この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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誤字修正ありがとうございます!
ここすきと感想もありがとう!

あくまで作者の妄想なので深く突っ込まない様に。
「作者そこまで考えてないと思うよ」


30話

 カズマくんが冤罪勝訴をキメて屋敷に戻って来た翌日の事。

 私は森林の中で、獅子の身体から生えた短い蝙蝠の羽根に蠍の尾をゆらゆらと揺らしながらのっそりと歩くマンティコアを迎え撃っていた。

 マンティコアの特徴は以上のキメラっぽい姿なのだが、特筆すべき箇所は顔である。

 

「ぐぉぉおぉおおぉおおおお!!」

 

 老人の顔、つまりは人面犬、いや、獅子の身体だから猫科で人面猫、いや、人面獅子……?

 獅子にしておこう、猫を殺すのは私の中では御法度だ。

 既に正気を失い知性を失ったからと言って老人、つまりは人であった知恵は残っている。

 前足を振り下ろしながら、刹那の隙を狙って蠍の尾を突き刺しに掛かる姿は非常に狡猾だ。

 

「キュォオオオンッ!!」

 

 そして、頭上では獅子の身体に鷲の翼と顔を持つグリフォンが宙を飛び此方を威嚇している。

 いや、生態からしてマンティコアを狙っているのだろうか。

 それとも、不倶戴天の仇として名高いマンティコアと対峙している私を嗾けて漁夫の利を得ようとしているのかもしれない。

 ユウキさんにベルディアの鎧から作って貰ったラージシールドを眼前に構え、襲い掛かったマンティコアの一撃をバックステップで避けながら、更なる追撃のために前に進んで狙いの甘いそれを横へ弾くようにパリィを決める。

 軸を崩され足を滑らせたかのようにつんのめるマンティコア。

 その瞳へパイルハンマーの切っ先を突き刺し、トリガーを引いた事で爆発的な加速度で杭が機構により押し出され、脳漿を撒き散らす勢いで頭を吹き飛ばした。

 うむ、対生物の得物としてこのパイルハンマーは素晴らしい出来だ。

 冷却を必要としたパイルハンマーを再び変形させて杭を戻しておく。

 あっさりとくたばったマンティコアを嘲笑うかのように甲高い雄たけびを上げるグリフォンを警戒せざるを得ないからだ。

 

「……まぁ、生態が本当にその通りなら杞憂なんだけどな」

 

 キュルキュルと喉から音を出してマンティコアの前に降り立ったグリフォン。

 ねぇ、どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち? と嘲笑うようにマンティコアに文字通りの死体蹴りを放つ光景を見てめっちゃくちゃ仲悪いんだなと何とも言えない気分になる。

 煽りに煽って満足したのか、此方を向いてぺこりと一礼したグリフォンがマンティコアを捨て置いて再び羽ばたき、何処ぞへと去って行った。

 ……ふぅ、連戦にはならなかったな。

 ベルディアの盾とパイルハンマーをソウルに仕舞い、剥ぎ取り用のナイフを取り出してマンティコアの解体を始める。

 農村地帯から少し離れた山奥で縄張り争いをしているグリフォンとマンティコアを何とかして欲しいと言う依頼を達成した私は、脳内にリスト化した依頼の一つに横線を引く。

 アクセルのギルドにあった高難度の依頼を片っ端から受けて、ソウルの足しにすべくこうして狩猟している訳だ。

 

「お疲れ様。そのパイルハンマーと言ったか、凄い威力だな。マンティコアの頭を一発とは……」

「それだけの威力を出すために結構掛かっているからな。実に良い出来だ。物理的な火力の低い私にはぴったりの武器だ。パーフェクトだユウキ、とでも言うべきかね」

 

 木々の間から歩いて来たダクネスさんに労われながら、マンティコアを解体していく。

 マンティコアは肉は食えないので魔法の媒体になる心臓、蝙蝠羽根と獅子の爪に蠍尾を剥ぎ取る。

 残った残骸は『混沌の火の玉』で焼却し、後始末を終える。

 『クリエイトウォーター』で手を洗いながらそれらを仕舞い込み、ダクネスさんへと向き直る。

 久々にピカピカの金属鎧に身を包んだダクネスさんへと近寄り、トレントを召喚して二人で乗り込む。

 

「えぇと、次は……森を徘徊する一撃熊の排除だな」

「戻らないのか? 確かに戦いは一瞬だったが……」

「数を熟したいんだ。疲れてもいないしな」

 

 次の場所、一撃熊が目撃されたのはこの近辺であり、恐らく縄張り争いで場が荒れて逃げ出した個体だろう。

 ソウルを感知する瞳で大体の位置を割り出し、トレントで足早に駆けて現場へ向かう。

 少し遠目の藪をがさがさと漁る一撃熊を見つけ、依頼書にある傷の特徴などを照らし合わせて個体を識別する。

 まぁ、別に違っても狩るんだけどな。食料になるし。

 だが、依頼がある以上、その個体を狩っておかねばならないのは当然の事だ。

 頬に矢が突き刺さった傷跡があり、首元が白い個体……、うん、こいつだな。

 トレントから降りて、盾だけを取り出して右手に呪術の炎を灯す。

 マンティコアのように大振りの腕を振るってくるモンスターであれば簡単にパリィできるが、鋭い一閃めいた素早い振りをしてくる一撃熊は不安が残る。

 なら、最初から呪術主体で戦った方が効率的だ。

 此方を匂いで察知したのだろう、唸り声を上げて威嚇する一撃熊が二足歩行に移行して両手を構える。

 一撃熊は突進のように近付き、首を狩る戦法を取る事が一般的だ。

 

「グゥオォォオオオンッ!!」

 

 前に傾くように前傾姿勢を取り、四足走法で突進するように駆ける姿は正直怖い。

 ある程度近付いて来たら再び二足歩行に戻って利き腕を振ってくるのが一撃熊のパターンだ。

 迎撃する瞬間は二足歩行になる瞬間、利き腕をブローバックするその時を狙い、呪術を解き放つ。

 

「『大発火』!」

「グォンッ!?」

 

 一瞬にして前方に解き放たれた爆炎に身体を吹っ飛ばされた一撃熊。

 後ろに尻餅を搗くように倒れた所を出の早い『苗床の残滓』を放って追撃する。

 咄嗟に身を捻ったものの右半身に火球を受けた一撃熊が焦げながら痛みに吠える。

 

「喧しいッ!!」

 

 ソウルから取り出したグレートソードを上段に構えてそのまま振り下ろし、脳天を叩き割る。

 頭の上半分を真っ二つにされて絶命した一撃熊を見下ろして、一息吐く。

 ダクネスさんと協力してロープで木の枝に吊り上げて、血抜きをしていく。

 この一撃熊の特徴である首から上を切り取り、血管に指を入れて『クリエイトウォーター』を詠唱して中を雑に洗い、部位を提出する用の皮袋に仕舞い込む。

 一部の討伐依頼には依頼書の特徴のある部分を提出する事が義務付けられている。

 まぁ、別の個体を倒して提出する輩が前に居たらしく、不正防止のためと安全策のためにそう規定されているらしい。

 そりゃまぁ、暴れ回る元凶を倒さなきゃ安全にならないからな。

 もう安全だと現場に向かった依頼者に危険が及ぶのであれば依頼の意味が無いしな。

 ギルドに場所を指定して回収して貰う事も選べるのだが、その場合は時間が掛かるので鮮度は落ちる。

 食用にできる部位が非常に不味くなるので、私はその場で血抜きをしてソウルに仕舞い込む事にしている。

 まぁ、流石に大きな個体だったりすると血抜きが大変なので、ダクネスさんが居てくれて良かった。

 さて、と。血抜きまで暫く掛かるので別の事をするか。

 

「と、言う事で『デコイ』を使って欲しいんだが」

「どう言う事で『デコイ』を……? まぁ、良いが……」

 

 首を傾げながらダクネスさんが一撃熊の隣で『デコイ』を発動する。

 因みに、このクルセイダーのスキルである『デコイ』は敵の注目を集め、ヘイトを集中させると言うものだ。

 そして、敵に囲まれてフルボッコにされたいと言う野望のあったダクネスさんはこれをせっせと強化し、その範囲、そのヘイトの強さを非常に高めている。

 これをこんな場所で行った場合はどうなるか。

 

「ギィギギッ!!」

「グギャアギャ!」

「ブゥオオオオォオ」

「ギャァウッ!」

「グゥルルルルッ!」

 

 意図的なモンスターハウス(屋外)の発生が起きる。

 たゆんたゆんなおっぱいを持つダクネスさんに下卑た笑みを浮かべて走り寄って来るモンスターたち。

 それを横合いからヘイトを奪いながら不意打ちしていく。

 ゴブリン共をブロードソードで叩き切り、はぐれのオーガの両足を落してから首を落とし、威嚇しながら木の枝から躍り出た初心者殺しの頭をグレートメイスで叩き潰し、素早く近寄って来たハウンドドッグ共をそのままホームランする。

 まるでボスラッシュが如き集まりっぷりに引き攣るダクネスさんだが、その視線が此方に来ているように思えるのは何故だろうか。

 

「あの、お、おんおん? これはいったい……」

「ん? 釣り狩りだよ、釣り狩り。ダクネスさんがヘイトを取って、そこらのモンスターを集める。私がそれを片っ端から狩る。実に効率的な狩りだな」

「いやいやいやいや……、流石にそれは……」

「だって、態々歩き回ってモンスターを釣るのも面倒だろう。ここ等に居る程度のモンスターならこうしてぶち殺せる訳だし」

「その割には初心者殺しも混ざってるんだが……?」

「ん? 何か問題があったか?」

「いや……、私の考えとおんおんの考えが全く以って違う事を理解しただけだ……」

 

 この後めちゃくちゃ狩猟した。

 だなんて、一行で済ませられるような展開が続き、最終的にゴブリン二十二匹、オーガ四体、初心者殺し二匹、ハウンドドッグ十六匹、一撃熊四体、コボルド十四匹を仕留めた。

 ううむ、久しぶりに存分に狩りができて楽しかった。

 さっきまで生命だったものが辺り一面に転がっており、青々としていた光景が赤々としたものになっていた。

 盾と武器を仕舞い、手を組んで伸びをする。んー、流石に三時間くらい戦い続けると疲れるな。

 昨晩の疲れとはまた違った疲れに身体がやや怠い。

 

「……気は済んだか?」

「ん、まぁまぁだな。依頼書のゴブリンの巣とコボルドの巣はこいつらだろうし、手間が省けたな」

「あぁ、だから近辺の依頼を片っ端から受けてたのか……。成程、勇者候補と呼ばれるに相応しい成果だな」

「そうか? まぁ、レベルもソウルも増えたし、後始末しなきゃなぁ……」

「これは流石にギルドの人を呼んでも良いのではないか?」

「……それもそうだな。食べられる一撃熊だけ解体して、後は任せるか」

 

 流石にこの死体の山を二人で片付けるのは大変だしな……。

 ダクネスさんをトレントに乗せてアクセルまで行って貰い、私は現場保持と血抜きのためにその場に残った。

 数刻後に現場に戻って来たダクネスさんやギルドの回収員が青褪めて……、あぁ、臭いか。

 モンスターの腸から汚物の臭いや少し時間が経って温まった血などから香ったものが鼻にきたのだろう。

 私はもう鼻が死んで、もとい慣れてしまっているから平然としていたが。

 

「えぇと……、全部換金で宜しかったでしょうか?」

「あぁ、必要なものは既に抜いているから問題無い」

「一日でこんなに成果を上げるだなんて……、紅き狩猟姫の二つ名は伊達じゃありませんね」

「……なんかまた二つ名増えてないか?」

「おぉっと、これから解体しなきゃならないので急がなくては、ではっ!」

 

 流石に量が多いので、ある程度解体して運搬するらしい。

 警護が必要かと尋ねたが、私の狩り方からして周囲のモンスターを根こそぎ狩猟しているだろうから問題無いと気遣われてしまった。

 まぁ、見た目は、いや、年齢的にも子供だしな私。目の前の惨状は年相応のそれではないが。

 今の時間は大体三時頃だろうか、このまま残っていても仕方が無いのでダクネスさんと共にトレントに乗って下山する。

 夕方に差し掛かる前にギルドに戻り、外に作られた専用の受付の方へと向かい、依頼書と一緒に討伐部位を提出する。

 流石に酒場がある中の受付で一撃熊の生首とかは出せないからな。

 一部の依頼は此処で討伐部位を提出する事で依頼達成の判定を貰う事になっている訳だ。

 桶の上に討伐部位となる一撃熊の生首、マンティコアの蠍尾針、ゴブリンとコボルドの右耳を提出し、依頼達成の判子を貰う。

 これを中の受付に提出する事で一連の報告が完了し、無事依頼達成となる訳だ。

 

「……えっ、これを一日で……? うわぁ、ベテラン冒険者でも此処まで速い人は居ませんよ……。どうやったんですか?」

「うちのクルセイダーが『デコイ』を色々と強化していてな。それで近辺のモンスターを集めて纏めて狩猟しただけだ」

「……えぇと、おんおんさんのパーティって猟団規模でしたっけ……?」

「ん? いや、私とダクネスさんの二人だけだ。実際に狩ったのは私だけだな」

「そ、そうですか……。流石は紅き狩猟姫ですね……、狩猟鬼の間違いじゃないかしら……」

「……私としては二つ名は認めてないんだけどな。誰も彼も面白可笑しくしているだけだろう」

「いやぁ、こうして実績もある訳ですし……。アクセル最優と名高いのも無理はありませんよ」

「そうかぁ……? まぁ、私はそもそもが狩人だったからな。統制された魔王軍の軍勢ならまだしも、はぐれのモンスター共を狩る程度、朝飯前に過ぎんよ」

「……おんおんさんがアクセルに居てくれて本当に良かったです。本日はお疲れ様でした」

「うむ? あぁ、まぁ、いいか」

 

 報酬金を受け取り、ソウルに仕舞い込む。

 私とダクネスさんの財布は私が握っているので分配はしない。

 必要な時には相談の下、必要経費として捻出する形になる。

 まぁ、それにダクネスさんは実家から送られてくるお小遣いが貯まりに貯まっているらしいしな。

 そう言う事もあって即金を必要としないので箪笥貯金もといソウル貯金しておく訳だ。

 普段なら酒場で一杯引っ掛けていくのだが、流石に衣類に染み付いた臭いもあってさっさと屋敷に帰りたい。

 消臭剤を錬金術で作ってあるのだが、自分の体臭を気付けないように何処まで効果があるのか分からないからな。

 一応使用しているものの、万が一があれば酒場では興冷めになってしまい迷惑になるから長居はすまい。

 

「今、おんおんさん依頼書を束で渡さなかったか……?」

「いやぁ、そんな訳……マジじゃん、受付嬢のアンナさんめっちゃ持ってるじゃん」

「さすがは、紅魔の里でも指折りのツワモノ……。狩猟はお手の物と言う訳ですね……!」

「強靭! 無敵! 最強! どんなモンスターも、粉砕! 玉砕! 大喝采! ですわ~」

「流石はおんおんさんだ! そこに痺れるっ、憧れるぅっ!」

「普通なら嘘くせぇって悪態吐くけどおんおんさんだもんな……」

「おんおんさんだしなぁ、ってなるよな」

 

 ……なんかまた私の評価が上がっている気がする。

 いやまぁ、デストロイヤーの一件で大分好感度を稼いだっぽいけれども。

 此処まで持ち上げられてしまうと……天狗になってしまうなぁ、ふふん。

 ニコニコとしていたらダクネスさんが何故か口元を押さえていたが、まぁ、許そう。

 ……だが、私の羞恥心は許すかな!?

 上品に口元押さえて微笑を浮かべる姿がお姉さん振ってて可愛いから許そう!

 ……自分の心に聞いたら許す判定が出てしまったので許すか。

 まぁ、この場では、だが。

 

「――ッ!? な、何か嫌な予感と期待が織り交ざったかのような悪寒が……」

「気のせいだろう。あぁ、多分、きっと、メイビー」

「ううむ、誤魔化された気がするが……、おんおんが可愛いからいいか……」

 

 お互いが弱点のせいで何とも甘々な判断である。

 惚れた弱みと言うもんなのかね。肩を竦めて屋敷へと戻って行くと、途中でジャイアント・トード狩りに向かったカズマくんたちと鉢合わせた。

 どうやら帰りが重なったらしい。……ところで、何でめぐみんとゆんゆんがぬちゃぬちゃなんだ?

 

「聞いてよおんおん。めぐみんったら私を肉盾にしたの! だけど咄嗟に手を掴んじゃって、な、仲良く飲まれちゃって……」

「何処に仲良し要素あったんですか。……はぁ、ぬるぬるで気持ち悪いです。お仕置きとしてゆんゆんはお風呂場の前で正座ですね。私が出るまで反省しててください」

「何か私が悪い事になってる?! 元を言えばめぐみんが私を前に突き出したからだよね!?」

「あのカエルは口の中でモグモグしてる間は大人しくなるんですよ。それを教えてあげようとしただけです」

「いや、普通に『ライト・オブ・セイバー』で私が倒せば良い話だよね……?」

「いやまぁ、そうですけども……」

 

 ……もしや、めぐみんが不機嫌なのって私とダクネスさんで狩りに行ったからか?

 流石にデコイ狩りにめぐみんを付き合わせるのは危ないから呼ばなかったのだが……。

 ううむ、ちゃんと説明しておいた方が良いな。機嫌を取っておくか。

 と、思っていたらダクネスさんがめぐみんの耳元に何かを囁いた。

 段々とめぐみんの顔がうわぁと言うドン引きの表情になり、此方を見てうわぁと呟いた。

 

「……今日ばっかりは仕方がありませんね。私が折れてあげる事にします。さ、流石にモンスターのスタンピードに巻き込まれたくはありません……」

「分かってくれて何よりだ。……あの津波のように押し寄せるモンスターを見て、流石に肝が冷えたぞ。昔の自分がした事ながら業の深い事をしてしまった……」

 

 どんよりとした二人が揃って屋敷に入って行き、私が一人ぽつんと残される。

 いやまぁ、カズマくんたちが残っては居るんだけどな、心情的に取り残された感があってだな……。

 

「えぇと、何したんです? あのダクネスがあそこまでブルーになるなんてよっぽどじゃ無いっすかね」

「いやほら、オンゲで安全マージン帯のモンスターを釣って集めて纏め狩りするだろう? アレを『デコイ』で再現して手間を省いたんだ。ゴブリンやらオーガ、初心者殺しにハウンドドッグ、後は一撃熊とコボルドと連戦して狩ったんだ。後始末はギルドの回収員にお任せしてな」

「うっわぁ……。アマプラのアマゾンか何かですか……? 定点狩りをすると言ってもリアルでするのは流石に危険では……って、そうだったこの人死なねぇわ。んでもってダクネスは耐久極振りだからこれまた死なないわ。あー……うん、めぐみんがこっちに居た理由それかー。そりゃあんな反応するわ、誰だってそーする、俺もそーする」

「えぇ……、モンスターが百匹群れたところで一対一を百回すれば殺し切れるだろう?」

「……あの、おんおんさん。まさかとは思うんですけど、一度死んで死生観壊れてません?」

「そんな事ある訳無い……だろ。多分、あれ、そう言えばあの程度なら別にそこまで痛くないから良いやとか思ってたような……。実際、体力削り切られなければエスト瓶で致命傷から健康体に全回復できるし……」

「……暫く休んだ方が良いかもしれませんね。この街にカウンセラーとか居たっけかな……」

 

 もしかして、もしかするのだろうか。

 私、デストロイヤーに焼却式デストロイされて死生観が狂ってる?

 と言うよりも死への許容度が下がったのだろうか。ある程度であれば死にはしないし、仮に死んでも生き返られるからと箍が外れているのだろうか。

 考えれば考える程カズマくんの言葉が的を射ていて否定できない。

 あぁ、うん。ゲームの中で火の無い灰があんな化け物ボスに立ち向かえる訳だ。

 繰り返し戦う事が出来るからこそ、次を考えてしまって、今の恐怖を麻痺させているのか。

 死にはしない、生き返れる、だから、死ぬ程痛いそれを受けても次には目を覚ましている事が分かっているから前に進める。

 いや、違う。これは怯えだ。死を認識しないという形で恐怖を紛らわせているに過ぎない。

 ゾンビ映画でヒーローを気取って吶喊する主人公のように、目の前のそれをフィルターして誤魔化しているに過ぎない。

 けれど、それを異常であると認識できない異常を抱えているのであれば、指摘されなければ分かる筈も無い。

 その事に絶句している正気の私と、デコイ狩りが効率的で大変良かったからまたやろうと考えている壊れた私が同居している。

 狩猟の時に、これぐらいなら倒せる、アレも倒せるならこれも、こいつもきっと殺せる、殺してみてから考えよう、だなんて自分の中の定規が段々と伸びているように感じていたのを思い出す。

 

「……やばい、想像以上に私の死生観が壊れてる。それこそ細部を知るゲームの中に転生したオリ主君並みにぶっ壊れてる。うっわぁ……、耐久極振りのダクネスさんで良かった。間違えたらモンスターに嬲り殺しにされてた可能性があったな……。仮に私が死んだらそこに取り残される訳だし、あぁー……、ミツルギくんに説教かました私が棚上げしてどうするんだ」

 

 これは要反省案件だな。予想以上に私の安全マージンの尺度が壊れているのを理解してしまった。

 うんうんと唸るカズマくんに礼を言い、とぼとぼと屋敷に入り風呂場へと向かう。

 汗と乾いた返り血に塗れたカルラ服を樽へ投げ入れ、下着と靴下を脱ぎ去る。

 魔導シャワーを頭から浴びながら、ぼーっと身体を伝って流れていくお湯を見つめていた。

 湯舟に浸かり、壁に背を置いて天井を見やる。冷血な思想を温めるように、お湯の温かさに心地良さを感じていると眠気が来た。

 うっつらうつらと意識が揺れて――。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 其処は祭壇だった。

 純白の清い聖域を彷彿とさせる古代的な意匠が施された其処は、荘厳なる祭壇であった。

 深き穴を囲うように作られたその祭壇を見つめる瞳は私だけ。

 頭上から穴へと落ちていく無数の死体。

 それは人であったり、モンスターであったりと千差万別だった。

 各々が死因と見られる傷跡や病死か寿命を終えた様々な身体で落ちていく。

 見下ろしても底が見えない穴を覗けば下の方に神々しく燃え盛る炎の柱が見えた。

 死体はその炎の柱に飲み込まれるようにして一瞬で燃えて、柱の周りからふわりと残りかすである灰が上昇気流に乗って空へと登っていく。

 灰は複数で集まって固まり、まるで胎児のような小枝となって、鮮やかさを取り戻した物から頭上の逆巻く渦へと還って行く。

 それが、ずっと、ずっと続いていた。それを、ずっと、ずっと見つめていた。

 ふと、自分の掌を見やれば灰色に染まっていて、気付けば身体全身が灰色で、触れてみればサラサラと零れては元に戻る、灰の身体だった。

 あの枝が私には無いのだと、火の無い灰の真実を理解してしまった。

 灰で出来たままだから灰色のままで、あの青々とした鮮やかな枝が薪のように成長するのだと知覚しながら、それが私には出来ないのだと何故か理解できてしまった。

 足元を見やれば灰が溜まっていて、後ろを見れば祭壇を埋めるかのような灰の山がそこかしらに積もっていた。

 まるで、そこで人の姿程の灰が倒れたかのような、そんな塊が其処にはあった。

 それらは全て目の前の祭壇の穴を目指しているように見えた。

 穴の淵に座り込んで神々しい炎の柱を見続ける。

 見惚れていたのだろうか。それとも……。

 ぞわぞわと身体が蠢いて、胸元に罅が入ったような気がした。見やれば罅の奥には闇があった。

 この世のものとは思えぬ程に悍ましく、それでいて仄暗く燃える炎のようにそれは見えた。

 もしも、この炎を持ったまま此処を飛び降りたのなら、あの輝かしい炎は黒く染まるのだろうか。

 それとも、あの火をこの暗い炎が飲み込んで、この祭壇に暗がりを齎すのだろうか。

 ……分からなかった。

 一つだけ言える事があるならば、今の私にはそれができないと言う根拠の無い確信だけがあった。

 まだ、足りない、もっと、増やさなければ、あの炎を手にする事はできない。

 不意に左肩を叩かれた。隣を見れば、裸の私が居て座っていた。

 すとんぺたんつるんな身体に違和感を感じ、胸元を見れば木々の根のように皺くちゃで、枯れているかのような印象を感じさせた。

 そして、隣の私は左目を指さして、ニタリと悍ましい笑みを浮かべた。

 嗚呼、そこに映る瞳に暗い輪っかが浮かんでいて、八つも揃えば瞳を黒に染めるのだと感じた。

 もしも、虚ろな黒に染まれば、それはきっと暗い穴のように見える事だろう。

 ……暗い穴、それはダクソ3における亡者化を齎すアイテムだ。

 これを所持して死に至る事で呪いが蓄積し、亡者の如き姿とマイナスステータスを受ける代物だ。

 あぁ、成程。私が人として死ねる回数は八回までか。それ以降は亡者と化して、本格的に火の無い灰の末路を辿るのだろう。

 そう理解したのを察したのか、目の前の私は頷いてから私の左目を指さしてから指先を一回ぐるりと円状に回した。

 そして、ぼろぼろと崩れ去って何処かへと灰のまま流れて行った。

 溜息を吐き、再び神々しい炎の柱を見やる。

 段々と自分の意思と意識が戻って来たようで、考えが回るようになってきた。

 デストロイヤー戦で死んだ事で私はこの場所と縁を作ってしまったのだろう。

 深淵を覗く時、深淵もまた覗いている。怪物を見ていた筈の自分が、怪物ではないと誰が証明する? 

 死を通じてこの場所を一度通過した事で、此処に来たと言う縁が結ばれたのだろう。

 そして、死生観の崩壊と言う自覚を持った事でこれを理解し、転寝を通じてこの場所に繋がってしまったのだろう。

 つまり、あそこに見えるのがこの世界の始まりの火であり、頭上のアレは輪廻転生のための渦で、この祭壇を取り仕切る者こそがアクアさんたち女神の役割なのだろう。

 私がこの世界に転生する前に居たあの場所が、頭上の渦の出口か途中であれば辻褄が合う事だろう。

 生と死の境界、それこそがこの場所の役割なのだろう。

 こうして祭壇の形を取っているのも、もしかしたらこれを観測する私の脳が勝手に作り上げた偶像なのかもしれないし、本当に存在しているのかもしれない。

 または世界中の思考する者たちの無意識的な生死感を投影した場所なのかもしれない。

 まるでシュレディンガーの猫のようにこの場所は曖昧だ。

 故に、曖昧な夢を通じて繋がったのだろう。

 灰に埋もれるように上半身を地面に降ろし、頭上の渦に登っていく枝木を見つめてから目を閉じる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ……目を開けばそこは風呂場の湯舟の中で、どれだけ眠っていたのだろうか身体が怠い。

 茹だるような温度でなかったのが幸いか、背を預けていた事で溺れる事も無かった。

 湯舟から這い出て、魔導シャワーのある壁に取り付けられた鏡を覗く。

 左目の瞳の淵をなぞるように仄暗い中空の円が重なっており、暗い穴を取得しているのが理解できてしまった。

 残り七回。それが人として私が死ねる回数だ。

 死ぬ度にこの円が増していくのだと予想できてしまった。

 この残機を越えた先に私は果たして人を保っているのだろうか。

 人の形をしたナニカになってしまってはいないだろうか。

 死生観が壊れて生きる大切さを忘れかけていた私には良い薬だった。

 もっとも、その対価は非常に厄介な代物であったが。

 もう少し堅実に生きよう、そう思い直す良いきっかけになった。

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