誤字修正&ここすき&感想ありがとうございます、しっかり読ませて貰ってますよ!
さて、ギルドの中心で異端審問だなんて宣ったせいで変な注目を浴びてしまっている訳だが、どうしたものだろうか。
目の前のエリス教徒の男性は法衣を着ている事からそこそこの立場に居る事が窺える。
もう一人の女性は……おや、私ではなくカズマくんの方へ行っているな。何かしらぎゃーすか話し合っている事からこれまた面倒事が舞い込んで来ているようだった。
カズマくんは運は良いが悪運だけなんだよな。最後の最後で勝ち取るタイプの幸運の持ち主なので過程が何ともトラブルメイカーなところがある。
このまま相対してもアレだし、一応相手の言い分を聞いてみるか。何か変な誤解をしているような気がしてならないんだよな、あのエリス様だし。
「異端審問とやらは此処で行うつもりか?」
「いや、万が一の配慮も兼ねて個室で行う予定だ。仮に君の正体が悪魔でなかった場合、謝罪などをしなくてはならないからな」
……さっき貴様とか言ってなかっただろうか、随分と下手に出るんだな。
ちょっとした変化に小首を傾げつつ、男性がギルド職員に応接室を借りるべく交渉を始めていた。
応接室の鍵を受け取った男性が戻ってくると私を追い抜くようにして壁際へと歩いて行き、此方を見やった。
付いて来いって事か。仕方が無い、さっさと冤罪を晴らして屋敷に帰らせて貰おうじゃないか。
私を心配する視線で見やるめぐみんたちに頷きを返して背を向けて、応接室へと入って行く。
対面する形でソファが置かれており、その間には資料を並べられるようにか長机が置かれている。
男性が奥側のソファへと座り、どうぞと手前側に私を誘導して座らせた。
「では、簡易版の異端審問を始めさせて貰います。僕はオルナルドと申します。エリス教異端審問科悪魔撲滅部隊の隊員の一人です。先ずは人物鑑定から行わせていただきますね」
「あ、あぁ。それは良いんだが、また随分と印象が違うな」
「あー……、そのですね、悪魔って大概プライドが高いので、ああ言う風に上から目線で断定的に言うと、良くぞ見破ったとノリで返すか、良い度胸だと激昂して正体を現すパターンが多いんですよ。その点、おんおんさんは非常に冷静でしたので、神託の読み間違いも在り得るかなと愚考致しまして、このようにさせていただきました」
「そ、そうか……。何と言うか、お疲れ様です」
「あはは、そう言っていただけると幸いです。では、嘘感知の魔道具を起動しますね。此方の鈴が鳴った場合、嘘であると判別する事になります。できるだけ具体的に返答願います。では、始めていきますね。貴女の名前はおんおんですか?」
なんか街角のアンケートみたいなノリで始まったんだが異端審問。
先程から悪魔悪魔と言っているし、異端審問と言うよりかは悪魔祓いなのではこれ。
もしかして悪魔に憑かれてるとかそういうのを疑われている感じか?
先程のギルドでの周りの様子もんな訳ないだろみたいな雰囲気だったし、間違って無さそうだ。
「私の名前はおんおんです」
「……はい、貴方の職とレベルをお答えください」
「アークソーサラー、レベルは……えぇと、三十二だ」
「三十二! そのお歳で三十越えとは凄いですね。流石は魔王軍幹部の一人を破ったアクセルの英雄ですね」
「ははは、そうでもないさ」
「いえいえ御謙遜を。貴女は人を殺した事はありますか?」
急にぶっこんできたな。この柔らかい物腰も態度の緩急も、此方の調子を崩すための方便と言うか駆け引きなんだろうな。
まぁ、私は悪魔では無く不死人なので、どっちかと言うとアンデッドに近い訳だがな。
「はい。クエストの帰りで山賊を葬った事があります」
「……それは、お辛かった事でしょう」
「いや、商人を嬲り、女性を犯していた奴らなのでモンスターの延長線上として見ていたので問題無かったですね。きっちりとアジトも根絶やしにしました」
「そ、そうでしたか。では、貴方は悪魔と関わりはありますか?」
「……すまないが、質問の具合が分からない。出会った事はあるし、上級悪魔と戦闘して殺した事もある」
「おっと、失礼しました。悪魔と契約して人類を貶めようとしましたか?」
「いいえ。……因みに悪魔の線引きは何処からだ? 俗に言う淫魔、サキュバスは悪魔に該当するのか?」
「悪魔は主に魔界に住まい、此方に出現する個体を指します。言うなれば悪魔族ですね。サキュバスは悪魔の配下、即ちモンスター扱いです。……サキュバスとなら関係がお有りで?」
成る程? 悪魔は悪魔単体で扱われているのか。
それとも脅威度の違いか?
サキュバスとの契約……と言うか口約束はカウントすべきか?
まぁ、今後の心象を良くするために嘘は言わないでおくか。
「あぁ、実際に会った事はあるし、プライベートな内容を相談した事もある。無論、人類に仇成す内容では無いよ」
「……ふむ、魔道具も反応しませんし、真実のようですね。プライベートな内容であれば追及は止めておきます。……ふぅむ、これは神託読みを担当が勘違いした可能性が高いですね」
「私が悪魔である事を隠すために、舌先三寸で騙しているとは思わないのか?」
私の疑問にオルナルドさんは苦笑して頭を掻いた。
「思わないですね。悪魔は確かに狡猾ですが、そもそも自尊心と種族的優位から人間を見下しがちなんですよ。それにこの魔道具を嫌っていて、今すぐ逃げ出そうとするのが大半です。よっぽど高位の悪魔が人間を装ってない限りはこの問答に入った時点で分かるんですよね」
「へぇ、そうなのか」
「はい。何故なら僕ら討滅部隊は、十体以上の悪魔を祓った者しか入隊できないので。人には分かりませんが、悪魔を祓った時の臭いが染み付いているんですよ。だから、僕らと相対した時点で敵意を見せない悪魔は居ないんです。……と、言う事で神聖魔法での確認を以て異端審問を終わらせていただきますね」
「ああ、勘違いだったと判断してお帰り頂こうか」
「ははは……、では『セイクリッド・エクソシズム』」
詠唱を終えた瞬間、オルナルドさんがかざした右手から青い火が解き放たれ、思わずギョッとしたが熱さを感じなかったので避ける事はしなかった。
衣服を撫でるように青い火は流れて行き、その様子にオルナルドさんはやっぱりなと言う表情を浮かべていた。
「今のは?」
「すみません、説明を省いていました。悪魔を滅する破魔魔法、浄化の炎を噴射する魔法です。見ての通り人には無害な火ですね。本来なら『ターン・アンデッド』でも良いのですが、神託と言う事もあって念を入れさせていただきました。ですが、貴女が高位の悪魔でも無い事の証明にもなりました。此度は此方の都合で異端審問を受けてくださり、ありがとうございました。そして、貴女の名誉を傷付けた事を深く謝罪致します。エリス教会から後程、この異端審問の結果をギルド及びアクセルで掲載し、神託の撤回及び誤報と周知させていただきます。此度は誠に申し訳ございませんでした」
丁寧な所作で此方に頭を下げたオルナルドさん。頭を上げるように言おうとした瞬間の事だった。
勢い良く扉が開かれ、扇状的なベルトファッションの少女もといクリスさんが慌てた様子で入って来た。
「その異端審問ちょっと待ったーーっ!? ……ってあれ? もしかしてもう終わってる感じ……かな?」
「おや、貴女は……、其方の羊皮紙を持って来てくれたのですか?」
頭を下げていたオルナルドさんは怪訝な表情を浮かべていたが、青い紐に縛られた羊皮紙を見遣ると合点がいった様子で対応していた。
そうですそうです、とクリスさんが羊皮紙を手渡すと中を検分したオルナルドさんはこめかみに手を当てて溜息を吐いた。
「どうやら憶測が当たっていたようですね。神託読みの担当が読み違えたようです。悪魔の名はおんおんと言う少女である、ではなく、悪魔ではなくおんおんと言う少女である、が正しいようです。再度に渡り御迷惑をお掛け致しました」
「あ、いえいえ。そう言う日もありますよ。神託読みって精度が悪いんですか?」
「そうですね。聞く話によれば、遠くから投げかけられる声を耳を傾けて聴く、との事で、神託読みの担当も人の子なのでミスは出てしまうんですよね。もっと親和性の高いエリス教徒が居れば、と思う時もあります」
「それは……、大変ですね」
だとよ、エリス様の分体さん。クリスさんは非常にバツが悪そうに視線を逸らした。
まぁ、お忍びで来てる訳だし仕方が無いか。
「まぁ、その、私が言うのも何ですがお気になさらず」
「……ありがとう、その言葉で報われます。後日お屋敷の方に謝罪の品を贈らせて頂きますね。本日はお付き合い頂きありがとうございました」
「はい、お疲れ様です」
オルナルドさんは少し疲れた表情で一礼して退室した。
……さて、事の次第を問い質そうか。それに相応しい人が来てくれたからな。
立ち上がった私はがっしりとクリスさんの肩に手を置き、壁際に追いやってから股下に足を置いて完全に逃げ場を塞いだ。
トドメに特に意味の無い壁ドンを行使し、か細い声であろうとも逃がさない布陣を展開する。
クリスさんは顔を真っ赤にして視線を逸らそうと無駄な足掻きを見せたので、空いた左手で顎クイをキメて視線を固定させた。
「話を聞かせて貰おうか」
「こ、この体勢になる必要あった?! 話す! 話すから離れて!」
「逃げるかもしれないから駄目だな」
「あぁもぅ……、分かったよ……」
声を低くして無駄に良い声で尋問してみたのだが、割りかし響いたのか萎むような声で音を上げた。
視線を合わせながら今回の一件を尋ねた結果、誤審による判断ミスと伝達失敗と言うスリーアウトだったらしい。
「その、エリス教の教義に掲げている通り、悪魔に対する反応を重視して下界を見ててね。下界ウォッチングしてたら悪魔に似た何かを感知して、ついいつもの癖でデストロイ指示を神託しちゃって……。おんおんだって気付いたから慌てて取り消そうとしたらもうオルナルド君が行っちゃってたんだよね。もっかい神託を送ってクリスで飛脚したって訳なんだ」
「ふーん、ギルティ」
「ごめんって! 世界を守るためのリビドーが溢れちゃったんだ! デストロイヤー討伐戦に魅入ってて興奮してたから尚更に!」
「そっかぁ、なら……」
「許してくれるの?」
「いや、許さないけど。失ったソウルを回収しに行きたかったのに、こんなに注目されたらこっそり行けないじゃん」
「そ、それは……」
まぁ、正直疲れてたから明日行くつもりだったけどな。
白い霧の結界を強制発動したせいで、大半のソウルを失っているのでカス残りくらいしか無いだろうしな。
ぶっちゃけ、私死亡説のせいで既に注目はされてたからな。
さて、これを手札に強請るか。股下に入れていた足を曲げて膝を壁に置いた。
「謝礼に神器欲しいなぁ」
「だと思ったよ!? ストームルーラー返す気無いでしょ! 駄目だって言ったよね!? こればかりは駄目なの! それ以外の事にしてよ、私にできる事なら何でもするからさ」
「ん? 今、何でもするって言ったな?」
「……あっ」
慌てて取り消そうとするクリスさんの顎を上げて黙らせ、お互いの吐息を感じられる近さで私はニヤリと笑った。
「明日の夜に廃エリス教会に来るように。その時にストームルーラーを返すよ」
廃エリス教会と言う単語を聞いた瞬間に、クリスさんは赤面し、ぱくぱくと口を遊ばせた。
……見ているな、貴様っ!
お仕置きも兼ねて耳元に唇を近付かせ、ねっとりと囁く。
「むっつりすけべ」
「ひゃぅっ、だ、だってダクネスが心配でっ」
「そんな事言って、本当は混ざりたかったんじゃないか? ん?」
「そ、そんなこと……」
尻すぼみしていく返事に羞恥の混ざった表情でクリスさんの可愛さが増していく。
嫌ぁ嫌ぁと腰をくねらせているが私には誘っているようにしか見えないぞ……。
むらむらと込み上がって来た衝動を抑えるべく、クリスさんを解放して距離を取る。
無い胸を抱えるように自分の身体を抱き締めたクリスさんはふるふると震えており、それが恐怖からではなく羞恥と困惑からくるものだと言うのは表情で分かる。
……カズマくんもそうだが、初心な子を誑かすの楽しいなぁ。普通に考えればダクネスさんと言う恋人が居る私がクリスさんに手を出す訳無いのにな。
増してや今はめぐみんも増えた事で夜の営みは大混雑だ。交互に私の身体を割り振るしか無いだろうなぁ。
まぁ、今日辺りは心配かけさせた事もあってめぐみんと一緒に寝てやるか。何なら耳かきとオイルマッサージも付けて癒してやらなきゃなぁ。
「まぁ、そう言う事なので、明日お待ちしてますね」
「いや、その、だ、ダクネスが居るじゃん? な、なのに私もだなんて、そ、そんなの……」
「アクシズ教外部顧問の名前でエリス教に神託の親和性が高い人が居るって報告しようかなぁ」
「んなぁ!? そ、そんな事されたら困るよ! わ、分かった! 明日! 行けば良いんでしょ?!」
「えぇ、ダクネスさんと一緒にお待ちしてますね」
あわわと目をぐるぐるし始めたクリスさんだが、此方としては普通に持て成すだけなので、あんまり期待されても困るんだがな。
……けどまぁ、この一件とは別に覗きの罪には問わねばならないからお仕置きはしなきゃなぁ。
ダクネスさんと結託してお仕置き考えるかぁ。クリスさんの事はあんまり知らないからダクネスさん任せになりそうだが。
茹だった顔のまま、私の後ろについて応接室から退室したクリスさんはふらふらとギルドから出て行ってしまった。
ううむ、少しお灸をすえ過ぎたか? ちょっとやり過ぎたかもしれんな。無事に帰宅できると良いんだが。
応接室の外に居たのだろうめぐみんたちを見やると、何故かカズマくんの姿が無かった。
はて、トイレにでも行ったのだろうか。そう首を傾げていると深刻そうな顔でアクアさんが近寄って、私の肩に両手を置いた。
「落ち着いて聞いてね、おんおんちゃん。カズマは、カズマは……、留置所に送られたわ」
「はい? 何で?」
「何かアルダープとか言うおっさんに窃盗罪で訴えられているらしいんですよ。カズマが作ってたオイルライターでしたっけ、あれの権利がうんぬんかんぬんだそうです」
「……ふむ? つまり、売れると見込まれたから横槍を入れて裁判沙汰にして権利を奪おうと画策された訳か」
「えっ、なんで今の説明でそんな事が分かるのおんおん。どんな頭してるの……?」
何かゆんゆんに頭を心配されたが、少なくとも君よりかは賢いぞ、基礎学力的に。
……異世界基準だけどな。
にしても……、どういう経緯でそうなったんだか。まさかとは思うがカズマくん、それを酒場なんかで吹聴したのだろうか。
それをアル豚ーぶぅ、じゃない、アルダープお抱えの冒険者にでも聞かれて報告が上がり、その利便性と収益性を嗅ぎ取られて難癖を付けられている段階にあるんだろうな。
一応この世界、貴族平民の括りがあるので基本的に平民は貴族に逆らえない存在である。
そして、それを利用して暴利や悪徳な商売などを企て、懐を温めようとする糞領主がこうして実際居る訳で。
「今カズマくんは留置所に居るんだったな?」
「ええ、そうよ。セナって言う女性に連れてかれたわ」
「行くんですか?」
「あぁ、無論だ。パーティの仲間が不当に陥れられたんだ。心配するのは当然の事だろう?」
「そうですね、一応パーティリーダーですしね」
「うん、私に何か出来る事あるかなおんおん?」
「んー……、私も今後の流れが見えてないからなぁ。簡易的な取り調べをするのか、または貴族に仇成したとして略式裁判で判決がくだるのか、その流れが分からないと手出しがし辛いなぁ」
「……おんおんってほんと何処からそんな知識を手に入れたの?」
「前世」
あー……、と納得された。ゆんゆんは忘れがちだが私は転生者だからな。
何故かめぐみんは胸を張って満足そうにしている。
……まぁ、可愛いからいいか。
ぞろぞろとめぐみんたちを連れて留置所のある警察署まで歩いて行き、門番の人に面会を申し出ると快く受け入れられた。
これもおんおんの人徳ですね、なんてめぐみんがよいしょしてきたので頭を撫でてやった。
留置所の中は地下一階程度深く掘られた場所にあるようで、窓から脱走できないよう工夫がされているようだった。
見張りの男性に声を掛ければ奥の方だと居場所を教えてくれた。
薄暗い奥の方からおろろーん、おろろーん、と泣き声のような何かが聞こえてくる。
「……気のせいか?」
「いや、気のせいじゃないですよ。確かに聞こえてます」
「今日日おろろーんと泣く声は滅多に聞かないんだがなぁ。意外と余裕があるなカズマくん」
何時からこの世界はギャグ漫画の世界になったのやら。なったとしても表現古いなと思いつつ、奥へと足を運ぶ。
「……お家に帰りたい、温かい我が家が待ってるんだ……」
と、嘆きの声が聞こえて来た。いやまぁ、不当逮捕だしな。冤罪だし、むしろ訴え側に判決が下る事だろう。
まぁ、それは然るべき対応が取られれば、だが。貴族、それも領主となればそれなりの地位だ。最悪なぁなぁにされるか、それとも強制執行で口封じか。
心底疲れた様子のカズマくんが独房の端っこに三角坐りしていた。
此方を虚な表情で見つめたかと思えば、段々と生気を回復して顔色が良くなり、ダパーっと涙を流してから立ち上がって近付いてきた。
ゴーストスイーパーな横島君じゃないんだからさ……。
いやまぁ、十六歳の少年だしなカズマくん。流石にこんな扱いを受けるのは初めてだろう。
ここぞとばかりに聖母めいた他所行きな表情をしたアクアさんがカズマくんを抱き止め、辛かったわね大変だったわね、と慰め始めた。
それはもう修道女を通り過ぎて聖母では、と口に出しかけたが、最近頼られる事に飢えていたアクアさんはニッコニコである。
多分、屋敷に帰って数日後に調子を取り戻した頃に、カズマくんにマウントを仕掛ける時のネタにするんだろうなぁ。
カズマくんも分かっているのだろうが、心寂しい時に優しくされたらコロリと来るのが男の子だもんな、分かるぞ。
……あと、単純に豊満な女神っぱいに顔を埋めるチャンスだしな。仕方があるまい、男の子だし。
後方姉貴面して腕組みをして頷きつつ、この後はどうするべきかと考える。
相手が相手だからなぁ、悪徳領主と呼ばれるアルダープの事だ。権利を奪うまで執拗に粘着質な嫌がらせをマネーパワーで仕掛けてくるに違いない。
「……ありがとなアクア。ちょっと持ち直したわ。おんおんさんたちもすみません、面倒掛けちゃって」
「ふふん、良いのよカズマ。人は誰だって甘えたい時があるもの。……だから私も甘やかしてね?」
「お前は下界に降りてから甘えっぱなしだろうが、酒代くらいは流石に出せよ。つまみなら兎も角」
「えぇー。人の金で飲むから美味しいのに」
「だからと言ってツケは止めろぉ! しかも俺名義にしやがって! あぁ、アクアさんの保証人の方ですか、だなんて呼ばれ方されたくねぇんだよ俺もなぁ!?」
ぴゅーひゅるるーと下手くそな口笛をかますアクアさん。先程までの絵画染みた尊い光景は何処へやら。
調子が戻って来たみたいで何よりだな……。
だがまぁ、そろそろ話を進めないと二進も三進も行かないな。
「それで、どういう経緯でこうなったんだカズマくん」
「あっ、えぇとですね。選りによってダストにオイルライターの制作が知られまして、そっからウザがらみされるようになってからなんで十中八九あの屑が原因だと思います」
「……ダストくんかぁ。確かに酒場で吹聴してそうだな。よっ、小金持ちのカズマ、懐暖かいんじゃねぇの奢ってくれよ、な? みたいな感じで擦り寄って来て、かーっ、安酒一杯すら恵んでくれねぇのか、オイルライターとやらで一攫千金を狙うお上品な奴になっちまったんだなテメェは! みたいに大声で顰蹙を買うような事をして丸め込もうとしそうだ」
「……あの、あの場に居たんすかおんおんさん。一語一句同じなんすけど……」
先程のゆんゆんのような視線を投げられ肩を竦める。
別に見ては居ないが、普段のダストくんの様子からしてそうするだろうなと憶測は付く。
「これこそがおんおんの強みの一つ。人間観察及び直感による言い当てです。昔、ひもじい思いをしながらおんおんの家に転がり込んだ時に、家での遣り取りをしれっと言い当てられた事が多々ありました。別にひょいざぶろーさんとゆいゆいさんならこうしてこう考えてこう言うだろ? みたいな返しをされるんですよね。なので超能力者なのかなと一時期疑っていた時があります」
「……そういや、手彫りの木製スプーンを持って来て曲げるように言ってきた事があったな。あれ、そういう一環だったのか」
「本に載ってたんですよ、人体の不思議、超越したパワー、常人が成し得ぬ秘匿された選ばれし力、みたいな感じで」
「うわぁ、紅魔族ホイホイなラインナップ……。えぇと、それでダストさんがカズマさんを売ったの?」
持ち前の会話クラッシャーによって超能力の話題をサイコクラッシュしたゆんゆんに視線が集まる。
それを見ためぐみんが溜息を吐いて肩を竦めて話しかけた。
「ほんと、話の腰をシャイニングウィザードするの得意ですよねゆんゆんって」
「えへへ、そんな事無いよ」
「褒めてませんよ、このっ、ゆんゆん!!」
「待って!? 今私の名前を悪態に使わなかった!?」
「……はいはい、話が進まないからそこまでだ。大方、ダストくんが悪酔いして、いびりに失敗して逃げ出す口実にカズマくんを売ったんだろう。金目の物持ってますぜ、ってな。それがあの豚の私兵だったんだろうな」
「豚は流石に直喩すぎるぞおんおん。それに豚に失礼だ」
「いや、ダクネスも大概な事言ってるぞ……? えーっと……、あ、商人ギルドで特許を取ろうとして向かったら既に商品登録されてまして、あの糞、あろうことか同じ名前で登録しに来た奴は自分の考えを盗み見した盗人だ、だなんて吹き込んでたみたいで衛兵に取っ捕まって裁判まで拘留。今に至る感じです」
「それはまたアレな……。 ただまぁ、豚領主も可哀想にな。選りに選ってカズマくんを選んじゃった訳だからな」
「と、言うと?」
めぐみんが隣で可愛らしく小首を傾げて疑問を浮かべた。
いやぁ、ほんとアルダープとやらは馬鹿だ。仕組みも原理も分からないのにマウントを取ろうとするだなんて馬鹿の極みである。
「恐らく、今回の逮捕は分捕るための大義名分を得る策略だろうな。相手は盗人である、設計図も盗まれてしまって手元にない。貴族に喧嘩を売った盗人を裁判にかけて持っていない筈の設計図を取り上げようとしているのさ豚領主は。相手が平民だからと舐め腐った態度と言う訳だ。だから、裁判で相手が知っていなくてはならない事を突いて証言を吐き出させればこっちの勝ちだ」
「……逆転裁判的な感じですか」
「まぁ、そう言う事だな。オイルライターと言う名前と、火を付けるための道具である、それぐらいしか知らないんだよ豚領主は。設計図を盗まれたから分からない、だなんて言い訳を十中八九するだろうから、頃合いを見て足元を横合いから蹴っ飛ばせば無様に転ぶだろうよ」
豚領主からしてみれば今までやってきた悪行の一つなんだろうな。売れる商品を自分の商人に抱えさせて、利権を分捕るための言い掛かりな訳だ。
これまでも相手が平民だったから貴族パワーと領主と言う立場から暗躍と圧力を掛けて泣かして来たんだろう。
……ふふふ、真正面から不意打ちしてすっ転ばして、悪行を露見させてやろうじゃないか。
こちとら根無し草にもなれる冒険者だ。ただの平民と違って圧力も掛け辛い上に、ダスティネス家への直通なコネとアクシズ教外部顧問の肩書きで真正面からぶん殴れる秘密兵器もある。
前者はダクネスさんが、後者はアクアさん関連の物品でゼストを動かせるのでイージーモードだ。
さて、裁判が始まる前に色々と仕込んでおかねばな。そんな事を考えていたら久しぶりに嗜虐的な笑みが浮かんでしまった。
「あの、おんおんの表情からして大丈夫そうですよカズマ。あれ里の森で獲物を狩る時の表情ですからしっかりと仕留めてくれますよ」
「そりゃまた心強いな……。でもまぁ、確かに今思えば不利って訳でも無いんだよな。俺の弁護人におんおんさん立てれば良い訳だし。あのセナにも普通に勝てそうだわ」
「そう言えば、そのセナってのは誰なんだ? さっきから名前だけ聞くが」
「えーと、王国検察官だそうです。一応領主からの訴えだったので事が事だから派遣されたみたいです。何でも、魔王軍幹部やらの討伐劇で王国が安定してるから暇になってたとか。何で私がこんな事を見たいな事言ってましたね」
「いや、確実にあのきつそうな性格のせいで厄介払いされたんじゃないですかね」
「め、めぐみん! 本当の事だろうけどそんな風に言っちゃ駄目だよ!」
「……ほんと、ゆんゆんはゆんゆんですね。その死体蹴りみたいな糞下手フォロー止めた方が良いと思いますよ」
「えぇっ!?」
一連のコントみたいな内容に全員に笑顔が浮かんだ。
雰囲気が良くなったし、ちょくちょく面会に来てカズマくんをフォローしてやらねばな。
まぁ、アクアさんにお酒の瓶持たせて面会させれば良いか。持ち前の明るさでこの牢獄も明るくなる事だろう。
さぁて、やれる事を万全にしてやらねば。正々堂々手段を選ばず真っ向から不意討ってやろうじゃないか。