この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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「楽しいってどんな感情だったっけ……?」と無気力症候群に陥ってました(テヘッ


42話

 アルカンレティア温泉旅行三日目。色々とアレな北部鉱山ダンジョンのせいで精神的に疲れていた事もあり、各々に別行動する休養日とした。

 カズマくんとアクアさんは裏口からこっそりと手を繋いで微笑ましく出て行き、ララとクリスは食べ歩きに、ウィズさんは貸切な温泉を楽しむらしく既にお風呂場へスキップ気味に歩いて行った。

 残る紅魔幼馴染組である私とめぐみんとゆんゆんは、部屋で一通り揃えられたパーティゲームを広げていた。

 持ち主はやはりと言うべきかゆんゆんだ。

 文庫サイズでありながらホライゾン級に分厚い紅魔友人帳こと、友人とやりたい(数百の)事リストに書かれていた室内遊戯をするためだ。

 

「やっぱり最初は定番の魔王抜きからかな! それとも人生パーティverアクセル? わ、私がキーパーをやってソード&マジックをやるのも良いわね!」

 

 ……明らかに地球産のパーティゲームが混ざっている辺り過去の勇者候補たちはやりたい放題のようだ。

 うっきうきの様子でゆんゆんが何処からか出したパーティゲームの数々にめぐみんと一緒に困惑しつつ、無難なトランプを選んだ。

 やるのはトランプの定番であるババ抜き、もとい魔王抜きだ。

 トランプの絵柄は地方十色と言った具合なのだが大別すると二種に分かれる。四種の記号と1から13の数字はそのままに、地球なら定番のキングクイーンジャック、そして勇者僧侶魔法使いの勇者verのどちらかだ。

 主に勇者verが一般的で、王国などの王権のある地域だと王様verがローカルに追加される。

 無類のトランプコレクターは王様が代替わりする噂を聞き付けては次代の絵柄を買いに遠出するとかなんとか。

 ゆんゆんが持ってきたのは紅魔の里限定盤であるステンドグラス風の勇者ver。

 シンプルでありながら勇者物語の神聖さを表現する雅な格好良さが売りの絵柄だ。

 世界は違えどトランプ概念を持ち込んだ者たちが同じだからか世間一般的なルールと同じだ。

 大貧民もといビッグスラムだとローカルルールが沢山あるらしいが、魔王抜きは実にシンプルで根強い人気がある。

 一緒にやる相手が居ない筈のゆんゆんが何故か手慣れた様子でトランプをシャッフルし、私とめぐみんにカードを配っていく。

 

「ふぅむ、まぁ、そこそこだな」

 

 持ち札を見やり揃ったカードを捨て札にし、私、ゆんゆん、めぐみんと言う順番で魔王抜きが始まった。

 終盤までは特段無い過程だったのだが、枚数が減り始めてジョーカーもとい魔王を引いてしまう確率が上がっていく。

 残り二枚になり、魔王を引いてしまうか否か、そんな駆け引きがスリリングに面白いのが魔王抜きの面白さ。

 ……の、筈なのだが、如何せんこの幼馴染ズ顔に出る。これでもかと顔に出る。

 それなのにそんな事はありませんよと澄まし顔をドヤ晒すので何と言うか微笑ましさを感じるレベルだ。

 手薄になったゆんゆんの手札の上を右往左往してみれば、表情の反復横跳びは……無い。

 つまり、ゆんゆんは魔王を持っていないようで適当に引き抜けば上がり札を引けてしまった。

 一組捨てて残り一枚。ゆんゆんがめぐみんの手札から一枚引き抜き、目を丸くして驚愕の表情。どうやら引いたらしい。

 めぐみんが私の一枚を引き抜き、手札が零になった事で私の勝利が確定する。

 

「ふっ、おんおんが先に抜けましたか……。流石ですね、では、勝負と行きましょうゆんゆん……!」

「ただでは負けてあげないわよ、さぁ、めぐみん! 引かせて……ちょっ、何で掴む力こんなに強いのっ!?」

 

 本来魔王を持っているゆんゆんがやるべきテクニックを何故かめぐみんがやった事で場が混乱する。

 数秒後に何とかして引き抜いたそれを見て笑みを浮かべゆんゆんは手札を減らし、無言で手札をシャッフルし始めた。

 既に二人しか残っていないので魔王の在処は丸わかりであり、上がりを賭けたドローがこの先の命運を握るだろう。

 ふっと笑みを浮かべためぐみんはヒュパッと俊敏に片方のカードを引き抜き、そのまま捨て札に手札を投げた。

 がくりと項垂れるゆんゆんに勝ち誇ったように両腕を上げてコロンビアポーズのめぐみん。

 ……まぁ、確りとゆんゆんが焦りの表情を浮かべた事で魔王では無い事を察してそのまま引き抜いたと言うオチだ。

 

「うぅぅぅ、どうしてかいっつもめぐみんに勝てないのよね……」

 

 まぁ分かりやすいですからねゆんゆんは、とボソリとめぐみんが呟いていたが、私からすればめぐみんも大概である。

 そんな光景が二度三度と続いてゆんゆんが傷心し、死んだ目でそっと人生ゲームを取り出して来た頃の事だった。

 扉にノックがされたかと思えば、聖母様ー! とゼスタの叫び声が続いて聞こえたのは。

 ゆんゆんとバトンタッチするように私の目が死に、困惑するゆんゆんと面白そうな表情を浮かべるめぐみん。

 深い溜息を吐いて扉を開けば、土下座スタイルのゼスタが其処に居て平伏していた。

 

「で?」

「皆様方のきゃっきゃうふふなお時間を邪魔してしまい申し訳ありませんが、少しご相談がありまして。例の孤児院の計画のお話なのですが……」

「あぁ、そう言えばゆんゆんを生贄にゲフンゲフン、バイトさせる話だったか」

「聞き捨てならない単語が聞こえたんだけど!?」

「えぇ、どう言う事かセシリーの耳に届いてしまったようで、随分と駄々をこねられましてな。見てください、この衣服についた捻じれ跡を」

 

 胸元の二つの箇所が捻じれており、摘まんで捩じられた跡だと何となく察してしまい気分が少し悪くなった。

 なんでこいつ乳首捩じられた箇所をどうだと見せ付けて来てるんだ。

 

「目が腐る」

「ありがとうございますっ!!」

 

 取り敢えず頭に踵落としをして床に伏せさせ、物理的に見えなくしておいた。

 ぐりぐりと踏み付けつつ、どうしたもんかなと考えていたが、肝心な事を忘れていた。

 ゆんゆんの方へ振り返り、きょとんとする表情に言葉を投げた。

 

「と、言う事なんだがゆんゆん。前に言ったセシリアン孤児院へのバイトの話、少し早めても良いか?」

「全く良くないんだけど!? 今の遣り取りを見て何で頷くと思ったの!?」

「ふぅむ、だがな、それだと未来ある幼い少年少女の情操教育に問題が出てしまう。そういうのは早い方が良い。聞いての通り、あのセシリーが大分ハッスルしているようなので、一応視察に行かなくてはいけなくなってしまった訳でな」

「そこで罪の無い子供を人質に取るのは卑怯じゃないかしら!? ここで頷かなかったら私が後ろ指指される展開じゃない!」

「いいや、そんな事は無いさ。ただまぁ、モンスターや魔王軍によって両親を失った戦場孤児や口減らしに親から捨てられた子供たちへのメンタルケアの方向が少しアレな方向になるだけで……。ん? まぁ、生きれるように衣食住整えてやったから別にいいか。春を売りに行かせる程貧窮してないし。別に問題なんて無かったな。気にしなくて良いぞゆんゆん、勝手にやらせておくから」

 

 更生する前のアルカンレティアに居た面子だ、きっと面構えが違う筈だ。

 セシリーはYESロリショタNOタ……さ、先っぽ、先っぽだけだから! と途中で性癖を露わにするろくでなしではあるが、児童虐待などに走る奴ではない。

 となれば、悪戯我儘ヤンチャボーイ&ガールズのある程度なら何をしてもよい玩具兼お世話係として遊ばれているだろう。

 ……事務関係が滞るだけか。何も問題は無いな。

 

「……あの、どっちかと言うと今のおんおんの人間性の方が心配になってくるんだけど……? と言うかそんな話をされたら断れないに決まってるでしょ!?」

「おぉ、そうかそうか。子供達には有難い話だな。ほら、泣いて喜べよゼスタ。一般的常識人で子供に優しく、そして仕事熱心な助っ人を派遣してやるんだからな」

 

 絶賛床と熱いベーゼを交わしているゼスタの口元から何やら声にならない何かを発していたが、強めに踏む事で私は聞こえなくしていた。

 後ろでドン引きしている二人の視線が背中にぶつかっていたが、まぁ、多少の誤差と言うものだ。

 私のやっている慈善事業は全てアクシズ教のイメージ回復のためにやっているだけだしな。

 仮に失敗しても、アクシズ教だしな、で話が終わるので私にダメージは無い訳だし。

 

「子供の内から変態教育を施しておけば未来のアクシズ教団員として扱いやすくなるしな」

「「心の声が駄々洩れなんですけど!?」」

「……おっと、つい本音が。やだなー、今のアクシズ教は健全な団体なんだから、変な教育は施さないぞ」

 

 こっちからは施さないさそんなもん。そう言うのは勝手に学んで伸ばすもんだからな。ナニとは言わんが。

 アケットの設営の手伝いでそう言う類に触れてしまって勝手に覚醒したりしても自己責任だ。

 むしろ健全だろう、世界はもっとエロくて良いと思うぞ私は。

 マイノリティに指を指して弾圧するようなくそつまらない連中になるよりも、一緒に肩を組んで語り合うような親しみのある奴らになった方が良かろうて。

 YESロリショタNOタッチを教育し、文学作品を作れるように熱意と性癖を込めて、文学寄りに傾倒させてしまえば物理的な性衝動に任せて人を襲うだなんて事もしなくなるだろうしな。

 満たされないからシたがるのであって、常時満たされてればそんな事思わないんだよ誰しもな。

 むしろ抑圧するから性欲を拗らせて暴挙に及ぶんだろうが、ほんと分かってないよな頭の良い馬鹿共は。

 自分の好きなおかずでシコって満足してる奴が性犯罪起こす訳ねぇだろうが。

 と、言う感じで私はアクシズ教をそう言う方向に舵取らせているので実にフリーダムである。

 その筆頭が頭アクシズなゼスタだからこそ程良い経営ができていると言っても過言では無い。

 

「さて、お前の事だろうから既に孤児院までの馬車などもちゃーんと用意しているだろうから、少し外で待ってろ」

「承知致しました、ごゆっくりとどうぞ」

 

 あ、やべ、と言う感じの顔をしているゼスタを廊下にポイっと放り出して部屋へと戻る。

 あの表情からして徒歩で来させるつもりだったなあのアホは。

 セシリアン孤児院は郊外の土地を買い上げて建てたので、徒歩で行くとなると四十分は掛かるだろう。

 どったんばったんと走り去っていく音が聞こえ、私は肩を竦めた。

 

「と、言う事だから私服に着替えるぞ。流石に浴衣で行く訳にも行かんしな」

 

 何とも言えない表情で渋々と頷いた二人と一緒にお出掛け用の恰好をする。

 インベントリから以前ベルディア戦で使った修道服コスに着替え、めぐみんたちはいつもの制服姿だ。

 五分程時間をあけてから廊下に出るとぜぇひゅぅと全力で息を切らしたゼスタが片隅で死んでいた。

 扉の開く音で気付いたのだろう、此方に視線を向けるとグッとサムズアップして力尽きた。

 

「馬車の用意は済んでいるらしいからな、とっとと行こうか」

 

 何か言いたげな二人だったが、まぁゼスタだし……、と納得してくれたようだった。

 廊下を歩き、女将さんの一礼を背に受けて庭園へと抜けて玄関口へと向かうと、馬車が用意されているのが見えた。

 アクシズ教の旗を立てた立派な馬車であり、御者台に先程死んでいた筈のゼスタがキリっとした様子で座っているのを見て後ろの二人は絶句していた。

 二人して後ろを振り返り、ゼスタを見て、と二度見三度見してから首を振った。

 どうやらゼスタがギャグ世界の住人である事を漸く認識したらしい。

 深く考えるだけ無駄だからな。大方先程くたばってる姿が擬態で、余裕綽々に別ルートで私たちを追い抜いて馬車に乗っただけだと思うぞ。

 何せこのゼスタ、レベル三十台らしく地味にベテランだ。若かりし頃に何があったのかは知らんが、相当な経験をしている様子ではある。

 独りでに馬車の扉が開き、小さな踏み台が中から降りてきたのを見て二人と一緒に感嘆の声を漏らす。

 見やれば御者台の方で紐を握っているのが見えたのでタクシーの手動開閉みたいなギミックを組んでいるのだろう。

 

「セシリアン孤児院まで頼む」

「はっ、畏まりました聖母様。どうぞごゆるりと」

 

 馬車に入り込むと気品溢れるふかふかな座席や、アクシズ教らしく水を模した装飾が散りばめられていた。

 ……もしかしなくてもこれ最高司祭用の豪華馬車では?

 ふむ、まぁ、確かにゼスタ個人で扱える馬車ではあるが、外部顧問の私が使っていいものか?

 まぁ、徒歩で行きたくないので甘んじて使わせて貰うけれども。

 少し前の私であれば外堀を埋められてるなぁだなんて感想が出ただろうな。

 ざわざわと私へ集まる視線を感じつつも馬車に揺られる事十数分。

 郊外の一角をアクシズ教団が買い取って建てた建造物が見えてくる。

 アクシズカラーの水色を素調とし、清廉潔白な白を加えた清潔な印象のある孤児院だ。

 よくある教会を孤児院にする案は通さず、孤児院がメインの建物として建てたのが此処セシリアン孤児院だ。

 名前で自己主張高めな事から分かるように教団幹部的な立ち位置に昇進したセシリーが院長を務めている。

 円滑な運営をするために人材も派遣しているし、餓えず汚さずの精神で資本金もたんまりある事から経営は順調。

 今はアルカンレティア周辺に散見した小規模なスラムや孤児院を営んでいた教会を潰して保護した少年少女が移り住んでいる。

 その際に拾った一定の年齢以上の者は冒険者としてアクセルに出荷し、アクシズ教団員の新米として教会に移り住ませている。

 そのため、人材不足で嘆く事無く、資金源も出来て、しかも衣食住が約束され人並みの生活を受けられる事で一石数鳥の結果を得られた訳だな。

 今のアクシズ教は兼任も可なので、孤児院を兼ねていた教会に住まうエリス教の人たちもにっこりしているだろう。

 現にこの孤児院で精力的に働いてくれているらしいので、孤児院のノウハウもカバーできている訳だ。

 

「此処がセシリー院長が営む孤児院、セシリアン孤児院だ。子供がはしゃいで走り回れるグラウンドに、一階部分でささやかながら勉学のできる勉強スペースも作ってある。まぁ、寮住まい制の小学校みたいなもんだな、あぁー、衣食住を約束された未成年のための学院のようなものだ」

 

 小学校だなんて括りの無い紅魔の里出身の二人に分かりやすいよう説明を足しておく。

 目の前のアクシズ教らしくないクリーンな施設を見て宇宙猫してる二人だったが、此方を見て頷いた。

 

「成程、おんおんが聖母と呼ばれる理由が分かった気がします。外で遊んでいる子供たちも伸び伸びとしていて……」

「……ん? めぐみん、どうしたの?」

「いやぁ、その……。あの一角に居るあれって……」

 

 賞賛の言葉を途中で止めためぐみんの視線を追うと、子供たちの人だかりができており、その隙間から見覚えのある姿が見えてしまった。

 アクシズ教の教団員服を着飾り、その豊満なバストを重力に従わせてゆらゆらとさせながら四つん這いで三人の少年少女を背に乗せた女性。

 長い金髪を三つ編みにし、あろうことか手綱のように確りと握られており、無邪気な暴力により右往左往と弄られている。

 馬用の轡をされた本格的なお馬さんごっこに興じるあの変態こそ、この孤児院の院長を務めるセシリーであった。

 

「「「…………………」」」

 

 思わず無言になる私たち。いやぁ、無理も無いだろう。

 恍惚な表情で背に大好きな子供を乗せて、お尻側に乗った子が持つ硬い短鞭によりひっぱたかれ、ひぃひぃんっ♡と時折喘ぐように嘶く変態的な女性を見れば誰でもそーする事だろう。

 一部の子供は横から後ろからセシリーの尻に蹴りを入れているし、何なら小さな子が豊満な乳房を掴んで乳絞り宜しく握っていたりはたいていたりもする。

 明らかに歩く卑猥物であるセシリーで子供たちは無邪気なサドッ気で持って遊んでいるようだった。

 

「……あの、私もあんな事をさせられるの……?」

 

 とんでもない痴態な光景にゆんゆんが顔を真っ赤にしながら、恐怖でぷるぷると震えた声で呟く。

 

「んー……、流石にアレはセシリーだけだろ。でもなぁ、ゆんゆんちょろいからあれよこれよでああなってそう」

「ですね。流石に止めといた方が良いのでは?」

「……それもそうだな。流石に次期族長の娘にアレは駄目だ。族長に知られたら怒られそうだしな。ゆんゆんには教師役として手伝って貰おうか。あくまで臨時のな。それまでにあのアホをなんとかしておくから頑張ってくれ」

「あ、はい。此処で働くのは決定事項なんだ……。ま、まぁ、働くのってアルカンレティアに居る間だけだもんね」

「まぁ、そうなる。変な事されそうになったら私の名前を使って良いぞ」

「う、うん。頑張ってみる」

 

 ふんすふんすと気合を入れ始めたゆんゆん。そんな彼女に聞こえない様にめぐみんが耳元で囁いた。

 

「で、実際のところどうなんですか?」

「ぶっちゃけると族長から手紙を貰っててな。次期族長としてコミュ障を直さないとどうにもならないから鍛えて欲しいそうだ」

「あぁ、だから比較的邪気の無い子供を相手にさせるんですね」

「そう言う事だ。ぶっちゃけ、ゆんゆんがあんなに自分に自信が無いのは里の環境のせいだからな。此方の社会では一般的どころか優等生なゆんゆんだが、里の環境では異端のようなものだ。悪い事をする事がベターな悪魔の学校で、不良行為と呼べる善良な行動を取ってしまって孤立している様なもんだしな」

「微妙に分かり辛いんですが、まぁ、確かにそう言う事でしょうね。おんおんもそう言うタイプでしたし」

 

 まぁ、そう言う事だ。

 中二病である事がスタンダードな紅魔の里において、勤勉な真面目ちゃんが馴染める訳が無いのだ。

 感覚のすれ違いにより、擦れてしまった結果があの独特なコミュ障なのだろう。

 実際、カズマくんのパーティに加入してからと言うものの、パーティメンバーに対しては普通に喋れるようになったゆんゆんだ。

 もう少し別方向からの経験を得られれば勝手に克服してくれるに違いなかった。

 そのため、疑心暗鬼なぼっち生活を強いられた子供時代において得られなかった子供との会話を此処で摂取する訳だ。

 なので、元々孤児院計画、もとい、アルカンレティア周辺のスラム撲滅活動の一環で建てた孤児院に手伝いに行かせる予定ではあったのだ。

 ……その院長にセシリーが抜擢された事が一番の難点であった事は言うまでも無いだろう。

 いやまぁ、性癖的にも子供が好きなセシリーが頂点に居れば、虐待や不正などの子供に不利益を与える事へのカウンターに成り得る訳で。

 ある意味適材適所なのではある。……セシリーの性癖の業の深さは一先ず置いといて、と言う話ではあるが。

 まぁ、割と良い感じにふわっとした様子で良い方向に転がるんじゃなかろうか。

 セシリーの変態性は御覧の通りであるが、地下室で気に入った子供をあれやこれやで連れ込んでイタして権限を振りかざして黙らせるみたいなタイプではない。

 どこぞの貧困国家に行って早春を買い占めるような輩とは方向性が違う。

 ああして自らカーストの最下層気味に降りている事で親しみを持たせ、有事の時には身近である事からすぐさま察知して問題を解決。

 ……うむ、見た目を考慮しなければ良いやり方である、とも言えよう、か、うん。

 

「ああ! 貴方様は聖母、聖母おんおん様ですね! お待ちしておりました! 此度はセシリアン孤児院にどうぞお越しになられました」

「うむ、すまないね。本当ならもう少し早く来る予定だったが、色々と立て込んでててな。二週間程、まぁ、とある騒動が収まるまでは居る予定だ。その間、この娘を臨時の教師として扱って欲しい。主に魔法関連だな」

「は、はぁ……。あの、もしかしなくても紅魔族の方なのでは……?」

「あぁー……、大丈夫だ。このゆんゆんは族長の娘で、次期族長として経験を積むべく外の世界を、常識を理解しているちゃんとした娘だ。むしろ、紅魔族に染まれきれなくて苦労してたぐらいだ。私がその人間性を保証しよう」

「そ、そうでしたか。疑って申し訳ありませんでした。自分、昔は冒険者をしていた者ですからその時に、はい」

 

 別の出口から豪華な馬車を見て出てきたであろう職員の男性に説明と推薦を兼ねた挨拶をしておく。

 後ろから誰だこいつみたいな視線で見られているのはまぁ御愛嬌だろう。

 私たちは上に立つ人間と言う肩書きを持たない生活をしていたからな。

 次期族長であるゆんゆんはこっち側の人間なのだが、そのコミュ障もとい妖怪友達欲しいの奇行のせいでなんやかんやあったし、なんちゃって偉い人ぐらいのムーブは取れるようになってほしい物だ。

 ぽかんとしていたゆんゆんを引っ張り出し、前に置く。

 当然、見知らぬ人の前に出されたゆんゆんは硬直してはわはわ言い出すが、後ろから両肩に手を置いて拘束しておく。

 

「ほら、ゆんゆん。今日から此処が君の仕事場だ。内容は子供たちに魔法とは何たるかを教え、可能であればその習得を手助けする事だ。学園で優等生をしていたゆんゆんなら色々と知識を持っている事だろう。それを子供たちに分け与えて欲しい。決して、子供たちを立派に育て上げなきゃ、だなんて見上げるような目標を持たなくていいからな。あくまでゆんゆんは臨時の魔法講師だ。それから先の事は孤児院の職員がするべき仕事だ、管轄外だから気にする必要はないからな」

 

 そして、悪魔の囁きの如くゆんゆんの耳元で優しい声色を使って落ち着きを取り戻させていく。

 ゆんゆんのような素直で真っ直ぐな娘を扱うに当たり、しなくてはならないのは動線引きだ。

 魔法を教える“だけ”、人生を気にする事は“無い”、管轄外の仕事はしなくて“良い”。

 そうやってやるべき事を明確にしてお膳立てしてあげれば、後は培った経験と知識で乗り越えてくれる筈だ。

 

「ほんと、おんおんって母親向きですよね。結婚して子供が出来れば良いお母さんになりそうです」

「ママになるのはめぐみんだけどな」

「……はぅっ」

 

 後ろから脇腹をちょんちょんと突いてニヤニヤ顔してきためぐみんにカウンターしておく。

 そうだぞ、お前自身がママになるのだ、と言う奴だ。

 事情を知らなくてはめぐみんが誰かと結婚間近または懐妊中に聞こえる会話をしつつ、胸の前で両手で拳作って気合十分なゆんゆんを職員に託す。

 最初の内はこうして送り迎えをしてやって安心させてやるべきだろうな。

 ……万が一、子供たちに虐められて泣いてたりしたら色々と口出しをしなくてはならないだろう。

 自分たちを優しく育ててくれている職員に対し、子供たちのやった事に対する追求を目の前できつめにしてやる。

 子供と言うのは情に敏感なもので、自分が怒られるのと親が怒られるのでは感じ方が違うのだ。

 それこそが責任の重さと言うものなのだが、案外そう言うのは品行方正に生きていると出くわさないものだ。

 故に、自分たちのせいで大切な人が責められている場面と言うのは心にクるものがある。

 無邪気に反発したら火に油を注ぐが如く職員を責め立ててやらねばな。

 まぁ、これをすると私と言う人間に対してヘイトが向かってくるのだが、ゆんゆんを守るためには致し方ない。

 コラテラルダメージと言うものだ、ぶっちゃけ孤児院の子供に嫌われようが問題は無いしな。

 聖母、もとい、私の権限でこのセシリアン孤児院を赤子の手を捻るように潰せてしまうのだから、大人になるにつれてそこらへんも勉強するだろうし問題はあるまい。

 

「多分、おんおんが思ってる事は意味が無いと思いますよ。ゆんゆんって年下の子たちには意外と人気があるんです。困ってる姿を見るとついつい手を貸すので、彼女自身友達と思っていないだけで下の子たちからはそういう判定されていると思いますよ」

「ふむ、そうだったのか。あぁ、ゆんゆんが欲しいのは対等なお友達、つまりは同年代のお友達だったって事か。道理で友人判定が地味に厳しい訳だ。酒場に居る連中と話す事もあるだろうに、友達が居ないって嘆いてたのはそう言う事か」

「あぁー……、まぁ、そう言う事になるんですかね。友達欲しさに友達のハードルを上げすぎなんですよゆんゆん。もはや友達を神様と信仰するようなもんです。自身の自己評価が低いから尚更に」

「ま、今回の経験で少しは良い方向になってくれると良いんだがな」

「そうですね。ゆんゆんですし、案外上手くやる事でしょう」

 

 なんだかんだと言ってめぐみんはゆんゆんの友達であると自認しているからな。

 意地っ張りな、と言うよりかは悪戯ッ気でそうじゃない振りをしたりするが、立派にゆんゆんの友達なのだ。

 職員の男性に連れられるゆんゆんへ別の職員の男性や女性が集まり始め、良い感じな雰囲気になっているのを見て私は少し安心する。

 さて、これで午前にするべきタスクも終わったし、次はアケット絡みの仕事をするべきか。

 豪華な馬車に戻れば、ゼスタが胸に手を置いて紳士的に扉を開いた。

 そのやけに恰好の付く様子に、もしやこいつ上級貴族の出だったのでは、と勘繰ってしまうが捨て置く事にした。

 

「ゼスタ、次はアケット関連だ。何が残ってる」

「はっ、アケット設営に関しては既に準備等は完了しております。残されていて、聖母様が扱うべき案件は検閲でしょうか。既に何件か検閲用の試作品が送られていまして、此方でも確認はしておりますが最終確認をして頂きたいかな、と」

「ふむ。まぁ、小冊子と言えど小説だしな。その場で確認するには時間が掛かるか。良いだろう、案内してくれ」

「はっ、畏まりました」

 

 一瞬、ゼスタの顔がニチャァと下卑た物になった気がしたが、まぁこいつの魂胆は何となく分かっている。

 多分、送られて来た小説が官能系で、しかも私が題材とかそう言うセクハラ案件だろうな。

 今回アケットを開くにあたって私の事はフリー素材として使って良いと宣伝に使ってたので当然だろう。

 まぁ、お手並み拝見と行こうか、小説の中で私と言う存在がどう扱われているのかも興味あるし。


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