この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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誤字修正&感想&ここすき、ありがとうね!
AIイラストは賛否両論あるけども、肯定的で有難いね。
流石に絵は描けないから依頼するのもアレだし、描いてくれる人も居ないしなぁ。
……描いてくれても良いのよ?(チラチラ


38話

 兎詐欺に出くわした後は特段特筆すべき事も無く、無事にアルカンレティアに辿り着く事ができた。

 真っ白に燃え尽きたぜ、と言う感じで歩くトレントを除けば概ね問題無いだろう。

 

「あっ、聖母様!」

「聖母様だ!」

「おぉ、聖母様がお見えになられたぞ!」

「聖母様-! 俺だー! 結婚してくれー!」

「きゃー! 聖母様ー!」

 

 待って、本当に待ってくれ。何で本格的に崇められる立場になってるんだ私。

 困惑の表情と視線が後頭部にビシバシと当たる感じがする。

 確実にゼスタが何かをやらかしたに違いない。

 そう決め付けた私は額に青筋を浮かべながら、何となく手を振って見たが黄色い声援が返って来るだけだった。

 

「……マジでどうなってるんだ。前来た時はここまでの人気は無かったぞ……?」

「その疑問にお答えしましょう!」

「でたな諸悪の根源め。拾う骨すら溶かす温度に死に絶えるが良い!」

「おぉっと! 待った、待ってください! これには広く浅い理由が!」

「この盤面でおちょくれるとは良い度胸だなぁゼスタぁっ!!」

 

 にゅっと何処からともなく現れたゼスタが隣に座っており、咄嗟に『混沌の火の玉』を灯した私は悪く無い筈だ。

 こいつ最高司祭になったから止める者が私以外に居ないようで、衛兵などの国家権力には負けるがそこらの信者では太刀打ちできない変態に成長しているらしい。

 定期報告にゼスタのハジケっぷりを何とかして欲しいと言う陳情まで混ざる始末だ。

 打てばあひんと響く嬌声を上げるのがこの変態のやべー所であり、若干私でさえも扱い辛くなる時が多々あるくらいだ。

 

「ふふふっ、その手のそれをどうぞしまってください。死人が出ますよ、ゼスタと言う名のね!」

「……一瞬、それでも良いかと思ったんだが? ……はぁ。で? どういう状況だ?」

 

 ペコちゃんが如く舌をぺろっと出したゼスタにイラっとしつつ、続きを促すと嬉しそうに話し出した。

 

「あぁ、簡単な事ですよ。下界に降臨した女神アクアを手厚く保護している事を流布したら一晩でこんな感じになってました。いやー、にしても生のアクア様はやばいですね。遠目から見ても分かるのに、こんなに近くで見たら目が潰れそうなくらい眩いお方だとは」

「嘘つけ、絶対お前言ってない部分があるだろ」

「あ、分かります? ぐほぁっ!? つ、痛烈なレバーブロー……っ、私でなければ受け止めきれませんな……っ」

「お代わりが御所望か? 安心しろ、反対側から打ち込んでやるぞ」

「わ、分かりました。流石に内臓までは鍛えられないので勘弁してくだしぃ……。こほん、女神アクアをこの街に連れて来てくれるのが聖母である貴女だと流布したんですよ。そしたら、ぷぷっ、皆っ、一週間くらいずーっとそわそわしててっ、くくくっ」

 

 いつぞやのアクアさんみたくぷーくすくすと人を小馬鹿にするような笑いを堪える素振りを見せるゼスタ。

 あぁ、うん、そうだよな、長年のノリが数ヵ月で収まる訳が無いよな。

 

「悪戯小僧かお前ぇ……。……それだけか?」

「えぇ、それだけですよ? 十分でしょう、この街の、と言うかアクシズ教に貢献してくださっている貴女の事を誰もが知っているのですから、そこに女神の守護者だなんて肩書きが付いたらそりゃー誰だって尊敬するし崇めるし感謝するでしょう。戒律を作り、女神アクアの代弁者として言葉を残し、時に聖母然とした説教を行ない、数多くの信者の心を射止めているのです。特にアクシズマーケットの開催者としての功績が強いですね。一部の行き過ぎた性癖を拗らせた者が一心不乱の大戦争と言わんばかりに机に齧り付く様に紙に文章を書き起こしているのだって貴女のおかげなのですよ」

「最後のそれ付け足す必要あったか?」

「無論ですとも。今や聖母様で危険なオナニーに日夜励む者たちです、面構えが違いますよ」

「……その言い方だと私が対象にされてないか?」

「えぇ、間違った事は言っておりませんとも」

 

 成程、これが二次創作でエッチな事される側の気分かぁ……。

 アクアさんを対象にすると罰当たりだからって次点の私を狙いに定めたろ確実に。

 はぁ、しょうがないにゃぁ、と許可を出しておいてやるか。

 実際、アケットでの収入によって得られる利益を期待しているので冷や水を掛ける訳にもいかない。

 勇者候補扶助組織の設立と謳ったは良いが、実際のところはルイーダの酒場みたいな小さな物で良いのだ。

 有事に対してある程度集まれる場所があって、ある程度の意思伝達ができて、ある程度の支援ができれば良いのだから。

 確かに私たちは強くてニューゲームみたいな感じではあるが、一から百までお世話されたいチート野郎では無いのだ。

 言わばローグライク気質と言うか、強い武器を持っていたいがそれを理由に利用されたくない、ハクスラ系なソロの傭兵みたいな扱いを受けていたいのだ。

 

「あぁ、そうそう、実際にアケットに出品する創作物は私が一度読んで規約に反してないか検めるから、その通達もしておいてくれ。そう言う方が上がる奴らも居るだろ多分」

「ほほぉ、我らが聖母様は寛大であらせられますなぁ。けど、本当に宜しいので? 大分きっついのを書いている者もちらほら居ますが」

「そうか? 私が野生の紅魔と言うペンネームで書いてるバルバロシリーズよりかは温いだろ」

「……えっ、アレ書いてるの聖母様で? うっそ、マジで? アレ、過激過ぎて発禁扱いされている街もあるそうですよ? 私の家に全巻揃ってますけども」

「そこまで過激な事書いてたっけか……?」

「うわぁ……。自覚無かったんですか。あの小説が出回った事で性犯罪が格段に減ったくらいに社会的な影響を及ぼしてる作品と巷の噂ですぞ? そこらの女性を襲うよりもあの小説を読んだ方がスッキリするとかなんとか、盗賊や山賊の間で一大ブームになってるとか」

「ふぅーん……、まだ印税入って来てないからあんまり実感無いんだよなぁ。半年の売り上げで決算してるみたいだし」

 

 メイドスキー伯爵シリーズは全三巻、バルバロシリーズは四巻目の発売がされている訳だが、売り上げに対する話が何も来てないんだよな。

 あっ、もしかして実家の方に手紙が送られてたりするのか? 前に担当と会ったの里の小屋だし。

 ……まさかと思うが、印税もそっちに流れてたりしねぇだろうな。

 あの色ボケ夫婦に遊ぶ金なんて渡したらナニに使うか分からん。後で王都の出版社に手紙投げておこう。

 

「取り敢えず、詳しい話は後にしようか。一日二日くらいは旅館でのんびりさせろ」

「承知しました聖母様。そのように取り計らっておきますぞ。それでは、水と温泉の街アルカンレティアにようこそおいでくださいました! パーティメンバーの皆様方にも喜んで貰えると良いのですが、ではっ!」

 

 御人台で立ち上がり、一礼したゼスタはしゅばっと飛び降りて何処かへ消えていった。

 ……位置関係からして下の用水路だな。あいつ普段から沈められていたから泳ぎが得意らしいし。

 と言うか一応此処入口の橋の上だぞ、あいつこの街に親しみ過ぎだろ。

 まぁ、ゼスタだしなぁ、と溜息を吐いた私は後ろからの視線に漸く気付いた。

 

「……えっ、今の、あのゼスタさんですか? あの変態お気楽脳内お花畑セクハラ親父のゼスタさんです、よね?」

「ゆんゆん、その疑問は私もしてました。と言うか、おんおんのこの街における立場強過ぎませんか。確かアレ、アクシズ教の最高司祭になったんですよね。なんで秘書みたいな扱いしてるんですか」

「その問いに答えるためにはしょうもないくらい浅くて呆れるくらいの内容になるが、本当に良いか?」

 

 私の何とも言えない疲れた声に二人は押し黙った。

 まぁ、この面子であのゼスタにあった事があるのはめぐみんとゆんゆんだけだろうしな。

 実際のところ、傍目から見れば私がゼスタを操っている様に見えるだろうが、あの変態狸爺は態とそうしている節が見える。

 私と言う美少女に折檻されつつも推しとして支援する私的な実益と、それと並行して自身が所属するアクシズ教の立場の向上と利権や派閥争いなどのその他諸々の職務的利益を上げている訳だ。

 ああして私に媚びているようにしているのも、女神アクアに代わる扱いやすい広告塔として管理するための演技も含まれている事だろう。

 実際、アクシズ教の予算は右肩上がりの状況であり、改心する信者たちの様子に感銘を受けた者たちが新たな信者として加入している事から新規入信者数の問題も解決している。

 さぁて、アクシズ教の最高司祭としてどれだけの鳥を落としているのだろうかね。

 一石二鳥以上の利益は出ているだろうよ、本当に食えない野郎である。

 勇者候補扶助組織の密約も、この街の安全性がより高まる事を理解しての承諾だろうしな。

 まぁ、何が言いたいかと言うと最高司祭にまで成り上がった手腕は伊達では無いという事だ。

 

「あんまり褒めたくはないが、あのアホは変態だが馬鹿では無いんだよ。頭の良い馬鹿を演じているに過ぎない。覚えておくんだな、頭の良い奴の馬鹿の振り程恐ろしい擬態は無いぞ」

「そこまで念押しするだなんて……、ある程度信頼はしてるんですね」

「それは、まぁ、色々と立場的にもな。それくらいの事はお互いに分かってるのさ。私がアクシズ教の信者たちに同情してこうして聖母を演じているだなんて欠片も思っちゃいないだろうよ」

「……と言うか、おんおんの場合、素で聖母みたいな事をしちゃうお人好しなので、聖母って言う肩書きは後付けでしかないですもんね」

 

 めぐみんの私は知ってるんですと言う感じの声色で放たれた言葉に困惑した。

 え、私ってそう言うイメージ持たれているのか? 

 めぐみんに対して過保護な親みたいな事をしていた自覚はあるが、それ以外は、はて、どうだろうか。

 ララとの関係はずぶずぶのレズ系のそれであるし、クリスとの関係は言わずもがな。

 ……聖母っぽい事した覚えがマジで無いんだが。

 先程のめぐみんの言葉に同調しているらしいのはカズマくんとアクアさんであり、他の面々は微妙な反応を示していた。

 まさかと思うがアクアさんのお世話をカウントしてないだろうな……?

 

「いやまぁ、普通の人だったらこんな余り物パーティメンバーを集めたりしませんよ」

「いや、私は途中参加なんだが……? リーダーはカズマくんだろう?」

「……そう言えば、そうでしたね」

「悪かったな! 師匠みたいなリセマラ即終了キャラみたいな人と比べられたら負けるに決まってんだろ!」

「でもまぁ、カズマも最近頑張ってるじゃない。無様な姿も見せなくなったし、あんまり落ち込まない方が良いわよ? 単純に比較対象が悪過ぎるわ」

「褒めてるようで褒めてねぇんだよなぁそれは! うぐぐ、いやまぁ、特典のアクアが嫌かと言えばちげぇけどさぁ。何と言うか、折角異世界なんだし、主人公みたいな活躍をしてみたい訳よ」

「ふ、ふぅーん……。致命傷くらいなら私が確り治してあげられるから無双ゲーみたいに前に出たら良いんじゃない?」

「磨り潰されるように死ぬだろ物量で。うーむ、このデルフに魔法吸収機能とか付けれないもんかね。なんか、ワンオフ的な凄いのが欲しいよなぁ」

「分かりますよカズマ。戦場で一際目立つ格好良い姿を魅せたいんですよね。私が爆裂道に走ったのもそう言う経緯があったようなもんですし」

 

 史上最強の弟子カズマくん計画みたいな感じのを考えてあげた方が良いのだろうか。

 正直、デルフをあげたのは本気でネタだったので、ここまで入れ込まれると此方としても気恥ずかしいのだけれども。

 冷静にカズマくんのステータスを見てみれば、幸運以外は平凡の数字である。

 そして、この世界は悪魔や天使を憑依させて強くなったりする世界観ではないし、魔物と合体したり契約して強くなったりするシステムも無い。

 言うなればTRPGにでも出てきそうな王道的な剣と魔法の世界なのだ。

 やはり、筋肉、筋肉が全てを解決する……。みたいな展開はカズマくんも求めてないだろうしな。

 クールラントのルドレスみたいにソウル錬成ができれば良いんだが。

 強大なソウル、此処で言う魔王軍幹部級のソウルを加工する事ができればそれっぽい武器が作り出せそうではあるんだがな。

 手持ちにあるソウルで使えそうなのはベルディアくらいだが、それをやると召喚出来なくなるから別のが欲しい。

 それにソウル錬成をするための錬成炉をどうやって作るかが問題だ。

 テキスト的には結晶トカゲの抜け殻で出来ているんだったっけか。

 ……無理じゃね? 流石に代替品が思い付かないんだが。

 それをするくらいなら既に持ち主から手放された神器を探した方が早そうだな。

 

「そしたらダンジョンに潜ってみたらどうかな? カズマ君の幸運があるならレアな武器を拾えそうな気がするんだけど」

「ふむ、成程な。確かにクリスとダンジョンを回っていた頃に、偶に良い物を拾っていたりしていたものな。私が一切使えなかったからクリスに換金して貰っていたな」

「良いんじゃないですか? 確かカズマのステの幸運って一番高かったですよね。期待できるんじゃないですか?」

「そうね……。最初の頃の貧弱なヒキニートなカズマだったら無理だったでしょうけども、今のカズマならダンジョンに潜っても大丈夫じゃないかしら」

「貶めてるんだか褒めてるんだか微妙な言い方やめろ……。でもまぁ、成程、ダンジョンか。ハクスラするのも良いかもしれないな」

「その場合、四人パーティとかの方が良いんだろうか。クリス、ダンジョンアタックは実際どんな感じなんだ?」

「んー、そうだね。普通、ダンジョンに潜るパーティってのは三つくらいに分けられるかな。ダンジョン専門のギルドと言うか集まりと言うか、ある程度の集団から選抜して潜るとこ。仲良しこよしの気の合うメンバーで潜るとこ。役割分担で一期一会に寄せ集める場合もあるよ。大体四人くらいが主流だね。あんまり多いと分け前が減るから、前準備やリスクを考えるとメリットが薄れる場合もあるからパーティの方針次第ってところかな」

 

 ふむ、そうなると前衛にカズマくんを置いて、ヒーラーにアクアさん、シーフにクリス、ウィザードにゆんゆん辺りが丁度良いか?

 私が入るとカズマくんのスキルアップにならないからな。

 最初の一度二度くらいは付いて行っても良いが、最後までおんぶに抱っこはカズマくん的にも勘弁して欲しいだろうしな。

 

「HEYバニル、アルカンレティア周辺のダンジョンを教えてくれ」

『契約者殿の記憶にある薄い万能機器に備わった人工知能のような扱いをしよってからに……。北側の山脈の浅い所に一つ、東側にある用水路の集合地点に一つ、少し南東に離れた森の中に隠された所に一つだ』

「サンキューバニル。助かるよ」

「いや、私の前で普通に悪魔と交信しないでよ……」

 

 虚空に呟くようにバニルに契約のパスを通じて問い掛ければ確かな情報が返って来た。

 それをクリスが何とも言えない表情で非難する瞳を此方に向けていた。

 仕方が無いだろう、便利なんだものバニル。対価もきっちりと契約書で結んだから騙して悪いがをさせない仕様だし。

 後で此方の冒険者ギルドでダンジョンの情報を集めてみようか。

 ダンジョン専用の施設もあったりする街はあるが、何処ぞのハーレムを目指すダンジョン産業が盛んな都市でもない限りは設立されていない事が多い。

 一応危険性から冒険者ギルドが入口を預かっている事が多いので、それっぽい施設が無い街はギルドに尋ねるのがセオリーだ。

 

「旅館でゆっくりして、飽きてきたらダンジョンに向かうのも良いかも知れないな。最初は全員で行ってみて、二手に分かれてダンジョンアタックするのも面白そうだ。安心しろめぐみん、私のパーティに入れておくからな」

「流石ですおんおん! 爆裂しかできない私ですがそれを理由に置いてけぼりにされるのはちょっと心にクるので……」

 

 カズマくん、アクアさん、クリス、ゆんゆんのチームに分けるとなると、此方は私、めぐみん、ララ、ウィズさんか。

 なんか割とバランス良く分かれたな。此方は魔法ユーザーが多いが私が前衛を張れば良い話だしな。

 最悪ベルディアを召喚すれば良いし。

 何処かでベルディアが大きなくしゃみをした気がするが、まぁ、良いか。

 

「そう言えば、ウィズさんはまだ寝てるのか?」

「ん? そういやすっかり忘れてたけど居ましたね。えぇと、何と言うか、棺桶に安置されている死体って感じで寝てますね……、ぐっすりと」

「……一服盛られている可能性が出てきたな。まぁ、いいか。そろそろ予約させてた旅館に着くから各々準備しておいてくれ」

 

 後ろからはーいと言う暢気な返事が返って来る。

 修学旅行の引率か、だなんて思ってしまったくらいにゆるい雰囲気である。

 えぇと、確かゼスタが言うにはアクシズ教会から見て斜め右にある所の……、ああこれか。

 老舗旅館『出炉利庵』と木製の看板に達筆な文字で書かれたそれを見て困惑した私とカズマくん。

 漢字の上に此方の文字でルビが振られており、漢字が分からなくてもデロリアンと読めてしまう。

 見た感じ熱海とか箱根とかにありそうな木造建築の老舗っぽい旅館なのにタイムマシン染みた名前を何故付けたんだ。

 今私は違和感無く受け入れてしまったが、そもそも木造建築の和風の時点で珍しい。

 そこらにある温泉宿は洋風な面構えをしているのに此処だけが木造だなんて確実に日本人の手が入ってるだろ。

 庭に飾られている立派な松の木や桜っぽい木々が私の憶測を裏付ける証拠だ。

 

「おいでやすー、遠路遥々とお疲れ様でございました。ご予約のアクシズ教聖母様の団体様でございますね」

 

 と、着物美人にお出迎えを受けたのだった。

 何で和風旅館におかしな名前を付けたんだ、うちの里みたいな詐欺染みたセンスしやがってからに……。

 女将に連れられて四人部屋と二人部屋二つに案内される。

 私、ララ、めぐみん、クリス。一階、四人部屋。

 ゆんゆん、ウィズさん。一階、四人部屋の隣の二人部屋。

 カズマくん、アクアさん。二階、二人部屋。

 と言う感じで分けて貰った。

 元々四人部屋と二人部屋の両隣の所を予約してくれていたようだが、急遽取った結果少し離れてしまったらしい。

 いやー、何て言う不運だー(棒読み)。

 まぁ、本当の所は予備として一応取っておいた所が離れていたと言うだけでそう言う意図は無かったらしい。

 そもそも、六人で来る予定だったしな、増えたのは確実にこっちの理由であるし同じ旅館であるだけ有難いと言う話だ。

 

「あの、……あの、なんで、俺とアクア離れてるんですかね……?」

「それはだな……」

 

 カズマくんがしどろもどろと言った様子で小さな声で尋ねてきたので、普通に人数の関係で離れただけだと伝えた。

 そ、そうすか、とカズマくんが頬を赤らめて黙り込んでしまったのでニヤニヤとしておいた。

 

「あぁ、そうだった。カズマくん。これをやろう」

「へ? この意味深な箱はいったい……」

「使い切っても良いからな。避妊はしっかりしておくんだぞ」

「ブホァっ!? ま、まさかこれって……、うわぁ、うわぁ……」

 

 バニルに取り寄せて貰った何処ぞの勇者候補が作っていたらしい物を入れた木箱を押し付けておいた。

 完全に顔を真っ赤にしたカズマくんが気まずそうに私を見たので、サムズアップと良い笑顔で返してやったら撃沈していた。

 お膳立てはこれぐらいで良いだろう。あんまりやると初心な感じで空回りしそうだから悪ノリはこれぐらいにしておく。

 

「んで、真面目な助言だが聞いておくか?」

「……………はい」

「相手の事を気遣うのも良いが、相手の覚悟を蔑ろにする選択肢は取っちゃ駄目だ。軽々しく約束とかしちゃだめだし、見通しの無い言葉は使うな。君たちの歩幅に合った歩み寄りをするべきだ。相手が元女神だとか、人間じゃないとか理由にしちゃ駄目だからな。分かっていると思うが、気の利いた言葉よりも君自身の言葉の方がよっぽど良い口説き文句になる。惚れちまったんだ、後はもう流れに任せて抱き締めておけ。爪も切っておけよ、深爪気味でやすり掛けも忘れるな」

「う、うっす」

 

 受け取った木箱をこっそりと仕舞い込んだカズマくんの背中を軽く叩いて気合を入れておく。

 いやぁ、どう転がるかは分からないが数日くらいで面白そうな光景が見れそうだ。

 ……風の噂で聞いたがカズマくん私に惚れかかってたらしいからな。

 これくらいのお節介とフォローはしてやっても罰は当たらないだろう。

 願わくばより良い関係を築いてくれると嬉しいんだけどな。

 こればっかりは当人の想いだからな、外野がどんちゃん騒ぐもんじゃないしな。

 ウィズさんを複数人で部屋に運び入れ……、これ傍目から見たら拉致監禁現場に見えるな、と思いつつ布団に寝かしつけておく。

 流石に可哀想だから夕飯の時には起こしてあげよう。

 

「にしても……、割かし良い旅館だな。名前はアレだが」

「そうなんですか? デロリアンだなんてお洒落な名前だと思ったんですけども」

「……こっちの世界で大人気だった映画に出てくるタイムマシンみたいな乗り物の名前なんだが」

「……勇者候補の誰かが作ったんじゃないですか?」

「そうだろうな……」

「ふむ、窓から見える景色も凄いぞ。何処か静けさを感じられる庭園だな。石と砂でこうも見事な模様を描けるとは……」

「だねー。すっごいよね。金銀宝石を使ってるような贅沢な物じゃないのに凄く綺麗に感じるよ」

 

 対面する椅子の置かれた奥手の場所から見える窓の景色は綺麗な枯山水を見てララとクリスが感嘆の声を漏らしていた。

 後ろから見やれば成程、確かに見事なものだった。

 旅館の経営者の息子や娘だったりした人が勇者候補として呼ばれたのだろうか。

 それとも単純にホームシックならぬワールドシックに陥り、日本の風情ある雅恋しさでこの旅館を作ったのだろうか。

 ……まぁ、日本に戻りたいかと言えば、悩む人も多いだろうな。

 そういう人にとってこういう日本的和風な生活を彷彿させる場所は正しく心のオアシスになり得たのだろう。

 水が綺麗で多量にある上に温泉もあるアルカンレティアだからこそ実現できた場所なんだろうな。

 そう考えると微妙な旅館の名前もくすりと一笑い取るための小粋なネタだったのかもしれない。

 

「……おんおん?」

 

 そうぼんやりと枯山水を眺めていた私をめぐみんが心配そうに声掛けた。

 ……私は日本に戻りたいとは思わないな。

 確かに科学製品や娯楽に困らない近代的な生活は今思えば贅沢な物だったし、ゲームやネットの無い世界は寂しさを感じる。

 しかし、その寂しさを埋めるようにめぐみんやララ、クリスと言った繋がりを強く感じるのだ。

 隣に来ためぐみんをぬいぐるみの様に懐に抱き留め、肩に顎を乗せて枯山水を眺める。

 戸惑った様子を感じたが、やがてされるがままに諦めためぐみんを抱き締めておく。

 ……ぶっちゃけ、可愛い女の子をハーレムしているようなもんだし、帰る理由も義理も無いんだよなぁ。

 割と本気でこの世界に骨を埋めて良いと思っている今日この頃。

 魔王を倒して報酬を貰ったとして、その報酬を地球への帰還にはしないだろうなぁ。

 仮にめぐみんやララを彼方に一緒に渡航できたとして、その暮らしは容易なものではない。

 今ある生活って宝くじを当てたようなもんだしな。

 魔王軍幹部を倒した戦績だってこの世界では一握りな名誉である訳だし。

 めぐみんの首元に鼻を当ててめぐ吸いをしつつ、枯山水の景色を楽しむ。

 

「いやあの、流石に恥ずかしいんですけど、おんおん? おーい、おんおん……?」

 

 何やら顔を真っ赤にしてめぐみんが無駄な抵抗をしているが、手放そうとはしてやらない。

 ……ふぅ、最近はこう言う事してなかったからな、少し落ち着いた。

 

「折角温泉旅館に来たんだし、夕飯の前に一度温泉に行っておこうか」

「あの、無視ですか、あのあの……。はぁ。嫌では無いですけども、むぅぅ……」

「まぁまぁ、おんおんも思うところがあるんだろう。一番馴染みのめぐみんを選んでいるのが理由だろうしな」

「使い慣れた毛布みたいな? 嗅ぎ慣れた匂いって安心するしね」

「うぅぅぅぅ……」

 

 ララたちのフォローに顔真っ赤にしつつ、めぐみんはついに抵抗を諦めたのだった。

 さーて、温泉に行く準備でもしておこうか。

 めぐ吸いをして気力も回復した事だし、今度は温泉で体力を回復せねば。

 めぐみんを手放し、押し入れを開くと木箱に仕舞われた浴衣やタオルなどを発見する。

 うーむ、見事に日本の旅館だなぁ。そう言えば此方の方の温泉道あたりは浴衣を着た人が多かったな。

 もしかすると此処を軸に温泉文化がアルカンレティアに広がったのかもしれないな。

 温泉を使って旅館を作るだなんて考えが浮かぶのは正しく日本人だろうし。

 他の考えだとローマのテルマエのように公共風呂場として使うだろうしな。

 実際、アクセルにも公共風呂場があるように衛生に気を遣った街造りはこの世界では一般的だ。

 風呂場付きの宿屋も多い事から衛生に対する考えを広めた誰かが居たはずだ。

 その勇者候補及び先駆者には感謝しておきたいものだ。

 そう内心独り言ちて自己完結して心の安寧を取り戻しておく。

 折角の温泉旅行だ、楽しまなくては損だしな。

 ……後日襲来するであろう魔王軍幹部との邂逅を現実逃避で忘れつつ、温泉に思いを馳せるのだった。

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