この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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誤字修正ありがとうございます、ここすき&感想もありがとう。
ほんと助かる、モチベが上がるし、何よりも嬉しいから。


26話

 ……ううむ、最初の一乙くらいは劇的にしておこうだなんて考えていたのが仇となったか。

 ギャン泣きするめぐみんを胸に抱えて頭を撫でて宥めて、お通夜ムードだったカズマくんたちの様子からしてやり過ぎた事を悟った私は少しだけ反省していた。

 いやまぁ、普通に考えれば目の前で知り合いが焼却されたとかショッキング映像不可避だよな。

 今は場所を移し、リビングの方で各々がくつろぐ形で安息を取っている。

 そう記念すべき第一回不死人危機一髪(即死部門)のお披露目が誠に残念な結果になってしまった事もあって色々な説明をする場を設ける形で反省を促されているのだった。

 暖炉の前に集まる各々に飲み物が行き渡ったので、熱い視線も受けている事もあって語り始めるべきなんだろうなぁ。

 

「あー……、その、なんだ。私はかつて過労死した身体で転生したくなかったから、担当に無理を言って現地人として産まれ直す事を願った所謂勇者候補なんだ。勇者候補は一つだけ転生する際に特典を貰えるのだが、私はこれ、右瞳に浮かぶ黒い輪を貰った。名称はダークリング。不死人と呼ばれる死んでも篝火から生き返る事の出来る存在になると言うものだな。不死人にも色々種類はあるが、まぁ、私の場合はデメリットが一番少ない不死人のタイプと言っておこうか」

 

 ダクソ3の仕様なので暗い穴と呼ばれる特殊アイテムが無ければ私は亡者化する事は無い。

 ただ、従来通り死んだ場所にソウルを落とす事もあってソウル渇望症を引き起こす可能性が非常に高い事が今回の件で分かった。

 屋敷に戻ってから一部のソウルを除いて只管に砕き続ける作業を行なって漸く正気に返れたからな。

 最低でもソウルは三千は無いと飢えを感じるらしく、アンナを見かけて美味しそうだと思ってしまったくらいには正気度と言うか人間性が削られるようだった。

 今回はデストロイヤーからはソウルを得られなかった事もあり、相打ちとはならずソウルを全て落とした状態で屋敷に帰る羽目になったのが要因だろうな。

 ……まぁ、そもそも残り火が無いからデフォで灰状態なんだよなぁ私。

 

「で、だ。この屋敷の中庭に差してある螺旋状の剣が燃えているのがあるんだが、あそこが私の復活ポイントになっている。あれを篝火と私は呼んでいるよ。私は篝火を通じて復活し、また行き来もできる。時折アルカンレティアに出張している時はこれでこっそり行って戻って来てたりしてたぞ」

 

 これも今の内にばらしておくべきだろうな。逆説的にこの篝火さえあれば私は復活できる、と言っているようなものなのだから。

 頭の良いめぐみんは私の太ももに頭を乗せてごろにゃんしていながらも理解を示し、少しだけ瞳を赤くした事から何かしらの興奮を抱いたらしい。

 まぁ篝火移動は不死人の特権のようなものなので皆で移動するためにいつかテレポートは取得するけどな。

 ……ぶっちゃけ語る事なんて少ないんだよな、単に私は死んでも死なない特殊な呪術魔法を扱えるだけの紅魔族の小娘でしかないのだから。

 

「……んで」

「ん?」

「なんで、ダクネスは知ってたんですか?」

「そ、それはだな……」

 

 あぁ、うん。そういや明かして無かったな。

 んー、どうしよう。この世界の常識的に同性の恋人はマイノリティなんだよなぁ。

 伝えるべきか? でもなぁ、嫌われたくないしなぁ。

 気持ち悪いです、だなんて言われたら心が抉られるぞ私は。

 踏ん切りの付かない私は眼下のめぐみんからの視線から逸らすように虚空に向ける。

 あぁ、だがあの時のめぐみんの様子からして伝えたい内容がもしかしたら、だなんて事を考えるチキンな私の心情を察してか、意を決した様子でダクネスさんが口を開いた。

 

「それは、私とおんおんが恋仲だからだ」

「……ダクネス」

「私からおんおんに想いを伝え、それを受け入れて貰った。その時におんおんが教えてくれたんだ。私は、いつかおんおんを置いて先に死ぬだろう。けれど、それでも私はおんおんの事を想っている。愛している」

 

 やだ、このダクネスさんイケメン……。

 思わずトゥンクする程に気持ちを吐露するダクネスさんは格好良かった。

 私の太腿に縋り付いていためぐみんが起き上がり、ダクネスさんを睨むようにして見つめた後、私の顔に触れて唇を押し付けた。

 顔を斜めにせず真正面からキスしたせいで鼻先が当たる。私はそれを他人事のように知覚する事が出来なかった。

 いや、驚き過ぎて思考が追いつかないだけだった。

 唇に瑞々しい感触と端正で可愛い顔が眼前にあって、不意を突かれた私はされるがままだった。

 息を呑む音を聞いた事で正気に返るが、振り払う事は出来なかった。

 私とめぐみんの唇から銀糸が伸びて顔が離れた。

 

「おんおんを愛する気持ちは私も負けません! 七歳の頃から片想いしてたんです、ポッと出のダクネスに負けるもんですか!」

「……へ? 七歳って初めて出会った頃か?」

「そうです。一目惚れだったんです。爆裂魔法とおんおん、何方かを選べと言われれば、爆裂魔法を捨てるくらいに私はおんおんが好きなんです! 幼馴染の関係が壊れてしまうのが怖くて言い出せなかったのですが、この際です、この気持ちをちゃんと伝えます! 好きです、大好きです! 愛してますおんおん!」

 

 だなんて熱い告白をされてしまった。

 ……ゆ、夢じゃないよな? 死んでからまだ復活してなくて都合の良い夢を見ている訳じゃないよな?

 こっそりと爪を立てて指を押せば確かに痛みが返ってきた。つまり、これは夢ではなく、現実で……!?

 

「そうか。確かに横恋慕の様なものだったな。だが、私もおんおんを諦める事はしたくない」

「……良いでしょう。私とておんおんとダクネスの近さを見て理解はしています」

「それは有難いな。正直おんおんの無い生活が考えられないんだ」

「奇遇ですね、私もです」

 

 ……あれ? なんか私を挟んで意気投合しているが、私の意志は? 

 確かにめぐみんの告白は嬉しいし、断る気は無かったけれども、あれ?

 左右からがっしりと腕を掴まれ、左からはダクネスさんのたわわな弾力が、右からはめぐみんの発展途上な素晴らしい柔らかさが押し付けられた。

 まるで大きなぬいぐるみを左右から抱きしめたような構図で私は二人に拘束されてしまった。

 

「あ、あの? ……まぁ、いっか。拗れるよりかはマシか……」

「んふふー、これからはずっと一緒ですよおんおん。お風呂とか寝る時も一緒ですから」

「む、それは魅力的だな。我らが夫を癒やして差し上げなければな」

 

 ぎゅむむにと両腕から伝わる感触が大変宜しい。三人揃って姦しいとはこの事だろうか。

 ……うん、現実逃避は止めよう。

 めぐみんの瞳がやばい。私と違って紅ベースである筈なのにハイライトが仕事をしていないからか黒く濁っているように見える。

 恐らく目の前で私が死んだ事で何かしらの精神的な傷を負ったに違い無かった。

 親愛な人物の死を目撃した事でSANチェック、失敗からの一時的な発狂……あたりだといいなぁ。

 絶対に離すものかと言わんばかりに右腕が抱き締められているからな。このままだと鬱血する勢いだ。

 まぁ、腕が千切れようが痛いだけなので問題は無いが、純粋に締め付け強くて痛いんだけども……。

 ……はぁ、精神的に疲れたからか喉が渇いたな。ダクネスさんに視線をやって、珈琲の入ったカップを渡して……って何で飲ませようとするんだ手渡せ。

 左腕を離す気は無いらしい。諦めてカップに口を付ける。ぐいっと飲み干して一息吐く。

 ……ん?

 

「おんおん? どうかしたのか?」

「あぁ、いや。……問題無いさ」

 

  渇きが続く。砂漠に水を溢したような、止め処無く求める欲求が鎌首をもたげる。

 ……そうか、砕いたソウルで得た三千は死ぬ前の許容値。今の私が必要なソウルには足りてなかったのか。

 利き腕の右腕を持ち上げようとしてめぐみんに妨害され、左腕も同じくダクネスさんに封じられている。

 危ない、舌打ちが出掛かった。渇きを癒せぬ身体が、いや、精神が邪魔する者を振り払おうと動き掛けた。

 これは……まずいな。ソウル渇望症は魂の飢えだ。空腹を満たそうと意識が移るように、今の私はソウルの飢えを満たそうと考え始めてしまう。

 今、私の視界には御馳走が並んでいるかのように見え始めている。

 この場で左右の、そして元女神の輝くソウルを喰らえばどれだけ腹が満たせるだろうかと思考が乱れていく。

 落ち着け、思い出せ、私はそこまで堕ちてはいない。まだ、人のソウルは喰らってないんだ。

 

「……ララ、一度手を離せ」

「わ、分かった」

 

 底冷えした低い声でダクネスさんに命令し、左腕を振り払う。

 そして、胸元に開いた掌にソウルから取り出した低級なソウルを乗せて咀嚼するかのように砕き始めた。

 私のしている事の真価が分かるのだろう、目の前で行われているソウル砕きにアクアさんの小さな悲鳴が聞こえた。

 今砕いているのはゴブリンなどのモンスターのソウルだ。私とて分かっているんだ。クエスト中に山中で出会した山賊や盗賊などのソウルを砕けばさっさと満たされる事を。

 けれど、それをするのは最終手段だ。

 人肉の味を覚えた野生動物のように、ヒトのソウルの味を覚えた私は確実に精神に変調を齎す事だろう。

 ゴブリンなどの脆弱なソウルを砕き終え、一撃熊などのモンスターのソウルに手を出していく。

 飢えが終わらない。渇きが止まらない。

 もっと、もっと喰わねばならない。取り出したソウルを砕き続け、漸く五千を越えたところで最低限のラインに達したのだろう。飢餓感が漸く失せた。

 

「ふぅー……、まずいな。またモンスターを乱獲しないと在庫切れになるな……」

「おんおん? だ、大丈夫か? 恐ろしい雰囲気で何かを砕き始めたから何事かと思ったぞ」

「……すまない。言うなれば不死の代償みたいなものだ。維持するために必要な燃料を焼べていたんだ。初めて死んだからな、その弊害を今知ったんだ」

 

 そう他人事のように淡々と説明した私は内心で安堵していた。

 今のが人間性の喪失の第一段階か。飢えたまま殺され続ければ理性を捨てる可能性は非常に高い。

 水や食糧を奪われ続けたら、殺してでも奪い取ろうと考えるのは当然だ。そう、手段を選ばず、鬼畜外道の謗りを受けようが、卑劣にして貪欲にソウルを奪おうとするだろう。

 ……いや、ほんと危なかったな。これは気軽に死ねないな。

 ソウルのストックをある程度抱えていないと、周りの誰かを殺しかねないなぁ。

 アンナに背を押されるまでもなく外に出る理由ができてしまった。

 

「だ、大丈夫なんですか?」

「……一応、な。屋敷に戻ってから幾らか砕いたんだが、死ぬ度に必要とするソウルの最低ラインが上がるのかもしれないな……。我ながら厄介なものを貰ったもんだ」

「えっと、側から見た女神的な視点での話なんだけどね。おんおんちゃんの身体が多分正常に動いてないんだと思うわ。あるべき状態に至ってないから身体が治そうと無理をしているように見えるわ」

「成程、そう言う絡繰りか……。分かりました、でも、今は無理ですね。そもそも、これを直すためのそれが手に入るかすら分からないので」

 

 残り火。それは英雄の残滓にして、私たち火の無い灰が持たぬ故に求め惹かれるものだ。

 強大な力を得てその魂を昇華させた英雄の持つソウルから溢れる人間性の火、その零れた火こそが残り火の正体だ。

 だが、この世界に英雄はきっと居ない。何せ、人間性が摩耗して擦切るような環境は存在していないし、文化的な営みもこの世界にはちゃんと存在している。

 自らを熱した鉄の如く打ち付ける修羅の道を越えてこそ、英雄はその真価を発揮するのだから。

 私が長く生きた先に英雄だなんて呼ばれる事があれば、いつか本来の姿になっているのかもしれないな。

 ……いや、その火が無い不死人じゃん私。火の無い灰だから他所から貰わねば薪状態になれない訳で。

 誰か英雄になってくれないだろうか、そして、願わくばその火をちょろっと頂けると……。

 

「……はぁ、無い物ねだりをしても意味が無いな。諦めよう。無理なものは無理だしな。出来る事を考えよう、そちらの方が建設的だ。精神的にも」

「そう言う所がおんおんの良い所だと思います」

「ただのリアリストなだけだけどな」

 

 溜息を吐き、ソファに背を任せる。

 何やらあたふたしているアクアさんと何処か納得した面持ちのカズマくん、そしてめぐみんの告白辺りから動きを止めたゆんゆんの様子に苦笑する。

 今後の方針としては『いのちだいじに』だな……。

 次死んだ時にどれだけ要求されるか分からないからソウルのストックは増やさないといけない。

 ……正直この世界のモンスターはソウルの質が悪いから数が無いとしんどい。

 ゲームと違って揺れ幅があり、ゴブリンだと三十から六十くらいで下に振れている方が多い。

 恐らく長生きして経験を蓄積したものや、ロクブリンのように進化した個体でない限りは期待できない。

 野生動物系は割と高い。一撃熊が大体五百前後なのでやはり自然環境でサバイバルしてる奴らは風格が違うのだろうな。

 生物的な強さがソウルに直結している可能性は非常に高い。ロクブリンやベルディアなどがこれに該当する。言うなれば小ボスや中ボスだな。

 実際にまだ砕いてはいないがネームド級としてソウルに記載されているあたり、相当なソウルが手に入るに違いない。

 ただまぁ、ベルディアの方は遺灰と鈴の事もあってもう少しだけ研究したいので大分後回しになる事だろう。

 そんな事を考えているとあっとゆんゆんがやや大きめな声を出し、全員の視線がそちらに向かった。

 

「えっと、その……おんおんが死んでないって事を伝えた方が良いかも」

「ん? 何でだ?」

「いや、その、私たち屋敷に帰るまで大分暗い表情をしていたし、めぐみんが現場で泣いてたのも見られてたと思うから。おんおんも前線に居る筈なのに屋敷に戻っちゃって居なかった訳だし」

「それも……そうだな?」

 

 よくよく考えてみれば私って敵前逃亡的な扱いをされる可能性があるのか?

 いや、流石にそれは無いか。トドメ刺した後だしな。となるとゆんゆんの言う通りに、私が何かしらの原因で死んだと思われている可能性はあるのかもしれない。

 そうなると時間が経てば経つ程私の立場が悪くなるな……。

 すわアンデッドか!? だなんて勘違いをされかねない。

 

「そしたら顔出しでもしてくるか。本人が居れば噂も立たないだろうしな」

「それが良いと思います。一応俺らも一緒に行って明るい顔してた方が良いかもですね」

「よし、では決まりだな。外に出るのだしまだ着替えもしなくて良いだろう。鎧姿のままの方が私たちだと分かりやすいだろうしな」

「そうだな。まぁ、爆発直前でテレポートで屋敷に戻った事にしておこうか。口裏合わせは任せたぞ」

 

 先程よりも良い顔になった五人にふざけ口調で言えば、ニッと笑った頼もしい笑顔が返ってきた。

 さて、立ち上がるかと腰を上げると、釣られるようにめぐみんが右腕に抱き付いて来た。

 左手の指を重ねてちゃっかり恋人繋ぎにしているあたり、これを口実に関係を見せつけたいのだろうな。

 出掛ける準備をし始めた面々から離れるように先に入り口へと向かい、めぐみんと二人きりになる。

 

「なぁ、めぐみん。私はめぐみんを実の子供の様に思って今日まで愛でてきた自負がある。それはきっと恋人になりたかっためぐみんにはもどかしい思いをさせた事だろう。……すまなかったな」

「……いえ、私もそう思ってました。我慢ばかりを強いるお母さんよりも、甘やかしてくれて、叱ってくれて、衣食住を見守ってくれたおんおんを母親の様に思ってました。でも、目の前でおんおんが死んだ時に違うって気付けたんです。私、口にしてたんです。好きだって言ってないって……。私は、おんおんの事を恋愛的な意味で好きです」

 

 先程の勢い任せな告白とは違う、少し冷静に戻って理性的な告白に私は……非常に迷った。

 何せ、私には既に想いを受け止めたダクネスさん……、いや、ララと言う恋人が居るのだから。

 それにめぐみんは、ガワだけが若い私と違い身体も心も十三歳の幼い少女だ。

 一時の感情に流されて恋心を錯覚している可能性は否めない。

 実際、私は吊り橋効果的な心の動きがあったのだろうと疑ってさえいる。

 ただ、まぁ、個人的な欲望に身を任せるのであればララも肯定的であった事だし、めぐみんも私の人生に組み込みたい所存ではある。

 私とて、好きでもない娘の世話を焼きたいとは思わないのだから。

 

「めぐみんの気持ちを知れて嬉しいよ。……騙しているような心地がしてきたから今白状するが、私はこの身体、紅魔族のおんおんになる前は男性だったんだ。産まれた時から私は男性の心を持ち合わせていた。めぐみんのお世話は役得でもあったんだ。……だからこそ、ケジメは付けておくよ」

 

 何処か怯えた表情を浮かべためぐみんと向き直り、本心を語るために瞳を合わせる。

 

「私にはララ、ダクネスさんと言う恋人が居る。けれど、めぐみんと恋人関係になる事を嬉しく思っている自分が居るんだ。優柔不断な事に私はララを諦めてめぐみんの手を取ると言う選択肢を取りたくない。……二人目の恋人として、ならめぐみんの気持ちを受け止める覚悟がある。……どうかな?」

 

 漫画やアニメのハーレム野郎が煮え切らない様子でのらりくらりと関係を続ける理由がよく分かる。

 今の関係を壊したくないが、それはそれとして好いた女の子の気持ちを射止めておきたい。

 そんな独りよがりな感情が内心で逆巻く。頬を打たれて怒られても仕方ない行為だと自分でも分かっていた。

 けれど、そんな内情を吹き飛ばすようにめぐみんは抱き締めていた右腕を解いて、真正面から胸元に顔を落とすように抱き締めてきた。

 

「……はい。私はダクネスを蹴落とすつもりは無いんです。多分、私だけではおんおんの愛を受け止め切れないでしょうし……。おんおん、隠し切れてると思ってるでしょうけど、時々視線がえっちぃです」

「え゛っ!?」

「お風呂上がりとか、着替えの時とか、私が前屈みになった時とか、その、おんおんの視線が熱くて、気付いちゃって……」

 

 めぐみんが耳元に近付いたかと思うと、それと、と前置きしてからこう囁いた。

 

「や、野生の紅魔」

「グボァっ!? な、何故それを!? ま、まさか見たのか引き出しを!?」

「……はい。その、お菓子とか隠したりしてないかなって探した時に、その……、原稿を見てしまいまして……」

 

 ま、マジかー……。私が野生の紅魔と言うペンネームで書いているのを知られてしまったのか。

 やはり鍵を掛けておくべきだったか……。

 

「だからその、おんおんがダクネスと相性が良いってのは分かってるんです。あのダクネスが最近大人しいのはきっとそう言う事なんですよね? お、大人の階段登っちゃった的な……」

 

  すまん、めぐみん。大人の階段と言うかむしろ落ちる所まで堕ちる下り階段だ。

 ただまぁ、めぐみんもそう言うのに興味を持つお年頃になっていたのか。

 微笑ましいものを見る目でめぐみんの成長を噛み締めていた。

 

「まぁ、ダクネスにおんおんのサディスト面を担当して貰って、私は健全にイチャラブできれば当面は良いかなって……」

「で、本音は?」

「……その、まだそう言うの怖いなぁって」

「可愛いなぁめぐみん……。初心過ぎてむしろ安心してきた……」

 

 いつの間にかめぐみんのハイライトが帰って来てくれていたようで、普段の雰囲気に戻っているようだった。

 ヤンデレめぐみんは解釈違いなので、いつもの様に可愛く纏わりつく仔猫みたいな愛らしさで居てほしいな。

 愛憎劇を回避し、大分ほっこりとした雰囲気で和やかに終わって良かった。

 雑談をしている最中に皆の準備も終えたようで屋敷の前に集まり、ギルドへと向かう。

 時折私の姿を見てガッツポーズを決めて喜ぶ人たちの姿があった事から、ゆんゆんの提案を採用して正解のようだった。

 

「あの小柄なシルエットは……!」

「おんおんちゃんだ!」

「おんおんちゃんは死なない! 何度だって生き延びるさ!」

「ほら言っただろ、おんおんさんに限って死ぬ訳無いって」

「英雄の帰還だ! 祝えッ!」

 

 いつもに増して騒がしいが、私死亡説が流れていた形跡がちらほらと聞こえる。

 手を振られたので振り返してみれば歓声が返ってきたので、内心私の評価が気になり始めた。

 なんか歓迎され過ぎじゃないか? 私の評価が一人歩きしてないかこれ?

 首を傾げていると呆れた様子のめぐみんが溜息を吐いて私の耳元に囁いた。

 

「おんおんって自己評価低いですけど有り得ないですからね。魔王軍幹部の一人を単独撃破、高額賞金首にして災厄の代名詞の爆発を防いだ上でアクセルに被害無しだなんて偉業を成したんですから。噂話とか興味無いでしょうけど、アクセルの英雄って呼ばれてますからねおんおんって」

「……へ?」

「アクセルの英雄、依頼成功の立役者、呪術姫、屋敷主、武魔両道、最優秀冒険者、酒豪姫とか、色々と呼ばれているみたいですよ。皆おんおんに忖度して面と向かって口にしてないみたいですが、酒の肴におんおんさん、だそうですよ」

 

 ……道理で遠巻きからめっちゃ見られてるなぁと思ったわ。

 てか小さいからって姫は止めろ、高貴な血は継いでねぇわ。

 暇潰しに飲んでた時に、彼方のお客様からです、ってクリムゾンビアとか貰うのそれが理由かよ。

 気が利く事に焼き鳥もセットで贈られるから最初の一杯以外は貰い物でテーブルが覆い尽くされたんだよな。

 勿体無いから全て飲み食いしたけどさぁ……。

 後期の妊婦みたいに丸くなったからな、もう少し加減してくれ頼むから。

 

「あ、因みにこのパーティのリーダーは、本当はおんおんなのですが経験を積ませるためにカズマに代理させてるだなんて噂話もありますよ」

「聞き捨てならない噂を聞いたんだが!? 俺大分頑張ってると思うんだけど!?」

「あー……、それね、ベルディアの時にカズマが引率される新入りポジだったからよ」

「何も言えねぇわ、ど真ん中火の玉ストレート級の豪速球でバントすら無理なくらいに妥当な理由だったわ」

 

 がっくりと肩を落としたカズマくんが暗い表情で空虚な笑いを浮かべる。

 それを隣に居たゆんゆんが肩を叩いて慰め、遠い目をしながら口を開いた。

 

「大丈夫ですよカズマさん! 私なんて話題にすら上がらなくなりましたから……」

「おい! めぐみん、どうしてこうなるまで放って置いたんだ!」

「そう言われても困ります。私はおんおん専門なので。と言うかこうしてパーティに入ってるんですからもうぼっちじゃないでしょうに。なに卑屈になってるんですかゆんゆんは。だからゆんゆんって言われるんですよ貴女」

「私の名前が悪態で使われる時があるの!? 流石にそれは傷付くんだけど!!」

「あー、大丈夫だぞゆんゆん。私が聞く限りそう言う使い方をする人は居ないからな」

 

  ダクネスさんの慰めの言葉にほっと安堵したゆんゆんだったが、何か引っかかるものを感じたのか小首を傾げていた。

  ……まぁ、悪態には使われていないな。一人で過ごしてる事をゆんゆんってるだなんて造語が生まれているらしいけども。

 何だよお前、ゆんゆんってんのかよー、みたいな軽いノリで会話のジャブに使われているのを酒場で見た事があるんだよなぁ。

 このパーティに参加しているのに関わらず、何故ぼっち根性が抜けてないんだゆんゆんは。

 ある意味私の身内みたいなノリが伝播してしまっていたのだろうか。

 ゆんゆんは他人との会話はテンパるしどもるし早口になったりするが、家族やめぐみんなどには普通に接している事から人見知りを発症しているに違いなかった。

 

「ううむ、今度村長修行と称して百人の名前と特徴を知るまで帰れないコミュニケーショントレーニングでもさせてみるか?」

「鬼ですかおんおん。そんなのゆんゆんが突破出来る訳無いじゃないですか、ゆんゆんですよ?」

「それもそうだな。何日も徹夜でゾンビが如くふらふらしかねないな。止めておくか」

「中止は嬉しいけど侮り過ぎじゃないかな!? わ、私だってお喋りできるんだから! 家で練習してるもん!!」

「サボテンに手を出し始めたのはそれが理由だったのか……。この前、夕飯に呼んだ時に虚空と喋ってたのはそれかぁ。んー、しゃぁねぇな、少し手伝ってやるか。どんな奴とも明るくコミュを築けるアクアと人間観察が趣味な俺が今度授業でもしてやるよ」

「ふっ、カズマ。マイナスにマイナスを掛けてもプラスにならないんですよ現実は」

「誰がコミュ障元ヒキニートだ!? 今は立派に冒険者してるだろうが!」

 

 カズマくんにアクアさんにゆんゆんでマイナスが三つだから結局マイナスなのでは、とは口にせず、和気藹々と談笑する五人を見て笑みを浮かべる。

 そうなんだよな、この時間が楽しいんだ私は。この尊い時間を続けるためにもソウルのストックは急務だな。明日辺りから早速クエストに繰り出して頑張ってみようか。

 だなんて考えながら、ギルドで私の生還を伝えた後の事だった。

 ギルドのざわめきが静まり、変な静寂が生まれた。その発生源は何処かと後ろを見やれば、丁度入口のところに王都から来たのだろう騎士二人を護衛に付けた、黒髪の女性とエリス教徒が着る白い法衣に着飾った男性が立っていた。

 そして、男性が此方を視認したかと思えば子供も真っ青な睨み付けを放たれ、此方に敵意を持っている事を隠さない様子でずかずかとその巨体を進めて近寄って来た。

 

「貴様が今回の立役者にして、彼の悪名高きアクシズ教の特別外部顧問を名乗るおんおんだな? 我らが主たるエリス様の神託に倣い、貴様を異端審問に掛ける! 無駄な抵抗はせずに、付いて来て貰おうか!!」

「……は?」

 

 異端審問? 異端審問って言ったかこいつ。そりゃ教義が違うんだから他の教徒は異端だろうが、って、それよりもとんでもない事を言ってなかったか?

 エリス様の神託って言ったか今。どういう事だ。ストームルーラーを他の事には使って無いし、異端審問に掛けられる理由なんて――。

 

「つい先ほどこの街に強大な悪魔に似た反応があった! その正体が君であるとエリス様は神託なされたのだ。もしも、自身が潔白であると言うならば、潔く異端審問を受けてその汚名を雪ぐと良い!」

 

 エリス教徒の男性の言葉に何となくであるが心当たりがあった。

 ……まさか、ソウル渇望症に陥ってた時の私、そんな感じの何かを出してたりしたんだろうか。

 今思えば、初対面の時に何とも言えない表情をクリスに向けられていたしなぁ。

 考えれば考える程に心当たりしか無く、私は内心で困り果てていた。

 まぁ、死ぬ事はあるまい。仮に死んでも……す、ストックはギリギリあるし、最悪森に走って狩れば良いしな。

 一難去ってまた一難、そんな言葉が脳裏に浮かんだのだった。

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