いつも楽しく見てるよ!
殆ど捏造なのでこまけぇこたぁ!と読んでくれると幸い。
「それではお部屋の方ご案内致しますねぇ」
「「……………………」」
どうしてこうなったかは分からない、分からないのだが、ただ一つ言えるのであれば師匠に謀られたのだと思う。
師匠曰く、クリスとウィズの分が増えた事により予備に取っていた部屋を俺たちに当てがったとの事だが、本当だろうか。
懐に仕舞い込んだ精神的に重く感じる木箱の存在が俺の純情な心を押し潰すかのような圧迫感を感じる。
俺とアクアは師匠たちとは違い二階の部屋に案内されていた。
それも豪華な事に角部屋で、聞く話によれば隣の二つは客が入っていないらしい。
何と言うか、仕込まれた痕跡がありありの感じに作為を強く感じる。
「では、ごゆっくりとお寛ぎくださいませ」
綺麗な着物美人女将に連れられた部屋はよくある日本の旅館のそれにしか見えない。
玄関口に取り残された俺たちの間には、何か、こう、気まずさと恥ずかしさ、そして何とも言えない雰囲気が漂っていた。
「……と、取り敢えず中入るか」
「そ、そうね。そうしましょ」
蘇る小学校の時の林間学校の想い出。
ペアになった子が見知らぬ女の子で、お互いにどう接して良いか分からないが取り敢えずレクリエーションに向かう時のシチュに似ていた。
……隣に居るのはアクアだぞ? あの、気心知れて酒乱のお気楽元女神のあっぱらぱーだぞ?
…………何でこんな緊張してるんだ俺は。そして、こいつも。
………………でもまぁ、期待してしまうのも仕方が無いだろう、シチュ的に、雰囲気的に。
畳の部屋に郷愁を感じながら俺たちは荷物を押し入れ近くに下ろし、馬車の疲れを取るべく向かい合って座布団に座り込む。
数秒、いや、数分に感じられてしまった沈黙。
どうも気恥ずかしく、そしてやけに相手の事を意識してしまう悪循環に陥っていた。
そ、そうだ。こういう時はお茶を飲もう。
そう思い魔導ポットの中に『クリエイトウォーター』で水を入れ、スイッチを入れる。
逆さまに置かれた湯飲みを二つ机に置いて、備え付けのお茶っぽい粉末を一匙二匙と適量を入れていく。
数分後沸いたお湯を注ぎ入れて二人してずずずと飲んで、ぷはぁと一息吐いた。
「「ぷっ、くふふ、あはははははっ」」
そして、同じタイミングで顔を見合して笑いが込み上げてしまった。
「ふふっ、なんでこんなに意識してたのかしらね」
「いや、本当にな」
「こういうのがアレなんでしょ。和の寂び詫びって言う奴」
「まぁ、そうだな。と言うか俺も旅館なんて行った事無いからイメージでしかないな」
「元ヒキニートだもんね、カズマ」
「その言い方は止めろって言ったろうが」
「ごめんごめん、もう言わないわ」
まったりとした雰囲気が続く。お茶の御かげだろうか、程良い渋みと深みのある味が落ち着かせてくれたのかもしれない。
はふぅ、と一息吐いたアクアの仕草が何処か色っぽく感じて、つい意識してしまう。
懐の木箱のせいか、それとも、薄々感じていた距離感の近さのせいだろうか。
……まぁ、多分、これが正解なんだろうな。
俺はアクアを女として意識している、のだと思う。
恋人なんて居なかったし、唯一付き合いのあった女友達も幼馴染のあいつしか居なかった。
子供の頃に結婚の約束をする、そんなベタな関係だったが段々と趣味嗜好の違いから、男女の思春期の差異から、つるむ事も少なくなって……。
で、挙句の果てがアレだ。
不良の先輩と楽しそうにバイクに二ケツするあいつの姿を見て、裏切られた気持ちになって……。
ショックのあまり引き籠った俺は女性をそう言う対象に見るのを止めていた。
出逢った初めの頃にアクアに対して強気に出られていたのもそのせいだ。
マクロ的に見た人間、男女の二種類の内の女性側、そんな割り振られた記号を見るかのように俺は区別をしていたんだと思う。
だから、日々を隣で過ごすにつれてアクアの事を知って……。
どんな時に笑って、どんな時に泣いて、何をしたら喜んで、何をしたら悲しむのか、そんなアクアの一面を一つ一つ知って行った事で俺は、漸く一人の女性として認識できたんだと思う。
星の数程は居るであろう人間の女性としてではなく、元女神でポンコツな可愛いアクアとして見れたんだと思う。
本当の意味で気心を知れる仲と言うやつになったのだろう。
俺もまだ十六歳であるし、青春は後半気味だが謳歌していてもおかしくはない筈だ。
「にしても、時間が経つのは早いわね」
「と、言うと?」
「ほら、私がカズマに貰われてから半年が経つ頃じゃない?」
「……もうそんなに経ってたのか。なんか、あっと言う間だったな」
「でしょ? 私も、そう思ってたのよ」
湯飲みを机に置いてはふぅと垂れ元女神になったアクアは楽しそうにころころと笑う笑顔を魅せた。
俺はそんな、らしい笑顔に見惚れてしまって、気恥ずかしさを誤魔化すために湯飲みを傾けた。
アクアはそんな俺を見てチェシャ猫のようににんまりと笑うと心底嬉しそうにしていた。
「正直な話、下界に拉致られた時はカズマに怒り心頭だったのよ。折角あり付けた楽な仕事を取り上げられて、なーんでこんな冴えない男を支えなきゃならないのかーって」
「そりゃぁ……、悪かったな」
「ふふっ、今はそんな事思って無いわよ。天界はね、何も無いの。あるのは天国のような作られた安寧だけ。楽しい事って言うと気が知れた同僚と駄弁ったりするぐらい。まぁ、そう言う風に作られた経緯はあるんだけど、結局は我らが主となる創造神様の手駒の一つに過ぎないわけ」
やってらんないわ、と湯飲みにお茶をおかわりしたアクアは自棄酒を飲むかのように中身を啜った。
「あの場所に居た時はそんな事も思いもしなかった。ただ、ただただ、言われた事をして褒められもしない仕事を続けるだけの毎日。ビッグになろう、と思ってた頃と違って惰性で生きてた気がするわね。……だから、カズマには感謝してるのよ。退屈な毎日を吹き飛ばすような楽しさが下界にはあった。そして、慣れずに色々やらかす私を貴方は笑って許してくれて、一人の隣人として見てくれた。……こんなんでも元は付くけど女神なのよ、私。エリートだった訳よ。それがまぁ、ふふっ、こんな人間染みた生活に慣れ親しむだなんて思いもしなかった」
アクアの顔は心底嬉しそうで楽し気な雰囲気を帯びていた。
今の生活が楽しくて仕方が無い、もっと遊びたいと言う子供染みた笑顔を魅せていた。
俺はそんなアクアの無邪気な笑顔に見惚れていて、あぁ、惚れた弱みってのはこう言う事を言うんだろうな、と納得してしまった。
「だからね、カズマ。ありがとう。貴方が天界から連れ出してくれた事で私は今、すっごく楽しいの。本当に、ありがとう」
「お、おぅ……」
始まりは売り言葉に買い言葉、単なる嫌がらせでしか無かったけれども、こうして気の合う仲間になった今がある。
気恥ずかしさから絞り出した言葉は照れが多量に含まれてどもってしまった。
そんな様子をアクアはからからと笑い、嬉しそうにしていた。
「俺も正直、最初の頃は何て女だ、だなんて思ってたけど。師匠が助言してくれたように、アクアもこの下界に馴染むために頑張ってたもんな。俺は慣れない環境で頑張るお前を見て、俺も頑張らなくちゃ、だなんて思ってたんだ。だから、そんな風に思っててくれた事が嬉しいよ。ほんと、此方こそありがとうって感じだ」
「なぁにそれ、……ふふふ。何か、心の奥に置いてたのを吐き出したら楽になっちゃった」
「そっか」
「なによ、つれないわね」
拗ねた顔で机に頬を付けて半睨みするアクアに慌てて弁解をする。
ぶっちゃけ、異世界に来てテンションが上がってたから正直そんなに嫌ってはいなかったしな。
と言うよりもあの頃はアクアをゲームのチュートリアル妖精みたいな感じで見てたからな……、ポンコツだったけども。
「いや、その、……正直、俺は転生の特典にアクアを選んで良かったって思ってるからさ。俺にしてもこの世界はアウェイな場所だし、気が知れた……って言うのもアレだが、初めからついて来てくれる奴が居てくれて本当に心が楽だったんだ。だから、ぶっちゃけると馬小屋で寝たあの日からもうアクアの事を友人ってか、仲間だと思ってた」
「ふ、ふぅーん……、そっか。ならまぁ、いっか。こんな美少女を隣にぐーすか寝てたもんね」
「それはお前も同じだろうが。お互いにお互いを意識してなかった訳だしな。……ぶっちゃけ、外に出て仕事する生活に慣れなかったから疲れてくたばってただけな気がするけどな」
「……そうね。私もある意味事務作業だから身体を動かして仕事するのは新鮮だったわ」
「だろうな。薄着で跳ねまわるお前を見て色々と企む奴らを押さえるの大変だったんだからな」
「え、なにそれ知らない、初耳なんだけど」
「あっ」
そう、アクアはおっぱいもお尻も大きい美人であり、酒癖が悪いがそれ以外は活発な女友達系の美少女だった。
そんなアクアがTシャツ一枚で汗水垂らしてバインバインと大きな胸を動かしながら仕事していたら、そりゃあそう言う事を考える奴が出てくる訳で。
やけに絡んでは酒を飲ませようとする輩が何人か居たので、裏で俺の彼女だから手を出すなと嘘を付いて釘を刺していたのだ。
全く持って下心の無いお節介だったのだが、馬小屋で一緒に寝ていると言う事実もあった事からそいつらは割とあっさりと諦めてくれた。
……どちらかと言うとアクアに絡んだ結果、逆に酔い潰される側だったから諦めたように感じたが。
段々とアクアのポンコツさ、残念美人さを知ってむしろ同情される感じになった訳だ。
それがアクアの良さなのにな、見る目の無い奴らだなと徐々に酒に耐性が付いていく中で思ったもんだ。
こいつの良さは人並み外れた慈愛の精神だ。
相手を暗くさせないようにと明るく振舞って精神面を引き上げて。
無自覚な煽情的な恰好と活発さで程良い色気と気力を盛り上げて。
それとなく隣に居ても不愉快にさせない雰囲気で寄り添って。
そして、誰もが見惚れるような笑顔で心地良い関係を築き上げる。
成程、一つの宗教として讃えられる訳だ。
ポジティブシンキングの権化とも称せるアクアを担ぎ上げたアクシズ教はそう言う内面を感じ取っていたんだろうな。
「……ま、まぁ、確かに私の豊満なおっぱいに目線が向かってるのは気が付いてたけど、そう言えばいつしかそう言う視線減ったわね。おんおんちゃんが加入した頃だったかしらね」
「師匠が割と規格外な存在だったからな。強者でありながら接し方が気心知れた親しい先輩みたいな感じで付き合いも良かったし、何より共同で依頼をするスタイルだったのが良かったんだろうな。……前衛も中衛も後衛も出来て、唯一できないのは回復ぐらいだろうし、オールラウンダーの頼れる助っ人として認知されてたみたいだし」
「凄いわよねぇ。あんなにちっちゃいのに凄く頼られてるもの」
「実年齢が十三歳だしな師匠……。中身は分からんけどもそこまで歳喰ってる感じじゃないしな」
ちらりとアクアを見るもふるふると首を振られる。
成程、流石にコンプライアンスと言うかプライバシーに関わる所はしっかりしているらしい。
湯飲みのお茶を口に流し込んで一息吐く。
アクアも飲み終えたようでおかわりを淹れようかと動いたらその手を掴まれて抑えられた。
「……ね、ねぇ、カズマ。さっきこっそり女将さんに言われたんだけど」
「お、おぅ、何言われたんだ?」
「その、家族風呂って場所を貸し切りにしてるんだって。他のお客さんが入らない様にしてる所みたいで……」
「へ?」
「ほら、この街ってアクシズ教の総本山じゃない? だから、聖母扱いされてるおんおんちゃんや元女神の私に色々と配慮してくれてるみたいなの。所謂サービスと言うやつね。その一環として、私たちが滞在している間は家族風呂を優先的に貸してくれるんだって」
俺の手をにぎにぎと忙しなく握り締めながら、胸元に手を当てながらそわそわとアクアが此方を見つめる。
赤らめた頬、掌から伝わる体温の高さ、そして、何処か期待を込めた強い瞳。
……もしかして、アクアも同じことを考えていた、のか?
「でね。背中流してあげるから、家族風呂、行かない?」
「行く」
思わず即答していた。
そんな前のめりな俺の様子にアクアはホッとした様子で安堵していて、その心情が手に取るように分かる。
そっかぁ、アクアも同じ気持ちだったのか。
俺と同じで自分の好意を自覚していて、一歩踏み出すようなきっかけを作りたかったのだろう。
まぁ、確かに混浴だなんて男から言うにはハードルが高いからな。
……もしかして、師匠の入れ知恵か?
何かボソリと、おんおんちゃんの言っていた展開通りね、だなんて呟いてるし。
押し入れから二人分のサイズの合った浴衣を取り出して、お風呂セットを持った。
ドキドキと鼓動が静寂が広がる廊下に響き渡ってしまうかのような感覚に陥りながら、そっと俺は勇気を出してアクアの左手を取った。
思わず、と言った様子で此方を見たアクア。
そして、真っ赤になった顔を隠すように若干顔を俯かせながら、受け入れるようにきゅっと握り返された。
こ、こいつ俺を萌え殺す気か? 小動物めいた可愛い仕草をしよってからに……!
お風呂場のある一階に下りていき、一応気恥ずかしさから辺りを見回すも運良く他のお客さんは居ないようだった。
女将さんから手渡されていたらしい鍵を使って家族風呂の暖簾の掛かった扉を開き、防犯的な意味合いで施錠する。
遠くから若干香る温泉の匂いに少しテンションを上げながら、男女別に分かれていない脱衣所を見て思わず顔を見合わせる。
「背中合わせになるように両端を使おう」
「そうね。そうしましょうか」
脳裏の師匠が肩を竦めて、ヘタレ、と呟いたが、流石に勘弁して欲しい。
衣服を脱ぎながら、後ろから聞こえてくる衣擦れに両耳が集中してしまう。
さっさと腰にタオルを巻いて、手拭いを持って風呂場に向かうために横を向いた。
そして、ちらりと無意識に視界の端に映ったアクアを見てしまった。
……ボン、キュッ、ボン、そんな擬音が聞こえてくるような絶世のプロポーションがそこにはあった。
ちょうどタオルを巻く作業だったようで、すぐに見えなくなってしまったが脳内フォルダにしっかりと仕舞い込んだ。
そして、『潜伏』を一瞬だけ使ってその隙に顔を前に戻し、先に行ってるぞー、と声を掛けた。
多分、バレていない筈。そんな心地で風呂場へと向かい、扉を開けた。
むわっと温泉の匂いが蒸気に乗って香り、木製の浴槽や壁の無い洗い場に何処か懐かしさを感じる。
「おぉ……、マジで温泉だ……。すげぇ、此処異世界だよな……?」
「ほぇー……、凄いわね。完全に日本の温泉じゃない」
「凄い完成度だよな。やっぱりこれ日本人の手が入ってるだろ」
「多分、そうじゃないかしら。転生者自体は結構昔から送ってるけど、日本人を送り始めたのは百年くらいで最近だし」
「へ?」
掛け湯をして、ゆっくりと湯舟に浸かった俺たちは世間話のように喋ってたのだが気になる事をアクアが言った。
やっべ、と言う顔をしたアクアだったが、温泉のリラックス効果に負けたのか、まぁいいか、と口を開いた。
「ん、あー……、その、オフレコにしてね? この世界に元々魔王と呼ばれる存在は居たのよ。モンスターが進化して、と言う形でね。でも、とある転生者がひょんな事に魔王になっちゃって、この世界における魔王の在り方が変わっちゃったのよ。魔王ってモンスターの親玉みたいなものだから、野に散らばってた奴らを纏めて、今の魔王軍の形に統制しちゃったわけ。知性も付けちゃったもんだから魔王軍はとっても強くなっちゃって、現地人が敗走する場面が増えたの。それからだったかしら、後輩のエリスって子が居るんだけどその子は冥府に送る仕事をしてるんだけど、この世界に転生したくないって泣き出す人が増えちゃったみたいで問題になっちゃったのよ」
「なんでだ? 所謂輪廻転生だろ? 記憶とか真っ白にして送り出すんじゃないのか?」
「まぁ、そうなんだけど……、この世界に戻りたくないって言う想いが極まっちゃったのか、その漂白の作業で壊れちゃう魂が増えちゃったのよ。負荷が高まり過ぎてパリィーンって。ほら、洗ってる時に強く擦り過ぎちゃって繊維がほつれちゃう時があるでしょう? あれと同じでほつれた部分から負荷が高まって魂が壊れちゃうの。そうすると元の形に戻せないから部分欠けした魂ができちゃうのよ。だから、それを直すために日本で死んだ人の魂をがっちゃんこして、余った部分を切り離して転生の特典として付与してるって訳。だから、転生特典は天界製の逸品なんだけど無双する程の強さを持たないのよ」
「へ? そうなのか」
その割にはあのミツルギ、だっけ? あのハーレムナルシスト野郎は活躍してるみたいだけども。
……あ、でも師匠みたいに魔王軍幹部を倒してる訳じゃないな。
それだけすげぇ武器だったらもうとっくに魔王倒してるもんな。
「うん。だって、普通に生きてただけの現代人の魂が強い訳無いじゃない。それもしょーもない死に方や面白い死に方をするような人たちを転生させてるのよ? 切れ味が凄いとか、魂に付与するだけの作業だとか、結局簡単なものになっちゃうのよね」
「へぇ、そうなのか。って事は、もしかしてアクアを連れてきた俺が一番の転生特典を持ってる事になるのか」
「まぁ、そう言う事ね。私は致命傷も治せるし、何なら死んでも肉体があれば蘇生もできるわよ。回復に特化した転生特典って考えたら破格中の破格よ。だからまぁ、一番良い物を選んだ、と言う意味ではカズマは正しかったわね」
「きっかけがちょっとアレだったけどな……。でもまぁ、今は選んで正解だったって思ってるけどな。運が良かったぜ」
だなんて言ったらアクアの顔が真っ赤に染まって視線を反らされた。
……いやまぁ、一番良い女を選んだ俺ラッキーって言ったようなもんだしな。
間違っちゃないんだけども、まぁ、気恥ずかしいなぁ……っ。
揃って顔を赤らめた俺たちは肩まで温泉に浸かって夕焼け空を見上げた。
「……待て。さっきしょーもない死に方や面白い死に方をした奴だけを転生させたって言った?」
「え? まぁ、そういう人たちって死んだ事を後悔しやすいから送り易かったのよね。やり直せるチャンスがあれば飛び付くのも早かったし。他には見てて可哀想だなぁって思った子や、二度目の生は幸せになって欲しいなって言う人とかを転生させてたわね」
そう慈愛の籠った笑顔を魅せたアクアだったが、俺はとんでもない事に気付いてしまった。
つまり、勇者候補を転生させても魔王が倒せなかった理由って、性能が微妙なRレアくらいな奴らを転生させてたからじゃねーの?
俺みたいに変な死に方をする奴ってのは大概社会不適合者だろうし、剣と魔法の争い事のある世界で大成する奴なんてほぼ居ないだろう。
可哀想な死に方をした奴はこの世界で幸せに生きようとするから魔王討伐に前向きな訳が無い。
前者の奴らが頑張ったとしても精々がSRぐらいが関の山だろうし、魔王軍幹部と戦って相打ちまでいければ良い方なのではなかろうか。
現に俺が仮にベルディアと戦ってたとして、師匠みたくにガチンコ勝負で勝てたかと言えば確実に無理だろう。
それこそ一握りの幸運を掴んで漸く勝った、ぐらいの勝運が必要な筈だ。
んで、師匠はアクアではなくアクアの部下によって転生されている。
つまり、Rレア縛りから解放され、ちゃんとした相手を選んだ結果がUR師匠と言う結果な訳で。
アクアを転生特典として持っていく事を許された理由って、左遷的な意味合いも含んでいるんじゃねぇかな……。
これを言ってしまうとアクアが傷付きそうなので墓まで持っていく事にする。
「へ、へぇ、良い事をしたなぁ」
「えへへ、そうでしょ? でも、皆アクシズ教には入ってくれなかったのよねぇ。一応アレ、此方に送られて心細い勇者候補の人たちの支えになるだろうって気持ちで作ったんだけど。ちょっと変な方向に育っちゃったからかしらね」
「大分変な方向に向かってたんじゃねぇかなぁ……?」
師匠がテコ入れする前の噂は酷いものばかりだった。
悪徳宗教で洗脳教育とかみたいな社会の汚泥みたいな感じではなく、エリス教徒への軽犯罪(主にセクハラ)や執拗な勧誘行為、変態行為の正当化などのあっぱらぱーなハジケっぷりだったらしい。
ある意味自由に生きてる集団だったそうだ。
今は、隣人を愛せ団結せよ尊き想いを胸に、だなんてスローガンがあるくらいの善良な団体になっているらしい。
よく笑い、よく泣き、よく遊び、よく働く。そんな健康的な宗教に変わっているとか。
そう考えるとこの世界における師匠の貢献度高いなぁ……。
「まぁ、だからおんおんちゃんには感謝してる訳よ。……あの娘の強さは大分無理をしている結果だしね」
「は? にしては師匠ピンピンしてるだろ」
「あのねー……、さっき言ったでしょ。あくまでも転生特典は魂の加工から余った物だって。だから強さをプラスに伸ばすには魂の強さがそれなりに必要なのよ。でも、おんおんちゃんの前世は普通にブラック企業で過労死した一般人に過ぎないの。あぁ、だから……」
何かに気付いて納得するようにアクアは深い溜息を吐いた。
「多分、転生特典を改造してるのね。どっかの漫画でもあるでしょ、マイナスの制約をする事でプラスの効果を強めてるのよ。だから呪いっぽく見えたのね。もしかしたら体の成長が微妙なのもそれが理由かもね。肉体値を削って魂に割り振ってるんだと思う。具体的な内容は分からないけど、その現象が露見していないと言う点を踏まえると―……」
「……まさか、精神とか感情やら犠牲にしてる?」
ピンと来た俺の勘をそのまま口にするとアクアは、多分ね、と頷いた。
目に見えない身体に宿るものとして典型的な代償候補だもんな。
もう背も胸も育たないだろう、だなんて事を前に酒場の席で言っていた気がする。
――私は死んでも灰になり、この篝火で蘇られる。
その言葉の裏にはそんな代償の背景があったのだろうか。
……そう言えば、あの頃か。師匠の女好きが加速したのって。
それまではめぐみんと、そしてララと肉体的にナニしてたんだろうけども、デストロイされてからそこに多分クリスも増えた。
そう言えば師匠の戦い方が大分物騒になっている気がするな。
てっきりベルディアの一件から近接戦闘の必要性を強く感じていたのかと思ったけれども、それにしては依頼で外に出る機会が増えていたような……。
時折、出迎えた際に此方を見る視線が何処か鋭かったような……、気がする。
だが、それが何かしらの代償による弊害からくる精神的な変調であったのならば。
「生への執着、死を感じ辛くなった……とかか?」
生きている事を実感したいから他人と肌を重ねて、死んでも生き返るからと死を恐れず好戦的になった。
そう、考えられやしないだろうか。
あくまで憶測であるが、人の性格ががらっと変わる事だなんて相当な何かが有っての事だ。
そんな劇的な事と言えばデストロイヤーの一件、一度目の死に他ならない、と俺の直感が囁いていた。
「……頑張らなくちゃな、俺も」
「……そうね。カズマも察してると思うけど、おんおんちゃんのあの特典は私の蘇生魔法が効くか分からない。死んだ瞬間に差し込めれば違うかもしれないけど、蘇りのプロセスが始まった後だと多分無理な気がするわ。蘇生魔法の条件が、ある程度損壊していない肉体がある、魂が天界の浄化作業に送られていない、蘇生する者に生き返る意思がある、とかなんだけど、おんおんちゃんの場合、死んだ瞬間にあの篝火で蘇る術式が始まっちゃうのよね……。それも身体を灰にしてと言うプロセスが第一条件に引っ掛かっちゃう。身体が腐った状態で蘇生ができないように、灰になった身体を蘇生できるとは思えないわ」
「となると、致命傷に至る前に回復すれば良いんじゃないか? あくまでも死がトリガーな訳だし」
「あ、それもそうね。んー。もうちょっと神格が取り戻せれば、俗に言う食い縛りみたいな加護をあげれたりするんだけど……」
「……そのためにアクシズ教を、信徒を増やせって?」
「まぁ、そうなるわね。でも、良いんじゃない?」
アクアはいつものように朗らかな笑顔で俺に向き直って言った。
「おんおんちゃんが聖母としてアクシズ教を率いて、アクセルの一角にアクシズ教の教会を立ててカズマを神父に運営するってのも。所謂魔王を倒した後の話って奴よ。私はカズマの転生特典だから、貴方が完全に死なない限りは下界に居られると思うの」
「……アクアは、その、……なんだ。俺と一緒に居てくれるのか?」
魔王を倒した後の話、そう前置きしたアクアの言葉に俺は不安の種を口にしていた。
それを聞いたアクアはぽかんとした後、くすくすと上品に笑ってからあはははと笑い声を上げた。
「もー、馬鹿なんだからカズマは。もう私の気持ち気付いてるんでしょ? ……それとも私の口から言わせるつもり?」
そう何処か色気のある表情で俺を揶揄うように肩を竦めた。
「すまん、ちょっとへたれた」
「分かってるわよ、カズマだもん」
「……ふぅ。なぁ、アクア」
「うん、なぁに?」
「結婚してくれ」
「うん、いいわよ」
瞬間、俺とアクアは瞬間湯沸かし器の如く顔を真っ赤にして驚愕の表情を浮かべていた。
今、完全に俺は口が滑って大分ぶっ飛んだ告白をして、そしてそれをアクアは即座に頷いてくれた。
付き合ってくれとか、恋人になってくれだとか言おうとしていた筈なのに。
お互いに自然過ぎてどうにもならないくらいに過程をすっ飛ばしていた。
けど、まぁ、結婚を前提にお付き合いをする、と言う意味でなら……。
お互いに訂正するつもりは無かったようで、そっと湯舟の中で俺たちは掌を重ねた。
温泉の温かさとは違った血の通う温かさと言うべきか、慣れ親しんだ心地良さと言うか、安心感があった。
はふぅ、と二人して息を吐いて夜空を見上げた。
夕焼けを過ぎて夜に差しかかかった空に一番星が見え始める時間帯だった。
そして、丁度雲隠れしていたらしい綺麗な月が見えて……。
「月が綺麗だな」
「きっと一緒に見ているからよ」
だなんて文学的な雰囲気を醸して見たりして、お互いに浮かんだ顔の熱さを誤魔化した。
俺たちの歩みはマイペースと言うよりも二人三脚で、ずっこけそうになる度にお互いに引っ張り上げたりしていくんだろう。
重ねた掌を少しだけ強く握れば、そっと握り返してくれた。
あぁ、俺、こいつの事が好きなんだなぁって素直に感じられた。
これが恋を、愛を知るって奴なのかね。
そんな事を思いながら、雰囲気のままに顔を近付かせてきたアクアに合わせて唇を重ねた。
胸の奥がじんわりと温まるような心地がして、今幸せだな、と灰色の青春を吹き飛ばすような春一番を感じていた。