ここすき&感想も読んでるよ、ありがとう! 励みになります。
さて、カズマくんに任せろと言ったものの何処から手を付けていくべきか。
今回のカズマくんの行く末を決める一件は、アクセルの裁判所で民事裁判と言う形で判決が下る沙汰となった。
刑事裁判とならなかった理由としては、アルダープ側の主張に対する証拠が薄かった事、そして本題となる設計図の在処が分からなかった事もあり、カズマくんvsアルダープと言う一対一の裁判になったからだ。
まぁ、裁判を起こしてくれるだけ有難い。最悪の場合、略式裁判による貴族に仇なした平民を罰すると言う即死めいた判決が下る可能性もあったからだ。
そこら辺は私の有名税だろうな。
一応、魔王軍幹部を倒し、アクセルをデストロイヤーから守った功績のある私が所属するパーティのリーダーだ。
平民不敬、判決死刑。だなんて結果に私が噛み付き、散々脅しに使っているように魔王軍へ寝返られたら大事だからな。
ぶっちゃけ、外付け良心回路と言うべきダクネスさんとめぐみんが居なければ、私と言う存在は実に恐ろしい結果を招く災厄となるだろう。
仮に魔王軍に寝返った場合、最前線で私は人類を殺しに掛かるだろう。餌として、だ。
何度殺されても、何度でも蘇り、ソウルを求めて前線に立つ正真正銘の化け物。
相性の良い神器などを持った相手が居たとしても白い霧の結界に閉じ込め、孤立無援の状態にしてゾンビアタックによる確殺戦法を取ればいつか殺せる。
「……こうして箇条書きして見ると酷いな私のスペック。悪堕ちしないように健全に過ごさねばな」
復讐鬼めいた尖った性能してんな、と自嘲しつつ、呼ばれていた事もあってユウキさんの店へと赴く。
例のパイルハンマーの試作品が完成したらしい。デストロイヤー戦に間に合わなかった事を大分気に病んでいるようで、急ピッチで仕上げたらしい。
フロム・ヘルの店の前に着く。ふと視線を感じたので見やれば窓際の人形ちゃんが会釈していた。
……目を擦り、目薬を差して、再び見る。少し困った表情でもう一度会釈されてしまった。
もしかして死んだ事で啓蒙が深まったのだろうか。生と死の狭間を垣間見た事で真理を覗いたと言う感じで。
ははは、ご冗談を。まさかと思うがユウキさん上位者だったりしないだろうな。
内装が木製で古めかしいのはまさか……、よそう、私の予感だけでみんなを混乱させたくない。
若干SAN値チェックに失敗した心地で、ドアベルを鳴らして中へと入る。
「やぁ、待っていたよおんおんさん。先の一件に間に合わず申し訳無かった」
「いえ、お気になさらず。仮に完成していたとしても使いどころなかったので……」
「そうなのかい? 一度死んだって聞いてるんだけど」
「あー、ダクソの白い結界を用いてデストロイヤーを閉じ込めて心中したんですよ。じゃないと、アクセルごと吹っ飛びそうな感じだったので」
「そうだったんだ……。でも、肝心な時に使える相棒が無かったのは事実だ。此処にあるのは試作品だ、是非見て欲しい」
そう言って奥から二つの鞄を取り出した。カウンターの上に置かれたそれらを開いて見せたユウキさんが妖しく微笑む。
……あの、片方違くない? 人体錬成で右腕と左足を持ってかれる最年少錬金術師の腕じゃないかこれ。
そんな私の疑問の視線を受け取ったのか、にっこにこな様子で語り始めた。
「これはパイルハンマーの機構を内蔵した篭手なんだ。衝撃を逃がすために腕を覆う形になっちゃったけどね。ほら、内臓攻撃ってあるじゃないか。相手の腹に捻じ込んでぶしゃぁする奴が。流石に素手でやるのは大変だし、女の子の膂力じゃ大変だろう? だから、これは肘から先を相手の腸にぶち込めるように加速する機能を持たせているんだ。炸裂式の魔力弾丸をカートリッジ機構で消費して、所謂漫画的な貫き手を再現するものなんだ。鉄鋼板も貫通する威力で申し分無し、無論、機構に耐えるために装甲もしっかりしたものを使ってるから安心だね!」
「私の世界観ダクソ3だから……、と言うかさっきの人形ちゃんといい汚染されてないか私?」
「え? あの人形ちゃんレプリカ? 動いたの? あはは、疲れてるんじゃない? あれ、本当にただの再現した人形だよ」
からからとしたからかい気味な口調で笑うユウキさんの言葉に、私は背筋を凍らせる思いであった。
嘘だと言ってよバーニィ。この世界、神様転生のせいで狂い始めてるんじゃないか。明らかに狂気のそれが汚染してきてるじゃん。
ちらりと後ろを振り返り、人形ちゃんを見やるが動いている様子は無い。それどころか安楽椅子に座って外を見て鎮座している。
……振り返ってにこっと笑みを浮かべられた。あはは……、窓にっ! 窓にっ! くそう、此処一階だから投身自殺できねぇっ!
窓から逃げようとする描写に見られがちだが、あれは教団の魔の手から逃げれないと悟って窓から投身自殺を図ろうとする場面だからなっ!!
「ど、どうしたんだいおんおんさん!? 微動だにしてない人形ちゃんを見て青褪めて、えっ、本当に動いて見えてるの? マジで? 何処で啓蒙を得たの?」
「……多分、一度死んだから、かなぁ」
「あー……、確かに大抵の人はあの犬にやられて夢に還るから、死による啓蒙獲得の可能性はあるかぁ。……いや、無いのか? でもなぁ、生と死の行き来だなんて狂気沙汰だしね。ある意味、女神様との対談とかも上位者との会話と考えても可笑しくないしね。……あの人形ちゃん持って帰る? お世話して貰えるんじゃない?」
「……子供が出来てから考えるわ。信用できる人手が欲しい時に頼るかもしれない」
「へっ? 彼氏できたの? おめでとう!」
「いや、彼女。魔法で男性器生やせるようになった」
「……お、おぅ。それはまた……、お、おめでとう?」
「ありがとう。因みにパーティメンバーの金髪の女性のダクネスさんと黒髪のめぐみんが私の恋人だ」
「わぁお、異世界ハーレムだなんて……、しかも百合とか、最高に満喫してるねこの世界を」
「はははー……、ユウキさんには負けるかな。で、こっちがパイルハンマー、だったか。持ち上げても?」
「あぁ、構わないよ。そのために作ったものだしね」
もう一つの鞄に収められたパイルハンマーを手に取り、右手で構えてみる。
なんかこれ見覚えあるなと思ったら型月のカレー先輩のアレに似てるのか。
ただまぁ、片手で振り回す事を前提にしているからか軽量化されており、右腕の長さに大体収まるくらいの大きさに調整されている。
固定化のためかベルトで腕に締めれるようで、取り付けて見れば左右にぶらつく事が無くなり使いやすくなった。
けれど、手放す事もし辛いし、再度装備する時にも不便なので腕をくぐらせるリング等の固定具にして貰おう。
一言断って部屋の真ん中で振り回してみる。先端から突き出した穂先の部分を突き刺すような形で刺突し、切り上げ、振り下ろしをするが、リーチが短いので適さないな。
ナックルダスターに刃物が付いている、くらいの距離感か。
剣として振るうのではなく、拳の延長線上に使う方が良いなこれは。
パイル機構は手元のスイッチを安全装置を握りながら押す形になっており、突き刺しの動作の後に作動させてみれば凄まじい反動と共に虚空を抉る一撃が放たれた。
その衝撃で近くの棚のものが幾つか倒れる程に、とんでもない威力をしていた。
「……痛ったぁ。凄い腕が痺れるんだけどこれ。間違えると肩が抜けるぞ」
「んー、火薬の量が多かったかな……。もう少し量を抑えたものも用意してみるよ。他には何かある?」
「そうだな、ベルトで固定するのは駄目だ。取り外しや再装備が面倒だ。腕を通す形で固定するような形にしてくれ」
「やっぱそうだよねぇ。弄っておくよ。他は、大丈夫そうだね。それじゃあちゃちゃっと修正して、完成したら屋敷の方に送っておくね。この内臓攻撃用の片腕鎧はどうする?」
「んー……、一応使ってみるか」
パイルハンマーを戻し、隣の鞄から片腕鎧を取り出して右腕に装着してみる。
ぐっぱぐっぱと動かしてみたり指をゆらゆらと動かして見たりしたが、見事な事に動作に不良は無く、使い勝手はとても良さそうだった。
それに見た目が非常に良い。幼女の右腕が機械鎧腕とか見栄えがとても良い。何とも浪漫ある恰好だろう。
内臓攻撃機構は指先を強く接触させると発動するらしく、使い捨ての鎧をマネキンに着せてユウキさんが持って来てくれたので腹パンよろしく貫手の形で腹部を殴ってみた。
接触の瞬間に肘辺りから炸裂音と共に排気口から噴出した一瞬の暴風が生じた。肘から先が加速し、鋼鉄製らしい鎧のどてっぱらをぶち抜いて貫通させていた。
……先程よりも衝撃は無いが、肘から先が勝手に動くので脱臼の可能性がありそうなくらいだった。
「……なぁ、むしろこっちの方が性能も使い勝手も良いんだけど、完成度も高くないか?」
「あ、あはは、やだなー、ボクが適当な仕事をする訳無いじゃないかー」
「成程な、大方こっちに意識が行って、息抜きの方に力を込めたんだろう。これ、装甲はどうなってるんだ?」
「え? あぁ、そこの樽に入ってるハンマーで叩いてもへこまないくらいの強度はあるよ。それなりの値段の仕上がりだし」
「って事は、これ合わせて一億ってところか?」
「えー、あー……そうなります、はい」
まぁ、ハガレンも好きだから良いけどさ。見た目は完全にオートメイルな片腕鎧だ、再現勢の匠の技と言うべきか。
本当はおまけ程度だった筈の片腕鎧だが、使い勝手も奇襲性も高いし、何よりも盾の代わりにできるのはでかい。
片腕鎧を付けた状態でパイルハンマーを右腕に装備し、左手に呪術の火を灯す。
……うむ、痺れるくらいに格好良い様になる姿だ。トレントに搭乗している時は弓でも使えば良いだろう。
あぁ、そう言えばそれを頼んでみるか。私の持っている弓は全部お手製なので威力がイマイチなんだよな。
「余った金で弓を作れたりするか? コンパウンドボウ的なのが欲しいんだが」
「んー、大丈夫だよ。二千万エリスくらいは残ったから」
「因みに二つの内訳は?」
「……パイルハンマーに六千万、オートメイルに二千万です」
「ならいいか。性能がしっかりしてるなら文句は言わないよ」
「へへへ、ごめんね、助かるよ。自分としても悪い癖が出た感じだからさ。そのオートメイルは持って帰って大丈夫だよ」
「あぁ、そうさせて貰うよ。所で少し相談があるんだが」
「はいはい、何でしょう?」
この性能の良い片腕鎧の噴出機構。それを見て思った事があった。
それを現実に書き起こすためにユウキさんに箇条書きで内容を伝えると、ニタァと笑みを浮かべてサムズアップで了承してくれた。
残りの二千万エリスでそれを作って貰う事にし、羊皮紙を用いてデザインに口を出しておく。
ふふふ、これならダクネスさんも活躍の機会が増えるだろう。得られなくなる痛みは私が与えれば良い話だしな。
人形ちゃんに一礼されながらフロム・ヘルを退店し、次の予定を消化すべくアルカンレティアに篝火で飛ぶ。
アクシズ教の本部のあるアルカンレティアに設置した篝火は、何とアクシズ教本部の庭の中央である。
何となく円状にしたのは良いが殺風景で勿体無いとゼスタがぼやいていたので、丁度良いので場所を融通して貰った訳だ。
前の定期集会以来のアルカンレティアだが、いつ来ても空気が美味い感じがする。
ゼスタに会うべく大教会の方へと歩く最中で、アクシズ教徒であろう少年に会釈をされた。
「こんにちは、マザー」
「待て、なんだその呼び名は」
「あれ? 知らないんですか? この前ゼスタ様が特別外部顧問では呼び名がイマイチだからって、聖母の特別称号を与えたって話ですけど。なので、教団員はおんおん様をマザーと呼ぼうと決まったんです」
「……そうかぁ。なんで決定事項なのかは分からんが、まぁ、理解はした。納得はしないが」
「マザーのお役に立てて何よりです! 女神アクアの清き導きがあらんことを」
「……なんか変なお祈りも追加されてるし……、マジで何があったんだアクシズ教」
すたこらさっさと行ってしまった少年の背を見ながら独り言ちる。
問題児の巣窟である筈のアクシズ教なのに、今の少年の様子は非常に宗教っぽい敬虔な教徒のそれだった。
ううむ、聖母の件と言いゼスタに聞かねばならない事が増えてしまった。
さて、あのどうしようもない変態の馬鹿は何処に居るのやら。先程の少年に尋ねれば良かったが、内容が衝撃的過ぎて忘れていた。
礼拝堂を暇そうに掃除していた女性教徒に場所を聞けば、夏のスイカよろしく近くの水道に首に縄を括りつけられた状態で流されているそうなので、礼を言って近くの水道を探し始めた。
すると、少し遠目の場所からばっしゃばっしゃと溺れる誰かが藁に縋ろうとするような水音が聞こえて来た。
其方に向かってみると水道をよぎるための小さな橋の柱に縄が括り付けられており、柱との縄の結び目を首に括られている上に身体をぐるぐる巻きにされ、俯せになって窒息している変態もといゼスタが溺れていた。
近くには長い棒があり、背丈の小さな子供が逃げていく背中が見えたのでひっくり返す悪戯をされたのだろう。
……割と生死に関わる悪戯と私刑なのだが、何をやらかしたんだこの馬鹿は。
仕方が無いので棒を使って引っ繰り返すと、ダチョウ倶楽部よろしく口からぴゅーっと真上に水を吐いてから荒い息をしていた。
「おや、ご無沙汰でゴボッ、げほっ、一つ頼みがあるのですがどうガボッ、おぇっ、助けてくれないでしょうか」
「構わないが、何をやらかしたんだお前」
がぼがぼと肺の空気が無くなり始めたタイミングで水を飲むので、埒が明かないとソウルから火掻き棒を取り出して縁に引っかける。
「ふふふ、行き遅れのエリス教徒の女性に合コンのチラシを送って、アクシズ教の未婚の者とお見合いをさせたのですが上手く行かなかったようでして」
「ふむ、なんだ案外まともな案件だな。八つ当たりでもされたのか?」
「いえ、熟女好きの者を揃えた結果、まだまだ若いわとキレられまして」
「……それで?」
「三十路迎えて若いとか無いわーだなんて煽ったらこの有様です」
「残当だわ。もっかい溺れて来い馬鹿野郎」
「がっ、ありがとうございます! ありがゴボッ、おぇっ、ゲホッ、鼻にっ、ォアッ、溺れっ、ごぼぼぼっ、ぼぼぼっ、この水道っ、深いっ!」
良い笑顔で失礼な事を抜かしていたので鼻っ面を蹴り飛ばして水道に戻し、上から棒で頭を抑え込んで冷やしてやった。
死なない程度に私刑に処し、もう一回火掻き棒で回収してから、何となくもう一回蹴り飛ばして天丼させてから引き上げた。
随分と水を飲んだのかふっくらとした腹をまるで我が子のように摩りながら、ニコニコしているゼスタの気持ち悪さに辟易しつつも本題を語るべく大教会を親指で指した。
無論ですとも、とびっちゃびちゃのまま大教会に歩いて行くゼスタを引きつれて歩く私に、畏怖と尊敬の眼差しが彼方此方から降り注いだのだがマジで何があったんだアルカンレティア。
礼拝堂を掃除していた女性教徒から臭そうな雑巾を顔に叩き付けられてご満悦なゼスタを応接室へ叩き込み、私用に置いてくれているらしいクッションに尻を置いてソファで対面する。
何時の間にか濡れていた衣服が乾いてキリッとしたゼスタが居て、マジでこいつギャグ世界の補正掛かってないかと疑いの視線を向けざるを得ない。
「して、どのような案件でしょうか? アクシズ教のために此方に住まわれる手続きとかですか?」
「手短に言えば、顛末によってはアクアさんが天界に帰るかもしれない、そう言う案件だ」
「すみませんでした、真面目に聞きます。最初から宜しくお頼み申し上げます」
ソファに座っていたゼスタが床に跪き、敬虔な教徒が如く祈るポーズで此方にシリアスな顔を向けて来た。
ほんとアクアさんが関わると人が変わるよなアクシズ教。まぁ、便利で良いんだが。
「アクアさんがカズマくんの転生特典として下界に降りている訳だが、その期限はカズマくんが確定的に死ぬまでだ。で、今カズマくんは地方領主アルダープに一方的な訴えで裁判に掛けられ拘留されている」
「ふむ、となれば、私たちはカズマ殿が勝訴するように手筈を整えろと言う事ですな。承知致しました、何なりと命令に従いましょう」
「……なんで特別外部顧問の私にそこまで全幅の信頼を向けているのかマジで分からないんだけどもさ、少しは疑わないのか?」
「滅相も無い。おんおん殿はアクシズ教の聖母となられる御方です故、そして、あのアクア様のお世話もされている人物。もはや教主ですら貴女に頭を下げる立場にあるのですよ」
「おまけに変な肩書を増やしよってからに……、何だ聖母って。お前ら変態の母になった覚えは無いぞ私は」
「ふふふ、自覚なされておられないご様子。定期的な集会によりアルカンレティアに居る教徒は既に貴女様へ全幅の信頼と信用を捧げ、慈愛の籠った説法に感動で噎び泣き、その類稀な美しさと色気と幼さが生んだ容姿に心を奪われ陶酔している者も多いのです。ぶっちゃけると次期最高教主の最有力候補に挙がっております」
「……嘘だろ?」
「誠でございます。ですので、そのような立場は恐らく突っぱねると思われましたので、殿堂入りみたいな感じで聖母の称号をでっち上げた次第です、はい」
……つまりこいつが動かなかったら教主に祭り上げられてた可能性あるのか私。
こっわ、何それ知らん、勝手に進めるなそんなの。
これに関してはゼスタに感謝しておくべきだろう。ソウルから一本のワインだった聖水を取り出して投げ付けておく。
一瞬でどのようなものかを理解したゼスタが、下賜されたかの如くははぁと畏まった様子でそれを受け取った。
その瓶の正体はアクアさんがついうっかり触れてしまって聖水にしたワインである。
コルクを抜く時に噴き出して慌てて塞いだ結果、聖水になった残念なワインだったものだ。
ストックは幾つかあるのでアクシズ教への賄賂や褒美に使える便利アイテムでもある。
「で、だ。アルダープの証言は証拠も何も無いでっちあげの脅迫でな。当日、私が弁護人側に立ってそれを論破するから、逃げようとした豚野郎をとっ捕まえるための人員を用意して欲しいんだ。頼めるか?」
「勿論ですとも。私も参加し、一個中隊程の精鋭を当日観衆に紛れ込ませましょう。必ずやアクシズ教に仇なす糞野郎を亀甲縛りのローストハムにしてやりましょうとも」
「見苦しいだけだから普通に捕まえろ」
「ですよねー、流石に野郎の緊縛とか反吐が出ますし、でもショタのなら見たいかも」
「お前のストライクゾーンが広過ぎて困惑するわ……。まぁ、兎も角裁判の日程を伝えておくから準備しておいてくれ」
「承知しましたマザー。アクシズ教の神髄をお見せ致しましょう」
何やらかすつもりだこいつ……。まぁ、もしもの備えができたからいいか。使い勝手が良くて助かるな。
まぁ、それはそれとして聖母としての賃金交渉に入ったら苦い顔をされたが。
そりゃお前勝手に祭り上げられるのは勘弁だが、変な称号で呼ばれるのも勘弁だわ。
縁を切ろうとしないあたり温情を感じてくれたまえよ、いや割と本気でマジで。
何が嬉しくて気持ち悪いおっさんを筆頭に変態予備軍及び手遅れ性癖堕ち済み馬鹿共の世話をしなきゃならんのだ。
……いや、待てよ? こいつらがハチャメチャやってるのも表に出す機会が無いからでは?
「……ゼスタ、ちょいと良い事思いついたんだが、誰もが自分の性癖を語っても問題の無い集会とか需要があると思わないか?」
「貴女のそう言う所が皆大好きなんですよ、流石マザー! 女神アクアの次に私たちの事を考えてくださる慈愛の聖母です!」
日本の誇りあるオタク文化の象徴とも言えるコミックマーケットの概念を伝えてやった。
半年に一回ペースで大規模なアングラ集会を開き、皆々が日々抑圧している願望や性癖を表に出すチャンスを作ってやるのだ。
男なんてどれだけ興奮しててもシコって出せば冷静になるのだから、規制なんてするから悪いんだ。
へへへ、無論売りに出されるであろう春画や薄い本へは局部修正のお達しなんてしてやらん。
ジャンル分けしてライトとディープな層を物理的に分けて配置すれば住み分けもできるし、日にちで男性用、女性用、共通一般用にしておけば更なる住み分けが可能になる。
いやぁ、水の街アルカンレティアが、性癖と欲望の坩堝の温床になるのも夢では無いな。
参加するのにアクシズ教徒である事を理由にしておけば、エリス教徒からの苦情も無く、逆に教徒が増える可能性も出てくる。
うーむ、我ながら外部特別顧問として良い働きをしてしまったな。
よし、紙を作る技術やレシピもこの際だし放出しておこう。大量に水もあるから一大産業と化すだろう。
「……その見た目で本当に業の深いお方ですな。だからこそ、私たちはアクア様を貴女にお預けできるのですが」
なんかゼスタがぼそぼそ言っていたが、どうせ変態ちっくな事を呟いているのだろう、無視に限る。
さぁて、モチベーションが上がって来たし、ある程度コミケ、いや、アクシズマーケット、略してアケットの草案を作っておくか。
こいつらに任せたらエリス教徒を巻き込むような変な内容にするかもしれないし、ちゃんと言い出しっぺとして監督せねば。
会場も此処の礼拝堂でやれなくもないし、大規模になったら設営すれば良いだろう。
ぶっちゃけ、自分の好きなように絵を描くのって時間を掛けないと難しいからな。
でもまぁ、迸るパトスとエロスと変態性で何とかするだろアクシズ教徒だし。
最初の方は小説とかをおすすめしておこうか。そこから絵に走ったり、フィギュアに走ったりして貰えば良いだろう。
……そんな風に草案を纏め終えたのが夕方の事で、ほぼ一日使ってしまったがそれなりの大作が出来上がった。
「では、次の定例会議の時にこの草案を提出しておきます。いやはや、本当に貴女が此方側で良かった」
「この世界娯楽が少ないから良い機会になると思ったんだ。それに、何かに集中させとけばお前ら大人しくなるだろう」
「たはは、これまた手厳しい。ですが、効果の程はありましょう。我々は新しいもの好きですからな、お祭りのチャンスを見逃すような間抜けではありませんので」
「……程々にな。いや、本当に。エリス教徒に迷惑掛けるなよ」
「あぁ、その事でしたら問題ありません。貴女の恋人がエリス教徒であると周知されてからは嫌がらせなどは収まりましたから」
「はぁ? なんでそこに私が理由になるんだ?」
「いや、その……、間違って貴女の恋人殿に粗相をしたら確実にやばい事になるでしょう? なので、ちゃんと裏を取った相手以外には軽はずみでしないように注意しているのですよ。まぁ、あの金髪の女性である事は知られているのですが、暗黙の戒律なようなものです。実は皆止め時を探してたんですよ。昔のノリで過ごすのを止める理由ができた、ただ、それだけの事です」
「ふーん、てっきりあの変な勧誘やエリス教徒への軽犯罪を止めたら見る目を変えられてちょっと良い感じだから継続していこうだなんて下心が見えるんだが、まぁ、いいか」
「そ、そんな事は、あり、ありませんぞ、ええ」
まぁ、アクシズ教徒から変な部分を抜けば、親しみやすいノリの良い奴だからな。
案外喋り易くて趣味に通じてて、悪戯ッ気のある気の良い隣人ではある訳だし。
そうじゃ無かったら今の今までアルカンレティアでアクシズ教徒とエリス教徒が混じって生活できているのが変だしな。
今朝のゼスタのお見合い話だってそう言う善なところが無ければ実現しなかった事だろうし。
……こいつらも成長してんだなぁ、だなんてしみじみと思う辺り私も毒されてるんだろうなぁアクシズ教に。
乗り掛かった舟とでも言うべきか。すっかり馴染んでしまっているからか、縁を切り辛いんだよな。
まさかとは思うがそこまで考えてこの変態私に粘着してたのか? 在り得そうな話ではある。
「……まぁ、こうして頼られるのも気分が良いから許しておくか。その分こき使うけど」
草案も纏め終わったのでお暇する事にする。……なんで私、草案纏めてるんだ。協力を求めに来た筈だったんだが……。
まぁ、いいか。次は商人ギルドあたりに顔を出して根掘り葉掘りしていくか。
取り敢えず、今日は帰るか。カズマくんの裁判までは日にちがあるので、やれる事はやらないとだしな。
大教会の篝火に触れて、教徒たちに見送られながらアクセルの屋敷へと帰還する。
いやー、魔力も消費しないし本当に楽だな篝火転送。一家に一台篝火設置、流行るんじゃないか、いや、無理か。
そんなアホな事を考えながら屋敷の庭から入口の方へと周り、玄関を開いて帰宅を果たす。
実家に帰って来たかのような心地に肩の荷が下りる思いだった。いや、うん、やっぱりあいつらの相手するの疲れるなって。
主に精神的にと言うべきか、そここそマザーモードと言うべきか、良い方向へ導こうとついつい思考が走るんだよな。
ぱたぱたと階段を下りて来たダクネスさんを見て、頬が緩んでしまった。あぁ、我が家って良いなぁ。
ただいま、と言って、おかえりなさい、と返ってくる日常の何と尊い事か。
それを守るためにもカズマくんの裁判に勝訴せねばな。よし、明日からも頑張ろう。