この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

33 / 44
誤字修正&ここすき&感想ありがとう!
電子書籍版を参考にしてるから『セイクリッド・スペルブレイク』で正しいゾ。


33話

 こっ恥ずかしい暴露をした翌日、昨夜の残りを朝ごはんに出して一段落付いた頃の事だった。

 玄関の方から何やらぎゃーぎゃーと騒いでおり、階下を覗いてみれば正座させられているアクアさんと仁王立ちのカズマくんが見えた。

 いや、どういう状況だ……?

 それリビングとかでやれば良かったんじゃない、と思いつつも話を聞いてみれば、いつもの事だった。

 

「なぁ、アクア。再三言っているようにツケで飲み食いするの止めろって言ったよな? 言ったよなぁ!? なぁーんでこんなに膨れ上がってるんだよっ! この前支払った額よりも増えてるじゃねぇか!? まさかと思うがその場のノリで奢りだとか抜かしてないだろうなぁ!?」

「してないわよっ! ただ、その……、おんおんちゃんと一緒に飲みに行って割り勘にした時の事だと思うの。あの子と一緒だと楽しく飲めるからおつまみとかもその、つい」

「だぁああっ! 微妙に口出し辛い理由を出しやがってからに! ベルディアの時とデストロイヤーの時の報酬がまだ残ってるだろうがっ!? その場その場でしっかり払えって言ってんだよ俺はっ!」

「だって、だって、あんな重たいの日常的に持ちたくないのよ。分かるでしょ? ポッケに入るくらいの薄いお財布って訳じゃないんだからこの世界」

「…………一理ある、が、うーん……、それが理由かよ。はぁ、仕方が無い。飲みに行く時は俺を誘って行け。仕方が無いから荷物持ち、いや、財布持ちしてやるよ」

「あ、ほんと? ならお願いしようかしら。小分けにしたとしても結局金属の塊だから重くって」

「それには同感。けどまぁ、ちったぁ反省しろよなぁ……、はぁ。まったく、世話が焼ける……」

 

 どうにも売り言葉買い言葉と言った様子でヒートアップしていたものの、疲れて来た所に私が気付いたようですんなりと話が終わってしまった。

 おかしいなぁ、あの時の代金私が全部払った覚えがあるんだが。

 酔いに酔って記憶混濁してるじゃないか危なっかしい……。

 そう言う意味でもカズマくんがお守りに行ってくれれば安心だな。

 二人がそう言う仲になったとしても特段問題は無いどころか喜ばしい事だろうし。

 

「かかか、カズマ、なんか足が動かないんだけど」

「はぁ? ……あぁ、脚が痺れてるだけだろ。ほれほれ」

「ぎゃんっ?! 何するのよ! 変な感じのがぞわっと来たんですけど!?」

「あっはっは、律儀に正座するからだ馬鹿め。だからリビングでって言っただろうが」

「だって……カズマがめっちゃくちゃ怒ってたから……」

「……はいはい、俺がわるぅーございました。ったく、ほら、手を貸してやるから、立てるか?」

「ありがと。よっ、ほっ、あっ」

「あっぶねぇっ!? 転ぶならせめて床に倒れろっ」

「あはは、ごめんね?」

「……はぁー」

 

 あれで付き合ってないんだよなぁ……。

 明らかに長年寄り添った幼馴染みたいな遣り取りなんだが。

 いや、いっそ通り過ぎて熟年夫婦のそれじゃないかアレ……。

 若いって良いなぁとそんな甘酸っぱい雰囲気を眺めて微笑んでいたのだが、それをぶち壊すように玄関を力強く開け放っためぐみんの姿があった。

 羊皮紙を一枚握り締めており、ずかずかときょとんとしているカズマくんの所に向かうとそれを見せつけるように掲げた。

 

「……カズマ。悪い事は言いません、自首しましょう。いったい何をやらかしたんですか」

「待て待て待て、何が、どう言う……、ッスー……何で呼び出されてんの???」

「前にキールのダンジョンに行きましたよね。私たちが最後らしいです。そして、私は特にやらかした覚えが今回は本当に無いんです。となれば……、後は分かりますね?」

「いやー……、俺も心当たりが無いんだが……」

「本当ですか? 嘘発見器に誓えますか?」

「ああ。となると……」

 

 二人の視線がアクアさんに向けられるものの、思い当たる節が無かったのか小首を傾げていた。

 えっ、でもアクアですよ? と言う表情のめぐみんに、いやでも、うーむ日頃の行いがなぁ、と言う感じのカズマくん。

 心外よ、私女神よ女神、と言う感じで不貞腐れるアクアさん。

 ふむ、なんか雲行きが怪しいな。仕方あるまい、少々派手な登場で雰囲気を緩めるか。

 手摺りから颯爽と飛び出し、スーパーヒーロー着地を決めて三人の前に降り立つ。

 

「話は聞かせて貰った、いつ出発する? 私も同行しよう」

「かきょ……、じゃなかった、聞いてたんですか師匠」

「うむ。誰にも心当たりが無いと言うのなら他所のやらかしだろう。ダンジョンと言う話であるし、逃げて来たモンスターが縄張りにした可能性だってあるだろう」

「あ、それは無いわよ。あのリッチーを浄化するための魔法陣がまだ残ってる筈だもの。これでもかってぐらいに気合入れて作ったから今もダンジョンの奥は通行止め、新たなボスが生まれる事も無いし、コンビニ前のヤンキーよろしく屯する事も無いわっ!」

 

 さらっと豊満な胸を張って自信満々に言ったアクアさんの言葉に全員の視線が集まる。

 成程、無自覚にやらかしたパターンかぁ……。

 カズマくんが手慣れた様子で静かに天を仰いでいるのが痛々しい。

 いやまぁ、ダンジョンのボスが沸かなければ難易度は下がるし、奥深くに入り過ぎた場合の避難所としても使える事だろう。

 

「この駄女神やらかしやがった……、いや、この場合はノットギルティ……?」

「いや、カズマ、アクセル随一のアークプリーストの作った結界だなんて見られたら一発でバレますよ。芋づる式に私たちが関与していると思われてもおかしくありませんよ……っ」

「そうだったっ!? よーし、原因究明と言う建前で結界を潰しに行くぞさぁ行くぞ今直ぐ行くぞっ!」

「んー……、多分違うと思うのだけど……。あの結界は浄化しかできないし、ダンジョンだから悪霊みたいに溜め込む事も無いでしょうし……」

 

 言われてみればそうだな。

 ギルドに貼られていたらしい羊皮紙には謎のモンスターの大量発生の原因を知らないかと言うものであるし。

 むしろ浄化の結界に当てられて減る可能性が高いだろう。

 アクアさんはこう見えても元女神である。

 下界に降りて弱体化しているとは言えども、デストロイヤー戦の時に披露した『セイクリッド・スペルブレイク』の一例もあるくらいにその実力は上澄みの頂点と言っても良いレベルの筈だ。

 そんなアクアさんが張った結界のせいでモンスターが増えるかと言われれば首を傾げざるを得ない。

 

「もしや、その結界を張ったアクアさんを釣り出そうとする魔王軍の策略じゃないか?」

「あっ、確かに、それの方が有り得そうではありますね」

「現にベルディアもアクアさんが降り立った光の調査に来ていたと言っていた筈だ。アークプリーストとしての質の高さをその魔法陣から感じ取ったのかもしれないな。それに質の良い回復役が居るならさっさと潰しておきたいだろう魔王軍的にも」

「それもそうですね……。となるとモンスターを呼び出せるダークサモナーでしょうか」

「もしくは階級の高い悪魔だろうな」

 

 私許されたと言わんばかりに胸を撫で下ろすアクアさん。

 ううむ、万が一を考えたらフルパーティで向かうべきだろうな。

 バルコニーで声を発さぬ友人たちに水をやっていたゆんゆんと、中庭でたゆんたゆんとさせながら鍛錬だと譲らない意味の無い下手くそな素振りをしていたララを回収し、玄関口に集まった。

 ララを先頭に、次に私とカズマくん、その後ろにめぐみん、ゆんゆん、アクアさん。

 これがうちのフルパーティな訳なのだが隙が無い陣形だなこれと改めて思う。

 斥候役が居ないがダンジョンに潜る訳でもないので居なくても問題は無い。

 今後の事を考えると私かカズマくんが技術を習得すべきだが、カズマくん次第だろうな。

 どこぞのサイト君宜しく剣となり盾となる護衛戦士タイプの戦い方を軸にしている。

 斥候系のスキルを覚えられる冒険者のカズマくんであるが、ポイントは有限のためビルドの完成が遅くなる可能性がある。

 キールのダンジョンへ向かうまでの暇潰しにそんな話題を振ってみたのだが。

 

「……え? あっ、す、すみません師匠。既にもう『敵感知』『潜伏』取ってます……」

 

 だなんて返しをされてしまった。

 カズマくんの冒険者意識が予想以上に高くて師匠的に鼻高々だぞ。

 と、言うのもカズマくんの方針的に「いのちだいじに」らしいので、先手を取られないように『敵感知』を、いざと言う時に汎用性の高い『潜伏』を取得していたのだそうな。

 

「剣士系、いや、戦士系のスキルは良かったのか?」

「んー、確かに自分の手でばっさばっさと切り捨てるのも魅力的なんですけど、前衛職ってヘイト取るから危ないじゃないですか。だから、ヒット&アウェイができる軽装戦士を目指したいんですよね」

「ふむ……、細剣でも握るか?」

「いやぁ、似合わないでしょう。それにこれぐらいのサイズだと盾にもしやすいので」

「それもそうか。いっそ、バックラーに片手剣と言う王道スタイルでも良いんだぞ?」

「……それ師匠の好みじゃないですか。あんな器用にパリィするの現実的に無理ですって」

「そうか……。使いやすいんだがなぁ」

 

 脳裏に浮かぶのはダクソ3……、ではなくスカイリムのドヴァキンなのだが、古今東西ガン盾しながらチク剣するのは勝率が高い上に安全である。

 聞けばアーチャーの『千里眼』と『狙撃』も取得しているらしく、本格的に斥候を担うポジションを狙っているようであった。

 カズマくんらしいと言えばらしいのだが、器用貧乏が過ぎると火力が頭打ちになるのでそこらへんどうするつもりなのだろうか。

 

「え? いや、うちのパーティって火力に事欠かないじゃないですか。前張れる師匠に、中距離のゆんゆん、一発火力のめぐみんも居るし、俺はここぞと言う時に隙を作れる可能性を高めた方が良いかなって」

「ふむ、考えて出した答えなんだな」

「はい。俺には主人公は無理ですが、主人公を支える名脇役くらいにはなれると思うんですよ。ほら、手先も器用ですし悪知恵も働きますし」

「そうだな、応用が得意なカズマくんはそういうポジションの方が良いか。いざとなればアクアさんの魔法で何とかなるし、最初から深追いできないポジションの方が安全か」

「ですです。だから、最近はロードワークに力入れて体力の方伸ばすように心がけてます」

「……ふむ。偉いなカズマくん。ちゃんと自分で行動に移せるのは良い心掛けだ。期待してるよ」

「……はいっ!」

 

 そう言えばカズマくんって幸運高いんだよな。

 そしたらトレハン系のスキルも覚えて、いっそのことシーフ職した方が良いんじゃなかろうか。

 シーフ系のジョブツリーの先にはアサシンとは別にマークスマンと言う遠距離寄りの斥候職も存在しているし、器用さを伸ばす方針ならそちらを目指すのも良いかもしれないな。

 スキルをラーニングできる冒険者と言っても取得ポイントの増加と言う重たい要素もあるので、ある程度基礎的なスキルを取ったらそういう方向に導いた方が良いかもしれないな。

 

「トレハン要員……、成程。一番稼ぎにもなるし、貢献もできる……、何より俺の唯一抜きん出てるステータスを活かせる職業ではあるか……」

「別にシーフだからと言ってダガー系以外を使っちゃいけない訳じゃないしな」

「それもそうですね。本格的に軽装斥候戦士目指してみようかな……。『レアドロカズマさん』だなんて前は呼ばれてたし、天職かもしれません」

「ん?」

「あー、その、前にオンラインゲームに沼ってた頃がありまして」

「あぁ、そう言う事か。レバ剣拾った的な」

「そうですそうです。新しいレア装備が実装されたらそれを追っかけるのが趣味だったんすよ」

「意外と良いかもしれないな。幸運も高いし、クリティカル狙いで急所狙うのも良いんじゃないか?」

「あっ、確かに。今度クリスにその手のスキル覚えさせて貰おうかな」

「と言うか、今のカズマくんなら転職できるんじゃないか? 此方に来た当初よりも成長しているだろうし、選択肢が増えてる可能性は高いんじゃないか?」

「へ? ……そ、それもそうですね、確かめてみようかな……」

 

 この様子だとすっかり忘れてたな。

 この世界では転職に必要なのは資質だけなので、ギルドでちょちょいとできる。

 神殿か何かに行って転職して貰う必要は無いのである。

 ……ダーマ神殿的な何かがあるのかと思ってた時期、私にもあったなぁ。

 この遠征から帰ったらギルドに寄ってみると前向きな返答をしたカズマくんに微笑んでおく。

 うむ、後方師匠面しているけれども特段育てた憶えはないからな……。

 精々が三日に一回くらい模擬戦と稽古を付けているくらいだけだし、これを師匠と言って良いのか私には分からんが、カズマくんはそう呼んでくれるのでそう言う事にしておくのが良いだろう。

 そんな風に雑談しながら郊外にあるキールのダンジョンの方へと足を進めていく。

 山門を越えてそれっぽい道を歩いて行くと何か小さなものがわらわらと動いているのが目に止まる。

 身を隠しながら近づいて観察してみれば、二頭身程のデフォルメした仮面を付けたよくわからない男性を模したゴーレムっぽい何かが居た。

 

「……確かに謎のモンスターだな」

「『クリエイトゴーレム』にしたってあんな量作れませんよ」

「確かにキールのダンジョンから溢れてるみたいですね……。成程、ギルドに注意書きがされる訳だ」

「……むしょーにあの仮面を見てると苛々してくるんですけど。石投げ付けてやりましょ、虐めて良い生物よアレ」

「何か物騒な事を言いだしたぞこの駄女神……」

 

 元女神であるアクアさんが嫌な予感と言うか不快感を表すモンスター、だと?

 脳裏に浮かんだのは悪魔に対して罵詈雑言を吐き出すクリスさんもとい女神エリス。

 この世界における女神の不俱戴天の仇が悪魔である事はアクシズ教の教典からも知れる既知の事実だ。

 つまり、そんな女神であるアクアさんが無意識に警戒する相手と言う事は……。

 

「アクアさん、その不快感ってもしかして悪魔と相対した時に感じるサムシングでは?」

「さむしんぐ? ……良く分からないけど、あぁ、確かに言われてみればそうね。アレ、悪魔の気配がするわ。具体的には悪魔の両手でこねこねして作ったお手製の一品って感じ」

「見た感じ量産型な感じですけどね……。そうなるとダンジョンの原因はアクアさんの結界ではなく、悪魔の仕業だと言う事が濃厚ですね。一度戻ってげぼ……じゃなかった、ゼスタとか呼んで囲ってぼこしますか?」

「待っておんおん、今ゼスタさんの事下僕って呼ぼうとした!?」

「そりゃ、まぁ……、使い勝手の良い方向性を間違えなければそこそこ使える人材だし、けど性癖と人格がアレだから雑に使う時にも便利なんだよなあの人」

 

 あはは、ゆんゆんは良い子ちゃんだなぁ。

 人の事を慮れる精神は良いと思うが相手を選ばなきゃ駄目だぞ。

 次期アクシズ教最大司教と呼ばれる程には有能ではあるのだが、旧来のアクシズ教でその立ち位置を維持できるあたりゼスタは変態なのである。

 それに私みたいな美少女で幼い子にこき使われるのも喜べるとっても変態さんなので運用としては間違っていないのだ。

 むしろご褒美です、とにちゃぁとした笑みを浮かべるだろうよあの変態なら。

 

「で、だ。ゆんゆんそろそろその癖治した方が良いぞ?」

「へ?」

「叫ぶ癖。今ので気付かれたみたいだぞ」

「あっ、ご、ごめんなさいっ!?」

 

 此方の方角に顔を向けた仮面人形共がトテトテと歩き始め――たかと思えば猛ダッシュし始めた。

 それを見たアクアさんが生理的に無理だったのか、そこらへんにあった石を大リーグボール一号染みた投球フォームで力を込めて投げ付けた。

 こつんっと先頭を歩いていた仮面人形の頭に当たった瞬間、チュドンッと言う擬音が聞こえてきそうな小気味良い爆発音と共に爆散した。

 その爆発に巻き込まれた後続の仮面人形たちが連鎖爆発を起こし、ばよえ~んと言う感じで入口付近まで居たものが吹っ飛んでいく。

 その様子に呆れと困惑の表情を隠せない私たちが唖然とその光景を見つめるしかできなかった。

 

「あの感じからして自爆特攻型の使い捨て人形か……。これまた厄介な……。地面の抉れ具合からしてそこまで威力は無さそうなのが幸いか」

「そうみたいね。と言うか私を見てあいつら走り始めたんですけど、すっごく怖かったんですけど……」

「女神が悪魔を嫌うように、悪魔も女神を嫌ってるって訳ですね。アクアさんの言う通り、アレは悪魔が作ったものだと考えて良さそうですね」

 

 やや小刻みに震えるアクアさんをカズマくんが肩を叩いて慰めていた。

 威力がイマイチなのと爆発の仕方が雑なのでこの程度で済んだが、誘爆せずに一斉に飛び付いてから爆発されたら面倒極まりない地雷モンスターだ。

 

「と、言う事でララ、前に出て良いぞ。あの爆発なら耐久力抜けないだろうし」

「良いのかっ!? ふふふっ、たまにはこう言う痛みも欲しいからな。蔑みや嘲笑が無いのが少し物足りないが、まぁ、問題無かろう」

 

 先頭にララを配置し、少し離れた所に私とカズマくんを先頭に残り三人を引き連れるフォーメーションを取る。

 必要無いのに『デコイ』を使いながら散歩気分で歩いて行くララの爆発模様を見ながら、比較的安全に私たちはダンジョンを進む事ができた。

 灯りの無い中を歩くのは面倒なので松明をソウルから取り出して左手に装備する。

 右手に呪術の火を灯して準備だけは終えておくのが良いだろうな。

 前でドカンドカンと爆発を受けているのにピンピンしているララなのだが、後ろ姿からして不満な感じが見て取れた。

 あぁ、うん、もしもしなくても耐久スキルガン振りだからチクチク程度の痛みしか受けていないのだろう。

 その証拠に衣服がやや煤けるだけで破損は無いし、……もしかして衣服を守る系のスキル取ったのかララ。

 前にキャベツの大群に体当たりされていた時は割と破損して露出過多な状態だったのだが、それ以上に威力が高いであろう爆発を受けても煤ける程度に収まっているあたりそういうスキルを取得したのだろう。

 ……自惚れでなければ首の金属製のチョーカーを守るためにだろうか、可愛い所あるなララ。

 最初は手にしたロングソードで闇雲に振って遊んでいたようだが、飽きたのか蹴っ飛ばすようになったララの背を追い掛けながら進んで行く事十数分。

 

「俺の感覚が確かならそろそろボス部屋に近いところですね」

「ふむ。奥へ行くに連れて密度が上がっているからそこが原因の場所で間違い無さそうだな」

「もしかして、奥に入れないから結界が消えるまで嫌がらせでこの爆発する奴を作ってるのかもしれないわね。並大抵の悪魔ですら私の結界なら弾くでしょうし」

「あれ、それじゃあ結局原因ってアクアさんの結界?」

「「「「「「…………………」」」」」」

 

 ゆんゆんの歯に衣着せぬ言葉に全員が黙ってしまう。そう言うところだぞゆんゆん。

 けどまぁ、アクアさんが結界を張らなかったらこの騒ぎの張本人が奥に陣取る事になっていただろうから、ある意味ファインプレーだったのだろう。

 この手のダンジョンはダンジョンコアに近い最奥に行くに連れて魔力溜まりになる傾向にあるので、せっせとこの人形を作っている悪魔もそれを利用して量産しているに違いない。

 最奥のボス部屋手前かつアクアさんの結界を通している事で魔力溜まりも薄まっているに違いない。

 仮面人形の威力がそこそこ止まりなのはそれが原因なのかもしれないな。

 ……まぁ、ララの耐久が高いから憶測でしか言えないんだけれども。

 態々自爆されてダメージを確かめる必要性も無いしな。

 こういう時に性能特化の仲間が居るのは助かるな、色々と癖は強いけれども。

 いやまぁ、自分の事を棚上げしている感は否めないが、器用貧乏枠だと思うよ私は。

 仮面人形が歩みを進めているのは私たちの方角、もとい入口に向かっている事もあり、逆説的に背を向けている方向に黒幕が居るとも言える。

 明らかに知性を感じられる様子は無いので作り出してからは自動で動く仕様なのだろう。

 ララが雑に蹴っ飛ばしながら進んで行くと、奥の方に神々しい結界の明かりが見えて来た。

 

「……居るなぁ」

「……居ますねぇ」

「むむむ、女神センサーが反応しているわ。アレが悪魔だって事は確定的に明らかよ!」

「土をこねこねして……、わぁ、あの仮面を付けた人形が動き出してる。どうやってるんだろ」

「……ゆんゆん、友達を作り出そうとするのは止めた方が良いと思いますよ」

「えっ、な、なんで分かったのめぐみん……」

「貴女ならやりそうだなと思ったからですよ、はぁ……、ぼっち気質のゆんゆんがアレを覚えたら屋敷を埋め尽くす勢いで作るでしょうね、えぇ、間違いなく」

「そ、そんな事……、ないよ?」

 

 嘘つけ、と言う一同の視線に晒されたゆんゆんが視線を反らした。

 推定悪魔を目の前にして何してるんだか私たちは。

 けれどもまぁ、タキシードにあのへんてこな仮面を付けた悪魔は人形作りに専念しているのか気付いていない様子。

 ……先手、取るべきだろうか。

 そう思いながら観察しているとできたてほやほやの仮面人形が此方の方へ向かって歩き始め、先程まで蹴散らしていた事で癖になっていたのかララが容赦無く蹴っ飛ばし――。

 

「「「「「「あっ」」」」」」

「む? 何で飛んでぐぁあっ!?」

 

 時間差で空中で爆発した仮面人形の作り出した爆発に半ば巻き込まれた悪魔の男が悲鳴を上げた。

 予期せぬ先制を取ってしまったが仕方があるまい、戦闘開始だ。

 ララの尻に蹴りを入れて前に押し出し、私とカズマくんが中衛に立ち、アクアさんたちを後衛に置いて戦闘準備を終える。

 ソウルから取り出したベルディアの鎧から作り出されたタワーシールドをララに投げ渡す。

 漆黒の大盾を構えた事で意識を切り替えたララが吶喊し、その後ろを盾とグラディウスを取り出した私が追従し、その後にカズマくんが慌てて背を追う。

 爆発に吹っ飛ばされた悪魔が立ち上がる前に先手を決めようと走り寄る私たちを見て――。

 

「ま、待つのだ未来のお得意様よ! 吾輩は貴様らと戦う気概は無いのだ!」

「……はい?」

 

 頓珍漢な事を言いだした事で戦闘の雰囲気が霧散し、困惑だけが静寂に取り残された。

 そして、私の間違いでなければあの悪魔、この私を未来のお得意様と呼ばなかったか?

 動きを止めた私たちの様子を見てはぁーっと安堵の息を吐いた悪魔は煤を落しながら立ち上がった。

 

「こほん、繰り返すが吾輩に貴様らと、特に、と、く、に、吾輩たち悪魔の天敵であるそこのアークソーサラーの少女と戦うつもりは一切無い。武器を収めるのだ。話せば分かる、落ち着くのだ。そうだ、それでよい。いや、本当に一回休みどころではない被害を被るのは勘弁して欲しいのだ此方としても、な」

「あー……、と、言う感じなんですが」

「……まぁ、敵意は本当に無いみたいだし、言い分くらいは聞いてあげても良いんじゃない? なんでか知らないけどおんおんちゃんにビビってるみたいだし」

「ビビッてなんぞおらんわ! だが、そこの少女が会得している魂砕きは我ら悪魔の残機の概念を文字通り握り潰す所業なのでな。吾輩としても話し合いで済むのであれば、そちらを選ぶくらいには遠慮しておきたいのだ」

 

 あぁ、成程。確か悪魔って地獄だかに本体があって分身がこっちに来ているんだっけか。

 残機制らしく、今まで悪魔が絶滅できていない理由の大半がそれであるらしいとゼスタから聞いた事がある。

 ……もしや、私が倒すとソウルになって此方側に意識ごと固定されてしまうのだろうか。

 戻る筈であった意識が本体に戻らないが故に、空っぽの本体だけが地獄に残るのであれば、それは死んでいると言っても良いのかもしれない。

 成程、確かに私は悪魔の天敵であるらしい。

 

「ふぅ、お互いに落ち着いた所で名乗っておこうか。吾輩は諸悪の根源にして悪魔たちを率いる地獄の公爵、魔王軍幹部の一人にして結界を担う一角たる見通す悪魔こと大悪魔バニルである! 我がダンジョン予定地にようこそ! 盛大に歓迎、っとぉ、この言い方だと反応するようなので、ささやかに歓迎させて貰おうか!」

「なんか愉快な人だね、悪魔だけど」

「紅魔族的に有り寄りの有りですね。良い名乗りです。日和ったのはマイナスですけど」

「ふむ、愉快痛快とは言ってくれるではないか、最近お腹周りが気になる紅魔族の族長の娘よ!」

「なんでピンポイントで私の気にしている事を!?」

「ククク、良い感情をありがとう。年頃の娘の羞恥心、大変ご馳走様である」

 

 ……うーむ、悪魔と言うとあのマクスウェルと言うやばい奴が印象的なのだが、目の前のバニルは狂気的と言うよりかは道化的な感じで、本当に敵意が無さそうに感じられる。

 

「不思議そうな顔をしているな、銀髪の娘とこっそりと逢瀬するアクセルの英雄殿。おぉっと、その見るからにやばい火の玉を此方に向けるのは止めるのだ」

「後で話があるぞおんおん」

「後で話をしましょうおんおん」

「うぐぅ……、本当に敵意無いのか貴様ぁ。喋らせずにこのまま滅してやった方が世のためじゃないか……?」

「滅相も無い。吾輩はこの地には魔王から託された調査と、商売センスの欠片も無い貧乏店主に用があって来ているに過ぎないのだからな。絶妙に羞恥の混じった悪感情、実に美味である。お礼として、貴殿が気になっている事柄の一つである、天然酵母の作り方のメモを進呈しよう」

「……見通す悪魔の名は伊達ではないという事か」

 

 めぐみんに美味しいふかふかなパンを作ってやりたいなぁと思っていたのを見抜かれたのか、作った事の無い天然酵母のレシピを求めている事を言い当てられては仕方が無い。

 正直知りたいのでこの『混沌の火の玉』をぶつける事はしないでやろうじゃないか。

 成程、未来のお得意様と言うのはそう言う事か。

 まったく、保身の仕方が上手い悪魔だな。色々と知りたい事を聞き出すまでは生かしておいてやろうじゃないか。

 ジトーっとした視線がアクアさんから送られているが仕方が無い、仕方が無いのだ。

 碌な娯楽の無いこの世界において、食の彩りと言うものは必須級なのだ日本人からしてみれば。

 それにその恩恵をアクアさんも受けられるのだから決して損ではない、本当だぞ?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。