この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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37話

 商隊からもそこそこ離れたのでトレントに遅く歩くように指示を出しておく。

 この世界における冬と言うのは弱肉強食の季節でもある。

 冬眠を是とする動物が多い中、それでも活動するのがモンスターの力強さだ。

 一面銀世界とまでは言わないが、ある程度雪の積もった草原だったその光景に後ろから感嘆の声が聞こえてくる。

 実に微笑ましく、そして和やかな一面だろう。

 ……右目でソウルを見通してみれば、雪に潜んだハンターが如くモンスターの存在が見えている。

 彼方此方に隠れ潜み、雪にはしゃぐ旅人や足を取られて転ぶ冒険者などを標的にしようとしているモンスターの狡猾さが丸わかりだ。

 例えば、そう、あそこに見えている可愛らしい白い体毛の兎の顔。

 ひょこっと出ている姿が非常に可愛らしいうさぎの姿をしたそれ、とか。

 

「あっ、うさぎさん! ねぇめぐみん、あそこあそこ!」

「おぉ、パイにしても美味しいうさぎじゃないですか。今日のお昼ご飯にするつもりですかゆんゆん」

「違うけど!? ほら! 真ん丸くりっとしたつぶらな瞳にふわもこの白い体毛!」

「美味しそうですね」

「違うでしょ!? 可愛いって言いたいの私は!」

 

 あぁ、うん、すまないゆんゆん。

 私狩人だから時々兎を狩った日もあるんだ。結構美味しいんだぞ、捌く時めっちゃくちゃ罪悪感あるけど。

 けどな、うさぎは寒さに強くて冬眠はしない動物だが、雪の積もった場所の頂点から顔を出すような事はしない。

 単純な話だ。踏み固まった積もった雪なら分かる。

 だが、あそこに、そこらじゅうに見えているそれは触れれば柔らかく溶けるであろう降り積もった雪の塊だ。

 そう身長が足りないのだ。

 あの小柄な顔であれば二十センチいかないくらいの全長である筈であるし、ましてやそんな低身長のうさぎが爪先立ちになってもあの藪に積もったであろう六十センチを超える塊の上から顔を出せる訳が無い。

 

「……ふむ、残念ながらゆんゆん。あれは動物の兎では無いぞ」

「え? そうなのおんおん」

「あぁ、あれは雪の積もったこの季節か、冬山に居るようなモンスターだ」

 

 私がじぃっと見ていたからか、その正体を看破されたと感じたのだろうか。

 ――むくっと筋骨隆々な胴体を晒すように二足歩行で立ち上がった。

 えっ、と言う声が後ろから重なる。まぁ、無理も無い。私も機会が無ければ知らなかったであろう色物モンスターだ。

 まるでボディビルダーの顔を兎に取り換えたような化け物めいた容姿をしているこのモンスターの名は兎詐欺と言う。

 読み方は勿論うさぎであり、別名ラビットヘッドと呼ばれている害悪モンスターだ。

 可愛らしい顔を晒して注意と警戒を解き、触ろうと近付いた者をその剛腕によって首を圧し折りにくる肉食系。

 クラウチングスタートしてアスリート染みた速度で対象を追いかけ、強靭な足から繰り出される殺人キックをお見舞いするそうだ。

 ノックアウトされた獲物は、爪先立ちの四つん這いで近づいた兎詐欺によってバリムシャと生で食われるらしい。

 その光景は非常に悍ましく、兎詐欺の前で倒れれば最期、そう呼ばれるくらいに冬の間に現れるモンスターの一角として認知されている。

 トレントの手綱を握り、助走を付けるように走らせて速度を上げていく。

 

「うぇっ、なんつー恐ろしい姿を……、因みにアレ、なんて名前なんです?」

「兎詐欺だ」

「うさぎ?」

「兎の詐欺と書いてうさぎだ」

「また日本人案件かよっ!?」

「別名はラビットヘッドだ。顔だけは兎のままだからな」

「明らかに体積比可笑しいですよね……。頭が一に対して、身体が九くらいありますよ」

「モフモフな身体らしいぞ、アレでも」

「えぇ……、いやまぁ、人間の身体してるのが付いてるよりかはマシですね……」

 

 兎から派生したモンスターなんだな、と一応は分かる外見だからな。

 その割には身体がゴリマッチョで二足歩行と言うでたらめな感じではあるが。

 さて、ある程度の説明を終えたので現実逃避は無しにしよう。

 やっべぇ、十匹くらい居る上に此方を獲物としてロックオンしたらしく全力疾走で追いかけて来ている。

 このままトレントに振り切りさせても良いのだが、それをすると後ろの商隊が全滅するな……。

 あの筋肉は見せ筋では無く、ガチの筋肉であるためそこらの冒険者には荷が重い。

 こうして辛うじて追いつける程度に速度を緩めた状態で釣ってみたが、正解だったみたいだな。

 

「よし、少し先に広い場所がある。そこで迎え撃つぞ。各員、戦闘の準備をしておけ」

「はいっ! めぐみんは詠唱準備、ララは俺と前に出て足止め。クリスはバインド系で妨害して、ゆんゆんは足が止まった奴から魔法で仕掛けてくれ」

「私は?」

「アクア、お前はヒーラーとして活躍して貰う。流石にあの腕に殴られたら死ねるからな。些細な傷でも回復魔法を飛ばしてくれ」

「分かったわ!」

 

 ……ふむ、見ないうちにカズマくんも成長したな。

 ベルディアに色々と教えて貰っていたようだが、まさか小隊指揮の遣り方も教わっていたとは。

 この世界におけるパーティの役割分担は非常に重要だ。

 幾つか兼任すると痛い目に遭うジンクスがあるくらいに個人技能は尖らせる傾向にある。

 ソウルからベルディアの大盾を取り出してララに渡し、自分は新武器であるとっておきを取り出す。

 形状は鞭の分類で、鞭に当たる部分が編み込まれた鋼鉄のワイヤーと言う近代的な鋼鉄鞭だ。

 素早い相手に対し有効であり、音速手前の先端部位での殴打は遠心力によって裏付けされた鋼鉄の暴力を発揮する事だろう。

 ウィップ部分には粗いやすり掛けがされているので、撫でられただけでも肉片をごっそり削る拷問武器でもある。

 重武装に対する切り札がパイルハンマーであるなら、軽武装に対する切り札がこのハガネオロシだ。

 元の発想はイバラムチであったのだが、実際に棘付きの鞭を作って貰ったところ引っ掛かりが酷く、何処ぞのチェーンマインが如く相手に巻き付くまでは良いが、引いて切り裂くにはよっぽどの筋力が必要と言う事が分かって頓挫した。

 それに棘が付いていると腰元に巻き付け辛く、自傷に繋がる可能性が高い事もあって形状的にゲームだから許される形なのだとユウキさんと肩を落としたのだった。

 そのため、泣く泣く実用的な鞭を開発したところ、完成がこれになった、と言う訳だ。

 感覚的には蛇腹剣に近いが、摩擦で切り裂き、鋼鉄で打つ、斬撃と打撃、両方を兼ね備えた良武器が爆誕したのだった。

 呪術一辺倒だと普通に死ねる世界なので近接にも力を入れなくては生き残れない。

 

「広場が見えたっ! 急停止まで五、四、三、二、一、ストップだ!」

 

 半ばドリフトのように荷台を滑らせ、遠心力で無理矢理止まったトレントにサムズアップしてから馬車から飛び出す。

 前衛にララ、その隣にカズマくん、その後ろをアクアさん、クリス、ゆんゆん、次に私、その後ろにめぐみん、と言う普段通りのフォーメーションに陣形を取る。

 ウィズさんはバニルに念入りに気絶させられたのか、はたまた死ぬ程疲れているからか、まだ意識が戻って来ていないので荷台に残しておく。

 此方が臨戦態勢になった事も相まって兎詐欺たちの瞳が真っ赤に輝き、殺意の波動を背負って地面を蹴る。

 そして、計五匹のシャイニングウィザードが『デコイ』でヘイトを請け負ったララの大盾に叩き付けられ、続く第二波の五匹によるローリングソバットにより後退るもののしっかりと耐えてメイン盾の貫禄を見せつけた。

 これで助走による最大の一撃は無くなったので、後は討伐をするだけだ。

 再び前に出て四匹のヘイトを請け負ったララ。

 その隣で、竜巻旋風脚染みた回し蹴りをしゃがんで避けたカズマくんが軸足を切り裂いて転倒させ、ひっくり返ったところをクリスが『バインド』によって捕縛し、ゆんゆんが『ライトニング』によって仕留める。

 その後隙を狙った奴を私がハガネオロシを振るってその足をズタズタに切り裂いて叩き落し、複数近付いた奴らには『猛毒の霧』を吹き付けてやり目潰しをしてやる。

 前に居て猛毒をしっかりと浴びた三匹がぐったりし始めたのでカズマくんたちに任せ、ララがヘイトを取っている四匹に向かって横から『混沌の火の玉』を投げ付けてやり、逃げ遅れた一匹を直火でウェルダンにしてやった。

 

「各個撃破を心掛けろ! 決して自慢の腕や足を振り回させるな!」

 

 ララと言う頑強かつ鉄壁な壁に身を隠しつつ、側面に回ろうとする兎詐欺を狙い撃って損傷を与えていく。

 当たれば当たるだけ擦過傷が増えて出血も多くなり、近接戦闘しか行えぬが故に特攻染みたカミカゼを『大発火』で撥ね返してやればふらふらと出血多量と火傷によるダブルパンチで倒れていく。

 此方が残り二匹、カズマくんの方も二匹残り、数的有利も得た事で此方の形勢が増す。

 傷だらけの個体が威嚇の声を漏らしながら、ふと私の後ろを見やってから歯茎を丸出しにするような怒声を発した。

 大盾の上部の淵にその強靭な脚力によって飛び乗ったかと思えば、私たちの頭上を越えてアクアさんの方へと飛び掛かった。

 野生の習性か、後ろで守られているアクアさんが弱い個体なのだと考えたのだろう。

 

「……へっ?」

「アクアっ!!」

 

 天高くライダーキックの構えで落ちてくる兎詐欺をぽかんと見やるアクアさん。

 それを見たカズマくんが目の前の兎詐欺を振り払うように薙ぎ払いを放ち、その遠心力を利用してデルフを投げ付けた。

 横合いから脇腹へと勢い良く突き刺さった事により、アクアさんを狙っていた兎詐欺は墜落する。

 運悪くと言うべきか、カズマくん的には幸運な事に、デルフの柄を地面に向けて落ちた事で体内へと深く突き刺さり、短い悲鳴を上げて死に絶えた。

 

「よしっ」

「よしっ、じゃなーいっ!! 『バインド』ッ! てやぁっ!!」

「『ライトニング』! 『パラライズ』! もう一回『ライトニング』!」

「てぇぃやぁあぁ!!」

 

 得物をぶん投げた挙句に背中を晒したカズマくんを狙った兎詐欺をクリスとゆんゆんが必死こいて討伐し、最後の一匹はララの渾身のフルスイングによって頭を粉砕されて酷い有様になった。

 そう、ララは剣士の才能は無いが自慢の肉体があるので力任せのぶん殴りは得意なのだ。

 何せ見事に薄っすらと腹筋が割れている程だ。

 あの頬擦りしたくなるような素晴らしい肉体によって、くっそ重い大盾も扱えているのだから振るえない訳が無い。

 

「あのあのっ!? 私何もしてないんですが! ぼけーっと立ってただけなんですが!? 私の出番! 何処!? 此処!?」

「あぁ、大丈夫だめぐみん。ちゃんと詠唱はしているな?」

「え、あ、はい。してますけど……」

「あそこに鉄砲玉を送ってふんぞり返ってるボスが居るから撃っちゃってくれ。それで終いだ」

「え? うわぁ、何か丸々と太ってふんぞり返ってるのが居ますね……」

 

 銀世界の雑木林に切り株へ座ったボスっぽいデブった代償に二回りは大きい兎詐欺が居た。

 恐らくお相撲さんタイプの筋肉の付け方なのだろうな。

 子分共がやられたか。しかたあるまい、俺が出るか。

 みたいな雰囲気を醸し出しながら立ち上がったところを、めぐみんの渾身の『エクスプロージョン』によって一瞬にしてミンチよりひでぇ目に遭いながら跡形も無く消し去られたのだった。

 ふぅ、と良い汗かいたと言わんばかりに額を拭ってから、めぐみんは満足そうに雪に倒れた。

 やれやれと思いながら武器をソウルに仕舞って、くったりとしためぐみんを横抱きにして持ち上げる。

 

「えへへ、おんおんにこうして貰うの久しぶりな気がしますね」

「そうだな。ほら、魔力の供給してやるから首に手を回しておけ」

「はぁい」

 

 首に手を回してより密着した事で接着面が増えて魔力譲渡の効率が上がる。

 最近は日課の爆裂魔法を放った後はマナタイトで歩く気力分を充填してたようなので、こうして抱き抱えるのは……いつぶりだ?

 まぁ、それなりの日数が経っているのは間違いないか。

 それだけめぐみんも成長していると言う事だな、うむ。

 だからまぁ、こうして楽するために甘えてくるのも良しとしようじゃないか。

 可愛い恋人のする事だしな、こうしてしっかりと受け止めてやらねば彼氏として廃ると言うものだ。

 すりすりと私の薄い胸に頬擦りしてくるめぐみんを甘やかしながら、馬車へと戻って荷台に寝かせる。

 兎詐欺の後始末をしないといけないからな。

 

「兎詐欺は筋肉質で食べるところは少ないから穴を掘って燃やして終わりだ」

「あ、やっぱりそうなんですね。めっちゃくちゃ硬そうですもんねこいつ……」

「それにしても……見違えたなカズマくん。しっかりと戦士の役割を熟していたじゃないか」

「へへっ、いやぁ、ベルディアに教わってから実力が付いてきたって言うか、しっかりと身に付いたと言うか」

「嘘おっしゃいな。剣士系と戦士系のスキルの相の子して、両方の良いとこ取りしたんじゃない。この前の夜にベッドでカードを弄ってたじゃないの」

「ばっ、アクアお前っ。こう言う時は言わずに気持ち良くさせといてくれよ! あんなやべぇのに奮戦できたのは事実なんだからよ!」

 

 鼻の下を右手の人差し指の側面で掻きながらへへっと笑っていたカズマくんだったが、肩から顔を出すように背中から抱き着いたアクアさんに噛み付くように抗議をし始めた。

 ……近くない? 距離。そんなに気軽にスキンシップ取るような間柄だったっけ?

 若干頭がバグるような思いをしつつ、アクアさんを見やれば頬を少し赤らめてカズマくんに熱っぽい視線を向けていた。

 ははぁ、さっき助けてくれたから吊り橋効果のように好感度が上がっている訳か、成程成程。

 って事はこれは、私との仲を嫉妬して女神っぱいをカズマくんの背中に押し付けてマーキングしている訳か。

 ……アルカンレティアに着いたらゼスタに命じて二人を個室に少し離れた良い感じの場所に隔離してやろーっと。

 あくまで、宿泊が多いから、離れ離れにしてしまうのは申し訳無いのですが、みたいな感じで申し訳無さ全開でそれっぽい免罪符を与えてやろーっと。

 何日で物理的にもくっつくのか見物である。頑張れ少年、今生では良い夢を見るんだぞ。

 と、百合ハーレムを築いている自分をこっそりと棚に上げて応援しておくとしよう。

 旅館の食事もそれとなーく滋養強壮系のを混ぜて貰って水面下のお膳立てもしておいてやろうな。

 実際、カズマくんとアクアさんの関係が良好であればある程、下界にアクアさんが居てくれる日数も伸びる訳なのでアクシズ教的にも良いだろう。

 それにカズマくんとアクアさんの間に子供が産まれればそれはそれで需要がありそうだしな。

 ……元女神と人間の組み合わせで子ができるかどうかは分からんけども。

 

「さて、一応皮は剥いでおくか。寒さに強いから鞣せば暖かい毛皮になるしな」

 

 兎詐欺の死体の中から綺麗なのを人数分集めてせっせと皮を剥いでいく。

 一番手慣れているのは狩人たる私で、次点でめぐみんだ。

 森に居た頃に何回も手伝わせたからな、経験が活きたな。

 鞣すのは、まぁ、帰ってからでも良いか。またはアルカンレティアで鞣しの依頼をすれば良いだろう。

 手早く残った死体を掘った穴に放り込み、『混沌の火の玉』を投げて溶かすように焼いてから埋めていく。

 最後にアクアさんが『セイクリッド・クリエイトウォーター』をちょろっとかけて完了だ。

 ボス兎詐欺は雑木林の一部と共に消滅しているので合掌だけしておく、南無南無。

 毛皮をソウルに仕舞い込んだのでこの場所にはもう用は無いな。

 再び馬車へと戻り、トレントに一声掛けてから旅路に戻る。

 

「にしても……さっきみたいな奴って結構居るんですかね。似たようなとこだと冬将軍とかもそうですよね」

「ふぅむ、カモネギとかもだな。後は……走り鷹鳶とかか」

「何と言うか……言葉遊びみたいな奴が多いっすね」

「多分、この世界の根幹がギャグ寄りだからだろう。じゃなければキャベツが空を飛ぶ訳無いだろ」

「あっ、それもそうっすね……」

 

 私とカズマくんの会話に露骨に顔を逸らしたアクアさんとクリスの様子からして、この世界を作ったコンセプト辺りも聞いているんだろうな。

 実際、任せられている二大女神の訳だし。

 でもまぁ、魔王の出現により我々転生者が必要になる世界だ。

 ギャグ目・剣と魔法の世界科・ナーロッパ属・冒険者社会みたいなもんだしな、この世界の根幹。

 面白半分で作ったファンタジーシミュレーターMOD入り、みたいな感じだろ多分。

 じゃないと私の様な場違いなMODみたいな奴が居る理由にならない。

 ダクソ3の世界観をこの世界に落とし込むために幾つかダウングレードしている訳であるし、ジョブの冒険者のスキルラーニングでは呪術は扱えない事が判明している訳で。

 言うなればDLCめいた、追加要素なのが我々勇者候補と言う存在なのだろう。

 

「……まぁ、結局のところ、私たち勇者候補ってのはこの世界の異物なんだ。だから、どう取り繕っても世界に及ぼす影響ってのはでかいんだろう。分かりやすい例を挙げれば、デストロイヤーだ」

 

 あんな機動要塞めいた機械テクノロジーマシマシの産物が暴れ回っていたのだ。

 アレの制作者が日本人である事はソウルに仕舞い込んだ日記で分かっているし、世界感をぶち壊すには十分なものだろう。

 しかも科学を魔法理論で梱包してたからなあのデカブツ。

 機械による超重量の移動を可能とし、それを魔法式の防衛機能を付けるとか人類戦争待ったなしのやべーもんを作りやがってからに。

 一歩間違えて暴走してなかったら鋼殻のレギオスめいた移動要塞都市を軸とした世界観が展開されてたに違いない。

 核戦争よりかはクリーンな魔法での戦闘方法だから荒廃はしないだろうが、あんな機動要塞がデフォの世界なら地上で栄えると言う事はしないだろう。

 そう言う点ではノイズだったか、それがデストロイヤーにデストロイされたのは正解だったかもしれないな。

 

「……いやでも、ソードワールドみたいな世界になる可能性もあったのか。一応デストロイヤーの燃料は伝説級のコロナタイトを使用していた訳で量産されていた訳では無いし……。鉄道、か。石炭を使わずに魔石で……。いや、それやると一気に時代が進むから駄目だな。やっぱり現代知識ってのは劇物だな。なんでそんなもん輸入しちゃったんだこの世界……」

 

 言うなれば闇鍋めいたごっちゃ煮と言うか。そんな事をしなくちゃならない程魔王がやべーのだろうか。

 ……あれ? でも、最初の説明では……。

 気になる事が出来たので振り返り、質問を投げてみる事にする。

 

「カズマくん、この世界に送られる時に何て言われたか覚えているか?」

「へ? えーっと、確か、魔王軍に殺された奴らがこの世界に輪廻転生したくないって駄々こねてるから俺らが呼ばれてるんでしたっけ」

「そうだ。それなのに魔王を倒せと言うのは何か可笑しくないか?」

「そう、ですか?」

「じゃあ聞くが、この世界の魔王はデスタムーアみたいな世界に暗黒を齎す系の奴か?」

「……あっ、そうか。魔王自身が積極的に殺しに回っている訳じゃないんですね。でも、魔王軍って言われているからには戦争しているんじゃないんですか? なら、相手のボスを倒すってのは間違って無さそうな」

「……成程な。してやられた訳だ」

 

 この場でアクアさんとクリスを糾弾しても良いのだが、多分意味が無いだろうな。

 私も今の今まで勘違いしていたが、この世界における勇者の役割は魔王を倒す事に集約されている、言わばドラクエの勇者だ。

 けれど、それをリアル目線でマクロ的に見れば可笑しさしか無いのだ。

 例えば、相手の国の王様を殺せば戦争が終わるのか、と言う話だ。

 終わる訳が無いのだ。次の奴を立てれば戦争は続く。

 王様が死んだところで軍部の長が生きていれば戦争は続けられるのだから。

 ドラクエの勇者が世界を救うのは、魔王自身が世界を滅ぼそうと画策する存在であるからだ。

 そして、この世界と言うのが人類社会に当たる訳で、惑星規模で救っている訳では無いのがミソだ。

 それにこの世界ではモンスターが普通に跋扈する世界だ。

 なのに、魔王軍に殺されたから輪廻転生したくない、などと言い出すものか?

 

「……つまりは、尻拭い。魔王は恐らく……」

 

 私たちと同じ勇者候補、いや、ただの転生者だった誰かなのだろう。

 それが人類の敵として立った。それのカウンターとして私たちが勇者候補と言う名目で転生し、鉄砲玉にされている訳だ。

 一口で言って勇者と言う存在は破邪、魔を断つ光の者と言う印象が強い存在だ。

 では、私たち勇者候補がそれを持っているか、と言うと否と言える。

 実際問題、フロム系魔法たるダクソ3式呪術が光の者が扱う代物な訳ねーだろって話である。

 確かにモンスターを倒すのに苦労はしないが、特攻があるかと言われれば否だ。

 故に、勇者候補、と思考の誘導とそれっぽい肩書を乗せているのだろう。

 つまり、私たちは勇者候補と言う肩書きは相応しくなく、異世界転生者として記すのがお似合いだろう。

 チートにはチートをぶつけるんだよ、みたいな発想で始まったんだろうなこの戦争。

 どう考えても魔王軍と対立する組織を作り上げて、徹底的にモンスターを殺すための機構を作った方が早い。

 けれど、それを覆すような魔王の転生特典がきっとあるのだろう。

 考えられるのは……、モンスターのテイム系となると指揮系バフ系か? またはモンスター製造系か。

 人類の脅威となるような極悪仕様の特典であるし……、モンスター創造系、か?

 動物の亜種みたいな存在だったモンスターに知性を持たせた、とか?

 そもそも……この世界における魔王とは、なんだ?

 うぅむ、考えれば考えるだけ泥沼にはまっていくタイヤの後輪みたいな気分になるな。

 

「それとも、元々この世界に魔王がちゃんと存在していて、それを倒す存在として勇者が本当に転生していた時期があって……、それが何かの原因で崩れたからそれのてこ入れとして私たちを転生させている、とか?」

 

 その場合、我々の肩書がちゃんと勇者候補に戻る訳だ。

 言うなれば勇者側の増援として転生させられている訳だからな。

 ……なんか、そっちの方がしっくりくるな。倒せない敵が居るから戦力として逐次投入している方が、らしいっちゃある。

 と言うか、冬将軍みたいに人々の無意識で精霊が変化するような世界だ。

 魔王関連で似たようなバグが発生したから勇者候補を転生させてトラブルシューティングしてたりするか?

 勇者候補、幸福は義務ですよ、ってか。

 魔王関連で起きそうなバグと言うか、最悪なパターンって言うと……まさかとは思うがミイラ取り方式で魔王になる怨念パターンか?

 魔王を倒した勇者が魔王になる、それが転生特典持ちの勇者だったら……、あー……。

 一番有り得るパターンだなぁ。歴代魔王の怨念が倒した相手に憑りついてー、みたいなパターン。

 世界が魔王を選ぶタイプだとモンスターから選ばれるだろうから、その場合はモンスターとのハーフみたいな感じで現地人だろうし、転生特典は絡まないだろう。

 いや、血筋があればある程度は受け継がれるんだっけ転生特典って。

 となるとまおゆうみたいな魔王と勇者が結ばれたパターンも有り得そうだな。

 基本的に魔王になるほどの才覚と言うか資質は持っているだろうし、そう言うのは大概美男美女がお約束だ。

 私的にはそっちの方が浪漫があるからそっちの説を推したいが、それで勇者候補に魔王討伐を女神が組むかって言うとイマイチなんだよな。

 後は……洗脳パターンか? 魔王が勇者を洗脳して表の魔王として操っている、みたいなパターン。

 それならまぁ、勇者候補をぶつける理由にはなるか。

 ちらりとアクアさんではなく、クリスを見やれば、ごめんね、と言う感じの表情をしているから聞き出せないな。

 まぁ、アクアさんと違って一人の勇者候補に融通するのはNGなのだろうな、女神ルール的に。

 

「……まぁ、どれにせよやる事は変わらない、か」

 

 やはり作るしか無いな。勇者候補のための勇者候補による勇者候補の相互補助組織を。

 現地人が介入する冒険者ギルドでは脅威に対する対処が取れないからな。

 アクシズマーケットを画策したのはガス抜きが八割くらいだが、二割くらいは此方が理由だ。

 言うなれば勇者候補によるオフ会を、集まる機会を作って今後の方針を立てたいのだ。

 恐らく魔王軍にしてやられているのはソロ気質な勇者候補の陰キャ性質が原因だろうしな。

 アケットによる運営収入で水面下で組織の雛形を作る、それが最高司祭となったゼスタとの密約の一つだった。

 女神アクアと言う交渉の切り札でありワイルドなジョーカーを私が握っているので、基本的に一方的な関係であるが友好関係にあるのだ。

 それにまぁ、それだけの利益をアクシズ教に報いている実感はあるからな。

 アルカンレティアに着いたら色々と事を進めないといけないから、休んでいる暇……無いかもしれんなぁ。

 流石に二度目の過労死は勘弁して欲しいものだ。まぁ、死なないけども。

 そんなくだらない理由で人間性を削るのはこっちとしても嫌だしな……。

 そういや、バニルからの助言で魔王軍幹部との遭遇が示唆されてたなぁ……、はぁ。

 やる事が、やる事が多過ぎる、いつから私はやれやれ系苦労人になったのやら。

 少し気晴らしをするために、トレントの手綱を打つ。もっとだ、もっと早く走れ。風になるんだ!

 頬を撫でる疾風の心地良さに少しだけ胸のもやが薄れる。いつになったら安寧を得られるんだか、はぁ。




モンスターの例えに姫騎士を出そうとして調べ直したら、原作に無く、困惑した今日この頃。
原作に出てもおかしくないクオリティだよなぁ、姫騎士。
すっかり原作が元だと思ってたよ、マジで……。
素晴らしい先駆者様に敬礼!
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