この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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お待たせ(小声
オリジナル絡むと筆の進みが(ry

誤字修正&ここすき&感想いつもありがとう!助かるよ!


32話

 結論を言えば、ララのお父さんとの会話は割とあっさりと終わった。

 と、言うのも昔話で語っていたようにララの性癖は既に知っているらしく、非常に頭を悩ませていたそうだ。

 箱入りのお嬢様であるし、チンピラでも雇って脅して見れば……なんて事も考えたそうだが、そのまま勢いで傷物になる光景が目に見えてしまい頭を抱える事しばしば。

 それがどうだろう。とあるパーティに加入してからと言うもの、ドM奇行の鳴りは潜み、あんなに肩肘張って会話していた堅苦しさも抜けて、今や一人の大人の女性として振舞っているではないか。

 隣の応接室にララに連れられながら、え、マジで、と言う顔でララのお父さんと対面したのだった。

 

「……流石に相手が女性、それも年下の少女と言うのが非常に引っ掛かる思いではあるが、このお転婆娘を更生してくれた上に嫁として貰ってくれる人が居てくれた事を父親として嬉しく思うのだよ。それに聞けば後継ぎも魔法で何とかできるとなれば、例え相手が女性であっても百歩譲って頷けると言うものだ」

「きょ、恐縮です……」

「まぁ、それに加えて相手がアクセルの英雄と言うのが一番だな。魔王軍幹部を一人で討伐し、デストロイヤーの危機から街を救ってもくれた。肩書としては十分過ぎる偉業だ。……それに、あのアルダープの企みを打ち砕き、肩の荷を下ろさせてくれた事も感謝している。あの豚は幼いララに欲情する塵屑であった事もあって、いつか必ず始末する予定だったがそれも穏便に終わった」

「あれは半ば自滅でしたけどね……」

「それでも、だ。バルター青年に領主が変わった事で色々とキナ臭かった所も改善される事だろう。良い事尽くしで私の胃も救われた。おんおんさんが結婚できる年齢になれば、ララとの結婚を認めよう。それまでは婚約と言う扱いをしても良いかな?」

「は、はい! ご配慮ありがとうございます!」

 

 そう言ってにこりと笑うララのお父さんの手元に、すっとセバスさんが羊皮紙と羽ペンを置いた。

 反対側から見やれば婚約の誓約書だった。

 ……仕事速過ぎだろセバスさん。絶対これこんな事もあろうかと、と言う感じで用意したな。

 完璧に仕上げられた正式な書類にララのお父さんが一瞬固まって、セバスさんを見て、アルカイックスマイルを返された事で天を仰ぎ、全てを悟ったらしい溜息を吐いた。

 

「……セバス、確かにお前にはララの動向を探るように言っていたが、明らかに抜けがあったんじゃないか?」

「いえいえ、とんでもありません。流石にお嬢様のプライベートまでは覗く事では無いと自重した結果ですとも」

「だからと言ってだな……」

「それに、旦那様はこう言う事は面と向かって知りたい性分ではありませんか。素行も良く、愛想も良く、品行方正で礼儀正しいおんおん様であれば当家に相応しい人物だと認識しておりましたので、このような形を取りました」

「全く……、昔からセバスには敵わんな。まぁ、良い。聞いての通りだ、おんおんさん、うちの娘との婚約を結んでくれるか?」

「はい。魂が尽きるまでララと添い遂げる事を誓えます」

「なら、良い。……ふぅ、ララも良い相手を見つけられた事だし、完全に肩の荷が下りたな……」

 

 ララのお父さんから手渡されたそれを一読し、問題無さそうなのでその場で自分の名をサインした。

 その様子を見て隣に座っていたララが感極まって私を抱き締めて涙を零した。

 ちょっと性急だったかなと思ったが、こうして喜んでくれるのであれば男冥利に尽くというものだ。

 抱っこちゃん人形よろしく私の左腕を抱き抱えるようにして、ひしっとくっつくララの体温が温かい。

 

「ふふふ、ララのその顔が見れただけで婚約を許して良かったと思うよ。いやぁ……、本当に……、……はぁ、良かった。本当に良かった。あのまま何処ぞの馬の骨かも分からない屑みたいな男にララがのめり込んで良い様に使われて捨てられるのではないかと、本っ当に心配していたんだ」

「……心情お察しします」

「ありがとう。本当に、ララを貰ってくれてありがとう……っ」

 

 ララのお父さんが漢泣きし始めてしまい、どうしたもんかと内心で溜息を吐く。

 合間合間の溜めが非常に長く、本当に心を痛めて悩みに悩んでいたんだろうなぁと言う同情を感じてしまう。

 いやまぁ、愛娘の相手がこんなちんちくりんの少女だと言うのにこの喜び様からして、もしやすると出家も想定に入れていたんじゃなかろうかと思われる。

 溺愛する娘だからこそ幸せを掴んで欲しいが、その娘の性癖と言うか相手に求める内容が内容なので本当に困っていたんだろうなぁ。

 ……すみませんね、中身元男でマジカル息子持ちのやべー少女が相手で。

 あんまり心労が祟らないように気を付けないとなぁ、と勝って兜の緒を締めるような気持ちであった。

 先程の婚約書類がセバスさんによって回収され、退室した事で今頃迅速に役所に叩き込まれているんだろうなと思いつつ、婚約指輪作るべきかなとララの左手をすりすりと触れていた。

 

「……ふぅ、すまないね。歳を経て涙もろくなってしまってね」

「いえ、お気になさらず」

「ありがとう。おんおんさんは屋敷を個人で持っているのだったか」

「はい。先日の報酬で土地ごと買い上げたものになります」

「ふむ、ならば衣食住に困る事はなさそうだな……。ダスティネス家からも支援をしたいところであるが、余計なお世話に成り兼ねん」

「そう……ですね。出来る事なら私の稼いだお金でララと暮らしたい思いはあります。疑ってはいませんが、お金の遣り取りと言うのは遺恨を残しやすい問題でもありますから」

「うむ。聡明で何よりだ。……ララへの小遣い程度は見逃してくれるかな?」

「あはは……、まぁ、それはララと話し合ってください。子供であるが故に、親から旅立ちたいと思う時があるでしょうから」

「……そうだな。では、そうだな……、ララが二十歳になるまでは支援を続けよう。それくらいが良い区切りだろう。あの頃と違って今は立派に冒険者として生計を立てている訳であるしな。それで良いかなララ」

「ええ、……正直に言えば貰ったお小遣いが貯まりに貯まっているので今打ち切っても良いのですが、これからの事を考えるとあればあるだけ良いでしょうから。お言葉に甘えたく存じます」

「そうか、そうしてくれるか」

 

 ぶっちゃけ、ベルディアの時のとデストロイヤーの時ので、向こう十数年は穏やかに暮らせるだけの貯蓄はあるしな。

 家も土地ごと一括で買ったからローンも無いし、賃貸等のお金は掛からない。

 所得税とか住居税的なものには引っ掛かるものの些細なもんだ。

 ……うん、正直魔王討伐がサブクエストみたいな扱いだしなぁ。

 魔王に対して直接的及び間接的な恨み辛みも無いし、精々が天上に居るであろうあの天使さんの進退が少しだけ掛かっているくらいだけだしな。

 まぁ、それに……何となくであるが、この世界が物語の産物だとすれば、その中心に居るのは恐らくカズマくんだろうしなぁ。

 メタ的な思考と言うべきか、主人公に対して降って湧くイベントの数々と言うべきか、明らかに一般冒険者である筈のカズマくんに降り掛かる内容が濃いんだよなぁ。

 女神であるアクアさんを連れ添っていると言うのも主人公らしい部分であるし、こうして個性豊かな仲間を伴っている事も理由にも成り得る。

 まぁ、何が言いたいかと言うとカズマくんの近くに居れば魔王討伐までのルートが舗装され、なんやかんやで関わって走らされるんじゃないかなと言う予感があるのだ。

 普通に生活しているだけでメインクエストに沿っている、そんなメタな考えが過ぎってしまうのは無理も無いと思うんだ。

 

「さて、それでは仕事が残っているのでね、ここ等でお開きとしようか。おんおんさん、ララの事を何卒宜しくお願いします」

「は、はいっ、この身に代えてもララを幸せにします」

「……あぁ、安心した。ララ、分かっていると思うが、甘えたままでは駄目だぞ。夫婦とは支え、支えられるものだ。それだけのものを与え、返して貰いなさい。一生を掛けて、末永くな」

「……はい。ありがとうございます、お父様」

「ふぅ、また顔を見せてくれると嬉しい。老骨に近付いているんでな、孫は早めに見せてくれ」

「お父様っ!?」

「はっはっは、ではな」

 

 呵々大笑しながらララのお父さんが退室し、何とも言えない甘酸っぱい空間が残された。

 顔を真っ赤にした私たちは何とも言えない気分で、恋人繋ぎした手をにぎにぎとするだけだった。

 ううむ、孫、孫なぁ。やろうと思えばいつでもできるのだが、タイミングがなぁ……。

 流石にカズマくんの近くから離れるのは戦力的に拙いだろうし、魔王討伐後になるだろうか。

 結構短いスパンでドタバタイベントが舞い込んでくる気がするんだよなぁ……。

 赤面顔で口を結んでやきもきしているララが可愛過ぎて、つい愛おしさから頬に手を当てて此方に振り向かせて唇を奪ってしまった。

 

「おんおん……」

「色々と落ち着いたら子供、作ろうか」

「……うん」

 

 そのままの雰囲気で二度、三度と甘い接吻を交わして、別室に居るであろう面々を回収すべく動き始める。

 ……いやあの、ララ?

 親公認になったからと言って恋人繋ぎで過ごす必要は……、あっ、はい。

 むすり顔で余計な事を言う口を塞ぐべく再びキスをされた事で黙らざるを得なかった。

 恋する乙女は最強と言うが、惚れた弱みも相まってララには勝てそうにないな……。

 婚約ほやほやの初々しい雰囲気のあるままで、応接室へと戻るといの一番にめぐみんによるタックルが私の腹部めがけてキメられてやや後退する事となった。

 

「長過ぎるんですよっ!? セバスさんからもうすぐ戻るでしょうと言って二時間も待たされた身にもなってくださいっ!!」

 

 ……おぉっと、精々三十分くらい唇を交わしていたと思っていたらそれなりの時間が経っていたらしい。

 光陰矢の如し、相対性理論って奴だな、あっはっは。

 いや、すまんて。腹をぐりぐりと頭で押し上げるな、そこ子宮がある所だから、んっ。

 ぐいっと持ち上げられるようにして頭を押し当てられた事で変な声がちょっと出てしまった。

 何とも申し訳無さそうなめぐみんがいそいそと前に立つが、顔が真っ赤な事で先程の声は確り聞こえてしまっていたらしい。

 ……うん、まぁ、めぐみんにも聞こえてたらカズマくんたちにも聞こえているよなぁ。

 何とも言えない頭茹だった雰囲気が展開されてしまい、私は誤魔化すためにめぐみんの顔を胸元に押し付けるようにして抱え込み――。

 

「ん゛ーっ! ん゛ん゛ーっ!!」

 

 タップを貰うくらいまで押し付けて酸欠になるくらい抱き締めてやった。

 寄せてやれば案外あるんだぞ私だって、AAがAになるくらいの差だが。

 まぁ、そんな僅かな谷間と呼吸によって部分的に湿ったドレスの生地によってめぐみんはダウンしたのだった。

 きゅぅ~と倒れてしまっためぐみんを横抱きに回収し、そのままの勢いに任せて帰るぞと踵を返す。

 最近勢い任せな事が多いなと思いつつ、正門前に用意されていた送迎用の馬車へと入り込み、我が家である屋敷へと送り届けて貰う。

 

「うぅ……、私だって寄せれば、ぅぅ……、う゛ぅ˝っ」

「よしよし、大丈夫だぞめぐみん。まだ成長の余地はあるからな。後二年くらいは猶予があるから、確り栄養を取って運動をして健康に過ごそうな」

 

 比較的大きさが同じ私に宥められているからか、めぐみんの機嫌が少し良くなる。

 が、隣に居たララを見て死んだ目をしてそのままふらふらとリビングに向かって歩いて行って、その後をついてみればソファに倒れてばたんきゅーしていた。

 そんなめぐみんをララと二人で見つめて苦笑する。大きな子供を持ったみたいだな、だなんて内心で独り言ちておく。

 女性の成長期は大体十三歳ぐらいが最盛期なので緩やかにめぐみんは育っているだけなのだ、と思いたい。

 豊胸のために色々とすべきだろうか、余計なお世話と言われてしまえばそれまでだ。

 ううむ、乙女心が私には分からない。すまない、めぐみん、許してくれ。

 取り敢えず今後の食事に乳製品とタンパク質を増やしておくからな、頑張って育ってくれ。

 こればっかりは私にはどうにもならないからな……、手段を問わねばある事はあるが。

 

「それにしても……、ダクネスてか、ララがマジモンの大貴族だったとは……。大変ですね、おんおんさん」

「いやぁ、そうでもないよ。ダスティネス卿は比較的市民寄りの優秀な人だし、何よりも地位も名声もコネもあるから権力争いであの人を倒せる可能性は殆ど無い。故に、余裕があるんだよ。アホみたいな政策を行なってた豚と違って」

「あぁ、だから婚約を許せたんですね。後継ぎ問題とか色々とあるでしょうし……。まぁ、英断ですけども」

「あっはっは、嬉しい事を言ってくれるじゃないかカズマくん。煽てても夕飯のおかずが少し増えるくらいだぞ」

「あはは……、今後の活動はどうするんですか? ララと婚約したってなると自粛気味になる感じです?」

「いや、むしろ箔をつけるためにも精力的に動くよ。アクセルの英雄此処にあり、って知らしめないといけないからな」

「おぉ……、良かった。てっきり向こう十数年遊んで暮らせるからパーティ抜けるよだなんて展開があるかと思って冷や冷やしてました」

 

 思わずカズマくんを見やるが、心底安堵したと言った様子であり、本心から言った言葉の様だった。

 そしてそれは、アクアさんも似たような感じであり、打って変わって当然よね、と何故か豊満な胸を張っていた。

 ……そして、何とも言えない表情で此方を見つめるゆんゆん。

 いやまぁ、そうだよなぁ。幼馴染のめぐみんよりも先にララと親公認の婚約だもんなぁ。

 女性同士の恋愛にも若干理解が追いつかないようだし、仕方が無いところではある。

 

「ねぇ、おんおん。里のご両親に許可を取らなくて良かったの?」

「…………神妙な顔をしてた理由それだったのか。あぁー、まぁ、大丈夫だろう。あの色ボケ夫婦の事だから特段何も言わないよ。むしろ、そう言う道もあるのねーだなんてのんびりした事を抜かすだろうよ」

「……おんおんってご両親の事を話す時、割と毒舌なんだけどもしかして仲悪い?」

「仲が悪い、と言うよりも……、最低限の親子の遣り取りしかしてないからな。殆ど親戚の人くらいの距離感だよ。と言うかめぐみんから聞いてたんじゃないのか? 私はあの小屋で殆ど一人で過ごして来たんだ。正直、育児放棄と変わらない扱いだった。手の掛からない子供だったから、それに甘えて自分のしたい事をしていたんだよあの人たちは」

 

 そんな唾を吐き捨てるような声色で言った言葉に、ゆんゆんが凍り付くように固まり、それが伝播するように部屋の雰囲気が悪くなった。

 一応十歳からあそこで寝泊まりしていた訳だが、それ以前にもあの小屋で暮らしてはいたんだ。

 朝晩の食事だけ与えて、他には何もしてくれなかった両親。

 食事と排泄とお風呂、時々見回る時以外はベッドで睦言を囁いて盛り合ってた男と女。

 どれだけ美形であろうとも仮にも親である人たちの営みを見たいとは思わず、こっそりと抜け出してあの小屋で一日の大半を過ごして来た。

 正直に言えば、両親が暮らす家よりもあの小屋で過ごして来た時間の方が長いだろう。

 よく言うだろう? 親の顔よりも見た〇〇って。私の場合は、あの小屋が当て嵌まる訳だ。

 他人と言うにはそこそこ近くて、家族と呼ぶには不適切で、隣人と言った方がまだ当て嵌まる。

 勘当をされる程不義理でも無く、喧嘩をする程喋った事も無い。

 前世のネグレクト、それに近しい環境で今生の私は育った訳だ。

 だからまぁ、めぐみんと出会うまでは本当に孤独だったのだ。

 あの眩くてぽわぽわしてて甘っちょろい、それでいて何処か鋭くて思い遣りのある甘えん坊。

 そんなめぐみんが傍に居たから私は独りでは無くなった。

 ……だからまぁ、めぐみんは恋人と言うよりも本当に家族と言う扱いが妥当な訳だ。

 それ故に性的な思いを封印して、一人の家族として、歳の近い姉として接してきた訳だ。

 言うなればめぐみんはギャルゲーで言う従妹枠であり、地味に攻略の難しい立ち位置に居たんだ。

 だからまぁ、よく私を攻略できたなめぐみんは、と褒めてやりたい気分なのだ。

 めぐみんの頭を少し上げて太腿に置き、その艶やかな髪を梳きながら頭を撫でてやる。

 

「ご、ごめんなさい。わ、私、知らなくて……」

「大丈夫だよ。あんまり気にしてないから。まぁ、そんな事があったから、私はめぐみんと出会って心を取り戻した訳だな」

「えっ、いったい幼少時のおんおんに何があったの……?」

「意味深なワードに惹かれるあたり、ゆんゆんも立派な紅魔族だよ。……自分語りはあんまり好きじゃないんだけどなぁ。まぁ、いいか。あの頃の私はあの人たちを見限って、一人で生きるために動いてたんだ。せっせと罠を作って、ウサギや鳥を仕留めて捌いて、塩漬けにしたり羽毟って枕とかにしたりしてた。多分、あの時めぐみんと出会って無ければ今の性格はしてなかったと思うよ。正真正銘、ただ独りの狩人として冒険者になってたと思う」

 

 実際、呪術師であろうとも技量に振って弓メインで生きる事はできただろうしな。

 それをしなかったのはめぐみんが爆裂魔法に憧れて、毎日のようにニコニコ顔で凄かったのだとその時の事を自慢してきたからだろうなぁ。

 弓一本で生きるよりも呪術を扱った方が生存力も上がるし、そして何よりも呪術を放った時のめぐみんのキラキラとした瞳に籠る期待感に押されたのだと思う。

 そうぽつりぽつりと当時の事を口にしながらめぐみんの頭を撫でていると、その手を握られて胸元に抱え込まれた。

 

「……あの頃のおんおんは無口で、動物を狩っても嬉しさとかそう言うのを放り投げて、食料確保しただけって言う静かで冷たい雰囲気でした。何をやってもそつなくこなして、私の出来ないような事を沢山してて、それでも私の持っていないものを誇りにも思わずに、ただ、ただ静かに一日を生きているだけの女の子でした」

 

 あぁ、うん、確かにそんな感じにスレてた気がする。

 自分だけで生きて行けば良い、そんな風に覚悟が決まり始めてた頃だったかな。

 めぐみんの口から語られる当時の私の様子に皆は困惑気味のようだったけれども。

 いやぁ、私とて人の子だぞ。年単位で粗悪な環境に放り込まれればそんな風にもなるさ。

 

「……けど、それでもおんおんが優しい子なんだって思ってました。あの日、空腹で倒れてた私に優しく声をかけて、美味しいご飯もくれて、一つしかないベッドに眠らせてくれて……嬉しかったなぁ。おんおんは奉仕気質と言うか、お節介を煮詰めたようなお母さんみたいな感じでした。……まぁ、正直うちのお母さんよりもお母さんしてて、あの頃の私はこの子の子供になる、だなんて思ってました」

「そんな事思ってたのか……」

「いや、だって……、お母さんの作るようなひもじい思いをするくらいしょぼいご飯じゃなくて、確りとした栄養のあるご飯を作ってくれて、何度もお代わりする私をにこにこと微笑んで見守ってくれて、風邪なんて引いた日には付きっきりで看病もしてくれて甘やかしてくれて……、ふふふ、食事を作ってくれている時のおんおんずっと微笑んでるんですよ。小声でめぐみんの好きな味はこれぐらいだったっけとか、これ反応良かったし好きなんだろうな、とか、ずーっと私の事を考えて試行錯誤してくれたりするんですよ? おんおんが住んでいる小屋が本当の家で、あの粗末で質素な家が仮の家、そんな風に思ってた時期もあるんです」

 

 ……え゛、聞かれてたのか、くっそ恥ずかしいんだけど。

 だって仕方ないだろ。ひょろひょろな女の子が私を頼りにしてくれて、美味しい美味しいって満面の笑みで私の作ったご飯を褒めて喜んでくれて、何をする時も一緒に居て楽しそうにしてくれる女の子を放っておく事なんてできやしないだろ。

 ……あんまりにもひょろがりだったので年下の幼女だと思ってたのはここだけの秘密だな。

 まさか同い年とは思わなかったよ、割と本気のマジで……。

 

「だから、私にとっておんおんは第二のお母さん、いや、正直第一に据えたいくらいなんですけども、それをするとおんおんが申し訳無さそうにするのでしませんが」

「そりゃそうだろう、お腹を痛めて産んだ訳じゃないんだ、ゆいゆいさんに申し訳無いわ」

「……ふふふ、産み直してくれても良いんですよおんおん」

「産めねぇわ、むしろめぐみんが産む側だわ」

 

 だなんて事を返す言葉で言ってしまったが故に、めぐみんが顔を真っ赤にして私の手を強く抱き締めた。

 そして、私の方を向いてこくりと小さく頷いてくれた。

 ……ん゛ん゛っ、めぐみん可愛過ぎか。十三歳じゃなければ押し倒してたよ此処で。

 めぐみんへの愛おしさメーターが振り切りそうになったのを、理性によって針を直接握り締める事で阻止した。

 ただでさえめぐみんの発育はあんまり良くないんだから、下手に手を出して体調を損ねる事になったら罪悪感でいっぱいになるわ。

 

「と、まぁ、そう言う事もあって私とおんおんの関係は疑似家族みたいな感じだったんです。同い年の親娘だなんてへんな内容でしたが、とても、とても楽しかったんです。……まぁ、おんおんが目の前で爆発四散どころかミンチよりも酷い有様になった事で、私はこの感情が家族愛じゃなくて恋心だと気付けてしまった訳です。……もうちょっと穏便な気付き方をしたかったです、はい」

「すまんて……。あの場面じゃアレ以外に思いつかなかったんだよ」

「だからと言って自己犠牲を選ぶ必要あったんですか? 私に魔力譲渡して爆裂魔法でドッカーンで良かったじゃないですか」

「過充填かつチャージ完璧ならな。あの時そんな余裕無かっただろう。正直私も皆に言葉を残してから爆発すると思ってたのに途中で吹き飛ばされたし……。過去の話はたらればになるんだからお終いだ。これ以上は泥沼でしか無いしな」

「むぅぅぅ……、分かりましたよ、良いですよ、やってやろうじゃないですか。普段私が好む長々とした詠唱からの爆裂魔法ブッパとは別に、おんおんが好みそうな詠唱破棄してキメ顔で皮肉交じりにぶっぱなす遣り方も練習しておきます」

 

 むふーっと無い胸を張っためぐみんのその最後の一言に私は硬直した。

 えっ、なんでめぐみんが一時期格ゲーにハマってゲーセンで揉まれてた時期の私の言動を知ってるんだ。

 この世界に来てそんな素振り見せた事無い筈なんだが???

 

「……待て、なんでそれを知ってるんだめぐみん」

「え? 昔やってたじゃないですか。私が前に一撃熊に襲われそうになった時に『混沌の残滓』でしたっけ、あれを両手で時差付けながら二発投げ付けて、基本四足の畜生如きが二足で立つから避けれねぇんだよ、って中指立ててましたよね。すっごく恰好良かったのを覚えてむぐぐぐ」

「やめ、やめろぉっ、割と黒歴史だからっ、あの後一撃熊に喋り掛けたところで意味が無いって気付いて虚しくなったんだからなっ」

「えへへ、分かりますよおんおん。凄い技を何の変哲も無い技術の様にやってみせて、格の違いを見せつける皮肉でニヒルな台詞を背中越しに倒れた相手に浴びせるのが好きなんですよね。分かりますよ、強者らしさがあって凄く良いと思います」

「うごごごごご、そ、それ以上はいけない。駄目だぞめぐみん。それ以上は私が恥ずか死ぬぞ」

「へぇ……、おんおんって紅魔族っぽく無かったけどそう言う所あったんだね」

「だから知られたくなかったんだよ……。お前ら同族意識マシマシでノリノリで来るだろ、絶対に嫌だからな私は。今生でも中二病になってたまるかっ」

 

 あー……、と生暖かい視線をカズマくんとアクアさんから向けられて、羞恥で死にそう。

 ララに至っては私の知らない一面を知ってキュンキュンしてる顔だし、後でお仕置きだぞっ。

 畜生、私がする事なら何でもウェルカムみたいな感じで受け止められてしまった、無敵かこいつぅ。

 こっ恥ずかしい事を暴露された私はめぐみんを起き上がらせ、不貞腐れたようにその太腿に頭を乗せてお腹側に顔を向けて蹲った。

 そして、腰をホールドしてお腹に顔を押し付けてめぐ吸いをしてやるとあわわわと言う声が上から聞こえたが知らん、知らんぞー、私は。

 不貞腐れた私程面倒なものはないんだからなとめぐ吸いを敢行しながら私は呻いたのだった。

 

「あの、機嫌直りましたかおんおん……」

「まぁ、多少は。不貞腐れててもやる事多いからマイナスの方がでかいしな……」

 

 夕飯の支度をすべくキッチンへと赴いた私は、後ろに申し訳無さそうについてくるめぐみんを他所に魔導冷蔵庫の中を見ていた。

 うーむ、鶏肉がそろそろ危ないか? 結構量があるし、唐揚げにでもしてしまうか。

 しまったな、食材に日付でも書いておけば良かったか。今度から食肉はそうしておくか……。

 数日前に狩った覚えのあるホロリ鳥の腿肉を取り出し、臭い等を確認して問題無さそうなので夕飯を決定する。

 このホロリ鳥の名前は由来が色々あり、ほっぺたが落ちるくらいに美味しい事からと言う説と、生態である涙を流しながら求愛活動をする事からの二説ある。

 基本的にメスが力強く、オスがか弱いのが特徴だ。

 言うなればあべこべ世界物と言うか、貞操概念が反転した世界のオスメス事情が反映されているらしく、基本的に一夫多妻。

 か弱いオスに屈強なメスが搾り取りプレスを強要する感じの世界観らしい。

 ……もしや泣いてるのって(性的に)食べないでくださーいと懇願してる感じだったりするのだろうか。

 因みに、メスの肉はぷりぷりとした食感でありながら筋肉質で歯ごたえがあり、オスの肉は柔らかくほろほろと口の中で溶ける味わいであるらしい。

 貞操概念反転世界感の一夫多妻とあるように、オスは希少なので出回りは少ない高級食材だ。

 たまにメスから逃げ出そうと人に助けを求める時があり、私がオスを仕留めたのは正にそれだった。

 まぁ、オスを仕留めると付近に居たメスがナニシテクレテンダテメースッゾコラーと甲高い声で襲い掛かって来るので、力量の無い人はスルー安定である。

 オスをそのまま引き渡すと満足して帰ってくれるそうだ。……何で助けてくれないの、とオスのつぶらな瞳に見つめられるため、引き渡した後はすぐに背を向ける事が肝要らしい。

 何処ぞの安楽少女に魅入られた人のように、オスを助けようとメスに返り討ちにされる優しい人が犠牲になるらしい。

 いつだって優しい人から死んでいく……、だなんて皮肉を内心独り言ちながら、オスのホロリ鳥を捌いていく。

 シンプルに醤油とショウガとニンニクで下味を付けて、小麦粉をまぶして油で揚げていく。

 唐揚げはこの揚げの部分が一番重要な所だ。失敗をしない方法となると二度揚げがおすすめだ。

 低温の油で火が入るくらいに揚げてから一度出し、二度目に高温の油でからっと仕上げる方法だ。

 手慣れた人なら高温の油で揚げて余熱で完成と言う塩梅もできるのだが、衛生観念が前世程ではないこの世界では食中毒は本気で死に直結する危険に相当するので万が一があってはならない。

 土鍋でふっくらと炊けたつやつやの白米に、千切りキャベツと唐揚げと言う予定だ。

 余計な油を落すために網に乗せていた唐揚げをじっと見つめる食いしん坊に苦笑し、焼き加減を見ると言う建前で、まな板で一個を半分に切った。

 

「あーん」

「あーんっ、んー……っ、口の中でほろほろカリカリでおいひぃです」

 

 その片割れを親鳥を待つ雛のように待ち侘びるめぐみんに食べさせてやると、満面の笑みが返って来た。

 ……その顔が見たいから料理をしてきたと言って過言では無いんだぞめぐみん。

 自分一人だけなら適当に済ませてしまうだろうからな私は。

 誰でも無い、めぐみんの美味しい美味しいと喜ぶ顔がみたいから、作ってるんだからな。

 まな板に残った片割れを口に放り込み、生焼けじゃない事を確認して頷く。

 ……美味しいのはきっと、隣にめぐみんが、一緒に食べてくれる人が居るからだろうな。

 だなんてこっ恥ずかしい事を口にする事は無く、自然と口角が上がってしまうくらいに幸せを感じていたのだった。

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