものに近付くと背中に張り付いていたらしいゴーレムと戦っている冒険者たちの姿があった。

 

「だらっしゃぁ!! お? カズマじゃねぇか、おんおんさんたちはもう中に行ったぜ、お前も早く行きな!」

「お、おぅ。良いのか? 美味しいとこ取りじゃねぇの?」

「はぁ? 何言ってやがるんだ、お前のパーティが居なけりゃ俺たち全員デストロイヤーにデストロイされてただろうが。俺たちはこうしてお溢れを拾うから良いんだよ。今回はそう言う役回りなのさ」

 

 そうゴーレムの頭を蹴っ飛ばしたテイラーがニヒルに笑った。

 ……まぁ、こいつらがアクセルに残ってる理由が理由だしな。棚ぼたみたいなもんか。

 テイラーの言葉に気を使う気が無くなったので、未だに無言なアクアを連れて亀裂の入った壁から中へと侵入する。

 うっわ、結構奥まで切り裂いてんだな。一番奥の方に眩い光が見え、誰かが居るのが見えたので其方に向かう。

 ……途中で足元を見ていなかったアクアが躓いたのでフォローしつつ、俺たちは神妙な顔持ちのおんおんさんたちと合流できたのだった。

 

「何かあったんですか?」

「ん、カズマくんか。まぁ、なんだ。これを読めば分かるさ、今の私の気持ちが」

 

 おんおんさんが何処か疲れた様子でぼろぼろな本を手渡して来たのでそれを受け取り、アクアと一緒に中を読み進めて……心情を察した。

 玉座のような所に座り込む白骨死体を見遣り、こいつのせいでこんな糞面倒な事に巻き込まれたのかと呆れと怒りを覚えた。

 今のデストロイヤーは機関部が暴走しており、排熱が効かずに熱を貯め込んでいるらしい。

 そんな旨のアナウンスがデストロイヤー周辺に響き渡っており、ゴーレムをしばいていた冒険者たちもぞろぞろと逃げ出している最中のようだった。

 まぁ、此処にはおんおんさんが居るからな。誰もが皆なんとかしてくれるだろうと言う精神なのだろう。

 難しい表情をしているおんおんさんが原因であるコロナタイトが収まった機関部を見つめている。

 

「ううむ、どうしたものかな。流石に壊して取り出すのは無理だろうし、手段がなぁ……」

「やっぱり壊すとまずいですかね」

「……私だけなら問題無いが、皆が危ないからな」

「あ、それならこう言うのはどうですか? 『スティール』」

 

 俺は何となく思いついた案を実際にやってみる。この近距離なら移動させられる筈――瞬間、俺の差し伸ばした腕をおんおんさんが蹴っ飛ばした。

 一体何を、そうひりつく右腕を摩りながらおんおんさんを見やる前に足元から凄まじい熱気に襲われその場を離れる。

 

「……はぁ。熱暴走を引き起こしているぐらい高熱を放っているんだぞ。そのまま触れてたら手がこんがりを通り過ぎて焦げていただろうよ」

「あ、ありがとうございます……」

「発想自体は良かったから次は一度言葉にしてくれ」

「……はい、すみません」

 

 肩を竦めたおんおんさんがコロナタイトへ手を翳すとあれ程までに熱気を放っていた原因が何処かへと消え失せていた。

 テレポート? いや、そう言う素振りはしてなかったな。

 

「危ないが有用性は高いから私が預かっておくよ。インベントリに仕舞い込めば何の問題は無いしな」

「おぉ、いつも言ってるソウルに仕舞い込む、でしたか。便利ですよね、それ。私も使えたりしませんか?」

「いやぁ、無理じゃないか? 似たような事は出来るかもしれないが、空間魔法的な奴の応用でなら?」

「あ、じゃあ要らないです。おんおんが居れば問題無いですしね!」

 

 流石めぐみん、爆裂魔法にしか興味無いからそれ以外の魔法は取る気が無いらしい。

 さて、これにて一件落着か、そう安堵の息を吐いた時だった。

 近くにあったパイプが破裂して高温の蒸気を吐き出し始めたのは。

 甲高い音を立ててどんどんと連鎖していくように破裂箇所が増えていくのを俺たちは青褪めた表情で眺めていた。

 いち早く正気に返ったおんおんさんの脱出の一言で俺たちは一目散に亀裂から外へと飛び出したのだった。

 

「うわぁ、あのまま居たら火傷じゃすまない感じになってましたね」

「この前食べた蟹さんみたいになっちゃうところだったね」

「いや、それより酷いでしょう。と言うか本当に蟹みたいに赤くなってるんですけど!?」

 

 めぐみんの悲鳴に残っていた冒険者たちの表情が段々と悪くなっていき、一人逃げ出したのを機に雪崩れるように撤収を始めた。

 赤熱化し、辺り一面に蒸気を吹き出し始めたデストロイヤーをおんおんさんは一人、前に出て見つめていた。

 

「こ、このままあれをそのままにして良いんですか?!」

「いや、爆裂より酷い事になるだろ確実に……!!」

「そ、そうだ! なら爆裂魔法で相殺すれば!」

「……相殺のタイミングが分からないだろう。早ければ乗算的に被害が増えて、遅ければ諸共ドカンだ」

「だったらどうすりゃいいんだ! そうだアクア! 女神式封印術で何とかしてくれ!」

「漫画やゲームのし過ぎよカズマ! そんな便利なの持ってないわよ!」

「……封印、か。それ自体はできないが……似たような事はやれなくはないな」

 

 おんおんさんの言葉に全員の視線が集まる。流石おんおんさんだ! 略してさすおん!

 一歩二歩とおんおんさんが前に出てデストロイヤーに近付いていく。

 その小さな背中が大きく見えるのはいつもの事だが、何故だろう、沸々と嫌な予感がしてくるのは。

 後ろ姿で顔の見えないおんおんさんが離れていくに連れて、その姿が遠くに行ってしまう感覚が沸き上がって来る。

 それはめぐみんも同じだったようで震える手をそっと伸ばしていた。

 

「まぁ、この辺りで良いだろう。これなら――巻き込まない」

 

 そうおんおんさんが独り言を呟くようにして自嘲気味に言った。

 嫌な予感が警鐘を鳴らすように最大になり、思わず掛け出そうとした矢先の事だった。

 俺たちとおんおんさんを塞ぐように白い霧がぼんやりと立ち上がり、デストロイヤーの残骸を中心に円状に展開されたそれはまるで結界のようだった。

 

「あぁ、げほっ、チッ、やっぱり無理があったか。こう言う無理矢理の展開は身を削るのか、折角貯めたソウルが大半吹っ飛んだな……」

 

 びちゃりと液体が地面に零れた音が聞こえ、何処か喋り辛そうにするおんおんさん。

 その姿は白い霧の結界に遮られ全貌が見えない。……遮られる?

 おんおんさんの立ち位置を見て、俺は、いや、俺たち全員が気付いて目を見開いた。

 めぐみんが結界の内側に居るおんおんさんを連れ出そうと白い霧の結界に近付くが、物理的な移動を封じているのか触れられても入る事ができなかった。

 白い霧にその小さな拳を必死に叩き付けるめぐみんを止めようとゆんゆんが近付く。

 

「そんな! 冗談でしょうおんおん! なんでそっちに居るんですか! 出ないと巻き込まれてしまいますよ!!」

「……すまないな、めぐみん、この結界は私とその同類、敵しか入れない必殺空間でね。敵が死ぬまで張り続けられる代物なんだ。まぁ、今はちゃんとした発動じゃなくて、無理矢理使っていると言うのが正解なんだけどな。ごほっ」

「おんおん!? まさか、そのまま死ぬつもりなんですか!? 私たちを守るためにこの結界を張って!?」

 

 めぐみんの叫びに俺たちはもうどうにもならない事を理解してしまった。

 おんおんさんは街と俺たちへの被害を出さないためにその身を以ってデストロイヤーの爆発を封じ込めるつもりのようだ。

 近付こうにも白い霧の結界で入れず、おんおんさんの意思が無い限り外に出る事もできないのだろう。

 俺は、何もできなかった。おんおんさんを救うための術を何も持ち合わせていなかった。

 そして、俺たちの嘆きを嘲笑うようにデストロイヤーは甲高い音を立てて――。

 

「まぁ、先に――」

 

 何かを伝えようとしたおんおんさんだったが、それよりも先にデストロイヤーから発せられた赤い光に巻き込まれ、白い霧の結界の中が何も見えなくなった。

 それを間近で見ていただろうめぐみんの心情を俺は嫌でも察する事ができた。

 回避不能な絶望を俺たちは味わわせられたのだから。

 

 

 

 ○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×○×

 

 

 

 その惨劇を思い返していた俺だったが何が悪かったのか何も分からなかった。

 今や茫然自失で死んだ目でおんおんさんの名前を呟いているめぐみんを何故か元気なダクネスが担ぎ上げ、屋敷へと向かうその背を俺たちは無気力に追う事しかできなかった。

 

「……ねぇ、ダクネス。一ついいかしら?」

「なんだアクア。答えられる事なら答えよう」

「もしかしておんおんちゃんの特典の内容を知ってるの?」

「ふむ、詳しくは聞いていないが概ね、と言ったところか」

「だから、そんなに明るいのかしら」

「まぁ、そうなるな。別に私は正気を失っている訳ではないぞ。むしろ、仲の良いめぐみんに伝えてない方が驚きだったんだ。まぁ、屋敷に戻れば分かるだろう。私の言葉よりもその方が分かりやすいだろうしな」

 

 そうだ、俺はまだおんおんさんの転生特典を教えて貰ってなかった。

 少しだけ希望が見えて来た。下を向いていた視線が上がって、虚空を見ているめぐみんの虚無の瞳を見てしまって少しSAN値が削れたが。

 広場の方へと俺たちは足を進めていく、屋敷まではもう少しだ。

 戦勝ムードな街中の雰囲気とは打って変わった俺たちの様子に、誰もが困惑して声を落としていく。

 何せ、アクセルの英雄であるおんおんさんが居ないのだ。そのパーティメンバーである俺たちが暗い雰囲気をしている事もあって何かしらの事があったのだと理解してしまったのだろう。

 そして、何よりもめぐみんのやばい雰囲気に誰もが困惑を露わにしていた。

 まぁ、アクセル随一の爆裂娘が自暴自棄の茫然自失で瞳孔が開いた瞳で何かを呟いている姿は一種のホラーだろう。

 街の外れへと歩いて行き、俺たちはおんおんさんの屋敷へと辿り着いた。

 勝手知ったる我が家のように正門を抜けて、玄関へと手を掛けて――。

 

「おぉ、おかえり。すまないな、先に戻ってたぞ」

 

 開いたエントランスに元気な様子のおんおんさんが立っていた。

 足を見てちゃんとあるのを確認した俺は目の前の人物が生きている事を認識できて――涙を零した。

 十人十色な俺たちの様子にきょとんと困惑した表情を浮かべたおんおんさんは小首を傾げていた。

 そして、合点がいったと言わんばかりに手を打ち鳴らして暢気に言った。

 

「あぁ、そう言えば私が不死だって伝えてなかったな。それはすまない事をした。私は例え死んでも生き返るからこれからは心配しなくて大丈夫だからな」

「と゛う゛い゛う゛こ゛と゛て゛す゛か゛ッ!?」

「うごぁっ!? め、めぐみん? 急にタックルだなんて危ないだろう」

「う゛ぁ゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛ん゛!! い゛き゛て゛て゛よ゛か゛っ゛た゛て゛す゛!!」

「お、おぅ。前に言っただろう、それはきっとどうしようもない程に残酷で、目を逸らしたくなるような出来事がきっかけで分かるだろう、って。あぁ、うん。私が悪かった。ちょっと悪戯が過ぎたな、うん、ごめんよ、よしよし、気が済むまで泣いていいからな、よーしよし」

 

 おんおんさんを視界に入れた事で再起動しためぐみんがホーミング生肉よろしくおんおんさんにぶつかるように抱き着いていた。

 めぐみんの言動に驚愕して固まっていた俺はおんおんさんの言葉を噛み締めるように脳裏で反復していた。

 ふ、不死? 死なないって言った? 誰が? おんおんさんが? 死んでも生き返るって?

 安堵と緊張の糸が切れた事で俺は思わず膝を落としてから座り込んでいた。

 嬉しいのだが、目の前の現実がファンタジー過ぎて全く以って呑み込めなかった。

 まるで粉っぽい薬剤を唾液で飲んでいるかのような気分だった。全然飲み込めねぇ。

 と言うかこれを知っていたからダクネスは余裕かましてたのか。

 

「まぁ、そう言う事だ。それを踏まえて関係を築いているからな」

 

 俺の視線から内容を察したのかダクネスはそんな風に宣って豊満な胸を張った。

 くっ、俺の知らないおんおんさんを知っているからって良い気になるなよダクネスぅ!!

 何処かのミツルギもこんな気分だったのだろうか、次あったらもう少しだけ優しくしてやるか。

 そんな事を考えながら俺は酷く疲れた身体から力を抜いて大きく溜息を吐いた。

 ……まぁ、おんおんさんが生きていてくれて本当に良かった。本当に……良かった。

 号泣めぐみんに縋りつかれているおんおんさんの困った様子を見て俺は安堵の息を吐いたのだった。

 




ウィズの持っている黄金の鉄の塊でできたマナタイト製の杖は、何処ぞのボクッ娘雑貨屋店主の作品です。
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