この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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誤字修正&訂正ありがとうございます。
うろ覚えで正しいもんだと思って使ってました、恥ずかしー。
ここすき&感想もありがとう!モチベになるから気軽に投げてね!


29話

 この世界に来てからろくでもない事ばっかりだ、そう嘆き続けた馬小屋生活を経て、超絶美少女おんおんさんのご厚意で屋敷に寝泊まりができて本当に俺は恵まれていたんだなと思う。

 この世界における裁判は前世のそれとほとんど同じではあるが、弁護士と言う職業は居ないらしく、被疑者側から要請して知人や伝手で集める事しかできないらしい。

 それを何故か隣の牢屋に入れられていたダストから武勇伝の如く聞かされた俺は正直勝ったと思っていた。

 何せ、おんおんさんは精神的年上であるし、何よりもパワータイプと言うよりも頭脳派、技巧派の人だ。

 毎日酒瓶とグラスを持って面会に来てくれたアクアから聞いた話であるが、色々と伝手を使って人を集めてくれているらしい。

 どうもダクネスに対するアルダープのセクハラめいた苦情を聞いてしまった事で手段を選ばなくなったそうだ。

 ……その結果が、これだ。

 裁判が行われる場所は裁判所の外に設営された広場であり、野次馬や見学者が見られるように柵でぐるりと囲ったスペースに日本の裁判所のそれを設置した感じだ。

 手枷を付けられ、被告人席である半円の柵の前に立たされようとする俺の隣には心強い人が居た。

 瞳に紅魔族特有の感情の昂りから来る妖しい輝きを炯々と灯したおんおんさんだ。

 睨む先は裁判官……では無く、被害者面をしたでっぷりとした豚領主ことアルダープだ。

 その異様な威圧感ある凄みと殺意めいた朧げな暗黒を纏ったおんおんさんの睨み付けに、完全にガクブル状態のアルダープだが、お前の敗因がダクネスへの粘着である事からギルティ案件だろう。

 ちらりと観客席を見ると、そんなアルダープを睨む異様な人々が幾人か混ざっており、その筆頭はニコニコと笑みを浮かべながら何匹もモンスターをぶち殺したであろうごっついメイスを柵に立て掛けている法衣服姿のおっさんだ。

 時折おんおんさんがそのおっさんにアイコンタクトを送り、頷きを返しているあたり味方なのだろう。

 

「……ねぇ、めぐみん。あれってゼスタさんじゃない?」

「……そうですね。と言うかあっちで見かけた事のある人たちがそこらに居ますし……」

「その、おんおんが応援を呼んだらしい。その人たちがそうなのか?」

「みたい、ですね。アクシズ教外部顧問、いや、今は聖母でしたっけ。その肩書きをフル活用しているみたいですね……、本気ですよおんおん」

 

 そして、おんおんさんが少し驚いた様子を見せていたが、そちらを見やれば先日おんおんさんに異端審問だと宣った青年も居た。その隣にはクリスも居る辺り、あそこはエリス教の伝手だろうか。

 ……オーバーキルが過ぎないだろうか。この面子を怒らせるとかよっぽど悪事に手を染めていたんだなこの豚領主。

 

「それでは、裁判の時間となりましたので開始とさせて頂きます。不法侵入および窃盗の告発を受けているサトウ・カズマは前へ。告発人、アレクセイ・バーネス・アルダープ、前へ」

 

 木槌で取っ掛かりを作った裁判長の静かな声色が裁判場に広がり、がやがやとした声が静まっていく。

 シンとした中、俺と豚領主が配置に付き、そして弁護人であるおんおんさんもまた配置に着いた。

 対面するセナがおんおんさんの様子に若干気後れしている事もあって、今のところ此方の優勢だ。

 まぁ、そもそも冤罪裁判なのでよっぽどのウルトラCをかまさない限り、豚領主の勝ちは無いだろう。

 なので、少し安心した心地で俺は被告人台へと足を進められたのだった。

 

「これより嘘見抜きの魔道具を起動させます。検察官及び弁護人、被告人及び告発人の嘘を認めません。では、検察官セナ、前へ」

「はい。起訴状を読み上げます。被告人サトウ・カズマは、デストロイヤーのいざこざの際に領主アルダープの屋敷に潜入し、オイルライターと言う魔道具の設計図を窃盗。これを持って商人ギルドへと特許申請を行なうも、事前にこれを見抜いた領主アルダープによってこれを阻止。屋敷への不法侵入及び秘密文書と設計図の窃盗の罪に問われております」

「被告人、この訴えに嘘はありませんね」

 

 え、えっと、この場合どうすれば良いんだ?

 本来なら大体合ってるから頷くべきなんだが、今回は丸っと嘘の証言で固められた内容だ。

 素直に違いますと言って良いのだろうか。弁護席に居るおんおんさんを見れば、木板にチョークで『否定して良し』と日本語で書いてくれていた。

 ……よし、息を吸って吐いて、口にする。

 

「断固否定します。先ず、デストロイヤー戦の日にそこの領主の屋敷に行っていませんし、場所も知りません。このオイルライターの設計に領主の手は入っておりません。全てはそこの領主のでっちあげに過ぎません」

 

 ベルの音は――ならなかった。

 その事により裁判長を含め検察官のセナ、野次馬がざわつく。

 アルダープを見れば非常に苦い顔をしていた。そりゃまぁ、略式裁判で一方的に断罪するつもりだったのに裁判場に引っ張り出されるとは思ってなかったんだろうな。

 

「発言を宜しいでしょうか」

「む、弁護人の発言を許可します」

「ありがとうございます。告発人である領主アルダープへ幾つか嫌疑のため質問をさせていただきたい」

「ふむ、嫌疑とは?」

「そもそもの話、領主アルダープはオイルライターの権利と設計図を掠め取ろうとしている嫌疑があります。第一に、商人ギルドにて確認してありますが、特許申請の際に名義がお抱えの加工技術者ではなくアルダープ本人である事。商人ギルドへの特許申請は製作者本人または店単位の申告である事が義務付けられているため、これに則ると領主アルダープ本人がこのオイルライターの制作に関与していなければなりません」

「……商人ギルドからの証拠は、ふむ、これですな」

「はい、既に提出済みです。ですので、質問をさせていただきたいのです。真に制作に関わるのであれば、頭の中に設計図はあるものです。この神聖な裁判の場において、それを発言できない事は無いでしょう」

「一理ありますな。告発人アルダープ、前へ。弁護人からの質問を受ける事を命じます」

「なっ、何でワシがこんな小娘の指図を受けねばならんのだ! そこの小僧がワシの設計図を奪い、金策を試みたのだ! 小僧を貴族侮辱罪で死刑にすべきだろう!」

 

 ベルの音は――≪ヒュー、ヒュー≫――鳴らなかった。

 その結果におんおんさんが眉を顰め、何事かを考え始めた。今の発言は嘘だ。それは俺にだって分かる。

 何せ、オイルライターの設計図だなんてものを俺は書いていないからだ。

 この世に存在しない筈のそれが存在している、そんな気味の悪い結果に背筋が冷えて来た。

 

「……成程な、そう言う絡繰りか。至極面倒なものに憑かれよってからに」

 

 そんなおんおんさんの静かな声が裁判場に響いた。

 誰もがおんおんさんへと視線を向け、それはアルダープも含まれていた。

 先程までは怒声と勝ち誇ったような表情を浮かべていたアルダープだったが、背中に氷柱をぶち込まれたかのように冷や汗を流しておんおんさんを睨み付けていた。

 先程まで炯々と輝いていた瞳はなりを潜め、その代わりに右眼が仄暗い炎のような色合いを浮かべていたのが印象的だった。

 まるで、この世のものではない何かを見通しているかのような、そんな虚ろさがその瞳に込められていた。

 

「アクシズ教聖母の名のもとに宣告する。アレクセイ・バーネス・アルダープ、汝に悪魔が憑りついている。具体的には後頭部の無い金髪美少年の悪魔、えぇと、まくす? とやらがお前の魂を握っている」

 

 ズビシッと人差し指をアルダープに指したおんおんさんの言葉にベルは鳴らなかった。

 観客席が阿鼻叫喚に陥り、静粛にと叫ぶ裁判長の声を押し退け、裁判場に入って来た数人の人物がアルダープを囲うと、あのおっさんを筆頭に『セイクリッド・バインド』と言う詠唱と共に光の輪っかのような拘束を全身に掛けていた。

 クリスの横に居た青年が非常に恐ろしい表情でアルダープに駆け寄り、『セイクリッド・エクソシズム』と詠唱しながら右手を向け青白い炎を浴びせた。

 瞬間、何事も無かったかのようにしていたアルダープが苦しみ始め、黒い靄のようなオーラを吐き出していた。

 

「……随分とお粗末な事だ。悪魔相手に対価の踏み倒しなんてできやしないのにな」

『ヒュー、ヒューッ、そんな事言わないであげてよ。アルダープはとっても可愛いんだ。とっくに対価を支払ってるのに払ってないつもりで居るんだから。僕が辻褄合わせのマクスウェルだなんて呼ばれているのに、ちっとも気付かないんだ! 可愛いでしょう! こんな無様で、傲慢で、何にもできないアルダープが僕は大好きなんだ!』

 

 おんおんさんの冷たい眼差しと呆れの声に、何処からか無邪気な少年の声が返された。

 その声を聞いた俺たちは酷い悪寒と悍ましさを感じ、身体が震えて仕方がなかった。

 地面に転がったアルダープの黒い靄からその声は聞こえていた事から、先程の言葉を信じるのであればマクスと言う悪魔の声なのだろう。

 

「な、何を言うマクスウェル! お前はワシの下僕だろうが! 対価はちゃんと払っているだろうが、お前が間抜けで忘れているだけだ! 今、この場に居る奴らの記憶を消せ! そして、あの小僧が設計図を持っている事にするんだ! さぁ、早く! ワシの命令が聞けんのか!」

 

 狂気染みた様子で暴れ回りながら怒声を吐くアルダープの様子に全員の視線が集まる。

 もしや、先程の嘘見抜きの魔道具を何とかしたのはその悪魔の仕業だったのか。

 

『あはははは! アルダープ! 間抜けでおっちょこちょいなアルダープ! 可愛いね! 僕が出来るのは辻褄合わせだけ! この世に無い物を有る事にはできないよ! ヒューッ! それに、もうあそこのお姉さんにバレちゃってるみたいだから言っちゃうけど、もう君が支払える対価は無いし、寿命じゃ足りないくらいに積み重なっているよ? ヒューッ!』

「ヒュッ、は、は? ど、どう言う事だマクスウェル。ワシはお前に対価なんて……」

「……お前のソウル、いや、魂はもう風前の灯だ。辻褄合わせか、成程、悪趣味な事だ。無い物は増やせないが、有る物を誤魔化す事はできるらしい。何度命令をしたんだろうな、お前。その回数分の魂を千切られて喰われているのに気づかずに、よくもまぁのほほんと暮らせたものだ。そこの悪魔のお前への執心っぷりは凄いぞ。ソウルにまくすと名前を書いておくぐらいにはな……」

 

 おんおんさんの何とも言えない声色で告げられた言葉にアルダープは唖然としていた。

 恐らく、あいつは自身で言っていたように対価とやらを払っていないつもりだったのだろう。

 あの無邪気な悪魔はそれを見越して欺瞞させていたらしい。

 ……それってなんてリボ払いだ。前世の問題になりそうな支払い方法がちらっと脳裏に浮かんだ。

 

「その様子だととっくの昔にソウルで払える分は支払い終わってたんだろうな。私が憶測するに、子供のような悪戯心でお前は薄氷の上で踊るアルダープを見て楽しんでいたんだろう。悪魔は悪感情を好むと聞くからな。傲慢で強欲で、色欲も執着心も支配欲も強いアルダープの事だ。豚を肥やして食べるかのように、その自尊心を高めに高めて有頂天にさせて、然るべきタイミングで崖から足を転ばせたかのように転落させるつもりだったんだろう。……本当に悪趣味な悪魔だ」

『ふふふっ! あははっ! ヒューッ! ヒューッ! もうちょっと美味しくしたかったけど、妥協してあげる。お姉さんに手を出されたら手に入らなくなっちゃうしね。あはははっ! さぁ、アルダープ! 僕と地獄で過ごそう! 壊れたらすぐに捨てちゃう君と違って、僕はものを大切にするんだ! だから、壊れる限界まで遊んでも、ちゃーんと元に直してあげる! 何度も、何度も! 楽しいねアルダープ! 可愛いなぁアルダープ! あはは、あははははっ、ヒューッ! ヒューッ!! ヒューッ!!!』

「た、助け――」

 

 ずるりとアルダープの影から貴公子然とした金髪の美少年の顔が現れたかと思うと、首と腰を掴んでそのままとぷんと影へと連れ去って行った。

 そこに居た筈のアルダープの姿は無く、そこには何も無くなった空席の告発人席があった。

 唯一あるとすれば首元を爪で引っ掻かれたのか数滴の血の跡が残っていたぐらいだ。

 目の前で起きたショッキングな惨劇に誰もが口を閉じた。

 そして、エリス教やアクシズ教が悪魔撲滅を掲げる理由を心で理解した。

 あんなやべぇのこの世界に生かしておけない存在だわ、そりゃ血眼にサーチ&デストロイするわ。

 この場に居た誰もがあのマクスウェルと言う悪魔の威圧感に気圧され、真正面から立ち向かったおんおんさん以外は発言する事もできやしなかった。

 

「……まぁ、思ってた展開と違うが、ヨシッ。さて、もうこんな茶番どうでも良いだろ、裁判長、判決を下してください」

「あ、あぁ……、告発人アレクセイ・バーネス・アルダープが悪魔憑きであった事もあり、証拠不十分かつ冤罪の可能性が高いとし、被告人サトウ・カズマへの罪状を取り下げる事とする」

 

 面倒な事が終わったとばかりにあっさりとした様子のおんおんさんの言葉に、裁判長がこの冤罪裁判の終わりを告げた。

 観客席から躍り出たおっさんたちはおんおんさんに一礼し、颯爽と出て行き、アクアに深々と一礼してからこの場を去って行った。

 あぁ、やっぱりアレ、アクシズ教徒なのか。道理でおんおんさんの彼らに対する扱いが雑だと思った。

 そして、この前ギルドに来ていた白い法衣を着た青年がおんおんさんの方へと歩み寄る。

 

「あの術は憑りついているタイプには効かないんだな」

「えぇ、残念ながら。実際に憑りついている場合であれば剥がせたのですが……。恐らく、契約と言うパスを用いて一部だけ憑りつかせていたのでしょう。あの男性が連れていかれた先は恐らく地獄。諦めるしかありません。前に先輩から聞いた事があります。地獄の公爵が一人、辻褄合わせのマクスウェル。運命を捻じ曲げる力を持つと言うとんでもない悪魔だそうです。地獄の公爵が一人、見通す悪魔のバニルが煽った時に口にしたとされていて、その実態は今まで分かりませんでしたが……」

「実に恐ろしい悪魔だなアレは。アレは酷く無垢だ。子供が蟻を潰して笑うように、餌である人間を殺しても楽しそうに笑う事だろうよ。豚領主も厄介なものに魅入られたものだな」

「全くです……。ですが、最悪な状況にならなかったと安堵しておくべきでしょう。我らが女神、エリスの名の下にあの悪魔を滅せれなかった事だけが心残りですが……」

「あの様子なら数百年は出て来ないだろ、多分。どれくらいまで寿命を延ばせるかが焦点だな」

「あはは……、うちの隊長みたいに肝が据わってますよねおんおんさん。アルカンレティアで一心不乱に団体行動するアクシズ教徒に物理的に巻き込まれて、そのままアクセルまでテレポートされた時は何て日だと思いましたが少しでもお役に立てて良かったです」

「……声掛けてなかったけどそう言う経緯で来てたのか。すまないな、代わりに謝罪しておこう」

「あぁいえいえ、お気になさらず。それもまた女神エリスの導きでしょう。それでは、元の任務に戻りますので失礼します」

「あぁ、息災で」

 

 色気のいの字も無いビジネスライクな会話をしてエリス教徒らしい青年が去って行った。

 ……多分あのおっさんを筆頭としたアクシズ教徒なんだろうなぁ、巻き込まれたってどう言う事だよ。

 おんおんさんへの視線を強めてしまっていたからか、視線に気づいた事で苦笑して説明してくれた。

 何でも今日のためにアクシズ教から精鋭を一個中隊呼び寄せていたらしく、先程確保に向かった人員とは別に封鎖の人員も居たらしく、私兵か何かを用いて逃げ出そうとするであろうアルダープを抑え込むために配置していたらしい。

 先程の青年はオルナルドと言って、エリス教の悪魔祓いの一人なのだとか。

 それ以上の事は知らないので知り合い程度の相手らしい。

 

「まぁ、仮にあの悪魔が暴れ出しても悪魔特攻なアクアさんも居たし、何とかはなっただろうな。オルナルドさんの先制が入った事で、アルダープから切り離される可能性が出て来たから撤収したんだろうよ」

「そ、そうなんですか?」

「あぁ。何かしらやらかすだろうなとは思ってたが、まさか悪魔だとはな……。発言に嘘があったのに魔道具が鳴らなかったから訝しんでソウルを見れば、あの悪魔がソウルに頬擦りしてたのが見えたんだ。これは茶番してる場合じゃないなと速攻を決めた訳だが……。まぁ、犠牲がアレだけで済んだから御の字だろう」

 

 地面に唾を吐き捨てるかのような声色でアルダープの存在を切り捨てたおんおんさん。

 よっぽどダクネスへの悪質な粘着に怒り心頭だったのだろう。

 ……まさかとは思うけども、もう残り少ない魂を見て、この場を切り抜けさせるために力を使わせれば、あの悪魔の手で処理させられるからあの宣告をしたんじゃなかろうか。

 ダクネス曰く、幼い頃から下卑た視線を受けていて実際手出しをされかけた事もある、との事だったので、それこそ自身の手で始末したいくらいにキレていたようだし……。

 あ、有り得る、とんでもない事に気付いてしまった。この事は墓まで持っていく事にしよう。

 俺もまた隣の墓穴に埋められかねん……。

 

「い、いやぁ、アルダープは強敵でしたね……」

「ふん、犬の餌にもならん結果だがな。まぁ、これで私の恋人に対するドブ川みてぇな汚らしい粘着質な嫌がらせも無くなるだろうし、万々歳だ。カズマくんも晴れて無罪だしな」

「あ、あはは……」

 

 怒り狂ってるおんおんさんこっわ。近づきたくねぇけどお礼言っておかないとな……。

 

「俺のために、まぁ、殆どダクネスのためでしょうけども、色々と手配してくれてありがとうございました」

「あっはっは。流石にダクネスさんの件は後付けの理由に過ぎないよ。そこら辺に転がしておくかと思ってたのが、八つ裂きの挽肉にして犬の餌にしてやるぐらいに変わっただけだしな」

「喧嘩沙汰が立派な未解決事件に成ってるんですがそれは……」

「まぁ、それはそれ、これはこれだ。諸々の手続きを終えたら帰れるんだ。それで良いのさ」

「は、はぁ……」

 

 まぁ、温かい食事に温もりのある屋敷に帰れるんだし、素直に喜んでおくか。

 あの悪魔も豚領主が死ぬまでは出て来ないだろうし、縁は切れたと考えておこう。

 オイルライターの制作は少し置いといて、暫くはクエストで外に出て気晴らしするか。

 ぶっちゃけ、ベルディアの時のが残ってるし、デストロイヤーの分も報酬が入って来るだろうけども、折角身体を鍛えたりしているから使う場面が欲しいんだよな。

 おんおんさんのような上級冒険者みたいなクエストは受けずに、ジャイアント・トードみたいな簡単なのを受けておきたいもんだ。

 ……決して、めぐみんの日課の爆裂魔法に付き添った時にカエル共を冬眠から起こしたから減らしに行かなくちゃならないと焦っている訳じゃ無い。

 爆裂魔法はネタ魔法ではあるが、見てくれは格好良いからついつい見たくなるんだよ。

 そんな男の子心と爆裂魂が組み合わさった結果、あの早期冬眠卒業を果たしたカエルの群れが爆誕してしまった訳で。

 

「……見なかった事にしちゃあ駄目だよなぁ」

「ん? 何かやらかしたのかカズマくん」

「いえ、俺って言うかその、めぐみんが……。カエルたちを爆音で目覚めさせちゃったんで、付き添ってた俺も同罪かなーって」

「……ふむ。そう言う事か。まぁ、カズマくんなら大丈夫だろう。めぐみんにも責任を取らせるとして……、アクアさんとゆんゆんも連れて行ってくれ」

「あはは、そうします……。おんおんさんはどうするんですか?」

 

 いやまぁ、居てくれたら楽になるけども、俺のためにならんもんなぁと後ろ髪を引かれる思いで断腸の心境で諦めざるを得なかった。

 おんおんさんは何処か遠い目をして、疲れたように言った。

 

「この前ソウルを砕きまくったからそれの補充をしておかないといけないんだ。デスマーチする予定だからダクネスさんはこっちに連れて行く。デコイで釣って連続狩猟だ。取り急ぎ、ソウルを集めておかないと安心できないからな。……また魔王軍幹部が襲来するかもしれんし」

「……原因、アクア、っすかねぇ」

「いやぁ、どうだろうな……。きっかけはそうかもしれんが、ベルディアを倒した事が呼び水になった可能性もある。だからまぁ、カズマくんが考えているように自身のレベルアップを図るのは正しいよ。いざと言う時に、数歩進める体力があれば誰かを救えた、だなんて場面になって後悔するとか嫌だしな」

 

 先日のおんおんさんの背中が爆炎に埋もれる場面が脳裏に蘇る。

 あの時助けに入る事なんて出来なかったが、あそこまで絶望的ではない場面で果たして俺の足は動くのだろうか。

 その相手が、不死であるおんおんさんではなく、もしも、あぁ、もしもだ、アクアだったりしたら……。

 無意識に右手を拳にして力強く握り締めていた。その時、俺はアクアを助けられるだろうか。

 そんな俺の心境を見越してか、真正面から左肩に右手を置いたおんおんさんが笑みを浮かべた。

 

「頑張って努力して得たそれは必ず君の力になる筈だ。ただのカエルだと思わないで、何処の部位を潰せば有効か、高速で迫る舌の対処、考えられる弱点の考察、効率良くカエルを狩り続けられる身体捌き、剣の振り方一つでも考えれば考えるだけ選択肢が増える。カズマくんの長所は応用力だ。初級魔法を組み合わせて扱う発想の良さや、冒険者と言うラーニング能力を持つ可能性の職業である事、そして何よりも君は悪運の強さがある。最後まで諦めずに考え続けろ。それがきっと君の強みになる」

「……はいっ!! ありがとうございます師匠!」

 

 にこりと微笑みを浮かべるおんおんさんの言葉に胸の奥で炎が燃えた気がした。

 ごぅごぅと俺のやる気をくべて燃え上がる熱さが込み上げる心地だった。

 ……師匠だしな、だなんて超絶にっこり笑顔を見てハートを射抜かれる心地だったが、この人にはダクネスとめぐみんが居るからそれ以上の事を考えちゃいけない。

 百合の間に挟まる男はシベリア送りか射殺刑だ、触れちゃいけない世界があるんだ。

 

「それじゃあ帰ろうか。久しぶりの屋敷だし、少し豪勢な夕飯にしようか」

「マジっすか!? いやぁ、めっちゃ嬉しいっす。大人しく牢屋に入ってた甲斐があったってもんですよ」

「ふふふ、まぁ得難い経験ではあったな。今日はカズマくんのリクエストに応えようじゃないか」

「いやっぉほおおおうぅっ! 最高だぜぇええ! ハンバーグでお願いします! おっきな奴!」

「ふむ、私の小さな手だと大変だが……、まぁ、今日くらいは良いか。絶品ハンバーグを御馳走しようじゃないか」

 

 思わずガッツポーズをしてしまった。念願叶ってハンバーグを食べられる!

 おんおんさんが! その小さな手で! こねこねして! ぺたぺたした手作りハンバーグを!!

 これ以上の至福があるだろうか、いや、無い。可愛い女の子の手料理とか最高過ぎる。

 はぁああ、少しだけアルダープに感謝してやってもいいかもしれない。

 まぁ、あいつは今頃地獄で悪魔とランデブーだけどな! デブなだけに!!

 るんるん気分で若干スキップが出た俺を見て、おんおんさんが微笑ましそうに苦笑する。

 ……この際中身が男だろうが問題無い、見た目が可愛い女の子なんだから楽しまなきゃ損だろ!

 牢獄に入れられ、アクアに懺悔室めいたテンションで色々と語った結果、そんな悟りを俺は得たのだった。

 

「……今度、そこそこの酒でも用意してやるか」

 

 無実の罪で投獄された俺を優しく癒してくれたアクアに少しくらいはお礼を言うべきだろう。

 そんな事を考えていたからか、俺はすっかりと忘れていた問題と向き合う事を余儀なくされた。

 屋敷へと帰る大通りでふんだんに金を注ぎ込んだのだろう立派な鎧に身を付けたそいつと出くわしたのだ。

 俺と同じくアクアに転生して貰った若干ナルシストっぽいリア充糞野郎の……誰だっけ。

 

「サトウカズマ! 約束通り色々と話して貰おうか!」

「選りによってこのタイミングで来るのかよオツルギ」

「ミツルギキョウヤだ!! よもや裁判沙汰で投獄されていたとはな。そんなお前にアクア様を任せられるか!」

「やっぱりそこに焦点が行くのな……。はぁ、悪いが色々と疲れてるんだ。明日にしてくれ」

「ふんっ、そんな事を言って怖いんだろう。僕にアクア様を取られるのが」

「……はぁ? アクアを? お前が? ナイスジョーク。お前にあいつの手綱を握るのは無理だろ。キャバ嬢に貢ぐおっさんの如く苦労するだけだぞ」

 

 売り言葉に買い言葉、こいつは駄目だな、何にも分かってない。

 あのポンコツ駄女神がどれだけ面倒なのかを全く理解してない。

 と言うよりも、アクアがお気に入りのおんおんさんの庇護下に居るって事を全く気付いてないだろ。

 確かにアクアは俺の転生特典だが、ある程度意思を尊重して縛り付けるような事はしていない。

 そもそも、アクアに対する命令権がある訳でもない。

 拘束力は皆無であり、俺たちは雰囲気でバディを組んでいるようなものだ。

 仮にアクアがこいつの下へ行ったとしよう。

 毎日ゆっくりと暮らせる屋敷も無く、朝昼晩の食事を用意するも外食のそれ、あの腰巾着っぽい女二人との争いは必至。

 ……いやぁ、無理だろ。考えれば考える程、こいつにアクアを渡す訳にはいかない。

 

「ま、そう言う事で、お前にアクアを取られる理由も無いし、さっさとあの二人の所に帰れば?」

「どういう事だ!? 君の脳内で完結しただけだろう! こうなれば、実力行使も――」

 

 ぞくり、と後ろからの威圧感に背筋が凍った。振り向いてみれば、良い笑顔のおんおんさんが居た。

 恐らく俺が受けたのは余波だ。何せ、目の前のミツルギは冷や汗を流して、脚を震わせて奥歯を打ち鳴らして恐怖の表情を浮かべていた。

 

「ほぉ、良い度胸だな。アクアさんを物扱いし、あまつさえ力尽くで奪おうとするとは。……男の風上におけないなぁ、少年。よっぽど実力に自信があるようだが、君のパーティメンバーの雑魚さ具合から推測するに、君のワンマンパーティだろう?」

 

 威圧感を伴って小さな歩幅で近付いて来るおんおんさん。

 それに恐怖して少しずつ後退るミツルギ。

 まるで狩人と獲物みたいな立ち位置に、良いぞもっとやれと俺は内心ほくそ笑んだ。

 

「そこにアクアさんを入れたところで機能するとは思えないし、何よりも危険性が高いな。装備を見るに君が切り込んであの二人が後ろでうろちょろするだけだろうし、アクアさんが居る必要性がそもそも無い。ぶっちゃけた話、君よりもアクアさんの方が重要度が高いんだ。前線に出て真っ先に切り結んで、囮と前衛をやる事しか能が無さそうな君じゃあアクアさんが危機に陥った時に助けに入れない。それどころか、あの二人を庇って死ぬ未来しか見えない。そんな三流パーティにアクアさんを入れさせる訳にはいかないな」

「な、なんでそんな事を言えるんだ君は。僕ならアクア様を守りながらちゃんと戦える!」

「……根本的な所から間違っている。前衛の君の隣に後衛のアクアさんを置く意味が分からない。なんだ、アクアさんは君専用のポーション係か? 歩くPOTか? 随分と傲慢なんだな君は。それだから大切な事を見落とすんだ」

「……何を、言って」

「お前とあの子たちのレベル差幾つだ? 明らかに十以上は離れているだろう。パーティの安全マージンを自分一人で担おうだなんて馬鹿がリーダーとか最悪が過ぎる。お荷物になった二人を助けるためにお前が無茶して無駄死にしてそれで終わりだよ。あの二人は君の情婦か何かか? 見せびらかしたいから連れているだけか? 随分と下半身がだらしないんだな、魔剣の勇者候補殿?」

 

 うっわぁ……、めっちゃくちゃミツルギが苦い顔をしてたぞ。

 多分、レベル差酷いんだろうな。まぁ、こいつが騎士ロールして率先して倒してたらそりゃそうだろうな。

 ある程度戦闘に加わらないと経験値は入らないし、そもそも後ろからチクチクするだなんて誰でもできる。

 爆裂魔法一辺倒のめぐみんにだって後ろから槍でチクチクするくらいはできるんだぞ?

 

「ぼ、僕と彼女たちの間にそんな如何わしい関係は無い! 僕の仲間を侮辱するだなんて!」

「……え? お前童貞なの? もしかして、あの二人に寄生されてるってパターンか?」

「ど、童貞じゃ、んんんんっ!! 貴様、サトウカズマ、貴様ぁ! 小さな女の子の後ろに隠れてそんな悪態を吐くだなんて恥ずかしくないのか!?」

「いや、別に。俺はお前と違っておんおんさんの事を信頼しているし、何より実力差をちゃんと理解してる。追いつくために努力もしてるし、あんな男に媚びるだけの恰好をしてる奴らよりもしっかりしてるつもりだ。何と言うか、お前はアクアを求めるよりも自分のパーティの事考えた方が良いぞ?」

「余計なお世話だっ!!」

 

 恐らく精神的に限界が来たんだろうな、激昂してミツルギが俺に長剣の切っ先を向けた。

 ……そして、おんおんさんの穏便に済ませようと考えていたラインを越えたのだろう。

 ミツルギの懐にするりと入り、見事なアッパーカットで顎を打ち抜き、地面に昏倒させた。

 ワザマエッ! と言いたくなるような見事な動きだった。

 膝のバネと腰の入った昇竜拳でKOされたミツルギの手から長剣が零れて地面に転がった。

 そして、近くに居た衛兵にミツルギを託し、一つ溜息を吐いたおんおんさんは歩き出した。

 まぁ、なんだ。お前は俺に向けたつもりなんだろうけども、その間にはおんおんさんが居た訳で。

 留置所に連れていかれるのだろうミツルギに合掌。二度と顔見せなくて良いぞ、面倒だし。

 恐喝の証拠として衛兵に拾われた長剣と共に残念なイケメンが運ばれていく様を一瞥して、ちょっとすっきりした気分でおんおんさんについて行く。

 アホな事をしたミツルギの事は頭から追い出して、夕飯に出るであろうおんおんさん特製のハンバーグに思いを馳せる事にした。




アルダープ死す! 第七巻完っ!! ……なんつって。
ぶっちゃけるとこの世界線だとダスティネス家の借金は無いので、アルダープがふんぞり返る理由が無いんですよね。
居ても居なくても変わらんし、此処で退場です。
魔改造マクスウェル君の出番は……今後あったっけ? 覚えてないや。

ベルディア戦でのアクアの被害→古城での決戦のため無し
デストロイヤーの被害→ソウルに仕舞ったかつ白い霧の結界で受け止めたので無し。
うん、ダスティネス家を強請る材料無いね……。

七巻の部分はオリジナル差し込んでおくのでご心配なく、そのための伏線です。
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